我儘を叶えてくれる祖父母がいて。
ウルトラの父がいて、母がいる。

――――そして、タイガがここにいる。

※志村転弧を救いたいだけだった。
もしも、あのとき誰かが間に合って引きとめて、楔となる人物が存在したら。


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志村転弧っていうのは、ようするにIFの出久であるともいえるんですよね。
オールマイトが間に合わなかったIFっていうか。
そんな彼が幼少期にウルトラマンと出会ってしまったら?そんなIFです。

Qオールマイトみたいに立派なヒーローになれますか?(てんこくん)

A君もきっと素晴らしいヒーローになれる(光太郎叔父さん)

さすタロウ


二人で一人のウルトラマン

「兄ちゃん、おれが来たぞッ!」

 

 ――――それは太陽だった。

 

 不安に震えているところに現れたのは、泣き虫で笑顔が似合うヒーローの息子で年下の従弟。

 我が家では禁止ワード、だけど憧れることをやめられなかった俺にとってヒーローの父親、ヒーローの祖父母を持っているソイツは憧れだった。

 しかし、ソイツはいつも泣き虫で俺が面倒を見てやらないと駄目だと思わせるし、俺が構ってやると本当に嬉しそうな顔をするのだから、放っておけない。

 そんな彼がまるで、英雄(オールマイト)の決め台詞をオマージュしたような言葉をかけてくるものだから、俺は思わず気の抜けた声が漏れてしまう。

 

「へ、タイガ……?」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 東太我(ひがしたいが)は有名なヒーロー、ウルトラマンタロウこと東光太郎(ひがしこうたろう)の下に嫁いでいった父さんの妹の子供だ。

 光太郎叔父さんは元々、ウルトラマンケンとウルトラマンマリーの息子でヒーロー一家に生まれたエリートだが、それを鼻にかけない面倒見の良さと実力を持っている。

 

「家族になったんですから、仲良くしましょうよ!義兄さん!」

 

 と、光太郎叔父さんはヒーロー嫌いの父さんをぐいぐいと押し通し、休暇に進んで家にやってきてヒーロー活動の話を俺や姉のハナちゃんにしてくれる。

 光太郎叔父さんはヒーローとしてデビューする前からヒーローチーム、“ウルトラ兄弟”と親交が厚く、光太郎叔父さん自身も末っ子気質なところがあり、とても人懐こい人だった。

 

「ねぇねぇ!テンにいは好きなヒーローとかいる?俺はやっぱり、じいちゃんも好きだけど父さんかなぁ!」

 

「流石は俺の息子だな!」

 

 ニコニコしながら光太郎叔父さんが変身した双角・ウルトラホーンを持つ紅い超人、ウルトラマンタロウのブロマイドを手にしながら、目を輝かせる太我に光太郎叔父さんがうれしそうに頭を撫でている。

 この親子のやり取りはとても眩しいし、……なによりも羨ましい。

 

 まだ個性を発現できていないようだけど、きっと“ウルトラファミリー”のそれに違わない強力な個性に目覚めることだろう。

 

「おれは、オールマイトが好きだなぁ。いつも笑顔で、どんなピンチも乗り越えて人を助けちゃうんだ」

 

 ヒーローの話を躊躇いなく出来る太我と違い、志村家ではヒーローのワードは禁句だった。

 唯一、俺の話を聞いて笑顔で頷いてくれるのは姉のハナちゃんだけ。

 

 だから、光太郎叔父さんの言葉は胸に響いた。

 

「転弧はオールマイトに憧れてるんだな。大丈夫、きっと君も素晴らしいヒーローになれるよ。なんたって、君はよくタイガの面倒を見てくれている優しい少年だ」

 

 しっかりと俺の目を見てくれ、太我と同様に俺の頭をなでてくれた光太郎叔父さんがいつもより大きく見えた。一部には個性の関係で“表情が分からない”と評価が分かれるウルトラ兄弟をはじめとするウルトラマン達だけど、これほどウルトラマンタロウが家族で嬉しかったことはない。

 

「転孤ならなれるよ!タイガと三人でヒーローになろうね!」

 

 いつものようにハナちゃんが背中を押してくれる、光太郎叔父さんの家に遊びに行っているときがこのときの俺はとても楽しかった。

 

 ☆☆☆

 

 志村転孤は俺の従兄だ。

 

 “ウルトラファミリー”、“ウルトラ兄弟”に所属するウルトラマンタロウこと東光太郎と志村さおり、つまり父さんと母さんが結ばれたので俺とテンにいは従兄弟である。

 テンにいはヒーローのことに詳しい、俺もヒーローのことはイマドキの子供らしく詳しいつもりではいるけど、それはウルトラ兄弟をはじめとする父さんが親交を持っているウルトラマンと付いたヒーローたちだけ。

 それでもよく知っていると言われるけれど、テンにいの熱量はすごい。

 

 誰もが持っている個性にまだ目覚めていないけど、テンにいの知識に個性が加わったらすごいことになると俺は思っていた。

 たくさん持っているヒーロー関係の本にグッズ、中には俺が持っていないようなものまで持っていて、ほかにも色んな事を教えてくれるから、まるで本当の兄貴のように慕っている。

 

「嘘吐きだ、タイガ!」

 

「嘘じゃない。本当なんだよ!」

 

「そんなカードはないんだ、幻のカードなんて!」

 

 公園で俺を囲んでいるのは、同年代の子供たち。

 持ち寄ってきたヒーローチップスのオマケのカード、その中にじいちゃん――ウルトラマンケンのカードが入ってて、俺がそれをどこかでここにくるまでに失くしてしまっていたらしく、その実在を疑っていた彼らに疑われている。

 

「だけど、ウルトラマンケンのカードがあるなんて聞いたことないぞ!」

 

「それは、幻のカードだからにきまってるだろ!」

 

「嘘吐きタイガ!ヒーローの息子の癖に!あんな変なヒーロー、ぜんぜんかっこよくない!ウルトラマンタロウがパパってのもうそなんだろ!」

 

 俺が嘘吐きって言われるのはいいけど、父さんとじいちゃんばあちゃんを馬鹿にしたような一言は許せなかった。

 

「なんだと!?やるかっ!」

 

 そうして取っ組み合いが始まったんだけど、相手は俺以上に大きく、力も強いんじゃどうしようもない。

 ボロボロに負けてしまい、他の子を連れて帰ってしまった。

 

 よくみたら、カードが何枚か取られている。

 

「……タイガ?」

 

 カバンを持ってボロボロになって帰路についていると、テンにいと会った。

 そのとき、ボロボロに涙が出てきた。

 

「にいちゃぁんッ!」

 

 それから、俺はテンにいに話した。

 同年代の子達にウルトラマンケンのカードの存在が嘘だと言われた事、父さんやじいちゃんばあちゃんのことを嘘吐き呼ばわりされたこと、そしてカードを取られてしまったこと。

 静かに聴いてくれたテンにいは俺の肩を持って視線をあわせ、真っ直ぐなまなざしで言ってくれた。

 

「よく頑張ったな、タイガ。あとはにいちゃんにまかせとけ。だってにいちゃんは、ウルトラマンのにいちゃんだからな」

 

 

 

 ウルトラマンの兄。

 

 

 その言葉がどれほど強く、俺の心に響いたことだろう。

 

 忙しく、ほとんど会えない俺が寂しい思いをしていたのはじいちゃんやばあちゃんも察してくれていただろうけど、あのときのテンにいの眼差しはそれを一目で見抜いていたのかもしれない。

 あのあと、ボロボロになってテンにいが俺のカードを取り返してくれたこと、ウルトラマンが親で在ることが嘘じゃないことを訂正させたと聞いて、正直驚いた。

 

 

 俺の中でテンにいはヒーローになったのだ。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ようやく目覚めた個性、待ちに待った個性。

 

 どんな個性かなと胸を躍らせていたのに、いざ蓋を開けてみれば、触れたものがみんな壊れてしまう。

 

 飼っていた猫も、優しかったハナちゃんも、

 

 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ。

 

 簡単に壊れてしまった。  

 

 だけど、父さんを手にかけたときのこの暗い喜びはなんだろうか。

 

 

 

――にいちゃんっ!

 

 

 

 脳裏によぎる、タイガの笑顔。

 

 部屋の隅で血の匂いが鼻空から入っていく中、太陽のように眩しい笑顔が浮かんでくる。

 

 あの笑顔もこの手にかけたら、なくなってしまうのだろう。

 

 そう思うだけで怖かった。

 

「にいちゃん、そこで何をしているの?」

 

 鍵が開いていたからだろう、不安そうな顔で部屋の中に入ってきたタイガ。

 本当に疑うことを知らない奴だ、と歯噛みする。

 

 こいつはなにもかもを持って生まれてきた。

 

 我儘を叶えてくれる祖父母。

 

 ヒーローになることを反対しない、ヒーローの父と優しい母。

 

 おれは、こいつが昔から――――。

 

「にいちゃんっ!血が出てる!」

 

 慌てた顔でハンカチで不器用に血を拭い、目に涙を浮かべているタイガを見て俺はハッとした。

 

 俺は今何を考えていた?

 

 もしかして、タイガをこの手で―――?

 

 駄目だ、それは駄目だ。

 

 それじゃあ、俺がヴィランみたいじゃないか

 

「タイガ、タイガ、俺……」

 

 その血塗れの手で、家族を手にかけてしまった手で俺はタイガを抱きしめていた。

 タイガは驚いた様子を見せたけれど、抱きしめ返してくれた。

 

 タイガの体は、壊れなかった。

 

 俺の家族の葬儀はつつがなく進んだ。

 

 まだ幼い俺に変わり、光太郎叔父さんが何から何までを手配してくれた。

 光太郎叔父さんとさおり叔母さんが駆けつけてきたときに抱きしめられたぬくもりはまるで太陽のようだった。

 

「君はヒーローが憎くないかい?君の肝心なときに助けてくれなかったヒーローのことが」

 

 葬儀から数日、俺を引き取ってくれた東家で暮らすようになってから暫く、妙なマスクをした男が俺を呼び止める。

 見知らぬ男だけど、その言葉で俺の中にふつふつと湧き上がる感情、そのときに俺の前にタイガが立った。

 

「なら、俺がヒーローになる。ウルトラマンになる」

 

「ほう?君は?」

 

「俺はタイガ。東太我」

 

 マスクの男が近づいて来て、タイガと視線を合わせる。

 タイガは物怖じひとつせず、その眼差しを捉える。

 

 強い眼差しだ、まるで光太郎叔父さんを思わせるような。

 

「誰かが助けを呼んだとき、誰かが力を必要としているとき」

 

 それは、ヒーローソングの中にあるフレーズの一つ一つ。

 幼い子供が難しい言葉を知っていると思えないから、タイガはそこで知ったのだろう。

 

「オールマイトがいて、そして、英雄(タイガ)がここにいるって思ってもらえるようなヒーローになって俺が安心させて見せる」

 

 力強い言葉だった。

 そうか、とだけ言って男はつまらなさそうに帰っていった。

 

「にいちゃん」

 

「うん?」

 

「俺と二人で、英雄(ウルトラマン)目指そうぜ!」

 

 それは、家族を殺した俺が望んでいいことではなかったのかもしれないけれど。

 だけど、俺を助けてくれた太陽に報いるには、恩を返すには。

 

「ああ、俺とタイガでウルトラ兄弟か」

 

 二人でなら、もっと高く飛べそうな気がした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 異形の巨大ヴィランに立ち向かうのは、青いプロテクターにシルバーのボディに走る赤い模様、腕のガントレット状のアイテム、そしてウルトラマンケン、ウルトラマンタロウ譲りの銀色の双角を持つ銀色の巨人こそ、ウルトラマンタイガだ。

 

「タイガ!そいつの腹に気をつけろ!そいつの腹はお前の得意な光線を全て吸収してしまうぞ!」

 

 『個性:ウルトラマン』。

 

 熱光線。

 

 超能力の数々。

 

 頑丈な肉体。

 

 それらを総称し、そして人々の希望や声援をエネルギーに変えることが出来るヒーローの力。

 

「わかった!じゃあ、こいつには近接戦闘だな!」

 

 腕に値する部分が鋭く尖った特徴を持ち、どことなく鳥のような印象を持つ異形のヴィラン・ベムスター。

 慎重に間合いを読み、迫っていって光太郎叔父さん譲りの重く威力のあるパンチを叩き込む。

 

「やっぱり、テンにいは頼りになるぜ!」

 

 今でも変わらず、俺のことを志村転孤のことを兄のように慕ってくれる。

 

 俺は今、タイガと共にヒーローになった。

 

 ウルトラマンの名前は俺には重く、受け継ぐことはできないけれど、俺なりにできることはあると豊富な知識を活かし、情報を提供しつつ、実戦ではタイガがウルトラマンとなって戦う。

 

 世間では、新ウルトラ兄弟と呼ばれている。

 

 肝心のタイガは、ウルトラマンタイガは人々の声援を受けて戦っている。

 

 ウルトラマンの父がいて、ウルトラマンの母がいて。

 

 そして、タイガがここにいる。 




元ネタ

東光太郎
→ウルトラマンタロウの人間体。
 本人なのか、合体しているのかは謎。
 ボクサー設定、タロウの一人称は光太郎のものを採用。
 面倒見の良いハンサムな男性。

東さおり
旧姓・志村。
 志村菜々の娘。
 白鳥さおりから。

東太我
「太陽のように明るい我(自分)を持って欲しい」という願いから。
父親譲りの末っ子気質、じいちゃんばあちゃんっ子で幼くしてオール・フォー・ワンに啖呵を切る。末恐ろしい子。
 ヒーローネームは勿論、ウルトラマンタイガ。

志村転弧
 タイガの従兄。
 五指で触れると破壊する個性に目覚め、困惑し、自我崩壊しかかったところに運命的にタイガとバッタリ会ってしまう。
 そこでウルトラマンの力によるものか、はたまた愛か。
 壊れなかったタイガと共にグラントリノに扱かれたりする。
 ヒーローネームは三日月(弧を描くことに由来)。

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