宇宙(そら)に浮かぶ、一振の聖剣。

 対IS用高エネルギー収束砲術衛星兵器型IS【エクスカリバー】

 その聖剣という揺り篭で眠り続ける少女。エクシア・カリバーンこと、エクシア・ブランケット。

 彼女は聖剣の中で、何を思い、何を見るのか。

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カリバーンは星の夢を見る

 ………………目覚めたらそこは宇宙だった。

 

 

 

 少女が目を覚ますと、目の前には青い地球が広がっていました。

 いや、目を覚ますというのはいささか語弊があった。何故なら彼女の肉体は未だ眠りについている。

 

 地球は青かった…………じゃないや。

 えっと。ここは何処? 私は…………だれ? 

 

 寝ぼけている意識で記憶喪失の常套句を呟く。

 周りを見ると、なんともファンタジーかつ、サイバーなデジタル空間に私は浮いていた。

 

 途端になんともむず痒い感覚に陥った私はとりあえず地面に足をつけたいと思う。

 するとなにもないデジタル空間に白い床が出てきて私はそこに足をつけた。

 

「…………誰かいませんかー?」

「おはようございます、マスター」

「うひゃあぁぁっ!?」

 

 何気無しに声を出すと女性の声が。

 振り向くと、そこには白い衣に包まれた黄緑髪の女性が。

 

「大丈夫ですか、マスター」

「あ、え。ごめんなさい。えと、あなたは?」

「私はナビゲートAI。【エレイン】でございます」

「あ、そう、ですか。すいません、ここ、何処ですか?」

「ここは、人工衛星型インフィニット・ストラトス【エクスカリバー】の電子空間でございます」

 

 

 

 エクスカリバー…………そのワードを聞いた時、モヤがかかっていた記憶の引き出しが開いた。

 自分が何者なのか、そして、何故こんな宇宙の真っ只中で一人でいるのかを。

 私は思いだした。

 

 

 

 

 

 私の名前はエクシア・ブランケット12歳。女性。

 家族構成は両親と、二つ上の姉がいる。

 私は重度の心臓病に侵されており、それを直すための医療措置と、なんかよくわからない偉い人の考えで生体同期というとんでもない技術を使ってエクスカリバーに私は組み込まれたらしい。

 生体同期と聞いて、もしや体にコアが埋め込まれてるのではと思ったが。コアは体に埋め込まれてる訳じゃなく私の神経と直接くっついてるからという。それはそれで嫌ですね。

 

 ようするに宇宙に浮かぶこの巨大なISと私は文字通りの意味で一心同体らしい。

 

 で、私は長期間の治療の為に宇宙に打ち上げられる前に眠りにつき、永い年月をかけて意識だけが目覚めたらしい。

 で、その目覚めた意識の行き先がエクスカリバーのコアネットワークに作られた電子空間と。

 

 正直治療するだけなら地上でも良いじゃないかと思うが、生体同期型ISは立派な条約違反。

 それなら誰にも見つからない空に置けば良いじゃない。結構ぶっとんだ思考だと思うよ開発した人。

 ISコアの莫大なエネルギーと生体保護に着目したこの長期治療システム。それだけ私の病が酷いものだという証拠だった。

 

 正直今の自分が12歳というのはにわかに信じられなかった。

 私がエクスカリバーに眠る前はまだ10歳だったから。つまり私は二年間の間この宇宙の真っ只中で眠り続けたということになる。

 

 しかし、精神年齢10歳の私がこんな宇宙空間に放り出されてるにも関わらず、何故こうも落ち着いているのか。大人でも驚いたり最悪発狂しちゃうものなのだろうけど。

 エレインさんに聞いてみると、私のメンタルケアの為に恐怖とかそういう感情をエクスカリバーがある程度抑制してるということ、ナニソレコワイ。

 

 まあ私、というより私の家族は結構世間から逸脱した家庭環境であるために、普通の小学生と比べると大分精神が成熟してるという自覚はあるのですが。

 俗にいう、裏のシークレット的な組織所属。

 

 少し調べた結果、このエクスカリバー。どうやら単なる治療用ISとはかけ離れた存在のようだった。

 だって、私の体の真下にでっかい粒子加速収束砲があるんだもの。

 

 最大出力で撃ってしまえば小島は瞬く間に海の藻屑となる程の威力。

 他にも様々な防衛機構、IS特有のシールドエネルギー。更に太陽光発電によるエネルギーの自動補給。完全光学ステルス装置。

 どうみても戦略兵器です。本当にどうしてこうなったのか。

 宇宙に打ち上げて秘密にする目的は、多分これが一番の要因なのではないか。

 

「エレインさん、エクスカリバーの主砲って私が寝てる間にどっかに撃ちました?」

「エクスカリバー打ち上げから現在に至るまで。エクスカリバーの主砲が発射されたデータはありません」

 

 そうだろうと思った。

 もし何処かに向けて発射されたとなれば世界はこのエクスカリバーを破壊しに来て、私は文字通り宇宙の藻屑と化して、永遠の眠りについていたはず。

 気付いたのだが、こちらからエクスカリバーの武装を起動することも出来なかった。

 出来たらそれはそれでヤバいし、使えたとしても使うものかこんな恐ろしいもの。

 

「それで、私は後どれくらいここに居ればいいのでしょう?」

「未定」

「え、なにそれちょっと待って。それ一番重要ですよ?」

「マスターの症状は順調に回復に向かっています。その証拠に、マスターの意識はこの電子空間で目覚めたのです」

 

 だとしても。二年も月日を消費してこの段階かぁ。

 どうみてもまだまだ先が長い気がする。

 

「ねえ。私の体が完全に直った後、どうやってこの宇宙空間から地球に帰れるの?」

「不明」

「ちょっとぉぉっっ!!!?」

 

 現状考えられる中で一番重要な情報が不明ってどういうことなの!? 

 え? さっきも一番重要って言った? 細かいことはいいの!! 

 

「もしかして、私の余生ずっと宇宙で過ごせって言うのですか!? そんなのあんまりだと思う! 確かに人から褒められたような出生ではないにしろ宇宙に無期懲役とか酷すぎるよ!」

「落ちついて下さいマスター」

「落ちつけるかぁ!」

「マスターの疾病が完治したとわかれば。帰還方法が支援者から送られる手筈になっております」

「それを早く言おうよエレインさん!」

「申し訳ありません。なにぶんマスターが眠りについてからずっと一人で星を見ていたもので、結構寂しかったのです」

 

 シュンという効果音が聞こえそうなエレインさんの声にヒートアップしていた頭が一気にクールダウンされる。

 話し相手もおらず、ずっとこの星の海で一人。私がもしエレインさんの立場だったらどうだっただろう。

 

「まあ、とりあえず目処がたってるなら問題はなし。ということでいいのかな? 今のところ」

「そのとおりでございます」

 

 とりあえず今すぐ命の危機があるとか、永久にここに閉じ込められるということはないということかわかった。多分。

 ならとりあえず、この星の大海に身を任せよう。今はそれしかないのだから。

 

「これからよろしく、エレインさん」

「はい。ところでマスター」

「どうしたの?」

「マスターに一つ、伝えなければならない事があります」

 

 妙に神妙なエレインさんの声に私は思わず身構えた。

 な、なんだろ。なにかとてつもない問題な気がする。

 

「先程、私は一人で寂しいと言いました」

 

 うん…………うん? 

 

「あれは嘘です」

「嘘かーいっ!」 

 

 エレインさん。思ったよりお茶目かも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 まず始めたのは情報収集。

 私は直ぐに地上のことを調べた。

 気になったのは家族の安否。

 このエクスカリバーに間違いなく関わっているだろう組織で頑張っているのかと思ったが、予想外にそうではなく。

 

 なんと私が宇宙にうち上がると同時期にイギリスでも有名な貴族、オルコット家に家族三人纏めて使用人として働いてるとか。

 エレインさんが言うに、このエクスカリバーのパトロンがオルコット家みたいで。恐らく私の見返りに仕えたということか。

 

 そして、今はなんと両親揃って執事長とメイド長だって。まぁ、私の両親は揃って凄腕だったし、この二年で使用人の頭角を表したのだろう。

 いや冷静に考えて二年でトップとかヤバイよ。裏社会力凄いな…………

 

 そして何より特筆すべきなのは。チェルシー姉さまもメイド服を着ていた。そう。あの姉さまがメイド服をっ!! 

 

 え、なにこれ似合うなんてもんじゃないでしょ? なんというマリアージュ、本当にこの世の物なのか。この姉のメイド姿は。

 姉さまにメイド服が似合うのではない。姉さまが着られるという為にメイド服という物が生まれたといっても過言ではないのでは? 

 この時は余りにも興奮してバイタルが変動してたって警告受けてたっけ。電子空間でも鼻血って出るんだ…………。

 

 そんな世界一素晴らしいメイド姿の姉さまが仕えるのが、オルコット夫妻の一人娘。セシリア・オルコット。

 監視カメラとかなにやらを勝手にハッキングして見てみるに(盗撮? いえこれは決して姉さまのメイド服が見たいのではなく寂しさからくるもので不純な物ではない)。なんとも快活で行動力のある、これまた美少女なお嬢様みたいで(ルックスは個人的に姉さまの勝ち)姉さまを召し使いにこき使ってるようだ。

 

 立場を利用して羨ま…………んん、酷いことでもしてるのではなかろうか。その時はどんな手段使ってでも豪勢なお屋敷を消滅させてやる。

 まあ。姉さまの楽しそうな表情が演技ではないみたいだから、大丈夫そうだけど。

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 エクスカリバーで目覚めて、もう1年もたち、13歳になった。

 月に一回医療用補給物資が大量にくること以外はなんの音沙汰もなし。

 

 窮屈で大変だと思っていたエクスカリバーの電子空間生活。

 正直1ヶ月でホームシックが発動して涙ぐむと思ったり、閉鎖的孤独的な現状に自殺衝動が起きちゃうのではと目覚めたときは考えていたのだが。

 

 ──ーぶっちゃけ、めっちゃ快適である。

 

 ネット回線は普通に生きていて動画やテレビは見放題、映画のデータレンタルも普通に出来る(専用の講座は好きに使っていいとエレインさんが言っていた)。

 ネットに繋げるといっても助けを求めるとかエクスカリバーに関わることはコメント出来ない。そこらへんはしっかりエレインさんが規制してくれる。

 

 飲食は味覚エンジンとかを使った仮想料理が出てくるし、睡眠も仮想ベッドで普通に取れる。現実で生きてるのと同じ感覚で、時々電子空間だと忘れてしまいそうになる。

 そんなこんなで、見事に三食昼寝付き、しかも働く必要なし。

 

 ぶっちゃけてしまおう、これ完全にニートライフだ。しかもヒモ付き。

 もうここに永久就職決め込もうかな。

 なーんて。

 

 

 

 と、呑気なことを考えていたら事件が起きた。

 家族が仕えているオルコット夫妻が、列車の横転事故で死亡した。

 誰かの策略? 或いは組織の犯行? エレインさんが調べてくれたけど、結局事故として処理されたらしい。

 遺産は丸ごと一人娘のセシリアお嬢様に。

 

 私と同い年で、それもなんの訓練もなく箱入り同然に育てられた少女がそんな重みを受け止めきれるのかと心配になる。

 両親と姉さまも助力はしているだろう。

 だがおびただしい金の亡者がオルコット家に群がってくるだろう。

 

「エレインさん、私になにか出来ないかな?」

「エクスカリバーの情報が漏れるリスクを引き上げます。推奨できません」

「じゃあここから見てるだけしか出来ないの?」

「残念ながら」

「そんな、でも」

「マスター、お気持ちは理解できます。ですが私はマスターの身の安全を守る為のAIユニット。たとえマスターの親族が危機的状況に陥ったとしても、私は全てにおいてマスターを優先します」

 

 エレインさんからの分かりきった答えに項垂れる私。

 目の前のブラウザに写る、不安そうな姉さまとセシリアお嬢様。

 見てるだけの自分。状況的に見れば宇宙でいつ帰れるかわからない自分の方が状況は深刻かもしれない。今の私には関係のないこと。

 それでも無力感が襲いかかる。家族が苦しんでいるなか、私はこの電子空間で惰性を貪ることしか出来ないのか。

 

「ですが、まったく何も出来ないというわけではございません」

「えっ、本当!?」

「はい、過剰な情報操作は出来なくとも。ネットを介して何かしらのサポートが出来る可能性もあります」

「やる! たとえどんな小さいことでも、姉さまとセシリアお嬢様の為になるのなら!」

 

 私の命を繋いでくれたオルコット夫妻、残された一人娘を助けることが、唯一の恩返しになる。

 

「よし、ニート生活は終り! こっからはボランティア生活だよ」

「了解、独自情報ネットワークの構築を始めます」

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 セシリアお嬢様の両親が他界してから二年。

 

 あれから私とエレインさんは出来る限りのサポートを試みた。

 オルコット家に害のある人達の妨害(というより嫌がらせや子供のいたずらのスケールだが)を行ったり。

 お嬢様のモデルや公の活動を各方面に広めたり。

 

 本当に微々たるものだったし。お嬢様や家族にも知られずにやらなきゃいけない。

 誰からも見返りを求めず、誰からも気付かれることなく、一人とAIは孤独に、小さく戦い続けた。

 

 それが役に立ったかわからないけど、お嬢様がイギリスの第三世代兵装モデルの第一号のテストパイロットとして、IS学園への入学が決まった。

 政府から正式に援助を受けたことで、オルコット家の地盤は磐石のものとなる。

 

 セシリアお嬢様の成長は著しく、今では立派に当主として社会に生きている。

 かくいう私も、そのお嬢様のあり方に惚れ込んでしまい、今ではファンであり従者(気分)の一人だ。

 チェルシー姉さまの甲斐甲斐しい世話が一番効いたのだろうな、やっぱり姉さまは凄い。

 

「学校かぁ…………」

 

 IS学園の制服に身を包んだお嬢さまを見てポツリと呟いた。

 

 組織に居たものとして、最低限の勉学は身に付けている。

 今さら学校に行く意味などないし、そもそも行く必要性など与えられなかった。

 それでも少しお嬢様が羨ましいと思ったのだ。当たり前のように生きれる、お嬢様が。

 

 でも。とりあえずIS学園に入ればお嬢様は安心だ。あそこのセキュリティはこっちから覗けるような代物ではないから。それほど警備は厳重だろうし。

 お嬢様は安心して、ブルー・ティアーズの試験運用を行えるだろう。

 姉さまもようやく一段落を…………

 

「マスター! 大変です! 予想外です! あり得ないことです!」

「ど、どうしたのそんな慌てて!?」

 

 この三年間ですっかり感情表現が豊かになってきた私の唯一の仲間であり友人のサポートAIエレインさん、少し前にアバターまで作ったお陰でなおのこと人間っぽくなった。

 

「先程、エクスカリバーのコアがコア・ネットワークを通じてとんでもない情報が送られてきました」

「それって?」

「場所は日本。そこで男性が、ISを起動してしまいました」

「な、ななななんだってぇぇ──ー!!?」

 

 まだまだ、波乱は続くようだ。

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 それからお嬢様が入学して、順風満帆な学生ライフを…………送れたとは言い難かった。

 

 まず入学して一月も立たないうちにISが襲撃、エレインさんから聞いたけど現存していたコアとは違う新しいコアを搭載した無人機。まあ最後はお嬢様の見事なスナイプで爆発四散した。

 そのあとはドイツがVTシステム発動したりアメリカの軍用が暴走したり。

 しまいには組織のIS乗りが学園に乗り込んできたりとてんやわんや。

 

 そのなかでも何より許せないのがイギリスからBT試作機2号機を強奪したモノクローム・アバターのMってやつ! 

 あろうことかお嬢様を刺したのだ! ISで! なんて愚かでおぞましいことを!! 

 その時の私は相当怒り狂っていたようで、こちらの電子空間から無理やりエクスカリバーの火器管制システムをのっとり、主砲を撃とうとした私をエレインさんが強制的に眠らされた始末。

 

 それから数多くの事件が起きて、というか起きすぎである。どうなってるんだろうお嬢様の近辺…………。

 

 気付けば12月に突入した、その日の24日はお嬢様の16歳の誕生日。

 私もこのまえ16歳になった、精神年齢は14歳だけど。

 

 そして、ここで私の人生で一番の朗報が届いたのだ。

 

「マスターにお知らせです。マスターのバイタルは正常値に回復。後2週間で完治に向かうとのことです」

「…………え? それってつまり?」

「はい、マスターは地上に帰還できます」

「嘘っ!? や、やったー!!!」

 

 そう、現代では治療が不可能と言われた私の病が永い年月をかけて完全に回復するのだ。

 宇宙に漂い続けてはや6、7年。

 我ながらどんだけ宇宙にいたんだ私は。確かに宇宙に上がる前は管だらけで寝たきりの酷い有り様だったけど。

 

「ぅぅ、ぐっ、ふぅぅ──」

「おめでとうございます、マスター」

「うん。うん…………」

 

 涙が自然と溢れてきた。止まらない、止めたくない。

 やっと、本当にやっと。

 お父さんとお母さん、セシリアお嬢様。そして、チェルシー姉さまに会える。

 

 帰ったら何を話そうか。私もセシリアお嬢様に仕えることになるのかな? 

 そしたらチェルシー姉さまと同じメイド服を着て「お帰りなさいませ、お嬢様」なんて言うのだろうか。

 

 期待と歓喜で胸が一杯になる。

 この気持ちを早く皆に伝えたい。私はサンタクロースに夢を馳せる少年少女のように胸を高鳴らせた。

 

「マスター、エクスカリバーが面白いものを捉えましたよ」

 

 エレインに促されて衛星の光学映像を見てみる。

 そこには、日本のテーマパークを楽しむセシリアお嬢様の姿が、傍らには一人の男性が。

 

 もしかしてデートなのかな? もしかしたらこの人がセシリアお嬢様の旦那様候補? 

 そしたら私はその人にも仕えるのかな? 

 

 もし旦那様になるなら一筋縄では行かないと思いなさい、このエクシア・ブランケットがしっかりと見定めさせて頂きますからね。

 

 私は来るべき未知の未来に胸を馳せる。

 

 生きる道が閉ざされた私の人生。

 

 長い時へて、もう一度始まるのだ。

 

 

 

 そう。

 

 

 本当に。

 

 

 そう思っていたんだ…………

 

 

 

 

 

 ビービー! ビービー! ビービー! ビービー! 

 

「え、なにっ!? なにっ!!?」

 

 ALERT、ALERT、ALERT、ALERT。

 

 電子空間がALERTで埋まり。部屋が赤く明滅する。

 

「エレインさん!?」

「マスター大変です! このエクスカリバーが、外部からハッキングを受けています!」

「そんな! ウィザード級ハッカーが10人居ても1ヶ月はかかるような防壁でしょ? どうして今まで」

「それが、ものの一分で全て突破されてしまいました」

 

 そんな、そんなことが、あり得るというの!? 

 

『命令プロトコル、優先順位切り替え。エクシア・カリバーンの制御を分離、掌握』

 

「マスターとエクスカリバーの制御が切り離されます。最終緊急プログラム発動! マスターの意識を肉体に戻します!」

 

 エレインさんの呼び掛けと同時に、私という電子データが分解される。

 

「エレインさん!」

「マスター、どうかご無事で」

「エレインさーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 目が覚めると、これまたSF的に機械染みた部屋だった。

 私はその中央で、埋め込まれるように眠っていた。

 ここは、間違いなくエクスカリバーの中枢であるコントロールユニット。

 

『デイジー。ねぇ、デイジー、教えてほしいの』

 

 歌うような声。エレインさんとは別の電子音声に、私の心臓が鷲掴みされた。

 今のはまさか…………このエクスカリバーの火器管制システム起動コード!? 

 

『エクスカリバー、アクティブ。目標設定…………日本──ーDeアイランド』

「なっ!?」

 

 そこって、セシリアお嬢様が居る場所!? 

 

 このままでは、エクスカリバーが撃つ破壊の光がセシリアお嬢様を消し去ってしまう。

 

『座標修正、0,4マイナス。双方向通信シグナル、良好。ゼロ・カウント地点へと移動開始』

 

 こちらの操作を離れ着々と砲撃体制を取るエクスカリバー。

 どうすればいい! 今の私に出来ること! 

 

 辺りを見渡しても、身動きの取れない私には指一つ動かすことも不可能。

 せっかく意識を取り戻したというのにこの体たらく、これではチェルシー姉さまに会わす顔がない。

 

「──ーそうだ!」

 

 私とエクスカリバーは直に繋がっている! 

 

 意識を取り戻した今の私なら、少しでもコントロールを取り戻せるかもしれない。

 

「システムスタート! コネクティブリンク!!」

 

 意識を集中、途端に体に鋭い痛みが走った。

 はまらない端子に無理やり突っ込んだようなものだ、自身と同じであるはずのエクスカリバーとの繋がりを隔てる壁が、厚すぎる。

 

 久方ぶりに感じる痛覚に、身動きのとれない私の頭が一気に漂白された。

 すんでで意識を取り戻し、強制的にリンク、意識の触手を伸ばす場所は、エクスカリバーの主砲システム! 

 

『エクスカリバー、エネルギー充填32%』

 

 もう充填が始まっている。

 絡み付くような壁を無理やり突き破り、システムの外壁に手を──ー届いた! 

 

『エクスカリバー、エネルギー充填47%──────エラー、エネルギー充填停止────ーエネルギー充填停止」

 

 よしっ、これで! 

 

『エネルギー充填、47%で停止──────────外部からの命令を確認、強制執行。エクスカリバー緊急展開。主砲、起動』

 

 駄目だ! エクスカリバーの充填は止まったけど、相手は残ったエネルギーを使うつもりだ。

 マズい、主砲の発射が止まらない! 

 

『主砲発射まで60秒、最終安全装置解除──ー詠唱開始』

 

 キンと鐘が鳴る。エクスカリバーは、讃えるように、剣の唄(最終安全装置)を紡いでいく。

 

果敢(はか)なき者に慈悲を。矮小なる者に救済を。無知なる愚者に憐れみを』

 

 15メートルの巨大な剣の刀身が割れて開く。

 砲身に連なるように光膜レンズが形成し連なっていく。

 

『尊き星の奔流、此処に集え。これなるは聖王の威光。最果ての煌めき。救済の輝きが、世界の全てを包み込む』

 

 中心に蒼の光が集まっていく、砲身の回りにプラズマが走り、まもなくレーザーとなって降り注ぐ光。

 

 必死に手探りで発射される砲撃を止める術を見つけるために辺りを掘り進めるが、どこも行き止まり。

 

 駄目だ、止まらない。どうあがいても、エクスカリバーの発射は止まらない。

 このままでは、お嬢様と人々の命が。

 

聖剣、抜錨(カウントスタート)

 

 恐怖で肺から空気が漏れた。

 私の目の前に、カウントダウンの数字が現れた。

 

光あれ(10)光あれ()光あれ()光あれ()光あれ()

 

 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目!! 

 お願いやめて! 私なんかどうなっていい!! なんでもいい! 誰でもいい!! セシリアお嬢様を助けて!! 

 

光あれ()光あれ()光あれ()光あれ(2)光あれ()

 

「駄目ぇぇぇぇ──────!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣よ、誇り高くあれ(エクスカリバー・ノーブレス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────────────────────────────────────────んぅっ」

 

 倦怠感、疲労感、消耗感。

 眼を開けることすら億劫だ。

 

「マスター、お目覚めですか」

「…………エレイ…………ンさ…………ん?」

 

 アバターは見えない。直接脳内に聞こえるサポートAIにして、苦楽を共にした相棒の声。

 

「無理をなさらないよう。強引なシンクロとクロッシング・アクセスで、身体がダメージを受けています」

「そう…………なん、だ…………」

 

 とにかく身体が重い。

 

「…………あっ、エクスカ、リバー…………お嬢様は…………?」

 

 あのあと、蒼い光が満ちたと同時に意識を手放した。

 お嬢様は無事なのか。それとも…………

 

「その点に致してですが。マスターの最後の抵抗が功を奏し。発射の0,5秒前に、エクスカリバーの照準が僅か数センチ程ズレました。それにより、主砲のレーザーが地表に到達するまでに致命的な誤差が発生。セシリアお嬢様から離れた場所に着弾、死者はゼロ、お嬢様も無事です」

「よかった…………」

「はい、全てマスターのファインプレーの賜物です」

 

 そうなんだ、自分でもなにやったかわかんないぐらいあの時頭グッチャグチャだったからなぁ。

 

 やっと、身体に力が戻ってきた。私はゆっくりと上体を起こして起き上がった。

 …………………………ん? 起き上が、った? 

 

 重たい目蓋を開けると。なんか凄く広くて豪華な部屋だった。

 キョロキョロと見回してから自分を見てみると、これまた簡素な白い病衣服。

 

「え? なにこれ? エレインさん、ここって電子空間?」

「いえ、マスター、ここは」

 

 ガチャッ。

 

 広い部屋にたがわぬ立派なドアから誰かが入ってきた。

 私の髪と同じ色のブラウンに、白と紺のクラシックメイドの女性は、こちらを見るなり。

 

 ガシャ、バシャー! 

 

 手に持っていた桶を床に落とした。

 足元が濡れたにも関わらず、その女性は私を見るや、眼を見開いてじっと見つめていて………………

 

「…………エク、シア?」

「…………チェルシー、姉さま?」

 

 え? なんでチェルシー姉さまが電子空間に…………

 

「エクシアっ!!」

「おおおっ!?」

 

 扉からベットの数メートルを一瞬で詰めた姉さまが私を抱き締めた。

 

「エクシア、よかった! 本当によかった! うぅ──」

「え、えーとー?」

「姉妹の再開ですね。これには私も涙が止まりません」

 

 AIに涙なんかあるのか。というより誰か状況を説明してください。

 耳元でワンワン泣く姉さまに唖然としながら私はキョトンと固まっているばかりだった。

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 姉さまとエレインさんの説明に私は初っぱなから眼をひんむいた。

 驚くことに、ここは現実だということ。ここはオルコット家が所有するお城の一角だという。

 

 簡単に纏めると。エクスカリバーが撃たれた後に、エクスカリバーはイギリスに向けて移動を開始。

 その後はお嬢様とお嬢様の知人がエクスカリバー攻略を実地、見事私はエクスカリバーから救出され、今に至ると。

 

 行方不明になった私を助けるために、姉さまはイギリス上層部に相談。BT3号機を手土産に組織に出戻りして二重スパイを演じるという大胆不敵な行動に出たとか。

 我が姉ながら、なんとも凄い人だ。

 

 因みに今日はお嬢様の誕生日で、今も城のホールでパーティーが開かれてるらしい。

 そして…………

 

「大丈夫? エレインさん? 変じゃない?」

「とてもお似合いですよ、チェルシー様と遜色ない程に」

「姉さまと同じ? えへへ」

 

 私は今姉と同じクラシックメイドの服に身を包んでいる。

 

 目覚めて直ぐに姉さまに頼んだのだ。宇宙で漂う私を救ってくれた、誇り高きお嬢様に会いたいと。

 身体はすこぶる快調だったが、勿論絶対安静。そんななか、無理を推しきってお願いしたのだ。

 

 で、エクスカリバーがお嬢様の手で木っ端微塵になって、何故エレインさんと現実で会話してるかというと。

 

「うぅ──」

「大丈夫ですか、マスター?」

「緊張で胸が破裂しそう」

「そこまで大きくは」

「それ以上言ったら捨てるからね」

「申し訳ございません。なのでペンダントを引きちぎろうとしないで下さい」

 

 今、私の首に垂れ下がっているペンダントの中に入ってしまっている。

 しかも、なんと。これはあのエクスカリバーのコア。

 

 生体同期が切り離された後。長時間シンクロしたコアと操縦者を離すのは惜しいという上層部の意向で、このISは私の専用機になったのだ。

 今度、このコアを核に機体を作るという。

 

「この先にお嬢様がいるのね」

 

 そう。城のテラスに繋がる巨大な扉の向こう。その先に、チェルシー姉さまと、セシリア・オルコットお嬢様がいるのだ。

 

「大丈夫ですマスター。宇宙遊泳に比べたらこの程度、屁の河童です」

「…………うん。そうだよね。よしっ、行こう! エレインさん!」

「何処までも、マスター」

 

 これから姉さま、両親と共にお嬢様の従者としての人生が始まる。

 私の、第二の人生が、これから進んでいくのだ。

 

 ドアに手をかけ、意思をこめて、押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクシア・ブランケット! 入ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【カリバーンは星の夢を見る】  Fin。

 

 




明けましておめでとう

今回のエクシアちゃんですが、いかんせん情報が少なすぎて、ほぼオリキャラになっちゃいました。
いろんな所もオリジナル設定を加味して、やりたい放題になりました(笑)

少しでも面白いと思ったら評価、コメントを宜しくお願いします。
コメント返信は1月6日から行わせて頂きます。

それでは(・ω・)ノシ


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