現在考案中のオリジナルのガンダム作品を「とりあえず」形にして書いてみました。

初めての小説なのでお見苦しい点が多々あると思いますが、そういった点についてはご指摘やアドバイスをいただけると幸いです。

少しだけ色々なガンダム作品をオマージュしたセリフ等があります。
良かったら探してみてください。

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残夢のオーガス

今の地球と人は汚れきっていた。

 

理由はよく知らない。

父親が言うには、自分たちで創り上げた文明に反旗を翻されて全面戦争というものになったらしい。

そいつらは人間に作れなかった兵器をいとも簡単に作って地球に落とした。

何個も、何十個も、何百個も…。

 

 

父の受け売りで言うのもなんだが、今の地球の景色を見ると納得できる話だった。

 

昔は青かったという空は白く、というより薄灰色のような色だ。

植物は茶色で、緑と呼ばれていたのが嘘みたいだと思う。

足で踏みしめている地面はほとんど荒野だし、都市や町の残骸はそこら中にある。

 

 

俺が産まれた時にはこの景色が当たり前だったはずなのに、地球人としてなのかは判らないが、辺りの景色に違和感を感じることがある。

 

 

人が汚れきっているという話は簡単だ。

 

こんな世界なら勿論資源は枯渇している。

それでも多数の人々は分かり合うよりも奪い合うことを選んだ。

 

モビルスーツ(以下MS)という武力もまた、世界中に転がっている。

人々は宝探しのようにMSを拾い集めて自分の手足とし、自分が生きるために他人を殺す。

他人より強く、先へ、上へと地を這ってでも誰かを殺す。

 

人は汚れている、などと思っている俺もその汚れた人の一人だ。

 

宝探しで何度となく外を駆けずり回ってきた。

今も相棒が運転するMS輸送用の大型車両の助手席で揺られながら、車窓から目ぼしい宝を探して辺りを見回している。

 

誰かを殺したことだってある。

自分が生きるためだから仕方がないんだ。

 

今を生きるので精一杯で、将来なんて考えたこともない。

そんなことよりも明日はどう稼いで何を食べるかを考えなければならないからだ。

 

今は、ただ生きる。

それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の男が目の前にいる。

 

MSの操縦席に力なく収まっている。

 

「・・・お・・・・・えは・・・・・・・・きろ・・・」

 

血塗れの男は弱々しく語りかけている。

しかし、至近距離にいるはずなのに声が聞き取りにくい。

 

男の頬に手を当てた。

 

いつもよりも冷たく感じる。

 

涙を流しながら、死ぬなというようなことを伝えた気がする。

自分の意識さえおぼろげで、自分が今何をしているのかも判らない。

 

男は頬に当てられた俺の手に自分の手を重ねた。

そして俺の名前を呼んでいる。

 

しかし、何故だか俺を呼んでいたのは違う人物のような気がした。

記憶にある目の前の男の声と聞こえる声が一致しない。

 

男の顔が、景色が、歪んでいく…。

 

???「イブサ。」

 

イブサ「⁉」

 

その声に意識を引き戻された俺は、車両の助手席に座っていた。

夢、だったらしい。

 

???「全く、寝過ぎだぞ。もう目的地だ。」

 

イブサ「お前にだけは言われたくないな…!」

 

???「俺は眠った分しっかり働いてるんだ。今俺達がここにいるのが何よりの証拠だ。」

 

そう言われると何も返せない。

事実、ここまで車両を運転していたのはコイツなのだから。

 

イブサ「そ、そんなことより、早く何かないか探しにいくぞランディ。」

 

ランディ「『そんなこと』だぁ? 俺の働きがその程度で済まされるんなら帰りは歩きでも―」

 

それはまずい。

 

イブサ「あぁ分かった!悪かったって!」

 

ランディ「冗談だよ。からかいがいがあっていいや。」

 

そう言うと笑いながら車両から降りていきやがった。

 

イブサ「・・・はぁ・・・」

 

慣れててもムカつく奴。

こんなんでもMS以外の乗り物に乗せればピカイチだってんだから憎めない。

 

ランディ「何してんだ、早く行くぞー。」

 

イブサ「分かってるっての!」

 

これ以上怒ったって仕方ない。

すぐに車両のドアを開けて梯子を下った。

 

今日の目的地は荒野の中にそびえたっている都市の一つ。

大型のビルが立ち並んでいる。

勿論完全に廃墟だ。

 

そんな廃墟に囲まれた道路を警戒しながら進んでいく。

比較的まともに形が残っているビルに誰かがいるかもしれないからだ。

 

そういった建物に住み着いて、通りがかった者を狙う盗賊は少なくない。

 

歩いて行くと何かが足に触れた。

咄嗟に反応し、体を向けた、が。

 

イブサ「…。」

 

ただの空き缶が転がっている。

気づかないうちに蹴っていたようだ。

 

溜息が漏れると共に安堵した。

 

ランディ「何にビビったんだ。」

 

こいつ…分かった上で訊いてるな…。

 

イブサ「うるさいな…黙って何かないか探せって…!」

 

ランディ「へいへい、っと…?」

 

憎たらしい返事の途中でランディが何かに反応した。

それに気付いた俺も同じ方向に目を向ける。

 

数㎞先あったのは噴水のある広場だった。

 

しかし更に注目すべきはその広場に立っている枯れ木の一つの根元だった。

 

 

 

 

 

 

 

少女「やぁっ、やめて、ください…。」

 

盗賊A「うるせぇ! 俺は金目の物を寄越せばいいって話をしてんだよ!」

 

盗賊B「そうだぞ小娘が!言う通りにしろ!」

 

少女「だ、だから、私は、何も持って、ません…!」

 

盗賊A「こいつぅぅ…!」

 

 

 

 

 

身体も態度もでかい男と部下のようなひょろ長い男が一人ずつ、女の子を木の下に追いやって脅している。

ああいうのはいるらしいとは聞いていたが、現行犯は初めて目にした。

 

ランディ「――んで、どうするよ。」

 

イブサ「…は?」

突然の質問に面食らってしまった。

「どうする」って言ったって…。

 

イブサ「―――ごみ漁りを続けるぞ。あれは俺達には関係無い。」

 

ランディ「…ふーん。」

 

イブサ「…何が言いたいんだ?」

 

ランディ「いいや別に?お前がいいなら構わんが?」

 

微かに口角を上げながら言った。

…本当に何が言いたいんだか…。

関係無いのは事実だろう…。

 

 

 

 

 

 

盗賊A「そんなに渡したくない物でも持ってんのかぁ、あぁん⁉」

 

少女「ひぃっ⁉ ほ、ほんとに私、なにも…」

 

 

 

 

 

そう、関係無い―――。

 

 

 

 

盗賊A「本当に何も持ってないってんなら、もっと大事なモンを頂こうかぁ⁉」

 

少女「え、え? それって…?」

 

 

 

 

自分が生きるので精一杯なんだから―――。

 

 

 

盗賊A「そりゃ、なぁ?」

 

盗賊B「身体、とか、なぁ?」

 

男達が汚い笑い声を上げた。

 

少女「あ、あぁ…た、たすけ…て…」

 

 

関係無い、はず、なのに―――。

 

 

少女「だれ…か…ぁ…」

 

―――あぁ、くそ。

 

イブサ「…ランディ。」

 

ランディ「へっ、そう来ると思った。」

 

―――本当に憎めない奴。

 

 

 

 

「―――おい!!」

 

拳銃を突き付けて呼びかけた。

盗賊どもは見事にこっちに向いてくれた。

尖っていてダサいサングラスをかけた顔は観るに堪えないが。

 

イブサ「そいつから離れろ!」

 

盗賊B「なんだてめえは⁉」

 

盗賊A「俺達になんか文句があんのかぁ…?」

 

イブサ「ただの通りすがりで、文句は『うるさい』。これでいいか?」

こういうタイプのはこうして煽れば―――。

 

盗賊A「なんだとキサマアァ!!」

 

図体だけはでかい男が拳を構え突進してくる。

 

 

―――こうなるだろうと思ったよ。

すぐさまアイサインとして右目でウィンクし、アイツに合図を送った。

 

次の瞬間、男の左側から飛んできた金属製の四角い部品が頭に直撃、男はその場で昏倒した。

アイサインを送った先には物陰から姿を現したランディがいた。

 

ランディ「一方通行にはご注意を、ってな。」

 

そこで拾ったであろう小さな歯車を指に引っ掛けて回しながら自慢げに言っている。

 

イブサ「それ、多分意味違うと思うぞ…。」

 

ツッコミを入れている間にもう一人の芯まで細い男が向かってきた。

 

 

盗賊B「てめぇよくもぉ!!」

 

ナイフを突き立てて向かってくる。

俺はすぐに向き直ると、まずは相手より姿勢を低く、そしてナイフを握って真っ直ぐに伸ばした右腕と上着の襟を掴み、後は体を捻って相手を背負う形に持っていけば―――。

 

後頭部と背中を地面に強打した男は秒で気絶した。

 

イブサ「やっぱりいいなこの技、使える。」

 

手を払いながら呟いた。

 

ランディ「お前アレやった時いつもそれ言ってるぞ。」

 

イブサ「ほっとけ。とっとと行くぞ。」

 

ランディ「女の子の安否確認に、だよな?」

 

イブサ「ぐっ…そうだよ…!」

 

コイツのうざさは気に障るが、構っている暇はない。

急いで木の下でしゃがみ込んでいる女の子の所へ向かった。

 

肩にかかる程度の長さの銀髪の少女だった。

紫色の目を見開いている。

まだ怯えているのだろうか?

 

イブサ「…おーい、大丈夫、か…?」

 

 

 

 

 

 

 

もう終わったと思ってた。

 

あの人の忠告を無視するんじゃなかった。

 

ただ「知りたい」って気持ちで、見てみたかっただけなのに。

 

もうダメ、そう思ってた所に現れた。

 

紺色の髪の、同じくらいの年齢の男の人が手を差し伸べている。

銀色の少し鋭い瞳がこっちを見つめている。

 

ずっと開きっぱなしだった口が、ようやく動いた。

 

少女「…救世主様…!」

 

 

男二人「「・・・はぁ?」」

 

 

…あれ、私今なんていったの?

 

やっと自分がどういう言葉を発したのか理解できた。

恥ずかしさで焦って立ち上がってしまう。

 

少女「…あわわわわわ、ごごごごめんなさい!決してからかったわけじゃなくて、ただ本当に助けてくれたのが嬉しくて、その、私!」

 

救世主様「あの、ちょっとごめん、落ち着いて…。」

 

その男の人は呆れ気味ながらなだめてくれた。

 

少女「あ、あぁ、ご、ごめんなさい。でもまずはお礼を言わせてください。本当に、ありがとうございました!」

 

出来る限り大きな声で、頭を下げてお礼をした。

 

救世主様「礼とかいいって、気まぐれだし。」

 

そう言いながら彼は目を逸らした。

 

少女「でも、さっきの技本当にすごいと思いました!あれ、なんて言うんですか?」

 

自分でも会話が繋がっていないような気がしている。

でもどうしても気になってしまって、流れで質問した。

 

誰?「あぁ、さっきイブサがやってたアレか。」

 

今の発言で、失礼な呼び方をしてしまった男の人が「イブサ」ということと、そのイブサさんの後ろにもう一人誰かがいたことを知った。

 

少女「…どちら様?」

 

ランディ「おいおいそこからかよ…。まぁいい、俺はランディ・ハイヤー。こいつ専属の運び屋さ。」

 

オレンジの髪に金色の瞳をしたイブサさんより頭一つくらい背の高い人は、そう自己紹介をした。

イブサさんが続けた。

 

イブサ「俺は救世主様とかいうのじゃなくてイブサ。トウドウ・イブサだ。さっきのは背負い投げ、っていうやつらしい。親父が住んでた国のスポーツの技らしくて、教えてもらった。」

 

少女「そうなんですか!もう華麗にきめちゃうものだからつい見とれてしまって―――」

 

 

 

 

 

 

 

―――なんなんだこの娘は…。

 

人を突然変な名前で呼んで、かと思えばあっさり立ち上がって謝り倒して、あのランディすら一瞬面食らうぐらいの天然さを披露して、今はこうして俺の背負い投げの感想ペラペラ語っている…。

これ以上何をどうしろっていうんだ…。

 

とりあえずもう一度落ち着かせてから名前を訊くことにする。

 

イブサ「あのー、ごめん、分かったありがとう。それよりおま―――じゃなくて、…君、の自己紹介がまだ…。」

 

正直言って女子と会話したことはほとんどない。

変な喋り方になってしまった気がする。

 

女の子は顔を赤くしながらやっと語りを止めた。

 

少女「あ、ご、ごめんなさい…。」

 

この数分で何度謝られたのだろう…。

女の子は続けた。

 

アリア「私は、アリアって言います。アリア・グレース、です。」

 

女の子はそう名乗った。

名前を知れたまではいいが、なんと呼べばいいのだろう…。

そんなことを考えている間にアリアが続けた。

 

アリア「あの、イブサさん…。」

 

イブサ「あぁ…、あ、そうだ、その呼び方。そういう丁寧な口調されると喋りにくいんだけど…。」

 

アリア「あ、そうですか?じゃあイブサ!」

 

イブサ「えっ」

 

アリア「私、あなたについて行っていい?」

 

 

あまりの切り替えの早さに固まってしまった上からさらに追撃された。

落ち着け、落ち着くんだ、俺。

 

 

イブサ「ええっと…どういう事?一人でここに来たのか?」

 

アリア「…はい。本当は保護者がいるんだけど、その人中々お部屋から出してくれなくて。」

 

イブサ「だったらどうしてこんな所に…。」

 

アリア「『外は危険だー!』って常日頃言うんですけど、むしろ何が危険なのか気になってしまって…、上手いこと抜け出してきたんだけど、迷子になっちゃって…。」

 

 

それで、ついさっきに至る、と…。

 

 

呆れる他なかった。

下手をすればここに来るまでに死んでいたかもしれないのに。

 

アリア「そういうわけで、ついて行っていい?」

 

イブサ「…その保護者って人が迎えに来るまでなら…。」

 

 

…本当、自分が生きるので精一杯のはずなのに、どうして他人を放っておけないのだろう…。

 

ランディ「決まりだな。早くアジトに戻ろうぜ。」

 

急かすなコイツ…!

 

アリア「はい!それじゃあアジトへ行きましょー!」

 

…成果が一切無いのに、どっと疲れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「おぉー!これが…!」

 

ランディ「あぁ、俺達のアジト、ってやつだ。」

 

目を輝かせるアリアと自慢げにしているランディ。

元々俺の基地だったのに…。

 

正確には「二人の」だったのだが。

 

寝かせたMS一機が入れる程度の格納庫に滑走路、完全にお飾りな管制塔の残骸で構成されている。

 

イブサ「元々は軍事基地だったらしい。あのMS用格納庫の中に部屋を作って寝泊まりしてる。拾ってきたMSの動力炉を使って電気も通したんだ。」

 

この世界には電柱なんてものは無い。

個人で発電機を作って商売をする者もいるが、それを買うよりもMSを拾ってきて動力炉を利用する方が安上がりなのだ。

 

アリア「それで、あの格納庫にMSはあるの?」

 

イブサ「まぁ、あるけど…。」

 

一層目の輝きが増した。

 

アリア「本当⁉見たい見たい!」

 

本当は気が乗らないのだが…。

 

イブサ「…わかった。行こう。」

 

どうもこういう圧には弱いんだ…。

 

 

 

 

 

シャッター脇の錆びたドアを開いた。

そして入ってすぐ左側のレバーを引いて電気を点ける。

暗い格納庫が光で満たされると、長座の態勢で佇む巨人の姿が露わになった。

 

アリア「これが…!」

 

イブサ「あぁ…。」

 

 

 

頭頂部から爪先までおおよそ18m。

 

白い四肢に、赤・青・黄色とカラフルな胴体。

 

細身な手足とは逆に大型な肩部装甲が力強いシルエットを作り出している。

 

そして頭部には一対ブレードアンテナが光り、鋭いツインアイは眠っているかのように暗い。

 

イブサ「オーガス…ガンダム。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

アリア「ガン…ダム…。」

 

イブサ「あぁ、聞いたことあるか?」

 

アリア「うん、MSの名前、ってことだけは。」

 

―――ガンダム。

 

大昔、人々が宇宙に進出したばかりの時の話だ。

 

宇宙に住む人と地球に残った人とで何度も戦争があった。

そんな戦争の歴史の節目に必ず現れては消えていったMS。

それがガンダムだと言われている。

 

たった一機で戦況を変えたとも、地球に落ちる隕石を押し出したとも言われる。

はっきり言って嘘くさい話だと思うが。

 

それでも英雄とも悪魔と呼ばれ、伝説として文明が滅びかけた今でも語り継がれている。

 

こういった話をアリアに話した。

 

アリア「知らなかった…。そんなMSだったなんて…。」

 

イブサ「オーガスは施設の残骸の中に眠ってたのを拾ってきたんだ。ガンダムのことは古い資料で見ただけの話だけど。」

 

ランディ「本当物知りだよなぁお前。」

 

イブサ「親父が色々本を持ってたんだ。読む気がないやつまで読まされた。」

 

ランディ「無駄にしてないなら偉いことさ。」

 

何を偉そうに言ってるんだか…。

 

 

アリア「そういえば、イブサのお父さんって―――」

 

アリアが何か言い終わる前に、外から爆音が聞こえた。

 

アリア「わっ⁉」

 

ランディ「…!」

 

真っ先にランディがシャッター脇の子窓の方に向かう。

この音はMSクラスの―――

 

イブサ「…ビーム兵器か…!」

 

ランディ「敵のMS!数は一機だ。威嚇射撃だったらしいな、被害は見られない。」

 

イブサ「一機だけか…。」

 

単独での襲撃を受けたことは一度や二度ではない。

いつも通り、そう思っていたが―――。

 

盗賊A「出てこいガキどもぉ!!」

 

アリア「ひいっ⁉」

 

イブサ「この声…さっきの!」

 

アリアを脅していたあの盗賊の声だった。

因縁をつけられるどころか後をつけられていたとは…。

完全に迂闊だった。

 

ランディ「おい!オーガスはまだ操縦系の調整中じゃなかったか?」

 

ランディがこちらへ叫んだ。

 

イブサ「そうだ!一体どうしたら…。」

 

するとランディは反対側の裏口に向かって走り出した。

 

イブサ「どうするんだ⁉」

 

ランディ「俺がモビルワーカーで足を止める!」

 

イブサ「モビルワーカーで?冗談だろ⁉」

 

モビルワーカーというのは、簡単に言えば小型の戦車のようなものだ。

操縦はMSよりも比較的単純だが、火力でも装甲でもMSに適うわけがない。

 

ランディ「安心しな。俺の腕前を忘れたか?」

 

ランディが真っ直ぐこちらを見据えた。

自信や度胸、覚悟に溢れた真っ直ぐな瞳。

 

―――そうだな。俺がお前を信じないでどうする。

 

イブサ「わかった。頼む。」

 

アリア「えぇっ⁉ でも―――」

 

ランディ「任せろ!」

 

そう即答すると、モビルワーカーの格納庫に繋がる裏口へ向かっていった。

アイツの覚悟を俺が無駄にしてはいけない。

調整を終わらせるために、オーガスのコックピットへ走った。

 

 

 

 

 

 

 

愛用のモビルワーカーに向かった俺は操縦席のフタを開いて乗り込んだ。

 

ランディ「戦闘システム、その他色々起動、っと。」

 

実を言うと、俺の操縦スキルは練習して得たものじゃない。

操縦方法さえ頭に叩き込めば、後は感覚に任せて操縦する。

 

そうやって使いこなしてやると、乗り物は応えてくれる。

 

だからこんな自信が湧き上がってくる。

俺にはできる。そう感じる。

 

ランディ「さぁ、行くぜぇ!」

 

 

 

 

盗賊A「俺をコケにしやがってぇ!」

 

敵のMSは空に向けていたビームライフルの銃口を格納庫に向けた。

 

盗賊A「次は外さん!全員消毒してやる!」

 

ただでさえ大きく汚い笑い声を拡声器で広域に発している。

聞くに堪えないな。

まずは騒音を止めないとな?

 

モビルワーカーをエンジン全開で走らせた俺は敵MSの前に躍り出た。

 

盗賊A「な⁉モビルワーカーだとぉ⁉」

 

思ったよりも動揺してくれた。

この隙に敵のMSの写真を機体のカメラで撮影、オーガスのコックピットに送信した。

 

盗賊A「とことん俺を舐めやがってぇ!!」

 

キレながら銃口をこちらに向けた。

勿論簡単に直撃をくらう俺じゃない。

 

すぐさま回避行動をとった。

そのままの勢いで敵の周囲を旋回し始めた。

 

足回りならこちらの方が有利だ。

MSが振り返りきる間に背中に廻ることができる。

 

敵の背中が見えた!

 

舌なめずりしながら操縦桿のトリガーを引くと、愛機が砲口から火を噴く。

発射された砲弾は敵の背中に命中した。

 

ランディ「…浅かったか。」

 

大したダメージにはならなかったようで、敵はすぐにこちらへ向き直ろうとしている。

 

勿論足は止めない。

俺の仕事は時間稼ぎだ。

撃破しようだなんて考えてはいけない。

 

ランディ「持久戦といこうか…!」

 

 

 

 

 

 

オーガスのコンピュータの調節中、ランディから写真が送られてきた。

そういえば俺は敵の姿を確認していなかった。

コックピットにいた俺は作業を続けつつコンソールで画像を確認した。

 

イブサ「コイツは…。」

 

敵としても売り物としても以前に見たことがある機体だった。

確か名前は「ギラドーガ」だったはず。

 

以前見た機体は右肩がシールドだったのに対してコイツは両肩がいかついスパイクになっている。

そして背面には機体の全長と同等の長さの得物を斜めに背負っている。

 

イブサ「専用の大型格闘兵器か…。」

 

アリア「あ、これって『ザク』っていうアレ?」

 

いきなりアリアが外からコンソールをのぞき込んできた。

余りにもいきなり来たので驚いてしまった。

 

イブサ「ッ!…あぁ違う、ザクじゃ、ない。似てるけど…。」

 

アリア「へぇ…。あれ、なんで顔赤くしてるの?」

 

アリアが顔を上げて言った。

顔と顔の間、数㎝程度。

何故に気付かないのか疑問に思ったが、時間差で彼女の顔が赤くなった。

 

アリア「ああっ!ごめん…!」

 

急いで体ごと離れながら謝ってきた。

 

イブサ「あぁ、いや、気にしないでいい…。」

 

とにかく、調整はもう終わっている。

後は屋根を開けて貰って機体を外に―――

 

―――しまった。

いつも屋根を開けてくれるランディは現在進行形で命懸けの揺動を行っている。

そうなると頼めるのは―――。

 

イブサ「それより、今は一つ頼みがある。」

 

アリア「え?なに?」

 

イブサ「さっき入ってきたドアのすぐ近くに赤いスイッチがある。それを押してほしい。」

 

アリア「わ、私が⁉ あ、でもスイッチを押すだけだよね!」

 

イブサ「あぁ、押すだけだ。」

 

アリア「それなら私だって!ちょっと待っててね!」

 

一瞬渋ったように見えて内心焦った。

とにかく、これで戦える。

 

 

アリア「ドアの…近くのスイッチ…スイッチ…あった!」

 

アリアがスイッチを見つけ、すぐに押してくれた。

それを見届けた俺はコックピットのハッチを閉め、機体のシステムを起動した。

 

動力正常。

 

 

 

各関節部正常。

 

 

 

各機関正常。

 

 

 

システムオールグリーン。

 

 

機体に異常はなし。

モニターが正常に作動し格納庫の内部が映し出されると同時に、ツインアイが緑色に発光。

 

ガンダムが目覚めた。

 

格納庫の屋根が軋むような音をたてながら左右に割れる。

 

イブサ「…。」

 

最低でも機体を出せるくらいのスペースができるまでは待たなければならない。

苛立ちつつも、黙ってその時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランディ「ぐぅっ…!」

 

着弾時の爆発に押されて機体が横転した。

少し打ち付けてしまったのか手足が痛む。

 

ランディ「折れてはねぇ…か。」

 

ただの打撲だろうとは思ったが、それを気にするほどの余裕はもう無い。

外から笑い声が響く。

 

盗賊A「ヒャハハハハハァ!!無様だなぁ、そんな戦車もどきで勝てるわけねぇだろぉ!!」

 

敵がこちらを見下ろしてビームライフルの銃口を向けた。

あえてこちらも拡声器で応じた。

 

ランディ「へっ、勝とうなんざ思っちゃいねぇよ…。」

 

盗賊A「ああん?だったら何だってんだ?」

 

こうして会話してやればできるのさ―――。

 

ランディ「…時間稼ぎ、ってやつをな。」

 

盗賊A「あ?そいつはどういう―――」

 

 

遮るように、狙ったかのように、格納庫の屋根が音をたてて割れ始めた。

 

一定まで開いた所に、大きな影が立ち上がっている。

 

怒りでも籠ったかのように鋭く、緑色に光った目で敵を睨み付けながら。

 

白い巨人が格納庫の中から立ち上がった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ランディ「待ってたぜ、イブサ!」

 

 

 

 

 

 

 

イブサ「ランディ、待たせた。」

 

普通に通信できているなら大丈夫だろう。

 

心配して損した、と思ったが、安心している自分もいた。

 

しかし気は抜けない。

目の前の敵を倒さなければ。

 

ペダルを踏み込むと、バックパックのバーニア、脚部のスラスターが連動して青い火を噴き、機体がジャンプした。

格納庫を潰さないように位置調整してから着地すると、今度は真正面の敵に向かってタックルし、そのままバーニアを噴かせて基地の外に押し出した。

 

タックルしたまま真っ直ぐ突っ込んでいく内に、小高い丘の岩壁に突き当たり土煙が舞い上がった。

当然敵の機体がクッションになってくれたからこちらにダメージはない。

 

しかし敵もタフだった。

 

煙の中からライフルの銃口が頭部のすぐ前に突きつけられた。

 

イブサ「っ!!」

 

咄嗟に左手でライフルを掴み狙いを逸らした。

それとほぼ同じタイミングでトリガーを引かれ、発射されたビームは虚空へと消えた。

 

イブサ「こいつのパワーなら…!」

 

ライフルを掴んだまま手に力を加えてやると、ライフルがひしゃげてスパークを起こした。

相手も爆発する事を予見したのか、こちらが離れると同時にライフルを捨て距離をとった。

 

両機の間でライフルが爆発、爆炎と煙で視界が遮られる。

 

しかし敵が煙の中から姿を現したのはその直後だった。

 

敵のギラドーガは背中に背負っていた得物を両腕で握りしめて、こちらに向かって振り下ろす。

 

イブサ「ビームアックスか…!」

 

何とかビーム刃の部分を避けつつ右腕で柄を掴み、受け止めた。

 

だが敵の機体の出力も半端では無かった。

徐々に押され始め、肩の装甲にビーム刃が当たりそうになる。

 

イブサ「だった…らぁっ!」

 

操縦桿を後ろに引き、アックスの柄を握っていた手を放し素早く後退する。

すると力を余らせた敵のビームアックスは虚空を斬って地面に振り下ろされた。

 

イブサ「今!」

 

左手でバックパックからビームサーベルを引き抜き、まずは得物ごと右手を横薙ぎに切断した。

 

盗賊A「ひ、ひいぃっ!!?」

 

あの男の驚愕する声が拡声器で響く。

命を狙ってきたそちらが悪いんだ。今更遅い…!

 

イブサ「…!」

 

逃げようとするギラドーガに接近し、相手の左肩から右脇腹までを切断した。

 

胴体を一刀両断されたギラドーガは力なく仰向けに倒れて爆散した。

 

 

ビームサーベルをバックパックに戻しながら爆炎を見下ろす。

 

―――そういえば、部下は一緒じゃ無かったのか?

 

疑問に思った瞬間、丘の反対側からもう一機MSがジャンプで現れた。

 

盗賊B「そこだぁ!!!」

 

イブサ「なっ…⁉」

 

敵が空中から実体剣を突きつけてくる。

回避行動が遅れ、左肩に刃が掠った。

 

距離をとって着地した敵機体を確認した。

 

あれも見たことがある。あれは―――

 

イブサ「モビルジン、か…!」

 

全身がダークグリーンで塗装されているが、あの背中につけた大型スラスターは間違いない。

早速その大型スラスターを噴かせて突っ込んできた。

 

イブサ「ぐぅっ!」

 

敵の剣は頭部のすぐ横を掠めた。

左手を使い相手の剣を握っている左手を、直後に殴りかかってきた左拳を右手で掴み、受け止めた。

ほとんど取っ組み合いのような状態になっている。

 

イブサ「さっきの男は、あんたのボスってやつじゃなかったのか!」

 

盗賊B「あぁそうだ!実に使えないボスだった!」

 

イブサ「何⁉」

 

盗賊B「そんな使えないボスがいなくなった今ぁ!俺は本当に自由になった!まずは手始めに貴様らを始末し、そのMSとお前らの財産で大儲けだぁ!!!」

 

イブサ「…!」

 

盗賊B「貴様と同じだ!俺は俺のため!今日まで邪魔者を殺して生きてきたんだぁ!」

 

イブサ「っ!…俺は…。」

 

敵の剣が胴の左側に下され、少しづつ装甲を曲げ始めた。

 

イブサ「俺は…!」

 

 

あの時俺が独りだったら、俺はきっとアリアを見殺しにしただろう。

けれど、ランディのおかげでアリアを助けることができた。後悔せずに済んだ。

ただ独りで殺し続けてきたんじゃない。

ランディと支え合って今日まで生きてきたんだ―――!

 

 

イブサ「―――俺には、助け合える仲間がいる!独り善がりなお前と一緒にっ―――」

 

右手で掴んだ敵の左手を握り潰して動作不能にし、余裕のできた右手で相手の襟―――のような装甲―――を掴む。

後は背負う形に持っていけば―――

 

イブサ「―――するな!」

 

ジンは宙を舞い、背中から地面に叩きつけられた。

その衝撃で小爆発した背部のスラスターが煙を上げた。

 

イブサ「やっぱりいいなこの技、使える。」

 

ランディ「そのセリフ、二回目だぞ。」

 

ランディがからかうように通信してきた。

 

イブサ「ほっとけ。集中できない。」

 

ランディ「そうだな。目の前の敵はまだ生きてるからな。」

 

モニターに向き直ると、ジンは剣を支えにしながら弱々しく立ち上がっていた。

 

まだ続けるというなら―――

右手でビームサーベルを引き抜き、両手で構える。

対するジンも片手で剣の切っ先をこちらへ向けた。

 

盗賊B「うぅ、うおあああああああああああ!!!!」

 

間髪入れずにジンが走り出す。

こちらの首を串刺しにするつもりらしい。

 

敵は明らかに焦っている。

その急ぎが隙になる―――!

 

切っ先が頭部に直撃する寸前に素早く上半身を左に逸らして避け、同時に態勢を低くした。

 

剣を突き立てた敵の右腕が真上にある状態だ。

 

すぐさまビームサーベルで敵の腕を、左から右へと横薙ぎに切り裂いた。

 

盗賊B「なあっ…⁉」

 

声からも機体の動きからもたじろいでいるのは目に見えている。

 

素早くサーベルを構え直すと、躊躇いなくジンのコックピットに突き刺した。

 

 

数秒、時間が止まったような気がした。

 

 

サーベルのエネルギーを切ると、主を失ったジンは力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

ジンの残骸をオーガスに引っ張らせながら基地へと帰還した。

オーガスを格納庫の前に正座させコックピットから昇降ワイヤーで降りると、足元にランディとアリアがいた。

 

ランディ「やったじゃねぇか、イブサ。」

 

イブサ「あぁ、それなりに苦戦はしたが…。」

 

とりあえず、今気になることが二つあったので、その答えを訊くことにする。

 

イブサ「…その、さっきの通信、聴いてたか?」

 

ランディはわざとらしくにやけながら言った。

 

ランディ「さあな?まぁ俺から言えるのは、独り言を言う時は通信回線に気を付けろってな。」

 

聴いてやがったな、コイツ…!

一気に恥ずかしくなってしまう。

 

そしてもう一つの疑問、さっきから気まずそうにしているアリアだった。

 

イブサ「…どうしたんだ?」

 

アリア「あぁ…っと、さっき戦った人達、私を襲った人達なんだよね…。」

 

イブサ「あぁ、もういないけど。」

 

アリア「でも、私があそこで襲われたせいで、イブサが助ける羽目になって、そのせいでこんなことに―――」

 

イブサ「その通りだな。」

 

アリア「えっ…。」

 

少し恥ずかしいが、伝えるしかない。

 

 

イブサ「…でも、アリアを助けたことは…その、後悔してないし、俺達もアリアに助けられた。だから―――」

 

 

まっすぐアリアを見つめて告げた。

 

 

イブサ「…ありがとう、アリア。」

 

 

アリアの目が大きく開くと同時に顔が真っ赤になったが、すぐに微笑んで返した。

 

 

アリア「私も。助けてくれてありがとう、救世主様♪」

 

いきなりそれは卑怯だ。

俺も少し微笑んだ。

 

ランディ「おーおー二人で顔赤くして、お似合いじゃねぇか?」

 

一人だけ笑顔のベクトルが違うコイツ、本当に腹が立つ。

 

イブサ「そんなことない!」

アリア「そんなことないです!」

 

思わずアリアと叫ぶタイミングが一致してしまった。

 

正座したオーガスが見守るように見下ろしている下、三人で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

―――こんなに大笑いできたのはいつぶりだろう。

 

笑い合って、助け合える仲間。

 

俺が戦える理由は、仲間がいるからだ。

 

今はそう思える。

 

今はランディだけじゃなく、アリアもいる。

 

俺は二人のために、これからも戦い続けるだろう。

 

 

独りで生きるためじゃない。

三人で生きるために。



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