超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
うずめさん達のいる次元にはイリゼさんと交代する形で途中から、神次元には最初から行っていて、この間はあまり空いていなかったから、何だか連日プラネタワーにいるのは久し振りな感じ。前の旅の時も同じ感覚になったけど…多分これは、一度や二度で慣れるものじゃない。
考えてみれば、あの時も最初の目標を完遂して、次の目標に向けた準備を進めるという時間だった。犯罪神が関わってるという点でも同じで、幾つかの不安はあっても最悪の状態からは脱する事が出来たという点でも同じ。けれど、あの時と真逆なのは、マジックさん達四天王との関係性。あの時は敵で、これから戦う事が予測されていたけど……今は、わたし達の側に付いている。
「よっ、ほっ、たぁぁぁぁッ!」
「ふっ…せぇぇいッ!」
ひらひらと木の葉が舞うように、淀みなく次々と放たれる剣撃。それを放つのは、プラネテューヌに滞在している旧パーティー組のファルコムさん。
それをわたしはビームソードで凌ぎながら、連続攻撃が切れた瞬間横薙ぎで反撃。旧パーティー組のファルコムさんは、新パーティー組のファルコムさんに比べて背格好が小さい分、攻撃のリーチそのものは若干短いけど…逆に言えば、その分小回りは旧パーティー組のファルコムさんの方が上。どっちも僅かな、普通ならきっと誤差の範囲で済んじゃうような差だけれど…そんな差が、勝敗に繋がる事もある。少なくともわたしは、そういう戦いをこれまでしてきた。
「……ッ…っとぉッ!」
わたしの振り出した斬撃に対し、ファルコムさんは身体を思い切り仰け反らせる事で回避。その流れのまま後方宙返りに移行し、更に右脚をサマーソルトキックの様に蹴り出す事でわたしの追撃も回避する事で、大きくわたしから距離を取る。
互いの剣が届かない間合いにまで跳んだファルコムさんは、片膝を突く形で着地。わたしはその場から進まず、小さく息を吐いて構え直す。そしてわたし達は、静かに視線を交錯させ……
「…うん、これ位にしよっか。ありがとね、鍛錬に付き合ってくれて」
「いえ、わたしこそ良い訓練になりました。ふぅ……」
実戦形式の鍛錬…つまりファルコムさんとの模擬戦を、終了する。
「そういえば…確かネプギアは、もう一人のあたしとも手合わせした事があるんだよね?その時と比べると、どう?」
「え?う、うーん…どちらのファルコムさんも強いですし、流派が同じなだけあって動きも似てますし…ちょ、ちょっと時間もらえますか?今の戦いを頭の中で振り返りますから…!」
「い、いやいやそこまで真剣に受け取らなくても良いから…。…ほんと、ネプギアは真面目だね」
背丈や経験してきた事は違っても、やっぱり同一人物なだけあって二人のファルコムさんはそっくり。それは、笑ったり肩を竦めたりする時の仕草に関しても同じ事で…ふと、わたしは大きいお姉ちゃんを思い出す。
(…今、大きいお姉ちゃんは何してるんだろうなぁ……)
もう少し鍛錬を続けるらしいファルコムさんと別れて、わたしは外からプラネタワーの中へ。
別次元との繋がりが断たれた今は、当然大きいお姉ちゃんと会う事も出来ない。そもそもその前からどこに行ってるのかは分からない、連絡先も知らない大きいお姉ちゃんだけど…だ、大丈夫だよね…?定期的に戻ってる場所があるって言ってたし、食べる物がなくて倒れてるとかないよね……?
「……?どしたのネプギア、何か考え事?」
「うん…ちょっと大きいお姉ちゃんの…って、大きくないお姉ちゃん!?」
「大きくないお姉ちゃん!?い、いや合ってるけど…基準がおっきいわたしの方になった!?」
歩いてる最中、さらりと横からかけられる声。その声の主は物凄く身近で、しかも考えていた相手と同一人物だって事もあって途中までは何気なく返してたけど、数秒してから意識が追い付いたようにびくぅ!…と思い切り驚くわたし。対する声の主…お姉ちゃんも思わずわたしが口にした変な表現にショックを受けて、結果わたし達はお互いを意図せず驚かせる形となってしまった。
「び、びっくりした…」
「わたしもびっくりした…っていうか、よく考えたら前半の『ちょっと大きいお姉ちゃん』ってのも気になる表現だよね…『ちょっと』が大きいにかかってるって訳じゃないのは分かってるけど……」
「言われてみれば確かに…それで、お姉ちゃんはどうかしたの?」
「ううん、何考えてるのかな〜って思って話しかけただけだよ」
気を取り直したわたし達は、話しながら二人で歩く。…あ、因みにお姉ちゃん、わたしが普通に「お姉ちゃん」って言ったら、その瞬間ほっとした顔をしてました。
「あ、そうだネプギア。今日のおやつは、コンパがバナナサンドを作ってくるんだって。勿論バナナと生クリームのサンドイッチの事であって、トークバラエティのプロデューサーさんになった訳じゃないよ?」
「そうなんだ。じゃあ、今日もお仕事頑張らないとね」
「うっ…まぁそうだよね…。それじゃ、おやつを美味しく食べる為にもお仕事頑張りますかー…」
がっくりと肩を落としながらも、仕事をする意思を見せるお姉ちゃん。それからお姉ちゃんは、自分の執務室の扉を開けて……
「……漸く来たか」
開かれた扉の先、執務室の中では……マジックさんが、脚を組んでソファに座っていた。
「…………」
「…………」
『…………え?』
想定外にも程がある状況に、わたしもお姉ちゃんも暫し硬直。…いや……え、え…?
「…なんだその顔は」
「な、なんだその顔はって…そうです、わたしが変な女神です…って、変な女神じゃないよ!」
「……イかれたか」
「史上最低クラスの突っ込みが返ってきた!?…じゃなくて!なんでマジックがわたしの執務室にいる訳!?」
訳が分からな過ぎたせいか変な事を口走っちゃったお姉ちゃんだけど、それを差し引いてもマジックさんの返しは強烈。ただただドライで冷たい「イかれたか」は、もう突っ込みというか単なる言葉の斬撃で、お姉ちゃんの心に大ダメージ。…まさか、こんな速攻でお姉ちゃんが突っ込み側に追い詰められるなんて……。
「そんなもの、貴様に用事があるからに決まってるだろう」
「そ、そう…とても用事がある人とは思えない態度だけど……」
「ふん。…出掛けたい場所がある、同行しろ」
引き気味のお姉ちゃんへ向けて、マジックさんが口にしたのは出掛けたいという要望。
その言葉を聞いて、わたしは少し驚いた。これまでマジックさんは一度も外出しようとはしていなかったし、そもそも毎日何をしているのかもよく分からない人だったから。
「ちょっ…同行しろって、急過ぎない…?」
「勝手に外に出るなと言ったのは貴様等だろうが。まぁ、そういう事なら我一人で行くだけだ」
「あ、だ、駄目ですよマジックさん!万が一の事がありますし……」
「…我が何をするか分からない、と?」
「……はい」
組んだ脚を解く流れのまま立ち上がり、マジックさんはわたし達のいる出入り口へと向かってくる。それをわたしが制止すると、マジックさんはわたしへ向けて冷ややかに一言。
一瞬、それにわたしは口籠った。自分の答えを、正直に言うべきかどうかで。でも…ここで否定しなかったら、わたしは自分の心に嘘を吐く事になる。だからわたしはマジックさんを見つめ返し、彼女の言葉を肯定した。
「…だろうな、貴様等なぞに信頼される筋合いはない。だがそういう事なら、選ぶが良い。自分達が折れるか、それとも我を力尽くで折れさせるかを」
「…はぁ…いいよ付き合うよ…。わたし達だって、何も閉じ込めておきたい訳じゃないし…。…で、どこに行きたいの?」
威圧的な態度を続けるマジックさん。大きな溜め息と共に後頭部を掻き、仕方ないとばかりに同行する事を決めるお姉ちゃん。わたしもそれに頷くと、マジックさんはこれといって表情を変える事もなく……意外な場所、というか地域の名前を口にした。
*
イストワールさんに同行する事を話し、マジックさんと共に移動する事数時間。場所が場所だから女神化し、飛行する事で向かったわたし達は、目的地の近くへ着地する。
「ふぅ。この辺り…で、良いのよね?」
「…………」
「…マジック?」
「…お前…飛行が荒いにも程があるだろうが……!」
数秒間の沈黙と、呼び掛けに対し叩き付けられる恨み節。それにお姉ちゃんはすっとぼけた表情を浮かべ、わたしは思わず苦笑い。
ここに来るまでの、かなり長い空の旅。その間、お姉ちゃんは何度も荒っぽい…というか、無駄にアクロバティックな動きをしていた。そしてお姉ちゃんに運ばれていたマジックさんは、前の姿より身体能力や感覚器官の能力も落ちている(それでも普通の人とは段違いらしいけど)が為に、思いっ切り振り回されて……今こうして、わざとそんな飛行をしたお姉ちゃんへ憤慨している訳です…。
「まあまあ落ち着いてマジック。貴女だって、ずーっとただ運ばれるだけじゃ暇でしょ?」
「誰がアクロバットしろと頼んだ…!誰が暇を潰したいと願った…ッ!」
「…思った以上に怒り心頭ね…わ、悪かったわ……」
斬りかからんばかりの形相で詰め寄るマジックさんに気圧されたお姉ちゃんは、何とも微妙そうな顔をしながら謝罪。…まさかこんな光景を見る日が来るなんて、ちょっと前までは想像すらもしなかったなぁ……。
「…貴様の飛行には二度と付き合わん……」
「はは…それにしても、どうしてこんな所に?」
「来る理由があるからに決まってるだろう」
「えぇー…いやそれはそうでしょうけど…(説明になってない……)」
忌々しそうにお姉ちゃんへと背を向け、マジックさんは歩き出す。女神化を解いたわたしが後を追いつつ質問をすると、返ってきたのは明らかに答える気ゼロな言葉。
「…ほんと、何なんだろうね?まさかマジック、しまめぐりに目覚めたとか?」
「う、うん…それはないんじゃないかな……」
一人でさっさと行ってしまうマジックさんを追いながら、理由を想像して話すわたし達。
今わたし達がいるのは、一つとなった四大陸から遠く離れた浮き島の一つ。中継点でも通過点でもなく、この浮き島のある場所がマジックさんの言う行きたい場所で…正直、ここに来て何をしたいのかが全く見えてこない。
(…ここに、犯罪神にとって利になる何かがある…とかじゃなければ良いんだけど……)
いつうずめさん達が仕掛けてきてもおかしくない以上、女神が揃ってプラネテューヌから離れるのは得策じゃない。それは理解した上でわたしもお姉ちゃんも同行したのは、マジックさんの側で「もしもの可能性」を否定し切れないから。…まぁ、ユニちゃんだったら、この判断を甘いって言うんだろうけど…ね。
「……ここ、って…」
それから歩く事十数分。行き着いたのは、荒れ果てた建物が散見される場所。きっと昔は、小さな村か集落があって…でも今は静かな風が吹くだけの、そんな場所。
「…ここなの?マジックが来たかった場所って」
「そうだ」
ゆっくりと見回しながら訊いたお姉ちゃんに、マジックさんは首肯。酷い、わたしの質問にはちゃんと答えてくれなかったのに…とは、思わない。声音から、さっきとは何かが違うって分かったから。
「あの、もしかして…ここは、マジックさんの…故郷、ですか…?」
根拠がある訳じゃない。でも雰囲気と、村や集落としては間違いなく機能を失っているこの場所にわざわざ来た事から、何となくわたしはそう思った。
そして、それにマジックさんは何も言わない。言わないけど…今のは無視じゃなく、否定しないって意味での無言だったような気がする。
「……え、と…」
「憐憫など要らん。いつかは犯罪神様によって全てが終わるのだ。であれば滅びなど、早いか遅いかの違いでしかない」
「…でもさ、わざわざこうして来たって事は…思い入れは、あるんだよね?」
「…さぁな」
朽ちた家屋の状態や見えるインフラの技術からして、ここが廃れたのはかなり昔の事だと思う。ここでの歴史も、住んでいた人の暮らしも、全てが遠い昔の事だと示しているような、本当に寂しい場所で…その中を歩くマジックさんの気持ちは、分からない。今言った通り、どうせ滅びるのだからと思っているのか、そうは言っても悲しいと思う部分もあるのか。
マジックさんは、歩みを進める。わたし達も、数歩離れた位置から歩みに続いて……そうして辿り着いたのは、教会らしき施設の廃墟。更にその奥に見えるのは、幾つものお墓。
「…………」
教会跡を見上げ、お墓の前にまで進んで、そこでマジックさんは立ち止まる。隻眼の目で、お墓をじっと見つめ……数十秒の沈黙の末、静かにマジックさんは口を開く。
「……ここは嘗て、犯罪神様を信仰していた村だ」
「……っ…!?」
今日だけでも、マジックさんには何度も驚かされてきた。けれど今発されたのは、そのどれもを超える、桁違いに驚愕の言葉。
あり得ないとは言わない。現に犯罪組織は犯罪神を信仰する集団(皆が皆信仰していたようじゃないけど)で、わたし達の住むプラネテューヌは村どころか国単位でわたしやお姉ちゃんを信仰してくれてるんだから。勿論全ての人がわたしかお姉ちゃんを信仰してくれてる訳じゃないけど、国レベルである事なら、村レベルであっても何もおかしな事はない。…でも、犯罪神は……。
「…何も驚く事はないだろう。貴様達を信仰する者、貴様達への信仰心は無くとも、発展を続ける国家の中で生きたいと思う者は、四ヶ国の何れかに移り住めばいいのだから。四大陸へ向かう事が不可能でも、それなりの規模を持つ町ならば、浮き島群の中にもあるのだから。にも関わらず、こんな不便な場所で住み続けるのであれば、それ相応の理由があるに決まっている」
「…それが、犯罪神への……」
言われてみればその通り。女神の加護の届かない浮き島というだけで四大陸より暮らすのは大変なんだから、その上で不便な場所を選ぶなんて、何か特別な理由がない限り普通はしない。わたしはあまり浮き島の生活事情に詳しくないから、どうこうは言えないけど…マジックさんの言う事には、筋が通っているように思う。
「後から思えば、犯罪神様の事を何も分かっていない者も多かったが…それでもここでは犯罪神様を崇め、犯罪神様を真の神と信じ、犯罪神様を信仰する事が普通の環境が出来ていた。そこで我は生まれ、育ち、他の者と同じように……いいや、他の者以上に犯罪神様を崇拝して日々暮らしていた」
『…………』
「だが、ある時その日々は崩壊した。この教会の意向、犯罪神様からのお告げという形で、我の家族は我を残して全員が供物に選ばれたのだ」
「供物…?…それ、って……」
流れるように、それまでと一切変わらない声音で、マジックさんは言う。あまりにも自然に、あまりにも平然と、自分の家族が供物になったと。
供物。その言葉が意味する事なんて、一つしかない。お姉ちゃんもそれは分かっているようで…それでも訊き返す。お姉ちゃんが言わなかったら、わたしだって言っていた。…それ程までに、そのままじゃ飲み込めない言葉だったから。
「おかしいと思うか?狂っていると思うか?…だがそれは、貴様等の常識だ。ここで生活していた者にとっては、時に供物を捧げる事が、供物となる事が、ここでの在り方の一つだった。そして我含め、殆どの者はそれを普通だと思っていた」
「…マジックさんは、大丈夫だったんですか…?」
「…大丈夫か、だと?」
「そうだよ…口振りからして、別に家族と仲が悪かった訳じゃないんでしょ?その家族が、大切な人達が、一度にいなくなるなんて……」
「……ふっ…くく、ははははははッ!」
自分や自分の周りの常識が、凡ゆる場所での常識…とは限らない事なんて、わたしも知っている。けどそれでも、神に人を捧げる事が普通の社会が正常だなんて思えなくて、家族を失ったその時のマジックさんが不安になって……だけどわたし達のそんな思いを覆す、マジックさんの笑い声。
嘲笑じゃない。楽しい事がある訳もない。なのに上げた大きな笑い声に、わたしもお姉ちゃんも絶句し…ぐにゃりと口元を歪めたマジックさんは、わたし達に向けて言う。
「そうか、そうか…この我を、敵である我を心配すると言うか…!…そうだな、確かに普通の人間であれば狼狽えただろう。何故だと悲しみ、叫びをもしただろう。だが我は違う、我はあの時…忘れもしないあの瞬間、思ったのだ!家族が、肉親が、羨ましいと!犯罪神様の供物として、犯罪神様の糧に、力に、その一部になれる事を!同時に嘆きもした!我だけが、供物となれなかった事を!」
狂気を孕んだ、マジックさんの言葉。その言葉から伝わってくるのは、歪んでいるのに真っ直ぐな思い。
マジックさんが犯罪神を心底崇拝している事は、狂信の域に達している事は、前から知っていた。…でもまさか、これ程だなんて。家族を失う痛みよりも、供物となれなかった悲しみの方が強いなんて。
「…それからも我は、幾度となく供物となる者を見てきた。大人も、子供も、女も、男も、選ばれた者を見送ってきた。だが何度見送ろうとも、我が供物となる日は訪れず……その内に、気付いたのだ。選ばれないのは我の信心が足りないのではなく、我に供物としての価値がないのでもなく、我は犯罪神様の臣下として、供物となりうる人を犯罪神様へ導く事こそが役目なのだと。それこそが、犯罪神様に与えられた使命なのだと」
「…それは、犯罪神に言われた事なの?」
「まさか。だが、その果てで我は犯罪神様に迎えられた。四天王として、犯罪神様の力となる事を許された。それこそが答えだろう。あぁ、ああ…その時の事も、その時の感動も、忘れはしない…!」
恋い焦がれるように、高揚感に包まれるように、頬に手を当て何もない方向を見つめるマジックさん。
理解出来ない。信仰する側とされる側の違いがあるからとかじゃなく…きっとわたしが普通の人だったとしても、マジックさんの思いは分からない。どうしてここまで犯罪神の事を思えるのか。どうしてそこまで信仰に狂えるのか。……恐ろしいと思う程に、マジックさんの思いはわたしの、わたし達の理解の外にあった。
「……どうして、それを…わたし達に、話したんですか…?」
気付けば気圧されていたわたしは、訊く。何故それを、本来敵である、その犯罪神による滅びを阻んだわたし達に話したのかを。それを聞いたマジックさんは、ゆっくりと頬から手を離し…視線は遠くを見つめたままで、今一度口を開く。
「…さて、何故だろうな…。別段、話したかった訳ではない…だが、仮にも生前の姿へと戻ったからか、ここに訪れたからか…それによって、感傷的な気分にでもなったのか……」
はぐらかそうとしている気配はない。多分本当に、確固たる理由かあって話した訳じゃないんだと思う。…そんな感じが、マジックさんの返答からした。
かける言葉が見つからず、ただ見つめるだけのわたし達。その前で、マジックさんはお墓へと背を向け…歩き出す。
「え…?も、もう行くんですか…?お墓参りだったら、もう少しいても……」
「下らん。墓など所詮、死者への未練を断ち切れない生者の自己満足だ。そして村そのものが滅びている以上、最早死を悼む生者すらもいないだろう。であれば犯罪神様の糧となるものももうない、ただ朽ち果てるだけの場所など、時の流れと共に消え去るだけだ」
振り向きもせず、未練なんか微塵も感じさせない声でマジックさんは言う。その声を聞いていると、本当にマジックさんには未練なんてないように思えてきて……
「…そんな事はないよ。ほら」
だけどそんなマジックさんの前へお姉ちゃんは駆け寄り、ある方向を指差した。
お姉ちゃんの指差した先。そこにあったのは、お墓の一つと…そこに手向けられた、小さな花束。
「確かに、ここはもう過去の場所になっちゃってるけど…あの花束は、まだここに来てる人が、ここに住んでいた人の事を覚えてる誰かがいるって事でしょ?この村に元々住んでた人か、その知り合いか、或いはひょっとしたらここでの生活は知らないけど、このお墓の事を知って花を持ってくるようになった人かもしれないけどさ、こうしてお墓参りに来る人が一人でもいるなら、まだ消え去ったりなんかしないよ」
「…………」
「…そう、ですよ。お姉ちゃんの言う通りですし…マジックさんも、ここに来たんじゃないですか。プラネタワーから遠く離れたここに、わざわざ好きでもないわたし達の同行を受け入れてまで来たのは…それだけの思いが、ここに…この村にあったからなんじゃないんですか?」
「…理解出来んな。犯罪神様を信奉していたこの村を、我以外聞く者がいないにも関わらず慮るか」
「ま、それが女神だからね」
「はい。それが、女神なんです」
呆れたように言うマジックさんの言葉に、わたしもお姉ちゃんも微笑んで首肯。
そう。別に誰かに取り入ろうとか、好感を得ようと思って言った訳じゃない。そういう事を自然に思うのが女神で…そこに、理由なんてない。
「…馬鹿馬鹿しい。そんな事で……」
「…マジックさん…?」
「…いや…そのような存在でなければ、限られた人間だけに手を差し伸べ守るような矮小な存在が、犯罪神様の放つ威光に、破滅そのものたる犯罪神様の力に対抗し、たった一度でも退けられる訳がない…犯罪神様の道を阻むのなら、それ位の精神はあって然るべきという事か……」
「ふふん、少しはわたし達の事が分かったようだね。でも、たった一度なんかじゃないよ?何度だって、わたし達は犯罪神から…ううん、ゲイムギョウ界を滅ぼそうとする存在全てから信次元を守るんだからね」
「驕るなよ、女神。貴様等の強さを疑う余地は最早ない。だが真理たる者は、最後に次元の在り方を定めるのは、貴様等ではなく犯罪神様だ。そしてその瞬間が訪れた暁には……貴様等も、犯罪神様に傅く従神として迎え入れてやろうではないか」
両腰に手を当てて、面と向かって言い切るお姉ちゃん。その言葉ににやりと笑みを浮かべ、お姉ちゃんを見下ろすマジックさん。
それからマジックさんは、置かれている花束を見つめて…もう一度、お墓の前へ。さっきも見ていたお墓の前で片膝を突いて、その手でお墓に触れて……立ち上がった。どことなく、気の済んだような表情で。
「…帰るぞ」
「あ、うん。けど帰るも何も、マジックは飛べない…って、聞いてないし…もー……」
またまたさっさと行ってしまうマジックさんに、お姉ちゃんはやれやれと溜め息。わたしもまた、この浮き島に来た時みたいに苦笑を浮かべて……それから、マジックさんの背に向けて言う。
「…あの、マジックさん。わたしはやっぱり、マジックさんの…その信仰心は、凄いと思います。肯定は出来ませんが……それでもやっぱり、貴女の心の強さは女神として負けられない…そう、思いました」
「…そう思いたくば、勝手に思え。そんな事を言われようと、我の信心は変わらないがな」
振り返りもせずに、マジックさんはそう返した。でもそれは思った通りというか、それを含めてのマジックさんで…だからわたしもお姉ちゃんと肩を竦め合って、マジックさんを追い掛ける。これからの信次元の為、マジックさんの安全を守る為に。
思いもしない遠出をする事になった、今日という日。考えさせられる経験もした、今日一日。だけど同時に、犯罪神への信仰以外は何も分からなかったマジックさんの人となりが、少しだけでも分かったような……そんな気がした、一日だった。
「さーって、それじゃあ……帰りも刺激的な空の旅を楽しんでもらうとしようかしらね」
「な……ッ!?き、貴様離せッ!我はもう二度と付き合わんと…んなぁぁぁぁ……ッ!」
「ふふっ、何か言ったかしら?行きと同じじゃ詰まらないし、帰りはもっとスリリングに……」
「……殺す…」
「ちょおッ!?ま、待ちなさいマジック!ここ空よ!?上空っていうか、下には何にもない場所よ!?こんな場所でそんな事……きゃああああぁぁぁぁッ!!?」
「えぇぇぇぇぇぇッ!?お、お姉ちゃんッ!?マジックさん!?あっ、ちょっ…わぁああああああッ!?」
因みにその後、スリリングにも程がある事態が発生したのは……内緒です…。
今回のパロディ解説
・バナナサンド
トークバラエティ番組の事。バナナと生クリームを食パンで挟んだだけでもバナナサンドな訳ですが、それだけでも結構美味しいですよね。
・「誰がアクロバット〜〜願った…ッ!」
ポケモンシリーズの一つ、劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲におけるミュウツーの代名詞の一つのパロディ。ねぷねぷ航空は、OEでも健在です。
・しまめぐり
こちらもポケモンシリーズの一つ、(ウルトラ)サン・(ウルトラ)ムーンにおける旅の目的の一つの事。マジックのしまめぐり…どうしようもない位シュールですね…。