それでも月は君のそばに   作:キューマル式

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第6話

「えへへっ♪ おはよう、ノブくん♪」

 

「ああ、おはよう」

 

 目覚めれば目の前には響の顔がある。抱き合うように身を寄せ合い、2人で包まっていた毛布からもぞもぞと出る。

 最初は毛布は1枚だし、俺はキングストーンのおかげで身体はありえないほどに丈夫だから響に使ってもらおうと思ったのだが響がそれを頑なに拒否、最後には「不安」「一緒にいて」「いなくならないで」など涙目で言われたら断れず、こうして一緒に抱き合って寝ている。

 ここはあの廃工場の片隅、二階の事務所か何かだったと思われる場所。外からは見えないこの場所に、そこにあったものや拾ったブルーシートで造った簡単なテントのようなものが俺と響の寝床だ。

 

 2人で家出して、こうして一緒の朝を迎えるようになっておおよそ2週間が過ぎようとしている。

 最初の夜、俺の力の話をした。とはいっても前世があるやらの話はしない方がいいだろうから詳しいことはすべて省いて、あくまで『物心ついたときからあるノイズを倒せる不思議な力』として響に説明した。

 少しだけ受け入れてもらえるか不安だったのだが、それは杞憂だった。響は俺のことを微塵も怖がるようなことはせず、むしろ格好いいと言ってくれた。

 響はあのライブ会場でのことを朧げに覚えていて、俺に「助けてくれてありがとう」とお礼まで言ってきた。

 俺としては怪我を負わせてしまい守りきれていないわけで、お礼なんて言われる資格はないのだが。

 

「おはよっ、バトルホッパー」

 

 響の言葉に、バトルホッパーが電子音で答えた……響の服の中で。

 最初の夜にバトルホッパーも紹介したのだが、響は「可愛い」と妙に気に入ってしまった。バトルホッパーもなんだか妙に懐いている。だがバトルホッパーよ、いくらなんでも響の服の中から出てくるのはいい加減にしろよ。

 どういうわけか相棒(バトルホッパー)は響が呼ぶと、必ず響の服の中、もっと言えば同年代と比べても大きな胸の谷間から出てくるのだ。実は相当駄目な自我なんじゃないかと、この2週間で少しだけ相棒(バトルホッパー)を見る目が変わった。

 響は手早く、アウトドア用の折り畳みウッドストーブに、拾ってきた木で火をつけると湯を沸かし始める。

 響の精神はこの2週間でかなり安定していると思う。

 しかしそのかわりなのか、一緒に過ごしていると腕を組んできたり、抱きついてきたり、一緒に寝たりと随分と甘えるようになってしまった。あの状況で弱音を吐いて甘える場所がなかったせいだろう。その反動が来ているのだとは分かっている。

 だが、意識している相手のこれは刺激が強すぎて困るんだが。響はそういうことはないんだろうか?

 というか、もしかして意識しているのは俺だけで響は俺のことをただの幼馴染としか思ってないんじゃなかろうか?

 ……やめておこう。とにかく今は、今後の話をするべきだ。

 

「響……朝食をとりながらでいい。 今後の話をしよう」

 

 俺の言葉に響は頷いた。

 2人で朝食にアンパンをかじりながら、今後の話をする。

 

「正直に言うと……今のままの生活は長続きしない」

 

 そう俺は断言する。

 今の俺たちの状況など、キャンプの延長線上でしかない。長期的に同じことをするのは無理がある。

 両親から当面の間は心配ないお金は貰っているが、それでも長続きはしないだろう。そもそも、俺たちはどう言ったところで中学生だ。家を借りたり働いたり、そういうことが『まともな方法』では一切できない。今の状態では、生きるのに必要な衣食住すべてが心もとない状態なのだ。

 

「それは……もう元のところに戻るってこと?」

 

 不安そうに言う響に俺は首を振る。

 

「違うよ。

 たった2週間ばっかり程度じゃ何一つ状況は変わってないだろう。何もかも同じままだ。

 だから家出はこのまま続行。でも、続行するには今のままじゃ無理だ」

 

「それじゃあどうするの?」

 

 響の問いに、俺は残っていたアンパンの欠片を口に放り込みながら答える。

 

「無論、大人に保護してもらう」

 

「それは……」

 

 響が不安そうな顔をする。

 俺たちのようなあのライブでの生き残りをターゲットにした『生存者バッシング』は世間全体、当然のように大人だってそれに加わっていた。世間全部が自分たちを攻め立ててくる敵のような状況で、まともな保護など望めるはずもない。

 頼った瞬間、何をされるか……そんな不安が響からありありと感じられるし、俺もそれはありえるとは思っている。

 だが、俺には1つ勝算があった。

 

「絶対……とは言わないが1つ勝算がある。

 それは……俺の力だ」

 

「ノブくんの力って……」

 

「実は何度かノイズと戦う現場で、ツヴァイウィングの連中に「仲間にならないか?」って言われてるんだ。

 ノイズを倒せる『仮面ライダーSHADOW』の力が欲しいんだろう。

 今までは連中のことを何も知らないし、何をされるか分からないから断ってたんだが……俺たちの保護や、まぁ色々……こっちの条件を受けるんなら、その話を受けようと思ってる」

 

 これが俺が考え抜いた結論だった。

 正直、正体のまるで分らない組織に身売りするのは気が引ける。仲間になった翌日には手術台のモルモットという結末だってあり得るだろう。

 

(いや、それ以上に……ゴルゴムの息のかかった組織という可能性もある)

 

 あのノイズと戦うためのプロテクターからして、現在の科学から一線を画すものだ。それを運用している以上、普通でないことは間違いない。ゴルゴムの一員、そうでなかったとしても組織内にゴルゴムの息のかかった人間がいる可能性は否定できないだろう。

 ノイズを操って人類を抹殺しようとしているだろうゴルゴムとは、俺は確実に敵対する。その疑いのある組織の懐に飛び込むなど、普通なら正気の沙汰じゃない。だが、響のためを思うとどこかでの保護は必須だ。他に当てがない以上、賭けるしかない。

 それに何度かツヴァイウィングとは戦場で共闘し、悪い相手ではないとは理解している。何より天羽奏は身体を張り命懸けで響を守ってくれたし、そこに邪な他意は感じられなかった。

 そもそもツヴァイウィングのいる組織がゴルゴムの一員だと仮定すると、ノイズを操るゴルゴムが自分でそのノイズを倒しているという構図になってしまう。それもおかしな話だ。だから大丈夫じゃないか、という希望的観測を持っているのも事実だ。

 

 しばらくして響はゆっくり頷く。

 

「……分かった。ノブくんの判断を信じる。

 でも……もしそこの大人も他と同じだったら?」

 

「その時は……俺が本気で戦う。それで2人で逃げよう。

 そのあとは海でも渡って、誰も知らないところで2人で暮らすか」

 

 その時は多分、俺は『仮面ライダーSHADOW』ではなく『シャドームーン』となるだろう。力で他者の幸せを踏みにじってでも、俺と響の居場所を造る『悪』となる。

 俺もそのぐらいの覚悟を持って響と一緒に家を出たのだ。

 

「だからツヴァイウィングのところに突撃かノイズ待ちか、ってところかな」

 

 そんな風におどけて笑ったときだ。

 背中を駆け巡るような予感、ノイズの前兆だ。

 

「……ナイスタイミング、なのか?

 ノイズが来る!」

 

「えっ!?」

 

 キングストーンの感覚の方がノイズの警報よりも早い。

 

「変身ッ!!」

 

 俺は驚く響を尻目に、仮面ライダーSHADOWに変身する。

 

「バトルホッパー!!」

 

 俺の声に答え、バトルホッパーが捨ててあった廃自転車に張り付くと、バイクへと変形した。

 

「……」

 

 さっそくバトルホッパーに跨ろうとするが、その時ふと不安になり、バトルホッパーから降りる。

 

「ノブくん?」

 

「バトルホッパー、今日はここに残って響を守っていてくれ」

 

 よく考えたら今の響はノイズが現れてもシェルターにも避難できない。万一を考えておいた方がいいだろう。

 

「ノブくん……いってらっしゃい!」

 

「トォ!!」

 

 響に見送られ、俺はノイズの現れる現場へと急ぐ。無論徒歩で。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 俺が現場にたどり着くと、ツヴァイウィングがすでにノイズとの戦闘を始めていた。

 

「久しぶりだね、仮面ライダーSHADOW。

 今日はちょっと遅いじゃないか。 いつものバイクはどうしたんだい?」

 

「車検中でな。 徒歩で来た」

 

「車検!? あれ車検に出せるの!!

 しかもライダーなのに徒歩!?」

 

「冗談だ」

 

 はじめに俺に気付いたのは奏の方だった。相変わらずこちらにフレンドリーに話しかけてくる。

 一方の翼の方はというと、こちらも以前までのように殺気をぶつけてくることはない。警戒はしているようだが、どういう事情か随分と丸くなっていた。

 

「久しぶりで話したいこともあるけど、まずはノイズ殲滅が先だね」

 

「分かった。 トォッ!!」

 

「翼、アタシたちも行くよ!」

 

「わかった、奏!!」

 

 今回のノイズは数もそれほどではなかったので、SHADOWとツヴァイウィングの2人の活躍によって殲滅はすぐに終わった。

 

「さてっと……それじゃあちょっと話に付き合ってもらうよ、SHADOW」

 

 戦いが終わると、奏と翼は俺の前に立つ。

 

「まずは礼を言わせて。

 ライブの時はありがとう。 アンタのおかげでアタシは今もこうして生きていられる」

 

「私からも。奏を救ってくれてありがとう。

 あの時、あなたがいなかったら奏は……」

 

 どうやら翼が俺への不信感が減っていたのは、ライブの一件で奏を助けたことが原因らしい。

 ……俺としては響が怪我を負い、正直それを助けるついでだったので、こうも感謝されると逆に恐縮してしまう。

 

「その……面と向かって言われると、少し照れる」

 

「照れるって顔かい、ソレ?

 それにアンタのあの回復のおかげで、最近はすこぶる調子もいいんだ。

 そこも感謝してるんだよ」

 

 するとスッと奏は俺に近付いて小さな声で「あの子のことはナイショにしてるよ」と言ってきた。どうやら約束を律儀に守ってくれていたようだ。

 

「……実は俺からも話がある」

 

「へぇ、アンタの方からとは珍しいね。 何だい、サインでも欲しいのかい?」

 

 奏はそう少しおどけて言うが、それを無視して俺は切り出した。

 

「前にあった俺にお前たちの仲間になれという話……受けてもいい」

 

 その言葉に、奏と翼は息をのんだ。

 

「どういうことだ? あれだけ私たちが信用できないと拒んでいたのに」

 

「何度も共闘しているし、お前たちはそれなりに信用できる。

 正体の分からないお前たちの組織が信用できないことは変わらないが……俺の方でも大きく事情が変わった」

 

 突然の方針転換に訝しむ翼に、俺は答えて続ける。

 

「ただし、当然だが条件がある」

 

「……いいよ、言ってみなよ」

 

「いや、事情が込み入っているから直接話をしたい。

 明日朝10時、今から言う場所に意思決定のできる人間を連れてきてくれ。

 場所は……」

 

 そして俺は、拠点にしている廃工場の位置を教えた。

 

「OK、必ず司令を連れてくよ」

 

「ああ、待っている」

 

 それだけ言って、俺は大きく跳躍し、そのまま全力でその場を離れていく。

 これで賽は投げられた。あとはどんな目が出るのやら……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ここか……SHADOWに指定された場所は……」

 

 車から降りた弦十郎は目の前の廃工場を見上げる。同じように車から降りた奏と翼も揃って廃工場を見上げた。

 

「弦十郎のダンナ、随分燃えてるね」

 

「やっと仮面ライダーSHADOWを仲間にできる機会がやってきたんだ。

 興奮するなという方が無理だ」

 

 何やら全身からオーラのようなものがみなぎる弦十郎の様子に、奏は肩を竦める。

 一方の翼は、少し不安げな顔だ。

 

「しかし……こんな人気のないところに呼び出す真意が見えません。

 万一のことも考えないと。それに向こうの言っていた条件というのもまだ分かりません」

 

「いや、SHADOWの今までの行動は一貫して人を守る側についていた。あまり初めから疑うものじゃない。

 それに彼ほどの力の持ち主だ、秘密もあるだろう。それに関係する条件じゃないかと思うぞ」

 

 弦十郎はそう言うと、軽い足取りで廃工場に入っていく。それを追って奏と翼も廃工場へと入っていった。

 しばらく中を進むと、広い場所にでる。そこには、2人の人影があった。

 

「子供?」

 

 それは中学生くらいの少年と少女だった。

 その2人がキャンプ用品のウッドストーブでたき火にあたりながら、ケトルで湯を沸かしている。

 こんなところでキャンプの真似事というわけでもないだろう。普通なら学校に行っている時間、しかも少しくたびれた恰好の2人は明らかにおかしい。

 『家出』……節度ある大人である弦十郎は、すぐにその単語にたどり着く。

 すると……。

 

「ああ、来たのか……待ってたよ」

 

 そう言って、少年の方が立ちあがって3人の方を見る。

 そして……。

 

「変……身ッ!」

 

 少年の腰のあたりから緑色の光が溢れだす。

 そして、気付いたときには少年のかわりに立っていたのは、白銀の戦士『仮面ライダーSHADOW』だ。

 それは、仮面ライダーSHADOWの正体があの少年だという事実。

 

「君は……」

 

「自己紹介だ。

 俺は月影信人、そしてまたの名を……仮面ライダーSHADOW」

 




今回のあらすじ

ビッキー「なんかヒロインである私とのドキラブ家出生活2週間が、一瞬で終わった件について」

SHADOW「まぁ、家出って言うほど簡単じゃないし長々できんからしょうがないだろ。
    俺はデュエリストじゃない、リアリストだ!
    ……それよりこのままの生活だと俺はともかく響はまずいんで、ゴルゴムっぽいけどツヴァイウィングの組織のスカウト受けようと思う」

【悲報】特異災害対策機動部二課にゴルゴムの疑い

OTONA「何と言う風評被害」

フィーネさん「だからゴルゴムって何よ、ゴルゴムって!?」

SHADOW「というわけで徒歩で参った!」

奏「緊急事態なんだから少しは急いで来なよ!」

SHADOW「シャドームーンは威圧感たっぷりにカシャカシャ言いながらゆっくり歩いてくるのが王道と信じる俺がジャスティス」

防人「わかりみが凄い」

SHADOW「お前らの仲間になってもいい。だが俺はレアだぜ」

OTONA「やっとSHADOW仲間にできると思ったら家出中学生だった件」


毎日更新はさすがにここまで、ここからの更新は不定期になると思います。
次回もよろしくお願いします。

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