それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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今回は真面目なビッキーVSキネクリ最終決戦……だと思っているのかぁ?
そのような真面目な文章を書くことはできぬぅ!!
残念ながら恐らく過去最大級のカオス回です。


第17話

 響の想いを乗せた拳が、ネフシュタンの鎧の少女の真芯を捉える。

 

「がはっ!?」

 

 そのあまりの威力と衝撃にそのまま吹き飛んだ彼女は、周囲にクレーターができる勢いで地面にめり込んでいた。

 『完全聖遺物』であるはずのネフシュタンの鎧がボロボロになり、自身もボロボロだ。頭はふらつき視界は歪み、臓腑を掻き回されるような吐き気がする。

 

「なんつぅ威力だ……。 まるで『絶唱(ぜっしょう)』じゃねぇか……」

 

 驚愕し呟いた言葉。だが、それに響が首を傾げながら答える。

 

「えっ、今の『絶招(ぜっしょう)』だけど……」

 

「何ぃ!!?」

 

 響の言っているのは中国拳法における自分に合わせて昇華した技のことで、いわゆる『奥義』という意味での『絶招(ぜっしょう)』だ。シンフォギアの決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』のことではない。

 そもそも、響はシンフォギアの決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』のことを知らなかった。

 まだシンフォギアを纏って1ヶ月たらずの響には危険で、奏や翼も大事にしている妹分に危険な自爆技を喜んで教えるわけがなかった。それに響は幸か不幸か、『誰かが絶唱(ぜっしょう)を使う現場に居合わせる』ということもなかったため、『絶唱(ぜっしょう)』を知る機会がなかったのである。

 しかし『絶唱(ぜっしょう)』と『絶招(ぜっしょう)』、読みが同じことと自身が受けた大ダメージがここで大きな勘違いを発生させる。

 

(こいつ……『絶唱(ぜっしょう)』を歌わずにぶっ放しやがったのか!?

 しかもバックファイアも出ている様子もない……一体どんな化け物なんだよ!!)

 

 彼女はシンフォギアについてはよく知っている。だからこそその決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』の特性はよく分かっていた。

 『絶唱(ぜっしょう)』はそのための特別な歌を必要とする。さらに攻撃とともに余剰エネルギーが使用者すら傷つける。以前あのライブ会場で『絶唱(ぜっしょう)』の使用を決断した天羽奏が死を覚悟したように、それだけのダメージを受けるのが普通なのだ。

 だが専用の歌すら歌わずバックファイアもなく『絶唱(ぜっしょう)』を操る響は完全な『規格外』として彼女の目には映ったのだ。そしてその『規格外』と比較され、劣った自分が捨てられるという未来(みらい)を幻視する。

 人のぬくもりもなく、誰からの助けもなく彷徨う……そんな過去の『恐怖』に押され彼女は立ち上がる。

 フラフラと今にも倒れそうなおぼつかない足元。今追撃を受けたら彼女には対処する術はないだろう。だが響はその間何もせず構えすら解いて待っていた。

 その姿を『見下されている』と認識した彼女は激昂し叫ぶ。

 

「お前、バカにしてんのか! このあたしを、雪音クリスを!!」

 

「そっか……クリスちゃんって言うんだ。

 ねぇクリスちゃん、もうこんなことやめようよ」

 

 だがそんな彼女……クリスの激昂を響は受け流すと手を差し伸べる。

 そんな響に一瞬唖然とするクリスだが、身近なところからのビキビキッという不吉な音と内臓をまさぐられる様な不快感に現実に引き戻された。

 

(マズい、あいつの『絶唱(ぜっしょう)』で受けたネフシュタンの鎧のダメージがでかすぎる。

 このままだと鎧に喰い破られる!?)

 

 大きく破損したネフシュタンの鎧が、修復のためにクリスの身体を蝕み始めたのだ。

 無傷で『絶唱(ぜっしょう)』を使いこなす『規格外』……それを倒すためクリスは自身の本当の『切り札(ジョーカー)』をきる決断する。

 

「吹っ飛べや、アーマーパージだ!!」

 

「ッ!!?」

 

 次の瞬間、ネフシュタンの鎧が粉々に砕け散り、まるで散弾のように響へと襲い掛かる。腕をクロスさせガードする響。

 そこに、『歌』が響いた。

 

 

「Killter Ichaival tron……」

 

 

「この『歌』……まさか!?」

 

「……見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

 そして舞い上がった土埃が吹き飛ばされると、そこには先ほどまでとは違う姿で立つクリスがいた。ネフシュタンの鎧とは違う、赤い装甲を纏ったクリス……それは間違いなく響の纏うものと同じ『シンフォギア』だ。

 

「歌わせたな……教えてやる、あたしは歌が大ッ嫌いだ!

 あたしを歌わせた以上、ここからはテメェは全力で叩き潰すッッ!!」

 

「私だって簡単にやられるわけには!!」

 

 そして響とクリスの第二ラウンドが開始される。

 響の繰り出した正拳をクリスは空中に身を躍らせてかわすと、そのまま両手を響へと突き出す。すると左右の腕装甲が形状を変化させ、2丁のボウガンのような形になってクリスの手に収まった。

 ボウガンから連続して放たれる光の矢を響は身を捻りかわし、距離をとる。

 

「はぁぁ!!」

 

 そこへ追撃の光の矢が殺到するが、それを響は腕の装甲で弾いて叩き落とす。

 しかしその動きが止まった瞬間をクリスは見逃さない。

 3砲身2連装のガトリング砲、それが両手に1基ずつで2基。ボウガンが変形したそれが周囲の空間を切り裂くかのような重低音のヘビィサウンドをかき鳴らし、鋼鉄をも粉々にする鉛玉の暴風を発生させる。

 だがその暴風を前に響は一歩も退かずに構えを取ると、手を円の動きで動かす。ガンガンガンという音とともに、響の周辺にガトリング砲の弾が弾かれていき、響へのダメージはない。

 ボウガンの矢どころかガトリング砲の弾丸すら防ぎきるその見事な防御に、クリスも舌を巻いた。

 

「マ・ワ・シ・ウ・ケ……ちぃ、見事なもんだな!」

 

「矢でも鉄砲でも火炎放射器でもどんと来いだよ!」

 

「ああそうかい! だったらお言葉に甘えて持ってけや!!」

 

 クリスの腰の装甲が左右に展開したかと思うと、そこから大量の小型ミサイルが飛び出した。

 

「ちょっ!?

 矢でも鉄砲でも火炎放射器でもとは言ったけど、ミサイルまで来いとは言ってないよ!!」

 

「知るかよぉ!!」

 

 自身に追い縋る小型ミサイル群にたまらず響は回避にうつる。だがクリスが恐るべき精度でコントロールするミサイルたちは、まるで訓練された軍用犬のごとく響を様々な方向から追い立てる。クリスの見事なオールレンジ攻撃に、ついに響が一発のミサイルに当たる。

 

「くぅ!?」

 

 腕をクロスしてガードしたものの、その衝撃で空中へ投げ出される響。そこに再びミサイルが迫った。

 

(しまった、空中じゃかわせない!?)

 

 空中で2発目のミサイルが爆発し、叩きつけられるように地面に落下する響。そして響が体勢を崩したところに、残ったすべてのミサイルが殺到した。

 爆発が立て続けに起こり、土埃が舞って視界を遮る。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 息を整えながら、それでも油断なく目を凝らすクリス。すると、その視界の先に金属質な輝きが見えた。

 

「盾ッ?」

 

 

「彼氏だッ!!」

 

 

「テメェもかよ!!

  戦場(いくさば)で盛大に惚気てんじゃねぇよ、仮面ライダーSHADOW!!!」

 

 

 クリスの視界の先には、響の盾となり腕をクロスさせてミサイルを防ぎ切っただろう、仮面ライダーSHADOWの姿があったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの後……2人が帰って病室で気持ち悪い顔を晒していた俺のところに、未来からの連絡が入った。その内容は響の前にあのネフシュタンの鎧の少女が現れ、一対一の勝負を始めたという内容だ。

 それを知った俺は、俺に繋がった機器をむしり取るように外すと窓からダイブ、空中でSHADOWへと変身するとそのままバトルホッパーで2人の戦う場所にやってきた。するとちょうど響にミサイルが殺到しているところだったので、慌てて防御を全開にして響を守ったのである。

 ……まぁ、ちょっと勢いに任せたらおかしなことを口走ってしまったわけだが、そこはご愛敬というやつだ。

 

「バカなのか!? 2人揃ってバカなのかよ!?

 このバカップルどもっ!!」

 

 しかし俺の勢いに任せた言葉がどうやらかなり癇に障ったようで、目の前で地団太を踏んでいる響と戦う赤いシンフォギアの少女。

 そんな彼女を尻目に、俺は響に声をかける。

 

「大丈夫か、響?」

 

「ノブくんこそ大丈夫なの!? まだ怪我が治ってないのに……」

 

「なに、響のためならこのくらい……」

 

「ノブくん……!」

 

「だ・か・ら!! いい加減にここが戦場(いくさば)だってことを思い出せよバカップルども!!」

 

 そんな俺たちの様子が気に入らなかったらしく、再び赤いシンフォギアの少女の怒鳴り声が響く。

 

「あはは。 ごめんね、クリスちゃん」

 

「クリス? あのネフシュタンの鎧を着てたやつか?」

 

「うん、あの子の名前。 雪音クリスって言うんだって」

 

 言われて俺は改めて赤いシンフォギアの少女……雪音クリスの方を見る。

 そのとき、力が抜けて俺は片膝をついた。

 

「ぐっ!?」

 

「ノブくん!?」

 

 やはり未だキングストーンが修復されていない状態での戦いは辛いものがある。俺はぶり返す激痛に呻き、そんな俺を響が慌てて支える。

 

「死に体でおねんねしてるところで、女にいいとこ見せようと無理すっからだ!

 この際2人まとめておねんねさせてやるよ!」

 

「ノブくんはやらせないよ!!」

 

 ガドリング砲を構えるクリスの前に割って入る響。だがそんなクリスに俺は不敵に笑いながら答える。

 

「2人まとめて? おいおい、数を数え間違えてるぞ」

 

 その時、クリス目掛けて何から空中から降ってくる。

 

「何っ!?」

 

 クリスが大きく跳びのくとそこに空から降ってきたものが突き刺さった。それは槍と剣だ。

 

「よぉ……会いたかったぜ、ネフシュタンの鎧のやつ!」

 

「2号聖遺物『イチイバル』まで所持しているとは……聞きたいことが増えたな!」

 

 そしてそこに現れたのはその槍と剣の持ち主である奏と翼だ。

 俺はここに来る前に二課にも連絡を入れていた。そして知らせを聞いた奏と翼の2人が駆けつけてくれたというわけだ。

 

 2人にとって忘れもしない2年前のライブで奪われた『ネフシュタンの鎧』を持っているクリスは看過できない相手だ。

 そしてノイズを操るあの杖のような代物……これは奏にとっては、家族の仇の一味かもしれない相手というわけである。そのため、2人はずっとクリスとの対峙を待ち続けていたのだ。

 

「まぁとりあえず話は……」

 

「ベッドでゆっくり聞かせてもらおう!!」

 

「ハッ! のぼせ上がんな人気者ども!!

 全員揃って返り討ちにしてやんよ!!」

 

 奏と翼が構え、それに応えるようにクリスも咆えてガドリング砲を構える。

 一触即発の空気、だがそれを遮るように響が前に出た。

 

「奏さんも翼さんも待ってください!

 クリスちゃんはきっと何か事情があります。ちゃんと想いをぶつけて、分かり合わないといけないんです!

 だからここは私に!」

 

「響……でもねぇ……」

 

「立花がそう言うなら刃を交える敵ではないと信じたい。だがな……」

 

 響の言葉に難色を示す奏と翼。

 

「頼む、響のやりたいようにやらせてやってくれ。

 響は戦うことに迷い、それでも今、前を向いたところなんだ。

 だからここは好きなように最後までやらせてやってくれ」

 

 そんな2人に俺は痛みで片膝をつきながら頭を下げる。

 響は病室に来た時に戦うことに迷っていた。そんな響が迷いを払って、『想いを伝えて手を取りたい』と戦っているのだ。俺としては響の決意をくんで欲しかったのだ。

 

「……後輩2人にそこまで言われて無視できるほどアタシは物分かりが悪いわけじゃないよ」

 

(ともがら)の願い、私はそれを踏みにじるような防人ではない」

 

「ありがとう、2人とも……」

 

 言いたいことはありそうだったが、結局2人は俺と響の意思を尊重し、構えていたアームドギアを下げる。

 その視線は対峙する響とクリスに向けられていた。

 

「で、最初の相手はお前かよ。

 いいのか、そいつらの力を借りなくて?」

 

「うん。 これは私たちが始めたことだから……最後までやろう!」

 

「面白ぇ! そいつらの前の景気づけですぐに沈めてやるよ!!」

 

 響が拳を構え、クリスがガドリング砲の砲口を向ける。

 高まっていく緊張感。だがそれはまったく別のところから破られた。

 

「なっ!?」

 

 突如として上空から、大量の飛行型のノイズが降り注いだ。

 奏、翼がアームドギアを振るいノイズを払いのける。俺もシャドーチョップで迫るノイズを振り払った。

 すわ、クリスの呼んだ伏兵かと思ったが、どうやら違う。

 クリスの構えていたガトリング砲、それが両方ともノイズによって破壊されていたからだ。

 

(仲間割れ? もしくは……口封じで消すつもりか!?)

 

 そのままノイズたちがクリスへと襲い掛かろうとするのを見て、俺は咄嗟に駆け寄ろうとするが、それより早く響が動いていた。

 

「たぁぁぁ!!」

 

 一足飛びでクリスに迫るノイズたちを打ち払う。だが、それでもノイズの数が多い。

 そして響はそのまま自分の身体を盾にしてクリスを守ったのだ。

 

「響っ!?」

 

「お、おい!?」

 

 ダメージで倒れる響をクリスが支え、俺はその傍に駆け寄った。奏と翼は周囲の警戒し、鋭い視線を四方に向ける。

 

「お前何やってんだ、あたしは敵だぞ!?」

 

「それでもクリスちゃんが危ないと思ったら身体が動いてて……」

 

「……余計なことしやがって」

 

 そんな響の言葉に、クリスは言いようのない表情をすると絞り出すように言った。

 そこに、新たな人物の声が響く。

 

「まったく……命じたこともできないなんて。あなたはどこまで私を失望させる気かしら?」

 

 その声の方に視線を向けると、そこには大量のノイズを従えた金の髪の女の姿があった。

 

「フィーネ!」

 

 その女……フィーネの登場にクリスは明らかにうろたえる。そしてダメージを受けた響を俺に押し付けるように渡すとクリスがフィーネに言った。

 

「こんなやつがいなくたって、戦争の火種くらいあたし1人で消してやる!

 そうすればあんたのいうように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

 その言葉を聞きながら俺が思うのは、響の考えは間違ってはいなかったということだ。

 『戦争の火種を消す』……これがクリスの真の願いなんだろう。クリスはそれを利用されたのだ。

 だがそのクリスの言葉を聞いたフィーネは憂鬱そうにため息をついて言った。

 

「もうあなたに用はないわ」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

 フィーネの突然の用済み宣言に、クリスの目に涙が浮かんでいる。

 それほどあのフィーネという女を信用していたのだろう、痛ましい限りだ。

 しかし、同時に新たにクリスから飛び出したキーワードに俺に疑問が生まれる。

 

(『バラバラになった世界』? 一体何のことだ?)

 

 クライシス帝国のせいで『世界がバラバラ』などということはなかったはずなのだが……。

 そこで俺の脳裏にきらめくイナズマが走る!

 

(まさか……まさか、まさか!!?)

 

 そうだ、それなら『世界がバラバラ』というキーワードも説明がつく。

 

 

 

 

(これは……大ショッカーの仕業か!!!)

 

 

 

 

 そうだ、クライシス帝国は仮面ライダーBLACK RXだけに登場したわけではない。その後も登場する機会はあった。

 そのうち、クライシス帝国が『ショッカー』や『大ショッカー』に組み込まれた作品もあったはず。こいつらがその『大ショッカー所属のクライシス帝国』だとしたら?

 そして1つの世界がバラバラというのは……『ショッカーや大ショッカーが世界支配を完了し悪によって世界が1つになった状態が、仮面ライダーによって崩されたこと』と捉えるのならどうだ?

 

 悪による世界征服が完了した世界は確か映画作品でいくつかあったはずだ。だがそれはすべて仮面ライダーたちのおかげで崩され正しい歴史の流れに戻された。

 だが、歴史と世界は1つではない。世界は数多くの可能性を内包し、『リ・イマジネーションの世界』という形で分岐することを俺は仮面ライダーの知識でよく知っている。

 『ショッカーや大ショッカーが世界支配を完了し悪によって世界が1つになった状態が、仮面ライダーによって崩されたこと』によって多くの可能性を内包した『リ・イマジネーションの世界』に分かれたとしたら……この世界はそうして生まれた『仮面ライダーのいない世界』の一つなのかもしれない。

 

 そして『バラバラになった世界を元に戻す』というのは……『大ショッカー残党が再び複数の並行世界に干渉し、世界を一つに征服しようとしている』ということなのだとしたら!?

 

 俺は大ショッカーの幹部と思われる女……フィーネに向かって言った。

 

「フィーネ……(大ショッカー残党という)過去の亡霊が、今に蘇って何を企んでいる?」

 

「何っ!?

 この私が(先史超文明期の巫女という)過去の亡霊だと?

 貴様、一体どこでそれを知った!?」

 

 俺の言葉に、フィーネは明らかに驚愕の表情を見せる。やはり俺の考えは正しかったらしい。

 しかしそうなると、大ショッカーの残党だと指摘しただけでのこの驚き様と、怨敵である『仮面ライダー』を名乗る俺に襲い掛かるなりで今まで接触がなかったのが少し気になるのだが……?

 いや、それ以前に『大ショッカー』の大首領格である『シャドームーン』の姿を見て、俺に対してアクションがないのがおかしいか。

 

 とはいえシャドームーンの大首領への就任は、シャドームーンが本性を隠し続け土壇場で仮面ライダーディケイドを追い落としてのいわゆるクーデターのようなものだし、その直後に仮面ライダー軍団によって大ショッカーは壊滅させられたわけで、シャドームーンの存在は大ショッカー内ではそれほど認知されていなかったのかもしれない。特に『フィーネ』なんて名前は聞いたことがないから末端レベルだろう。それなら新大首領であるシャドームーンの姿を知らないのも頷ける。だから『仮面ライダーの名を騙る偽物』と思われ捨て置かれたのだろう。

 

「すべてはこの力(仮面ライダーの知識)が教えてくれているだけだ。

 だが一つ確かなことは……(大ショッカーの支配による世界統一という)貴様のたくらみは必ず阻止してみせるということだけだ!」

 

「ほぅ……(統一言語を取り戻し、人と人、神と人が相互理解出来ていた時代に戻す)私のたくらみを阻止すると?

 そう言うか、仮面ライダーSHADOW!!」

 

 そう言って手にした杖が光を放ち、さらに大量のノイズを呼び出す。

 

「……ふん、貴様への興味は尽きないが今は優先すべきことが違う」

 

 するとフィーネに向かって小さな青い光たちが集まって行った。

 その正体を『マイティアイ』を起動させた俺は悟る。

 

「それは……『ネフシュタンの鎧』か!」

 

 その粒子はクリスの破棄した『ネフシュタンの鎧』だ。

 

「計画はすでに最終段階に入った。 何者にも邪魔はさせない!

 当然仮面ライダーSHADOW、貴様にもだ!」

 

 そう言ってその大量のノイズを俺たちに向けてけしかけてくる。

 

「待てっ!!」

 

 迫るノイズをシャドーチョップで薙ぎ払うが、もうすでにそこにフィーネの姿はない。すでに逃げた後のようだ。

 すぐにでも後を追いたいところだが、これだけのノイズが住宅地にでも雪崩れ込んだら大変なことになる。今はノイズが先だと、俺も響も、奏も翼も構える。

 だがあまり状況はよく無い。俺は戦闘能力が4分の1ほどにまで下がっているし、響はクリスとの戦いとクリスを庇ったときのダメージでフラフラだ。実質万全なのは奏と翼だけという状態である。

 これでは殲滅に時間がかかり一般市民への被害も考えられる……そう思った瞬間、俺たちの後ろから攻撃的な歌声が響く。同時に無数のミサイルとガドリング砲の弾丸が大量のノイズを一気に吹き飛ばした。

 クリスの攻撃だ。その攻撃でもうもうと立ち上る土煙で視界が遮られた中で声が響く。

 

「融合症例……いや、立花響(バカ1号)

 これでさっきの貸し借りはナシだ!」

 

 どうやら先ほど響に庇われた借りを返したらしい。ほぼ同時にクリスの気配が遠ざかって行くのでどうやら撤退したようだ。

 残ったのは、先ほどよりはかなり数を減らしたノイズたち。

 

「このぐらいならアタシ達だけで十分だ!」

 

「2人はここで休んでいてくれ。

 防人の剣は、この程度の数に後れをとることはない!!」

 

 

『LAST∞METEOR』

 

『千ノ落涙』

 

 

 奏の槍の穂先が回転して生み出された竜巻がノイズたちを消し飛ばし、翼の生み出した大量の剣が空からノイズを串刺しにする。その猛攻を前に一気にノイズの数が減った。

 そして残ったノイズに果敢に飛びかかる奏と翼。

 10分ほどで最後のノイズも砕け散り、静寂が戻ってきた。

 

「一応、終わったね……」

 

「ああ……」

 

 ホッと息をついての俺に寄りかかっていた響の言葉に、俺は頷く。

 

「クリスちゃんは……次に会う時にはどうなっているのかな?」

 

「さぁな。 ただ……響の伸ばした手は絶対に無駄じゃない。それだけは断言する」

 

 あの戦闘でクリスの雰囲気は確かに変わっていた。

 『戦争の火種をなくす』という想いや、最後に響に借りを返すと手を貸してくれたりと、俺ももうクリスのことは『敵』とは思えないでいた。

 だからこそ、フィーネに『用済み』とされてしまった彼女の行方は心配である。そんな俺たちのところに奏と翼がやって来た。

 

「大丈夫かい?」

 

「おかげさんで俺も響も無事さ」

 

 奏と翼に差し出された手を握り、俺と響は立ち上がる。

 

「信人……今さっきのフィーネとか言うやつとの会話はなんだい?」

 

「……詳しいことは俺にも分からない、言ったようにこの力(仮面ライダーの知識)がそう教えてくれているだけだ。

 俺の力とあのフィーネという女には、何か関係があるんだろうさ」

 

 さすがに『前世』という話はできないので、この力のせいだとお茶を濁す。奏も少し不満そうながら納得したように頷いてくれた。

 

「『ネフシュタンの鎧』に『イチイバル』、そして大きな企て……より一層の調査をする必要があるわね」

 

 翼の言葉に全員が同意するように頷く。

 実際、これが『大ショッカー』の多数の並行世界を支配するため作戦なのだとしたら、俺が当初思っていた以上の大事件だ。本来ならば複数の仮面ライダーが力を合わせて戦うような案件である。

 だが、この世界に『仮面ライダー』を名乗るものは俺しかいない。その俺も今はその戦闘能力が激減している。

 だからといって他の並行世界から『仮面ライダー』が救援にくる……そう考えるのはいくらなんでも楽天的すぎた。

 俺が、いや俺と二課のみんなだけで戦って勝つしかないのだ。

 思わず隣にいた響を抱き寄せる。少し驚いた顔をした響だが、すぐに力を抜いて俺に身を預けてくれた。

 

(だがどんな状況だろうと負けてたまるか。 響や、俺の大切な者を守るために!!)

 

 響の体温をシルバーガードの装甲越しに感じながら、俺は決意を新たにした……。

 

 

 ……ちなみに、俺と響が付き合い始めたことは一発で奏にバレ、しばらくの間からかわれ続けることになったのだった。

 




今回のあらすじ

キネクリ「ブレイクゲージシステム採用してなかったら即死だった……。
     つーかマジで『絶唱』みたいなことをしよる」

ビッキー「え、今の『絶招』だよ?」

キネクリ「なにぃ!?(バックファイアなしで『絶唱』ブッパとかどんだけ化け物だよ。これ連れてったらあたしお払い箱確定だわ)」

ビッキー「? (このOTONA塾に1年以上鍛えられた私が『絶招』にまで至ってないだろうとかナメてんのかな?)」

奏「なんというバカなすれ違い……つーか、アタシも翼も『絶唱』やらなかったのはこんなバカなネタのためかい……」

防人「こうやってお互いに勝手に勘違いしてそのまま話進めるから、人類同士の争いって無くならないんだろうなぁ……」

キネクリ「イチイバル解放!
     お払い箱の恐怖が完全に現実化したんで、ちょっとマジでブッ潰すわ!!」

ビッキー「マ・ワ・シ・ウ・ケ……矢でも鉄砲でも火炎放射器でも持ってこいやァ!!」

奏「で、また妹分が人間やめちゃった件について。
  いやマジでどうしてこうなった?アタシのことを慕って後ろからチョコチョコついてくる可愛い妹分はどこ行った?」

防人「そんなの初めから奏の脳内にしかいないから。いたのは最初からゴリラゴリラの化身だけだったから。
   でも『烈海王+李書文先生+愚地独歩』とか一体どんな悪魔合体事故を起こしたら出来上がるのよ。悪魔将軍か何かなの、あの娘……つーかガドリング砲を廻し受けって……」

OTONA「飯食って映画見て寝るッ! これだけで案外簡単に出来るぞ」

奏・防人「「できねぇよ!!」」

キネクリ「お言葉に甘えてミサイル全弾発射!」

ビッキー「これには流石に功夫が足りない……」

奏「足りれば何とかなると申したか……(困惑)」

キネクリ「盾?」

SHADOW「彼氏だ!!」

防人「で、また私の見せ場が減ったぞ。
   剣だ× 彼氏だ○ とか……完全に今回の『これが言わせたかっただけだろ』だな」

SHADOW「響のためだったら怪我とかそんなの完全無視ダゾ♡」

ビッキー「ノブくん♡」

キネクリ「……このバカップルを思いっきりぶん殴ってやりたいんですけど構いませんね!!」

奏・防人「「海軍は陸軍の提案に賛成である!」」

奏「でもその前にアタシらも到着したんでお前ちょっと囲んで棒で叩くわ」

キネクリ「コワイ!」

ビッキー「あ、まだお話(高町式)の最中なんで私に譲って下さいね」

防人「アッハイ」

フィーネさん「ここで満を持して私参上よ!」

SHADOW「ぬぅ……何だかクライシス帝国じゃないっぽいぞ。これは一体……?」

フィーネさん「そうよ! やっと分かってくれたのね!
       そう、すべてはこのフィーネの……」

SHADOW「なるほど。 これは……大ショッカーの仕業か!!」


【悲報】フィーネさん大ショッカー認定される


フィーネさん「どうしてそうなるのよぉぉぉぉぉぉ!!」

奏「えーと、今までを纏めると……」


ゴルゴムの幹部『フィーネ』

クライシス帝国怪魔妖族大隊所属の『フィーネ』

大ショッカー残党の『フィーネ』←今ココ


奏「……なんだこの出世魚みたいなのは? たまげたなぁ」

防人「スーパーアポロガイスト並に色んな組織を渡り歩いてるな。
   すごいなーあこがれちゃうなー(棒)」

SHADOW「(大ショッカー残党という)過去の亡霊め……」

フィーネさん「私が(先史超文明期の巫女という)過去の亡霊だと知っている、だと……!?」

奏「で、奇跡的なことに致命的な勘違いがまた広がっているんだが……」

防人「……人類から争いが無くならない理由がよく分かった」

キネクリ「お前らを助けるんじゃなくて借りを返すだけだからな!」

ビッキー「ツンデレ頂きました。
     やっぱり人は分かり合える(主に拳で)!!」

奏「……ここは修羅の国か何かかい?」

SHADOW「ついに黒幕の大ショッカーが現れたか……。
    本当なら仮面ライダー集結して当たるような、並行世界をまたぐような大事件だったことにちょっと俺もびっくりだ」

フィーネさん「むしろ私の方がびっくりしてるんだけど? その何でも仮面ライダーの敵の仕業にする重篤なライダー脳患者はなんとかならないの?」

SHADOW「仮面ライダーがライダー脳以外で動けるとでも?
    393とか友達や家族いるし、響がいるからどんな敵でも負けないぜ、マイハニー♡」

ビッキー「やーん、ダーリンステキ♡」

奏・防人・キネクリ・フィーネさん
((((……このバカップルいつか助走つけて全力でブン殴ろう……))))

統一言語が無くてもみんなの心が一つになった瞬間であった……。



人はこうして勘違いを繰り返し、要らぬ争いを繰り返すんだろうなぁ……(達観)。

次回もよろしくお願いします。

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