駆逐棲姫が鎮守府にスパイとして潜入した話 作:カマタマーレ讃岐
「白露姉さん!やっと見つけましたよ!ふぅ、時雨姉さん...お守りってこんなに大変だったんですね...」
「いや、見つけて早々ひどくない!?そんな扱いなのあたし!?」
妹たちから場所を聞き出し、辿り着いた場所。
第三会議室は使用頻度が少ないためか、少し寂れた印象を受けた。
しかしそれでも"会議室"としての機能は第一、第二会議室には劣らない!機能はね!
そんな第三会議室は何故か照明が全て落とされており、どこぞの秘密結社か、代わりに蝋燭が設置されていた。
「やっぱりいつ見てもアヤシイ内装っぽい...」
夕立姉さんがキョロキョロしながらそう呟いた。
「ホント...何してるんですか白露姉さん!時雨姉さんが呆れてますよ!」
「えーっと、そ、それは...」
目を横に逸らしながら、閉口したままの白露姉さん。
暗がりの中、周りには駆逐艦娘が複数名、円形のテーブルを取り囲むように椅子に腰掛けている。
「ちょっと白露ー、妹さん呆れてるわよー」
「そ、そこーっ!外野カゲロー!口挟まないのっ!」
白露姉さんが指差した先には多分同じ一番艦の子だろう。白の髪留めで髪をツインテールにした少女がヘラヘラと笑いながらテーブルに肘をついていた。
「あんただって...モッ...一番艦なんだから妹達の扱いくらい...モッモッ、心得なさいよねー」
「ぐぬぬ」
口調は軽く感じたが、彼女からはなんとも言えない...強いて言うならヤ○ザのボスの様なオーラが漂っていたのだ。
...パリパリ咀嚼音出しながらポテチ食べてるけど!!
「白露姉さん、これはその...ヤ○ザの集会とかですかね?」
「んな訳あるかっ!お姉ちゃん心配だから言っとくけどあたしたちの職種、艦娘だかんね!?」
白露姉さんがキレのいいツッコミを返してくれたところで、私は改めて本題に入ることにした。
「一番艦の集会は月の初めのハズですよね?なんで夕食前に会議なんか...」
私が話題を切り出そうとすると、何故か皆一様に渋い顔をし始めた。
「あー...えっとね、白露の妹さん。一応言っとくんだけどね。これ、会議なんてそんな大それたもんじゃないのよ」
「はい?」
え?これ会議じゃないの?
先程白露姉さんと会話をしていた少女が、何だか少し申し訳なさそうに声をかけてきたのだ。
「ん...?」
一番艦たちが囲んでいるテーブルの上をよく見ると、各自持ち寄ったのであろうか。酒保で買い漁ったのか、お菓子やファッション雑誌などの趣向品が散乱していた。
ホワイトボードには無駄に達筆な文字で『臨時開催 今日のお題【最近妹からの視線が冷たいです...一体どうすれば...!特に次女の!!】by陽炎&白露』と白々しく書かれてあった。
____これ、女子会って奴だ!
そういえば一週間くらい前に村雨姉さんがこんな事を言ってたような。
どうやら峯雲さんのお部屋に遊びに行ったらしく、出かける間際に「あ、そういえば峯雲さんってお酒いける口だっけ...?」と相手の嗜好を気遣うような素振りを見せていたのだ。これぞまさしく女子会の心得って奴だろう。私はそう信じて疑わない。
余談だがその後、峯雲さんの部屋から帰ってきた村雨姉さんが見るも無惨な状態になっていたことに対して、私と夕立姉さんは今日に至るまで誰にも話していない。これぞ姉妹間での清い絆というものであろう。
少し話題が逸れたが今日のお題...とかいうやつの内容はともかく、女の子らしく各自趣向品を持ち寄り語り合う...というのはどう考えても女子会の類いに入る。
つまり、一番艦の集会とは名ばかりで実際は年相応の少女たちの女子会ってことか!なんか複雑だけど、今日一番の謎が解けてスッキリ!
「...そういえば春雨には言ってなかったね!」
「はい?」
私が反応らしい反応をする前に、白露姉さんは大きく息を吸い込んだ。
「___我ら駆逐艦一番艦ッ!『一番艦の会』!たぶん月一開催!ゲリラ的に開催することもあるけど、そこはお姉ちゃん特権で許してネ!HAHAHA!」
「...し、白露姉さん...」
えらく高いテンションでこんなことを言い放った白露姉さん。
白露姉さん以外のメンバーは「いつもの白露だ」みたいな感じで眺めているだけで、特に手出しする様子もない。
「ま、こんな感じで、この子いつもこんな感じだから。ね?まーあたしは妹たちに愛される模範的な一番艦だけどー」
「へー、陽炎って模範的な一番艦だったんですね、初耳です」
いつの間にかその陽炎さんとやらの背後に、見慣れないピンク髪の少女が立っている。
皆、何やら不穏な空気を感じたのか「いつからそこにいたの!?」とか聞かずにニコニコと無言で陽炎さんを見つめていた。
「あらやだっ、その声不知火じゃないーちょっとぉーここ立ち入り禁止.....」
それまで調子の良かった声色が、一気に縮こまっていく。
「へ、えっ、し____不知火?えっ?うえっ?!」
陽炎さんの極端な動揺ぶりからして、多分この人が陽炎型二番艦の駆逐艦娘なんだろうなぁ...
突き刺さるような青い瞳が陽炎さんを捕らえて、離してくれないんだろう。
陽炎さんは一点を見つめたまま、動かない。
「また奇妙な会勝手に開いて。では陽炎、工廠裏まで...行きましょうか?」
「あ、あ、あ...」
口をパクパクさせたまま動かない陽炎さん。
陽炎さん、多分この会出禁にさせられますよ...。
「なんか...ご苦労様です」
そそくさと陽炎さんを脇に抱えた後、無言で退室しようとしている彼女に、つい声を掛けてしまった。
「...いえ、それほどでも。では」
私に声を掛けられたのが意外だったのか、少し驚いた表情。
それは淡々とした返事だったけど、一つ一つの単語にはむしろ力強ささえ覚えてしまった艦娘。彼女は...何者?
「陽炎ちゃん、連れてかれちゃったにゃしい~」
「かいさーん」
ある一人の駆逐艦娘の言葉を区切りに、皆次々に部屋から出ていく。
そこは今は亡き陽炎さんの意志を継いで会を続行するべきなのではと思ったけど、この様子からして陽炎さん、人望は無かったんだろう...。お説教、辛いだろうけど頑張って下さい!(投げやり)
「げっ、陽炎もう捕まっちゃったか~、じゃああたしもそろそろ退散」
「あ、あの...っ、ちょっといいですか白露姉さん。実は大事な話があるんですけど」
他の子に混ざって、こっそり抜け出そうとする白露姉さんの肩をガッシリ掴む。
「頑張って場所を突き止めたんですっ、易々と逃げられたら...皆さん困ります!」
私はキッ、と白露姉さんを睨みつけるけど本人はあまり意に介さないのか、余裕綽々な表情を崩そうとしない。
「...今の春雨に、お姉ちゃんを止められるかな?」
「__えっ?」
私がそれを理解するのには時間が掛かった。
先程まで私の目の前にいたハズの白露姉さんの姿が、ない。
「き、消えた!?いったい何処に...っ」
「後ろだよ、後ろ」
「なっ...!」
白露姉さんはまるで瞬間移動でもしたみたいに...いや、したのだろう。
いつの間にか私の後ろに移動していた。
「春雨、これが練度の違いってやつだよ」
「くっ...」
悔しいけど私は、この鎮守府に着任してまだ一ヶ月ぐらいしか経っていないのだ。
これまで出撃した海域は鎮守府近海だったり、南西諸島方面だったり...要するに私はまだまだ未熟な艦娘だ。
それに比べて白露姉さん、こんなんでも改二なのでメチャクチャ強い。
そんな白露姉さんに私が敵うハズない。でもね...
「__私にだって、頼れる人がいるんです!振り回されっぱなしだけど、とても強くて、本人の前じゃ言いにくいけど、凄い尊敬してるんです!だから...」
近くにいるはずのあの人に声を掛ける。
__夕立姉さん、お願いします!......
「あ、あれっ...居ない?」
私が声を掛けても、場は依然として私と白露姉さんの二人しかいない。
「えっと、言いにくいんだけど春雨が言う"頼れる人"って多分、夕立の事だよね...?」
「あっはい」
「夕立ならかなり前にこの部屋から出てったけど...」
「...ええええええ!??」
そういえば夕立姉さんの霊圧を感じないなーと思ったら...
「夕立姉さんー!?」
肝心な時に居ないなあの人ぉ、もぉ〜!
「ふっふっふっ。どうやら今の春雨にはあたしを止められる手札は無いみたいだねー!残念!」
私に逆転できる要素がない事を悟ったのか、高らかに笑う白露姉さん。
今の"私"じゃこの人には勝てないのか...?
「...こんなに早く使いたくなかったけど...仕方ないよね」
こうなったら"あの力"を使うしか...。
私は思わず、トレードマークの白いベレー帽に手をかけようとして...思いとどまった。
___不意に、出口の方から視線を感じたからだ。
そうか、そういう事だったんだ、夕立姉さん..!
「あたしを止めたいんだったら時雨とかを連れて来ないとね!」
「___連れてきたっぽい!」
ガララッと場の空気を変えたドアの開閉音。
私は、この音を待っていたのだ。
「もう...遅いですよ、姉さんたち!」
「にひひっ、お待たせっぽい」
ぽーいっ!と部屋に突入してきた夕立姉さん。
勿論、その後ろには白露姉さん特効艦である時雨姉さんが控えている。
「ゆ、夕立に...時雨!?どうしてここが!?なんか出てきたタイミングも絶妙だし!」
「場所については前から散々聞かされたから覚えてるの」
表情一つ変えずに、白露姉さんを追い詰めていく時雨姉さんのその姿に、私は自然と固唾を飲み込んでしまう。
「し、時雨!話し合おう!ね?あたしたちまだやり直せるよ!」
さながら中年期の夫婦のように説得を試みる白露姉さん。
「白露...君には失望したよ」
時雨姉さんの冷徹な青い瞳が白露姉さんを軽蔑した様子で見つめている。
...あれ、これってもしかしてデジャブ?
「あ、夕立、春雨。僕たちちょっと話が長くなりそうだから、先に夕食食べててくれる?」
時雨姉さんが早く部屋から出ていって欲しいとばかりに催促してきた。
「え、でもそれじゃ本末転倒...」
「大丈夫、すぐ戻るから」
「アッハイ」
結局、時雨姉さんの圧に押され食堂に戻った私と夕立姉さん。
しかしその後、夕食の時間が終わっても食堂に姉さんたちが戻ってくることは無かった___
不知火「脇固め」
陽炎「ぐわーっ」
陽炎
白露とは1番艦同士のよしみで、悪友みたいな関係。
余談だが1週間に5回程のペースで不知火にシバかれている。