第二弾、市ヶ谷有咲編。有咲はガルパやアニメのストーリーの中でもなかなか香澄に対して素直に気持ちを伝えられていない...今回はかすありの原点というか、孤独だった有咲を香澄がその輝きで溶かしてあげてほしいな、と思い筆を執りました。よければ評価、コメント等よろしくお願いします。
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ずっと独りだった市ヶ谷有咲が、香澄の大切な人になる話。

この間のあれは、何だ?あの香澄が自信をなくして泣き出すなんて、いつもの無駄な元気さはどこへやったんだあいつは。ただ私は、いつからかあいつのそんな明るいところに、憧れていた。なぜかって?これを読んでいる人が知っているかどうか分からないが、聞いてくれ。

 

私の両親は、私が物心ついてからすぐに亡くなった。ばあちゃんが言うには、事故だったらしい。詳しくは明かしてくれなかったが、本当に不慮のものだったそうだ。その頃の私はとにかく毎日をどう過ごすか、悲しさをどうやって発散するかで毎日泣いてばかりだった。何をやるにも昔の両親との思い出が、邪魔をして...言い方が少し悪かったな。「これをやったら、母ちゃんはどう思うかな」「こうしたら、父ちゃんはどう思うかな」ってな。そんな風に、もう会えない両親との思い出が自分の行動を阻害してしまうんだ。私はそれこそ小中学校まではなんとか無理をして学校にも通ったが、もちろん友達なんてできなかった。作る気もなかったからな。でも、高校にはさすがに行く必要があるから、受験は頑張った。ばあちゃんを、これ以上悲しませたくなかったんだ。ただでさえ自分の娘を自分よりも早く亡くしているんだから。

 

でも、私のそんな暗く孤独な人生は、あいつによって変えられたんだ。香澄、戸山香澄は、高校に入ってもあまり通わず引きこもりがちだった私を見つけた。正直な話、私はバンド活動なんてやりたくなかったし、やる資格もないと思った。だってキラキラドキドキだぜ?私の人生とはかけ離れた宣言じゃないか...まあその後、ご存じの通り私は口車に乗せられてバンド活動を始めてしまうのだが。

 

「なあ、香澄」

 

帰り道、私はついに素直になることにした。

 

「なあに~?ありさ~」

「私を、ポピパに誘ってくれてありがとな」

「え、?」

「私、ずっと寂しかったんだよ...母ちゃんも父ちゃんも死んで、今までの人生、ずっと暗かった...」

「ありさ...」

「うっ...お前みたいな...明るくて輝いてる奴、最初は大嫌いだった...人生に何不自由なく、悩みなんてないんだろうなって...思ってた」

 

私は大粒の涙を、柄にもなく流してしまっていた。

 

「私なんかが、お前の目指すキラキラドキドキにたどりつけるのか、最初は不安だった...うっ...でも、この間お前が悩みを始めて私たちに打ち明けてくれただろ?その時私は、お前でもそういう気分になるんだって、ちょっと...ホッとしたというか。香澄も私と同じ、人間なんだなって改めて思ったんだ」

「そりゃそうだよ。ありさ、私だってそういう気分になるときはある、でもね、それを外には出せなかったんだ。出したら、キラキラドキドキから遠ざかっちゃうかもって。でも、私がそれを始めて外に出したことで、ありさがホッとしたんなら、遠ざかりはしないのかなって、ちょっと思ったかな」

「香澄、なんで私なんかをポピパに誘ったんだよ、いいことないのに、こんな奴、暗くて何もなくて、きっと足を引っ張るに決まって...」

「ありさ!こっちに来て!」

「ちょっ!?香澄!?」

 

香澄は私の手を引っ張り、夕焼けの中を走りだした。ぼやける視界の中、私は赤く染まるこの街を香澄と一緒に走り抜けた。どこまで行くのか、あいつは私をどこへ連れて行こうとするのかは分からなかったが、とにかく走った。

 

「ちょっと待て、ここって蔵じゃねえか」

「ありさっ!」

 

香澄は、私に抱きついた。いきなりのことで私も動揺したが、香澄は涙を流していた。

 

「私、ありさのこと大好きだよっ...」

「は、はぁ...?」

「ありさはいつも私を助けてくれて、話を聞いてくれて、頭も要領もよくて、私にないもの全部持ってて、すごいなって思う。私が躓いた時とか、立ち止まった時とか、全部ありさがいたから乗り越えてこられたんだよ...だから、そんな寂しいこと言わないで...!全部私が受け止める、ありさの悲しさも辛さも、これから一緒に乗り越えていきたい...!」

「か、香澄...お前...」

 

どうしよう、涙が止まらない。これは、悲しさの涙なのか、はたまた嬉しさの涙なのか。私でも気持ちがぐらついて分からないよ...

 

「ありさっ...今まで、辛かったね...悲しかったね...ずっと独りで、でもそれでも頑張ってきたありさは偉いよ。凄いよ!」

「うっ...か...すみ...」

「大好きだよ、誰よりもありさが好き。素直じゃなくて、頑張り屋さんで、いろんなことできて、可愛くて、面白くて、私の大切な人なんだよ」

「うぅ...あぁ...!かす、み、私も...大好きだよ!!」

 

私は香澄を強く抱きしめた。今までの寂しさ、辛さ、悲しさ、全てが浄化されると願って、私はこの太陽のような存在を強く感じるために。

 

「ねぇありさ、覚えてる?私と初めて会った時のこと。ありさは私を泥棒と勘違いしたよね。でも、ありさの星の輝きで、私はランダムスターにも出会えた。ありさがいなかったら、私はキラキラドキドキを目指すことなんてきっとしなかった。できなかった。でも、今は違う。ありさが私のキラキラドキドキなんだよ」

「そっ...そんな、私なんて」

「だから!そんな寂しいこと言わないでよ。まあ、この間私もそんな感じだったから人のことは言えないんだけど...でも、本当だよ。ありさが、私の一番大切で、大好きな人。もちろん、ポピパの皆とかオーナーとかまりなさんとか、大好きな人はたくさんいるけど、ありさはそういう意味の大好きじゃないんだ。私のすべてを捧げられる、私の理想。キラキラドキドキなんだ」

「なんで...そんなに私なんかを好きになってくれるの...」

「私が好きになったんだから、それでいいじゃん!自分では気づかないのかもしれないけど、私はありさが...世界で一番大好きなんだから!!」

「か、香澄...!!」

 

私の閉ざされて凍りついた心が、太陽の輝きで溶かされた瞬間だった。ああ、もしかしたら私はこいつと出会うために今まで生きてきたのかもしれない。それほど、嬉しかった。涙が止まらなかった。私は再び香澄を強く抱きしめた。

 

「ありがとう...香澄...お前と出会えて、よかった...こんな私を好きになってくれて...ありがとう、ありがとう......」

「ありさっ、ほら見て、夕日、すっごい綺麗だよ!」

 

私は香澄の指さす方角を見た。赤く染まった太陽が、キラキラ輝いていた。

 

「そういえば、蘭ちゃんもこういう夕日好きだって言ってたな...」

「もう!ありさ、今は他の女の子の名前出すの禁止」

「なんだよそれ、超可愛いなお前...」

「あれ~?お取込み中でしたか?」

 

驚いて振り返ると、おたえがいた。りみがいた。沙綾がいた。

 

「あっ...!?」

「ほう...有咲もなかなか積極的なんだね~?」

 

沙綾がニヤつきながら言う。こいつ、後で覚えてろよ。

 

「ばっ...ちげぇし!!ほら香澄、逃げるぞ!!」

「えっ...ありさぁ~~待って~~!」

 

私は香澄の手を掴んで蔵に走った。満面の笑みで。久しぶりだなあ、こんなに心の底から笑えたの。いつぶりだろうか。

でもな香澄、さっきみたいに私は、香澄に手を引かれて走り出す側じゃなくなったってことだ。これからは、私がお前の手を引いて走り出して、お前を幸せにしてやる。

 

 

こんな私を、好きになってくれてありがとうな。

 

出会ってくれて、ありがとうな。



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