始まりの天使 -Dear sweet reminiscence-   作:寝る練る錬るね

10 / 33
Q.いま二節だけど、何節までの予定?
A.今のところ十六節。場合によってはもっと伸びるかも知れない……

Q.今まで触れられてなかったけどアンヘルくんとかハーメルン君とかの服装って?
A.アンヘル君は露出の少ない男版天の衣(天のドレス)(王冠なし)と着物の合成版的なやつ。第一再臨蘭陵王と水のアイリを足して二で割ればそれっぽい。

ハーメルン君は黄銅のスパッツ、その上から萌え袖で引きずるぐらい長い黄色のレインコート。実質裸レインコートでは?親友曰く『ちくばんにレインコートこそが至高』だそうです。作者は正直彼が何言ってるかわかんないです。

ちなみに亡霊くんちゃんはくすんだ白でボロボロのフードをかぶってます。


Q.自分、三次創作いいっすか。
A.歓迎。全然ご自由にどうぞ!アンヘル君とかハーメルン君が(自主規制)されて(自主規制)になっちゃうやつとか書いてくれると助かる。

Q.三人の性知識ってどれだけあるの教えろください
A.
亡霊くんちゃん: 知識はある。目覚めはまだ。
アンヘル:(英雄王達による素敵な教育(情報統制)の末)キスで子供ができると思ってる。
ハーメルン: 行為は知ってるけど目的は知らない。二人で無知シチュができる。ちなみに非処女。これはいいぞ!

Q.これってラフムしか感想欄にいちゃダメなやつっすか。
A.ラフムの方もラフムじゃない方もご自由にお書きこみ下さい。作者が喜びます。ただし返答はすべてラフム語になります(無慈悲)




第三節 天使(てんし)(あかし) (1/2)

 息が、切れた。

 

 肺が冷たい空気を吸った。胸が苦しかった。

 

 何度誓っても、何度望んでも、最後に待つ結末は変わらない。

 

 崩れ落ちそうになる。それでも何度だって、何度だって、立ち上がった。

 

 もうダメかもしれない。これが最後の力だ。……そんなことを何度も思って、結局今の今まで生き残っている。

 

 

 記憶が、褪せていく。

 

 

 いつか震えた感情も。あの日仰いだ青空も。あの日誓った大地も。みんなみんな、記憶の隙間から流れ落ちてしまう。

 

 

 どこにいるのだろうか。あれほど望んだ────は、一体どこなのだろう。

 

 あれほど待ち焦がれた────は、一体誰なんだろう。

 

 

『………ねぇ、早く』

 

 

 終わりは来ない。希望は与えられない。

 

 ただ、無限のような停滞と静寂がそこにあるだけ。

 

『早く、早く……』

 

 ……罰。これは、罰の枷。

 

 犯した罪に課せられた、当然の償い。

 

 だから、辛くなんてない。

 

 辛くなんて、ない。

 

 

 

『…王様(・・)……早く、迎えに来てくれないと……僕、おじいちゃんになっちゃうよ……?』

 

 

 辛くなんて、ないのだ。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 カラン、と音をたて、フォークが皿の上に落ちた。先ほどまで食べていたタルトの上だったのか、フォークは絶妙なバランスで刺さって止まる。

 

「……ご、ごめんなさい。も、もう一度言ってもらえるかしら?」

 

 そんなちょっとした奇跡を気にする余裕もない女神が、ここに一柱。だれであろう、エレシュキガルである。

 

 数秒前まで美味しく茶菓子を頬張っていた彼女は、目の前に座る少年の言葉を耳にしてダラダラと額から汗を流して赤面していた。

 

 恐らく、きっと自分の聞き間違いだろうと。都合良く耳が解釈しただけだろうと。そう結論づけて、わざとらしく誤魔化しの笑みを刻み付けて訊き返す。

 

 ……が。

 

「うん!エレシュキガル様、僕とデートしようよ!

 

「やっぱり聞き間違いじゃないぃぃ!?」

 

 あまりにも突拍子もないことを言い出した彼に、エレシュキガルは今日も翻弄されるのだった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 普通だった。

 

 門番は普通だった。行き交う人々は普通だった。走り回る子供達は普通だった。客を呼び込む店主は普通だった。鉄を打つ職人は普通だった。王城を守る兵士は普通だった。

 

 どれもこれも、何をとっても普通で。しかし、その街の一つがくり抜かれたように異常で。まるで立香達が、悪い夢でも見ているかのようだった。

 

 ……目眩がする。

 

 今まで立香は、様々な特異点……いわば国を訪れた。それぞれ、人種が違った。言語が違った。食事が違った。想いが違った。価値観が違った。命の価値も……或いは違った。

 

 しかしそれでも、絶対的に変わらないものがあった。

 

()』は『哀しみ(・・・)』だということだ。誰かが死ぬということは、その人ともう二度と会えないということ。それは当然悼まれることだし、当然悲しいことだ。今まで訪れた特異点という異常な場所でも、それは決して変わらなかった。

 

 だが、どうだ。

 

 今の今。死は、祝われている。惜しまれているのではなく、羨まれている。悲しまれているのではなく、喜ばれている。

 

 ……理解が、全く及ばない。まるで自分だけが、世界に取り残されてしまったかのような錯覚に陥った。辛うじてそれが一般の世間的に異常なのだと、怯えているハーメルンとマシュのおかげで把握できる。

 

 死を前向きに捉える地はあった。死は生を繋ぐための希望だと。死は別れではなく、巡り巡ってまた会えるのだと。

 

 だが、それとバビロニアの現状は全く別のソレだ。前向きに捉えようとするのではなく、前向きであることが当たり前。そもそもの価値観が違う。

 

 一体何がどうなれば、こんな歪な文化が生まれるというのか。立香には、想像すらつかない。

 

 

 

 

「……親様。あんまり考えちゃ、だめ」

 

「………ハーメルン……」

 

 くいくいと袖を引かれ、ハッと意識が現実に戻ってくる。引かれている腕の方を見ると、黄色いレインコートの下でふるふるとハーメルンが首を振っていた。

 

「……わからないことは……無理に理解しないほうがいいことも……あるよ……それに、マーリン君は……ボクたちに話すって約束したもん……」

 

 ハーメルンは、そう言って立香達の先を歩くマーリンとアナを見据える。……その小さな背中は、確かに立香達をこのバビロニアへと案内した頼れるものだ。少なくとも、露骨に約束を破ったりはしないだろう。

 

『…藤丸君、ハーメルンの言う通りだ。あまり思い詰めない方がいい。マーリンの言うことが本当なら、そうやって精神が弱ることは最悪生命に関わる。今はただ、ジグラットの神殿に行くことだけを考えてくれ』

 

「……わかりました、ドクター。教えてくれてありがとう、ハーメルン」

 

 ハーメルンの頭を撫でることで、胸につっかえているものを無理矢理押し込み、立香は言う通り、疑問を野放しにすることにした。

 

 

 賑わう露店通りを抜け、少し人通りが少なくなる。それでもなお賑わう居住区を抜けて。……そうして、立香達は神殿に足を踏み入れた。ピラミッドのように高くそびえる神殿では、文官や兵士らしき人達が、忙しなく行き交っている。

 

 

「……さて、藤丸くん。私たちはそろそろ、ギルガメッシュ王の玉座へと辿り着く。準備はいいかな?」

 

「……あぁ、大丈夫だ。行こう、マーリン」

 

 マシュとハーメルンに目配せをしてから、立香達はついに大広間らしき場所に。……英友王、ギルガメッシュの領域へと最初の一歩を………

 

 

 

 

 

 

「……何者だ、貴様」

 

 ………踏み出せ、なかった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ひしり、或いはみしり、と圧を感じる。

 

 ……そんな陳腐な表現を、第六特異点で太陽王や獅子王と対峙した時にしたような気がする。人の上に立つ者、王者が放つ特有のプレッシャー。

 

 だが、眼前のギルガメッシュが放つ圧は、そのどれとも全く違っていた。

 

「……なんだ?見知らぬ異邦の者よ。貴様が(くだん)のカルデアのマスターとやらなのだろう?ならば疾く(おもて)を上げ、その貌をよく見せぬか」

 

「……あ、いや……その……」

 

 ……圧のようなものは、全くでは無いが感じられない。少なくとも、恐れ多いなどとは違った感じだ。

 

 …無理矢理表すとしたら、優しくて、張り詰めている。それでいて全てを見通している。そんな肩透かしというか、想像と違った雰囲気を感じてしまい、立香は思わず目を逸らしてしまった。そして、話すことすら覚束なくなってしまう。

 

 とりあえず、言われた通りに顔を上げ、もう一度ギルガメッシュの顔を目に映す。美しく整えられた金髪が、少しだけあのフードの彼と、側にいるハーメルンを彷彿とさせる。

 

「…………似ている、な

 

 ボソリ、と何かをギルガメッシュが呟いたようだったが、立香には何を呟いたか理解する隙もなかった。マーリンが小さな容姿に似合わぬ豪胆さでギルガメッシュに話しかけたからだ。

 

「おいおい、ギルガメッシュ王。帰国の申し出が少し遅くなったのは詫びるが、あまりジロジロと見てやらないでくれ。彼……藤丸君も、緊張してしまうというものだ」

 

 ぱちくり、とキザにウインクを決めたマーリンが立香の腕を引き、強引に玉座の前まで連れられてしまう。連れ立ってハーメルンとマシュとアナも、おずおずと前に出た。

 

 そんな彼の態度はいつものことなのか。呆れたようにため息を吐きながら、玉座近くに立つ女性が声を上げた。

 

「……マーリン殿、国の恩人たる貴方にこんなことを言うのはなんですが、王の前で不敬ですよ。……その様子では、天命の粘土板は持ち帰れなかったようですね」

 

「ああ。西の森にも無いとなると、残る場所は限られてくるねぇ。……何も、国の命たる私を探し物に駆り出さなくてもいいとは思うが」

 

「それに関しては、申し訳なく。ですが、あなた以外を行かせるわけにもいきませんから、ご理解ください」

 

 おどけたように笑ってみせるマーリン。それに苦笑で返す真面目そうな女官。……先ほどから国の恩人やら、国の命やら。とんでもないワードがわらわらだ。

 

 改めて目の前の少年がウルク、延いては人類にとって何かしらの重要な立ち位置にいることを実感する。

 

 そんなやりとりを玉座から見下ろしていたギルガメッシュが、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……下らん茶番は止せ。大方、そこなマスターに現状を説明するとでも約束したのだろう」

 

「茶番とは。ウルクの救世主に対して失礼だねぇ、ギルガメッシュ王。もっと崇め奉って重役とかにつけてくれてもいいんだよ?」

 

「……よしでは『令呪を以って命じる、自害せよ──』「待った待った!わかった!もう調子に乗らないよ!」……貴様を呼び出したのはこの(オレ)だ。恩がないわけではないが、それはそれ、これはこれというもの。次は後ろから剣で一刺しにしてやる。覚えておけ」

 

 ……御家芸(伝統工芸)が垣間見える会話に、さしものマーリンも慌てて発言を取り消す。存外面白い人なのかもしれない、と立香はギルガメッシュへの見解を改めた。

 

 ふぅ、と大きく溜息をついた彼は軽く首を振り、改めて立香の方へと視線をやった。赤の鋭い目に射抜かれ、反射的に背筋がピンと伸びる。

 

「……話が逸れたな。それで、カルデアのマスター、藤丸……だったか?」

 

「は、はい!俺は……」

 

「よい」

 

「……は、はあ?」

 

 大きく自己紹介をしようとしたところへのまさかの速攻否定に、口から呆気にとられて空気が漏れた。さぞ間抜けな立香の顔を鼻で笑ったギルガメッシュが、ゆっくりと玉座から立ち上がる。

 

「よい、と言ったのだ。雑種の戯言など聞くまでもない。用件の検討は大方ついている。人理修復、だったか。よい。この国、ウルクが消えるとあっては何もせず傍観するわけにもいかん。(オレ)とて手を貸してやらんこともない」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 思わず、その場でガッツポーズをとってしまう立香。だが、それも仕方のないことだろう。第七特異点のレイシフトから二日目にして、いきなりこの世界の人類トップから協力を約束してもらえたのだ。マシュも少し嬉しそうに微笑んでいる。

 

 だが、しかし。

 

 

「まぁ待て。礼を言うのは早いぞ、雑種」

 

 現実は、そうは上手く回らない。いつの間にか玉座から立つどころか、粘土板を持って魔力を迸らせていたギルガメッシュは、その鋒を迷うことなく立香へと向けている。

 

「……と、言いますと」

 

 緊張の汗、というか経験則から来る冷や汗が立香の背に流れる。頭の中ではガンガンと警鐘が鳴り、絶えず戦闘の気配を伝えてくる。まず間違いなく、これは──

 

「そこの小さき魔術師の茶番に付き合ったせいで時間が惜しいのでな。貴様が(オレ)の協力に値する者か、試させてもらうぞ!」

 

「やっぱり!?」

 

 力試しの流れ、だ。

 

「王よ、本気ですか?此処は戦闘するためのものではなく、国を動かすためのものだと、あれほど()も言っていたではありませんか!」

 

「……あぁ。だから戦闘ではない。試練だ。幸い、試練としてなら使った前例(・・)があろう。シドゥリ、お前は離れていろ」

 

「……またそうやって無茶を仰るのですから…」

 

 いくつか文句を挙げたシドゥリと呼ばれた女官は、不満げに頬を膨らませながらも立香の後ろへと避難していく。同じように、他の兵士や文官も後ろへ下がった。

 

 そして、玉座のギルガメッシュと相対するのは、立香達とアナ、マーリンの五人だけとなる。

 

「……あまり暴れてもシドゥリや他の文官が煩いのでな。我は一歩も動かん(・・・・・・)。我を一歩でもこの場所より動かすことができたのなら、貴様らカルデアを協力者として認めてやる」

 

 不満そうに腕を組み仁王立ちしたギルガメッシュは、早速そんなとんでもないことを口走った。立香の聞き間違いではないらしく、側にいるハーメルンが、萎縮したように声を漏らした。

 

「……自信ありすぎ……だよ………」

 

「自らを縛るのも王の器量だとも、小さき雑種よ。ま、その力によっては、或いは我も動かねばならぬかもしれんがな。精々派手に活躍して(オレ)を興じさせよ、雑種」

 

 傲岸不遜にもそう自ら縛りを課したギルガメッシュを相手に、立香達は挑むことになり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所詮この程度、か」

 

 

 盛大に、負けた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「……はぁ。なんか、どっと疲れちゃったな…」

 

「……同感です。今日1日で、色々と起こりすぎました…」

 

 大きく、大きく。神殿から出て、マシュと大きくため息を吐いた。ハーメルンやアナもてんわやんわだったからか、顔にかなりの疲弊の色が見える。

 

「……一歩どころか…身(じろ)ぎすら………」

 

「……三人がかりで、何もできませんでした」

 

 戦闘の感触を思い出しているのか、握ったり開いたりを繰り返している二人。どうにも、上手いようにあしらわれたのがかなりショックだったらしい。

 

「まさか、ギルガメッシュ王が聖杯を持ってるとは……」

 

 数分間ピクリとも動かせなかったギルガメッシュが、見せつけるように宝物庫から聖杯を出して立香達を笑ったのは記憶に新しい。どうにも、特異点解決の為の聖杯とは別物のようではあったが。

 

 そして、その後に女神イシュタル……立香がこの特異点で二人目にあっていた人物……がインベーダーが如く飛来し、散々に場を荒らしていったのだ。ビビュン。

 

「そして、アンヘル(・・・・)………」

 

「……アーサー王も女性でしたし、もう二度と、英霊の方の性別では驚かないつもりだったのですが…」

 

 そう。話している最中に判明した、立香にとっては超衝撃の新事実。

 

 

 

『まさか、アンヘルが実際は男の子(・・・・・・)だったなんてねぇ……』

 

 

 ……ロマニの言った通り、アンヘルが、史実では女性(・・)として伝わっていたのに、実は男性だったということである。

 

 それを聞いたときのギルガメッシュの顔と言ったら。これ以上愉快なことはないと言わんばかりの満面の笑みで…

 

『……ハハハハハ!!おいおい!聞いたか、聞いたかシドゥリ!あの童め、己が背丈の低さを日々嘆いてはいたが、まさか後世で女子(おなご)として扱われておるだと!?そのような痴態、(オレ)の千里眼でも見通せなんだ!笑ってやるフハハハ!!』………などと、王座で笑い転げながら大爆笑を繰り返していた。側に戻ったシドゥリ、という女性も堪えきれずにクスクスと笑っていたほどだから、よっぽど意外なのだろう。

 

『まぁ、考えれば確かに筋は通っている。今でこそ『天使』という存在は嫋やかな女性のイメージを抱かれがちだけど、昔の『天使』は基本的に汚れのない男の子だからね。伝承がどこがで歪んで女性として伝わったとしても、不思議じゃあない。………そこの胡散臭さの塊は、歪んだ伝承が伝わってたことに絶対気がついていただろうがね』

 

「ははは!いやなに、僕が説明するより、こうやって実際に面識のある人たちの方が信用できるだろうと思ってさ!見た目は今のボクにちょっと似てるらしいぞ!」

 

『そいつは災難だったな、アンヘルが!』

 

「あははは……」

 

 言われてみれば、天使と聞いて、確かに男性の姿はあまり思い浮かばない。しかし、昔の壁画なんかを見ると、ラッパを吹いている天使の少年なんかもしっかりいる。

 

「いやでも、流石にイシュタルの(しもべ)という説が出回ってるのは知らなかったな」

 

『それも、謎に包まれたアンヘルについての、割と信憑性が高めの伝承だったんだぞ……』

 

 ……そうだ。確かイシュタルが登場したときロマニがそんなことを口走り、また余計な一悶着があったのだったか。

 

『まだ飽き足らず(オレ)を愉しませるかこの道化め!奴がイシュタルめの(しもべ)ェ?生前の彼奴(あやつ)に聞かせてみよ!憤慨してのたうちまわった末に此奴(こやつ)を殺すぞ!笑えん!全く笑えんわ!……いや、(オレ)は笑うが!』と、再びギルガメッシュが高らかに笑い。

 

『あんな餓鬼、こっちからお断りに決まってるでしょう!顔以外なんっっっにも!眷属や僕どころか、奴隷にしたって私と釣り合わないじゃないの!最早それ私に対する侮辱よ!侮辱!』と、黒の髪を逆立てながら激怒していた。

 

 

 

『ははは……昨日といい今日といい、流石に情報量が多くて僕も卒倒しそうだ…』

 

「……お、お疲れ様です。ドクター。……ですが、結局殺人の夜(キリングナイト)とやらについての有力な情報は、一切話されていなかったような……」

 

 あ。という声が、マシュ以外の全員の口から漏れた。……まるで数日に感じる濃度の数時間を過ごしていたせいか、完全に忘れてしまっていた。

 

「……そうだ!マーリン、一体いつ話してくれるの!?」

 

「あ、いやぁ……ボクも王様から話してもらうつもりだったから……参ったなぁ…」

 

 ぐいぐいと顔を近づけて迫る立香に、ポリポリと後頭部を掻きながら目を逸らすマーリン。……一時間ほど前ハーメルンはああ言ったが、やはりマーリンは信用できないんじゃなかろうか、と信頼が揺らぎそうになってしまう。

 

 

 

「……ご心配には及びませんよ」

 

 

 ふと、出入り口近くで話し込んでいた立香達に、声をかける存在があった。柔らかい、透き通った女性の声だ。

 

「当面の生活は保障させていただきます。そして、今夜の宿で、私から殺人の夜(キリングナイト)についてをお話しいたしますから」

 

 夕暮れになって勤務時間が終わったからなのか。少し窮屈、というよりかは張り詰めた空気を霧散させた、ギルガメッシュの側についていた女性が、そこには立っていた。

 

「……えっと、シドゥリさん、でしたっけ?」

 

「はい。この神殿の祭祀長を務めております。シドゥリとお呼びください、天文台の方々」

 

 緑の服を摘んで優雅に一礼し、シドゥリはハーメルンの方へと近づいていく。慌てて、ハーメルンは立香の後ろへと素早く隠れた。

 

「あら?怖がらせてしまいましたか?」

 

 少し残念そうに顔を曇らせるシドゥリ。流石に悪いと思ったのか、ハーメルンは無言で首をブンブンと横に振った。

 

「……えっと。多分人見知りなだけなので。ちょっとびっくりしただけで、平気だと思います。俺は藤丸立香といいます。こっちが……」

 

「は、初めまして。マシュ・キリエライトと申します!」

 

「それで……」

 

 そっと、背後の黄色の少年に目を落としてみる。少し顔を赤らめ涙目になっている彼だが、立香の袖をあまり強く引いていないあたり、自己紹介ぐらいはできそうだった。

 

「……ハーメルン、です」

 

 短くそう応えたハーメルンは、再び顔をかぁぁっと赤くして、レインコートを目深にかぶり直した。どうやら人見知りなのは伝わったらしく、シドゥリも優しく微笑んだ。

 

「はい、よろしくお願いします。藤丸、マシュ、ハーメルン君。……それでは、早速宿の方に向かわせていただきますね」

 

 先導するシドゥリに合わせ、立香、ハーメルン、マシュと連れ立って、夕陽で紅く染まったウルクの街を歩き始める。……死を喜ぶ、異様の街を。だが、不快感や恐怖は神殿を訪れる前よりだいぶ少なくなっていた。

 

 歩きながら、立香は思い出していた。神殿を出る際に、ギルガメッシュに言われた最後の一言を。

 

 

 

 

 

『貴様らがどう思うかは勝手だが。……(おれ)の国の人間は、少なくとも貴様ら雑種とほぼ変わらぬ価値観を持っている。そのことを(ゆめ)、忘れるな』

 

 

 そう言い放ったギルガメッシュの悲しみとなにかの入り混じった複雑な表情を、立香はしばらく、忘れることはできなそうだった。

 

 




アンヘル君とイシュタルんの出番が悉く欠けている………

3月に入ってようやくまともに執筆ができるようになったので、連日投稿をしていきたい……三日以上更新してなかったら感想とかメッセージで作者の背中を『早く次の話を投稿するんだよオラァン!』と蹴っといてください。……流石にこれ以上放置するのはマズすぎ……五話六話ぐらいからフルスロットルかけていきたいんで……

アニメがめちゃくちゃ良くなるにつれ作者のモチベがどんどん下がっていく不思議……あのクオリティについていける気がしにゃぁ……


次回予告!

 未来の伝承のせいで女の子となってしまったアンヘル!これは重要な伏線であり(大嘘)ギル×アンの始まりであった!
『ざ、ざんねーん!伝承如きで女の子になると思った?僕、男だよ!』などという無駄な強がりでTSメス堕ちエンドを避けようとするメスガキアンヘルくんに、ギルガメッシュ、どうする!?
 次回!『アンヘル君、わからさせられる』
 今春公開予定!
※この物語はフィクションです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。