『旧題』 バイオハザード~インクリボンがゴミと化した世界~   作:エネボル

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08 『憂悶』 アウトブレイク

「――――S.T.A.R.S.って、警察の特殊部隊の事よね?」

「あぁ。そのS.T.A.R.S.だ」

 

そんな確認の言葉にジョーは短く頷きで返した。

 

「最終的に生き残ったのは5人だった。その生き残り曰く、『アンブレラ社が例の動く死体――感染者を産み出すウィルスを作った』だ、そうだ……」

「悪いけど、流石に陰謀論も甚だしいわ。その話だと、アンブレラ社が街をこんな風にしたって事になるじゃない? どこの世界に自宅の庭に枯葉剤を散布する馬鹿が居るのよ。この街はアンブレラで潤ってる箱庭みたいな土地よ? それを自分から滅茶苦茶にするなんて――――」

「無論、連中にしてもこの惨状は不本意に決まってる。これは一種の『バイオハザード(生物災害)』なんだ」

「――っ」

 

 常識的な見地からジョーの話を否定に掛るテリ。

 そんな意見にジョーは皮肉を交えながら現実を突き付けるように言った。

 

「ねぇ、“ウィルス”兵器って言ってたけど、それってもしかして――――」

「あぁ。恐らく、その懸念は正解だと思う。例のウィルス兵器が『感染者』を生み出していると、俺はそう(・・)聞かされた」

「……っ! それじゃ、まさか――――!」

 

 オリヴィアが抱いた懸念に対し、ジョーはそれを肯定するように諦観の混ざった声色で心情を遂に吐露する。

 

「さっきの“傷”が原因で、俺も他の連中と同じように『感染者』になるかもしれない……」

「……っ、考えすぎだろ!」

「ありがとよ、マックス。まぁ、確かに杞憂のままに終わるかもしれない可能性だ。だけど、どうしても“悪い”予感って奴が頭にチラつくんだ。……それで色々と不安になった。そういうわけさ」

「………………」

 

 まるで我が事のように苦しみながら気遣いの言葉を投げるマックスに対して、ジョーはそんな感謝の意を返した。

 

「今更言うのもなんだけど、マジで怪我だけはしない方が良い……。これだけは確かだ」

 

 不安を含めて思う所の全てを吐露した時、胸に溜まった膿が全て流れ出たような奇妙な清々しさを感じた。

 それが一過性に次ぎない事だと理解しつつ、ジョーは自嘲の混ざった忠告を一同に送り、再び立ち上がる――。

 

 

 

 

 感染者の侵入を恐れた市民の手により、人が入りこめる程度の狭い路地には、大抵が鎖や縄を駆使した封鎖が施されていた。コレが扉と鍵だけの封鎖なら破壊も容易なのだが、流石に鎖で開け閉めを頑丈に封印されている箇所となると、遠回りな迂回を選択せざるを得ない。

 

「こうした状況に陥った場合の備えとして、一家に一つは“チェーンカッター”の購入を義務付けるべきだな?」

「あぁ。それと“バール”と“クランク”と“チェーンソー”も、そのリストに加えてくれ」

 

 そうした迂回を迫られる機会の多さには、流石にジョーも辟易とした溜息を吐いた。

 するとマックスもその呟きに同調をした。

 

「ついでにそれを購入する為の資金の給付を『法律で義務付ける――』って輩が次の選挙で候補に挙がるなら、俺はそいつがたとえ前科持ちの性犯罪者であっても、支持してやるぜ……」

「馬鹿な事言ってないで前を見なさい、マックス! 前!」

「――やっべ!」

 

 その時、テリが鋭くマックスに危険を促した。

 その後ろでシェリーが危険に息を呑んだ。

 マックスは突然の叱責に驚きながら、この数時間の間にすっかり扱いに慣れたショットガンを駆使して、新たに立ち上がった感染者を吹き飛ばした。

 

「――っ!? 銃声……?」

 

 その時、マックスの撃ち放ったショットガンの銃声に重なるようにして、ジョー達とは違う別の誰かの放った“発砲音”が僅かに聞こえた。

 その音に耳聡く気付いたジョーは、思わず周囲を見渡した。

 

「どうしたの、ジョー?」

「いや……。今、銃声が聞こえなかったか?」

「え……?」

 

 するとその時、

 

「おい! ジョー・ナガトか!」

 

 路地に面した建物の二階部分から、一人の男が顔を覗かせて叫んだ。

 その問いからして相手はジョーの事を知っている様子だ。しかしジョーの方は別であった。

 少なくとも二階の窓からチラリと見えた程度では、流石にその人物を特定するには至らず――、

 

「誰だ!?」

 

 ジョーは思わず声の主に問いを返した。

 すると返答のように見上げた建物から複数の銃声がこだました。

 そして逼迫した様子で、もう一度件の男は声を荒げた。

 

「俺だ! ケビン・ライマン!」

「……っ、ケビンだって!?」

 

 そこでジョーは遂に相手の正体を理解した。

 名指しで呼ばれるのも当然だ。相手は『ケンドの銃砲店』の常連であると同時に、ジョーにとっては父親の友人の一人。ラクーン警察に勤める警察官だ。

 

「無事なのか!」

「まぁな! だけど助けならいつでも大歓迎だ……いや、悪い! 手を貸してくれ!」

 

 危険の渦中にある様子だが、それでもその出会いにジョーは思わず声を弾ませた。

 先ほどまでの思考の陰鬱さが思わず晴れるような気分を感じた。

 

「知り合いなの?」

「あぁ、優秀な不良警官だ」

 

 疑問を浮かべたオリヴィアにジョーは短くそう返事を返した後、早速ケビンの撃ち鳴らす発砲音のある建物の入り口へと走る。

 

「く……っ、此処も封鎖されてやがるのか!」

 

 しかし突入しようにも、例の如くその建物入り口部分には、内側から頑丈な当て木の補強がされてあった。

 蹴り破るにしてもジョーの体格では破壊が難しく、思わず迂回する道を探そうと思案に耽る。

 その時――、

 

「おい、どいてろ!」

「マックス?」

「こういう時こそ俺の出番だろう?」

 

 マックスがジョーを押しのけて己を指さした。

 任せろと言ってのけるマックスの体格は、日系人のジョーに比べると、非常にアメリカ人らしい肥満気味の巨躯。故にそんなマックスの提案に、ジョーはすぐさま場所を譲った。

 するとマックスは隙間にショットガンを銃口を向けて、続けざまに二発撃ち放った。外から補強用の当て木に皹を入れたのだ。

 そしてショットガンを一度テリに預けた直後、

 

「うぉらぁ――っ!」

 

 そんな裂ぱくの掛け声と共に豪快な体当たりを扉にぶちかました。

 

「すげェな……!」

「大学時代にとった杵柄って奴さ。フットボール部で……まぁ、レギュラーは取れなかったけど」

 

 頑丈な扉が目の前で派手に吹き飛ぶ様子には、思わず感嘆の吐息が漏れた。

 そして一同のそうしたリアクションを前に。マックスは思わず照れくさそうに言った。

 

「それでも凄いわよ!」

「うん!」

 

 しかしそんな謙遜をよそに、オリビアとシェリーは称賛と笑みを浮かべた。

 

「と、とにかく! これで先に進めるぜ。……助けに行くんだろ?」

 

 マックスはジョーに視線を向けて促した。

 するとジョーは短く「あぁ」と頷いた。

 

「行ってくる。――――此処は任せる!」

「おう、任せな!」

 

 そしてその場をマックスに任せて、ジョーは単独、建物内部へと突入した。

 

 

 

 

 距離を詰める程に階上での銃撃戦の音が激しくなる。そして同時に戦闘の騒音に呼応して、室内で沈黙を保っていた死体が、次々と新たな『感染者』として起き上がる光景を、ジョーは目の当たりにした。

 

「――――寝てろ、クソったれ!」

 

 階段を塞ぐ様に立ちはだかる白髪の感染者。その膝を撃ち抜き、再び床の上に転倒させた後、ジョーは倒れこんだその頭を段差の角に叩きつけるように蹴り潰した。

 足元で首の骨が折れる音がしたが、それすらも無視してジョーは階段を駆け上がる。

 

「ケビン!」

 

 そして遂にジョーは三階部分の最奥で闘うケビン達の姿を視認した。

 ジョーはそこでケビンの他、更に3人の生存者が居る事に気づいた。

 

「見ての通りだ! 援護してくれ!」

 

 援護を求めるその声に応じるが如く、ジョーは早速、ケビンらに迫る感染者の一体に向けてベレッタの引き金を引いた。

 これまでの逃避行から得た経験によって、ジョーはほとんど反射的に、ケビンに迫る感染者の膝の皿を狙い撃った。それは先頭が転倒した事で、後続の群れも躓き転ぶ事を狙っての一撃だ。

 ――――すると図らずも、そこで高度な連携が成立した。

 ジョーの一撃から生まれた『隙』という波紋を、ケビンはその意図を含めて、そこで的確に知覚したのだ。

 ジョーは撃ち放った一撃を発端に崩れた感染者の群れに対して、ケビンは寸分違わずそこで連続したヘッドショットを放った。

 

「――――大丈夫か!?」

「あぁ、何とか……! だけど――――」

 

 喫緊の脅威の無力化に成功した隙を狙い、ジョーは一気にケビン達との距離を詰める。

 そしてケビンと彼の庇う3人の生存者の下へと駆けると、ジョーはそこでJ's Barのウェイトレスの衣装に身を包んだ“シンディー”の名札を付けた女性と、同じ警備会社のジャケットを纏う二人の老人の姿を確認した。

 するとその二人の老人の内、白人の方が胸を押さえて顔に強い苦悶を浮かべている事を察した。

 

「怪我か?」

「いいえ、怪我じゃないわ! 恐らく発作の類……!」

「発作……! ……この状況で――――」

 

 ジョーが容体を問うと、そこで“シンディー”の名札を付けたウェイトレスがそう説明をした。

 

「おい、若いの! 今は脱出が先だ! すまんが出口までの案内を頼む!」

 

 すると発作を抱える相棒の肩を支えていた恰幅の良い黒人の初老が、鋭い声で言った。

 

「マーク……俺を此処で……!」

「もういい、ボブ! 喋るな!」

 

 胸を押さえて苦しそうな白人の男は“ボブ”。その支える恰幅の良い初老の黒人は“マーク”と呼ばれていた。

 そんな老人2人とシンディを庇うように、ジョーは再び銃を構えて、同じく銃を手にするケビンと並び立った。

 

「こっちだ」

 

 ジョーは元来た道を顎で指した。

 

「すまんな。若いの。それとシンディ。悪いが、ボブの事を頼む!」

「えぇ、判った。だけどマークも無理だけはしないで……!」

「あぁ、判っている」

 

 そこでマークはボブの身をシンディに預け、代わりに懐から大口径の拳銃を取り出した。

 そしてケビンとジョーの戦列に並ぶように、そこで銃を構えてみせた。

 

「この身を容易く喰らえると思うなよ、クソったれ!」

 

 背後から迫る感染者の群れに対して、マークは激しく罵った。

 

 

 

 

「――――ジョー! 早くしてくれ! もう限界だ!」

「もう少し頑張れマックス! 今行く!」

 

 シンディーがボブを支えながらも、遂に出口へと至る。

 それを死守する数分の間、ケビン、マーク、ジョーの3人掛で迫る感染者の圧力に対抗した。

 一階の入り口付近では、マックスが懸命にショットガンを振り回して、一同の退路の確保に勤しんでいた。

 しかし遂に限界が訪れる。

 マックスの悲鳴染みた声が響いた。

 

「早くいけ、爺さん!」

「くっ、すまん! 若いの、任せる!」

 

 歩みの遅いボブを先に下がらせつつ、ジョーとケビンは殿として立った。

 肩、首、側頭部――、その順番で連続で撃ち抜かれた目の前の一体が、派手に吹き飛んだと同時、ジョーの手にしたベレッタのスライドが固定される。――――残弾が尽きたのだ。

 

「くっ! ケビン、先に行くぞ!」

「OK!」

 

 ジョーはケビンに叫ぶなりベレッタをホルスターに戻して、目の前で足を引き摺るようにして撤退するマークの肩を引っ張り、マークと共に一足先に外へと躍り出た。

 そしてもう一度建物の内部に戻った後、今度はケビンの脱出を援護する為に虎の子のマグナムリボルバー(コルトアナコンダ)を抜いた。

 

「助かる!」

 

 その際のジョーの援護によって、追いすがる感染者の群れから大きく距離を取る事に成功したケビンは、その去り際に室内の廊下に備え付けられていた消火器を撃ち抜いた。

 ――――バンッ! という派手な破裂音が響いた。

 そして直後に建物の一階部分が消化剤の白煙によって包まれた。

 その隙を見てケビンも遂に建物からの脱出に成功した。

 

「怪我は?」

「あぁ、なんて事ねェよ」

 

 ジョーの問いに対しケビンはこれ見よがしな態度で、硝煙を吹き消すような仕草をした。

 

「――――ねぇ、とりあえず此処から離れない? なんか、すっごくヤバイ感じがするわ」

「……っ!?」

 

 マグナムを戻して残弾の尽きたベレッタに最後のマガジンを装填した矢先、テリが顔を引きつかせながら一同の視線を路地の奥へと誘導する。

 するとシンディがボブの肩を支えながら言った。

 

「ジーザス……」

 

 戦闘音を聞きつけた感染者の群れが、一同の背後から更に津波のように迫っていた。

 

「とりあえず、お互い自己紹介は進みながらで良いよな?」

「そいつはいい提案だ……!」

 

 ケビンが冷や汗混じりに提案すると、マックスが一同を代表するように泣きそうな顔で応じた。

 そして直後、その場に会した一同は、各々に出来る事を独自に判断して動いた。

 テリとシンディーは発作で胸を押さえるボブの肩を引き、オリヴィアとシェリーが足に障害を持つマークの歩みを支えた。そしてケビンとジョーとマックスの三人は、そんな生存者の集団の外周を囲むような隊列を取り、銃を構えた。

 警察官として市民の救助に動いていたというケビンの案内で、一同は最短のルートで警察の敷いた防衛陣地へと急ぐ――、

 

「っ、うぅ……ぁ……ぐ……」

「ボブ! しっかりしろ! もう少しだ!」

 

 しかし路地の向こうに多くの生存者の気配を感じ取った頃。遂に予期された“結末”が訪れた。

 持病の発作に耐え切れず、ボブが遂に膝をついたのだ。

 

「ボブ!」

 

 同じ警備会社に勤めるマークは、思わず叱咤するようにボブの肩を掴む。

 しかし既にボブの容態は、知り合って間もないジョー達にも容易に把握できる程であった。

 

「お、おい! 大丈夫なのか!? ――っ……テリ?」

 

 マックスが思わず不安に声を荒げて駆け寄ろうとした。するとテリがマックスの肩を引き留める様に引いた。

 

「………………」

 

 テリは悲痛を押し殺した顔で、察しろとばかりに首を横に振った。

 

「ボブ……」

「――――ほら、見せもんじゃねぇよ」

「……そうね」

 

 長く逃避行を共にしたシンディーもそこで悲痛に顔を伏せた。

 ケビンはそんなシンディーの肩を思わず抱いて支えた。そして同時に様子を伺っているオリヴィアとシェリーも遠ざけるべく、そう言葉を投げる。

 

「下がりましょう」

「……うん」

 

 ケビンの行動は図らずも、ボブの最期を強く二人に確信させた。

 とはいえ二人ともそんなケビンの誘導に抗う事はせず、シンディーと同様に粛々と従った。

 

「………………っ」

 

 そしてジョーはこの時、不意に左腕に刻まれた擦り傷から、ジクジクとした痒みの様な疼きを感じていた。そしてその不快感を掻き消すように思わず、傷の上から握りつぶすように左腕を押さえた。

 

「――――ボブ、しっかりしろ! もう直ぐ助かるんだ、こんなところで諦めるな!」

 

 一同の悲痛な視線がボブとマークの二人に注がれる中、唯一マークの必死な声とボブの力無い小さな声だけがその場に響いた。

 

「いや、ダメなんだ……マーク……。もうこれ以上、俺は……足手纏いになりたくない……」

「何を言ってるんだ、立て! 立て、行くぞ! ほら、立つんだ!」

「違う……違うんだ、マーク……! 奴らと同じなんだ……。現に今、俺は……お前の肉を食いちぎりたい……!」

「ボブ……!」

 

 その時、ボブはマークの懐から拳銃を掠め取った。

 

「っ!? 何を――――!?」

「すまん、マーク! もう、俺の事は放っておいてくれ……」

「ダメだ、ボブ!」

 

 ボブは銃を取り上げようとするマークに向けて、一度だけその銃口を向けた。

 その顔には、ポロポロと零れる涙があった。

 

「ダメだ――――!」

 

 マークがそう声を荒げた直後、その制止をかき消すような銃声が響いた。

 やけに澄んだ跳音と共に、硝煙を放つ空薬莢が地面に転がった。

 そして程なく、ボブの身体が崩れ落ちた。

 

「――――ボブ!」

 

 自決を選んだ掛け替えの無い相棒の死に、マークは激しく慟哭した。

 その声が一帯にこだますると程なく、小さな嗚咽が上がった。

 

「……行くぞ」

 

 ボブの死に対して悲痛な声を上げて涙を流すマーク。その肩を容赦なくケビンとマックスが引き上げた。

 二人ともそれが極限に無粋極まりない行いだという自覚は当然持ち合わせていた。しかし背後に迫る感染者の脅威から逃げ延びる為には、どうしてもそんな無礼が必要だった。

 ――――そして、そんな意図をマークも理解していた。

 従軍経験もあるからこそ、マークもそこで無理やり腕を引く二人の意図を察して、癇癪をぶつけるような真似はしなかった。

 しかし、

 

「――――馬鹿野郎……!」

 

 内から滾々と込み上げる『理不尽』に対する怒りは尽きなかった。 

 

 

 そんな理不尽で残酷なこの世界の現実を目の当たりにした一同が、再び歩みを始めた頃――。殿(しんがり)の位置に立ったジョーは、ふと置き去りにしたボブの屍に目を移した。

 埋葬の機会など永遠に訪れる事無く――。ただそこに置き去りにされた遺骸は、もはや街のどこにでも見受けられる『感染者』の沈黙する姿と対して変わりなかった。

 そしてその寂しい姿を見ていると、思わず振り払ったはずの『感染』と『死』への予感が、再び脳裏を過るのを感じた。

 

「――――ジョー?」

「……っ」

 

 その時、立ち止まったジョーにシェリーが気付いた。

 シェリーはおずおずとジョーに歩み寄り、不安を押し殺した顔をジョーに向けた。

 

「あぁ、悪い……。どうした、シェリー?」

「あのね。昔、ママが教えてくれた事なんだけど……人間の自然治癒の力は凄いんだって! それに応用とか自然環境への適応とか……とにかく凄いんだって! だから、その……大丈夫だよ!」

 

 この時、ジョーは内心に込み上げた不安がシェリーに筒抜けだった事に気づいた。

 すると恥ずかしさと同時に、思わず苦笑が込み上げるのを感じた。

 

「………………そうか。ありがとよ」

 

 拙くとも気遣おうとしてくれたシェリーに、ジョーは思わず礼を言った。

 そして歩みを促すように、シェリーの背を叩いた。

 

 ――――暗い路地を抜けてバリケードが組まれた警察の防衛陣地に辿り着いたのは、それから間も無くの事であった。

 

 

 

 

「――――生存者だ! 手を貸してくれ!」

 

 赤と青のパトランプが点いた車両と制服姿の警察官。この未曽有の生物災害(バイオハザード)に対して繰り返し微力だと伝えられてきた存在を象徴する要素だが、それでも今は、そんなありふれた警察のイメージに、一同は強い安堵を覚えた。

 陣地に展開する警察職員は路地を抜けてきたジョー達に気づくと同時、撤退を援護するように、その背後に迫る感染者の群れに武器を向けた。

 見れば、その中には武器を持った民間人の姿もある。

 

「ジョー・ナガト!」

 

 その時、ジョーの名が叫ばれた。

 驚き、視線を向けると、警察と武装した市民の顔触れの中に友人の『ロバート・ケンド』の姿もあった。

 

「――っ!? まさか、店長!? なんで、まだ此処に――――」

「お前を待ってたんだ、馬鹿野郎っ! 無事でよかった! 本当によかった、クソったれ!」

 

 ロバートは遂にジョーの姿を見つけたと、そこで怒鳴るように安堵を見せると同時、強くその肩を抱きしめた。

 

「………………っ!」

 

 心の底から叫ばれたであろうロバートの安堵の言葉を前に、とても『感染した可能性がある』なんて台詞を吐く事は出来なかった。

 ジョーはなんとも言えない憂悶した感情を堪えながら、その抱擁に応えた。




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