駆逐棲姫が鎮守府にスパイとして潜入した話   作:カマタマーレ讃岐

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無作為な夢と日々

「___春雨」

 

___あぁ、またか。

 

「____ちがう___君は___じゃ__」

 

また、この夢だ。

この鎮守府に来てから、何度も見る"ゆめ"。

 

"春雨"と名前を呼ばれているから、自分の過去に関係する夢を見ているのは分かる。

でも___

 

『看板メニューはこれにするぞ!___』

子供みたいな無邪気な声。

 

『機体の手入れはどうだ?___』

この世に見えているものは全て真実だとして疑わない目。

 

『やった...初めて、初めて...南方海域を突破したぞ!!これも___やみんなのおかげだ!』

名前のところはよく聞き取れなかったけど、いつも別の"誰か"を嬉しそうに呼んでいる姿。

 

 

 

__違う、これは私の"ゆめ"じゃない。それは紛れもなく第三者の記憶だった。

じゃあこの記憶は、この温もりは誰の物なの?

 

「春雨__君は」

 

その声の持主が、また語りかけてくる。

でも、なんだか無気力で、やるせない声色。

 

 

「君は_____深海棲艦なんかじゃない!」

 

___それでも、それは熱が籠った声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あ、いけない、寝ちゃってたか」

なんてことをひとり呟けば少し孤独感を紛らわせるかと思ったが、そんなことはなかった。

 

今日は、姉さんたちがいない日だ。

 

 

◆◇◆

 

「村雨姉さん、夕立姉さん、遠征頑張ってくださいね!」

 

「もちろん!村雨の戦果に期待しててね!」

 

 

村雨姉さんが手を振り、夕立姉さんが行ってくるっぽい!とドアを閉めれば、さっきまでの喧騒が嘘のように消え去った。

 

 

「...村雨姉さんはともかく、うるさい夕立姉さんがいなくなってせいせいです。せいせい...」

部屋を見渡す。誰もいない。あたりまえだ。姉さんたちはつい先程、遠征に出ていってしまったのだから。

 

「いやいや、寂しくないから...」

ほんの少しだけ感じてしまった寂しさを振り払い、私は部屋を一望する。

せっかく与えられた丸1日の休暇なのだ。なんだか無意味に過ごすのも耐え難い。

 

「...よーし、やりたいこと、やるぞ!」

私、春雨は高らかにそう宣言した。のだが...

 

なんだか、誰もいない部屋って妙に空しい...。

やっぱり、いつもそばにいる人がここにいないと、寂しくはないけど、違和感を感じた。

 

...気紛らわしに白露姉さんたちのところに遊びに___いや、何考えてるんだ私ったら。ここであっさりと二人に会いに行ってしまったら、なんだかこっちが負けたみたいではないだろうか。

 

「べ、別に姉さんたちが居なくても1人で時間なんて潰せますから」

 

そうと決まれば行動は早かった。

自室を飛び出し海釣りをしたり、運動場でランニングをして汗を流したり、飛び入りで演習に参加してみたり。

 

 

 

しかし...あまり結果は振るわなかった。

運動場でのランニングはすぐ息が上がってしまったし、飛び入りで参加した演習は惜しくもC敗北の結果で終わってしまった。

 

「慣れないことはやるべきじゃないのかなぁ。なのに...」

 

目の前にはバケツ1杯分の魚。何故か釣りだけは大成功に終わった訳だが、納得いかない。

「しかも何故かスズキばかりだし...」

スズキは美味しく食べられる魚ではあるけど、こんな寒い時期では身が痩せ細っていてあまりおすすめは出来ない。どうせ釣るなら肉付きのいい夏に釣ればよかった...

でも釣ってしまったものはしょうがないので、とりあえず保管できる場所に運ばなくちゃ。

 

「わ、重っ...。これが命の重さか」

1人でジョークを飛ばしつつ、ある場所へ向かう私。

 

 

鎮守府の中庭に在る、海の見える開けた場所。知る人ぞ知るスポットで、そこにはシンプルな植え込みとベンチしかないけど、これが私のお気に入りの場所だった。

一面緑の芝生に、水平線の先まで続いているのであろう、深く深く青い海。

そしてその二つを調和させるように、どこまでも広がる淡い空。

 

なんだか平和ボケしてしまいそうな風景。

__でも、私はこの場所が好きだ。ここに居れば、スパイとか艦娘とか深海棲艦だとか。全てのしがらみから解放された気にさえなれる。

 

ベンチは...空いてる空いてる。

少し休憩してから行こう。朝からいろいろ頑張ったからなんか疲れたな...。

...

 

 

◇◆◇

そういえば、確かそんなことがあって結局寝ちゃったんだった。

...なんだか、遠い昔の夢を見ていたような気がする。内容はもう、忘れてしまったけれど。

 

今は、何時だろうか。もう数時間は眠りについていたような感覚すら覚えていたけど、日はまだ傾き始めたばかりだった。

すぐ近くにある時計台に目をやる。時間...は30分も経ってないみたいだ。

 

「よかった、魚は無事みたい...」

 

「__春雨ちゃん、ちょっといい?」

 

「...ぅえ?」

 

まだ、眠りから完全に目醒めていないのだろうか。ボーッとする頭じゃ直ぐに体は動かない。

改めて目を数回瞬きしてみると目の前に、透ける様な青い髪を持つ女の子が現れた。

 

「...突然だけど、料理を作ってほしいんです」

 

「あれ?五月雨ちゃんって料理できたよね?どうして私なんかに頼みに...」

 

五月雨ちゃんは少し困った様子で、こう返した。

「実は...提督がこんなこと言い出したらしくて」

 

「し、司令官が...?」

 

◆◇◆

 

 

「時雨、春雨はこの艦隊に馴染んできた感じ?」

提督が溜まりに溜まった書類を整理しながら、時雨に問い掛けた。

 

「ん...?さぁ...少なくとも僕から見たらいい感じに馴染めてると思うけど...それが?」

なんでそんな事をいまさらと言いたげな時雨を横目に、提督はそれは良かったと安堵した様子だった。

 

「っていうか、仕事溜まり過ぎだよ提督 」

 

時雨が提督机の上に目をやると、積み重なった大量の書類。

横須賀鎮守府の提督は書類の処理を後回しにし、いつの間にか一日では処理できない量まで溜め込むことで、秘書艦を構い倒させるという地味に厄介な難癖を持っていた。

 

以前までは秘書艦は週ごとの交代制でなんとか回っていたのだが...提督の処理能力の無さに嘆き、殆どの艦娘が脱落。

紆余曲折あったが、1年ほど前に秘書艦の座は駆逐艦時雨に落ち着いたという訳である。

 

 

「まぁまぁ秘書艦様、そんな怒らないでよ。さて仕事仕事~」

わざとらしく話題を戻す提督。

しかし時雨には1つ、心当たりがあった。

 

「もしかして提督...春雨によく思われてないの、気にしてるのかい?」

 

「うっ!?」

パラ、と1枚の書類が提督の手元を離れ、中をふわりと舞った。

しばらく空中散歩をしたあとに、それは床に落ちて、動かなくなる。

 

「へー...どうやら図星みたいだね」

その様子を呆然と見つめていた時雨が、ニコニコと笑った。

 

「だ、だって〜、春雨ったら着任初日からこっち睨みつけてきて...」

あの日の事を思い出し、しょんぼりと提督が項垂れる。

 

「それで?」

 

「だからせめて笑ってもらおうと思って!満面の笑みで会釈した!」

 

「___完全にそれが原因だよ提督」

一考する様子もなく、時雨が即答した。

 

「えっ」

 

「提督のことだから、あまり直視はしたくない悪い方のキラースマイルを使ったんでしょ」

どうやら下心が丸見えだったらしく、春雨の目に映ったのは満面の笑みの提督ではなく、逆キラースマイルを浮かべた提督だったらしい。

 

「そ、そんな...今からでもヨリを戻す方法はないの...!?」

 

「えぇ...」

 

時雨は元からヨリなんてないでしょと思ったが、多分提督のタブー中のタブーなので言わないことにした。

 

「...いや、まてよ?むしろこっちの方がいいかもしれない」

 

「え?」

 

よりを戻すのは大変だが、提督と春雨はまだ少しすれちがってしまっただけ...の関係のはずなのだ。つまり2人は実質赤の他人。それならば...

 

「仲良くなりたいんだったら無理にでも接点を作ればいいんじゃないかな」

 

時雨のアドバイスを聞いて、ぱあっと提督の表情が明るくなった。

 

「接点...!?それだ!ありがとう時雨!大好き!」

躊躇いもなく目の前の時雨に抱きついた。

 

「あーはい。僕も提督のこと大好きー」

呆れた様子の時雨が、あまり感情を込めない様にそう発した。

 

「棒読みで言わなければスゴい嬉しいんだけどなー。...じゃあ、早速時雨に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

◆◇◆

 

「という訳で...伝言もらってきたんだけど、どうかな春雨ちゃ__」

 

「イヤです」

 

「そ、即答...」

 

確かに初日の私は少し目がギラギラしていたかもしれない。

敵陣地の主要人物だから...というのもあるんだけど、事前情報が濃すぎた。

 

私がまだボスの所にいた時、ボスが「アノ鎮守府ノ提督ニハ気ヲ付ケロ。...話シテイルトペースガ持ッテイカレル」とわさびを噛み締めたような顔で話していたのだ。そんな事もあって司令官にはあまりいいイメージが付かなかった訳だが...

 

「でも...提督も春雨ちゃんの事を思って、言ってくれてるんだと思うよ」

 

「えぇ...そ、そうかなー...」

 

「そうだよ!」

 

私のはっきりしない反応に、喝っぽいモノを入れてくれる五月雨ちゃん。

そうやって言ってくれるのはうれしい。でも...

 

「...なんか、司令官の笑顔ってあの人に似てる気がして」

 

着任初日に見た司令官の、笑顔。

私はそれを見て心なしか"あの人"に、ボスに似ているなんて思ってしまった。

__なんで、あの時あんなに胸がザワついたんだろう?

 

「...あの人?」

 

「あっ、なんでもないよ五月雨ちゃん。でも、司令官の気持ちも少し分かった気がする」

 

 

にしても、料理...か。料理は人の心を掴むっていうけど...。

あれ、この場合普通に司令官が作る展開なんじゃ...?私が司令官のハート掴んでもしょうがなくない?

 

「...ん、ハートを掴む?...これだ!」

 

いや、この機会に司令官に媚びを売るのもいいのでは!?

流石に司令官に冷たくしすぎたかもしれないし。うんうん、心を掴むにはまずは胃袋からだ!

 

「私、料理作ってみるよ」

 

「ホントですか!?よし、じゃあ早速厨房へ行きましょう!」

五月雨ちゃんに手を引かれ、駆け出す私。もちろん魚入りバケツはちゃんと持ってきている。

あっ、待って五月雨ちゃん。そのスピードだと...!転ぶ!転ぶから!

 

 

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