駆逐棲姫が鎮守府にスパイとして潜入した話   作:カマタマーレ讃岐

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密告者と、ルームメイト

「ふぅ...今日も一日疲れたなぁ」

時刻はフタヒトマルマル。普段は喧騒に包まれるこの駆逐寮も、この時間帯になれば騒がしさは鳴りを潜め、徐々に静寂に染まっていく。

 

「程よい静寂...落ち着くな~...」

この部屋がこんなに静かなのも騒音の原因であろう夕立姉さんがいないからである。昼間、ただでさえあっちこっちへ振り回された私にとって、この様な時間は至福のひとときである。

 

お風呂上がりの濡れた髪を乾かしながら私はひとり、今日起こった出来事に思いを巡らせていた。

 

すぐ一人で突っ走ろうとする夕立姉さん、ドス黒いオーラの時雨姉さん...

それに、"一番"が絡むと暴走する白露姉さん...か。

 

__ま、まともな人がいない...っ!やっぱり白露型唯一の良心は村雨姉さんしか...!

 

「あっ、そうだ..."あの人"に連絡入れないと」

こうやって春雨としての生活を謳歌...送っているだけじゃなく、スパイとしての活動もちゃんと行わなくては。

夕立姉さんは白露姉さんたちの部屋に様子を見に行っているし、村雨姉さんはついさっきお風呂に向かったばかりである。短い時間で済ませちゃおう。

 

 

座り心地のよいふわふわとしたソファから立ち上がり、受話器が置いてあるテーブルの方へと向かう。

グルグル、と少し古臭いダイヤル回したあと飯盒型受話器を手に取り、"あの人"の応対を待つ。

 

 

『___ハイ、コチラ鈴木デスガ...』

受話器の向こうから聞こえてきたのは、無機質な声。

 

「ふざけないでくださいっ...ボス。私です、春雨です」

 

『アア、春雨君カ。マタイツモノ近況報告カイ?』

何だかボスは少し呆れた様子。私そんな変なことしたかな...?

 

「"またいつもの"って...。じゃあ、大事そうなことから報告しますね」

 

『短メニ頼ムネ』

 

「ええと...あっ、今月は提督主催で焼き芋大会が開催されるらしいですよ。なんか鎮守府も暇ですねー。あと...戦艦並みの眼光を放つ駆逐艦の子がちょっと気になりました」

 

『...君ハ、イツモ小学生ガ書イタ作文並ノ情報シカ話シテクレナイネ』

受話器の向こうに居るのであろうボスが、苦笑いした様子でそう話す。

 

「...あの、ボス。ひとつ聞いてもいいですか」

私の心には一つだけ、ボスに対する蟠りが残っていた。

 

『ナンダイ』

ボスの、無機質な声がやけに頭に響く。

すぅ...と息を吸って、私はある疑問を問い掛けた。

 

「__ボスは、ボスはどうして...私をこの鎮守府に送り込んだんですか?」

 

『...ドウシテ君ヲ送リ込ンダ、カ』

私の核心をついたハズの問い掛けにボスは特に狼狽する様子もなく、こう答えた。

 

 

『...ソレハ、君ガコノ鎮守府デ過ゴシテイクウチニ分カルハズダ』

 

「私がこの鎮守府で...過ごしていくうちにですか?」

はっきり言ってボスの答えは、私が欲しかった答えではなかった。

私はこの鎮守府に潜入して以来、命令らしい命令を出されていなかった。だからこそこの機会にボスの具体的な指針を聞き入れたかったのだが...

私は本当の答えをはぐらかされた様な気がして、なんとなくいい気持ちではなかった。

 

「そう...ですか。では、ボス。失礼しました」

ボスが通話を切ったのを確認してから、私は静かに受話器を置いた。

それでもガチャ、というレトロな音は部屋の中で反響したみたいにいつまでも私の耳の中を廻り続ける。

 

「ボスの目的って...何?」

あの人の答えの真意が___分からない。

受話器越しのボスの声が、一抹の不安となって心に残ってしまった。

 

 

 

「あら、春雨~何してるのかな~?」

ドアの向こうからぴょこと顔を覗かせたのは、ルームメイトの村雨姉さん。

 

「あ、村雨姉さん...お風呂、上がられたんですね。今日も一日お疲れ様です」

スタスタと部屋に上がる村雨姉さん。ふわふわのベットによいしょ、と腰掛けた。

 

「あれ、春雨。その感じだと今日一日大変だったカンジ?」

驚くくらい察しのいい村雨姉さん。

 

「ん...確かにいろいろありましたけど...何とかなったんで大丈夫です」

今日は夕食の時に白露姉さん達がいないハプニングがあったけど、結局皆で美味しいご飯を食べられて...食べられて...

 

「ない!?」

 

「春雨ちゃん!?どしたの!?」

解決した案件かと思ってたけど、全然そんな事はなかった!!

 

「し、白露姉さんが海の藻屑にっ」

白露姉さん、結局あれ以来無事な姿を見ていないのだった。もしかして本当に時雨姉さんにシバキ倒されてしまったのではないだろうか。

 

「えっ、白露姉さんとうとう藻類になっちゃったの?」

ズバリそのままの意味で受け取った様子の村雨姉さん。というかその言い様だと、前から藻類になりそうだったなぁみたいなニュアンスの様な..?

 

 

「__ただいまっぽい!」

 

「夕立、ナイスタイミング!」

ちょうどいいタイミングで帰ってきてくれた夕立姉さん。

靴をぽいぽいっと脱ぎ捨て、ドタドタドタっとこちらに向かってきた。

 

「ふー、いろいろ大変だったっぽい」

夕立姉さんがテーブルの前にちょこんと陣取る。

これで私、村雨姉さん、夕立姉さんのルームメイト全員が揃った事になる。

 

「おかえりなさい!...そ、それであの二人は...?」

 

「...心して、聞いてほしいっぽい」

 

「...ごくり」

シーン、と静まり返った室内。それは決して完璧な無音の世界ではない。

時間が止まったかの様な感覚を覚えるが、時計の秒針はいつも通りの挙動を見せている。

 

 

「___白露たち...普通に過ごしてたっぽい」

夕立姉さんが真顔で口にしたのは、意外な答えだった。

 

「なんだー白露姉さん、何ともないんじゃない」

心配して損した、とほっと胸をなで下ろす村雨姉さん。

 

でも...あの展開からして何事もなかったというのは考えられない。

最悪、時雨姉さんの怒り具合からしてドラム缶に詰められて海にぶち落とされてたりしそうなものなのだが。

 

「時雨姉さん、謎が深まるばかり...」

 

「うーん。でも時雨ちゃんは少し荒れてた時期もあったからね」

村雨姉さんがふと思い出したように口にした。

 

「え、あの時雨姉さんが?」

 

「ええ。鎮守府に来たばかりの頃は、人と関わるのを自分から避けてる様な子だったの。...時雨ちゃん、過去の事を引きずったままでね」

何かを懐かしむ様な顔で、昔話をする村雨姉さん。

 

「でも時雨、白露に絆されて前より丸くなってきてるっぽい!だからきっと大丈夫!春雨が心配する事ないっぽい!」

 

「夕立姉さん...」

 

考えれば、私、みんなのことをよく知らないんだ。

私が着任する前の皆がどう過ごしていたかなんて当然知らない。

 

「こんなこというのもヘンかもしれませんけど...私、みんなの事をもっと知りたいです」

これは、心からの本心だった。スパイとかそういうしがらみに関係なく、私の気持ちがそうさせていた。

 

「春雨...よくぞ言ったっぽーい!!」

数秒目をぱちくりさせたあと、嬉しそうに目をキラキラさせる夕立姉さん。

 

「うんうん、知りたいっていうのは大事よね!村雨大歓迎よ」

「えへへ」

 

村雨姉さんが私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

そんな様子を見てそわそわしていた夕立姉さんが、腕をバッと広げた。

 

「じゃあ春雨、夕立の胸元へカモーン!っぽい!」

 

「絶対イヤです!」

 

程よい喧騒が、少し心地よい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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