駆逐棲姫が鎮守府にスパイとして潜入した話 作:カマタマーレ讃岐
「...どうして...」
目の前には、ぱちぱちと紅や黄色の落葉を焦がす炎。その炎から飛んで来る火の粉がこっちに降り掛かってきて、地味に痛い。
そんな炎の上で焼かれているのは、芋。
「ん?どしたの春雨」
私のくすんだ視界の隅を通り過ぎるのは土まみれになった手を気にすること無く、芋を運ぶ司令官。
だが、待って欲しい。これは"提督主催"の焼き芋大会であるはずだ。
なのに、どうして、どうして...
「____どうして私が芋を焼いてるんですかっ!??」
◇◆◇
「ねぇそこの君!突然だけど芋焼いてかなーい?」
「は?」
昼下がり、廊下を歩いていたらそのものズバリ、不審者に声を掛けられた。
背丈は私と同じくらいか、少し上の__アヤシイ黒フードの人物。
え、この人誰...?なんて感想を初めは抱いた私だったが、しばらくして直感で気付いた。
____これ、白露姉さんだ。
不審者の格好をして、不審者の振る舞いをする彼女。
...どうやらタチの悪い新手の企画が私に接近しているようだった。
「ごめんなさい、私は興味無...」
「__まぁまぁそう言わずに!1回焼いてみれば焼き芋の楽しさが分かるからさ!ねっ?」
ちょ、力強いって白露姉さん...!というか、焼き芋の楽しさって具体的に何?
それとなく参加を辞退しようとしてみるが、彼女の素早い身のこなしからは逃れられない!
気づいた頃にはガチッと右腕を両腕でホールドされ、たちまち身動きが取れなくなってしまった。
「あの...昨日言いましたよね?『私は焼き芋大会に参加しない』って」
「はいそれウソー!村雨がさっき『春雨が焼き芋食べたそうにしてた』って言ってたぞ?」
...確かに、一昨日まではそうだったんだろうけど。
つい昨日の事だ。___私は多分、夕立姉さんと初めて喧嘩した。
あの時、感情に任せて言いたいこと言ってみたは良いものの、その後、会う度夕立姉さんと目を合わせられない、まともに口を聞けないわで、なんだか気まずい空気になってしまった訳である。..."もう1つ"要因はあるけれども。
そういう事もあって、次の朝から夕立姉さんを見る度に胸がキュッと苦しくなり、朝の食事も喉を通らなかった私。
そんな私が焼き芋なんか食べられる訳が無い、"食べていいはずがない"のだ。
「...だから、私の事は放っておいて下さい。これは私のせいなんですから...」
なんだか、白露姉さんを視界に入れるのも申し訳なくなってきて、罪悪感に苛まれた私は思わずがくんと項垂れた。下を見れば、自分のちっぽけな足。
「そうか、なら...しもべA!」
__突然、白露姉さんが叫んだ。...しもべA?
スッ...と廊下の右脇から現れたのは、白露姉さんと同じ黒フードの人物。
「はいはい。僕しもべじゃないけどね」
いったい誰...いや、時雨姉さんだこれ...っ!
「しもべB!」
白露姉さんが続けて叫ぶ。
しばらくすると、廊下の左脇から黒フード...ではなく色違いの白フードが勢いよく飛び出した。
「はいっ!輸送任務はさみっ...じゃなかった!しもべBにお任せ下さい!」
うわー、深く考えなくても五月雨ちゃんだよこれ〜。
というか、まるで隠す気ないよねこれ。顔はっきり見えてるって。
「ふっふー。驚いたか春雨よ」
そう言いながら漆黒のマントをばさりと広げた白露姉さん。
その隙間からいつもの白露型の制服がバッチリ見えてしまっているのだが...?
そりゃあもう驚き...というかもう呆れすぎて言葉もでないよ白露姉さん...。
「___ほい、隙ありっ!」
「え」
白露姉さんのかかれーっ!という掛け声と共に、一斉に飛びかかってきた
私は既に白露姉さんにガッチリとホーミングされていたためもちろん動けない。
あっという間に3人に担ぎ上げられ、上げられ...
「ちょおっ、どこに連れてく気ですか...!」
「それは着いてからのお楽しみー!あと、スピード上げるから気をつけてね」
えっさほいさとどこか見知らぬ場所へと運ばれていく、擬似騎馬状態となった私。
しかし、やたら手際が良いのか、眼下に見える廊下の景色があっという間に過ぎ去っていく。それと同時に4人の駆逐艦娘が、風を切る。
...しかし、どうして私は運ばれているんだろう...?
「ねぇ春雨」
輸送中、左脇に控える時雨姉さんがおもむろに口を開いた。
「君、夕立と喧嘩したんだって?」
「な、なんで時雨姉さんがそれを...!」
私が皆の頭の上で驚愕していると、五月雨ちゃんが村雨姉さんから聞いたんですよ、なんてことを言ってきた。
む、村雨姉さん...!どうして告げ口を...。確かにあの喧嘩の現場に居たけれど...!
「あっ、もしかして私を夕立姉さんの所に連れてくつもりですか!?やめてくださいあの人とは顔も合わせたくないんです」
「んなもん...話してみないと分かんないでしょ!」
先方の方を担当する白露姉さんが若干息を上げながら、ぷんぷんしてきた。
...も、もしかして私、重い?
「夕立は、春雨の気持ちを知りたがってるはずだよ。春雨、君はどうしたいの?」
「...っ」
時雨姉さんの問い掛けに思わず反応しそうになって、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。
昨日話してみて分かった。夕立姉さんは私の事を全て知ったつもりでいるのだ。
__少し前に、私は皆のことをもっと知りたいと、理解したいと村雨姉さんと、夕立姉さんに打ち明けた事があった。
でも、その願いは叶わない。何故なら、私はスパイだから。
いつかあなた達に、刃を向けなくてはいけない存在だから。
__こんな私を知られたくない。こんな気持ちを抱き始めたのはいつからだったのだろう。
そうやってただ俯き続ける私を見かねた時雨姉さんが、こんなことを口にした。
「じゃあここで質問。春雨、仮に君が夕立に嫌われたらどうする?」
「き、嫌...ッ!?」
愉快そうに趣味の悪い質問を投げかけてきた時雨姉さん。条件反射で私の口から動揺の言葉が漏れ出す。
夕立姉さんに、嫌われる...!?
な、なんですかその悪趣味な質問...っ!そんなの...そんなの!
「__嫌われるなんて絶対嫌です!」
傷だらけの心が抗う様に叫んだ。
「あーっ、惜しい。僕、その続きが欲しいんだけどな」
こ、この人は...!いつもそうやって人を弄んで...!
...でも最近分かってきた。
時雨姉さんは、やさしい人だ。こうやって口だけは人の心を弄ぶけど、その奥には温かい気持ちが確かにあるんだ。
白露姉さんも、時雨姉さんも。
村雨姉さん、五月雨ちゃんも。
そして、夕立姉さんも。
「___私、夕立姉さんと話し合ってみます」
_____みんなみーんな、大馬鹿者だ。
◇◆◇
「うーん、おいしい〜」
私の目の前には頬いっぱいに芋を蓄え、嚥下する白露姉さん。
そして、それに混じってちゃっかり芋を食す時雨姉さんと五月雨ちゃん。
もっとも、この2人は咀嚼中に喋る白露姉さんとは違って、ただひたすら芋を口に含ませていたが。まぁ、お行儀はいいよね。...
__うん、やっぱりおかしい。
私は、夕立姉さんに会いに行くために、駆逐隊の皆に担がれてここまでやって来た。
仮に、この世界が無数の
そう、何処を探しても夕立姉さんは居なかった。
私がそうこう戸惑っている所に、芋を焼く助っ人を探していた司令官がやって来て...捕獲され今に至る...という訳だ。
どこか遠い場所を見つめていた私に、何やら満足気な様子の司令官が声を掛けてきた。
「ほら、芋のおかげで気持ち楽になったでしょ」
「...司令官の目ってもしかして節穴だったりします?」
芋焼き係という、中々ハードな職に抜擢されてしまった私。
正直言って...もくもくと立ち上がる白煙が時々目に入り込んでめちゃくちゃ痛い。
別にこんな仕事、断っても良かったはず。今となって過去の私を非難しそうになるけど...。
司令官に声を掛けられた時、真っ先に私の視界に映ったのは高く積み上げられたさつま芋ではなく____土まみれの彼女の体だった。
それに、本来だったら昼過ぎで終わらせるハズだった焼き芋大会を、司令官は私と夕立姉さんの為に延長してくれたという事実。
手伝ってあげよう...みたいな良心の呵責とかじゃなく事務的な心情が働いただけ...。本当である。
「でも...確かに火を見てると少しだけ気持ちが軽くなるかもしれませんね。なんとなくですけど」
「ふふ、でしょ?...」
そう言って司令官はしばらく、火を見つめ続けていた。
...一瞬、少し憂いを含んだ様な表情に見えたのは、気のせいだろうか。
しばらくして明るい顔に戻った司令官が、こんな事を言った。
「人間にはね、火を見ると安心する遺伝子が組み込まれてるんだって」
突然、科学的か哲学的なのか分からない話題を口にした司令官に、私は意図が分からずただ小首を傾げるのみだった。
それでも、せっかく振られた話題なのだからと、私はそれとなく当たり障りのない返答をする事にした。
「じゃあ、その例の通りなら司令官も火を見ると安心するんですか?」
「普通の人間だったらね。...でも...私は”火が嫌い”」
「え?」
かすれた声で司令官が呟いた『火が、嫌い』という言葉に、私は少し愕然としてしまった。
火を使うのが怖いという人は一定数いるけど、”火”という存在そのものを敬遠するなんて珍しいと思ったからだ。
「でも、子供の頃は寧ろ大好きだったんだよ?昔、小学生のときにみた、キャンプファイヤーがすごく綺麗でね」
それからは、司令官が”火の美しさ”について饒舌過ぎるぐらい事細やかに語ってきた。
「それでね...が...こうで...」
「あ、あはは...」
最初は愛想笑いを浮かべながら、黙って話を聞いていた私。
あまりにも話しかけてくるので、お手洗いに行ってきますとか適当な理由でも述べて場を抜け出そうと思った私だけど...。やめた。
___この話は"聞かなければいけない"気がする。
とりあえず司令官が言いたいこと全部言うまで、ちゃんと耳を傾けなきゃ。
それはあくまで予感だったけれども、この場に私を縛り付けるには充分すぎた理由だった。
「___って、ごめん春雨!ちょっと話し過ぎたかも...」
かなりの時間が経った頃、司令官が正気に戻ったみたいに弾けた。
「いいんですよ司令官。私も芋焼いてるだけじゃつまらなかったですから。ほら、芋もいい具合に焼けてきたんじゃないですかね」
数十分前に灰から芋を掘り返して、そろそろ20分ぐらいは経ったはず。頃合いだ。
少し不安そうな面持ちで司令官が灰の中を覗き込む中、私は軍手越しにアルミホイルに包まれた焼き芋を掘り返した。
「お、焼けた感じ?」
私と司令官が灰の中をまさぐっていると、遠くから様子を見守っていた白露姉さん達がいつの間にか近くに寄ってきている事に気が付いた。
「げっ...姉さん達。さっきはこの場からすぐ離れた癖に芋だけは食べて...」
白露姉さんは口笛を吹いて(吹けてない)知らんぷりをしたけど、時雨姉さんは少し恥ずかしそうな顔で「だっておいしそうだったから...」と年頃の少女らしい事を述べた。
「ご、ごめんね春雨ちゃん。夕立姉さんがここに居るって聞いて連れてきたんだけど、着いた時には何故か居なくて」
「いいよいいよ、あの人は嵐みたいな人だから...」
私は申し訳なさそうな五月雨ちゃんにそう返しながら、焼き芋のアルミホイルをペリペリと剥がし始めた。
「焼けてる...のかな?」
私は少し困って、姉さんたちや司令官に目配りしてみるけど皆一様に、分からない...みたいな顔を浮かべた。
「...ええい、時間がもったいない!春雨、割っちゃえ!」
白露姉さんが物凄い圧を出しながら、私の肩を力強く掴んできた。
...あー、多分この人、芋が食べたいだけだ。私は直感した。
「白露姉さん、そんな急かさなくても...今割りますから。せーのっ...」
「おぉー...」
私も、司令官も、駆逐隊の皆も、この場にいた全員が感嘆の声を漏らす。
裂けたアルミホイルの中から覗く紫と黄金のコントラストが少し眩しくて、思わず目を瞬かせた。
「...おいしそう」
「ん、何だったら春雨が最初に食べればいいんじゃない?...君、ずっと芋焼いてて芋食べてなかったでしょ?」
私の意識せず飛び出た言葉を、時雨姉さんが目ざとく拾った。
「時雨姉さんがそういうなら...」
私は割った芋の片割れを口の方までゆっくりと運ぶと____ぱくりと芋にかぶりついた。
「__わっ...甘い」
そう、甘いのだ。初めて口にする食感と包み込むような甘さに、私は自然と頬を押さえていた。
「ふふん、そりゃそうよ!なんだって"鳴門金時"を使ったんだもの。美味しくならないはずがない」
そうやって司令官が自慢げに腰に手を当て、私にもう一度声を掛けてきた。
「よし!春雨、この芋を持って夕立のところに行ってきな!」
司令官が紙袋に包まれた焼き芋を差し出してきた。
「なるほど、芋を仲直りのダシにする寸法ですね」
「__違う!"芋イコール友情の方程式"には、芋が必要だって、聖書にも書いてあったでしょ!?」
「...は?」
突然、芋で仲直りという謎の理論を提唱してきた司令官。
芋で仲直り出来たら警察はいらないと思うのだけど...?
「とにかく!ほら、行った行った!」
「えっ、でも場所が...」
司令官に無理やり芋が入った紙袋を抱かされ、そのまま走らされた私。
後ろからは姉さんたちの無駄に熱い声援も聞こえてきた。
けれども夕立姉さんの場所は相変わらず分からないままだ。
もう日も暮れてきて、寒くなってきてるから寮の中に戻っててもおかしくないんだけど...
...いや、夕立姉さんが行きそうな場所、か。
私には1つ、思い当たる場所があった。
きっと今頃"あの場所"は、夕陽が草木を照らし尽くしているだろう。
「早くしないと芋が冷めちゃうな」
___大好きな"あの場所"へ、私は走り出した。
◇◆◇
時刻はヒトナナマルマル、夕方の5時を回っていた。
どうやら私は芋を焼くのに、時間を掛け過ぎていたらしい。
私のお気に入りの場所は、既に一面オレンジ一色に染め上げられていた。
そんなオレンジ色の中庭の隅に、ひっそりと設置してある木製のベンチ。
一見誰も、腰掛けていないかと思ったけど...。
___今にも消え入りそうな人影が、黄昏の中でゆらゆらと揺らめいている。
「__夕立姉さん!」
衝動のままにベンチに駆け寄っていく。
間違いない。あのぴょこんと跳ねた犬耳みたいな髪に、少し赤みがかった金髪。
あれは間違いなく、私が探していた人だ。
「...春雨?」
夕立姉さんは何故か、私を視界に入れた途端ぎょっと目を見開いて______一目散に逃げ出した。
「えっ、ちょっと、どうして逃げるんですか!?」
私がそう叫ぶと、夕立姉さんの方から「は、春雨はこっちこないで!」とわりかしガチめな叫声が返ってきた。
うっ、結構ショック...。
だけど司令官たちに熱烈に送り出されてしまったのだし、昨日の事を謝らなければいけないから、そう簡単に引き下がる訳には...
「___って、ぽおおおおい!!?」
「夕立姉さんーッ!?」
全力疾走していたのが仇となったか派手にスッ転び、ビターン!と地面に伏せた夕立姉さん。
幸い地面はコンクリートじゃなく芝生だからあまり痛くはないだろうけど...。
よしっ、何か申し訳ないけど今がチャンス!せめてこの芋だけでも受け取ってもら___
「___って、わああああ!?」
刹那、私もコケた。...夕立姉さんがさっきつまづいた場所で。
...つまり、そうなると私の弾着地点には夕立姉さんがいる訳で...。
「ゔっ!?」
夕立姉さんの脊髄に私の頭部がダイレクトアタック!
「うわあああ!?ご、ごめんなさい」
私は弾けたように夕立姉さんの上から飛び退いた。
彼女はしばらく痛みに身悶え、全身を震わせていたが...痛みが一段落したのか、涙目になりながら此方を睨み付けてきた。
「下手な砲撃よりも痛いっぽい...!」
「ひええぇ...ごめんなさいっ...」
でも案外なんとも無かったのか、おもむろに立ち上がった夕立姉さん。
彼女は数秒の間、少し気まずそうに目を逸らした後こう言った。
「えっと...さっきはごめんね。なんか夕立も顔を合わせずらくて...」
「そんな、謝りたいのはこっちだったんですから」
繋げる言葉が思い付かなくて、しばらく場に無言が続く。
そんな状況を打破しようと動いたのは、夕立姉さん。
「...ねぇ春雨。昨日、ソロモンに行くのが怖くないのかって夕立に言ったよね」
ソロモン。昨日、夕立姉さんにあの海域の事について聞いたのは薮蛇だった。
夕立姉さんの嬉しそうな顔を見て夕立姉さんは怖くないの、なんて事を言い放って...結果として苦悩しなくていい彼女を私は悩ませてしまったのだから。
「...ホンネを言うとね。夕立もちょっと怖いっぽい」
夕立姉さんが、少し笑った。
「え、夕立姉さんが...?」
「こらこら、夕立も人間っぽい。...でも、あたしは、夕立は...立ち向かわなきゃいけないの、過去に」
過去に、立ち向かう...か。
そんな夕立姉さんの視線は、どこか遠い場所を見つめているようで、近い場所を見据えているようにも見えた。
「...」
「__あ、ごめん、ちょっと暗いこと話しちゃったっぽい...!ほら、喉乾いたでしょ?ジュースでも飲むっぽい!」
夕立姉さんが暗い雰囲気を断ち切るように、私をぐいぐいと自販機の傍まで引っ張っていく。
私は飲み物とかも間宮さんの所で飲むから、こういう自販機を使うことはあまり無い。初めて見るようなジュースのラインナップに目を瞬かせた。
「今日は夕立の奢りっぽい!春雨、どれがいい?」
「えっ...と。それじゃあカフェオレで」
ガゴン、と音を立てて落ちてきたのは温かいスチール缶。
その後に夕立姉さんも自販機のボタンを押して、炭酸飲料を取り出す。
「あ!そうだ...。夕立姉さん、これどうぞ」
大事な目的を思い出して、芋の入った紙袋を差し出す。
夕立姉さんは無言でそれを受け取った後、ガサゴソと袋の中身を取り出した。
「...もしかして、春雨が焼いてくれたの?」
彼女の問いかけに「はい...まぁ一応...」と返すと夕立姉さんは穏やかな笑みを浮かべて、芋を一口頬張った。
「うーん、甘くておいしいっぽい!」
「...そう、ですか」
暫くして、私達は冷たいコンクリートの壁に寄り掛かった。
夕立姉さんのペットボトルからぷしゅ、という開封音が聞こえたのを境に私も、カフェオレのステイオンタブをかちりと鳴らす。
そうやって温かいカフェオレを喉奥に流し込んだ後、私の口は自然と開いた。
「夕立姉さん」
「ぽい?」
「今からちょっとだけ変な話をするかもですけど...聞いてくれますか?」
夕立姉さんは一瞬ぽかんとしたまま、こちらを見つめていたけど、やがて何かを感じ取ったのかいつもより真剣な顔持ちで耳を傾け始めた。
「もし、もしですよ。私がある人から命令を受けてて...」
「命令?」
「はい。もしもそれが『夕立姉さんを殺せ』みたいな命令だったら...私は、夕立姉さんを殺すと思いますか?」
私ったら、本人相手におかしな事を聞いているんだろうか。
ボスから殺せと命令された人物は他でもない、目の前にいる夕立姉さんなのだというのに。
「...夕立は春雨にだったら_____殺されてもいいよ」
「...は?」
「...じゃあ改めて言うっぽい。___春雨は夕立を殺さない...いや、
「...」
「それに、どうせ春雨の練度じゃ夕立に切り傷ひとつも付けられないと思うっぽい。にしし」
「むっ、練度の差はどうにかなります!いつか必ず夕立姉さんを毒牙にかけてあげますから」
しばらくして、私と夕立姉さんの笑い声。
「あはは、これ、何の話だったっけ?」
「さぁ、何の話だったんでしょうね?でも...夕立姉さんの答えを聞いてなんだか吹っ切れました」
少し下を俯いた後、ありがとうございますと笑顔を夕立姉さんに向ける。
その時のいつに無く困った顔をした夕立姉さんを見て、こんなことは全て杞憂だったんだなぁ、と改めて思い知らされた。
「でも、ごめんなさい。いきなり変な事ばかり聞いちゃって。これじゃフェアじゃないですよね...。せっかくだから夕立姉さん、私について知りたいこととかってありますかね?...」
私は何だか口寂しくなって、残り少なくなったカフェオレを一気に呷った。
「知りたいこと?...あ、そういえば前々から疑問だったことなんだけど...」
「____"ボス"って誰?」
「__ぶふォッ!!?」
私はその日_____壮大にカフェオレを噴き出した。