超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第七十五話 子供達とのひと時

 事態が急変し、その対処の方針を決めた日の翌日から、わたし達女神は各国に戻り、犯罪神が復活するその直前まで、時を待つ日々が始まった。

 特別何かをする訳じゃない。その時に備えて準備を整える以外は、これまで通りに見回りをして、少しでも国民の皆の不安を和らげられるように慰問にも行って、いつその時が来ても良いようにきっちりと休息も取る…そんな、小康状態とでも言うべき日々を、各国でわたし達は過ごしている。

 

「ふぅ…駄目ね。最近、睡眠時間が不規則にも過ぎるわ……」

 

 少し寝坊し、一人で食事を取った朝。何日もまともに寝ていなかったり、わたし自身心の端で不安を抱え続けてしまっているからか、どうにも睡眠時間が安定しない。……え、普段?普段はまぁ、本を読み耽っていたり、時間を忘れて執筆してたりした結果寝るのも起きるのも遅くなる事がそこそこ……ご、ごほん。普段は勿論、自らを律して規則正しい生活をしているわ。えぇ、女神だもの。

 

(今日は…取り敢えず、書類を片付けておこうかしらね…。この状況じゃ優先度は低いとはいえ、溜まり過ぎると大変だし…)

 

 非常時だってなんだって、雑務がなくなる事はない。なくなるとすればそれは国が機能しなくなった時で、そんな状態になったら仕事がゼロでも喜べる訳がない。

 逆に言えば、雑務が溜まるレベルには国が、社会が機能を取り戻したって事で……そういう意味じゃ、安心出来るわね。

 

「……うん?」

 

 そんな事を考えながら、廊下を歩いていたわたし。すると、ある部屋の前を通り過ぎようとしたところで…その部屋の中にいるトリックを見つけた。椅子に座り、脚を組み、女性誌を読むトリックを。

 

「…貴方、そんなものを読むの?」

「おや、麗しき我が幼女女神様。本日はよく眠れたのかな?」

「…………」

 

 少し意外に思ったわたしが部屋へと入って声をかけると、返ってきたのは煽っているのかと言い返したくなるような言葉。まぁ、実際には煽る気なんてゼロなんだろうけど…平然とこんな事言うんだから、やっぱりこいつは変態ね…。

 

「うむ、その侮蔑するような目もまた良い…っ!」

「…はぁ…で、その本は?」

「なに、見ての通りただの雑誌さ。少しばかり、気になる記事があったのだ」

「気になる記事?」

「ほほぅ、我輩の読んでいたものに興味があると?ならば共に読もうではないか。ささ、我輩の膝は空いてあるぞ?」

 

 雑誌だって本は本。面白い記事があるなら読んでみたいと思ったところだけど、トリックが某ピンクのベストの芸人さんみたいな事を言いながらわたしを膝の上に座らせようとした事で、一気に萎える記事への興味。…ほんと、何なのこいつ……。

 

「…貴方が何をしようと貴方の勝手だけど、面倒事だけは起こさないでよ?わたしは貴方にいちいち構っていられる程暇じゃないんだから」

「ふふ、心配するでない。我輩も我輩で、日々行っている事があるのだからな」

「…行っている事?それって……」

「ほほぅ、我輩のしている事に興味があると?ならば……」

 

 気持ちの悪い天丼ネタを仕掛けてきたトリックに対し、わたしは言い切るよりも前に勢い良く扉を閉めてシャットアウト。そのまま扉越しに何か言葉をかける事もなく、忘れ去るように執務室へ。

 今のところ、トリックは何か事件を起こしたりしていない。わたしの知ってる限りじゃ大人しくしているし、トリックがただのロリコンじゃない事も知っている。けど何であろうとロリコンはロリコンな訳で…彼のいる生活がまだ続くのかと思うと、頭が痛くなりそうなわたしだった。

 

 

 

 

 午前中はずっと机に向かっていて、お昼はロムやラム達と取って、それからまた午後も仕事。そうして午後の仕事を始めてから、大凡二時間弱が経ってからの事。

 

「頼まれていたクエスト、片付けてきたよ」

「調子はどうにゅー?」

 

 執務室に入ってきたのは、パーティーメンバーの内ルウィーに滞在している面々。今新パーティー組のファルコムが言った通り、皆は頼んだクエストに行ってくれていた訳で、わたしは手元の書類や端末から目を上げる。

 

「お疲れ様、皆。こっちは…まぁ、普通ね」

「そっか、じゃあ他にも何かある?嫁候補の頼みならアタシ何でも頑張っちゃうよ?」

「はは…気持ちだけで大丈夫よ。流石にこの仕事を手伝ってもらう訳にはいかないし」

 

 元気良くガッツポーズを取るREDの流れるような嫁候補発言に苦笑いしつつ、わたしは肩を竦める。…RED位無邪気で屈託ない言動だったら、もう少しトリックもマシに見えるかしら…ぱっと見すらりとした紳士だから、今度は違う意味で気持ち悪くなるかもだけど……。

 

「そういう事ならこの後は休ませてもらうにゅ〜」

「…既にゲマに寝そべって休んでるように見えるのはあたしだけかな…?…まぁいいや。じゃ、あたしも息抜きを兼ねてのんびり剣の手入れをするとするよ」

「あっ、アタシもアタシもー!一緒にいい?」

「来るなにゅ、ゲマは一人乗りにゅー!」

「えー…それじゃあファルコム、一緒に武器の手入れさせて〜」

「…いいけど…何かシュールな光景になりそうだね…。剣の手入れをしている隣で、けん玉やヨーヨーの手入れをってなったら……」

 

 常識人だけど結構マイペースなブロッコリーに、ネプテューヌと張り合えるレベルで天真爛漫なREDに、色んな意味で大人(REDもだけど、羨ましい…)なファルコム。わたしは一人で静かにしてるのも好きだけど、何だかんだ皆で賑やかにするのも楽しいし、この辺りでわたしも少し休憩に……なんて思っていたところで、聞こえてきたのはノックの音。

 

「失礼します、ブラン様」

「えぇ。どうしたの、フィナンシェ」

「えぇと、その…非常に不可解というか、心当たりのない感謝のお電話が、先程入りまして……」

 

 入ってきた侍女、フィナンシェが浮かべていたのは見るからに釈然としていない顔。…心当たりのない、感謝の電話…?

 

「…内容は?」

「はい。先日ブラン様が訪れた保育園からでして、燕尾服を着た職員さんが子供達を大いに喜ばせてくれた、と…」

「そう…それは確かに不思議な電話ね。念の為話を聞いておいて……って、はぁぁッ!?え、燕尾服!?…それって、まさか……」

 

 基本感謝されて困る事なんてないけど、どうも気になる。そう思って内容を訊き……次の瞬間、わたしは椅子をひっくり返しそうになる程の勢いで立ち上がった。

 うちの教会に職員は沢山いる。燕尾服を着ているルウィー国民も…まぁ、そこそこはいると思う。けど…燕尾服を着ている職員(と認識される人)なんて、一人しか…奴しかいない。

 

「ちっ…ちょっと出てくる、なんかあったらすぐ連絡してくれッ!」

 

 かけておいたコートをひっ掴み、言うが早いかわたしは廊下へ。向かう先は、勿論外。

 

「…女神様?何かありましたか?」

「おい!…じゃない…ねぇ貴方、トリックを見ていない?」

「彼ですか?彼なら先程出ていきましたが…」

「な、何で止めなかったの…!?彼は襲われる危険のある人物だから、一人で外に出ようとしたら引き止めてって言わなかった…!?」

「えぇ!?す、すみません!…その…ロム様とラム様が出ていったすぐ後だったので、お二人が同行するのかと思いまして……」

「…そう…問い詰めるような事を言って悪かったわね。彼がどっちに行ったか分かる?」

 

 思わず警備員を責めるような事を言ってしまったわたしだけど、話を聞く限りトリックが「そう勘違いするように」動いた可能性が高い。それにこれは、混乱を避ける為とはいえ教会の皆に真実は話さず、トリックに臨時職員としての立場を与えたわたしの側にも非のある事。だからわたしは警備員に謝罪し、外へ出ると同時に聞いた方向へと飛び立つ。

 

(あんにゃろう…わたしの信用を裏切りやがって…!)

 

 奴の性癖、感謝の電話、向かった方向…それにロムラムへ続く形で出て行った事から推測される場所へと、一直線に向かうわたし。その最中、胸中に渦巻くのは油断していた事への自責と、信用していたのにという悔しさ。

 変態だが、ただの変態じゃない。あいつはあいつなりに信念があって、願いがあって、ずっとそれに悩んでいて…そんな奴だから、わたしもあいつが教会内で大人しくしてる分には自由にさせてやろうと、外出も時間がある時なら付き合ってやろうと思ってたのに……ッ!

 

「……っ…ここだ…ッ!」

 

 目的の場所をはっきりと視認したわたしは、人のいない裏手へと速度そのままに降下。着地の数秒前に急ブレーキをかける事で砂煙が上がらないようにし、そこからは飛行を止めて垂直に着地。女神化を解き、目的地……幼稚園の中へと入る。

 

「へ?あ、すみません!恐れ入りますが、どちら様で……って、もしやブラン様ですか…?」

「そうよ、トリック…燕尾服を着た男は来てるかしら?」

「は、はい。現在中庭に……って、ブラン様…!?」

 

 突然の来客に驚く職員。通りかかった彼にトリックの場所を訊き、わたしは即座に中庭へ向かう。

 女神化は解いた。でもそれで冷める程、わたしの怒りは温くない。そして空から見た大体の作りを元に中庭へと向かう中、聞こえてくるのは男の声。

 

「さぁ、よーく見てごらん?もっと近付いて…ふふふ、息がかかる位でも構わないぞ〜?ほーら、よく見て…どうなってるかを見つめて……」

「……あ、んの…クソ野郎が…ッ!」

 

 その瞬間、わたしの中で沸点どころか融点すらも超える怒り。何をしてるかはまだ分からないが、言ってる事からしてまともな訳がない。

 あいつを信用したわたしが馬鹿だった。あの変態は、結局ただの変態だったんだ。そしてそんな変態野郎を信用するなんてしちまったのは、誰でもないわたしだ。だったら奴に落とし前を付けるのも、奴の行いの責任を取るのも…わたしじゃなくちゃいけないんだ。

 そんな怒りを、後悔を、その裏にある悲しみをぶつけるように、中庭に繋がるであろう最後の角を曲がり……わたしは、声を放つ。

 

「トリックテメェッ!ここで一体何してやが──」

 

 

「そぉれ!なんと空っぽだったシルクハットから、こんなに沢山の鳩さん登場だぞぅ!」

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 声を上げた、声を荒げた、怒号を飛ばした……その次の瞬間、目の前に飛んできた白い物体。反射的にそれを掴み、確認すると…それはびっくりした様子の白い鳩。

 

「ほぇ?あ、おねえちゃん…!」

「ほんとだ、おねえちゃんじゃない!おねえちゃんも来たの?」

「え?…いや……え…?」

 

 予想外にも程がある事態にわたしが何度も目を瞬かせる中、同じく中庭から聞こえてきたロムとラムの声。二人だけじゃなく、子供達もわたしを見ていて……女の子も男の子も関係なく、シルクハットを持つトリックの周りに集まっていた。…じゃあ、これって…まさか……

 

「…手品……?」

「そーよ?」

「そうだよ…?」

「…………」

 

 きょとんとした顔で、わたしの呟きに答えるロムとラム。いや…二人だけじゃない。集まっている園児も、見守っている先生達も不思議そうにわたしを見ていて……

 

「…ちょ、ちょっとトリック……」

「むむ?急に何かなブラン様。我輩に何か用が……」

「……ごめんなさい…明日何か奢るわ…」

「う、うむ……?」

 

 十数秒後。わたしは一度トリックを呼び寄せ、粛々と彼へ謝罪をするのだった。…どうしよう…勘違いが凄まじ過ぎて物凄く恥ずかしい……。

 

「マジシャンのおにーさーん!つぎのマジックはまだー?」

「おおっと、これは失礼。では…見ていて頂けますかな?愛らしき二人に協力を得た、我輩のマジックを」

 

 園児に呼ばれたトリックは、恭しい仕草でお辞儀をした後中庭の中央へ。…二人の協力……?

 

「こほん。それじゃあみんな、わたしとロムちゃん…と、おまけのトリックのマジックも、次でフィナンシェちゃん…じゃなくて、フィナーレよ!」

「あぶないから、みんなははなれてね。じゃあ、ラムちゃん…!(きりっ)」

「うんっ!」

 

 目を合わせてタイミングを合わせた二人は、くるりと頭上で杖を回した後に地面を一突き。するとそこを起点に白みがかった水色と桃色の魔法陣が浮かび上がり、そこから冷気と共に立ち昇る二本の氷柱。

 それだけでも、園児達からは歓声が上がる。でもそれも当然の事。ルウィー国民と言えどこの年ならまだこんな規模の魔法を見る事なんてそうそうないだろうし、ロムとラムの氷魔法はわたしから見ても、羨ましいと思う程に上手且つ綺麗だから。

 

「アクク…では皆様、ご覧あれっ!」

 

 氷柱が完成したところで、その間に立つトリックが取り出したのは二枚のトランプ。それを持ってトリックが腕を交差させると二枚のトランプには火が点き、ものの数秒で二枚はどこぞのダークヒーローさんの如く炎のトランプに。

 固唾を飲んで見つめる園児達。溜めの時間を作るようにトリックは暫し目を閉じ……緊張が最高潮まで高まったところで、かっと開眼。次の瞬間、構えた両腕を同時に振り抜き、手から放たれたトランプは左右の氷柱の中腹へ刺さる。

 移る視線、一瞬の静寂。角の刺さったトランプは白く輝き……次の瞬間、二本の氷柱は砕け散る。

 

『わぁあぁぁぁぁぁぁ……っ!』

 

 砕けた破片は一瞬で霧散し、周囲は勿論地面への被害もゼロ。これだけでも十分園児達の心を震わせていたけれど……砕けた氷柱の中から出てきたのは、氷で出来た二つのハート。それ等は炎のトランプで照らされているのかきらきらと煌めき、ゆっくりと地面へ落ちた瞬間それも霧散。散ると同時に爽やかな冷気が中庭に吹き……

 

(…大したものね……)

 

 どこまでが手品で、どこからが魔法なのか。魔法もどの辺りまでロムとラムがやっているのか。色々気にはなるし、魔法を手品と呼ぶのも、手品を魔法と呼ぶのも、魔法の国の女神としては思うところはあるけれど……それを差し引いてもこれは、良いものだと思えるショーだった。

 

 

 

 

「はいはーい!おにごっこする人はしゅーごー!」

「やるー!」

「わたしもー!」

「ぼくはやだー…」

「それじゃ、わたしとおりがみ…やる?」

「あ、おれシュリケンつくりたいー!」

「わたしね、おはな!おはなつくってほしい!」

 

 (二重の意味の)マジックショーが終演してから数分後。興奮冷めやらぬ園児達をロムとラムの二人が集め、ラムはそのまま外で鬼ごっこ…ではなく相談の結果色鬼を、ロムは屋内に戻って折り紙を開始。

 

「…ふふっ」

 

 率先して最初の鬼を務め、「ほーら、にげないとつかまえちゃうぞー!」…と園児達を囃し立てるラムに、園児達のリクエストを聞き、折り方を丁寧に教えながら、集まった園児皆と折り紙を折り進めるロム。二人がここにいるのは、この幼稚園が遊び場の一つだから…では勿論ない。

 これは、二人の慰問活動。今の状況に不安がっている子供達を元気付け、それに幼稚園や保育園へ行かせている間にまた何かあったら…と心配する親御さん達にも安心してもらう為に、元々はわたしが始めた活動で…でも二回目にロムとラムを連れて行った時、予想通りに二人は園児達の、更には先生達の心すらもがっちりと掴み、親御さんからの反響も上々だった。だから三回目以降の幼稚園・保育園慰問は基本的に二人に任せていて、何をやるかも二人とその園の先生達に任せている。

 そしてそれは、正解だった。好評だ…ってだけじゃなく、これを通じて二人が成長しているようにも思えるから。周りを見て、意見を聞いて、その思いに応える。ただ自分が楽しむだけじゃなくて、皆を楽しませる。精神年齢が近いが故に…って部分もあるんだろうけれど、わたしは二人がちゃんと園児達の世話を出来てる事が、凄く嬉しい。

 

「ぶらんさまー!」

「…どうしたの?」

「はふぅ……」

「…あぁ。間に合って良かったわね」

「うんっ!」

 

 わたしが内外を眺めている中、わたしの名前を呼びながら駆け寄ってくる園児が一人。その子はわたしのコートにぺたりと触れて、それから良かったとばかりにほっと一息。それで「白」を探していたんだと気付いたわたしが頭を撫でると、その子は屈託のない表情で笑う。

 

(…やっぱり、小さい子を見ていると心が洗われるわね。トリックじゃないけど、わたしは女神として……)

「…守りたい、この笑顔…とな?」

「…うげ……」

 

 また走り出すその子を見送り、自然に抱く温かな気持ち。声を上げ、にこやかに遊ぶ子供達の為にも、今起きている一連の事を絶対に解決しようと改めてわたしは心に決め……ようとしていたところで、間の悪い変態が勝手に心を読んでくる。

 

「アクク、我輩も同感であるぞ?無垢にして純粋、可能性に溢れる幼女達の事は何があろうと守らなくてはなぁ」

「その幼女、って単語を子供に置き換えるだけで、普通に良い発言になるのに……で、その幼女好きの貴方はどこに行っていたのかしら?」

「何、暫し先生方と談笑をしていただけだ。無論、邪な事はしておらんぞ?」

 

 そう言いながら、トリックはわたしの隣に腰を下ろす。…先生方と、談笑ねぇ……。

 

「…本当に?貴方が、幼女どころか子供ですらない相手と?」

「ふっ、何を言うか。幼稚園教諭と言えば、幼き子の世話を自らの務めとした者。幼女への愛を持つ者。それ即ち…我輩の同志と言っても過言ではない……!」

「いや過言でしょ…しれっと男の子への愛を無視するのは止めなさい……」

 

 ぐっと右手を握るトリックの言い分に、ただただわたしは呆れ返る。…なんかもう、色々凄いわね…微塵も尊敬は出来ないけど…。

 

「…というか貴方、ロムラムに一体どうやって協力を?」

「それに関しては、園児達の要望あっての事だ。我輩の手品と、二人が見せていた魔法の合体を見たい…そんな思いに応えるロムちゃんとラムちゃんの、清く優しい心と言ったらもう……!」

「あー、はいはい。まあそういう理由でもなければ二人が協力するなんて……」

「めがみさまっ!マジックのひとっ!みてみて!ぼくこれつくって…あぅっ!?」

『……!?』

 

 二人にとってもトリックは思うところのある相手…だとは思うけど、少なくともわたしよりは嫌ってる筈。そんな二人が何故…というやり取りが終わりかけたところで、横から聞こえてきた元気一杯の声と……次の瞬間鳴った、鈍い音。

 

「だ、大丈夫!?頭打ったの?怪我は?」

 

 ばっとわたし達が振り向いた時、そこにいたのは前から倒れた一人の男の子。急いでわたしが駆け寄り起き上がらせると、その子の瞳へみるみる涙が溜まっていく。

 

「…ぅ…うぅ…うぇぇ……っ!」

「(…額が赤くなってるけど、それ以外で怪我をした様子はない…良くはないけど、良かったわ……)…よしよし、大丈夫……」

 

 ぱっと見ではあるけど、彼に怪我はなさそうで一安心。でもこの子からすれば怪我をしていようとしていまいと痛い訳で、生まれたばかりの頃のロムとラムにしたように優しくあやしてあげようと思ったわたし。…けれどそこで、わたしはトリックに止められる。

 この子の隣に立ったトリックは、ロムラムや先生達も制止。それから片膝を突く事でこの子と同じ目線になって、トリックは言う。

 

「泣いてはいけないぞ、少年」

「…トリック……?」

 

 肩へと片手を置き、諭すようにトリックが発した一言。トリックは視線で「任せてもらえないか」と伝えてくると、そのままその子に向けて続ける。

 

「で、でもっ…おでこ、いたいぃ……」

「うむ、そうだろう。我輩も、物凄く辛かったり痛かったりする時は、泣いてしまいそうになる。けれど泣かなかったら、君は一つ強くなれる、成長出来るんだ。…君は、夢はあるかな?」

「ゆめ…?…ぎょーせー、しょし……」

「ぎょ、行政書士…?…それは、また…しっかりした夢ではないか……」

「…おとーさんの、おしごとだから……」

「あ、あぁ…そういう事か…。…行政書士は、大変な仕事だぞ?なるのも続けるのも大変だ。だけどここで泣かなかったら、君は一つ成長する。そして…今から頑張って、色んな成長をしていけば…きっと君は、お父さんみたいになれる。…そうであろう?」

「…そうね。強い気持ちで、本気の願いで頑張れば、その夢はきっと叶うわ。だってここは、夢見る白の大陸ルウィーだもの」

 

 真剣な眼差しでそう話したトリックは、ふっとわたしの方を見る。

 その意図を察したわたしは力強く頷いて、わたしも男の子へ向けて伝える。…こういう話になったのは、偶然だけど…今のはその場凌ぎの言葉じゃない。何よりも力になるのは、夢や希望を掴み取る強さに繋がるのは、心だから。思いだから。それが…信次元だから。

 

「…さぁ、どうする少年。どうしても泣きたい時は、泣いてもいい。けど……」

「……ううん…なかない、がんばる…!」

「そうかそうか、凄いなぁ少年は。我輩だったら、泣いていたかもしれないぞ?」

「ほんと…?」

 

 ぷるぷると震え、目には涙を溜めたままで…けれど泣かないと、頑張ると自分の口で言った男の子。それを見たトリックは笑みを…特徴的で気持ち悪いいつもの笑みではない、優しげな微笑みを浮かべて……そこで今度は、ロムがその子の隣に来る。

 

「…ね。ぶったのは、ここ?」

「うぇ…?…うん……」

「それじゃあ、いたいのいたいの……」

 

 膝を屈めて問い掛けたロムは、その子からの首肯を受けて右手を額に。それからその手で軽くさすり…ずっとその手をラムの方へ。

 すると掌から現れたのは、ぼんやりと光る魔力球。それはゆっくりとラムの方へと飛んでいき……

 

「とんでけーっ!」

 

 次の瞬間、杖を持ったラムはフルスイング。横から思い切り打たれた魔力球は空へと吹っ飛び、ある程度飛んだところで破裂。小さな花火の様に空で散り、ラムは自信満々にVサイン。

 

「どう?これでいたいの、なくなったんじゃない?」

「え…?…あ、ほんとだ…いたくない…!」

「ふふふ、良かったね。それじゃあ女神様達に、あの言葉を言おっか」

「うん…うん!えっとね、ありがとう!」

 

 快活に笑うラムに訊かれて、少年の顔にも明るさが戻る。それから先生の一人も側に来て…男の子の発した、ありがとうの言葉。それは本当に純粋な、心から出たんだって事がすぐに分かるありがとうで……それを聞いたわたし達もまた、気付けば自然に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 最初はすぐに帰るつもりが、いつの間にか結構な時間居てしまったわたし。 でもまぁその分、かなりリフレッシュ出来た気がする。

 

「みんな、ばいばーい!」

「また来るね…!」

 

 それぞれ利き手をぶんぶんと振り、ロムとラムは園児達に挨拶。園児達も元気一杯にそれに答えて、先生方は頭を下げる。

 二人が逆の手で持っているのは、先生方から貰ったお菓子。…因みにこれを貰った際、「わっ、おいしそう…って…これってもしや、わいろ…!?」「わ、わいろ…!?(がびん)」…という、ちょっとした勘違いをしていたり。

 

「ふー…たのしかったね、ロムちゃん」

「うん。よろこんでもらえて、よかった…」

 

 満足そうな顔を浮かべる二人。喜んでもらう事が出来て、自分もそれで楽しめた。…上出来よ、二人共。

 

「アクク、今日は二人共大活躍であったなぁ。さぁ、それではロムちゃんラムちゃん。我輩と手を繋いで帰ろ……」

「あ、おねえちゃん!わたしたち先にかえるねー!」

「またあとでね…!(だっしゅ)」

「……おおぅ…」

 

 にんまりと下心丸出しな笑みでトリックが両手を差し出した瞬間、二人は全力疾走でトリックの前から離れていく。…ま、当然ね。

 

「…つれんなぁ…だがしかし、全力で駆ける姿が見られたので良し…!」

「馬鹿な事言ってないで、さっさと行くわよ。それとも、教会までひとっ飛びする?」

「む?ま、まさかそれは、我輩を抱っこして……」

「これで吹っ飛ばすつもりだけど?」

「…であろうなぁ……」

 

 よいしょ、っと槌を振り被ると、トリックはしょんぼりしながら歩き出す。…こいつ、どこまで本気だったのかしら……。

 

「…………」

「…………」

 

 それから数分、わたしもトリックも無言で歩く。わたしとトリックは楽しく談笑するような間柄ではないんだから、無言になるのも当然の事。…とはいえ一つ、きっちりと言っておかなきゃいけない事はある訳で…頃合いを見て、わたしは口を開く。

 

「…もう、勝手に出るのは止めて頂戴。それは貴方の、信用を落とす行為よ」

「信用?…つまり、我輩を信用していると?」

「さぁね。わたしはただ、貴方の思い、これまでの行動、そして今日の行いを、総合的に見て判断するだけ」

「…うむ。我輩に道を示してくれた恩人の厚意を、裏切る訳にはいかぬからな。もう無断で出る事はしないと約束しよう」

 

 ふざける様子も下心も一切ない、真面目なトリックの返答。それを聞いて、わたしは思う。全く…本当に、こいつは…と。

 それからわたしは振り返る。今日、幼稚園で見たものを。幼稚園での、トリックの姿を。そしてわたしは、口元に小さく笑みを浮かべ……もう一つ、言う。

 

「…トリック、貴方…ほんとはロリコンでも何でもない、ただの世話好きでしょ」

「な……ッ!?」

「で、これまで無断で行っていたのは、それを見抜かれるのが恥ずかしかったからでしょ」

「ななな……ッ!?」

 

 目を見開き、声が出なくなる程に驚愕の表情を浮かべるトリック。…どうやらこれは、彼の心に刺さったらしい。

 さっき…男の子にありがとうと言われた後、トリックは自分の行動について言っていた。同世代の少年の成長は、同じ場所で過ごす幼女にも良い影響があると。だから自分は声をかけたのだと。…そう言って、本人は誤魔化してたつもりなんだろうけど…わざわざこんな事を言う時点で、それが何かを誤魔化す為の言葉だって事は明白。

 先生と談笑していたのもそう、トリックを慕い、ギョウカイ墓場でネプギアと一騎討ちをした彼女の存在だってそう。ロリコンでも何でもないとは言ったけど、もしかしたら…というか、本当にロリコンではあるんだろうけど…少なくとも、幼女以外はどうでも良いという思考の男だとは思えない。

 

「…そこのところ、どうなの?」

「ば…馬鹿を言うでない!わ、我輩がただの世話好きなどであるものか!我輩は幼女を嗜む真の紳士、幼女こそが我が至高!」

「誤魔化さなくたって良いのよ?」

「だ、だから誤魔化してもおらん!言っておくが、我輩はいつでも幼女を舐めたいと思っている!そしてあわよくば、舐められたいとも思っている!」

「ぶ……ッ!?おまっ、ここ公衆の面前だぞ!?いや今は誰もいねぇが…時と場所を考えろっての!」

「ふほぉぉ!顔を赤くするブランちゃん良い!素敵!舐めたい嗅ぎたい抱っこしたいぃッ!」

「そんな事叫ぶんじゃねぇ!ルウィーの品位が落ちるだろうがッ!あー、もうッ!」

 

 追い詰められてテンパったのか、外だという事も気にせずとんでもない発言を連発するトリック。まさかこんな返しをしてくるとは思ってなかったわたしも慌てふためき、声を荒げてトリックを制止。

 だが余程そう思われるのが恥ずかしかったのか、トリックは全く止まらない。止まらないどころか暴走は加速し、傍から見たら…いや、どっからどう見てもただのヤバい変質者に。そしてどうにもならないと思ったわたしは自分の頭を乱暴に掻き、トリックの胸元に右手の拳を打ち付けて……

 

「──恥じる事なんてねぇよトリック。テメェは、どうしようもねぇ変態野郎だが……お前の心を笑う事だけは、誰であろうとわたしが許さねぇからよ」

 

 右手を離し、トリックに背を向け、わたしは再び歩き出す。今の言葉を、トリックがどう受け取ったかは知らねぇが……今も、あの時も、同じだ。わたしが、女神が何を言おうと、最後に決めるのは本人で……自分で選んで歩むだけの力があるのが、トリックって男なんだからよ。

 こうして今日も、何事もなく一日が終わる。これは平和が戻った訳じゃなく、嵐の前の静けさとでも言うべき時間だけど…その中でも見えるもの、得られるものはある。…そう思えた、一日だった。

 

 

 

 

……因みにわたしが、今日予定していた分の雑務が途中のままになっているのを思い出すのは…これから、もう少し後の事だった。…うぅ、わたしとした事が……。




今回のパロディ解説

・某ピンクのベストの芸人さん
お笑いコンビ、オードリーの春日俊彰さんの事。あんな感じ…ではありませんが、さも当然のようにトリックはブランを膝(太腿)の上に誘った訳です。

・どこぞのダークヒーローさん
炎炎ノ消防隊に登場するキャラの一人、ジョーカーの事。信次元のトリックは、魔法ではなく本当に手品が特技…という設定です。何となく、そんな気がしたんです。
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