それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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お正月特番編 第05話

『いい話と悪い話、どっちから聞きたいって言われた時』

『あれほとんどは結局悪い話になるよね』

 

 

 

 1939年8月初頭。

 クライシス勢力との戦い……全世界規模で凶報が飛び交う中、その日は久しぶりに人類に朗報が舞い込んできた。

 アフリカ大陸で猛威をふるっていた『荒廃文明』、さらにバルカン半島を恐怖のどん底に叩き込んだ『融解文明』……人類はこの2勢力の制圧に成功したのだ!

 人類は負けない……そんな大いなる希望を抱ける大きなニュースだった。

 

 

「アフリカは補給のせいで予想以上にグダグダしたな……。

 バルカン半島の方ももう少しスムーズに行くかと思ったが……攻めきれずに結局、クリスと未来からドイツの機甲師団の一部に増援に来てもらったり、切歌と調の機転でイタリア海軍の戦艦『リットリオ』と『ローマ』の艦砲射撃で沿岸部で援護してもらったりで何とか制圧か……。

 やっぱりみんなで勝ちに行くんだし、俺一人でいろいろ考えてもダメだな。

 少し反省だ、こりゃ」

 

 未だ続く『停止文明』との本土解放戦争の最中、そんな話をウィンドウ越しにみんなとしている信人。

 『崩壊文明』から見れば格下とはいえ、2勢力を制したことで仲間たちで口々にお祝いを言う。

 そして一しきりそんな話をし終わった後に、信人は言った。

 

「で、いい話はここまでにして……また新しい予兆イベントがあったな」

 

『『アマゾンという大森林の奥地で、ダーウィンの説を根本から否定するかのように異常な生物が生まれようとしていた……』か……。

 こりゃ明らかに次の発生地点は南米だろうな』

 

 クリスの言葉に誰もがうんうんと頷く。

 

『ということは私たちアメリカの出番ね!』

 

 そう言ったのはアイドル大統領閣下マリアである。何の根拠もないが何故か自信満々だ。

 

『とりあえずですがかなりの質の陸軍をそれなりの量は準備できました。

 これなら不測の事態にも対応は出来るはずです。

 足りなければ爆撃機で叩きます』

 

 一方のセレナの言葉は経験者だけあって頼もしい。

 

「うちのアフリカ戦線で戦った1個軍を増援に送ろうか?」

 

『大丈夫、新大陸の戦いは任せておきなさい!』

 

 信人は増援を送ろうかと言うがマリアはそれをやんわりと断る。

 

「それじゃアフリカ戦線の部隊はイタリアのシチリア島に陣取ってる『消失文明』戦線の増援に送るよ。

 こいつでアフリカ側から強襲上陸をかけるから同時に攻撃して『消失文明』にトドメをさそう。

 あとバルカン半島の『融解文明』と戦った1個軍は……」 

 

 その言葉に、奏と翼が反応する。

 

『その戦力、出来ればソ連(アタシら)の増援にくれないか?』

 

『そろそろウラル山脈周辺まで追い立てられている。

 正直、かなり厳しい。このままだとヨーロッパ平原にまで敵の突破を許してしまうぞ』

 

「わかった、そういうことならバルカン半島の1個軍はソ連の増援に送るよ」

 

『あたしたちからも増援を送る』

 

『機甲師団をいくつか見繕っておくね』

 

 奏と翼の危機に、信人とクリス、そして未来は増援を決める。

 その時。

 

『北側の敵はまだそんなに強いんデスか?

 最近はイラン高原の方では敵の攻撃は散発的になってきたデスよ』

 

「……なんだって? それは本当か?」

 

 何気なく言っただろう切歌の言葉に信人は聞き返す。

 

『本当だよ兄くん、最近は空も陸も全然攻めてこないの』

 

「……これはもしかしたら……」

 

 それを聞いて考え出す信人、やがて……。

 

「なぁ切歌、調……攻勢、できるか?」

 

 そう聞いた。

 

「恐らく一番厄介な『崩壊文明』の主力は今、北部方面にいるんだろう。

 なら西のイラン高原、南のインド南部、東の東南アジア・中国の3つの戦線で同時に攻勢に出れば北部の主力を廻すしか無くなる。

 そうなれば北部の敵が減って……」

 

『先輩たちの助けになる、デスね!』

 

『大丈夫、私たちのイタリア軍は行けるよ!!』

 

「分かった、こっちのインド戦線と東南アジア・中国戦線も攻勢の準備に入る。

 準備ができ次第始めよう!」

 

 かくして『崩壊文明』に対して守勢に回っていた人類が攻勢に出ることが決定したのだった。

 

『で、話は変わるけどそっちの『停止文明』戦線はどうなんだい?』

 

「もう四国は解放した。あとは九州と南朝鮮方面だけだ。

 アラビア半島に援護に行っていた海軍艦隊の一部を呼び戻して、援護してる。同時に、各地の航空隊もいくつか呼び戻して爆撃し続けてる。

 最初から地の利はこちらにある。制空権を完全に握り、絶え間ない陸・海・空の同時攻撃で敵はもうボロボロの状態だ。

 ヤツラはもう電子レンジに入れられたダイナマイトだ。メガ粒子の閉鎖空間で分解してやる」

 

『メガ粒子とか全然関係ないよね、ノブくん』

 

 

 1939年8月29日、自転車部隊の奮戦により大日本帝国は『停止文明』の殲滅に成功。

 日本本土決戦は人類の勝利で幕を閉じた。

 そして、9月中旬に予定される一斉反抗作戦『星一号作戦』に向けてイラン高原でイタリア軍が、インド南部と東南アジア・中国方面で大日本帝国軍が準備するそんな最中の1939年9月10日……。

 

 

「緊急連絡! 新たな敵勢力『昏睡文明』が現れました!!

 場所は……スイス『チューリッヒ』です!!」

 

「「南米じゃなかったのかよ(なかったの)!!?」」

 

 

 信人と響の叫びが執務室に木霊した。

 

 

 

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『最強の兵器など存在しない』

『しかし最良の戦術は存在する』

 

 

 

 1939年9月10日……。

 

「おい、南米じゃなかったぞ!」

 

『まさかドイツ国内に来るなんてな……』

 

『またすぐ近くに敵が湧いたデスよ……』

 

『もう嫌ぁ……』

 

 信人の言葉にクリスはどうしたものかと考え、切歌と調は頭を抱える。

 イタリアにとっては工業地帯で生命線とも言える北部イタリア、その隣接する先に敵が現れたのだ。下手をすれば首都ローマ近くを攻められたときよりマズい状況である。

 

「……強襲上陸で『消失文明』にトドメをさすつもりだった大日本帝国(うち)の元アフリカ戦線軍、そっちに廻すか?

 今アフリカの北部沿岸に来てるから輸送船ですぐだぞ」

 

『……ううん、大丈夫。 信人は予定通りに大反抗作戦『星一号作戦』と『消失文明』の殲滅の方をお願い。

 新しく現れた『昏睡文明』は、ドイツ軍で相手をするよ』

 

 信人はそう提案するもののそれを未来が断る。

 未来は慎重な性格で、決して自信のないことは言わない人間だ。それをよく知る信人は頷く。

 

「策があるんだな?」

 

『もちろん。 間違いなく勝つよ』

 

「わかった。 そこまで言うんなら未来に任せる」

 

 そう言って信人は通信を切った。

 

 

 

 

 

 

「なぁ未来、本当に大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「その自信、どこから来るんだよ……」

 

 執務室で不安そうなクリスに未来は自身を持って答えた。クリスはその自信の源を問う。

 

「実はね、敵の『昏睡文明』の部隊編成が分かったの」

 

 そう言って見せられた情報、それは……。

 

「き、機甲師団約60個師団以上!?」

 

 相手の編成は軽戦車や中戦車の機甲師団のみで編成された勢力だったのだ。

 戦車大国のドイツ陸軍でさえ、機甲師団の総数は30個師団いかない。その倍以上の数だという。

 

「おい、こんなの増援を貰わないとマズいだろ!?

 ……今から国外に増援に行ってる機甲師団を呼び戻すか?」

 

 機甲師団の強さをよく知るクリスは青い顔で言うが、未来は首を振った。

 

「機甲師団は要らない。 今回は空軍と……陸軍は歩兵だけで戦う」

 

「はぁ!?」

 

 クリスはもう訳が分からなかった。

 ドイツ機甲師団はいくつもの歩兵師団を叩いてきた。歩兵は戦車に弱い、そのはずだ。そういう戦いを今までしてきた。

 なのにドイツの倍以上の大機甲軍団に、陸上戦力が歩兵だけでどう戦うというのか……?

 そんなクリスを諭すように、未来は言う。

 

「クリス……戦車は『強いけど、弱い』の。

 条件がそろえば強いけど……条件さえ揃わなければどうとでもなるんだよ」

 

 そう言って未来は地図を広げた。

 

「クリス、よく敵の居る地形を見て。

 スイス周辺はすべて山岳地帯なの」

 

 言われる通り、敵の支配地域は山岳地帯だ。

 

「山岳地帯は戦車の天敵、戦車の能力はまったく発揮できないよ。

 逆に、こっちの歩兵隊の中には山岳戦闘のプロである『山岳兵』の師団が結構いる。

 それに機甲師団の戦闘可能時間は極端に短い。*1

 おまけに敵の支配地域が狭いから全周を包囲することが出来る。

 これだけの条件が揃えば全周からの包囲波状攻撃と、あとはありったけの近接航空支援機からの爆撃をすれば簡単に殲滅できるはずだよ」

 

 

 果たして、未来の言葉は的中した。

 平野では歩兵などものともしない機甲師団が、まるでその能力を発揮することができずに次々に歩兵と山岳兵によって撃破されていく。

 もし他の場所に現れていたら厄介だった60個師団を超える機甲師団は、狭い山岳地帯に現れた絶望的な運の悪さの中、歩兵の対戦車砲と近接航空支援機の爆撃によってすり潰される。

 そして戦いから1ヶ月もたたぬ1939年10月3日、ドイツ軍は『昏睡文明』の殲滅に成功したのだった……。

 

 

 

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『勢いは大事だが、止まる勇気はもっと大事』

『何事もほどほどが肝心』

 

 

 

 ドイツ軍が『昏睡文明』との戦闘を開始した1939年9月15日、大日本帝国・イタリア共同の反抗作戦『星一号作戦』が開始された。

 ソ連国旗にある星、この救出をするということで『星一号作戦』と名付けられたこの作戦、息切れの見える『崩壊文明』の西部方面軍・南部方面軍・東部方面軍に対し一斉攻勢をかけることで『崩壊文明』の北部方面軍を誘引し、ソ連にかかる圧力を減らしてソ連を援護するという作戦である。

 

「みんな、行くデスよ!!」

 

「今までのお返し、思いっきりやる!!」

 

 イラン高原で塹壕に籠り、約半年間ひたすらに猛攻に耐えていたイタリア軍がその塹壕から一斉に飛び出して『崩壊文明』の西部方面軍に襲い掛かる。

 今までの戦いでイタリア軍の粘り強さに戦線を突破できず、補給不足なのか極端に能力を落としていた『崩壊文明』の西部方面軍の戦線は瓦解した。

 

「押せ押せ押せ、デース!!」

 

「今がチャンス!!」

 

 そのまま攻めるイタリア軍に、能力を落としていた機甲師団なども撤退の最中に追い越し、師団ごと殲滅させていく。*2

 

「兄チャマの方も順調みたいデスね」

 

 信人の大日本帝国陸軍も、攻勢によってインド北部アフマダーバード周辺まで、東南アジア・中国方面はブータン近くまで戦線を押し上げることに成功する。

 

「このままどんどん行こう、切ちゃん!」

 

「わかったデス、調!」

 

 順調な作戦に、どんどん前に進むイタリア軍。

 このままなら信人のインド方面軍との合流も見え始めた、その時だった。

 

「え、作戦中止デスか、兄チャマ!?」

 

 信人から突然の作戦中止、そしてイラン高原までまた後退するように指示が来たのだ。

 

『飛ばした偵察機で、『崩壊文明』の北部方面軍の一部がこちらに増援に向かってるのが分かった。

 奏と翼のソ連軍への圧力は減って戦力を立て直す時間ができたそうだ。

 作戦は成功だよ』

 

「作戦成功はいいけど……どうしてイラン高原まで戻らないといけないの?」

 

『今まで相手の攻撃に耐えてこれたのはイラン高原の有利な地形あってこそだ。

 今この地形じゃ防衛には不向き……作戦は成功したんだし、今の戦線にこだわる必要はない。

 俺も、双方の戦線は後退させて元の守りやすい河川、山岳のラインに戻る。

 お前らも元の守りやすい場所に戻るんだ』

 

 そう言って信人からの通信は切れる。

 

「「……」」

 

 しかし言われた2人にとってはこれだけ勝っているのに元のところにまで戻るというのは中々納得できないものだった。

 

「もう少し、もう少しで兄チャマの軍に合流できるところまで来たのに……」

 

「……もう少しだけだし、何ならイタリア軍はこのまま進もうか、切ちゃん」

 

 そんなことを調は言い出すその時だった。

 

『全く……何を考えているのやら』

 

 次の瞬間、調の瞳の色が金色に変わった。

 調の内に住むもう一人、お騒がせ転生巫女のフィーネさんの登場だ。

 

「あなたたち、悪いことは言わないから信人くんの言う通りにしなさい」

 

「でも、せっかくここまで来たデスよ。

 こんなに簡単に行くならもう少しくらい……」

 

「このおバカ! どれだけ一時的に戦線を押し上げられても、最終的に負けたら意味ないのよ!

 信人くんの言うように、ここは意固地になって今の戦線にこだわる必要なんて無いのよ。

 最終的な勝利のために、今は退くのよ」

 

「……分かったデスよ」

 

 フィーネさんの説得に、切歌がしぶしぶと頷く。

 こうして11月までの約2か月に渡る一大反抗作戦『星一号作戦』はその目的……ソ連にかかる『崩壊文明』の北部方面軍を誘引し、その圧力を減らすという目的を達成した。

 その後イタリア軍と大日本帝国インド方面軍と東南アジア・中国方面軍は作戦開始前の防衛ラインにまで後退、勢力圏は変わることがなかったが大した被害もなく一方的に相手を殴りつけて反撃前に帰っていった人類側の完全勝利であった。

 

 そしてその作戦の最中、地球の裏側ではまた新たな動きがあったのだった……。

 

 

*1
このゲームには師団のHPに当たる『指揮統制率』という数値があり、戦闘を行うとそれが減っていき無くなると戦闘続行不能として後退する。この『指揮統制率』が戦車などの機甲ユニットは極端に低く設定されており、『戦車のような機甲兵器を多用すればするほど、戦闘持続時間が短い』という事態になってしまうのだ

*2
このゲームはHPに当たる『指揮系統率』が無くなっても師団が消滅することはなく後方に退却し、補給や人員の補充などによって回復するだけで一向に敵の数は減らない。

敵の数を減らすにはどこにも退却できない状態で『指揮系統率』をゼロにする『包囲殲滅』か、相手の退却する場所にこちらが先回りする『追い越し殲滅』が必要となる。

受けた被害によって極端に能力を落としていたこと、機甲師団の速度が極端に落ちるイラン高原という山岳地帯であること……これらの条件が重なり、『歩兵が速度で戦車を追い越す』という事態が発生しているのである。

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