それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第1話

 突然だが、俺こと月影信人はいわゆる『転生者』である。

 だがいつどうやって死んだとか、前世の名前はとかはまったく分からない。気がつけば赤ん坊として泣き声を上げていたという状態だ。

 だが、自分に前世があったというのだけは確信を持てる。それを裏付けるように記憶には『仮面ライダー』と呼ばれるヒーローたちの物語や物事が存在していた。

 動けるようになって調べたが、この世界には『仮面ライダー』という単語は物語にも都市伝説にも存在していないのだ。それを知っているというのは、自分という存在が普通ではないという証拠である。まぁもっとも、産まれたばかりの赤ん坊の状態から完全に自我がある段階で普通でないことは確定なのだが。

 

 とにもかくにも俺は『転生者』なわけだが、『だからどうした?』といえばそれまでだ。漫画じゃあるまいし特別な使命を背負った子、なんて話は両親やら親戚の会話で今まで聞いたこともない。うちはごくごく一般的な家庭だ。

 俺にあるのは『仮面ライダー』と呼ばれるヒーローたちの物語だけ。むしろ誰も知らない『仮面ライダー』たちの物語を知ってるなんてお得だね、程度にしか思っていなかった。最初は……。

 

 で、世の男というのには必ず通過儀礼というものがある。ヒーローへの変身願望……つまり変身ごっこ遊びだ。

 当然俺も男なわけで当時3歳になった俺はさっそく、この世界で自分だけが知っている『仮面ライダー』の変身ポーズをとって見たんだが……本当に変身できてしまったのである。あの時は両親不在の時で本当に助かった。

 

 鏡の中にうつるのは変身前の3歳の自分とは似ても似つかない、2m近い背格好の姿だ。

中身である俺を無視して、完全に仮面ライダーの姿に『変身』し、声すら変わっている。

 だが……。

 

「なんでシャドームーンなの? BLACKの変身ポーズやったんだけど」

 

 『シャドームーン』……それは『仮面ライダーBLACK』、そして続編である『仮面ライダーBLACK RX』に登場したライバルキャラ、史上初の『悪の仮面ライダー』である。

 その力は絶大で、しばしば最強ライダー論争で名前のあげられる『仮面ライダーBLACK RX』とも互角以上の戦いを繰り広げるなど、『チートのライバルは当然チート』な存在であると同時に、悪のカリスマ性に富んだダークヒーローとして下手をすると主役ライダーよりも人気のある存在だ。

 鏡では白銀のボディに緑色の眼を持つ姿が肩を落としていた。間違いなく鏡にうつるシャドームーンは俺である。

 

「……これ、どうやったら戻るんだ?」

 

 嫌な予感がしたものの、変身を解除したいと心の中で願うと割と簡単に変身が解けてくれた。

 ホッと安堵の息をつく俺。

 

「もしかして、他にも変身出来るんじゃ……?」

 

 気になった俺はさっそく片っ端から変身ポーズをとって見たものの、変身出来たのはシャドームーンだけだった。

 シャドームーンに文句があるわけじゃない。むしろシャドームーンは一番好きなくらいだが、だからといって他が惜しくないわけでもなく少し肩を落とす。

 そんな俺の肩に背後から何かが飛び乗ってきた。

 

「うわっ!?」

 

 シャドームーンの姿と声で情けない悲鳴を上げてしまった俺が見たのは、何やらバッタ型のオブジェのようなもの。

 

「んー……ホッパーゼクター?」

 

 感覚的にはそれが一番近い。色はパンチホッパー側の茶色と灰色だ。

 そんなホッパーゼクター(仮)はどこからともなく現れると、そのままついて来いとでもいうように跳ねだす。

 その後ろについていくと、庭に出た。ご近所様にこの姿が見られたらとビクビクしながらホッパーゼクター(仮)を眺めていると、ホッパーゼクター(仮)が庭に転がっていた三輪車に飛びつく。

 すると何と三輪車が光とともに形を変えていき、そして……。

 

「嘘だろ……」

 

 目の前に鎮座しているのはバッタを模したバイク。

 

「お前……バトルホッパーか?」

 

 その言葉にうなずく様に目の部分を点滅させる。

 カラーリングは灰色と茶、それに目の部分は緑とシャドームーン専用っぽくなっているものの、その形状は間違いなくバトルホッパーだ。

 

「つまり……お前がくっついた乗り物はすべてバトルホッパーになるってこと?」

 

 またもうなずく様に目を点滅させると、光とともに三輪車とバトルホッパーが分離する。こいつゴウラムみたいになってるな。まぁ、三輪車をバイクにするとか強化どころの騒ぎじゃないからゴウラムってのも厳密には違うけど。

 ホッパーゼクターっぽい外見でゴウラムっぽい特性を持ったバトルホッパーって、どんなごった煮なんだ?

 というかそれ以前に三輪車に乗るシャドームーンって……ああ、『マイティライダーズ』で乗ってたなそう言えば、と現実逃避ぎみに考える俺はもうすでに理解力がキャパシティーオーバーをしていた。

 

 時間をかけて色々と状況を呑み込んで分かったことは次の通り。

 

 

1、シャドームーンに変身できる

 

2、ホッパーゼクターのように呼べば空間を超えてどこへでも現れるバッタ型オブジェで、どんな乗り物でもバイクに変化させるバトルホッパー

 

 

 というところだ。

 1に関してだが、これは俺の知っている仮面ライダーに出てくるシャドームーン同様の能力があると、感覚的にだがわかる。腰の辺りに力の源である『キングストーン』の存在も明確に感じられる。どうやら今まで気付かなかっただけで『キングストーン』は最初から俺の中にあったらしい。それが覚醒したようだ。

 

 2に関しても無茶苦茶。三輪車がバトルホッパーに変わるのも頭を抱える光景だが、廃車場にあった大型トラックまでバトルホッパーに変形した。もう物理法則さんが息をしていない、あまりの無茶苦茶さである。

 

 自分には恐るべき能力が隠されていたことが分かったわけだが……「じゃあ、どうするの?」と言われても正直、反応に困る。

 いくらシャドームーンだからってこの力で何か悪事をとは考えられないし、日常生活にはあまりに過ぎた力だ。使いどころがない。

 せいぜいたまに一人コスプレを楽しもう……その程度に考えていたのだが、その考えはそうかからずに改めることになる。

 人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害―――ノイズの存在である。

 

 空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃。人間の行使する物理法則に則った一般兵器ではダメージを与えられず、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させ、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ異形の怪物。その有効な対処法は『逃げる』ことだけだ。

 

 そんな神出鬼没の怪物であるノイズなのだが……俺はノイズの現れる気配を何となく察知することができた。さらにキングストーンの力なのだろうが、変身したシャドームーンならば本来ダメージが与えられないはずのノイズを容易く葬ることができる。

 ならば、と俺はノイズと戦うことを選んだ。

 

 正義感もあるし、誰かのためになるならという気もある。無論俺もすべての人々を救えるなど思ってはいないし、シャドームーンの力で戦うのを楽しんでいる一面も否定しない。

 戦いを決めた理由はちょっと一言では言い表せないくらい複雑だ。だがその中に『恐怖心』があることは否定しようもない。

 俺は転生してからの今の生活に満足している。両親も出来た人だし、周りにいるのも気持ちのいい人ばかりだ。

 自分が何もせずに、もしノイズの被害がそんな自分の身近な人に及んだら……そう思うと『怖い』のである。

 シャドームーンの姿をしながら、『怖い』という理由で戦うなんて何とも情けない話だが、それが俺の限界である。

 だから後悔しないようにやれる限りのことはやろう……そう考えてノイズとの戦いに身を投じて早数年、というのが今の俺の状況である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁ!!」

 

 腕を振り回すように水平チョップ。エルボートリガーのエネルギーも加わり凶悪な威力のそれがノイズを吹き飛ばす。

 

「シャドービームッ!!」

 

 遠くで人を追おうとしていたノイズの集団に、キングストーンのエネルギーを左手に集め放つ。稲妻のように枝分かれした緑の破壊光線はそのままノイズの集団を蹴散らした。

 十分、避難する人とノイズの距離は稼いだ。あとはいつも通り薙ぎ払う。

 

「バイタルチャージ!」

 

 構えてそう叫ぶと、キングストーンのエネルギーが全身を駆け巡り、右手に収束する。

 

「シャドーパンチッ!!」

 

 飛びあがってからノイズの中心に拳を叩き込む。するとエネルギーの余波でノイズたちは粉々に吹き飛んでいった。

 

「……」

 

 ノイズとの戦いが終わりいつものようにバトルホッパーで戦場を去ろうとすると、男の子と目が合う。震える母親に抱かれた5歳くらいの男の子は満面の笑みでこう言った。

 

「ありがとう、仮面ライダー!」

 

「……」

 

 俺はそれに静かに頷いて返すと、バトルホッパーを発進させる。

 ノイズと戦い続けて数年、俺はノイズとの戦いでは『仮面ライダーSHADOW』を名乗っていた。そのせいで『仮面ライダー』という単語が都市伝説くらいには知られるようになっている。世間では、『ノイズを倒して人を助ける謎のヒーロー』くらいにかなり好意的に受け入れている。

 正直に言えば奇妙な化け物呼ばわりや、石を投げつけられるくらいはあるかと覚悟していたので嬉しいことだが……どうも作為的なものを感じるのは気のせいか?

 

 何故俺が『仮面ライダー』を名乗っているのかというと、これは自分への戒めのためだ。

 俺は本家本元の仮面ライダーのように、『正義の味方』ができるとは思っていない。身近な何かを救う程度がせいぜいの器だろうと自覚している。だが『仮面ライダー』を名乗る以上その名を汚すようなことはしないよう精一杯をしよう、という自己流の誓いである。

 

 しかし……バトルホッパーを走らせながら考えるが、このシャドームーンの力は本気でヤバい。ノイズなど物の数ではない圧倒的な戦闘能力だ。しかもそれを完全に使いこなせている。

 産まれてこのかた格闘技などの経験のない俺が、変身をするとまるで最初から戦う術を知っているかのように身体が動くのだ。何と言うか、ここまでくると半自動のロボットに乗っているような感じだ。

 だがシャドームーンの凄さは単純な戦闘能力だけでなかった。むしろ、キングストーン『月の石』の与える数々の能力が凄い。大きなところでは回復能力だ。

 シャドームーンは月光を浴びることで死んでも蘇ったが、同じように夜になると回復力が爆発的に跳ね上がる。たまに戦いで手傷を負うこともあったが一晩で傷跡すら残らない完全回復をしているし、ここ数年ノイズとの戦いで不規則な睡眠時間になっているが、身体が疲れることは一度もなく、産まれてこのかた病気にもかかったことがない。睡眠をとらなかったとしても疲労もなく、常にベストコンディションを維持している。

 他にも列挙すればきりがないくらいにキングストーン『月の石』の力はすごかった。まさしくチートである。こんなシャドームーンの互角以上に強い『仮面ライダーBLACK』と『仮面ライダーBLACK RX』がいかにチートか間接的によく分かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 いつものように人気のない裏路地で変身を解除し、バトルホッパーをバイクから通学用ママチャリに戻して表通りを歩きながら、俺はノイズたちのことを考える。

 

(奴らは明らかに人工物だった)

 

 シャドームーンの持つ分析透視能力『マイティアイ』でノイズを分析してみたが、あれは生命ではなく、何らかの目的があって何者かに造られた『人工物』であることが分かっている。

 

(だとしたらノイズの裏にいる何者かとは一体……?)

 

 だが思考は一瞬で終わった。

 シャドームーンである俺の存在。そして人類を襲う正体不明の異形の人造怪物であるノイズ。この二つの事実から、俺は即座に真相にたどり着いたからだ。

 

「なるほど、ゴルゴムの仕業か!」

 

 おそらくこの世界にはどこかに『暗黒結社ゴルゴム』が存在し、ノイズは奴らの使役する戦闘員のようなものなのだろう。実際、戦闘能力としては怪人のほうが遥かに強く、ノイズは簡単に倒せる程度の耐久力だ。だが、それは俺にとっての話である。

 個ではなく集団、しかも突如として現れ対抗手段もなく無差別に人を襲うなど、怪人よりもタチが悪い。『人類皆殺し作戦』とか、そういうゴルゴムの作戦なのだろう。間違いない。

 

「おのれ、ゴルゴムめ!」

 

 ゴルゴムがいるのなら、黙って見過ごすわけにはいかない。奴らの行いは確実に世界を暗黒に変える。そうなれば確実に俺の身近な人々が害を受ける。それが怖い。ならばやるしかないだろう。

 俺はまだ姿を見せぬゴルゴムに闘志を燃やす。

 

「しかし、そうなるとブラックサン……仮面ライダーBLACKもこの世界にいるのか?」

 

 それが気がかりだ。もしゴルゴムにいて敵だとすると最大の脅威になるだろう。

 だが、何となくだが俺の中のキングストーンが『違う』といっているような気がするし、そんな気配も感じない。ブラックは俺のようにキングストーンがまだ覚醒していないのかもしれない。

 

「原典のように戦う気は俺にはないし、共闘できたら心強いんだが……」

 

 そう呟いて俺は帰り道を急ぐ。

 中学生には学業も大事なのだ。帰って勉強しないと中間試験で酷いことになってしまう。

 学生と仮面ライダーの両立は中々に難しいのだった。

 




SHADOW「正義の味方として認知されて嬉しいんだが……何だか作為的な感じがするぞ」

OTONA「いつでも味方になれるように、情報操作で好印象にしておいたからな!」

SHADOW「なんという厚いお・も・て・な・し。
     それにしてもノイズを使い人々を襲うゴルゴムめ、ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!」

フィーネ「ファッ!?」

いわれないゴルゴム認定がフィーネさんを襲う。

次回もよろしくお願いします。

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