シャルロットがラウラ離れを決意する話。

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IS6巻に出てきたラベンダーのシャンプーを兼用で使ってるシャルラウが尊くて、いつの間にか小説を書き始めてました。
百合もどき。ラウラ離れをしようとするシャルロットのお話です。



『ラベンダー・イズ・〇〇〇〇〇』

『ラベンダーは青い ララ ラベンダーは緑

僕が王さまなら ララ 君は女王

誰が あなたに ララ そう言ったの?

僕の心が ララ そう言ったのさ』~♪

 

古めかしいラジオから流れる歌『ラベンダー・イズ・ブルー』。

6歳くらいの金髪の女の子____シャルロットはクレヨンをぎゅっと抱きしめて、おそるおそる目の前で編み物をしながら歌に合わせ鼻歌を歌っている女性に声をかけた。

 

「あのねえ、おかあさん」

「なあに?シャルロット」

「…ラベンダーの色って紫なのに、なんでこの歌では青や緑色なの?」

声をかけられた女性____シャルロットの母親は一瞬固まったが、すぐに笑顔に戻った。

「まあ、そうね。ラベンダーはシャルロットの瞳と同じ紫色だものね」

シャルロットの頭を優しく撫でながら言葉を続ける。

「青や緑はね、例え青や緑色ではなくても瑞々しい状態の植物に使う色の言葉なの。だからこの歌を作った人は、ラベンダーが当たり一面に咲いていて、日に照らされて光り輝くほど素敵だったって伝えたいんじゃないかな」

シャルロットは想像して目を輝かせる。

「わあ~!そしたらはちみつが、いーっぱいとれてみつばちさんもよろこんじゃうねっ」

「ええ、そうでしょうね」

顔を見合わせてふふふと笑い合う二人。が、すぐにシャルロット母は真剣な面持ちになった。

「それとね、シャルロット。母さんね、この歌の大切な所はラベンダーは青い、ってだけではないと思うの」

「青いだけ、じゃない?」

「うん。色のように目に見えるものではなく、目に見えない大切なものがあるのよ」

「目に見えないのに、あるの?」

シャルロットはきょとんと首をかしげる。

「うん、シャルロット。まだ難しいから分からなくてもいいのよ。でもね、優しさと勇気を忘れなければきっと分かる日がくるわ。少なくとも母さんはそう信じてる」

 

そう言うと、シャルロットの母親は、シャルロットと同じ色の瞳を閉じ、手を組んでそっとつぶやいた。

 

「シャルロットがそれを見つけられますように____」

 

 

***

 

「~~~♪」

とある休日。寮部屋のシャワー室にシャルロットの鼻歌が響いてる。早朝なので、隣の部屋の様子を伺いつつの抑えめな声量ではあるが母親との思い出の曲をハミングする。そしてときおり思い出したようにはにかみ笑いをする。シャルロットは今とても上機嫌だった。

こうなった原因は1時間前に遡る。

 

「ラウラそろそろ起きて!出発1時間前だよ!」

「ラウラ!顔洗った?化粧水使うの忘れずにね~」

「ラウラ!このままで行くつもり?少し寝癖ついてるよ!そうだ、僕そこの部分編み込みしていい?」

 

シャルロットは、出かけるラウラの支度を手伝っていた。

ラウラは、日本の某有名なティーン雑誌から撮影の仕事を受けたのだ。ラウラがそのような仕事を引き受けることはめったになく、シャルロットはいつもと違うことをして心が躍った。

当日着る衣装は、ラウラが前日にケータイで見せてくれた。おとぎの国の妖精をイメージしたものらしく、パステルカラーの紫ロリータでフリルとレースがふんだんに使われている。靴もそれに合わせた真っ白で翼がついている。端的にいうととても女の子ぽい。

 

かわいいもの好きなシャルロット。手伝う気合がますます入る。

ラウラはシャルロットのいつも以上にウキウキした様子に若干困惑しつつも素直に従って、迎えに来たタクシーに乗る直前に「助かった」と顔を少し赤らめながら言った。

その様子を思い出すだけでふふっと笑いがこぼれる。

(今日のラウラかわいかったな~…)

 

いつも無表情にみえる彼女だが時々感情が表情として出る時がある。その瞬間、シャルロットにとってたまらなく好きなのだ。それは、

 

(一夏と親友の僕だけに見せてくれる表情)

だと知っているから。

だからついついお節介かなと思いながらも構ってしまう。

今日だけ特別焼いてしまった訳ではない。ほぼ毎日ラウラのことを面倒を見ていた。

それはシャルロットにとって、とても癒される楽しい一時なのだ。

 

 

 

シャルロットの幼少期。貧しかったけど、学校から帰ると母さんがいつも優しく出迎えてくれて、嫌なことがあった日も泣き顔から笑顔になれる。家も小さかったけど、ぽかぽかした日差しが差し込む素敵なおうちだった。

 

でも、小さい頃は正直寂しかった。母さん以外に家族がいないことが。特に8歳頃母さんの病気が一時的に悪化して入院してしまった時のことはよく覚えている。親戚にも頼れず、シャルロットは家で1人きりだった。あの時「このまま母さんが帰ってこなかったらどうしよう…」って不安で押しつぶされそうだった。家族がいたらどんなに心強いだろう。家族がもう1人欲しかった。

なかでも妹がとびきり欲しかった。同じもの・時間を分かち合えるかわいい女の子が。そしたら、きっと寂しい思いはしない。どうか神さま。妹ができたら大事にかわいがって、僕のような寂しい思いは絶対させないのに。妹が心の底から欲しくて、よく神さまにお願いしたものだった。

 

 

 

 

願った結果、妹はできなかった。でも、今ラウラがルームメイトになって叶ったように思える。

「よし!僕も今日頑張るぞ!」

宣言したあとシャワーを止める。その後すぐに頭を乾かし洋服に着替えて朝ごはんを食べにカフェテリアに向かう。

すると、歩いて5秒もしないうちにのほほんさんトリオに遭遇した。

おはようと、シャルロットがにこやかに挨拶する前に谷本さんに両腕をしっかり捕まれた。

「えっ、なに?!」

突然のことに固まったシャルロットにすかさず、鏡さんと一テンポ遅れたのほほんさんが近づく。

 

「はいはーい!匂い警察です!勤務内容は知ってる人全員の髪の匂いをかぐことです!」

「今日の初取り締まりはシャルロットだよ☆」

「さぁ~観念するのだ~~」

戸惑うシャルロットの匂いをかぎだす三人衆。

 

「あーお主―!朝シャンしてきたな!めっちゃいい香り!」

「なんか甘いけど落ち着くね」

「えっとね、この匂いは」

「まって!あてるから!これは……ジャスミンか、ラベンダー?」

「そう、ラベンダーだよ」

「ラベンダーかー、だけどなんかかいだことあるような…って、本音?さっきから黙ってるけどどした?」

 

鏡さんの言葉通りのほほんさんが笑顔のまま固まっていた。皆に注目されるとゆっくりとシャルロットの髪を触れた。

「やっぱりでゅっちーは~、らうらんと全く同じ匂いするのだ~」

「それでか~昨日ラウラかいだもんな」

「え!わからなかった、嘘!」

「あ、うん。僕が元々愛用していたシャンプーをラウラと兼用して使ってるんだ」

「「「へ~~~」」」

その途端三人はお互いに目を合わせながらにやにやしはじめた。

 

「ほうほうほ~」

「…あれ、なんか変?」

「いや~全然変じゃないけどさぁ、ねー」

「ねー」

全く意味が分からず?マークを大量に浮かべるシャルロットに谷本さんがずばんと言った。

「いやさー、ルームメイトと同じシャンプー使うのエッロいなぁと思って」

「えっ、エロ……!!?なんで…?!」

「えー、だって二人きりの寝室で同じ匂いのした二人がいるんだよ?すなわちエロい!」

「ええ?!」

「けっこ~、でゅっちーとらうらんって付き合ってるの?って、噂されるもんね~」

「そだそだ!そこんとこどうなん?」

「そうなの?!そ、そんな訳ないよ!僕は一…じゃなくて、えっと、皆は普通ルームメイトと同じシャンプーって使わない?」

「えー、私は絶対使わない。普通に仲いいけど」

「私も使わない~」

「もうー!シャルロットとラウラは仲良すぎー!恋愛に発展しちゃいそう!!」

「この前だって、ラウラがシャルロットに__」

(あっ、これはいわゆる女の子同士の恋愛の話がはじまる予感…)

今までの学園生活から経験で察知したシャルロットは逃げようとする。時々絡まれることがあるのだ。

「じゃ、僕はこれでっ」

が、腕を掴まれてるので逃げられる訳がなかった。

「にがさんぞ!」

「だーめ!私らシャルロットとラウラが仲良くしてるの見るのすきなんだ。お話させてよ~」

「ええ~…」

そんな風に頼まれると、お人よしのシャルロットは断り切れない。

「うーん、分かったよ。朝ごはんまでね」

 

(ちょっとびっくりしたなぁ…)

三人衆から解放されたあと、シャルロットは一人、部屋に戻って考えを巡らせていた。ラウラとの仲をそんな風に捉えられるなんて思いもしなかったな…僕とラウラは好きな人がちゃんと好きなのに。

確かに、シャンプーが同じ匂いってから恋人なの思考になるのはいきすぎだと思ってしまったけれど。三人衆に言われるほど、ラウラと兼用のもので溢れているのは確かだ。さらに、お揃いのものと言ったらネコの着ぐるみパジャマから始まり、布団カバー、シャーペン、タオル、…と数えるのが大変になるくらいだ。今までは意識していなかったが、どうしてのほほんさん達に指摘されるほどラウラと一緒なものが増えたのか。

 

(うーん、こうなったのはさ。ラウラが物に頓着しないから僕がいろいろ買ってきたからだよね!うん!)

そうやって自分を納得させようとする。と同時に、最近のラウラの様子が思い浮かんだ。最近のラウラはモフモフに目覚めて、ぬいぐるみはもちろん、小物から流行りのモフモフした洋服まで目についたモフモフは片っ端から買おうとしていた。そこでシャルロットが声をかけた言葉というと。

 

「これ以上増やしちゃダメだよラウラ!洗濯しづらくて大変だから!」

 

 

ラウラ≠物に頓着しない≠This問題の原因

(あれ?)

ノットイコール。ってことは、ラウラが原因ではない?

 

(じゃ、じゃあ、ラウラはお揃いのものを自分から好きに使ってくれてるんだよ!)

と思いながら部屋にあるお揃いのものを眺めてみる。お揃いのもの____全部____シャルロットがラウラに声をかけて買ったものだった。

『ラウラ!どうしてもこの色のタオルがほしいの!だけど2つセットなんだよね』

『ラウラ!これ色違いの2つセットになってるの…1つ、ラウラの分にしていい?』

『ラウラ!買ってきちゃった♪』

 

それに対するラウラの返答。

 

『構わん。片方は私が使うから半分金を出す』

『構わん。好きにしろ』

『構わん』

そっけない返事が戻ってくるばかり。ってことは今回も。

ラウラ≠お揃い好きではない≠This問題の原因

またもやノットイコールの関係。

 

とどのつまり。

(原因は僕だったの!!!???)

嘘でしょ、と大きな声で叫びそうになる。

 

ラウラが子猫みたいでとってもかわいいし妹ができたみたい。そう思ってただけなのに、いつのまにかこんな風に。

ラウラは基本的に無表情だが、この状況を少なくとも嫌がってはいない、ように見える。………そう、見えるだけだ。

内心ではウンザリしているかもしれない。本当は嫌でたまらなくて織斑先生に部屋替えを申請しているかもしれない。

(ううん!ラウラはそんなことはない!ラウラなら普通直接僕に嫌だって言ってく…)

胸中に不安が渦巻く。

(……いや、普通って何?)

 

シャルロットは、自分を普通であると思ったことはあまりない。

小中学校では、いじめや仲間外れはされたことはなかった。しかし、同級生もシャルロットの出自の噂をどこかで聞いていたのだろうか。ただ、時々変な風に気を遣われていると感じることがあった。

ラウラは、そんなシャルロットにとって、初めてできた自分の出自関係なく話せる普通の、友達。

 

(僕は、普通じゃない付き合いをラウラにしちゃったんだ……)

普通が分からないシャルロット。だからこそ、普通を求める。

 

それなのに。過干渉がすぎて嫌われてるなら。

不安の渦はますます大きくなり、「もし」嫌われているならという仮定ではもはやなくなってしまった。

 

不安に飲まれいつもの冷静さを失ってしまったシャルロットが出した答え。

僕は、絡みすぎてラウラに嫌われてる。だとしたら、____ラウラ離れ、しよう。

それが僕にとっての正解。シャルロットは心に固く決めた。

 

18時間後。

授業の復習中のシャルロットの部屋に鍵が回る音がした。その5秒後に

「ただいま」

ラウラの声が後ろで聞こえた。いよいよさっき考えたラウラ離れの実践するとき、

無意識に、シャーペンを握っている手の力がこもる。

根が真面目なシャルロット。ラウラ離れを実践するにあたっての原則を脳内で考えたのだ。

 

第1条 基本的に普通に接する

第2条 テンション高い反応は控える

(そこから猫かわいがり、妹扱いを始めてしまうからね)

第3条 兼用、お揃いのものは減らす

(ラウラがどう思ってるか分からないし周りにからかわれたらラウラに迷惑かけちゃうよ)

 

(よし、自然に自然に…)

「おかえりー、仕事どうだった?」

「まあ…悪くはなかった。送られてきた写真データ、見るか?」

ここで、いつものシャルロットだったら「えっ見る見る!!」と飛び付くところだが、グッと堪える。

「うん、ラウラが見せてくれるならね」

無言でラウラがスマホの液晶画面を差し出す。

小さな液晶に映るラウラのロリータ姿。

黒兎のぬいぐるみをひしっと抱きしめる姿は、とても可憐。まさに美少女。

プロのカメラマンに撮ってもらったラウラは、シャルロットが想像していた千、いや一万倍かわいかった。

(さすがラウラ!!かっわぁぁあああいいいい)

「ロリータ、ラウラによく似合ってるね」

内面ではお祭り状態で今にもラウラを抱きしめそうになったが、にこりと笑顔をつくる。よかった、不自然じゃなくできてる。ホッと息をつく。と、同時に、胸が一瞬ズキンと痛んだ。

(あれ…なんで今ズキっと?)

ラウラがシャルロットの反応に眉をひそめた。

「…シャルロット。いつもの覇気はどうした」

内心ギクッとしながらそれでも笑顔は崩さない。

「?大丈夫だけど?確かにここ最近休んでなかったから疲れたかもしれないね」

と答えながら心の中では

(うまくかわせた…!シャルル・デュノアだったときの経験が今初めて役に立ってる!)

その後シャルロットはラウラとたわいのない言葉をいくつか交わした。

「じゃ、おやすみ」

消灯を消してベッドに入る。

まもなくラウラのかわいい寝息が聞こえた。

だが、シャルロットはすぐには寝付けない。

さっき胸がズキッとした後に、モヤモヤしたようなものが残ったのだ。

(どうしたんだろう僕…)

本当の自分を隠すことは、デュノア家に引き取られてから毎日してきたことだ。最初は同じように胸が痛かった。だけど、しだいに慣れていった。シャルル・デュノアになった時も、使命を遂行するために必死で脳内のシャルロットを殺し続けた。それでも胸は痛まなかった。それなのに、ラウラの前で理想のシャルロットを演じてからこの胸のモヤモヤは一向に晴れない。

(ラウラ相手に演じるのは初めてだから。まだ、慣れなくて戸惑ってるだけだよね?)

モヤモヤを取り除くために布団の中で自分をぎゅっと抱きしめててみた。

腕の温かさで少しだけモヤモヤが、やわらいた。

(大丈夫だよきっとうまくいく。勘のいいラウラにもバレてないんだから!)

大丈夫大丈夫、と言い聞かせているうちに眠気に襲われて、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ離れを最初に実行した日から、二週間ほど経ち。

シャルロットは成功しつつあった、と自分では思っている。

別に、無視したり避けたりなどはしていない。不自然に実行してはいけないと最初に決めていた。ただ、自分から進んでラウラの世話をしなくなったり、お揃いのものは少しずつ自分の収納にしまった。

ラウラ離れのきっかけを作った、シャンプーの香りも変えた。お風呂から上がったシャルロットを見て不思議そうな顔をしたラウラに、「ラベンダーすぐに飽きちゃって」と一言。何か言われるのではと緊張して心臓バクバクだったが、ラウラがそれに対しなんも返事を返さなかった。それには内心拍子抜けした。

 

確かに今までとは違っていて落ち着かない……それにモヤモヤは続いている。でも徐々に続けていけばきっと慣れるから。それまでの我慢だよ、僕。

ソワソワする度に、シャルロットは思うようにした。

 

そんなある日の放課後。

教科書をを鞄にしまっていると、ラウラがシャルロットに耳打ちをした。

「特訓前にアリーナの裏に来い」

それだけを言うと鞄を持ってすぐに教室へ出ていってしまった。

「えっ?」

(アリーナ裏ってどこ?それと今?)

慌てて顔を上げると、すでにラウラはいなかった。言葉通りアリーナに向かっているのだろうか。

(とりあえず行ってみようかな)

 

アリーナの普段の特訓する場所にはいなかったのでその場所とは反対の場所に向かう。するとすぐに、遠くに小さなラウラの後ろ姿が見えた。

 

「ラウラ?」

近くによって声をかけるとラウラがこちらを向いた。

「よく来たな、シャルロット」

ラウラは、いつも以上にキリッとした表情をしている。

「えーと、なんでここに?」

「それは決まっているだろう。日本の漫画では、大事な話は必ず体育館裏でするものだと決まっている。だが、この学園には体育館が存在しないのでな」

フフンと得意そうに鼻をならすラウラ。また偏った知識を黒ウサギ隊から仕入れたらしい。

それは違うよと言いかけるシャルロットだったが、話がややこしくなりそうなので慌てて言葉を飲み込む。

「そっか…大事な話ってなにかな」

「…うむ。それなんだが、単刀直入に聞く」

 

「シャルロット。お前は私のことが嫌いになったのか?」

「ええ!!?なんで??」

 

ラウラは腕を組みながら答えた。

「なぜなら、私が2週間前に撮影から帰ってきて時から今までと接し方が違う」

(っ…バレてたの…!?)

内心では汗をダラダラ流すが、にこやかに答える。

「僕がラウラに?思いつかないな。思い出せる例はある?」

「フン。あくまでシラを切るつもりか。そのつもりならこちらも受けて立つ」

ラウラが制服のポケットから小型のメモ帳を取り出す。

「これは、お前がとった普段と違う行動をまとめたものだ。できる限り書いてある」

手渡されたメモの内容はシャルロットが実際ラウラ離れするために行っていたものだった。

 

(最初からもうバレて――――!?)

顔が真っ青になった。

これからどうするか。これらを否定して、隠し通す道もある。

これ以上隠したらさらにこじれてしまうのが目に見えていた。

(もう、正直に打ち明けよう)

一回落ち着くために深呼吸をする。

 

「ごめんラウラ!」

下を向きながらバチンと手を合わせる。

「なんだ。やはり私のことが、」

「違う!今までの行動は僕がラウラ離れをするために行ったことなの!」

「…ラウラ離れ?」

言葉を繰り返すラウラに、これまでの経緯―――のほほんさんから始まってラウラ離れの実行まで―――を息もつかずに説明した。

 

「…という訳だったんだ」

最後まで説明し終わることができたが、不安でいっぱいだった。

(ラウラ…絶対僕のこと呆れてるよね)

ちらりとラウラの顔を見るが、無表情のままだ。

(うう…)

 

シャルロットがそう思った瞬間に、

「…った」

ラウラの口が動いた。だけど声が小さすぎて聞き取れなかった。

「え?」

思わず聞き返してしまう。すると、ラウラはまっすぐシャルロットを見上げた。

「分かった。シャルロット、私離れは直ちに中止しろ」

「えっ!?でもーー」

 

 

「噂なんてくだらないものを気にするのはよせ、好きに言わせておけばいいんだ。兼用をするのはおかしくない、場所とコストを抑える最善の方法だ。ルームメイトとお揃いが増えることは、い、嫌ではないし…。これらから仲が良くて付き合ってる!っていうのは実に浅はかだ。大体ルームメイト同士仲が悪いほうが問題だろう。私がお前に嫌われたら…」

ラウラの言葉が急に止まった。

「……お前に嫌われ…嫌われ」

ラウラの声が大きく震えた。シャルロットがなにか声をかける前に後ろを向いてしまった。

ラウラは何かを我慢している。そしてそれが、何かは分かった。でも、聞かずにいられなかった。

「ラウラ…もしかして泣いてるの?」

「言いがかりはよせ!軍人たる私が仮定の話で泣く訳がない!…ひぐっ」

そう言ってはいるが、背中が震えている。やはり正解のようだ。シャルロットはいてもたってもいられなくなった。

(ラウラ…)

「僕…不安にさせてたんだね…」

「ひぐっ…ひぐっ…」

ラウラは手で口を閉じているようだが、小さな嗚咽がシャルロットの耳に届いた。

 

思わずラウラの小さな背中を強く抱きしめた。

(あ…抱きしめちゃった。でももう、これ以上続けるのは無理)

「ラウラ、本当にごめん。僕もうラウラ離れするのはやめる」

「…そうしろ…噂なんてもう…ひぐっ…気にするな」

「うん。それにね、聞いて。僕はラウラのこと絶対嫌いになったりしない!」

「…それは本当か?」

「本当だよ!僕はラウラのことずーっと、大好きだから!」

 

大好きといった途端、シャルロットの脳内で母さんの歌声がよみがえった。

 

『あなたが ララララ 大好きよ』~♪

 

(えっと…あれ?なんの歌だっけ?)

思いだそうとしている内に、ラウラがシャルロットからスッと離れた。

「…私離れを二度としないのなら、この話は終わりだ。今から別件に入る」

ラウラの切り替えの早さに驚きながら、シャルロットは姿勢を正した。

「う、うん!なにかな?」

ラウラは鞄から正方形の箱を取り出した。

「これはいつも世話になっている礼だ」

 (え、ラウラが僕に?)

「ありがとう。今開けてもいいかな?」

「構わん」

そう言うとラウラは横を向いた。

(ラウラから何かもらうって初めてだよね…)

ドキドキしながら箱にかかっている白いリボンをほどくとそこには。

「!!」

 

紫色のした小ぶりでかわいらしい香水瓶。…というだけではない。これは、シャルロットにとって見覚えがありすぎる品だった。

「ねえ、これって…僕の」

驚いて、途中で声がかすれた。

 

 

***

 

 

 

 

 

ラウラがその香水瓶を知るきっかけになったのは、自身がしたささいな質問からだった。

 

「なぜシャルロットは香水にこだわるのか?」

ショッピングセンターに行くとシャルロットは毎回香水コーナーへ寄っていた。そして、あれも違う、これも違うと香水を試す。それをふと思い出したラウラは、寝る前に尋ねた。

「うーん、香水自体にはこだわってないんだ。これを探している、っていうのが正しいかな」

シャルロットは、軽く微笑むと自分の収納ケースからポーチを取り出した。チェック柄の、綺麗ではあるが使い古されたポーチ。その中に、それは入っていた。

____ただし、空瓶だったが。

「これ、僕の母さんのモノでね。亡くなって身品引き取りの時に、もらったんだ」

 

「毎朝エプロンにこの香水を吹きかけるのが母さんの習慣だった。ラベンダーの優しい香りが母さんが動く度にしてね。母さんが料理してるときにこっそりエプロンの香りをかぐとすごく幸せな気持ちになったの」

 

「母さんが亡くなった後で僕も香水に興味を持ってね、この香水を買ってみようと思ったの。だけどこの瓶、名前が書いてないでしょ?名前を知って、お小遣いで買いたくて。学校が休みの日はお店に通っては同じのがないか探したんだ。だけど、どこにもこの香水は置いてなかった。だから、母さんの香水は、もうどこを探しても見つからないと思う。でも、あの香水とできるだけ近いものを使いたいから、ついつい探しちゃうんだ。……まあ、実のところ、あれから何年も経っちゃったから、もう匂いは覚えてないんだけどね」

 

 

そう言って、えへへと笑うシャルロットがラウラの瞳にそこはかとなく儚く映った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…僕の、母さんの香水」

やっとの思いで言うと、まじまじと手の中の香水を見つめた。

ここにあることが、まだ信じられない。

 

 

 

 

シャルロットは、この香水を出すまでラウラに香水の話をしていたことをすっかり忘れていたのだ。

「私も気になってな。これは、黒ウサギ隊に協力してもらって探してもらった。案外すんなり分かったぞ。年に一回の数量限定販売だった。分かってから至急特注で作ってもらった」

 

言葉にならない思いで頭が一杯になった。ラウラに沢山伝えたい。しかし、ようやく口から出たのは。

「覚えててくれてたんだね…」

「覚えているにきまっているだろう」

「……値段は?」

「大したことない。この前の仕事代くらいだ」

「…」

「そんな顔をするな。さっき言っただろう。これは、日頃から世話になっている礼だと」

 

(ダメだ、こんなことをラウラに伝えたかったんじゃない………!)

色んな思いと考えが混ざって頭がぐるぐるする。

 

ラウラは、頭を抱えているシャルロットの手からひょいっと香水を取った。

「お前が探していたのはこの香りか、シャルロット?」

シュッシュッシュッと三回、アリーナ内を吹きかけた。

ラベンダーの香りがシャルロットとラウラを包んだ。

 

その瞬間だった。

シャルロットの脳内に、記憶がいくつか鮮烈に甦った。

まずは、母さんと暮らしていた小さなおうち。

陽がいつも差し込むぽかぽかした家だった。

 

次に、母さんの姿。

編み物をする母さん。料理を楽しそうにつくる母さん。悲しいことあった時に抱き締めてくれた母さん。

沢山の母さんの姿が浮かんでは、消えた。

 

記憶の母さんが、優しく包み込むような歌声を響かせた。

 

『ラベンダーは ララララ 青く輝く

あなたが ララララ 大好きよ』~♪

 

 

 

(母さん…………!)

やがて香りが鼻に馴染んで、母さんの姿はふっと消えてしまった。

 

 

でも、今、シャルロットは幸福感でいっぱいだった。

これまでも、代わりに買ったラベンダーの香りでふっと昔のことを思い出すことよくあった。だけど、ここまで思い出すのは初めてだった。

 

 

気がつくとシャルロットは目の前の黄色の瞳に見つめられていた。

いつから見られていたのだろう。でも全然イヤな感じはしなかった。

それは、ラウラだから。

一見無愛想で、何を考えてるのかよくわからなくて。

でも、強くてかわいい、誰よりも心の優しい、ラウラだから。

そんなラウラが、母さんとの思い出の品を見つけてくれた。

その事実に気づき、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

 

 

「ありがとう、ラウラ。………ずっと大切にするよ」

 

 

 

 

 

 

「1ヶ月振りの!!」

「匂い警察出勤だよ!!!!」

数日後。

「取り締まり~取り締まりだ~~」

シャルロットはまたまた廊下でのほほんさんと愉快な仲間たちに絡まれていた。今度はラウラと一緒に。

意気揚々と二人に近づく三人衆。しかし。

「あれっ!!?」

「シャルロットから、ラベンダーの香りがしないじゃん…」

「ああ、今柑橘類のシャンプーにハマってるんだよね」

えへへと笑うシャルロット。これは、三人衆対の言い訳ではなく本当のことである。

使ってみたら案外フレッシュな気持ちになっていいのだ。

 

「ラウラは相変わらずラベンダーなんだね」

「気に入っているからな」

腕組みをして得意気に胸を張るラウラ。

「あああ~お揃いじゃなくなっちゃったのか!」

そこで、谷本さんがあることに気づく。

「あれっ、ラウラ制服に香水つけてない?」

「うむ。最近からつけはじめた」

「あっほんとだ!しかもこれは、……ラベンダー?」

(え?僕全然気づかなかったよ)

つい、ラウラの制服の襟をスンスンとかいだ。

「これ、僕にくれた香水と同じラベンダーだね、僕のを使ってるの?」

「いや、試したときに気に入ったから自分にも買ったものだ。これは本当に落ち着くな」

「ふふっ、ラウラがラベンダーの香り好きになってもらえて嬉しいよ」

「そうだな。ラベンダーの香りをかぐとシャルロットがいつも近くにいるみたいで、好きだ」

そう言ってラウラはシャルロットをまっすぐ見つめる。

 

「え」

一瞬にして、沸騰したかのように顔が真っ赤になった。

その様子をまじまじと見た三人衆はおおっと歓声をあげた。

「え!!両思い!!」

「お~アツアツですなぁ~~」

「末永くお幸せに~お邪魔ものは退散っ!」

 

「?なぜあいつらは盛り上がっているのだ?」

楽しそうに走り去る三人衆の後ろ姿を見て、ラウラは心底不思議そうに呟く。

その説明をする心の余裕がシャルロットにはなかった。

(ラウラってば、本当にズルいよぉ…)

さっきの「好きだ」。

香水だって分かってるのに、自分のことを言われた気がして。

何故か、さっきから心臓が自分でも分かるほどドキドキ鳴っていた。

(落ち着け僕…そうだ!ラベンダーをかげば…)

もう一度ラウラに近づいて、匂いをかいだ。

やっぱり、それは優しいラベンダーの香り。

 

 

かつて、その香りは母さんと過ごした日々を思い出すものだった。だけどこれからは、母さんだけではない。この香りとともに、大切な親友であるラウラとの思い出ができるのだ。そう思うと最高にワクワクしてきた。香水に負けないくらい、優しくて素敵な時間を過ごしたい。ラウラと僕で、同じ香りをさせて。

 

「ラウラ部屋に一旦戻ろう!僕も香水つけたい、お揃いの!」

 

頬を上気させて、ラウラの手を優しく手に取る。

ラウラの少し驚いている様子に、少し嬉しくなってこの前思い出した歌の歌詞を思ってそっとハミングした。

 

 

 

♪『ラベンダーは緑 ララ ラベンダーは青い

愛してくれるのなら ララ 僕も愛するよ

鳥たちは歌い ララ 羊は遊ぶ

僕たちは二人 ララ 安らかに暮らそう』

 

 

――――――『ラベンダー・イズ・ ○○○○○』

 




長い!長すぎる!ここまで付き合って下さった方ありがとうございました!シャルラウはいいぞ。いやラウシャル?まあどっちでも美味しい。………ですよね?

ー追記ー
Lavender is blueって曲は実際存在してます。英語のわらべ歌の母として有名なマザーグースが、歌集ナーサリー・ライムに収録した作品の1つです。それなので、元々欧米圏では親しまれていました曲でしたが、近年公開された、ディズニー実写版「シンデレラ」のテーマ曲になったことでさらに世界にまで知れ渡りました。
冒頭と最後の歌の引用ですが、筆者が原曲を訳したもので、記憶のシャルロット母が歌う方は、シンデレラ内の吹き替えverを使わせていただきました。
色んな人がカバーしているのですが、筆者はLaura wrightさんのカバーが 好きです。透明感あふれる天使の歌声で、デュノア母娘が歌ったらこんな風になるんじゃないかな。
YouTubeにあるのでぜひ聞いてね。

あと、筆者この小説、パソコンが調子おかしくてスマホで書いてたので誤字ばっかです…誤字報告求む


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