目を覚ますと分裂してました。

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シャルロットとシャルル

 それはよく晴れた日の朝だった。

 特に何かある訳でもない、ごく普通の日。授業があり、友人達と昼食を共にし、ISの訓練をこなす。その過程で気になる異性とスキンシップを取れればいい。

 そんな些細な一日──になるはずだった。

 

「んぅ……」

 

 アラームの音が鳴り響き、朝の目覚めを促す。

 シャルロット・デュノアは微睡みながら、その音を止めるように手をのばした。

 

 ふにゅん。

 

「ん……?」

 

 しかし、触っても音を止めるスイッチはどこにもない。

 そもそも、この部屋の目覚まし時計はこんなに柔らかかっただろうか。

 

(あぁ、ラウラか)

 

 シャルロットはそれが目覚まし時計ではなくルームメイトのラウラ・ボーデヴィッヒだと認識し、しつこく鳴っている目覚まし時計を今度こそ止めた。

 だが待てよ。ラウラの胸はあそこまで大きかっただろうか?

 むしろ、自分の胸くらいの大きさだったような気がする。

 

 なお、この話題をラウラ当人の前ですれば銃口を向けられること間違いなしである。

 

「じゃあ一体……?」

 

 シャルロットが目を開くと、隣には寝間着姿の上からでも分かる胸の膨らみ。腰まで伸びた長いブロンドヘアー。

 そして、よく見知った中性的な整った顔立ち。

 

 そこにはシャルロット・デュノアがもう一人いた。

 

「朝……?」

 

 目の前にいるもう一人のシャルロットもまた目を覚まし、自分同士で目が合う。

 

 

「わああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 一瞬の間を置き、ステレオサウンドで一人の悲鳴が上がった。

 

「な、な、なんで僕がもう一人!?」

「それはこっちのセリフだよ! 君誰!?」

「僕はシャルロット・デュノアだよ! 君こそ誰!?」

「僕がシャルロット!」

 

 同じようにパニックに陥りながら、同じような問答を繰り返すシャルロット達。

 鏡合わせか双子のようにも見えるが、どちらも正真正銘シャルロット・デュノア本人のようだ。

 

「……いや、待てよ? 君、胸は?」

「へ?」

 

 後から起きた方のシャルロットが、先に起きた方のシャルロットの身体を凝視する。

 同じ寝間着を着ているはずなのに、確かに身体の凹凸が少ないようにも見えた。心なしか肩幅も広い気がする。

 

「嘘、嘘嘘嘘!?」

 

 先に起きた方のシャルロットも自身の身体への違和感を感じ、咄嗟にズボンの中を見た。

 

 

「わあああああああああああああ!? ついてるうううううううううう!?」

 

 

 今度はモノラルサウンドで悲鳴が上がった。

 どうやら、立派な象がいたようである。

 

 

 しばらくした後でお互い冷静になり、改めて状況を分析する。

 

「整理しよう。朝起きたら、僕が増えてた」

「そして僕が男になっていた」

 

 が、余計に訳が分からないままであった。

 性転換とかなら日本の薄い本と呼ばれるもののジャンルにあると聞いたが、まさか自分が分裂して片方が性転換するなんて夢にも思うまい。

 

「とりあえず、シャルロットが二人だとややこしいから君はシャルル・デュノアってことで」

「わかった……まさかまたこの名前を使うことになるなんて」

 

 男になった方のシャルロット、改めシャルルはかつて使っていた偽名に溜息を吐いた。

 

「それじゃ、僕は学食に行くから。シャルルは外に出ないようにね」

「そ、そうだね……うん」

 

 ともあれ、普通にシャルロット・デュノアは健在なのだ。シャルルの存在さえ隠せれば日常生活に不備は生じない。

 後で食べるものは持って来るから、とシャルロットは朝の支度を済ませて行く。

 その姿を、ただ何をするわけでもなく見つめているシャルルであった。

 

 

◇◆◇

 

 

 何度目かのチャイムが鳴る。今のは授業の終わりのチャイムだろうか。

 どちらでも、シャルルには関係のない話だった。

 リヴァイヴもお金もシャルロットが持って行ってしまった。今頃は彼女が皆と楽しく日常を送っている。

 

 だがシャルルはどうだ。名を奪われ、愛機を奪われ、友を奪われた。

 

「いや、奪われたも何も、どっちも僕だから」

 

 浮かんできた暗い思考にセルフで突っ込みながら、シャルルは部屋の中で退屈そうに本を読んでいた。

 

 

◇◆◇

 

 

 授業も終わり、シャルロットはいつも通り一夏達と訓練用アリーナへ向かう。

 が、そこには既に先客がいたようだ。

 

「誰か使ってるみたいだな」

「そうだね……それにすごい人気」

 

 大勢の取り巻きが黄色い声援を送る中、操縦者はラファール・リヴァイヴを華麗に使いこなし浮遊したターゲットを次々に撃ち落としていく。

 それもライフル一丁だけでなく、次々に銃火器を変えて臨機応変に対応している。

 その姿はまるで、戦闘時のシャルロットそのものだった。

 

「まさか……!?」

 

 操縦者が降りて来て、目元を隠していたバイザーを外す。

 それは紛れもなく、シャルロットと瓜二つの顔。

 

「えっ!? シャルロットが二人!?」

 

 リヴァイヴの操縦者の顔を見て、一夏達も当然驚く。

 そんな中、取り巻きをかき分けてシャルロットはシャルルへの詰め寄った。

 

「やぁ、シャルロット」

「どういうつもり? 外に出れば騒ぎになるだけだって」

「いい加減飽きてしまったんだ。君の陰でいることに」

 

 シャルルは悪びれることなく、逆にシャルロットを見据える。

 不遜な態度は明らかに今朝のシャルルとは違っていた。

 

「"シャルル"は身勝手な理由で生み出され、君の身勝手な理由で捨てられた。そして、今度も僕は何も貰うことなく軟禁状態。僕だって"シャルロット・デュノア"なのに!」

 

 彼の言う通り、シャルル・デュノアという偽名はシャルロットが男性操縦者として、既に存在した男性操縦者の一夏のデータを盗むために用意されたものだった。それを、スパイをやめて女の子として学園に残りたいということでシャルロットは本名で所属することになった。

 シャルロットは今、理解した。目の前のシャルルは亡霊なのだ。切り捨てたはずの自分自身の負の部分そのものなのだ。

 

 

「あとまぁ折角男になれたんだし、一夏と男友達として密接に関わるのもいいかなって。あと女の子にもモテるみたいだし中々満喫出来そうだよね」

「欲望駄々洩れだよ!」

 

 

 余程溜め込んでいたのか、欲望を垂れ流す自分にセルフで突っ込みを入れなくてはならない。

 こんなのが自分の側面だなんて、とシャルロットは頭を抱える。

 

「と、いうわけでどちらが本物のシャルル/シャルロット・デュノアとして残るべきか決着を付けようじゃないか!」

「えぇ……」

 

 流れるように決闘を申し込むシャルル。変装時代、ここまで貴公子然としてただろうか。

 同意を求めるように振り返ると、流石に一夏達は困惑してるようで状況を見守るしかないようだった。

 

「大体、なんで男になったのにISが使えるままなの?」

「そういう設定で作ったからでしょう?」

「そうだった……」

 

 男性操縦者という設定がそのまま反映されたようである。まぁ、そもそも分身という非常識な存在なのでこれ以上何が起きてもおかしくはないのだが。

 戦う気満々のシャルルに対し、シャルロットはまだ困った風にただ一つ残った明確な問題を突き付ける。

 

「別にいいけど……こっちには専用機(リヴァイヴ)があるよ?」

「あっ」

 

 

 

 威勢よく挑んだまでは良かったが、量産機ではカスタムを重ねた専用機には勝てなかった。

 それこそ、某キリング・シールド並の技量があれば覆せないことはないが、二人の実力は互角。ならば機体の差が勝敗を分けるのは明確だった。

 

「なんか、ゴメンね」

「バカな……僕の野望が」

 

 前振りの割にあっけなく勝負がついてしまい、居た堪れなくなったシャルロットは謝ってしまう。

 そのことが屈辱を更に増し、シャルルは膝をついてしまった。

 

「……その、君も僕の一部としてちゃんと受け止めていくから。だから、こちらに帰っておいで」

「……分かった」

 

 戦力差があったとは言え負けは負け。シャルルは大人しくシャルロットに従った。

 だが、これでシャルロットも忘れないだろう。彼もまた、彼女を形作る上での一部分であったことを。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「んぅ……」

 

 アラームの音が鳴り響き、朝の目覚めを促す。

 シャルロット・デュノアは微睡みながら、その音を止めるように手をのばした。

 

「ん……?」

 

 なんだか変な夢を見てしまった。

 どことなく寝起きの悪いシャルロットは先程まで見ていたなんとも言えない夢の内容を思い返す。

 まさか男として学園に入り込んだ頃の自分が分身として現れるなんて、夢でもなきゃあり得ない話だ。

 さっさと目を覚ますべく、シャルロットがベッドから身を出すと。

 

 

 

「僕の名は魔法少女しゃる☆ろっと! どちらが本物か勝負して決めよう!」

 

 

 

 

「わああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 この世のものとは思えないものを見たかのような、悍ましい悲鳴が寮内を木霊していった。

 

 次回、シャルロットvsしゃるろっと!




次なんてない。敗者に相応しいエンディングを見せてやる(自虐)


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