駆逐棲姫が鎮守府にスパイとして潜入した話   作:カマタマーレ讃岐

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唐突にハロウィン回です




トリックオアトリート!〜お菓子をくれなきゃぶちのめすけどいいですか?〜

「___フハハハハハ、この戦艦長門に追いつけるかな!?」

 

春雨です。

突然ですが、皆さんは『ハロウィン』といったらどのような光景を思い浮かべますか?

近所の仮装した子供たちがこぞって友達の家にお菓子をもらいに行ったり、はたまた、渋谷の街を埋め尽くすコスプレ集団を思い浮かべたり...

__私も、少し前まではそうでした。

 

「長門さん待つっぽいいいいい...!」

 

私の視界を何回も横切るのは、何故か恍惚とした表情を浮かべる長門さんと、それを追いかけ続ける犬耳フード姿の夕立姉さん。

 

もう10月も終わりだと言うのに、全身汗だくの長門さんは何故か楽しそう。

 

「フッ、やはりハロウィンという行事はいいものだ!駆逐艦たちに合法的に接触...じゃなかった、触れ合えるからな!!」

 

大量の菓子を抱えながら、戦艦が出してはいけないようなスピードで夕立姉さんを翻弄する長門さん。

...彼女のそういう趣味を否定するつもりは無いし、本人が楽しいのなら良いんじゃないかななんて思うけど...。

間違ってもハロウィンは、汗水流して走り回る様な行事ではない、ハズ...。

 

「あ、春雨、長門さんそっちに行ったっぽい!」

 

「え、こっちに?」

 

真正面から破竹の勢いで迫ってくるシルエット。

__獲物を見つけた猛獣の瞳を宿したそれは、もはやただの長門さんじゃなかった。

 

「ビッグセブンの力、侮るなああああ!!」

 

「ひいいいいい!?」

 

迫り来る悪意のない脅威に為す術もなく、私が長門さんに蹂躙されそうになった、その時____

 

 

 

「はい、そこまでよ長門」

 

「む...陸奥ぅ!?何故ここに!?」

 

私と長門さんの間に割って入ってきたのは、長門型戦艦2番艦の陸奥さんだった。

 

「ごめんねー、また長門が駆逐艦に声掛けてたから、まさか...と思って来てみればこんな事になってて」

 

「い、いえ...あまり実害はなかった...ので大丈夫です」

 

陸奥さんは軽く両手を合わせ私達と向き合った後、暴れる長門さんを引きずって何事も無かったかのように立ち去っていった。

 

「...ち、違う!私はただ...駆逐艦とお話しがしたいだけなんだ!決して深い意味がある訳ではない!信じてくれっ、陸奥ッ...!」

 

「はいはい、後でお話は部屋でゆっくり聞いてあげるから...」

 

だんだんフェードアウトしていく2人の会話をよそ目に、夕立姉さんが此方へと近づいてきた。

 

「がるる〜。春雨、この鎮守府のハロウィンの事、よく分かったっぽい?」

 

「いや全然。全くもって理解出来ません」

 

私がそう不貞腐れた様に返すと夕立姉さんが、がるると唸る。

そんな彼女の両手は、オオカミの爪が付いたグローブで覆われていた。

___つまるところ、今日10月31日は一応ハロウィンである。もう一度言おう。認めたく無いが、一応ハロウィンである。

 

「はぁ...でも夕立姉さんの仮装、似合ってますよ。...狼というよりかは犬に見えますが」

 

「__だから、夕立は犬じゃないっぽい!前も言わなかったっけ...?」

 

夕立姉さんのツッコミをスルーしつつ、講堂内をを見渡す。

どこを見ても仮装した駆逐艦しか居ない光景を見て私は、はぁ...と溜息を漏らした。

ちなみに私も仮装しているが、あまり凝った作りではない。

強いて言うならいつも被っているベレー帽をハロウィンっぽくアレンジしたことか。と言っても、俗に言う駆逐棲姫の被っている帽子みたいに、ツノみたいなのが2つ付いているぐらいだが。

 

「に、しても...。由良さんはどこに行ったんでしょう?」

「さぁ...?夕立にもどこにいるかどうかは...」

 

 

長門さんに追われて目的を忘れかけていたが、私達第2駆逐隊は第1小隊と第2小隊に分かれ、第4水雷戦隊の旗艦である由良さんを探している最中だったのだ。

 

「2階も探してみましょうか」

「ぽい」

 

しかし...ここの鎮守府のハロウィンは一癖も二癖も違う。

廊下でお菓子を持った艦娘とそれを狙う艦娘が出会ってしまえば、無益な争いは避けられない。

しかし司令官曰く皆楽しそうにやってるから良いんじゃない?と故意で行われている行為らしいので大丈夫らしい。ホントに大丈夫...?

 

 

 

 

「__いやー!江風!そっちへ行っちゃダメ!!」

 

夕立姉さんと私が、階段の踊り場に差し掛かったところで誰かの悲鳴が此方に飛んできた。

 

「あれ、この声って」

 

吹き抜けになっている2階を見ると、見覚えのある顔がたくさん並んでいた。

第27駆逐隊の白露姉さんに...時雨姉さん。それに、第24駆逐隊の海風ちゃんたちが2階で何かやっているみたいだった。

 

そしてその奥に居るのは、第3水雷戦隊の...川内さん?

何やら海風ちゃんと江風ちゃんが揉めているみたいだ。

 

「ンな、姉貴落ち着けって!川内さんはそンな悪い事しないから!」

 

どうやら川内さんの所に行こうとしているのを危惧した海風ちゃんが、力づくで江風ちゃんを引き留めているらしい。

 

「そうは言っても心配だわ!ねぇ...山風もそう思うわよね?」

 

「え...」

 

同意を求められた山風ちゃんが困ったように、隣にいた涼風ちゃんに目配せをする。

しばらくして返事をたらい回しされた事に気付いた涼風ちゃんが訝しげに口を開いた。

 

「えっ、あたい?...まぁ江風が楽しいんだったら良いんじゃないか?」

 

あまりはっきりしない涼風ちゃんの反応だったけど、賛成意見が増えたことで意思が固くなったのか、江風ちゃんがついに動いた。

 

「よし、川内さんについて行きます!」

 

海風ちゃんの拘束から難なく逃れると、川内さんにそう宣言した江風ちゃん。

その熱の篭った返事を聞いた川内さんが、妖しげに微笑んだ。

 

「じゃあ...始めよっか!」

 

刹那____川内さんがフェンスを乗り越え、2階から飛び降りた。空中でもバランスを崩さずに安定した軌道を描いた後、受け身をとって床に着地。

まるで忍者みたいだぁ...。

そのあまりの迫力に下にいた私にも震撼が走る。

 

「ほら、ついてきな!」

 

2階の高さから飛び降りても怪我ひとつない川内さんを見て、江風ちゃんが目を輝かせた。

 

「川内さんかっけー!でも流石に2階から飛び降りるのは無理です!」

 

運動神経の良い江風ちゃんでも2階から飛び降りるのは無理なのだろう。

少し躊躇った後、遠回りして階段のスロープを滑り降りる。

 

 

 

 

そんな中、ずっと傍観し続けていた姉さん達27駆もようやく動き始めた。

白露姉さんが時雨姉さんの肩に、やけに鋭い飾りが付いた手を置いて慰撫する。

 

____白露姉さんの右手にはめられた鋭い鉤爪。そして深く被った茶色の中折帽。

そして、時雨姉さんの顔を覆う不気味なホッケーマスク。腰からぶら下がっている大きめのハチェット。

 

...さっきからあえて突っ込まないようにしていたけど、どうして姉さんたちは某ホラー映画のキャラのコスプレをしているんだろう...?

 

 

「よし!時雨もかっこいい姿見せてやんな!」

白露姉さんがフェンスの方を指差すと、時雨姉さんが少しイヤそうに眉をひそめ...いやよく考えたらホッケーマスクで顔見えないな!?

 

「いや流石に無理だよ」

 

白露姉さんの要求を容赦なく突っぱねると、その後ため息混じりに「...それに僕、あまり体が強い方じゃないから...」と呟いていた。

白露姉さんがうーん、と一考する。

 

「じゃあ江風みたいに滑り降りるのは」

 

「それも無理。なんかおしり痛くしそうだし...」

と、言って時雨姉さんは腰に提げたハチェットを揺らしながら普通に階段を降りていく。

 

「____あ、あの...!時雨姉さんたちはどうして、ジェ○ソンやフ○ディの仮装をしているんですか?」

 

私は堪らず、すれ違い際にコスプレの真意を問いただしてみようと時雨姉さんに声を掛けてみた。

 

「うーん、気分かな」

特に一考する様子もなく、彼女はそう即答した。

 

「気分だけでこんな仮装してるんですか...?」

 

見た目だけだともはや誰だか分からなくなってしまった時雨姉さんが、川内さんの前に江風ちゃんと並んで立つ。

 

「江風に、時雨か。ふーん、面白くなりそうじゃん」

 

そう言うと彼女は_____壁を走り出した。...ん!?壁!?

重力を...いや、この世の物理法則全てを無視したような動きに時雨姉さんも江風ちゃんもついていけない。

 

 

「私について来れる?」

いや、無理でしょう。

川内さんはめちゃくちゃな軌道を描いた後、遥か遠くへフェードアウトしていった。

 

 

 

 

 

「...私達も由良さんを探さなきゃですね」

 

「ぽい」

 

夕立姉さんもこくりと頷いた。

といっても何か手がかりがある訳でもないし...

 

そう思考を巡らせていると、どこかからツーツツ、と無線の音が聞こえてきた。もしかして...村雨姉さんと五月雨ちゃんが由良さんを見つけたのだろうか。

ザーザーと思考を揺さぶる雑音が流れた後、無線から馴染みのある声が聞こえてきた。

 

『___はいはーい。こちら第1小隊、村雨よ』

「こちら第2小隊、夕立。村雨どうしたっぽい?」

『提督室の前で由良さんを見掛けたっていう情報が入ったの。至急提督室前まで来てもらえるかしら』

 

元気よく「了解っぽい!」と返事をして無線を切った夕立姉さん。

どうやら村雨姉さん達が由良さんに関する情報をゲットしてくれたらしい。

 

「由良は提督室の前にいるらしいっぽい!早速レッツゴーっぽい!」

 

「はい!」

 

幸いここから提督室まであまり距離はない。私達は駆け足で提督室に向かった。

もっとも、このゲームはそれだけでは終わらせてはくれない。

私達駆逐艦がお菓子を手に入れるためには、お菓子をくれる側からのお題に答えなければならないのだ。(海防艦除く)

 

でも由良さんはやさしい人なので他の軽巡の人たちみたいにキツい課題を出すとかはしない。

さっきの川内さんの例はまだ良い方で、一部の人からは『私と一緒に外周8周しよう』みたいな、ほぼ肉体労働の課題が課せられるので注意が必要である。

 

「そろそろ提督室前っぽい...」

 

考え事をしている間に、私達第2小隊は提督室に着いたようだ。

よし、このまま上手くいけば由良さんを捕捉できそう...。

 

 

 

「____きゃーっ!!?」

 

「ぽいっ!?」

 

突然曲がり角から聞こえてきたのは、悲鳴。

夕立姉さんはその声の持ち主が誰なのかすぐ分かったみたいで、まるで獰猛なケルベロスの様に曲がり角の先に飛び込んだ。

しかし...。

 

「由良、連れ去られちゃったっぽい..?」

 

「誰もいない...」

 

後を追うように私も現場に突入するが、どこを見渡しても由良さんらしき人影はもう見当たらない。

 

あるのは現場に残された無駄に艶のいいメロンだけ...。

 

...ん?メロン?

 

 

「おーい!」

 

誰もいなくなった現場で私達が呆然と立ち尽くしていたところ、後方から誰かの呼び止める声が聞こえてきた。

 

「五月雨、村雨、大変っぽい!由良が誰かに連れ去られたみたいで...」

 

「ええっ、由良さんが?」

 

夕立姉さんの言葉にひどく動揺した様子の村雨姉さん。

だけど五月雨ちゃんだけは何故か呆れた様な表情で現場に残されたメロンを眺めていた。

 

「...私、犯人が分かったかもしれません」

 

「え!?五月雨分かったっぽい!?」

 

その言葉を聞いた夕立姉さんが五月雨ちゃんに物凄い勢いで迫る。

五月雨ちゃんは「す、少し落ち着いてください」と夕立姉さんを窘めたあと、"犯人"の名前を言い放った。

 

 

「由良さんを連れ去った犯人は、____さんです」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「___夕張さん!見つけました!」

 

五月雨ちゃんが叫ぶ。

私たち第2駆逐隊が突入したのは兵装実験軽巡の彼女のたまり場でもある工廠だった。

 

「ゲェッ!?五月雨ちゃんどうしてここに!?」

 

工廠の重たい扉を開いた先に居たのは、オレンジ色のツナギを着た少女。

そしてその少女の後ろには...攫われてしまった由良さんが気まずそうに椅子に腰掛けていた。

 

「どうしてこんなことを...!」

 

「うっ...」

 

珍しく怒った様子の五月雨ちゃんに、夕張さんはただただ押しつぶされそうになっていた。

 

「だ、だってぇ...五月雨ちゃんが...私に構ってくれなかったんだもん」

 

そういうと夕張さんは少し頬を膨らませてぷいっと横を向いてしまった。

その様子を見た五月雨ちゃんが、ハッとしたように何かを思い出した後、何故かおどおどし始めた。

 

 

「夕張さんごめんなさい...後からちゃんと行くつもりだっ...」

 

「__イヤッ!もう許さないッ!昨日の夜は『明日のハロウィンは真っ先に夕張さんに会いに行きますからね♪』って言ってくれたのにッ!!」

 

涙混じりに激昴する夕張さんに対して、必死に弁明を図ろうとする五月雨ちゃんが「いやそれ捏造ですよね!?会いに行くとは言いましたけど"真っ先に"会いに行くとは...」とぼやく。

 

「なんで?だって私、五月雨ちゃんが来てくれないと寂しさから孤独死する体質なんだよ?!」

「孤独死とかスケールでかいですね!?」

 

 

___と、まぁ...この2人のよく分からない争いに、私たち他の艦娘は完全に置いてけぼりになっていた。

 

 

「...村雨姉さん。私たちはもしかして、昼ドラを見せられているんでしょうか」

 

「...多分、のろけって奴よ」

 

村雨姉さんと他愛もない会話を交わしたあとも、五月雨ちゃんと夕張さんの言い争いは続いた。

 

 

 

 

 

 

そして、時は流れて10分後...

 

 

「___いやーごめんね!迷惑掛けちゃって!」

 

「えぇ...」

 

先程までとは打って変わって、満面の笑みを浮かべる夕張さん。

五月雨ちゃんに言いたいことを全部言ってスッキリしたのだろうか、晴れやかすぎる表情でそう言い放った。

 

「お詫びにコレあげる!お菓子じゃないけどね」

 

そう言って私たちに手渡してきたのは、"間宮(そば)"と書かれた食券だった。

...いや、ホントにお菓子じゃないのね!?

 

手渡された間宮券を懐に仕舞いながら五月雨ちゃんは「夕張さんがこうなのはいつもの事ですから」と、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。

 

「由良、大丈夫っぽい?」

 

「夕立ちゃん、心配してくれてありがとう...。そうね、特に胃が尋常じゃないくらい痛いわ」

夕立姉さんの問いかけに、苦笑いでそう返した由良さん。

...なるほど、由良さんはいつも夕張さんに振り回されてる訳か。

 

「にしても...五月雨ちゃんは天使のコスプレ、村雨ちゃんは魔女のコスプレ、夕立ちゃんは狼のコスプレ。春雨ちゃんのコスプレは...何がモチーフ?」

 

ああ、何故かな夕張さんの視線が熱い。

 

「?...一応、駆逐棲姫がモチーフですけど...」

ツノが2つ飛び出した帽子をそれとなく触る。

 

「__甘あぁぁぁぁいッ!!」

 

「えっ!?」

 

夕張さんのあまりの勢いに狼狽する私。

何がを企んでいるような夕張さんの顔。何だかイヤな予感がするような...。

 

「___ハイ!衣装チェンジッ!」

瞬間、夕張さんがぱちん、と指を鳴らした。

 

 

「...ほぇ?」

しばらく何が起こったのか理解出来ないまま、立ち尽くす私。

だが不自然なくらい腹部に吹き付けてくる冷気が、それが何なのかを私に知らしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「____なああああっ!!?」

 

ふと下をみると、丸出しになった私のお腹。

__さ、寒い!ってそうじゃなくて!...恥ずかしい!

 

そう、いつの間にか私が身にまとっていたのは、深海チックな黒い衣装。

そういえば駆逐棲姫ってへそ出しの服、来てるんだった...っ!

 

「あ、春雨似合ってるぽい!」

「黒基調なのがダークな感じでいいわね!」

「春雨ちゃん、さっきの衣装よりもいい感じだよ!」

 

みんな微笑ましい物を見守るみたいに、ニコニコと笑いかけてくる。

 

「どう?私の開発した新しい装置『マジカル☆衣装チェンジ』は。あとで感想聞かせてね!」

 

___私はどんどん熱くなっていく顔の中、多分、今日1番の大声を上げて叫んだ。

 

 

 

 

「_____へそ出しなんて、恥ずかしいですーっ!!」

 

 

 

 




次回からは2章です

この話では要素薄いけど由良と夕張の幼なじみ感いいよね
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