アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 作:紅乃 晴@小説アカ
サヴァリーンは、銀河系のアウター・リム・テリトリーに属す海洋と砂地の惑星だ。
広大な海に囲まれた砂の陸地に、サヴァリアンと呼ばれるスピリチュアルな人間の住民が住んでおり、ほんの少し前までは、その星はいかなる公的記録にも記されていない未認可の宇宙港、いわゆる“シャドウポート”として利用されていた。
サヴァリーンのナコティック・コーストにあるビス精製所は、惑星ケッセルから貴重な鉱物を運んできた密輸業者たちに秘密基地として利用されていた。
以前、自分の父と親しい関係であり、ベンの父親でもあるハン・ソロに枕物語でその星の話を聞いたことがある。ベンと私は互いの家に行き来していて、その日長旅から帰ってきたハンがベンの部屋にやってきて、同じベッドで私とベンが寝ているのには大層驚いていた記憶がある。
と、言ってもその時は私とベンは5歳ほどで単に仲のいい親戚みたいな関係だったけど。
そして、何か物語を聞かせてとベンがハンにせがんだ。早く寝なさいというと私とベンがお話をしろーのコールをして、チューバッカの吠え声で観念したのか、ハンは昔話をしてくれた。ケッセル宙域をわずか12パーセクで突破した話や、その宙域で見たとてつもなく大きな宇宙怪獣の話や、ランドーが二人を見捨てて逃げ出したこととか。
その話の舞台の一つが、今私が立っている星である。
海岸線を臨む辺境の星だが、私が見る限りそこまで田舎という印象はない。というのも、銀河連邦が設立されてから、この星はシャドウ・ポートではなく、正式な宇宙港として機能し始めたのだ。今では密猟者たちはなりを潜め、観光や仕事で訪れる人々で賑わっていた。
ハンとチューバッカを乗せたミレニアム・ファルコンが不時着(ハンは華麗に着地したと言っていた)した場所には海を見渡せる海岸街が出来上がっていて、私がいるのは市街地の真ん中だった。
「やっぱり間違ってたのかな?」
ノートを開きながら辺りを見渡して静かにつぶやくと、隣にいるD-Oが小さな電子音で私を慰めてくれた。
「遠き黄昏の中、白壁の島でそなたを待つ…この文字をアストロメック・バイナリーとオムニシグナル・ユニコードで解読した場所がここなんだけど……」
私の目の前には一軒のバーがあった。白塗りの壁で、青い屋根の隠れ家チックなバーなのだが、アウターリム・テリトリーで隠れ家的なという言葉は通じない。見た目がそうなら真面目にそこは犯罪者の溜まり場か、隠れ家なのだ。とりあえず、ノートを広げて店の前に立っていても仕方がない。
ノートをカバンに突っ込むと、そのまま店の扉を開けた。後ろにいたD-Oも何とか着いてきてくれるが、その様子は明らかに怯えていた。タトゥイーンでジャワ族に連れ去られそうになったことがトラウマになっているらしい。振り返った私を見て、凄まじい電子音と共に早く帰ろうと催促してくる。
「そう言わないで、D-O。あんたみたいなちびっこドロイドをバラバラにしようとする奴なんて居ないわ」
「お前のような小娘ならバラバラにするかもな?」
後ろからそんな言葉がかけられた。声の先へ視線を向けると見た目からして「ゴロツキ」といった二人の男がニタニタとした笑みを浮かべて私を見ていた。思わず、「冗談でしょ?」と内心でつぶやくが、相手はお構いなく私の肩に手を置いてきた。
「結構金持ちのとこのお嬢さんじゃ……」
その言葉が終わる前に、男のいやらしい笑みは真顔に変わる。眼前に淡い緑色の光が立ち上がっているのが見えたからだ。私は腰からライトセーバーを抜き、男の眼前で起動した。顎下から貫くこともできたが、正当防衛と言い逃れができるわけもないのであくまで牽制の意味もこめてだった。隣にいた男の仲間も息を呑んで腰のホルスターにあるブラスターに手をかけた。
「死にたくなかったら…なんて決まり文句を言わないでよね?」
動いたら、どうなるかわかってるわよね?そんな意味合いを込めた眼光で二人を睨みつける。ほんの少しの膠着時間を置いて、バーの奥にある個室から笑い声がかすかに聞こえてきた。
「見かけによらず、ずいぶんと強かな子だな」
ゆるりと個室の席から立ち上がったのは全身黒尽くめの男だった。するりと音を立てずに近づいてくるその影のような風貌に、私は目を凝らす。かすかにだが、フードの奥から赤い炎のような瞳が伺えた。
「ち、違うんだよ…ボス・ドライデン…俺たちはただ…」
すっかり震え上がった二人のゴロツキが言った言葉に、私はハンの昔話を思い返した。ボス・ドライデン。それはアウターリムを陰から支配していると噂されている犯罪シンジケート、クリムゾン・ドーンの親玉の名だった。
ドライデンが指をかざすと、二人は「ひぃ」と情けない声を上げてすぐさまバーから逃げ出して行ってしまった。彼はとくに彼らについて言及するでもなく、店のマスターに「迷惑をかけた詫びだ」、と銀河共通のクレジットが入った袋を渡した。
「まさか悪名高いシンジケートのクリムゾン・ドーンのボスに会えるなんて予想してなかったわ」
ライトセーバーを腰にしまって私は悠然と佇んでいるドライデンにそう言った。D-Oが発狂するような電子音を奏でているが、この星が彼の率いるクリムゾン・ドーンの勢力地域なら逃げ出すことは叶わない。ならば、ここで話をつけるのが最善手だと思った。
「バーに来て立ち話もアレだろう。こちらにかけなさい」
誘われるまま、私は彼が最初に座っていた個室へと向かい、ドライデンの向かい側に座った。彼はフードを脱がないままテーブルに置かれたコップを両手で持ってクルクルと中の液体を回していた。
「私を誘拐して身代金なんて要求しても無駄よ。銀河連邦が黙ってない。レン騎士団もね」
「あぁ、銀河連邦とは長い付き合いだ」
「指名手配されているから?」
「協力関係という意味だよ。いわゆる利害の一致というやつさ」
どうだか、と私はため息をついた。銀河連邦はコルサントに拠点を置いてはいるが、旧帝国軍の施設をそのまま使っている。つまり、すでに銀河のあちこちに銀河連邦の拠点があり、アウターリム・テリトリーの犯罪を見逃さないように目を光らせているのだ。そんな状況下でわざわざ犯罪シンジケートと手を組むなんて、怪しいものだと肩をすくめる。
だがドライデンは私の言葉を真っ向から遮る。
「実際にそうだ。銀河は広い。コア・ワールドとアウターリム。その全てを一組織が管轄するなんて無理な話だ。帝国のような武力と恐怖による弾圧もな?」
いくら勢力が大きいとは言っても必ず見えないもやが出てくる。そこが犯罪者たちにとって都合がいいのだ。タトゥイーンしかり、このサヴァリーンしかり。目を凝らせども見えてこないものも存在する。
「この土地のように、力ある者が全て罷り通るなんて世界もごまんとある。強いて言うなら……銀河共通の通貨で酒が飲めるという体制を維持できているだけ連邦政府は立派なものと言えるな」
「それと貴方が銀河連邦と協力関係にある話にどう繋がるわけなの?」
「アウトローな世界にはアウトローなやり方がはまるという訳だ、お嬢さん」
それはまぁ、否定できないなと思ってしまった。現に連邦政府が設立されてから間もない時期は、ハンやローグワンと言った荒くれ者たちが連邦法ギリギリのグレーゾーンを綱渡りして交渉や情報収集をしていたとも聞いている。付け加えるようにドライデンはつぶやく。
「規制されれば抜け道を見つけるのが犯罪者だ。ならその抜け道をどうする?抑圧に抗うのが生命の性だ」
「その監視する役目を担っているのが貴方という訳?」
「監視と言うなら半分は正解で、半分は不正解になるな。すべてはフォースに帰結する」
その言葉に私は思わず固まった。まさか犯罪シンジケートのボスから「フォース」という言葉が出てくるとは予想していなかったからだ。
「すべては循環だ。力で抑圧してもどこかに流れ出てしまう。もしくは力に抗う勢力が出てくるか……どちらにしろ、循環に答えはある」
我々が飲んでいるこの水が大地に帰り、またこのコップに戻ってくる原理と同じように、すべてはフォースの循環の中にある。そう言って彼は弄んでいたコップに口をつけ、残っていた酒を全部飲み干した。
「……貴方は誰?」
おもわず口にしていた。するとドライデンは被っていたフードを脱ぎ、真っ直ぐとした目で私に言った。
「とうの昔に本当の名は捨てた。私はドライデンであり、そして〝何者〟でもない」
その目を私は知っている。古い友人の目にそっくりだったから。
「フォースはすでに道を示しているぞ、若き探究者よ。お前の目的は私に有った」
長らく待ったぞ。全く…随分と待たせてくれるじゃないか。そう呟いた彼はサブラク特有のツノと赤と黒の独特な刺青が入る顔でニヤリとほくそ笑む。
そこで私はフォースのゆらめきを感じて、この旅路が間違っていなかったことを確信した。
解読した暗号が示していたのは「場所」じゃない。
目の前にいる「彼」だったのだから。
シナリオを練り直すのを許せるか?
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細かい描写も見たい
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ログの心の移り変わりを見たい
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とりあえずエンディングまで突っ走れ