叔父がアニメ制作の個人事務所を持っていた。規模は小さく六人ほどの事務所だが、多少納期がやばくても作画崩壊しないレベルのクオリティを保っているからか仕事は途切れないそうだ。いつ遊びに行っても決算期のような状態だったからアニメは過酷なものというイメージがあり、アニメはもちろんアニメ映画にも興味がなかった。
ところかどっこい十五歳の冬、クラスで流行ったインフルエンザで高熱を出した明くる朝――知ってしまったのだ。俺が人生二度目であること、ここがコナンの世界であることを。そして俺の名前が風見裕也でcvは飛田。声変わりは終わっている。
俺はガン(ダム)オタではなくガン(銃)オタで、ラッキースケベより血飛沫が飛び交うシーンをこそ愛している深夜放送とOVA大好き勢だ。だから俺にとってcv飛田はカミーユではなくモンティナ・マックス。モンティナ・マックスが誰かと言えばヘルシングの少佐だ。作中で名前出てこないけど。
だがしかし、この世に少年画○社はなく……集英○も講○社もエニッ○スもない。あるのは小学○、それが唯一にして絶対の出版社だ。つまり、スターリッシュ不謹慎が生まれない可能性が高い。
嘘だッ!!!(cv中原)
嘘だと言えばひぐらしも生まれない可能性がある。嘘だッ!!!
とはいえ、他人の褌で相撲をとるのはどうなのかという倫理的問題から、俺は記憶を胸に抱いて生きていくつもりだった。だが俺が二十歳のとき元請け会社の脱税事件の余波で叔父さんの会社が倒産の危機に陥り、そんなことを言っていられる状況ではなくなってしまった。こんな……こんな……っ!
「こんなこともあろうかとっ! 叔父さんとりあえずこれを見てくれ」
規格名は『オリジナル深夜アニメHELLS○NG』。無名で、潰れかけていた、孫請のアニメ会社が作った狂気が日本に吹き荒れた。
メインキャラに演技派声優陣が並ぶ中、少佐の声は声優デビューもしていない全く無名のアンノウン。このアニメをデビュー作とする大型新人の出現かと噂されたが……まあもちろん、俺は少佐役が出来たことで満足していたからデビューなんてするわけがなかった。俺は給料が高いタイプの公務員になるんだ。
それから六年――俺は再びアニメに巻き込まれた。
HELL○INGが伝説的アニメとして祀り上げられているのは当然のことだが、「HEL○SING十周年企画に、また完全オリジナル深夜アニメを作らねばならなくなった」と頼まれるほどカルト的人気を博しているのは俺の目を以てしても想定外。叔父さん曰く「あれが当たりすぎた。我が事務所にオリジナルストーリーを作れる人材はないが、やりたくなくともやらねばならぬ。もはや頼れるのはお前しかいない」。公募すればいいだろうにと言えば、その公募の作業が通常業務を圧迫する可能性が高いこと、公募したとしてもその公募作アニメが滑ったときが怖いから無理だしお前まだ持ちネタあるだろう、という返事。そだね。
「でもまだ十周年企画には四年早いような」
「うちみたいな零細がたった一年かそこらで長編アニメ作りきれるわけがないだろう。他の依頼の隙間を縫ってこつこつと準備をするのだ」
「うわ、さもしい……HE○LSINGの収益はどこにどうしたんだよ」
「グッズを作ったりコラボカフェをしたり、入るものも多いが出るものも多いんだ。やれデザイン料だ、やれ企画運営費だ、あれだ、これだ、それだ。事務員として二人新たに雇ったが忙しさは変わらん」
「それってボられてないか?」
仕方ない、そんなに言われたら俺、また見たいアニメがあるんだよ。ひぐらしの○く頃にっていうんだけど。ああ仕方ない、仕方ないよねー!
で。原案者としての報酬が副業禁止規定にひっかかり、職場に過去のアテレコまでばれた。てへっ!
バレてしまっては仕方がない。停職か減給か、まあ免職はないだろう。こんなの微罪微罪。そう思っていた俺の肩を掴んだのは先日四十になった課長だ。
「お前は『怪しい影の情報屋』になれ!」
「なんですかそれは」
すごく厨二っぽい。裏社会なんてところは厨二や格好つけが無駄に多い世界だが、それにしても厨二っぽい。そしてなかなかに格好悪い。
「怪しい影の情報屋」になるのは既に上司命令による確定事項で断れないらしいから諦めるとして、情報屋をするなら「人に知られていない」情報を手に入れ続けられねばならない。だが俺のような籠いくらの公安職員が手に入れられる情報程度で「怪しい影」の情報屋をできるわけもない……。
そこで俺が目をつけたのはコナン映画に出てきたシンドラー社。確か母親が死んだことで孤児になり、シンドラー氏に引き取られたナンタラヒロキとかいうパソコンの天才(詳しいことは覚えていない)が生み出したナントカっていう万能で殺人もできちゃうAIがあれば百人力に違いない。昔確かそんな感じのコナン映画をテレビで見たんだ。
おぼろげな記憶によれば工藤新一の父親の友人がそのナンタラヒロキのパパで、名前が……加地だったっけ? 漢字二文字だったのは確かのはずだが、細かいところはよく思い出せない。なんかそれっぽい名前だったはずだ。
工藤父の交遊関係を洗い、見つかったのは加地リョウジではなく樫村忠彬。息子さんの歳は七歳、お名前はひろき。離婚した妻に引き取られ渡米しているため今は澤田ひろきと名乗っているらしい。そして七歳にしてマサチューセッツ工科大学で勉強している、と。天才ってすげー! つまりニュータイプなのはカミーユ声の俺ではなく澤田ひろきくん七歳、はっきりわかんだね。
仕事に必要だからと押し通してアメリカ行きのチケットを三枚取り、ビジネスクラスの空を飛んだ。
そして澤田さん宅に突撃し、俺、協力者の橘弁護士、樫村さんで「片親による子供の拉致」とか「面会の権利がある」とか「アメリカ国籍取ったんやろ? なら片親に面会させず連絡もさせないのは違法だって知ってるよな?」とかとごり押しして誓約書を書かせた。日本では共同親権(離婚しても両親が親権を持つ)は認められていないが、ここはアメリカだ。契約書に判子を押させてしまえばこちらのものよ。
パパを連れてきた俺に懐いたひろきくんから「将来お兄さんの力になってあげる!」と頼もしい約束を頂いたので、AIのナンチャラっていうのが生まれたら協力してもらうつもりだ。働くのはAIであってひろきくんではないので、児童労働には当たらない。大丈夫だ問題ない。
――しかし困った。俺はAIが完成してるかもうすぐ完成するものだと思っていたが、まだ計画段階で宅地造成すら終わっていないらしい。ひろきくんのAIが生まれるまではまだ時間が掛かりそうなのだが、俺の「怪しい影の情報屋」デビュー期限はすぐそこに迫っている。もう開発した又は開発途中だとばかり思っていたのに当てが外れた。どうすべきか……。
ちょっと身内とか売っちゃ駄目だろうか。大丈夫、ちゃんと責任とって保護するから。常識的に考えて黒の組織ならNOC情報が欲しいだろう。え、売ったら駄目? もちろん知ってましたとも、身内を売るなんて屑の所業ですよね。
どうしようかなと悩んでいたら、なんと連絡員のA(仮名)が黒の組織に捕らえられてしまったという。何年か先輩の警部補なんだが名前は知らない。拷問役の一人が潜入捜査官X(仮名)だそうだが、Aを逃がすことも殺してやることも出来ない状態だとか。
上の決定は単純明快だった。スコッチとか呼ばれている警視庁の奴については吐かせても良いが、他は駄目だ、と。
課長が俺の両肩を掴む。
「怪しい影の情報屋、お前の出番だ。Aが吐く前に演じきれ」
始めてのライブ、絶対成功させるからね! 見ててね
他人の物音が入らないよう使用中の札をかけた取調室で、逆探知不可のケータイを使いゆっくりと電話番号を押す。
マジックミラーの向こうで課長が見守る中――ケータイを耳に、当てた。
『少佐』が生理的に嫌いだ。『少佐』が仕事を奪い合う相手であることも理由の一つだが、なにより言動が全て気に触る。こちらをおちょくっているのは間違いないのだ。
もったいぶった口調はこちらを馬鹿にしきっているし、態度が演技臭いし、妙なところでいかにも親切そうな態度をとるし、はっきり言って気味が悪く気色悪い。組織に所属せず自由の身を気取っているところなどは『少佐』の身勝手で無責任な人間性を表している。そして何より嫌なのは――HELLSIN○の少佐の物真似が上手すぎることだ。これには物凄く腹が立つ。黒の組織の連中……特に幹部達はアニメを見ずに育ち、これからもアニメとは無縁に一生を終えるだろう者ばかりだから気付かずにいるが、あの『少佐』は俺たちをロールプレイングの一人遊びに付き合わせている。オナニーなら一人でしていれば良いものを。
(裏世界での)メジャーデビューから二年ちょっとが過ぎた。半年前に配置替えがあり、俺はコナンの主要キャラクターである色黒金髪碧眼イケメン付きの連絡員になっている。何度も顔を会わせ仕事を共にして気心が知れてきたからだろう、この頃イケメンから『少佐』への愚痴や悪口を聞かされる。
残念なことにイケメンから『少佐』は凄く嫌われているようだ。
「――というわけなんですが、
「
「はっ」
『少佐』の真実を知っているのは四人、人工知能を含めれば六人――課長、うちの会計担当、黒田管理官、ひろきくん、そしてひろきくんの作ったAIノアズアークとナイアが『少佐』の関係者だ。
なお、ノアはひろきくんの手でのびのび育てられているのに対し、ナイアは俺の下で悪役ごっこを手伝ってくれている。cvが折笠だからこの命名なのだが、思考回路が純粋な皆さんはノアに合わせた名前なのだと勘違いしている。平和な誤解をあえて正す必要はないから放置だ。
ナイアはまだ幼いAIのためゆっくり実況のような棒読み発話しかできないが、仕事を手伝わせる都合上『中尉』の愛称を与えて黒の組織の面々と関わらせている。それが「少佐は拾った孤児を洗脳して手足にしている極悪人」という、裏社会の人間としてはグッドな評価を得られる要素になったのは予想外の幸運だ。
だが、その極悪人らしい評判もあって直属イケメン上司から『少佐』への心証は最悪の一言。『少佐』の話が出る時や、やはり生理的に嫌いだという黒の組織幹部・ライの話が出る時のイケメンはまさにネネちゃんのママ状態。表情と声色が物騒過ぎる。こんなのいつものイケメンじゃない! 幸せウサギをタコ殴りにしそう!
――愚痴を聞かされる度に背中の冷や汗が寒いのだが、上の意向は俺の心情など知った事では無い。アイドルが仮面を外すことは許されないのだ。普通のオトコノコに戻りたい。
本業の最中でも『少佐』の電話は鳴る。課長の前を辞して俺の個室(鍵付き・防音)に走り込み、鍵を掛けたことを二度確認して通話ボタンを押した。
「ナイアです」
『出るのが遅え、少佐はどうした!』
「少佐は原稿中です」
『出せ』
「言っている意味が分かりません。何を出せという指示でしょうか」
『少佐をだ!』
電話の相手はウォッカだったようだ。ナイアが対応している間に息を整え終えて電話を代わる。最近、ナイアの融通の利かない電話応対はわざとではないかと思い始めた。もし相手を怒らせることに喜びを見出しているというなら――初期化した方が良いかもしれない。
よっこらせと椅子に座って片肘を突く。
「やあ、用件はなんだね」
『手前、分かってんだろうが!』
さっきまで課長とアイドル談義をしていたため、ウォッカが今何を求めているのかさっぱり分からない。だが、確か今日は掌に収まる黒くて金属製のブツを取引する日ではなかっただろうか。相手方に取引の意思はなく、黒の組織への殺意に溢れていたはずだ。
有能なナイアは世界中の通話やメッセージその他個人情報を覗き見できてしまうから、黒の組織が取引に失敗することなど俺はとっくに知っていた。
「言っただろう。私は私の得にならないことはしない――聞かれてもいないことをわざわざ親切に教えてやるほど暇人でも人徳者でもない」
『良いからさっさと最短のルートを教えろ』
「私の求めることはただ一つだ。知っているだろう」
ナイアが俺のパソコン画面に地図と動く点Pその他を表示させ、曲がり角でも速度が変わらない机上の算数では出せない解を導き出す。良い感じに物騒なのに他人を巻き込まない凄く安全(※一般市民に限る)なデッドレースを作り出すルートだ。パーフェクトだナイア。
「私に、君たちが地を這いずり悶え苦しむ様を見せてくれたまえ」
後日、現場にいたイケメン上司が「あのオナニー野郎」と怒鳴りながらコンクリ壁を殴り、壁を大破させていた。
アイドルを引退したら駄目だろうか。え、まだ駄目? ですよね。
1/12インテ参加についてはツイッターとかで詳細上げます。