ちょっとした幕間の物語。騙されたと思って読んでくれるとうれしいな

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思い出行きの寝台特急

最近同じ夢を見ている。

 

その夢にはいつも彼がいた。

 

顔はぼやけてよく見えない、同じくらいの少年が。

 

彼の手はいつもわたしの手を握っている。

 

でも、夢が覚めそうになった時、決まって彼は手を放す。

 

そしていつも言うんだ。

 

「いつか出会える日まで、こうして夢の中で」

 

その言葉の意味が分からないまま私は現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが優勝してからもう数年の月日がたったのかと知ったのはその年の決勝大会の映像のおかげだ。今の私は一応大学に通う、いわば女子大生だ。大学の課題レポートはたまに手伝ってもらうけどちゃんとやってきている。それに熱中していたのか、最近のそういった事情は全く耳にしなかった。だからあの時の私はたぶん初めて見た時と同じ反応をしていた。一面に広がる青のサイリウム。その中で歌う9人のメンバーに感動していた。そのグループの名前は知らなかった。そこからずっと遠いところに私はいるように感じた。そしてその向こうには昔の私。

 

あの頃の思い出を大事にするために解散したはずなのに、今も変わらないはずなのに、私はあの輝きにどこかしがみついていたって気づいた。いつから歌わなくなったのだろうか。いつから音楽を離れていたのか。いつから本当の私に嘘をついてきたのだろうか。

 

本当に私がしたいことってなんだろうか。

 

(その言葉をお待ちしていました)

 

頭の中に声がした。つい昨日のことように思い出してしまうあの感動にふけっていた時だった。課題レポートを久しぶりに自分一人で終わらせたためみんなはいない。私一人の部屋に私以外の声がしたのだ。その声も気になったけど、疲れで聞こえてきた空耳だろうと机に突っ伏して眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから私の忘れられない程不思議な出来事が始まるなんて思うことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客様、もうすぐ電車が駅に着きます。お目覚めください」

 

優しい声が私の耳に入る。閉じていた目を開くと私は駅のホームにいた。

 

「ここ、どこ」

 

「ここは『現在駅』です」

 

その声に振り向くとそこには私よりも少しくらい小さな少年がいた。

 

「申し遅れました。私、案内人のノエルです。この度は、現在発、思い出行きの寝台特急『ドリームトレイン』へのご乗車ありがとうございます」

 

正直、もうすでに頭がいっぱいだ。思い出行き?どりいむとれいん?何が何でかわからないままに話が進んでいく。

 

「あの、人違いじゃ」

 

「客はあなた以外おりません。間違えることはありませんよ」

 

確かにホームには私たち以外誰もいなかった。

 

「それにあなたはチケットをすでに持っているじゃないですか」

 

そういわれノエルさんに胸ポケットから銀のチケットが抜き取られた。それは確かに電車のチケットで穴が開いている。

 

「でも…」

 

「電車が来たようですね。あなたにも言いたいことはたくさんあるでしょうが、ここはひとつ騙されたと思ってみてはどうでしょう。きっとあなたに損はないはずです」

 

「…わかりました」

 

「ありがとうございます。銀のチケットでしたね」

 

駅にひとつの列車が到着した。その名は『ドリームトレイン』。青いボディが夜の闇の中できらめいている。まるであのステージのようだ。

 

「銀のチケットは誰かの思い出行きです。あなたが見るべきである誰かの思い出の世界へと行くためのチケットです」

 

「誰かって、誰ですか?」

 

「それは私にもわかりません。もしかしたらあなたかもしれませんよ。では、行きましょうか」

 

ノエルさんは銀のチケットを自身のポケットの中に入れた。ここまで来たら引き返すことなんてできやしない。私も列車の中に乗り込んだ。扉は締まり列車は汽笛を鳴らす。その行先は…

 

『高坂穂乃果の思い出』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中はオレンジ色を基調とした座席が並んでいた。私はその座席の一つに座る。

 

「よろしいでしょうか」

 

「あ…どうぞ」

 

「失礼します」

 

私と向かい合わせになるようにノエルさんは座席についた。

 

「そういえばあなたは音楽をなさっていたと耳に入れましたが…」

 

「もう昔のこと」

 

「今でも聞いてなさるでしょうに」

 

「…あなたは私のどこまで知ってるの?」

 

「さすがに心まではわかりません。ですがあなたがなさったことであれば大体は」

 

これは嘘をつけないと思った私は正直に言うことにした。

 

「最近は洋楽ばかりかな。そっちの方が集中できるし」

 

「なるほど。その曲は歌えますか」

 

「もともとみんなの前で歌ってたんだよ。これでも。歌えるかどうかはわからないけど、いつも聞いてる曲なら」

 

そう答えた私を見たノエルさんの表情が変わった。どこか仮面をつけたような他人行儀の笑顔から本当の笑顔に変わった気がした。

 

「私、あなたの歌声が聞きたいのです。今ここで…聞きたいのですが駅についたみたいですね。おりましょう」

 

列車が止まった。今まで静かだった空間にざわめきが入ってくる。

 

「ちょうどいいですね。この場所なら」

 

先に外を確認してきたノエルさんはそう言った。嫌な予感がする。列車から降りてみるとホームだった。どこかの。

 

「ここはどこですか」

 

「具体的な場所まではわかりませんが、ここならあなたの歌声が聞けそうです」

 

「ここで歌うんですか⁉」

 

「だってここはすべてを受け入れてくれる場所ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時初めて外国人と面と向かって歌って気がする。でも歌っているうちに気付いた。やっぱり歌うことは楽しい。そして拍手をもらうとうれしい。私は外国に言った経験もあるので、わずかながら使える英語で聞いてくれた人々に感謝を伝えた。気が付くとノエルさんはいなくなっていた。

 

(案内人がいなくなってどうする)

 

内心そう言いながらもノエルさんにも感謝していた。この感覚を思い出させてくれたから。そんな時、1人の少女に気が付いた。私はその姿を忘れたことがない。そこにいたのは第2回決勝大会の優勝チーム、μ'sのリーダーの高坂穂乃果だった。

 

話を聞くと見知らぬ土地で迷子になったとのこと。焦って電車を乗り間違えたらしい。私もしたことがあったので共感できる。なにせ言葉があまりにも通じかったから。たまたま知ってるホテルだったから案内することができたけど、知らないホテルだったらどうしようもなかった。

 

「もうそろそろ発射いたします」

 

「ノエルさん」

 

「こちらへどうぞ」

 

私はふと彼女を見た。私がいなくなって驚いているようだ。私は微笑してノエルさんの後を追って列車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 

「楽しかった。忘れていたことも思い出せたしね。あなたの言う通り損はなかったよ」

 

「そうですか。それはそれは…こちらもあなたの歌を聞けてうれしい限りでございます」

 

「これで終わりなのかな」

 

「あなたがそういうのであれば…あなたは気がかりなことが一つあるはずです」

 

やっぱりノエルさんには隠せないな。私が気がかりなことそれは…

 

「ですから、次の駅で停車しましょう。特別な虹のチケットです。これが解決してくれるはずですよ」

 

「何から何までありがとね。ノエルさん」

 

「いえいえ。あなたは私のお客様ですから」

 

列車は止まった。虹のチケットを持って私は彼女のもとに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったのですか?」

 

「うん。終わったよ。この子も答えを見つけられた。そんな顔をしている」

 

目の前で眠る彼女は笑顔だった。もう気がかりなんてない。帰るだけだ。

 

「帰る前に聞かせてもらえますか?あなたはこの旅を終えてどう思われましたか」

 

私の後ろからノエルさんが問いかけてくる。

 

「あの時、虹のチケットに穴をあけたとき、気づいたんだ。自分がこんなに応援してるのに今の自分は何もできてなかったなって。あの頃からだいぶ変わってしまってたんだなって。なんか恥ずかしくなってきちゃって」

 

「恥ずかしがることはありませんよ」

 

ノエルさんは言った。

 

「あなたは応援してあげた。背中を押してあげた。彼女に道を示してあげた。本当なら帰れるはずなのに帰らずに彼女のことを思っていた。もしかしたら帰れなくなるなんて考えましたか?」

 

「それは考えてなかった…」

 

「あなたはそういう人なんですよ。誰かのために一生懸命になれる人。その中で音楽に出会い仲間に出会った」

 

私はノエルさんの方を向けなかった。

 

「あなただから変えられた。あなただから壁を乗り越えられた。悩むことはあっても、いつも周りに助けてくれる人がいた。それはあなただから」

 

思い出が蘇ってくる。涙がこぼれそうになる。

 

「さて、あなたに質問です」

 

ノエルさんが私の横に来る。

 

「あなたが本当にやりたいことは何ですか?答えはお聞きしません。ですが私は知っています。あなたはもう既に答えを持っていることを。さあ帰りましょうか、現代に」

 

私はうなずいた。涙ぐんで前が見えなくなっていたのを察してくれたのか、ノエルさんは私を案内してくれた。

 

「この度は寝台特急『ドリームトレイン』にご乗車ありがとうございました。答えを見つけたあなたのこれからに幸あらんことを祈ります」

 

その声が遠くから聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたのはいつものベッドの上だった。そしてその傍らにはスタンドマイクが置かれていた。そこには忘れものですの紙が括り付けられていた。

 

「ありがとね。ノエルさん。そして……」

 

私はそのマイクを取る。旅で見つけた答えを胸に私は久しぶりに歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その感謝の気持ちがみんなをつなげるきっかけになった。人を思う気持ちがみんなをつなげるきっかけになった。そして彼女もまたそのつながりに救われた。今や世界中につながれる世の中でこうして仲間を作ることはある意味で簡単になり、またある意味で難しくなっただろう。

 

「彼女の悩みを解決したのは私ではなくかつての仲間たち、ということですね。おや?」

 

私の後ろから誰かがやってきたようだ。この場所に来るということは悩みを抱えていること間違いなしですね。私はそっと手をつなぎ、無色のチケットを渡した。時間がたつとその姿はだんだん薄くなったいく。

 

「いつか出会える日まで、こうして夢の中で」

 

さて、次のお客様の悩みを解決するのは何でしょうか。楽しみです。

 

 

 




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