ベテラン勇者がRTAする話   作:赤坂緑

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お待たせしました! 第二章の開始です!
一章の反省点を踏まえた上で、第二章のコンセプトを決定いたしました。

よりダークに、テンポよく。
でもコメディーパートも大事にし、そして何よりガバをしない。

えっ? それって不可能? そんなぁ......


第二章:暗き森の魔導士
出会い


 

 絶対にガバを許さないRTAはーじまーるよー!

 

 はい、どうも皆さん。

 

 そろそろ挨拶のパターンも尽きて来た勇者でございます。

 

 アルカディア王国の動乱を優雅に隙なく乗り切り、覚醒したクリスティーナをお供に旅立ってからはや一週間が経過しました。

 

 目的地は地図のほぼ真ん中に位置するアルカディア王国から見て真東にある「果ての森」でして、現在は迷子にならないために海岸線に沿いながら馬を走らせています。

 道中は偶に魔獣と遭遇する程度で特に問題はないのですが……えぇ、もう皆さんお気づきでしょう。そうです。「果ての森」というのは、魔将騎序列第三位「幻郷のユリウス」が管轄している地域なんですよね。

 

 どうしてわざわざ敵地を目指すのかと言いますと、私も行きたくはないのですがそこに「鍵」があるからです。魔王のいる魔界へと到達するための鍵が。

 

 さて、ここで今更ですがどうしてこのRTAが2年という長いスパンになるかについて説明したいと思います。

……まぁ、理由は結構沢山あるのですが、一番厄介でかつ避けられない問題が()()()()()()()です。

 

 魔界に到達するためにはどうしても「鍵」が三つ必要でして、(ダクソで言うところの鐘みたいなもの)序盤はとにかくこれを回収するために東西南北あちこちを走らされることになります。

 移動に一か月以上を要することもザラで、フラグ立ても面倒くさく、結果的に2年でもかなり速い方、ということになってしまったわけです。

 

 ただ、ここで一つ朗報が。

 

 私たちの基本的な移動手段は足の速い馬になるわけなんですが、やはり馬とて生き物。当然の様に疲れますし、無休で動かし続ければいずれは死んでしまいます。

 後半になれば飛竜とかで移動もできるのですが、やはり現段階においてはこの馬が限界。フラグの関係で早く果ての森につきたいのですが、どうしても途中休憩が必要となる――

 

 で す が

 

 ここにいるじゃあ、ないですか。

 時間を巻き戻せるとかいうチート権能を持ったお嬢さんが。

 

「……すまない、クリスティーナ。もう一度頼めるかい?」

「分かりました。……ごめんなさい、もうちょっとだけ、頑張って下さい」

 

 聖剣が虹の輝きを放ち、私たちが搭乗している馬に纏わりつきます。すると、先程まで疲労が蓄積し始めていた馬の呼吸が安定し、直ぐに元気を取り戻しました。

 

 そうそうそう! これなんですよ! これこれ!

 

 移動を短縮させるための秘奥義。馬の体力を無限に回復させ続けることで移動時間がぐんと縮まる殆どバグみたいな反則技。名付けて体力無限ホース!

 

 これによって無駄な休憩時間を省き、馬たちを常に全速力で走らせることが出来るようになりました。

 唯一聖剣を使用しているクリスティーナにだけ魔力的な疲労が蓄積していますが、どのみち夜は暗くて移動どころではないので、一日の終わりに十分眠ってもらえれば大丈夫です。

 

 アルカディア王国で結構タイムロスをした私ですが、代わりに移動時間の方は結構短縮できたのではないでしょうか? 通常であれば一か月ほど掛かる道のりが、あと一週間掛からないくらいで到達できそうです。

 

「……」

 

 ただ、外道と言えば外道な手段なのでクリスティーナ嬢があまりいい顔をしていません。先程から何度も馬たちの鬣を撫でています。

 しかし、今すぐにでも果ての森へ行かなければ世界が危ないと説明すればこちらの好感度を落とさずに納得させることが出来ます。

 

 情報源はクリスティーナが知らないところで戦っていたユリウス本人ということにしています。

 彼女には知り様がないですし、ユリウスと出会っても何とか誤魔化せる自信があるので問題ありません。

 

「そろそろ暗くなってきましたね。寝床の確保をしましょうか」

「そうだね……あそこの岩場なんてどうかな?」

「いいですね。では今日のキャンプ地はあそこということで」

 

 最初は戸惑いや失敗も多かったクリスティーナですが、この一週間であっという間に旅の生活に適応してしまい、今では自分から率先して焚火を準備したりしてくれています。

 おまけに溜まった疲労も聖剣で吹き飛ぶので、旅のお供としてはこれ以上ないほど優秀と言えます。

 

「それじゃあ、僕は狩りに行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」

 

 焚火の準備をしながら微笑みかけて来るクリスティーナに頷き、近くの森に入っていきます。

 体力や空腹感を聖剣でなかったことに出来る以上、別に態々食料を探しに行く必要などないのですが、「食事は人間の基本だよ。それに、美味しいものを食べてこそ人はいい眠りにつける。娯楽は幸せへの一歩だよ」と心にもないことを言って自ら狩りと料理を始めました。

 

 実は私、今まで言ってなかったですが料理も得意なんですよね。

 

 そしてこれは、クリスティーナの好感度をコントロールするのに結構使えるので重宝しています。

 私がやむを得ず合理的で非人道的な行為を許容してしまった日の夜などは特に。

 

 これまで食事にはあまり気を遣ってこなかったクリスティーナですが、自然の中で実際に自分たちで狩って調理した獲物を喰らうワイルドフードにハマってきているようで、先程も少しだけ目が輝いていました。

 

 まぁ、この時間帯は移動しようがないので狩りで時間を潰すくらいは別に構いません。存分に料理の腕を磨き、彼女に振る舞ってあげましょう。

 

 好感度を上げるには地道な努力から。

 どの世界においても恋愛の哲学は一緒ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――美味しい」

「それは良かった」

「本当に美味しいですよこれ! 今まで食べて来た料理の中で一番美味しいです!」

「わ、分かったから。落ち着いて食べな……?」

 

 そこら辺に居た猪を仕留め、手早く血抜きなどを済ませてから持参したハーブや調味料と合わせて焚火で炙っただけの簡単な料理を振る舞ったのですが……えらく好評だったようです。

 クリスティーナは今にも泣き出しそうなほど喜んでおり、バクバクと上品にですが確実に平らげています。

 普段は少食な彼女からは想像も出来ない程見事な食べっぷり。これは昼間の事も忘れてくれそうですね。良かった良かった。

 

「うぅ……これが幸せ、なのですね。アルマ」

「……いや、まぁ何を幸せと定義するかは人それぞれだから別にいいとは思うけどさ、流石にちょっと大袈裟な気がする……」

 

 天国のアルマも微妙な顔で見守っていそうですね。いや、素直な彼女の事だからこの光景も手を叩いて喜んでいますか。

 

「モグモグ……ルタはこの料理の技術を一体どこで覚えたのですか?」

「料理って言うほどのものではないけど、暇なときに図書館で読んだ本のレシピをそのまま真似しただけさ」

「ほうほう。あなたは本当に器用な人ですね」

「否定はしないけど、今回は猪に脂がのっていたのと、あとは調味料が優秀だったことが大きいだろうね」

「あぁ、そういえば」

 

 あっという間に肉を平らげたクリスティーナが自分の手を水筒の水で清めながら尋ねてきました。

 

「今までさらっと流していましたが、この調味料はどこで手に入れたのですか? 旅の途中で行商人と会った時も寝袋しか買っていませんでしたし、城下のお店で買ったのですか?」

「あぁ、それか……」

 

 うーん、言おうかどうか迷いますね。

 別に適当に誤魔化しても良いのですが、偶には本当の事を言っておかないと大事な場面で信用されなくなると言いますか。

 ここは素直になっておきましょう。

 

「いやぁ、実は――」

 

 照れくさそうに頭を掻きながら私は言いました、

 

「王城のキッチンから盗んできたのさ」

「……フフ、あなたは悪い人だ」

「笑っている君もね」

 

 テメェも、調味料満喫してんだから共犯者だ。

 暗にそういうニュアンスで言ったのですが、クリスティーナは楽しそうに笑っています。あらら、意外と悪の才能あるかもしれませんね。

 

「そんなに固くならなくともいいですよ。調味料くらい、彼らも笑って許してくれるでしょう。――あなたは祖国を救ってくれた英雄ですから」

「英雄って言うなら君の方だと思うけどね」

「私は最後に良いところを掻っ攫っただけです。結局、全てはあなたがいなければ成り立たなかったことだ。胸を張って下さい。勇者ルタ」

「……ありがとう。君ももっと自分に自信を持っていいよ。アルカディアの聖騎士さん」

「なかなかその呼び名には慣れませんね……」

 

 先日、旅の途中で出会った行商人が言っていたことなのですが、アルカディア王国は一つの噂を流し始めたらしいです。

 曰く、「虹の聖剣に目覚めた若き王女、クリスティーナ・エヴァートンが古の儀式によって目覚めた勇者と共に、魔王を倒すための旅に出かけた」と。

 

 これはクリスティーナを聖剣使いとして連れ出すと発生するバフのようなものでして、諸外国で自己紹介の手間が省けるので非常に便利です。

 

 アルカディアの聖騎士。

 

 それが今のクリスティーナを表す称号。私ですか? 私は当然「ベテラン勇者」に決まっているじゃないですか(誰も聞いてない)。

 

 

「――さて、ではそろそろ訓練と行きましょうか」

「今日は別にいいんじゃないかい? 昼間の移動で結構疲れたと思うし……」

「いいえ。聖騎士などという分不相応な称号を与えられた以上、少なくともそれに見合うだけの技量は身に着けておくべきでしょう。あなたには迷惑を掛けますが、是非一手指南をお願いしたい」

「迷惑だなんてとんでもない。喜んで手伝わせてもらうよ」

 

 夕食を終え、どうでもいい雑談を小一時間くらいした後の事です。

 立ちあがったクリスティーナは木に立てかけていた聖剣を鞘から抜き、軽く振ってウォーミングアップを始めました。

 

 旅を開始してからほぼ毎晩続けている剣の特訓です。

 

 聖剣を覚醒させたことによって人外の力を手に入れたクリスティーナですが、本人の技量はバフなしではかなりの雑魚です。

 万が一、聖剣が手元にない状況に陥った場合や、彼女が一人で敵に囲まれてしまった場合に聖剣の力に頼らず乗り切るための手段が必要なのです。

 後は単純に、彼女の技量が上がれば総合的に聖剣の真価も引き出しやすくなり、敵の殲滅が楽になります。

 

 本人も望んでいることですし、ここは遠慮なく全力でしごいてあげましょう。ちょっとやりすぎなくらいがいいと思います。多少の怪我は直ぐに治りますし、お互い合意の上なので好感度が下がることもありません。

 

 それに、ここで技量の凄さを見せつけておけば彼女からのリスペクト度合いも上がるので一石二鳥です。

 

「ハァ、ハァ……やはり、ルタは強いですね……」

「そんなことはないさ。クリスティーナも頑張って鍛えればこれくらいにはなれるよ」

「それは、ハァ、ハァ……大分、遠い道のりな気がしますね……」

 

 結構遠慮なくボコボコにしたのですが、それでも倒れないのは流石の精神力と言うべきですかね。

 この調子なら、近いうちに護身くらいは出来るようになると思います。

 

「良し。それじゃあ、今日の訓練は此処まで。近くに綺麗な湖があったから、そこでリフレッシュしてくるといい」

「ありがとうございました。そうさせて頂きます」

 

 その後は特に何もなく、交代で水浴びをしてからクリスティーナが先に眠りにつきました。

 私は意識が落ちる直前のクリスティーナに聖剣で体力の回復を掛けてもらったので、一晩くらいは余裕で越せます。

 

 クリスティーナは申し訳なさそうにしていましたが、彼女には昼間無理をさせているので、代わりに私が夜の見張りを担当しているって感じです。

 

 これから先もクリスティーナは聖剣を使った日の夜に行動不能となるため、このムーブが基本となります。

 消費した魔力量によって眠りの度合いは変わるのですが、やはりタイムを縮めたいのであれば彼女には無理をしてもらうことになります。そのツケを私が払うのは別に構わないのですが、大きな戦闘が合った後に彼女が行動不能になってしまうのはどうしても避けたいところです。

 

 ゾルディン戦の後なんか、なんの前兆もなく倒れましたからね、彼女。

 

 これから先は連戦も普通にあります。その効果の割にデバフとしてはかなり優しい部類であることは重々承知なのですが、それでも意識のない彼女を守りながら戦えるほど私はまだ強くありません。

 

 何とかしてデバフを解除したい――と悩んでいるそこのあなたに朗報です。

 

 今向かっている「果ての森」。ここは多くの魔術を扱うエルフたちが住まう森でありまして、そしてそこには()()()()()()()()()()()()()魔術を持った人物がいるんですよ!

 

 いやー、正しくこのパーティーを救うために生まれて来たと言っても過言ではありませんねぇ。是非、仲間にしたいところです。

 

 し か も

 

 彼女は性格も素晴らしいんですよ。こう、なんていうか。おしとやかで、静かで、あんまり無駄なことを言わないし、気を使う必要がなくてチョロいって言うか。

 まぁ簡単に一言で表すと陰キャ、なんですよね。

 

 陰キャっていうと馬鹿にするような響きがあるかもしれませんが、今一緒に居るクリスティーナだってその性格は要約すれば陰キャです。……最近ちょっと明るくなってきていて、若干陽キャの兆しが見えるのが気に入りませんが、それでも根本的には陰キャな筈なのです。

 

 陰キャ×陰キャ=扱いやすい。これ、世界の法則です。

 

 クリスティーナは基本的に誰とでも仲良くしてくれますが、変にやかましい人よりは大人しい陰キャの方がいい筈です。

 ちなみに私は陰キャの方が好きです。コミュニケーション能力も限界突破している私ですが、何を隠そう実は私も性格は陰キャなんですよね。そりゃあ、陽キャとも付き合えなくはないですが、やっぱり相性が良いのは陰キャです。

 というわけで纏めますと、「果ての森」には魔界に到達するための鍵があり、さらには聖剣のデバフを無効化できる陰キャがいるというわけです。

 うーん、宝の宝庫かな?

 

 これは全速力で行くっきゃねぇ!

 

 

 

 

 

 ただ、ですね。

 

 非常に残念なお知らせと言いますか。

 例の陰キャな彼女を仲間にするには結構運の要素が強いと言いますか、どうしても私個人の力では突破できない壁があると言いますか……。

 

 いや、この話題については実際に「果ての森」についてから話すとしましょう。

 それでは、今日のところはお休みなさーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、私は寝ちゃダメなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後。

 

 

 さて、ようやく果ての森に到着いたしました。

 いやー、驚くほど長い道のりでしたが、聖剣のお陰で移動のストレスがそこまでなかったのが救いですかね。

 

「これが……果ての森?」

 

 馬の上で困惑した様に呟いているクリスティーナですが、初見では困惑するのもよく分かります。

 森というからには木々が生い茂っているはずですが……私たちがたどり着いた先には謎の()()()が壁となって周囲を囲んでおり、木の一本を見つけることも出来ない程異質な空間となっていました。

 

「地図ではこの場所で間違いないけど……どうやら、何か良くないことが起きているみたいだ」

「そのようですね。この霧……もしかしてですが」

「多分、その推測は間違っていないと思うよ。これはアイツの霧だ。魔将騎序列第三位『幻郷のユリウス』の霧……」

「……なるほど。あなたが急ぎたがっていた理由がようやく分かりました」

 

 頷いたクリスティーナは馬上で聖剣を抜刀しましたが、下手に手出しをすることも出来ないため、直ぐに切っ先を降ろしました。

 

「参りましたね。中に住んでいる人々の状況が分からない以上、むやみやたらに聖剣を解放するわけにもいきませんし……覚悟を決めて飛び込むしかないのでしょうか?」

「多分、ね。聖剣の力で霧を払うことは出来る?」

 

 馬から降りたクリスティーナは聖剣を発動させ、全身に虹の魔力を纏いながら左手を突き出しました。すると、手を翳した箇所の霧が僅かに晴れますが――直ぐに元へと戻ってしまいました。

 

「……駄目ですね。この霧全てを晴らす前に私が意識を失ってしまうと思います」

「そうか……どうやら、この森は君にとって鬼門になりそうだね」

「……えぇ、誠に遺憾ですが」

 

 項垂れるクリスティーナですが、こればかりは仕方ありません。今私が言ったように、この森は聖剣にとって鬼門となり得るエリアの一つですから。

 

 なにせ、ここは千年以上の歴史を持つ神秘と誓約の森。

 

 如何に彼女が時間を操る権能を手に入れたとはいえ、巻き戻せる時間は半日か、最大でも一日程度です。それでも十分すぎるほどに凄まじい力ですが、この地域は数百年前から続いている魔術が平気でそこら辺に転がっているガチの魔境。

 

 単純に相性が悪かったと言うほかありません。

 彼女には回復要員兼、いざという時の大火力に期待するとして……今はとにかくこの霧に飛び込むしかないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで突然ですが皆さんに質問です。

 

 

 聖剣のデバフを無効化できる陰キャと、大火力魔術だけが持ち味のやかましい陽キャ。

 仮にどちらか一人を仲間にするとして、あなたならどっちを選びますか?

 

 あぁ、ちなみに二人同時は無理ですよ。クソみたいな仕様で私も激おこぷんぷん丸なのですが、こればかりは覆せません。

 

 今の私のパーティー現状をよくよく考えた上でどっちを選ぶか考えてみてください。

 

 シンキングターイム!

 

 1、2、3……はい、終了。

 

 答えは皆さん満場一致で決まりだと思うのですが、一応私の考えをお伝えしておきましょう。

 

 陰キャ一択です。

 

 当然ですよね? 火力はクリスティーナが出してくれるので、今必要なのは回復も攻撃も一人で行える彼女をサポートできるキャラです。

 性格的にもクリスティーナと相性いいですし、絶対に陰キャ一択です。これ以外、あり得ない。

 陽キャを選択した? じゃああなた、RTA向いてないです(残酷

 もう一回キャラ作り直して周回し直してください。

 

 今更火力しか取り柄のないキャラとか要らねーんだよ! ペッ!

 

 しかも陽キャとか絶対にうちのパーティーには必要ない! 騒ぐなら他所で騒いでくださいって話ですよ。全く。

 

 と い う わ け で

 

 皆さんお待ちかねのガチャタイムでございます。

 

 チャンスは一回きり。

 この霧をくぐった先に陰キャがいれば成功です。陽キャがいた場合? 終わりだよこの野郎!

 

 まさかの運を試されるというRTAにあるまじき仕様ですが、ここで目当ての人物を引き当てれば攻略が大きく進むのもまた事実。

 

「飛び込むしかない、か」

「どうやらそのようですね。馬たちはどうしますか?」

「……ここに置いて行こう。申し訳ないが、霧の中では小回りが利きにくいと思うから」

「……分かりました」

 

 クリスティーナはここまで付き合ってくれた馬たちの頭を優しく撫で、そして手綱を手放しました。

 

「暫くここで待っていて下さい。もしも私たちが戻らなければ、その時はこの森を抜けてどこか遠くへ行ってください。どうか、お元気で」

 

 結局、愛着がわきすぎたら困るという理由で名前を付けなかった二頭の馬。彼らはクリスティーナの言葉を理解したのか分かりませんが、鬣を彼女の手に押し付けてからのんびりとそこら辺の草を食べ始めました。

 図太い奴らです。

 

「さて、では行きましょうか」

「うん」

 

 準備を完了させたクリスティーナが聖剣を抜刀した状態のまま霧を睨みつけます。

 私はそっと右手を差し出して言いました。

 

「クリスティーナ、手を」

「……えっ?」

「手を繋いでおこう。ここから先、何が待ち受けているか分からないからね。お互いを見失わないためにも手を繋いでおいた方がいい」

「あ、あぁ……そう、ですね」

 

 甲冑に包まれている手を謎にゴシゴシとマントで擦ったクリスティーナがそっと手を差し出してきました。

 

「よ、よろしくお願いします」

「……なんで緊張してんの?」

「突撃の瞬間は誰だって緊張するでしょう!」

「……まぁ、そんなもんか」

 

 事実、私も緊張しています。

 このガチャ次第で今後の立ち回りが変わって来るので尚更です。

 

「それじゃあ――行こうか、クリスティーナ」

「は、はい」

 

 意を決して霧の中に飛び込みます。この空間の中は完全にランダムとなっていまして、内部にある二つの集落のどちらかに飛ばされます。

 クリスティーナと手を繋いでいるのは、この霧の中ではぐれてしまうと敵対している集落に飛ばされてしまう可能性があるからです。

 飛ばされた先の集落から隣に移動することは禁じられているため、絶対にこの手を放すわけにはいきません。

 ちなみに、この厄介なルールのせいで陰キャと陽キャの二人を同時に仲間にすることは出来ない感じですね。

 選ばれなかった方は勝手に死んじゃうので。

 

 さて、緊張の瞬間です。

 クリスティーナの手を握りながら必死に天へ祈ります。今の私はきっと、信仰EXまで到達しているでしょう。

 もうね、神にも祈っちゃうくらいに必死なんですよ、こっちは。

 

 外したらどうしよう……。

 

 い、いや。そういうネガティブな発想が不幸な結果を招いてしまうのです。

 ポジティブに行きましょう。ポジティブに!

 

 ハハ、なーに。確率は二分の一です。50%の確率で陰キャが来るんですよ? 外すわけがありません。

 

 勇者のラック、舐めんなよッ‼

 

 

 

 さぁ――

 

 陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来い、陰キャ来ォォォォォォォォォォォオオオオオオオいッ‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? なんだアンタら。あたしたちの里になんか用? ……うん? っていうか、よく見たら人間じゃん! すっげー! 超珍しい! テンション上がりまくりなんですけどー! ねぇ、ねぇ、どっから来たの? あたし、リアスって言うんだよね。この暗き森の中では結構有名な天才魔導士でさぁ……って、聞いてる?」

 

 

 

 

 霧が張れた先にいたのは、褐色の瑞々しい肌に白く長い髪をポニーテールにしたアメジスト色の瞳が特徴的な美少女でした。

 全体的に活発な雰囲気で、好奇心旺盛な性格をこれでもかと前面に押し出しながらこっちに迫って来ます。

 歩くたびに豊満な胸部と長いエルフ耳につけられた銀の洒落たピアスが揺れます。

 

 クリスティーナとはまったく違うタイプの――ていうか、種族すら違う彼女の名はリアス。

 いわゆる「ダークエルフ」であり、本人が語ったようにこの暗き森で天才ともてはやされている魔導士であります。

 

 

 ……うん。まぁ、色々と言いたいことはあるよね。

 

 

 でも一つだけ言わせてもらっていい? 今回はマジで一つだけだから。なんなら一言で済むから。

 

 では皆さんも一緒に。

 いっせーのーで。

 

 

 

 

 

 

 陽キャかよォォォォォォォォオオオオオオオ‼

 




幸運Eは伊達じゃないぜ!

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