それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第5話

 あれから……あのライブでの惨劇から3ヶ月が過ぎた。

 響は何とか一命を取り止めた。

 何となく出来ると感じてやってみたシャドーフラッシュでの回復はしたものの、胸を完全に貫通した傷だ。どうなるかと思ったので、ホッとしたというのが正直なところだ。

 医者の処置も早かったことが功を奏した。この辺りはあの時奏がすぐに医者を手配してくれたおかげだ。今度共闘する際には、一言礼を言わなければならないだろう。

 しかし胸を完全に貫通された傷がすぐに良くなる訳もなく、傷が癒えてからもリハビリが必要となった。欠かさず未来と2人でお見舞いに足を運んでいるが、本人の「へいき、へっちゃら」という言葉が逆に痛々しかった。

 

 ここ最近、ノイズは現れていない。ライブ会場であれだけ倒したのでいい加減数が減ったのか、はたまた別の理由か……とはいえ今は助かっている。

 ツヴァイウィングの2人は現在活動休止中。ライブ会場であれだけの惨劇があったのだから仕方ないだろう。

 そう、惨劇だ。『死者・行方不明者合わせて8856人』……これがあのライブでの戦いの最終的な結果である。

 改めて凄まじい数だ。しかし、それでも世間は冷静だ。

 『ノイズだから仕方ない』と、諦めにも似たような感情で処理し、昨日と同じ日々を送っていく人々。これがいいことなのかと言われれば分からないが、ヒステリーが起こるよりマシである。

 そんな世間と人の意外な冷静さに俺は感心していたのだが……俺は甘かった。心の底から甘かった。

 世間や人は感情を冷静に処理したわけじゃない、ただ心の奥底に無理矢理沈めていただけだったのである。

 そしてそれは、ジッと『生贄』を待っていたのだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 響が無事退院した。

 実はこっそりとシャドーフラッシュ、というかキングストーンエネルギーを流し込んで回復を後押ししていたので医者の予想をはるかに上回る速さで完治に至った。

 これで前と変わらない日々が戻ってくる……そう思った矢先に俺と響への迫害が始まった。

 

 始まりはあのライブ会場での被害者でノイズの被害にあったのは全体の1/5程度、 残りは混乱によって生じた将棋倒しによる圧死や、 逃走の際に争った末の暴行による傷害致死であることが報道されたことだ。

 死者の大半がノイズによるものではなく人の手によるものであることから始まる『生存者バッシング』。そして被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、民衆による『正義』が暴走を始めた。

 

 そしてウチの学校であのライブの被害者は俺と響、それにサッカー部のキャプテンだった。キャプテンは行方不明……ノイズによって殺され炭となり、遺品すら回収されていない。

 そんなキャプテンを慕っていたとある少女のヒステリックな叫びが始まりだった。

 

「何でキャプテンは死んだのにあんたたちは五体満足で生きてるの!

 どうせ誰かを犠牲にして生き残ったんでしょ、この人殺し!!」

 

 ……意味が分からない。

 百歩、いや千歩譲って全くの無事な俺だけがそれをやったとバッシングを受けるなら分かるが、響は胸を貫くような大怪我をしていたのだ、普通に考えてその状態で他人を押し退けて殺せるわけないだろう。そう指摘してやると「怪我を負う前に人を殺して生き残った」と屁理屈としか思えない言葉を返してくる。

 そこまで言うなら俺たちが人を殺したって証拠持ってこいと返すと、「そんなもの無くてもやったに決まってる!ニュースでやってた!」と話にならない。

 

 普通ならば無視を決め込むだけの話だが、この根拠のないヒステリーを世間が後押しした。

 

 俺や完治して間もない響に押し寄せるマスコミ。

 その報道がまた『生存者バッシング』を煽るような内容で、それを見た学校の生徒が『正義』として迫害を行ってくる。

 教師たちも『正義』として、その迫害に加担していた。

 

 その様を見ながら、俺は思った。

 人々はノイズへの恐怖を冷静に処理していたんじゃない。無理矢理心の奥底に沈め、それを発散する生贄をジッと待っていただけだった。

 そして、その生贄に俺と響が選ばれたのである。

 

 だが、俺の方は正直なんとかなっている。というのも最初期の頃に俺をリンチしようと集まった連中を返り討ちにしたからだ。

 キングストーンのエネルギーを常に循環させている俺の身体能力は、変身しなくてもかなり向上している。ノイズとの戦闘経験も多いし、今さら普通の中学生が束でかかってきても後れは取らない。

 男のいじめというのは結構単純なもので、相手が強ければ恐怖して表立った行動はしなくなる。せいぜい目に見えない嫌がらせ程度、それなら耐えられる。

 問題は響の方だ。

 

 女のいじめは陰湿でねちっこく、そして精神的に追い詰めていく。それが抵抗できない響を容赦なく襲っていた。

 机の落書き、私物がどこかに捨てられるのは序の口。その内容はすべてを上げていれば枚挙にいとまがない。たまに石を投げつける、不良たちに襲わせるなど本当にシャレにならないものが混じっているので、俺は常に響といるように心掛けている。

 とにかく大変な状態の響だが、それでもギリギリの笑顔で「へいき、へっちゃら」と言う。響の状態はギリギリのところで保たれていた。

 未来はこんな状態になろうと常に響の味方をしてくれている。そして俺は同じライブに行き、同じ迫害に合う当事者、いわば『同族』だ。そんな2人の幼馴染が、響の心を支えていると自惚れでなく思う。

 そして俺たち幼馴染3人は誓い合ったのだ、「支え合ってこの苦境を乗り越えよう」、と。

 だが……そんな俺たちの誓いは思わぬ形で崩れてしまった。

 未来の転校である。

 

 ……仕方ないことだと思う。

 『生存者バッシング』は世間全体を巻き込んでいた。生存者の家族・関係者にもその被害は広がっており、実際に俺や響の家は落書きがされたり窓を割られたりしている。

 未来も、学校で俺や響の味方をしていることで危ない場面がいくらでもあった。そんな娘を守るため、と未来の両親の決断だろう。仕方ないし、理解は出来る。

 

「信人……響を……お願いっ!!」

 

 未来の最後の別れの言葉は響にではなく、俺へ響を託す言葉だった。

 涙を流しながらの血を吐くようなその言葉を、俺は忘れない。誓いを守れないことへの無念がありありと伝わってくる。

 

「大丈夫だ。 次に未来と会えるその時まで、俺が響を守る!」

 

 そう未来に約束し、俺たちは次に会う時まで別れることになる。

 

「未来はね……私にとってあったかくてかけがえのない、『太陽』だったんだ……」

 

 響はその日、帰り道で俺にそう零す。

 未来は響の幼馴染であり親友だ。そして響をいつでも守ろうと戦っていた。そんな未来がいなくなると、響への学校での迫害はさらに加速した。

 俺も常に傍にいるが男では防ぎきれないシーンが出てきてしまう。

 そして加速した迫害は家族にも及び……ついに耐えられなくなった響の父親が失踪した。

 ただでさえボロボロの響の心に、父親の失踪。このままでは響の心が崩壊すると心配していた矢先、最後の一手が追い打ちをかける。

 

 響とともに一緒に学校から無言で帰っていた時のことだ。

 俺と響の進む方向から、モクモクと昇る黒煙が見える。嫌な予感に駆られて駆けだした俺と響の見たものは、燃える響の家だった。

 後に分かったが、これはのうのうと生きている『人殺し』に罰を与えようという『正義の味方』たちによる放火だった。

 幸い、響の母と祖母はうまく逃げ出せたのか、家の外にいた。

 血相を変えて家族の無事を確認しようとする響に、響の母と祖母が振り向く。

 酷く疲れた、生気のない顔だった。そして打ちひしがれる2人の瞳を前に、響は金縛りにあったかのように動きを止め、まるで恐怖で後ずさるように2、3歩下がる。

 そして……。

 

「ッッ!!?」

 

「響ッ!!?」

 

 俺の叫びを無視して、響は全力でどこかに走り去って行ってしまった。しかし響の母と祖母はそのまま燃え広がる家に視線を戻している。

 

「……」

 

 俺は拳を握りしめ決意を固めると、自宅へと全速力で走った。手早く着替え、すでに心のどこかでこうなることを予想して部屋に用意しておいたバックパックを肩にかける。

 そして部屋を出たところで、俺は両親に出くわした。

 

「そんな荷物を持ってどこに行くつもりなんだ、信人?」

 

「……響の家が放火されて、響が家を出た。

 響を一人にはしておけない。俺も響と行く」

 

 それは両親への家出の宣言だった。

 

「俺のせいで父さんと母さんには迷惑がかかってる。

 俺も、ここにはいない方がいい」

 

「バカなことを言うな!

 こんな風評なんて長続きはしない、お前が気にすることじゃないんだ!」

 

「そうよ、信人も響ちゃんもただ巻き込まれただけで悪いのはノイズなの!

 なのに何で家出なんて……」

 

 両親は俺のことを心から心配してくれている。

 ああ、俺の両親は本当に素晴らしい人間だ。そんな2人の子に産まれたことが心から誇らしい。

 

「父さんと母さんには本当に心から感謝してる。嘘じゃない。

 でも、今の響を1人にはしておけないんだ」

 

 そう言って、俺はそのまま2人へと土下座した。

 

「今の響を1人にしたら駄目だ。

 だから頼む、父さん、母さん。俺のわがままを……聞いてください」

 

「「……」」

 

 十秒か二十秒か、どれだけの時間そうしていたかは分からない。おもむろに両親はどこかへ行き、しばらくすると俺のところへ帰ってくると封筒を突き出した。

 

「今、家にあるお金をかき集めてきた。 持って行きなさい。

 あと、この通帳も。 お前が産まれてからずっと貯めていた、お前のための口座だ」

 

「ほとぼりが冷めたら、必ず響ちゃんと一緒に帰ってくるのよ。

 いい、わかった?」

 

「父さん、母さん……!」

 

 耐えられず、俺の眼からは涙が止まらない。

 その涙を拭い去ると、俺は立ち上がり玄関へと向かっていく。

 そして……

 

「いってきます!」

 

「「いってらっしゃい……」」

 

 俺は家を飛び出した。

 涙を拭い、渡されたものをバックパックにねじ込む。

 

「行くぞバトルホッパー、響を見つけるんだ!」

 

 空間から呼び出したバトルホッパーが電子音で答え、跳ねながらどこかに消えていく。

 俺も夜の街へと走った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私は呪われている……響はそう確信している。

 あのライブ会場……ツヴァイウィングの2人が変身しノイズと戦う光景を見て、何かが自分の胸を貫いた。

 迫る死に朦朧とする意識の中で聞いた奏の「生きるのを諦めるなッ!!」という言葉、そして優しい『月』の光と白銀の背中のおかげで生き残れた。

 だが、「生きていてよかったの?」と響は何度も自問自答していた。

 

「何で生きてるの! この人殺し!!」

 

 見知らぬ誰かから、そんな言葉をかけられたのは一度や二度ではない。

 辛くて苦しくて、そして心が痛かった。

 それでも「生きたい」という理由はまだ響の中に残っていた。それは大切な幼馴染たちのため、そして家族のため。

 だが……それがどんどん崩れていく。

 

 『太陽』とも言える幼馴染で親友の未来の転校。

 父の失踪。

 疲れ切っていく母と祖母。

 

 その原因が自分だと思うと、「自分はあの時死ぬべきだったんじゃないか?」……そんな風に思ってしまう。

 そして……最後の決定打が今日の火事だ。

 自分のせいで燃やされた家。

 そして疲れ切り擦り切れたような母と祖母の空虚な瞳が、『すべてお前のせい』と言われた気がして耐えきれなくなった響はそのまま逃げ出した。

 

「はぁはぁ……」

 

 どこをどう走ったのかは覚えていない。見ればそこは見たこともないような路地裏だ。

 

「あぅ!」

 

 足がもつれ、そのまま倒れ込む響。

 いつの間にか振りだした冷たい雨が、容赦なく響を叩く。

 

「う……うぅ……」

 

 耐えられなくなり、倒れたまま涙を流す響。

 次々に自分が大切だったものが無くなっていく……まるで真っ暗な闇の中にたった1人で放り出されたような心境だ。辛くて心細い。

 

「助けて……誰か助けてよ……」

 

 いつも「へいき、へっちゃら」と必死で耐えてきた響は、絶望に染まりながら今まで押し隠していた本音を漏らす。

 彼女を覆う闇は濃い。

 しかし……どんなに闇が濃くても、それでも闇を切り裂き道を照らし出してくれる『月』は彼女のそばにあったのだ。

 

「見つけた! 響!!」

 

 響が誰かに抱き起こされる。それは響にまだ残っている大切なものである幼馴染、信人だった。

 

「ノブくん……どうして……?」

 

「話は後まわしだ。 とにかく、落ち着けるところに行くぞ」

 

 そう言って響は抱き起こされるように立ち上がると、2人はゆっくりと移動を始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 炎……キャンプ用品の缶の固形燃料の炎が俺の前でゆらゆらと揺れている。

 あの後、俺は響を連れて街はずれの廃工場に来ていた。雨風が凌げて人の目のないところというのがここのため、俺はここを当面の拠点にしようと考えている。

 

「ノブくん……着替えたよ」

 

「ああ」

 

 声をかけられ振り向くと、俺の持ってきていたジャージに着替えた響が立っていた。響の着ていた制服は雨に濡れていたので着替えてもらったのだ。

 そのまま響は俺の隣に座ると、一緒に暖をとる。

 

「飲み物入れるよ」

 

「うん……」

 

 力なく頷く響をよそに、俺はケトルに水を入れると固形燃料の上に置く。

 

「用意、いいね」

 

「うちは元々キャンプとか好きで行ってたから、道具はあったからな。

 それに……いつかこういうことになるんじゃないかと準備してた」

 

「そう……」

 

 それっきり響は黙ってしまう。

 

「なぁ、響。 家には……」

 

 俺の言葉に、響は首を振る。

 

「今は帰りたくない。 もう学校も家も嫌……」

 

 膝を抱える響。

 

「そうか……なら俺も響と一緒にいる」

 

「……いいの?」

 

「俺だってあの事件の生き残り、当事者だ。学校がいい加減うんざりなのは同感だよ。

 未来にだって響を守るって約束してる。

 それに……何より俺が響と一緒にいたいんだよ。

 だから、俺は響と一緒にいる!」

 

 ゆっくりと顔を上げる響。

 

「俺はいつだって響の傍にいて守る。

 だから……1人で抱え込まないでくれ。

 俺を、頼ってくれ」

 

「ノブくん……」

 

 そのまま響は涙を流しながら、俺の胸に顔をうずめた。

 

「ありがとう、ノブくん……」

 

 そう涙ながらに言う響の頭を、俺はゆっくりと撫でた。

 

 

 しばらくそうしてから、俺と響はお互いに顔を赤くしながら離れた。

 ……そうだ、ここまで来れば隠し事はなしにしよう。

 

「これで俺と響は運命共同体、なら……響には俺の秘密を見せるよ」

 

「えっ……?」

 

 何のことか分からない響をよそに、俺は立ち上がると響の正面に立った。

 そして……。

 

「変身ッ!」

 

 キングストーンの緑色の光とともに、俺はSHADOWの姿に変身する。

 

「ノブくん、その恰好は……!」

 

 驚きに目を見開く響。その時、雨がやみ雲の切れ目から月光が廃工場内に飛び込んできて俺を照らし出す。

 何故自分がシャドームーンの力を持って生まれたのか、それに意味があるのならきっと、それは響のためだ。

 『太陽』である未来とともに、『月』として響を守り襲い掛かる闇を払うために俺はこの力を授かったのだ。

 だからこそ、今ここで『月』に誓う。

 

「俺は月影信人。またの名を……仮面ライダーSHADOW。

 どんなことになっても響を守る、響の味方だ」

 

 そう俺は宣言した。

 




今回のあらすじ

SHADOW「さぁ蘇るのだこの電撃でー(キングストーンエネルギーびりびり)」

ビッキー「あべべべべべべ!!」

SHADOW「メタルマックスゼノは色々許せんがドクターミンチの存在を消したことは特に絶許」

ビッキー「『翳り裂く閃光』系ルートだから迫害酷いわ未来もいなくなるし家燃やされて、もう家出する。一緒に来る者はいるかぁ!」

SHADOW「ここにいるぞぉ!! 問おう、君が俺のマスターか?」

ビッキー「あ、私インド村の女代表なんで、インド人、ぶっちゃけカルナさん以外は別にいいッス」

SHADOW「中の人がはみ出てるぞ。俺はさくら……じゃない、響だけの正義の味方だ」

ビッキー「それだと私ラスボスじゃない?」

SHADOW「安心しろ。さくらはさくらでも、色といいエロいインナーといい『井河さくら』の方が近いと思う今日この頃」

ビッキー「それ対魔忍! 鼻フックはいやぁ!!」

ビッキーとのドキラブ家出生活はっじまるよー(棒
次回もよろしくお願いします。

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