小説自体は初めてというわけではないのですが、これからどうなるかびくびくしてます(笑)
投稿ペースは割と不定期になってしまいますが、暖かい目で見守ってくださると幸いです。
ちなみにサブタイトルにはあまり意味はありません。気分です。
ピンポーン。
彼___藤澤
リビングのソファーでひとりうとうとしていた彼は、慌てたように飛び起きた。
どうでもいいがこの男、びっくりする系が嫌いなのである。どうでもいいが。
無駄に広い廊下を小走りで抜け、玄関へとたどり着いた。
適当に置いてあったサンダルを履き、ドアを押し開ける。
「はーい、どちらさま……」
すぐさま彼は息を呑んだ。
ドアの先には、10人が見たら全員が「美少女」と口をそろえるほどの少女が佇んでいたからであった。
身長からして、中高生くらいだろうか。
腰のあたりまで伸びた艶やかな黒髪は、見る者の目を惹きつける。
大きい栗色の瞳は、どこか日本人離れしているようで。
碧音は見つめていたのを悟られぬよう軽く頭を振った。
そんな碧音を気にも留めず、少女は話し始める。
「夕方のお忙しい中すみません、今日隣に引っ越してきた桐ケ谷といいます」
少女は手に持っていた中くらいの箱を胸の前まで持って来て、碧音へと手渡した。
「つまらないものですが……どうぞ」
「これはご丁寧にありがとうございます」
予想以上に丁寧な言葉遣いだったので、碧音もできる限り失礼のないように受け取った。
ちなみに、こういう場合は謙遜するよりも素直に頂いた方がいいらしい。
立ち振る舞いや言葉遣いから感じられたが、この子の家はとても礼儀正しいらしい。
どこかのお嬢様と言われても疑いはしないだろう。
「うちには小さい兄弟もいるので、何かとご迷惑おかけするかもしれませんが……」
「全然大丈夫ですよ。賑やかなの、嫌いではないですから」
碧音の住んでいる一帯は割と高齢化が進んでいるほうで、小さい子がいる方が珍しいのだ。
別にそこまで田舎というわけでもないのだが……人口層と言うのは本当に分からない。
ともかく、一人暮らしで暫く親とも会っていない碧音にとって、騒がしいのは大歓迎だった。
「では、そろそろお暇させてもらいます。宜しくお願いしますね、藤澤さん」
そう言われて、碧音は自分が自己紹介もしていなかったことに気が付く。
少女は表札でも見て碧音の名前を知ったのだろう。
去っていく少女の後姿を見送りながら、今度会ったら自己紹介しよう、と心に誓う碧音であった。
碧音が暮らしているのは、この若さでは珍しい一戸建ての住宅だった。
そこに一人暮らししているのは、別に金持ちだからとかではなく。
この家は正確に言えば、碧音の両親の家、となる。
しかし碧音の両親は、不慮の事故で二人共亡くなってしまった。
碧音に言わせれば、二人離れ離れで死ななくてよかった、のだそう。
そう息子に言わせるだけ両親は仲が良かったし、同じくらいに碧音のことを愛してくれた。
両親が亡くなってしまっても、碧音の生活は大して変わらなかった。
義務教育は終えていたし、幸いなことに支援してくれる親戚がいたのだ。
碧音は両親との思い出の家を引継ぎ、そこで今も暮らしている。
それに関して、大きな問題はなかった。ただ、どうしても暇になってしまうというのが唯一の欠点ではあるが。
ともかく、それで何が言いたいのかと言うと。
碧音は想像以上にバイトをしまくっているのである。
「碧音……流石に休みなさい」
「何言ってるんですか店長、まだオムライス作ってませんよ!」
「だからって休憩なしに五時間勤務はやめい。私が訴えられる」
厨房でフライパンを巧みに操りオムライスを作る碧音。
そんな碧音に苦言を漏らすのは、この店のマスター兼店長である、
年齢は三十代後半だと聞いているが、とてもそうには見えない美貌を持つ。
喫茶店、羽野原。
瞳の父親がオーナーとして経営している、この町ではかなり有名な喫茶店だ。
雑誌で何度も紹介されるほど知名度があり、休日には家族連れや若者で賑わう。
平日になれば、ご年配の方が安らぎを求めて来店する、憩いの場になる。
に、なるのだが。
「んなこと言ったって俺抜けたら厨房に立つ人いないでしょ!」
「それはそうなのだが……」
「ほらうじうじ言ってないで注文取ってきてくださいよ」
「店長使いが荒いなあ最近の若者は……」
肩を落としながら歩く店長を若干可愛いとか思いつつも、フライパンに向き直る。
さて、今回の注文はオムライス。時短をしつつも美味しく仕上げなければならない。
少し前に大量生産しておいたチキンライスを適量すくい出し、フライパンで温める。
焦げないように気を張りつつ、卵を牛乳と混ぜ合わせた。
一概にオムライスと言っても、完成形には沢山の種類がある。
オムレツのような形にしたものや、あまり熱さずに蕩けさせるやり方もあるのだ。
碧音が得意として作るオムライスは、その中でも一番オーソドックスなタイプ。
温めたチキンライスを皿に半円形に固めておく。
それからフライパンに混ぜた卵を投入した。
フライパンを軽く浮かせて、全体に卵を広げる。
加熱するのはたったの数秒。軽く固まるのを見計らい、火を止めた。
フライパンが大きい故に卵が薄くなり破れがちだが、そこは碧音の腕の見せ所。
碧音はフライパンを器用に操り、チキンライスの上にそっと乗せた。
これで、碧音特製オムライスの完成だ。
オムライスの出来に満足しつつ、碧音はオムライスをカウンターの上に乗せた。
運んでくれ、というサインだ。
そんなとき、どこからかボールペンが飛来し、碧音の頭に衝突した。
「いつつ……店長だな、これは」
こんなことをするのは店長しかいないと決めつけ、注文を聞いている店長の方を向いた。
店長の姿を確認すると、彼女は指で地面をちょいちょいと指しているところだった。
『伝票を見ろ』のサインだ。
碧音が急いでカウンターに置かれた伝票を見に行くと、オムライスと書いてある横に小さく『子供』と書いてあるのを発見した。
「やばっ」
碧音は急いでオムライスをカウンターからかっさらった。
向かうはいくつも置いてある鍋の一つ。
鍋のふたを開けて、中の液体をオムライスにさっとかける。
この液体はビーフシチュー。子供だけの特別サービスだ。
再びカウンターに戻り、伝票を届けに来ていた店長に手渡す。
「ありがと」
「次はもっと大きな字で書いてくださいよ」
「はは……そうしとく」
店長はオムライスもといビーフシチューオムライスを、お客さんへと届けに行った。
……大量の注文が書いてある伝票を残して。
そう、この喫茶店の欠点としては二つ。
店が狭いのにお客さんが大勢来ること。
そして、かなり重度の人手不足である。
次の休憩は昼のピークを抜けてからになりそうだ、と碧音は苦笑いした。
「お疲れ様」
店から最後の客がいなくなると同時に、気が抜けた碧音は近くにあった椅子に座り込んだ。
時刻は現在夕方の六時。少々早い店じまいだが、居酒屋ではないので妥当だろう。
あれから碧音は短い休憩を挟みつつ、今まで働き続けた。
一つ間違えればブラックとも思われかねないだろう。
「店長、もっと人を雇うべきですよ。店員は俺含め三人しかいないんだから」
如何せんこの店は店員が少ない。
碧音を含めても三人しかいないのに、客はどんどんとやって来る。
「うん、そうなんだが……お父さんが許可してくれなくてね」
「ああ……あの面接ですか……」
この店の時給は決して安くはない。ほかの店に比べれば高い方だ。
それに賄いも出るし、無理に仕事を入れられることもない。
なのに店員が増えない理由、それは面接にある。
この店にバイトや仕事を希望した人は、まず必ず面接を受けさせられる。
面接官はたった一人、瞳の父親であるオーナーだ。
彼の面接では、彼自身が気に入った人にしか合格を出していないのだ。
学歴や家庭環境などは関係なく、ただオーナーの直感で選んでいる。
だからこそ、面接を受ける人は多くても合格する人は中々出ない。
「まあ、お父さんの人を見る目は確かだからね」
「それは納得ですが」
今いない店員二人も、独特な人物ではあるが皆いい人だ。
他ならぬ碧音自身も仕事はしっかりとこなすので、店長からの信頼が厚い。
店長と雑談をしつつ、店の片付けを始めた。
ある程度片付けが終わったところで、店長は碧音に言った。
「本当に助かったよ。今日の分の給料は色つけとくから」
「すみません……ありがとうございます」
「お礼を言いたいのはこっちだよ。後は私がやっておくから、もう大丈夫だ」
碧音はもう一度店長に感謝を述べてから、喫茶店を出た。
外はすっかり暗くなっている。まだ春だから当然と言えば当然か。
昼間は暖かいとは言え、まだ冬は終わったばかり。
春特有の肌寒さを感じつつ、碧音は足早に歩き出した。
肌に当たる冷たい風が、長時間の仕事で火照った体を冷やしていく。
こうして、碧音の一日は過ぎていく。
家の前に、十分ほどで到着した。
鞄から鍵を取り出しながらふと視線を横にずらすと、昨日挨拶しに来た少女の家が見える。
家は電気がついていて、温かそうな笑い声が漏れている。
「……確かに賑やかだな、これは」
確か兄弟がいると言っていたか。何人家族なんだろう。
浮かんでくるどうでもいい疑問に頭を悩ませながら、碧音は自宅に入った。
これからはもっとSAO要素を増やしていきたいですね……。
読んでいただきたき本当にありがとうございました!