超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第七十二話 激動の最深部

 空へと立ち昇った負のシェアエナジーの柱。感じ取った、犯罪神の力。ギョウカイ墓場で、その柱の下で何が起こったのかを確かめるべく、私達は墓場へと向かった。

 そこで私達が目にしたのは、案の定…という表現をするとさも普通の事みたいになってしまうけど、最深部で異様な程の存在感を放つ犯罪神。真の姿ではない、巨大な化物である仮の姿だとしても、信次元において強大な脅威となる事は間違いない。イストワールさん曰く、きちんと封印出来た場合の周期を考えれば復活には早過ぎる、との事だったけれど…事実確かに、犯罪神は目の前にある。

 だけど、それだけじゃなかった。犯罪神以外にも、そこには二人の存在がいた。一人はうずめ。私が知っているうずめじゃない、藍色の髪をしたうずめ。そして、もう一人は……犯罪神の前でも霞まない程の威圧感を持った、女神の如き外観の女性。

 

「皆ッ!!」

 

 インカムからではなく、直接悲鳴の様なネプギアの声が聞こえた次の瞬間、うずめ、女性、それに犯罪神の方へと撃ち込まれる無数の光弾と魔力弾。それ等が弾幕となると同時に私達の下へとノワール達が降り立ち、壁となるが如く立ち並ぶ。

 

「間に合って良かった…立てる?」

「…勿、論……!」

 

 恐らくはダメージよりも動きを止める事を優先しているのか、ネプギアとラムの作る弾幕は地面も叩き激しい砂煙を上げさせる。

 それを見やりながら背中越しに声をかけてくるノワールの言葉に、私は語気を強めながら返答。

 確かに今、私は膝を突いていた。あの女性の…想像を遥かに超える、私や私達女神を持ってしても『段違い』だと思わせるその力を前に、膝を突く事を余儀無くされた。でもこれは、精神が屈したからではない。一度大きく姿勢を崩されたというだけの話で、それを示すように立ち上がる。

 

(…皆、健在みたいだね……)

 

 ここまでの押されていた流れを断ち切るように長剣を振って、構え直す私。同時に視線を走らせて、ネプテューヌ、ユニ、ロムちゃんの状態も確認する。

 私含め、全員細かい傷を幾つも負っているし、かなり体力も消耗している。今は砂煙で見えないけど、対照的にあの女性にはまだ余裕が見られる。でもそれを悲観する事はない。こうして私達は、ネプギア達が来るまで持ち堪える事に成功したんだし…私達の力は、繋がりの強さなんだから。

 

「…ねぇ皆、まさか……」

「えぇ。この戦況は、四対三で戦った結果じゃないわ。…あの女性一人と、わたし達で戦った結果よ…」

 

 攻撃を止め、私達の近くへネプギアとラムが着地したところで、声に緊張を籠らせたノワールが口を開く。その言葉にネプテューヌが答えを返し……一層高まる緊迫感。

 そう。うずめも犯罪神も、ここまで何もしていない。一切戦闘には加わらず…女性はたった一人で、私達四人を相手した。その上で劣勢だったのは、私達の方。

 

「あっれー?もう打ち止めなんですかー?だとしたら、幾ら何でもしょぼ過ぎない?」

 

 弾幕が止んだ事で段々と砂煙も晴れていく中、聞こえてきたのは相手を小馬鹿にするような声。それが聞こえている間も砂煙は消えていき、姿を現す三人の敵。後方にいたうずめや犯罪神はともかくとして…女性もその外見に、今の弾幕でダメージを負った様子はない。

 

「…あの人、さっきまでと殆ど位置が変わってない…?」

「ちっ、二人の攻撃をその場で凌いだってのかよ……」

「…確かに、只者ではない雰囲気がありますわね……」

 

 驚愕混じりの声を発したネプギアに続く形で、ブランとベールも言葉を口に。たったこれだけでも、彼女がどれ程の実力を有しているのかが見て取れる。

 

「うっわ、しかもなんか増えてるし。えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ…あー、まぁいっか。どうせ雑魚が増えても雑魚なだけだし」

「む…ちょっと、なによザコって!」

「お、おちついてラムちゃん…!」

「そうよ、アイツの言葉に一々反応しない方がいいわ。先に言っとくけど、アイツ発言の殆どがあんな感じだから」

 

 小馬鹿に、というか明らかにこちらを馬鹿にする彼女へラムちゃんは憤慨するも、それをロムちゃんとユニが制止。その間、彼女は面倒臭そうにこちらを見ていて……彼女の次なる言葉の前に、うずめが悠然と口を開く。

 

「やぁ、ねぷっち。それに皆も。これで女神が全員集まったね」

「…うずめさん……」

 

 薄く笑ううずめの言葉に、ぽつりと一言呟くネプギア。外見は髪や瞳の色を除けば同じで、声も纏う雰囲気の差か受ける印象は違うけど、目を瞑って聞けばきっとどっちのうずめか分からない。そんなうずめだからこそ、私の中にはただの敵とは思えない感情があって…一連の事態が起こる前、ただの女の子だと思って一度話した事のあるネプテューヌとネプギアは、もっと複雑な部分があると思う。

 

「まずは三つの次元の柱の破壊、お見事だったよ。どの次元でも多かれ少なかれオレの想定を超えてくるなんて、やるじゃないか」

「…ありがとう。でも、その口振りだと……」

「あぁ。思ったよりは早いけど、破壊されるのは織り込み済みさ。…レイ、少しいいかい?」

「はぁ?…あぁ、あんたって無駄な話するの好きだものね。いいわよ別に。取り敢えず、良い()()()にはなったしー」

『……っ…』

 

 向けられた賛辞にネプテューヌが言葉を返すと、うずめは表情を変えないまま女性…レイへと声を掛け、その言葉にレイは嘲笑うような声音で返答。

 不愉快極まりない、嘗てのマジェコンヌさん以上に他人を見下しているような奴の言葉に、私もネプテューヌもユニも、ロムちゃんですら一瞬怒りで肩が震えてしまう。…でも、それ以上に気になったのはその名前。

 レイ。それは、セイツが言っていた女神と同じ名前。可能な限りの戦力で、というのもこの実力を指していたのなら理解が出来る。…つまり、奴が……。

 

「相変わらず誰に対しても酷い物言いだね。そもそもオレは、全員来るまで雑談でもしながら待っていてもいいと思っていたのに」

「はっ、じゃあなんだ。そこの犯罪神は置き物だってか?だとしたら、趣味が悪いにも程があるな」

「まさか。オレだってこんな置き物は御免被るよ。特に、会話を目的としているならね」

「では、一先ず犯罪神は再封印させて頂けないかしら?邪魔をしないで頂けるのなら、その後紅茶位でしたら振る舞いますわよ?」

「それは魅力的な提案だね。けれど、そうはいかないよ。こう見えてまだ犯罪神は不完全…ガワだけで中身がしっかりしていないようなものなんだ。なのに再封印されてしまったら、折角ここまで引き上げたのが無駄になってしまうからね」

 

 悪意に満ちているレイとは裏腹に、うずめは一見穏やかそのもの。けれどそんな穏やかな口調のまま、うずめは犯罪神を復活させたのが自分達であると明言したも同然の事を口にした。常軌を逸した行動を、さもなんて事ない行為であるかのように。

 それと同時に、私はその言葉で確信した。今いる犯罪神は、前に戦った時と何かが微妙に違う気がしていたけど…それは記憶違いではなく、不完全な状態であるからなのだと。

 

「それにしても…驚いたよ。オレも昔、仲間だった女神達と共に、この姿の犯罪神を封印した事があるけど…まさか相当苦労したこの犯罪神が仮の姿で、更に強い真の姿があったとはね。いやはや、本当に君達は大したものだよ」

「昔…?仲間だった女神達と封印…?…待ちなさいよ、アンタそれはどういう……」

「おっと、女性の過去をみだりに聞くものじゃないよ?それに、君達が何より気になるのは…これがいつ暴れ出して、信次元を破壊しようとするかじゃないのかい?」

 

 ユニからの問いを大袈裟な動きではぐらかしたうずめは、逆にこちらへと問いかけてくる。そしてその発言に私達が視線を鋭くさせると、うずめは笑みを深めて言葉を続ける。

 

「ふふ、そう身構えなくても大丈夫さ。犯罪神はまだ、すぐには動き出さない。けれどさっき言った通り、今再封印されてしまうのは困るからね。…だから、オレから一つ提案だ。ここは一度退いて、復活してからまた改めて来てくれないかな?もしそうしてくれるなら、オレも復活の直前で合図を出すと約束するよ?」

「ふん、馬鹿馬鹿しい提案ね。それを飲む事で、私達に何のメリットがあるって言うの?」

「なら逆に訊くけど、君達は碌な準備もないままに、レイを倒すつもりかい?勿論オレだって、それをただ眺めているつもりなんてないよ?それなら一度退いてねぷっち達の傷を癒し、準備や対策を整えた上で再戦する方が、ずっと勝機はあるとは思わないかな?」

 

 鼻を鳴らして突っ撥ねるノワールに、飄々としたままうずめも返す。その態度の裏側にあるのは、間違いなく自信。このまま戦えば返り討ちに出来るという自信が、うずめに余裕を生み出している。

 その態度と言葉を受けて、一度皆を見回す私。視線で私の意思を伝え、同時に皆の意思も確認し……改めて空中に立つうずめを見据える。

 

「…そうだね。先の戦闘の事を考えれば、それは一理ある提案だよ」

「じゃあ……」

「けど、退けば貴女達は自由に動ける事になる。復活までの間、貴女達が静かに待っている保証はない。そして何より……多少優位に立ち回れた程度で、図に乗るなよ?貴様等こそ、悠々と準備をしておきながら誰一人として討ち取れていないだろう?」

「はぁー?手も足も出なかった雑魚が、何粋がっちゃってるんですかー?」

「愚かしいな。私達を愚弄すればする程、貴様の言う『暇潰し』しか出来なかった貴様自身の格が落ちるという事すら分からないのか」

「…へぇ……」

 

 声のトーンを落とし、ふっと薄く笑いを浮かべ、そして私が突き付けるのは事実。にやつくレイの言葉にも、眉一つ動かさずに言葉を返す。

 上から見下ろすレイの視線と、下から見上げる私の視線が交錯する。そう。これは、挑発でも煽りでもない。純然たる事実であり真実。確かに奴は強い、それは間違いない。だが…あまり、信次元の女神を舐めないでもらおうか。

 

「…交渉決裂のようだね。であれば仕方ない。流れ弾はオレが何とかするから……」

「あー、はいはい。私としてはこのまま引き下がられてもつまらないと思ってたところだし、なーんか勘違いしてる低脳共に現実を見せてやるとするわ。それに、あの白髪女神…あいつと似ててほんとムカつくのよねぇ…」

「あまりやり過ぎないでくれよ?君が本気で戦ったら、オレも無事じゃ済まないかもしれないからね」

「本気ぃ?別にあんたがどうなろうが私には関係ないけどぉ、本気なんて出す訳ないじゃないですかー。…こんな、雑魚共にさぁッ!」

 

 へらへらと、味方であるうずめにさえも、その傲岸不遜な態度を変えないレイ。けれど次の瞬間、レイの表情は豹変し……周囲に現れた無数の黒弾が、凄まじい勢いでこちらへと撃ち込まれる。

 地面にぶつかると同時に、激しい爆発を起こす黒弾。一発一発が単なるエネルギー弾攻撃とはスケールの違う威力を見せ付けながらも、私達へは向かってこない。私達の周囲にばかり着弾し、何度も爆発音だけを響かせる。

 これは恐らく、挑発であり威嚇。ただ力を見せ付ける為だけの行為。でも奴が本気になった事は…間違いない。

 

「…皆、彼女は余力を残して戦えるような相手じゃないわ。だから一度、うずめの事は無視して…全身全霊で、奴を倒すッ!」

『(えぇ・あぁ・うん・はい)ッ!』

 

 だけど、私達にそんなものは無意味。その程度では、誰も物怖じなんてしない。それを示すように、啖呵を切ったネプテューヌの言葉へと全員で呼応し、私達は武器を構える。

 そしてここから、レイ…女神から見ても常軌を逸していると思う程の存在を相手に、第二ラウンドが始まる……そう、思った時だった。

 

「……っ…何…?この気配は……」

 

 レイによる攻撃が爆音を上げる中、不完全であろうとも犯罪神が無視の出来ない存在感を放つ中、それに紛れるように…けれど確かに感じる、胸のざわつくような何か。何なのかははっきりとしない、なのに覚えがあるような…違和感のようにも思える感覚。

 

(うずめが何かを…?…いや、でも…それよりは……)

「気の抜けてる奴はっけーん。ボケちゃったんですかぁ、おばあちゃーんッ!」

「……ッ!ぐぅ…ッ!」

 

 ほんの一瞬、ほんの僅かにそちらへと意識を割いてしまったその瞬間、ふざけた事を抜かしながらもあり得ない速度でレイは私の眼前に。殆ど本能的に長剣を掲げるのとほぼ同時に長剣へ、そこから腕を伝って全身へと衝撃が走り、私は後方に吹き飛ばされる。……ッ…しまった、油断した…ッ!

 

「…だがッ、この程度で……うぉわぁッ!?」

 

 飛んでいく寸前見えたのは、皆が皆一瞬反応が遅れたように思える動き。もしかしたらそれは、皆も多かれ少なかれ私と同じ感覚を抱いたのかもしれない。そんな事を思いながら両脚を地面に突き立てる事で減速し、翼を広げる事で姿勢を立て直した私。

 けれどそこへ再び私の眼前へと現れる影。でもそれは、追撃してきたレイではなくブラン。飛び立とうとしていた私は目を見開きながらも両手を広げ、何とかブランを受け止める。

 

「っとと…!ブラン、大丈夫!?」

「くっ…悪ぃ、イリゼ…!奴の突進を受け止めようとしたらこのザマだ……」

 

 外傷こそなく、すぐに自分の足で立つブランだけど、こと防御にかけては私達の中でもブランがトップ。そのブランですら正面からの突進を受け止める事は出来ないというその事実に、恐れはしないでも私は歯噛み。

 前を見れば、ネプテューヌ、ノワール、ベールの三人が入れ替わり立ち替わる形で攻撃を仕掛け、散開した女神候補生の四人が火力支援を行っている。でもやはり、レイは全てを凌ぐ。ネプテューヌ達の攻撃は弾き返し、火力支援は悉く避け、隙あらば重い一撃を、隙がなくても強引に攻撃をぶつけてくる。…それはまるで、真の姿となった犯罪神との戦いのように。

 

「あははははッ!ほらほら、あんた達の実力はそんなもんなの?そんなんで次元を守れるんでちゅかー?」

「口が減らないな、貴様は…ッ!」

「そりゃ、話半分でも戦える位弱っちぃ奴しかいないからねぇッ!」

 

 そこへ地を蹴り突撃をかけた私は、間合いに入ると同時に長剣をレイの胴へと突き出す。対するレイは掬い上げるように自身の得物である杖を振り出して私を上へと受け流すと、続くブランの横薙ぎも杖で受け止め前蹴りで反撃。それ自体は回避出来たブランだけど、レイも全く姿勢が崩れていない。

 飛び越える形で受け流されてしまった私は身体を半回転させ、レイへと向き直りながら片膝を突いて着地。上空に見えたベールと視線でタイミングを合わせ、再び突撃からの刺突をかける。

 背後と空からの同時攻撃。仮に避けられたとしても、ネプテューヌとノワールが既に攻撃体制に入っている、迅速な二段構えの連携。だけど……

 

「はぁ…雑魚は何匹集まっても雑魚なのよッ!」

『なッ……がッ、ぁ…!?』

 

 刃が届く寸前、レイが地面へと突き立てた杖。その杖を基点に地面からは禍々しい光が溢れ出し、次の瞬間レイの周囲へその光の奔流が噴き上がる。

 それは、レイによる防御であり攻撃。噴き上がる光を下から受けた私とベールは跳ね飛ばされ、光に突っ込む形となってしまったネプテューヌとノワールも咄嗟の防御を余儀なくされ、ネプギア達の遠隔攻撃も阻まれレイには届かない。

 

「イリゼさんッ!ベールさんッ!」

「問題、ありませんわ…ッ!それよりも……」

「はいッ!ネプギアロムラム、攻撃の手を休めたらもっと暴れられるわよッ!」

 

 ベールは空にいた事で一瞬の猶予があり、私もギリギリプロセッサの中でも強度が高い部分をぶつける事が出来た事で、何とか諸に受ける事は回避。受けた部位のプロセッサは砕け散ってしまったけど、おかげで何とか軽傷で済む。

 一度立て直すべく、後方へ大きく飛ぶ私。九人がかりでも優勢にならないのは正直かなり不味いけど…それはもう薄々分かっていた事だからいい。考えたって仕方ない。それよりむしろ、私の頭を離れないのは……慣れるどころか、余計増しているあの違和感。

 

(……待って、これ…違和感がというより…それそのものが、増している…?…それに、まさか…この、感覚って……)

 

 どうしても頭に、心にちらつく不可解な感覚。段々とはっきりした輪郭に、後少しで何なのか分かりそうな感じに変わっていく気配。…でも、今はそれを気にしていられる状況じゃない…今は頭の隅に押しやって戦いに専念しないと、勝機なんてない……!

 

「こっ、のおぉぉぉぉッ!」

「わー、餓鬼ってばほんとたんじゅーん!」

「……!ラムちゃん…ッ!」

 

 空からラムちゃんが撃ち込む、巨大な楔の様な何本もの氷刃。それをレイは物ともせずに光芒を放ち、放たれた光芒は射線上の氷刃を貫きながらラムちゃんへ肉薄。間一髪で割って入ったロムちゃんが魔力障壁で防ぐけれど、その間にレイは真上に跳躍。

 追い縋ろうとする私達を阻むのは、周囲に現れては飛ぶレイの黒弾。ならばと撃ち込まれたネプギアとユニの射撃をレイは杖で打ち払い、続けざまに彼女の左右へとこれまでより数段大きい黒弾…いや、黒球が発生。溢れ出したエネルギーがスパークを起こすその黒球の間で、レイは悪意に満ちた笑みを浮かべる。

 

(……っ!来る…!)

 

 あれがどれ程の威力を持つのかは分からない。だからこそ放たれる前に一撃叩き込む事は諦め、防御体勢を取る私達。それを見下ろすレイは、更にその歪んだ笑みを深め……

 

 

 

 

「……■…■■…■■■■■■■■■■ーーーーッ!!」

 

 次の瞬間戦場に…ギョウカイ墓場最深部に、思わず身体が強張るような、その場にいた者全員の動きが一瞬止まってしまう程の、形容し難い咆哮が轟く。

 

「…今の、は……」

「犯罪…神……?」

 

 最深部を包み込んだ咆哮が遠くで反響する中、唖然とした声でネプテューヌとネプギアがぽつりと呟く。

 そうだ、間違いない。今の咆哮は、犯罪神が上げたものだ。…けど、それって……。

 

「…ちょっとー?まさかもう復活するの?だとしたら話が違うんですけどー?」

「…あぁ、そうだね。だから……うん、これはまだ復活するって事じゃない。これは……」

 

 次に声を上げたのは、ふっと黒球を消したレイ。声音や反応からしてこれは想定していた事ではないらしく、答えるうずめも発する声は思案混じり。

 それと同時に、犯罪神の周囲に浮かぶ四つの影。犯罪神から分離するように、闇色の霧が集まるようにして、何もなかった場所へと何かが形作られていく。形のない闇色の霧から、形を持った存在へと。見覚えのある、忘れる筈のない、強大にして熾烈なるあの存在達へと。

 

「ま…まさか…あれは……っ!」

 

 見えそうで見えなかったその「何か」が、私の心をざわつかせていた気配の正体が、遂にはっきりと見えてくる。無意識化ではそんな気がしていた、その可能性もあると分かっていた、でもまさか…と意識には上ってこなかった「もしかしたら」が、今現在となって現れる。

 ああ、そうだ、間違いない。間違える筈がない。私が奴を、彼を見紛う事なんてあり得ない。だって彼は、その存在は……

 

「──ふん。こんなにも早く、再び貴様等と相見えることになるとはな」

 

 一気に霧が収束した次の瞬間、その霧を振り払うようにして地へと降り立つ四つの影。

 一つはプロセッサを思わせる翼と大鎌を持った女性。一つは機械的な翼と大剣、それに二門の大砲を有する巨大なロボット。一つは厚く長い舌をだらりと垂らした、悪趣味な巨大ぬいぐるみの様な男性。そしてもう一つは……漆黒の鎧にハルバートを携える、巨躯の武人。それ即ち──四天王。

 

「…嘘、でしょ……」

「…久し振りだな、お前達」

「テメェ、は……」

「アクククク…また会えて光栄であるぞ、麗しき幼女達よ」

『ジャッジ・ザ・ハード……』

「応よ。元気してたかぁ?女神ぃッ!」

 

 呆然とするノワールに、目を見開くブランに、気付けばその名を口にしていた私とベール。私達それぞれの言葉に応えるように、巨大な身体を持つ三者…ブレイブ・ザ・ハード、トリック・ザ・ハード、ジャッジ・ザ・ハードが声を上げ、唯一の女性…マジック・ザ・ハードはこちらを冷ややかな視線で見やる。

 ネプギア達四人も、絶句していた。四天王の復活に…強力な敵であり、けれど中にはただの敵とは言い切れない存在の、再来に。

 

「…ふ、ふふ…はははははは!そうか、そうかそうか…そうだね、そうだったよ。失念していたけれど、犯罪神には四天王がいるんだったね。オレ自身は戦った事がないとはいえ、こういう見落としは反省しなくてはならないな」

「四天王ぉ?よく分からないけど、犯罪神なんてご大層な名前の割にはそいつも群れるのが好きなのね。まぁ、雑魚は馬鹿みたいにいつも群れるものだけど」

 

 現れた四者に対し、うずめは笑い声を上げ、レイは変わらずの嘲笑をぶつける。犯罪神を愚弄するその発言に対し、マジックはギロリとレイを睨み付けたけど…見せた動きは、ただそれだけ。

 

「はぁ、これからはもっと気を付けないと…。…さて、確認だけど…君達は犯罪神の四天王、即ち従者であるという認識で間違いないかな?」

「…ならどうする」

「どうもこうも、オレ達は犯罪神を復活させる事が目的でね。つまり…君達とは利害が一致している、そういう事さ」

『……ッ…!』

 

 自責を終えたうずめは、改めてその視線を四天王の方へ。投げかけられた言葉にマジックが淡白な答えを返すと、うずめもさして気にする様子もなく言葉を続ける。

 そこで、その流れで発された言葉で、私達の間に走る緊迫感。そう、一瞬前まで驚きが強過ぎて忘れていたけど…そもそも四天王は犯罪神が復活する為に呼び出す存在。うずめの言う通り、復活という点において両者の利害は一致していて……もし四天王にこの戦闘へ参加されたら、一気に私達は窮地へ立たされる。

 

「くッ……そんな、事は…ッ!」

「おおっとぉ。なーんか面白そうな流れだしぃ、邪魔しないでくれますぅ?」

「ちぃ……ッ!」

 

 それだけは阻止しなくては。そう思って動こうとした私だけど、それを上方のレイが妨害。そんなの無視して向こうへと仕掛けたいところだけど…それが出来るような相手じゃない。

 

「利害の一致、か…確かに我等の…いや、我の目的は犯罪神様を蘇らせる事。我が存在は、犯罪神様の為にあるもの。それこそが、何にも勝る絶対の真理」

 

 小さく笑ううずめに対し、淡々と答えるマジックの言葉。その言葉から感じるのは一分の隙もない、深く狂気的な彼女の信仰。

 不味い、本当に不味い。レイと四天王を同時に相手にし、更に場合によってはうずめも加わってくるなんて、敗走を余儀無くされる程度じゃ済まない。最悪の結末…ここで全て終わってしまう事だって普通にあり得る。

 だから止めなくちゃいけない。でも止められない。そんな焦りが胸の中へと広がっていく中、うずめとレイのやり取りは進み……

 

「なら、論ずるまでもない事だね。互いに同じ目的があるのなら、協力しない理由がない。だからさぁ、オレ達と共に……」

「……断る」

「…何……?」

 

……次の瞬間、誰も…少なくとも四天王以外は誰一人として予想しなかった答えが、マジックの口より発せられた。

 

「聞こえなかったのか?我は断ると言ったのだ」

「…どういう、事だい…?オレ達と君達の利害は、一致して……」

「ほざけ。犯罪神様は犯罪神様の意思で、世界の理と犯罪神様なら力によって復活するのだ。その意思に従い犯罪神様に供物を捧げるのが、我等四天王の務めだ。だが、貴様等はどうだ?まだ時を待つ段階であると判断した犯罪神様を無理矢理に起こそうとし、あまつさえ犯罪神様を利用しようと考えるなど、不敬にして犯罪神様への侮辱にも程がある。…そんな奴等に貸す力など…一片たりともありはしない」

 

 表情から余裕の笑みが消え、訝しむような目で訊き返すうずめ。その問いに答えとしてマジックが口にしたのは…彼女の意思。声を荒げる事も語気を強める事もなく……されど揺らぐ事など絶対にないと分かるような、そんな言葉。

 

「…そうかい。でも、君達はどうかな?何も全員でなくともオレは喜んで迎え入れるつもりだけど…まさか、君達も断ると?」

「はっ、そんなものは論ずるまでもない事だ!貴様等からは邪悪なる、子供の夢や笑顔とはかけ離れた悪意ばかりが感じられる!その時点で貴様等は、敵以外の何者でもないッ!」

「貴様等の最終目的など知らんが…貴様等は幼女に、愛すべきかの幼女女神達に凶刃を向け傷付けた。そんな屑に手を貸す紳士など…この世におらんわッ!」

「ま、そういうこった。こちとら偉そうな事は言えねぇ外道だが…外道には外道の、通すべき筋があるんだよッ!」

 

 ならば、とうずめは三人にも声をかける。けれどそれを三人は跳ね除け、お返しとばかりに三者それぞれの言葉を叩き付ける。

 その言葉を、その姿を、私達は見つめていた。初めは驚いて…けれど段々と、心の中に納得を抱いて。

 確かにそうだ。他の三人の事はよく知らないけど…少なくともジャッジは、戦い以外の事を考えていないようで案外筋は通す男。戦いを至上とするからこそ、正面から戦い自身に打ち勝った相手へ、心からの敬意を示す男。彼は碌でもない男だけど…碌でもないだけの男じゃない。

 

「……っ…いいのかい…?それで…この状況で、オレ達に協力しないという事の意味が……」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ小娘が。テメェ等の下らねぇ悪事には協力しねぇっつっただろうが。…へっ、どうせテメェは俺達が味方について、そうなった事に高笑いでもしたかったんだろうが、世の中そう思い通りにゃいかねぇんだよ。だから、覚えときやがれ。物事が変わるのは…一瞬なんだよッ!」

 

 食い下がろうとしたうずめの言葉を蹴り飛ばすように、ジャッジは吐き捨てる。そしてジャッジは、強い意志の込められた言葉を言い放ち……四天王は並び立つ。うずめの隣でもなく、レイの隣でもなく、私達の前に。私達と正対するのではなく、私達に背を向けるように。

 それが、それこそが、四天王の選択。彼等は選んだのだった。うずめに、レイに…彼女達の行いに、彼女達の計画に──真っ向から敵対する事を。




今回のパロディ解説

・「ま…まさか…あれは……っ!」
ドラゴンクエストバトルロードシリーズにおける、ボスモンスター登場時のモリーの台詞のパロディ。実際四天王が現れた訳ですし、使う場面的に間違ってはいませんね。

・「〜〜物事が変わるのは…一瞬なんだよッ!」
新日本プロレス所属のレスラー、YOSHI-HASHIこと吉橋伸雄さんの代名詞的な台詞のパロディ。NEVER無差別級6人タッグ王座…えぇ、あれは感動しました……。
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