超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第七十七話 良くも悪くも真剣に

 四ヶ国における女神という戦力の穴を作らない為に、私がリーンボックスへと行くのももう何度目か。リーンボックス教会に滞在するのも慣れたもので…何となく、私はリーンボックスと比較的親和性が高いんじゃないかー…なんて気もする。だってほら、私とベールって髪色近いし、女神化したら体型も近くなるし。

…まぁ、それはともかくとして、今回の滞在の目的は復活させられようとしている犯罪神をあるべき状態に戻す為、その時が来るまでに戦いの準備を進めつつも四天王を守る事。とはいえ今のところは何も動きがないから、これまで通りに生活するだけ。

 

「ふぅ…それじゃあ皆、お疲れ様」

 

 かなりの人が眠りから目覚めて、街に人の姿が戻ってはきたけど、まだまだどこも人手不足。だからこれまでしてきた事の傍ら、私やパーティーメンバーの皆は様々な事に関わっていた。

 

「えぇ、イリゼもお疲れ様。にしても…ほんと、凄かったわね…」

「うん…荷物の入った段ボール位の感覚で、車両を積み上げて運んじゃうなんて……」

「ふふ、ある意味見ものではあったがな」

 

 教会に到着したところで、私を見て苦笑いする人が二人に、面白そうに笑う人が一人。私自身、シュール極まりない光景になっていた自覚はあったから、頬を掻きつつ肩を竦める。

 今5pb.が言った通り、専ら私がしているのは重機みたいな事。こう表現するとパワー馬鹿みたいになっちゃうけど…女神の私が一つの事に何日も付き合っていたら贔屓みたいになっちゃうから、色々覚えなきゃいけない事には力を貸せないし、重機を動かすなんて誰でも出来る事じゃないから、その代わりどころかどの重機よりも素早く活動出来る私の行いとしては、かなりベストに近かったりする。…ほ、他の女神だって同じだからね…?

 

「…けど、皆も上手く自分の一芸を活かしてるよね。MAGES.は魔法、5pb.は歌、ケイブは……え、と…すり抜ける技術…?」

「そこに並べるのは止めて頂戴…まぁ確かに、すり抜けるのは得意ではあるけど……」

「というかケイブよ。お前には本来の役目である、特命課としての仕事があるのではないのか?」

「それなら開店休業状態よ。厳密に言えば街の見回りを兼ねているから、そういう意味じゃ休業してないけれどね」

 

 談笑を続けながら、私達は屋内へ。皆それぞれの特技やコネクションを活かして頑張っているけど、やっぱり頭一つ抜けているのは歌手である5pb.。正規のライブは勿論の事、時にはゲリラライブも行う事で多くの人達の不安を和らげてくれていて、流石はアーティストさんって感じ。…芸能は直接的に人を元気にする事が出来るし、また私達でもライブやりたいな……。

 

「…っと、そうだMAGES.。最近ヘッドフォンの調子が悪いんだけど、見てもらえる?」

「え?MAGES.、そんな事も出来るの?」

「ふっ…忘れたのかイリゼ。私は科学と魔術が交差する場所に立つ、狂気の魔術師だぞ?」

「う、うん…何か物語が始まっちゃいそうな言い方だけど、確かに言われてみればそうだったね」

「えっ…狂気の魔術師が、言われてみれば……?」

「あぁ違う違う!言われてみれば、って言うのは機械とかにもそれなりに精通してたんだったねって意味であって、そういう事じゃないよ!?」

 

 目を丸くする5pb.に慌てて訂正する私。それを見ていたケイブはまた苦笑いしていて、MAGES.は何やら複雑そうな顔。…ま、まぁ何やらって言うか、自分で言ってる異名が変な扱われ方したら複雑な顔になるのも無理はないけど…。

 まぁ、そんなこんなで途中まで私は皆と歩き、その後はベールと会う為に執務室へ。連絡は取ってないからいるって確証はないけど、時間的には執務室で女神の普段の仕事を片付けている筈。

 

「ベール、入るよー」

 

 執務室の前に立った私は、ノックしながら部屋の中へと声をかける。すると数秒後ベールからの返答が来て、それを受けた私は部屋の中へ。

 

「仕事の調子はどう?こっちは頼まれてた事が片付いたよ…って……」

「よぉ、お仕事お疲れさん」

「…なんでいるの…?」

 

 いるのはベール一人かなと思って入ってみたら、なんと部屋の中にはジャッジの姿が。しかもタイミングが被ったという感じはなく、どっかりとソファに座って漫画を読んでいるという、見るからにくつろいでいる状態。

 

「ほら、イリゼもこう言っているでしょう?」

「んだよ、冷てぇなぁ…俺とお前等の仲だろ?」

「いや、少なくとも執務室で勝手にくつろがれるような間柄ではありませんのですけど……」

 

 肩を竦めてとぼけた顔をするジャッジに、ベールは半眼で突っ込みを入れる。その様子からして、結構長い事居座られてるらしい。

 

「へいへい…しゃあねぇ、ちょっくらイリゼと飯にでも……」

「え、一人で食事するという発想は…?いや勿論、外出って言うなら一人で行かれちゃ困るけど……」

「はぁ、イリゼもかよ…。こちとら前ん時は墓守として来る日も来る日も喋り相手すらいない生活をしてたんだぜ?ちょっと位良いじゃねぇかよぉ」

 

 さらりと私を付き合わせようとするジャッジに疑問系でやんわり拒否を示すと、ジャッジは不満たらたらで口を尖らせる。

 気持ちは分かる。あんな場所で話し相手すらいないなんて気が滅入るに決まってるし、守護女神の四人はとても話せるような状態じゃなかったんだから。で、今はある程度自由に動けるってなったら、そりゃ割り当てられた部屋で一人静かに…なんて気分にはならないよね。…でもその言い方は、大人ではなく駄々をこねる子供のそれで……野武士や浪人然とした見た目と態度がミスマッチ過ぎる…。

 

「それにしたって、執務室でくつろがれるのは困りますわ。気が散りますもの」

「俺は代わりにイリゼと……っと、悪ぃ。やっぱいいわ」

『え?』

「ちょいと野暮用だ。その後は…ま、シャワーでも浴びさせてもらうとすっかな。何なら一緒に来てもいいぜ?」

「えぇ、良いですわよ。シャワー室に入るまでなら」

「私も良いよ。浴びるなら別のシャワー室なりお風呂なり使うけどね」

「つれねぇ女神様方だなぁ。ま、そう言うと思ってたけどよ」

 

 色んな意味で遠慮のないジャッジだから、自然と私達の返しもこんな感じに。今言った通りジャッジも冷たく返される事は分かっていたようで、特に気にする素振りも見せずに部屋を出ていく。…あ、ジャッジ漫画置いてってる…これはベールのかな……?

 

「…ふぅ…これで漸く気が散る事なく仕事が出来る…と、言いたいところですけど……」

「…ですけど?」

「…急に野暮用なんて、気になりますわね…召喚実験の手伝いかしら……」

「いや、『おっと仕事の時間だ』とは言ってないでしょ……」

 

 と、突っ込みはしたものの、実は私もその「野暮用」が何なのか気になってたり。そう言う直前時計を見ていた気がするから、本当に何かしらの用事があったんだとは思うけと、それが何なのかは想像も付かない。

 出て行ってから十数秒後。何も言わず、顔を見合わせる私とベール。そして……

 

「…追ってみる…?」

「…ですわね……」

 

 付き合うのを拒否っていたさっきまでの自分はどこへやら。抱いた興味に唆されて、私達はジャッジの尾行を開始した。

 

「……?…外に出るつもりかしら…」

「まさかジャッジ、勝手にどこか行こうとしてるの…?」

 

 気配を消し、ジャッジが角を曲がるまでは一つ前の角に身を隠して尾行する私達二人。まだ確証はないけど、勝手に外出するつもりなら止めなきゃいけない。

 そう思いながら静かにジャッジを追っていると、ジャッジは教会の裏口付近へ。そのまま進路を変える事もなく、ジャッジは扉を開いて教会の外へ。

 

(ちょっ…ジャッジ、もしや本当に……って、あれ…?)

 

 外れてほしい予想が当たり、心の中に広がっていく不信感。でも次の瞬間…私もベールも気付いた。ジャッジの向かう先、裏手側の敷地の外で、一人の少年がジャッジへ視線を送っている事に。

 

「…ベール、あの子誰だか知ってる…?」

「いえ、知りませんわ…」

 

 途端によく分からなくなっていく中、ジャッジはその子に声をかける。どうもこの二人には面識があるらしく、少年は敷地の中に入ってきて、二人は数歩分の距離を開けた状態で向かい合い……少年がジャッジに、殴りかかる。

 

((……って、えぇぇぇぇッ!?))

 

 全く予想していなかった展開に、少しだけ開けたままにした扉の影で目を剥く私とベール。殴りかかった少年はジャッジに軽くいなされ、二度目の攻撃は真正面から返り討ち。けどジャッジは反撃したというより軽く倒した程度のようで、少年はすぐに立ち上がって三度目の攻撃へ。

 突っ込んでいっては躱され、仕掛けては倒される、誰が見ても力の差は歴然の戦い。…いや、これは戦いですらない。ジャッジ側が仕掛けてないから一応戦いの形をしているだけで、ジャッジがその気になればこんな勝負一瞬で終わる。…でも、これって……

 

「…イリゼ、これはもしや……」

「うん…稽古か何か、だよね…」

 

 そう。戦いとしては色々おかしいけれど、これが稽古なら、ジャッジがあの少年へ訓練を付けてあげてるのなら、合点がいく。稽古にしたって私からしたら荒っぽく見えるけど、それは人それぞれだし。

 

「断定は出来ないけど…稽古なら、意外だよね…よりにもよってあのジャッジが、って感じで……」

「人を育てる事なんて興味無さそうですものね…。…けれど、しかし……」

「……ベール?」

「……ジャッジ×少年…」

「ぶ……ッ!?」

 

 意外過ぎて見続ける事十数分。途中ベールがとんでもない事を言い出したものだから危うく変な声を出しそうになった私だけど、その時は何とか耐えてセーフ。

 ここから見る限り、稽古はまだ続く様子。その後ベールは仕事の存在を思い出し、私も何か飲み物を持っていってあげようかなと思い、私達はそこで解散。私が冷茶とお茶菓子を持って戻ってくると、丁度その時休憩時間に入っていたのか、芝の上で横になる少年と軽く肩を回しているジャッジの姿がそこにあって、私は二人に声をかける。

 

「お疲れ様、お二人さん」

「え?…あ、お、お邪魔してます!」

「うん。でも、裏手に勝手に入るのは感心しないよ?一般の人が入る時は正面玄関口から…って事は、君も分かってるよね?」

「まぁまぁ固い事言うなって。近くにいる警備にゃ最初ん時に話を付けてあるし、そもそもこいつに悪事をするような度胸はねぇよ」

 

 二人へ持ってきた物を渡すと、ジャッジは普通に、少年は跳ね起きてそれぞれ受け取る。…まぁ、確かにさっきまでの動きからして、かなり真っ直ぐなタイプには見えるけども……。

 

「うぅ、酷いっすよ師匠……」

「なら出来んのか?ってか、師匠呼びは止めろっての。俺はそんな大層なもんじゃねぇよ」

「…えぇと、二人はどういう経緯で知り合いに?」

「んぁ?あー…ここに来た翌日にこの裏手で身体動かしてたら、こいつが凄ぇ見てたもんでな。何だと思って話しかけたら、稽古を付けてくれって言われた訳よ。んで、そん時は暇潰し位にゃなるかと思って付き合ったんだが…こいつ、引く程しつけぇんだよなぁ……」

 

 そう言いながら、ジャッジは面倒臭そうに頭を掻く。ぱっと見彼は普通の男の子っぽいけど……戦闘、それも強者との戦いを至上とするジャッジが、それとは対極にある一般の人への稽古へわざわざ時間を見てまで行く辺り、相当しつこくせがんだんじゃないかと思う。

 

(…でも、この子も別に弱い…って訳じゃなさそうだよね。もうかなり息も整ってきてるし)

 

 相手がジャッジなせいで全く歯が立ってなかった彼だけど、その動きには何らかの格闘技術が見られた。だからもしかしたら、将来の可能性を感じてジャッジは稽古を付けてるのかもしれない。…なんて、ね。

 

「…あ、そうだ。考えてみりゃ、俺より絶対お前の方が指導にゃ向いてるよな?だったら折角の機会だ、俺の代わりに……」

「…指導しろって?」

「…や、待て。やっぱそれは無しだ。それより…強者の戦いを見る事も、良い勉強になるよなぁ?」

「なるよなぁ?…って、ジャッジ貴方……」

「お前だって見てみたいだろ?」

「は、はい!ジャッジさんと女神様の勝負…見てみたいです…!」

「うっ……」

 

 良い事を思い付いたとばかりに笑みを浮かべるジャッジ。そのあからさまに私欲が混じった提案に呆れる私だけど、ジャッジの隣から輝きに満ちた視線を向けられ、何とも断り辛い心境に。…あぁ、そっか…こんな感じでしつこくせがまれたら、そりゃ断るに断れないよね…。

 

「…はぁ…まあでもそういう事なら、今日も楽しませてよ?」

「そうこなくっちゃな!んじゃ、早速おっぱじめようぜッ!」

「はいはい。…君、危ないから離れて見てね」

 

 とはいえ、ジャッジとの戦いはいつも心が躍る。きっと何度やったって飽きない程の魅力が、ジャッジとの戦いにはある。だから私は意識を切り替え、彼に離れるように言って……男の子に見せてあげるという名目で、存分にジャッジとやり合うのだった。

 

 

 

 

 文化や芸術には興味のない、極論戦う相手さえいれば後はどれだけお粗末でも構わないと言いそうな男。それがジャッジ。

 けれども、ずっと教会の敷地内では息も詰まってしまう筈。そして訳ありとはいえ、リーンボックスの教会に滞在している方へは気を配るのも女神の務め。という訳で、一度外に連れ出す事にしたのが今日…という訳ですわ。

 

「おいおい待てよベール。これ明らかに、荷物持ちとして俺を呼んだだけだろうが…」

「うふふ、そんな事はなくてよ?」

「白々しいってーの…」

 

 複数の荷物を手に、ぶつぶつとぼやく声。今わたくし達は、リーンボックスの街中を歩く真っ最中。

 

「はぁ、これなら昼寝でもしてた方が良かったぜ…」

「そうは言ってもジャッジこそ、食べ歩きしたり、バッティングセンターで打ちまくったりして楽しんでるよね?」

「それはそれ、これはこれだ。つかもう前者は荷物のせいで持つに持てねぇし」

 

 流石のジャッジもそこまで単純ではなかったようで、イリゼの指摘にも不満を込めた声で返す。…しかしまぁ、戦闘が絡まないと案外ジャッジは常識的ですわね。あくまで比較的、ですけども。

 

「…てか、何でわざわざ自分で来るんだよ。お前等は女神なんだから、買い物なんて誰かに指示すればいいだけだろ?」

「買い物は自分で行くから楽しいんですのよ?…それに、今のリーンボックスの街の空気や人々の表情は、こうして自分の目で見なくては分かりませんもの」

「リーンボックスの人達からしても、女神の姿が見える事は安心に繋がるからね。まぁ、今はこっちの姿だから気付かなかったり、似てるだけの人だって思う場合も多いと思うけど」

「そうかい、女神様は真面目だねぇ…」

 

 わたくしとイリゼからの返答に、ジャッジは興味なさげ。実際質問からして本気で訊いてるというより文句混じりに訊いただけって感じでしたし、真面目以上の感想は本当に抱いていなさそうですわね…。

 

「真面目不真面目じゃなくて、気持ちの問題なんだけどね」

「にも関わらず、俺には悪びれる様子もなく荷物持ちをさせる訳か…ちぇー、両手に花かと思いきや、まさか両手に大荷物になっちまうとは……」

「あら、両手に花である事は変わりないでしょう?それも、名花中の名花二輪でしてよ?」

「…というかジャッジ、復活してからそういう事言い過ぎじゃない…?そういう事も言うタイプだっけ…?」

「あ?そらまぁイリゼもベールも抜群に良い女だからな。嫌がる奴にんな事言う趣味はねぇが、お前等そんな嫌がってもいないしよ」

 

 あっけらかんというジャッジに、顔を見合わせるわたくし達二人。…まぁ、ジャッジも中々魅力的な殿方だとは思いますし、イリゼも同じように思ってるのでしょうから、そういう意味では確かにわたくし達は「嫌がっていない」訳ですけど…こう、ゲームで言うならジャッジはそもそも攻略対象外の異性枠的な感じなんですのよね。女神化状態で100時間耐久全力勝負とかしたら、気の迷いが生じるかもですが、何よりわたくしにはあいちゃんがいる訳ですし。

 

「…下心しかないのに、ここまで不快感無いのは逆に凄いよね……」

「さっぱりしているが故に、ですわね…」

「はは…まぁ、それは一旦置いておくとして……文句言いつつも全部持ってここまで付いてきてくれてる訳だし、何かしらお礼はしないとじゃない?食べ歩きのお金とかとは別として、さ」

「ふふっ、そう思って予めレストランを予約しておきましたわ」

「マジか!人使いの荒いお嬢様方だとか思ってたが、やっぱ女神は気遣いも違うな!」

『そんな事思って(ましたのね・たんだ)……』

 

 良くも悪くも正直と言うか、裏表がないと言うか。けれどそれこそジャッジらしい…と思うわたくしもいて、だからわたくしもイリゼも苦笑い。

 

「んじゃもう一踏ん張り……っと、その前に少し待っててもらえるか?荷物はこのベンチに置いとくからよ」

「どこに行く気ですの?」

「小便だよ」

『…………』

 

 好印象…という訳ではないものの、その態度には清々しさがあり、品は無くともイリゼの言う通り不快感は抱かない。

…と、思っていたところで面と向かって発された下品な表現。…いや、まぁ…一般の感覚で言えば批難されるような言葉ではないのかもしれませんわよ?けれどそれを真顔で、面と向かって言われれば淑女たるわたくしもイリゼも一瞬固まってしまう訳で……

 

「流石にそこまでは付いてくるつもりもねぇだろ?…ま、来たけりゃ来てもいいけどなー」

「い、行かないよ!?もうッ!」

「そういう発言はもう少しぼかして下さいましっ!」

 

 四天王の一角、ジャッジは全くもって油断のならない存在だ。…それを、まさかの形で改めて認識させられるわたくし達だった。…うぅ、こんな反応を返してしまったのも何か恥ずかしいですわ……。

 

 

 

 

 イリゼ及びベールから離れて十分弱。見つけた公園のお手洗いから出てきたジャッジは、軽く首を回しながら来た道を戻る。

 

「ふぃー…さーって、ここは曲がるんだったかな…」

 

 お手洗いに至るまでの道順を思い出しながら歩くジャッジ。大通りから離れている為周囲に人の姿は少なく、もう夜という事もあって薄暗い。

 

「…うん?こっちだったか?確か途中で、大きい看板があった筈……ん?」

 

 きちんと道筋を覚えておこうとしなかった為に、多少戻るのに手間取るジャッジ。そんな最中、彼の視界の端にあるものが映る。

 それは、人影。見覚えのある、例の少年の姿。わざわざ話しかける程の相手でもないなと思ったジャッジはすぐに無視しようとしたが、その数秒後思い留まる。

 

(…あいつ、裏路地に入っていったな…この時間帯に、裏路地ねぇ……)

 

 生前はどちらかといえば真っ当ではない、所謂不良的な人生を歩んできたジャッジならではの勘が何かを感じ取り、顎を触りながらそちらの方へと歩み寄るジャッジ。その流れのまま裏路地へと目をやると、そこにいたのは先の少年を含む四人の男。

 

「…で、何してんだよお前は。最近付き合い悪ぃだろ?」

「別に…俺が何してたっていいだろ…」

 

 正対する少年と彼より少し年齢の高そうな青年一人に、その男の左右に並び立つ同年代そうな青年が二人。一目で間柄が分かる構図で彼等は立っており、裏路地の奥で会話を交わす。

 

「おいおいそれはないだろ。俺はお前が強くなりたいってしつこくせがんでくるから目をかけてやってたんだぜ?だったら隠し事なんてなぁ?」

「……それは感謝してる。けど、俺はお前なんかよりもずっと強い人を見つけたんだ」

「俺より強い奴?…つまり、今はそいつの所に行ってるってか?」

「そうだよ、だから俺はもうお前等とは……」

「待てよ。それは虫が良過ぎるんじゃねぇか?リーダーはわざわざ頼みを聞いてやってたのに、お前の気分一つではいお終いなんて、リーダーが良くても俺等が黙っちゃいねぇぞ?」

 

 そう言って指を鳴らす右隣の青年。左の青年も手首を軽く揺らしており、その言動が意味しているのは…言うまでもない。

 

「まあまあ落ち着けって。お前等がそう言ってくれるのは嬉しいが、まずはもっと穏便な話の付け方を模索しようぜ?例えば…そう、お前がこれまでの授業料を払ってくれるなら、それでさっぱりお終いにしてやるよ。あくまでビジネスの関係だったって事でな」

「なっ…お前等、これまで色々パシらせてきたじゃないか…!それなのに授業料なんて、そんなの二重払い……」

「あぁ?だったらどうなるか、分かってるんだよなぁ?」

「……っ…」

 

 ギロリと睨め付けるリーダー格の青年に対し、少年は一歩後退りかける…が、踏み留まって睨み返す。すると青年は少しばかり驚いたような表情になり、それから口元に笑みを浮かべる。

 

「はっ、一丁前の面するじゃねぇか。だったら来いよ。一対一で勝負してやる」

「…一対一で……?」

「そうだ。ルールは…そうさな、ぶっ倒れて十秒以内に立てなかったらそれで負けだ。分かり易くていいだろ?」

「…いいよ、やってやる…でも、そういう事なら……」

「おう、こっちから言い出した勝負なんだ。お前が勝ったら素直に従うさ。まぁ勿論…お前が勝てたらだけどなッ!」

 

 語気を強めると同時に、右の拳でリーダー格の青年が殴りかかる。合図も無しの始まりに少年は目を剥くも、ギリギリのところで拳を回避。続けざまに放たれる膝蹴りも交差させた腕で防御し、反撃の拳を青年へと突き出す。

 それを振るった腕で打ち払い、次々と青年は少年へと殴打。少年が師事しようと思っただけはあるのか、青年の動きは中々素早く、攻撃一つ一つも重い。初めこそ両者は互角の攻防を繰り広げていたが、防御により腕へ走るダメージは少年の方が大きいのか、次第に少年は劣勢に。

 だが、青年は容赦ない。煽り、攻め立て、攻撃を重ね…遂に少年の頬へと、青年からの拳が入る。

 

「あぐッ……!」

「まず一発っと。まさか、まだ終わりじゃないよな?」

「…当たり…前だ……ッ!」

 

 ふらつき後退した少年だったが、歯を食い縛って青年に突撃。そこから数度打ち合うも、先の一発が響いているのかすぐに二発目も喰らってしまう。

 三発目、四発目と打撃が入り、倒れ込んでしまう少年。しかし咳き込みながらも立ち上がり、再び攻撃。しかしその動きは精彩に欠け、気付けば彼は防戦一方。そして雄叫びを上げながらの大振りな一撃を放とうとした瞬間、青年の爪先が少年の腹へと突き刺さる。

 

「がッ、ぁ……ッ!」

「ふぅ…確かにちったぁやるようになったみたいだが、お前は所詮この程度なんだよ」

 

 膝を突き倒れた少年の背を見下ろし、青年は嘲笑う。取り巻きの二人も、嘲笑の意図を込めた応援を上げる。

 余程深く入ったのか、少年はもがきはすれど立ち上がれない。息が荒く、手足も震え、その身体に力が入っていない。そうして無情にも時は時間を進め……提示された十秒という時間が、過ぎてしまう。

 

「…く、そッ…折角、稽古…付けて、くれたのに……ッ!」

 

 あっという間…ではないものの、まともに一発当てる事も出来ずに負けてしまった少年は、悔しげな声で路面を叩く。何とか身体を路面から浮かす事は出来るようになったが、胸中の悔しさは微塵も消えない。

 だが、勝負は勝負。ルールを受け入れてしまった以上、一対一で負けた以上、もう何も言う事は出来ない。…そう、思っていた時だった。

 

「くくっ…おらよッ!」

「……ッ!?ぐ、ぁ……ッ!」

 

 どすり、と横腹に食い込む青年の爪先。思いもしなかった激痛に少年が呻く中、青年は彼の髪を掴んで立ち上がらせる。

 

「…な、んで……」

「なんで?うーん?なぁおい、まだ十秒経ってないよなぁ?」

「ああ。まだ七秒位だろ」

「そんな…明らかにもう、十秒経って……ぁぐ…ッ!」

「いやいや経ってねぇって、だからまだ終わってねぇんだよッ!」

 

 下衆に笑う青年達の声と、無防備な少年の身体へと慈悲なく上がり込まれる殴打の連続。一方的に殴られる中、少年は嵌められた事を理解するも…もう遅い。

 壁に打ち付けられ、その場で数発殴られ、休む間もなく反対側へ振られる。それと取り巻きの二人が受け止めたが当然助けるつもりなどなく、二人で少年を取り押さえる。

 無防備を超え、突き出される形となった顔と胴体。その彼へにやつきながらゆっくりと近付く、リーダー格の青年。

 

「畜、生…離せ、一対一も…守らないのかよ……ッ!」

「えー?俺達はお前が逃げないようにしてるだけだよな?」

「そうそう、一対一で逃げるなんてなぁ?」

「…だとよ。そんじゃ、そろそろ終わりとっすかぁ……」

 

 左右の指を交互に鳴らし、青年は少年の眼前へ。掴まれている為、逃げるどころか動く事すら出来ない少年。畜生、畜生と何度も彼は心の中で叫ぶも、最早取れる手などない。

 それが分かっているからこそ、圧倒的な優越感と共に青年はゆっくりと近付いた。そして彼からすれば生意気な少年に立場を心から理解させるべく、腹を目掛けて振り被り……されど次の瞬間、彼は真横に吹き飛ばされる。

 

「……ッ!?」

「リーダーッ!?」

「な……ッ!?だ…誰だテメェッ!」

 

 目を見開き路面を転がる青年と、現れた何者かに唖然としながらも吠える取り巻きの二人。対してリーダー格の青年を蹴り飛ばし、取り巻きへも冷ややかな眼差しを向ける男は……言う。

 

「あぁ?俺は通りすがりのアウトローだ。テメェ等如きに教えてやる名前はねぇよ」

「はぁぁ!?くっ、テメェ不意打ちしやがって卑怯な……ごはッ!?」

「卑怯ぉ?そりゃ悪かったなぁ!」

 

 振るわれた腕が少年を離した二人へと襲いかかり、その二人も青年と同じ方向へ転がす。彼の存在に少年も目を見開いていたが、少年へは何も言わず、彼は立ち上がろうとする三人の方へ。

 

「く、そッ…通りすがりが何のつもりだよ…!ヒーローか何かのつもりか…!」

「ヒーロー?はっ、そんな大層なもんじゃねぇよ。ただ単に、俺はテメェ等が心底気に食わないってだけだ」

「気に食わない…?」

「…テメェ、言ったよな?一対一で勝負だって。勝負な以上、勝った奴は負けた奴を足蹴に出来るし、負けた奴が何を言おうとそりゃ負け犬の遠吠えだ。そんなの弱ぇ奴が悪いんだからな」

「だったら……」

「…だが、テメェ等は勝負を反故にした。決まった勝負をテメェ等の下らねぇ物言いで無かったものにして、勝負のルールすら蔑ろにした。これが殺し合いだってなら、戦争だってなら、それでも良いさ。生きる為に必要ならな。けどこれはそうじゃねぇ。テメェ等同士で交わした勝負だ。それそのものに意味のある戦いだ。…だから不愉快なんだよ…勝負に、戦いに、勝者と敗者っつー存在にすら泥を付ける、テメェ等がなぁッ!」

 

 その瞳に怒りを滾らせ、吠える男。彼の迫力と威圧感に青年達はびくりと肩を震わせ…更に男は、言葉を続ける。

 

「…来いよ、餓鬼共。一対一なんて言わず、三人同時に相手してやるからよぉッ!」

 

 そうして始まる二つ目の勝負。逃げる気などない青年達は襲いかかるが……その実力差は絶望的。先の勝負が接戦に見える程に一方的な攻撃が行われ……たった数分も持たずに、三人は路面に倒れ伏す。そして、立っていたのはただ一人…先の青年の如く彼等を見下ろすジャッジ一人だった。

 

「残念だったな。今の俺にこのざまじゃ、井の中の蛙以外の何もんでもねぇよ」

 

 冷淡に彼等へと吐き捨てたジャッジは、既に興味を失った様子で背を向ける。反転した彼の前に立っているのは…ジャッジの戦いぶりを、一人静かに見ていた少年。

 

「あ、あの…ジャッジ、さん……」

「ったく…お前、碌でもねぇ奴と付き合ってたんだな。…いや、俺も相当碌でもねぇ奴だし、そういう意味じゃ俺のところにも来るべくして来た感あるけどよ…」

 

 人の事は言えないと気付いたジャッジは自嘲気味に表情を歪め、視線で行くぞ、と彼に指示。それに少年が頷き、彼も歩き出そうとした……その時だった。

 

「…待、てよ……」

 

 背後からかけられる、苦しげな声。予想外の声にジャッジが振り向くと、そこにいるのはリーダー格の青年。痛む身体を抑えながらも、敵意の消えていない目でジャッジを睨む彼の姿。

 

「まだ…終わって、ねぇよ……」

「止めとけ。テメェじゃ俺にゃ勝てねぇよ」

「知るかよ、そんなもん…こちとら、ここ等の頭張ってんだ…やられたままじゃ、あいつ等に会わせる顔がねぇんだよ…ッ!」

 

 その身体に、まともな力は入ってない。それでも立ち、食い下がる彼の言葉に、少しばかり目を見開くジャッジ。…更に、その彼へと呼応するように、取り巻きの二人も立ち上がる。

 

「…リーダーに、そんな事言われちゃ…俺等も、おねんねなんてしてられないな……」

「俺等だって、リーダーを馬鹿にされたら黙ってられねぇんだよ…!」

「…お前等……」

「…へっ、何だよただのチンピラかと思ったら…中々根性あるじゃねぇか。でもそれだって、所詮は負け犬の遠吠えだぜ?逃げるってつもりはねぇのか?」

『…………』

「…はんっ、それなら……」

 

 何も言わず、ただ睨み返す三人の青年。そのさまを、彼等なりの気概を見たジャッジは口元に小さな笑みを浮かべ……

 

「……嫌いじゃねぇぜ?そういうのは、な」

 

 一瞬の肉薄からの、打撃三発。腹部へと放たれたその攻撃により三人を沈め……今度こそ、その戦いは終了した。

 

「…凄ぇ…ジャッジさん、やっぱ…やっぱ俺……」

 

 段違いの強さに舌を巻いていた少年は、興奮した面持ちで彼への言葉を続けようとする。

 だが、それを手で制するジャッジ。止められた事に彼が目を瞬く中、ジャッジは暫し黙り込み…それから言う。

 

「…やっぱ、お前は俺のところに来るべきじゃねぇよ。お前に稽古は、もう付けねぇ」

「え……?な、なんで…ですか…?」

「前にも言ったろ?暇潰しで付き合ってやっただけだって。そんだけじゃ分からねぇか?」

「……っ…俺が…俺が、弱いからですか…?だったら、だったら俺は…ッ!」

「…違ぇよ。そういう事じゃねぇ」

 

 突然の言葉に少年は狼狽え、その理由を自分のせいかとジャッジに訊く。しかしそれをジャッジは否定。そうじゃないと首を横へ振り、彼の瞳を真っ直ぐに見やる。

 

「…一つ訊かせろ。お前は、どうなりたいんだ?」

「俺、ですか…?…俺は、強くなりたいです…もっともっと、強い男に……」

「やっぱりか。ほんと単純だなぁ、お前は…。…そういう事なら、やっぱり俺に付いてくるのは違ぇよ。何せ俺は戦いが好きで、戦いたくて、その結果強くなっただけだからな」

 

 ジャッジは気付いていた。彼は単純な上、まだ無知なのだと。故に分かり易い『強さ』を追って、彼等と関係を持ってもいたのだと。そしてそれを確信した彼は、言葉を続ける。

 

「けど、お前は違うだろ?何も、強さってのは腕っ節だけに使う言葉じゃねぇよ。財力だの知力だの、或いは心の強さだの。どれも強さで、どれも大したもんで、そこに順位なんざねぇ。…だからよ、お前はもっと学べ。もっと色んな事を知って、自分が本当に欲しい強さはなんなのか考えろ」

「…本当に、欲しい強さ…?」

「そうだ、そっちの方がずっとお前の為になる。何となくで強くなるより、よっぽどお前は強くなれる。だから、欲しい強さが腕っ節とはまるで違ったってなった時は、俺の事なんざ忘れちまえ。俺だってそれで構わねぇ。…けどもし、学んで考えて、その上でやっぱり戦いの強さが欲しいって思った時は、技術も経験も磨いて磨いて……今度は俺が戦いてぇって思う程の奴になって、もう一度俺の前に立ってみろよ」

「……ッ!…ジャッジ、さん……」

「それがいつになるかは分からねぇし、来ねぇかもしれねぇが……可能性があるんだったら、俺はその時を楽しみにしてるぜ、坊主」

「…はい…はいッ!ジャッジさん、俺…俺がどうなりたいのか、学びます!考えます!だから…今まで、ありがとうございました!」

 

 こつん、と軽く少年の胸元へと当てられたジャッジの拳。それはまるで、今の…そして未来の彼へ向けた応援のようで、その拳と言葉に少年は頷いた。頷き、背を向け、走り去った。ジャッジの言葉によって開けた、新たな道を歩み出すように。

 それを見送ったジャッジは、柄でもねぇ事しちまったな…とまた笑う。笑い、彼もまた裏路地を後に。

 

「…中々格好良いではありませんの、ジャッジ」

「ベール…なんだ、いたのかよ……」

「貴方がいつまでも戻ってこないから、探しにきたんですわ。イリゼも荷物を見ながら待ってますのよ?」

「そりゃ悪ぃ事しちまったな…」

 

 裏路地から出た時、彼に声をかけてきたのは壁を背にしていたベール。そう言えばそうだった…とジャッジが思い出したような表情をすると、ベールは嘆息。

 

「…てか、見てたんならよく止めなかったな。あいつらもリーンボックスの国民だろ?」

「えぇ、そうですわよ。勿論手当ての手配はしてありますし。けれど…こういう場で女性に割って入られるのは、殿方としては嫌でしょう?」

「…へっ、確かにな。……ありがとよ、あいつ等にも気を回してくれて」

「お気になさらず。それこそ、彼等もあの少年も…わたくしの、リーンボックスの、国民ですから」

 

 ふっと笑うベールを見て、全く大したもんだ…とジャッジは内心で感嘆。同時にジャッジは理解を深める。あぁ、これが女神なんだな、と。

 そうしてベールはイリゼと合流すべく、夜の街を歩いていく。ジャッジはひょんな事から出来た、極僅かな間の弟子の未来へと思いを馳せながら。ベールはやはりジャッジはジャッジなのだなと、どこか気分の良い思いを抱きながら。

 

 

 

 

 

 

「…あ、因みにもう予約の時間が迫ってますから、荷物を回収次第走って下さいな。勿論、中身がぐちゃぐちゃにならないよう細心の注意を払って、ですわよ?」

「うっ…きっびしいなぁ、おい……」




今回のパロディ解説

・「〜〜科学と魔術が交差する〜〜」「〜〜何か物語が始まっちゃいそう〜〜」
とある魔術の禁書目録(インデックス)のアニメ版における、次回予告のパロディ。あ、でも一度超電磁砲(レールガン)の方でも次回予告で言っていましたね。

・「〜〜召喚実験の手伝い〜〜」、おっと時間だ
ヴァンガードシリーズの登場キャラの一人、新導ライブの及び彼の台詞の事。ジャッジは…ノヴァグラップラー感もありますが、スパイクブラザーズ感もありますね。

・「〜〜通りすがりのアウトロー〜〜」
仮面ライダーディケイドの主人公、門矢士の代名詞的な台詞の一つのパロディ。仮面ライダーはむしろ、ブレイブの担当な気もしますね。何せヒーローですから。
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