それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第14話

 あの後……響と流星を見て、突然現れたノイズとそれを操る鎧の少女と、突然変身した響が戦い出し、挙句に巷で噂される謎のヒーロー『仮面ライダーSHADOW』が乱入し、しかもそれが信人が変身したものだと知らされて。

 そして未来は響や信人と一緒にここ、母校であるリディアン音楽院の地下にあった二課の本部に来ていた。そこで響や信人、そして二課の司令であるという風鳴弦十郎という人物から今までのいきさつを聞いたのである。

 はっきり言って未来の理解力は完全にオーバーフローを起こしていた。そこで少し休憩となり未来は1人、二課の自販機スペースでベンチに座っている。

 未来は自販機で買った紅茶で喉を潤すが、気持ちはまったく落ち着かない。どこから話を整理をすればいいのか分からない。

 憧れのツヴァイウイングは実はノイズを倒す変身ヒロイン、母校の地下には秘密基地、おまけに大切な幼馴染2人も変身してはノイズと戦っているという。

 

「まるでアニメじゃない……」

 

 響と未来の共通の友人の口癖が思わず出てしまうが、アニメだってここまで設定盛り込み過ぎなものも今日日あるまい。

 そんな未来に声が掛けられた。

 

「ここいいかい?」

 

「霞野くん……?」

 

 それは信人の学校の友人として紹介された、霞野丈太郎だった。丈太郎は未来の許可も待たずにコーラを購入するとベンチの隣に腰かける。

 

「ここにいるってことはあなたも……」

 

「ああ、俺は忍者。 信人付きの連絡員ってとこだ」

 

「忍者……」

 

 今度は忍者と来たか。幼馴染2人の変身ヒーロー・ヒロイン設定だけでお腹いっぱいである未来は再び頭を抱える。

 

「何か用なんですか?」

 

「未来ちゃんのことは、前々から信人も響ちゃんもずっと気にしてたからな。

 今はあいつら2人もどんな顔して話すればいいのか分からないみたいだし、秘密がバレてどんな様子かと思ってかわりに様子見に来た」

 

 そう言ってコーラを煽る丈太郎。

 

「……少しはオブラートに包んで隠したらどうです?」

 

「ああ、俺必要なこと以外は忍ばない忍者なんで」

 

 あまりにあけすけな話に呆れる未来に、あっけらかんと丈太郎は答える。その態度にため息をつくと未来はポツリと言った。

 

「……実は私、そんなに怒ってないんです。

 事情を知った今なら、秘密にしなきゃならないことだって分かります。それでも今日響は、『詳しくは言わないけど隠し事してる』ってことを私に告白してくれました。

 どうしても秘密にしなきゃならない中で、響は私に精一杯を伝えてくれたって分かるんです。

 だから、怒ってなんかいません。

 ……まぁ、信人のやつは一度とっちめてやりますが」

 

「あはは……」

 

 『ご愁傷さま』と丈太郎は心の中で信人に合掌する。

 

「私は……今度こそ『3人で支え合ってどんな苦境も乗り越える』、その誓いを守ろうと思ってこの街に来たのに。

 でも2人の抱える秘密は大きくて……何も力になってあげられない自分の無力さが悔しいんですよ」

 

「そうかな? 未来ちゃんは十分すぎるほどに2人の力になってると思うけどな」

 

 そう言って丈太郎は飲み終えたコーラの缶をゴミ箱に投げる。綺麗な放物線を描いて缶はゴミ箱に収まった。

 

「うちは忍者の家系でね。布団で平和に死ねた人間の方が少ないんだ。

 そんな家系だから、『帰る場所』の大切さっていうのは身に染みて分かるつもりだよ」

 

 少し遠い目をする丈太郎。恐らく『布団で平和に死ねなかった人』を思い出しているのだろうと感じた未来は、何も言わずに次の言葉を待った。

 

「あの2人が迷わず戦えるのは未来ちゃんがいる日常を守り、未来ちゃんのいる日常に帰りたいと思うからだよ。

 だから未来ちゃんはそこにいるだけで2人に力を与えているんだ。

 ほら、無力じゃない」

 

「そういうものかな?」

 

「そういうもんさ。

 ほら、あいつらが来たぞ」

 

 言われて見ると、響と信人がこちらにやってきている。

 何をどう話したらいいのか迷っているのだろう、何やらシュンとした様子が叱られた犬みたいだと内心で未来は思う。

 

(そっか……響も信人も私と同じ、『不安』なんだ)

 

 未来は2人が遠くに行ってしまい自分が2人の助けになれないことを『不安』に思い、2人は大きな秘密に巻き込んでしまい未来が離れていかないか『不安』に思っている……それが分かるとスッと胸のつかえが取れたような気分になる。

 

「ありがとう、霞野くん」

 

「なんのなんの」

 

 未来は丈太郎に礼を言うと、そのまま響と信人に合流し続きの話をするために会議室へと歩く。

 丈太郎との話で確かに未来も納得できるところがあった。

 だが……胸の奥底にある想いもまた真実、未来は否定できないでいる。

 

(私は……やっぱりどんなところであろうと2人と一緒に歩みたい。

 私はあの生存者バッシングという『地獄』に2人を置き去りにした。今度こそ、そこが『地獄』の奥底だろうと2人と一緒に……)

 

 

 ドクンッ……

 

 

 その胸に秘めた想いは誰にも聞こえず、しかし、未来の奥底には確実に届いていることを今は誰も知らない……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どことも知れない湖畔の屋敷、そこに少女の悲鳴が響く。

 少女……響を攫おうと襲い掛かった鎧の少女はまるで磔刑に処される救世主のように十字の拘束具に括り付けられていた。

 周囲には何かが焦げるような嫌な臭いがする。少女には今、その身体に高圧の電流が流されているのだ。

 そして、その電流のスイッチを操っているのは金の髪をした女。

 この拷問じみた行いは『ネフシュタンの鎧』を纏った代償だ。『ネフシュタンの鎧』は驚異的な防御力と再生能力を纏った者に与えるが、じょじょに宿主を浸食しいつか喰い殺すという呪われた鎧だ。その鎧の因子を電流を流すことで休眠状態にし体内から除去する作業なのである。

 電流が止まり大きく息をつく少女に、金の髪の女が話しかける。

 

「まったく……私はあの融合症例を攫って来いと言ったはずよ。

 それが何で手ぶらで帰ってくるのかしら?」

 

「フィーネ……」

 

 少女の呟きを無視するかのように再び電流が流され、少女の悲鳴が再開される。

 その激痛の中で少女は考えた。

 

(あたしは……相手を舐めてかかったりはしなかった。 『融合症例』には驕りも無く、無駄なく勝ったはずだ。

 計画通り、どう急いだってSHADOWが到着する前に『融合症例』のやつを攫えたはずだ。なのに、あたしは失敗した……。

 どこだ? あたしはどこに無駄な時間を使ってSHADOWの到着を許した?)

 

 すると、その原因はすぐに思い至る。

 

(あいつだ、あの『融合症例』の友達だって言う一般人だ。

 あいつの相手をしていた時間のせいで、SHADOWの到着を許しあたしは失敗した……)

 

 安全な場所に逃げるチャンスを捨て、友達のために生身で自分やノイズの前に立ったあの一般人の少女。

 その姿は、鎧の少女にも『友情』という感情を強く意識させるものだった。

 

(『友情』、か……あたしには縁の無い言葉だ)

 

 鎧の少女は、特殊な環境にいたせいで『友情』などという言葉とは無縁の生活を送っていた。

 そんな自分を拾い、行動を共にしている金の髪の女……フィーネは『痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ、世界の真実』だと教えてくれ、そして鎧の少女はその言葉を信じてフィーネから与えられる痛みを、フィーネとの『絆』と信じて縋ってきた。

 だがそんな特殊な境遇の少女でもあの『何の力もない者が危険に身を晒しながらも友を助けるために命を賭ける』という光景には、『友情』という確かな『絆』を感じたのだ。

 

「まぁ、猪突猛進でまともに言うことも聞けない子だったあなたが、私の命令通りSHADOWが出て来たらそのまま退いたのは大きな成長よね」

 

「……なあ、フィーネ」

 

「……何かしら?」

 

「『痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ』……そうなんだよな?

 『痛み』と一緒にある『絆』をあたしは……信じていいんだよな?」

 

「……」

 

 その少女の問いに答えはない。

 かわりのように、『これが答えだ』と言わんばかりにフィーネが再び電流のスイッチを入れる。

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 再びの痛みに響く少女の悲鳴。それはしばらく止むことはなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの鎧の少女との戦いの後、俺と響、そして未来はすぐに二課へとやってきた。色々な秘密を知ることになってしまった未来への事情説明のためだ。

 色々秘密にしていたことが未来にバレて未来がどういう反応をするか俺も響も戦々恐々としていたのだが未来は特に変わらず、俺や響の心配をしてくれる。

 秘密のせいで俺たち幼馴染の間に亀裂が入ることだけは俺も響も絶対にいやだった。もしかしたら今回のことで距離が離れてしまうのではと危惧していたので、本当に助かった。ただ、俺のことは「ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!」らしく、随分高い焼肉を奢らされたが。

 ああ見えてかなり健啖な未来とどういうわけなのかちゃっかり一緒にやってきた響とが遠慮なく飲み食いしたせいで、最近やっと免許を取り新車で買ったバイクと合わせて今月は高校一年生とは思えない出費をすることになってしまった。まさに『オデノサイフハボドボドダ!』という状態なのだが、まぁ俺たち幼馴染の友情のためと思えば安いものである。こうして未来は秘密を知る『民間協力者』となることになった。

 それからしばらくはノイズも現れず世界は平穏だが、二課にとっては考えなければならないことはいくらでもあった。

 

 まずはあの鎧の少女。

 あの鎧は『ネフシュタンの鎧』といい、何とあの忘れもしない2年前のライブの時に盗まれたものだったらしい。あのライブが実は『ネフシュタンの鎧』を起動させるための実験だったという裏を初めて知り、俺も響も複雑な心境である。とにかく、その時に何者か……恐らくクライシス帝国の者に奪われたのだろう。そしてそのクライシス帝国の者に恩義のあるあの少女が『ネフシュタンの鎧』を纏い、何かしらの目的で響の身を狙ったのだ。

 そしてその鎧の少女が発した響を指す『融合症例』という言葉……これは聖遺物と人が融合出来るということが周りに知られてしまえば、様々な国で人体実験が起こりそうだということで堅く隠されていた言葉だ。

 とにかく『ネフシュタンの鎧』の存在と、『融合症例』という言葉を知っていること……このことから、二課の中に敵に通じる『内通者』がいるのではないかという結論に至り、二課内部には緊迫感が漂っていた。

 そんな中、緊急事態が起こる。二課を裏から支えてくれていた広木防衛相が暗殺されたのだ。

 

 これらの動きから敵の狙いは二課に保管されているサクリストL……完全聖遺物『レーヴァテイン』の強奪であると政府は結論付け、その移送が行われることになりその護衛には奏・翼・響の3人のシンフォギア装者と俺がつくことになったのだ。

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で、検問を配備。移送先である記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける。

 護衛車四台の内二台に奏と翼が一人ずつ、そして響くんは了子くんの車に乗ってもらう。

 『レーヴァテイン』を積んだ了子くんの車を中央に、前方に翼が乗った車を、後方に奏が乗った車を、そして護衛車の後を信人くんがバイクで追従する。

 俺はヘリで上空から警戒に当たる」

 

「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 

 それから割り振られた配置通り、俺は最近納車されたばかりのバイクに乗り込む。

 どこぞの(SAKIMORI)が大量に持ち込んだバイク雑誌の中で気に入った、タフな旅に耐えるための条件を総合的に満たしたアドベンチャーツアラーと呼ばれるタイプのバイクだ。時間ができたらツーリングで遠出をしたいと思って選んだバイクである。

 やがて車列が動き出し、俺もそれを追う。

 車列は進み、都市部とを繋ぐ橋に差し掛かった所で俺は嫌な予感がした。

 途端、それが即現実となって車列前方のアスファルトにヒビが入り地面が割れて、橋の一部が崩落する。その穴を避けきれず、翼の乗った先頭車両が穴から落ちていった。

 

「翼ッ!」

 

 思わず俺は叫ぶが、落下する車両に亀裂が走ったかと思うと、シンフォギアを纏った翼が一緒に乗っていた搭乗員を抱えて跳ぶ。

 翼の無事にホッと息をついたところで俺も叫んだ。

 

「変身ッ! バトルホッパー!!」

 

 俺がSHADOWに変身すると同時に、呼び出したバトルホッパーがバイクに取り着いて変形する。そのままバトルホッパーをジャンプさせて穴を回避、俺は前の車両を追った。

 その俺の目の前で今度は奏の乗っていた車が宙を舞っていた。翼と同じようにシンフォギアを纏って搭乗員を連れて脱出する奏。

 

『ノイズだ! ノイズは下水道を使って攻撃を仕掛けてきている!!

 奏と翼はそのままノイズの迎撃に当たれ!!

 そして……』

 

 弦十郎司令(おやっさん)からの指示は輸送の続行、敵が『レーヴァテイン』を確保したいというのならそれを逆手に取り敢えて危険な薬品工場に逃げ込むことで、攻め手を封じるという作戦だ。弦十郎司令(おやっさん)らしい、思い切りのいい作戦である。

 だが、その予想とは裏腹に薬品工場にはノイズが、そしてあのネフシュタンの鎧の少女が待ち構えていた。

 

「融合症例!!」

 

 ノイズによって横転させられた了子の車の後部がネフシュタンの鎧から伸びるムチによって切り裂かれる。

 そのままムチが『レーヴァテイン』の入ったケースを掴み取りそれを一気に引き寄せようとするが、そこにバトルホッパーから飛び降りた俺が降り立った。

 

「シャドーチョップ!!」

 

 空中で繰り出したシャドーチョップによってネフシュタンの鎧からのムチが切り裂かれ、『レーヴァテイン』の入ったケースが大きく吹き飛ぶ。

 

「ちぃ!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女が即座にケースの確保に向かい、俺もそちらに向かおうとするが……。

 

「私が行く! ノブくんは了子さんを守って!!」

 

 横転した車から這い出た響がシンフォギアを纏うと、そのまま俺の返事を待たずに一足飛びにノイズの群れを飛び越えて行った。後には大量のノイズが、横転した車を囲んでいる。こうなれば俺がここで守らなければ、了子さんはノイズの餌食になるだろう。

 響と同じく横転した車から這い出してきた了子さんを背に守り、俺はノイズへと構えをとったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「とぁぁ!!」

 

 飛び出した響は、『レーヴァテイン』の入ったケースの確保に向かったネフシュタンの鎧の少女へと空中から突き刺すようなキックを放つ。

 響の纏うガングニールの腰辺りにあるブースターが点火、爆発的な推進力を持ってネフシュタンの鎧の少女に迫る。

 

「ちょっせいっ!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女は身を翻して距離をとり、同時にムチを響へと振るう。

 空中で響のキックとネフシュタンの鎧のムチとがぶつかった。その衝撃をそのままに地面を削るように着地すると、響はネフシュタンの鎧の少女と相対した。

 

「こんなことやめて! 話をしようよ!!」

 

「またそれかよ、融合症例!

 でもな、今日のあたしは『レーヴァテイン』を持ってこいって言われてるんだ。

 お前の相手なんざ二の次だ!!」

 

 そして戦闘の態勢に入るネフシュタンの鎧の少女に、響も迎撃の態勢に入る。

 その時だ。

 

「こ、これは!!」

 

「なんだ!!」

 

 ケースが突如として吹き飛び、その中に収められていた『レーヴァテイン』が飛び出して空中で静止した。

 刃渡り120cmほどの両手剣(ツーハンデッドソード)だ。柄の辺りに小さな紅い宝玉のようなものがあるのが目を引く特徴である。

 その剣からは、禍々しさを感じさせる紅い光がにじみ出ていた。

 

「こいつが『レーヴァテイン』か!」

 

 『レーヴァテイン』を確保しようと跳び上がるネフシュタンの鎧の少女。

 

「渡すものかっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 だがコンクリートの地面を踏み抜く勢いで跳躍した響がそのままネフシュタンの鎧の少女に体当たり、その隙に響が『レーヴァテイン』の柄を掴む。

 その瞬間だった。

 

 

―――チガウ

 

 

(えっ? 何これ?)

 

 戸惑う響をよそに、頭の中に何かの声が響く。

 

 

―――チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!!

 

 

―――ニタニオイ!デモチガウ!!

 

 

―――オマエジャナイ!!

 

 

 そして、響の意識は濁流のごとく押し寄せた黒い何かに塗りつぶされた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ゾクリッ!!

 

「ッッ!!?」

 

 まるでつららを背中に突きこまれるような悪寒が走った。

 同時に、周囲のノイズたちがすべて俺にわき目も振らず一斉に矢のように飛んでいく。

 その先には、紅い光の柱のようなものが立っていた。

 

「まさか……『レーヴァテイン』が起動した!?」

 

 了子さんの言葉に、俺は全速でその場所へと走った。

 そしてそこで待っていたのは……。

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 『レーヴァテイン』と思われる剣を振り上げ、獣のような雄たけびを上げる響の姿だった。

 天高く禍々しい紅い光の刃が立ち上っている。響の目は紅く輝き、理性がないことは明白だった。

 

「響ッッ!!」

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 俺の呼び掛けにも、答えるのは響から飛び出したとは到底思えない獣の咆哮だ。

 

「そんな力を……見せびらかすなぁぁぁ!!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女が、周辺のノイズたちをまるで弾丸のように突撃させるが、ノイズたちは一体たりとも響に届くことなく紅い光によって崩れ去る。

 その攻撃に、暴走した響の視線がネフシュタンの鎧の少女に向いた。

  

「ひッ!」

 

 響から放たれる圧倒的かつ絶対的な殺気。それを本能的に感じただろうネフシュタンの鎧の少女からわずかに悲鳴が漏れた。

 ネフシュタンの鎧の少女に狙いを定めた響が、『レーヴァテイン』を振り下ろそうとするのを見て、俺はネフシュタンの鎧の少女の前に躍り出る。

 

「銀ピカ野郎、何のマネだ!?」

 

「響を人殺しに出来るか! さっさと逃げろ!!」

 

 俺のその言葉に、ネフシュタンの鎧の少女が弾かれたように飛び去って逃げていく。

 だがこのまま何もしなければ、『レーヴァテイン』の紅い光の刃はネフシュタンの鎧の少女へと届くだろう。

 

「エルボートリガー、フルパワー!!

 バイタル、フルチャージ!!」

 

 俺は叫びエルボートリガーを全力で起動、キングストーンエネルギーすべてを防御へと廻すと、腕をクロスしてガードを固める。

 そんな俺が感じていたのは、紛れもない『恐怖』だった。

 

(……怖い。 怖くてたまらない!?)

 

 確信を持って言える。あの一撃は俺を、『シャドームーンを明確に殺せる』一撃だ!?

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「響ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 そして、響が『レーヴァテイン』を振り下ろした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……あれっ?」

 

 響が目を覚ます。頭がボーッとして、すべてが霞がかったようだ。

 シンフォギアもすでに纏っておらず、元のリディアン音楽院の制服姿である。

 

(何かが……頭の中が何かに塗りつぶされるようになって、全部吹き飛ばせと思って……)

 

「……響……大丈夫か?」

 

「ノブくんッ!!」

 

 すぐ近くから聞こえた幼馴染の声に、響は飛び起きる。

 SHADOWは響の目の前に立っていた。だが、どこか様子がおかしい。

 SHADOWの両腕は力なくダランと垂れ下がり、そして顔はうつむき加減で猫背気味の前傾姿勢で立っている。

 そして……。

 

「えっ……?」

 

 SHADOWに『線』が入っていた。その『線』はSHADOWの右肩から腰の中央……黒いベルトの中央の緑の輝きにかけて斜めに『線』が入っている。

 いや、これは『線』ではない。

 これは……『傷』だ!

 

「う、おおぉぉぉぉぉ……!?」

 

 響が『傷』を認識した瞬間、耐えられぬとばかりにSHADOWの『傷』から小さな爆発のように火花が散る。

 そして……腰の黒いベルトからひと際大きな爆発が起きるとSHADOWはガクリと片膝をついた。

 ベルト中央の緑の輝きが悲鳴を上げるように弱々しく点滅を繰り返す。

 

「ぐ、うぅ……」

 

「ノブくんッッ!?」

 

 そしてSHADOWの姿から信人の姿へと戻るとそのまま倒れ込みそうになり、慌てて響がそれを支える。その響の手にヌルリと、生温かい感触が触れた。

 

「えっ……?」

 

 呆然と響が自分の右手を見ると、そこはべったりと赤く濡れている。

 それが信人の血だと気づいた響は絶叫した。

 

「いや……いや……いや……!

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 ノブくん! ノブくんっっ!!」

 

 信人の名を泣き叫びながらその身体を抱きしめる響。だが信人からの返事はない。

 

「誰か! 誰かぁ!!

 ノブくんを、ノブくんを助けて!!

 誰かぁぁぁ!!!」

 

 戦いの終わったその場所に響の慟哭がこだまする。

 

「……フフッ」

 

 その様子を了子だけが、どこか恍惚とした表情で見つめていた……。

 




今回のあらすじ

ジョー「怒ってるん?」

393「響は隠し事してること自体は教えてくれたし許す。信人はゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

SHADOW「やっぱ響は流星見に行かせて正解だったな。代わりに俺が死にそうだが」

キネクリ「あたしはバカには勝った。だが393に負けたのだ!」

ビッキー「こういう、『一見なんの効果もないと思っていたキャラの精一杯が、廻り廻って強敵を倒す一手になっていた』っていいよね」

奏「ちなみに作者的にそういうシーンで最高に好きなのは、からくりサーカスの『アルレッキーノ』と『パンタローネ様』らしいぞ」

防人「うむ、特に『パンタローネ様』の辺りは神。基本的にアニメ版にブチ切れていた作者も、暇乞いからのニッコリーネ様まではよくぞ映像化してくれたと大絶賛だ」

キネクリ「作者的には今回のあたしの負けは、空の境界の『荒耶宗蓮』の敗北をイメージしたらしいぞ」

SHADOW「オデノサイフハボドボドダ!
    やっとバイク買ってバトルホッパーをバイクから変形させられる!」

防人「ちなみに月影のバイクは『スズキ Vストローム250』のつもりらしい。これの新車にトップケース・サイドケースのオプション全部乗せ……明らかに高校一年生がする出費ではないな」

SHADOW「BLACK基本だから、スズキ車からは離れられなかったよ。これで旅にでも出たら乾巧っぽいな」

キネクリ「レーヴァテインをこっちにYOKOSE!」

ビッキー「私もーらい!」

レーヴァテイン「お前違う! 暴走しる!!」

ビッキー「アンギャァァァァ!!」

SHADOW「闇落ちのプロ、響さんの暴走コンボだぁぁ!
    このままだと響がキネクリ殺しちゃうし盾になるぞ。
    まぁ、シャドームーンボディだし大丈夫大丈夫……」

ビッキー「ズンバラリン!」

SHADOW「アイエェェェ!? ナンデ、死にかけの大ダメージナンデ!?
    あれヤベェ! マジでヤベェ!?」

奏「おいおい、シンフォギア名物の病院送りが誰も来ないと思ったら……」

防人「まさかその第一号が月影だとは……」

フィーネさん「やたーーーっ!
       なにこの超強い完全聖遺物。レーヴァテインくんサイッコーーー!
       これ手に入れたらもうSHADOWなんて楽勝、私の勝ち確じゃないの!
       あはははは! 勝ったな、風呂入ってくる!!」

キネクリ「……なんか嫌な予感しかしてこねぇんだけど」

防人「……奇遇だな、私もだ」

キネクリ「デュランダルを無かったことにしてまで投入した呪われた『魔剣』……。
     説明する中の色んな所で出てくる『紅い』ってワード……。
     で、『シャドームーンを明確に殺せる』ような力……。
     なぁ、レーヴァテインの正体ってもしかしてサ……」

防人「それ以上は言うな! フィーネがショック死するぞ!!
   夢を見続けることがファンタジーだ、勝利の希望の夢を見させてやれ」

奏「まぁ、真実知った瞬間が死ぬ瞬間だと思うけどな」

キネクリ「(`;ω;´)ゞ 」


393のほうは流星デートのおかげで精神的に安定しました。
覚醒したレーヴァテインで信人が大ダメージを。
凄いですねー、何なんでしょうねー、レーヴァテインって(棒

次回もよろしくお願いします。

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