超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
アタシもお姉ちゃんも、厄介事は早めに片付けておきたいタイプ。片付けておきたいっていうか、厄介事があるとどうしてもそれが気になって、休むに休めない性分。昏睡から覚める人も増えてきて、積極的に動く事で片付けられるものはある程度済んでしまったからこそ、今のただ時を待つっていう日々には居心地の悪さがある。お姉ちゃんと違って経験が浅い分、それに対する割り切りもまだイマイチ出来ていない。
だけど逆に言えば、今は急いで何かをしなきゃいけない…って状況でもないって事。ちゃんと休めて、社会も完全じゃないけど動きを取り戻しつつあるって事。それはありがたい事で、安心出来る事で……だからこそ、複雑なのよね…。
「…うん。これなら、最低限組織として動く事は出来そうね」
今アタシが目を通しているのは、軍から送られてきたデータ。当然だけど軍人やその関係者だって例外なく昏睡に落ちていた訳で、軍は組織で動く以上、二割目を覚ましたのなら二割分、四割だったら四割分の活動が出来る…なんて事はない。具体的に言うなら、仮にMGのパイロットが目を覚ましたとしても、整備士がいなければ長期の運用は出来ないし、戦闘艦の運用が出来る人員がいなければ活動範囲も狭まってしまう。つまり、単純な人数じゃどれだけ軍として機能しているのか分からないから…定期的に戦力の概算を、軍には送るよう指示してある。で、今見ているデータがそれ。
「後は、これとこれを纏めて、っと…。…よし」
軍だけじゃなくて、アタシ達には逐一頭に入れておかなきゃいけない情報が色々とある。でもアタシとお姉ちゃんで同じ情報を見るんじゃ時間が勿体無いから、基本的にはまずアタシが見て、そこから優先順位を付けて纏め直したものをお姉ちゃんに渡すって事に決めていて……それを纏めたアタシは、立ち上がってお姉ちゃんの執務室へ。
別にこれは、データを渡す為に行く訳じゃない。だってデータなら、お姉ちゃんの仕事用端末に転送すれば良いだけだし。そうじゃなくて、アタシが行くのはお姉ちゃんに呼ばれてるから。
「お姉ちゃん、入っても良い?」
「えぇ、入って」
お姉ちゃんの執務室へと直行したアタシは、ノックをしてから部屋の中に。
「情報、纏めてくれて助かるわ。これなら最低限組織として動けそうね」
(わっ、アタシと同じ事言ってる…嬉しいような、ちょっと照れ臭いような……)
「…ユニ?え、もしかして私、情報読み違えてた…?」
「あ…ううん、そうじゃないの。何でもないから気にしないで」
驚きでアタシが目を丸くしていたら、それで勘違いさせちゃったみたいで少し動揺するお姉ちゃん。同じ事言ってたのは…言わないでおこうかな。お互い何か気恥ずかしくなりそうだし…。
「それで、アタシを呼んだのはどうして?何か用事?」
「察しが良いわね…って、呼んだんだからそれ位想像するのは当然か…。…ユニが思った通り、ちょっと頼み事があって呼んだのよ。今日は少し、ブレイブの外出に付き合ってあげてほしくてね」
「ブレイブの…?」
そう言いながらお姉ちゃんは立ちっ放しのアタシに気を遣ってくれたのか部屋中央のソファに移動し、アタシも反対側のソファへ。
お姉ちゃん曰く、ブレイブは一度ゆっくりと今の信次元を見たいんだとか。確かに前に復活した時は見た目が見た目だから街を見て回るなんて事は出来なかっただろうし、ブレイブの性格的に見て回りたいって言うのも頷ける。
「私達の迷惑にはなりたくないから、時間のある時でいいって言ってたんだけど…いつ事態が動くか分からないし、私としてもブレイブには見せたいのよ。今の、私達のラステイションを」
「そっか…うん、アタシも同感だよ。でも、それだけなら別に呼ばなくても、さっきアタシの執務室に来てくれた時に言ってくれれば良かったんじゃ……」
「そうは言っても、あの段階で言ったらユニは時間を作る為に急いで仕事をしようとするでしょ?それじゃ迷惑にはなりたくない、っていうブレイブの意思に添えないから、ひと段落したら来るよう言ったのよ」
「お姉ちゃん…」
自国への誇りと、さり気ない気遣い。それを何でもない事のように話すお姉ちゃんはやっぱり格好良くて、そういう姿も憧れちゃう。
今言われた頼み事への答えは、勿論YES。返答を受けたお姉ちゃんは窓を開いて外にいるブレイブ(ランニング中)へと声をかけて、数分後にはブレイブも中へ。
「って訳で、ユニが行ってくれる事になったわ」
「あぁ、感謝するぞユニ。これで現代において何が流行っているのか、何が子供を喜ばせているのかを知る事が出来る…!」
「ほんと、子供の事に関しては余念無いわね。…でも、先にシャワー浴びてきてよ?汗かいた格好のまま隣を歩かれるのは勘弁だから」
「分かっているさ。俺とて長い事社会生活をしてきた人間だからな」
ばっちり走っていたブレイブは額に汗が光っていて、まぁそれはそれで「良い汗かいてる」感はあるんだけど、街を一緒に歩く相手としてはNG。ブレイブもそれは理解してくれていたみたいで、肩を竦めて扉の方へ。
「…そうだ、ノワール。お前は来ないのか?」
「私はまだ仕事があるからね。どこも人手不足な以上、職務関係なしにやれる人がやれる事をした方が良いもの」
「流石はブラックハートだな。…しかし、そうか……」
「…何か不都合でも?」
ドアノブに手をかけたところで、ふと振り返るブレイブ。投げ掛けた問いにお姉ちゃんが答えると、ブレイブは少し残念そうな顔に。それを見て今度はお姉ちゃんが訊き返すと、ブレイブは言う。
「いや、何…ユニもだが、ノワールもかなり仕事に根を詰めているように見えたからな。これを理由に、二人が気分転換に出掛ける機会を作ろうとも思っていたのだが……」
「え……?」
「…ブレイブアンタ、それは言ったら……」
「…しまった。今のは聞かなかった事にしてくれ」
『いやそれは無理だから……』
意外な理由にお姉ちゃんは目を丸くし、続けてアタシもお姉ちゃんもブレイブのうっかりさにがくりと肩を落とす。…そんな事思ってたのね、ブレイブ……。
「むぅ…どうしたものか……」
「あー…うん、気遣いありがと。でも、程々にしてるし大丈夫よ。だから気にせず行ってらっしゃい」
「そう言うなら、無理には誘わないが…自分が楽しくなければ、真に相手を楽しませる事など出来ん。それはショーであろうとゲームであろうと、政治であろうと同じだろう?」
「…そうね。忠言、感謝するわ」
お姉ちゃんのお礼にブレイブは大きく頷いて、それから今度こそシャワーへと向かう。そうしてまた、執務室はアタシとお姉ちゃんの二人だけに。
「……良い男よね、ブレイブって」
「へ…?…お、お姉ちゃん…ブレイブみたいな人がタイプなの…?」
「ぶ……ッ!?そ、そういう事じゃないから!感じの良い奴っていうか、人間としてって意味だからね!?」
「あ、そ、そっかごめん!いやうん、そうだよね!ほんとごめんね!」
「全くもう…復活した敵の幹部格の男をって、一体どんなラブロマンスよそれ……」
「あはは…でもブレイブがそんな事考えてたなんて、意外だったかも」
「私もよ。…ま、ともかくユニも準備してらっしゃい」
「はーい」
という訳で出掛ける事になったアタシは、自分の執務室に戻って片付けをした後、手早く出掛ける準備を済ませて正面玄関へ。
「あ、ユニさん。今からお出掛け?」
「皆さん…はい。ちょっと野暮用です」
その道すがら、アタシはうちに滞在中のサイバーコネクトツーさん達と遭遇。様子からして、サイバーコネクトツーさん達は外出から帰ってきたところみたい。
「野暮用…もしかして、何かあったの?」
「少し位の事なら、わたし達が対処するよ?」
「いえ、ほんとに街を回るだけなので大丈夫です。皆さんこそ、お疲れでは?」
ぼかした表現で勘違いをさせてしまったみたいで、気にしてくれる鉄拳さんとマベちゃんさん。訊き返しはしたものの三人共疲れた様子はあんまりなくて、不要な配慮だったかな…と思うアタシ。
でも考えてみれば、少し位の事じゃ疲れなくて当然かも。だってマベちゃんさんは忍者な訳だし、鉄拳さんも日々余念のない鍛錬をしてる武闘家さんだし、サイバーコネクトツーさんも…サイバーコネクトツー、さんも……あれ?
「……?ユニさん?」
「…ベールさんは生粋のゲーマーだし、ネプテューヌさんも現代は勿論レトロゲーにも精通してる人だし…ゲームって、実は極めようとすると自然に物理的な能力も向上するものだったり…?」
「う、うん?何がどうしてそうなったのかは分からないけど、何か相当な勘違いをしてないかな…?」
サイバーコネクトツーさんと言えば、ベールさんとも張り合える程の技術を持つゲーマー。まさかとは思うけど、他に何か強さの理由になりそうな要素が思い付かないし、ひょっとしたらって事もあり得る。…っていやいや、やっぱりそれはないでしょ…。
…と思ったアタシだけど、どうもその思考を口にしてしまっていたみたいで、怪訝な顔をしているお三人。流石にこれは誤魔化せないし、マベちゃんさんからの問いへ正直に答えると……
「い、いやいやいやいや…確かにわたしはゲームと漫画が大好きだけど、戦闘能力とは無関係だからね…?後、地元じゃ消防防災安全課ってところに所属してるから、そのラインナップだったらゲーマーじゃなくてこっちを挙げてくれるかな…」
「で、ですよね…何しょうもない事考えてるんだろアタシ……」
「ふふっ、でもユニさんがそういう事言うなんて、ちょっと意外だったかも」
「あ、それはわたしも同感かな。ユニちゃんはお姉さんと同じで、そういう勘違いはしないタイプだと思ってたから」
「うっ…い、言いふらさないで下さいね…?」
案外可愛いところもあるんだね、とばかりに鉄拳さんとマベちゃんさんに頬を緩められ、ほんのり湧き上がる恥ずかしさ。その思いのまま見つめたのがいけなかったのか、更にサイバーコネクトツーさんからも温かな目で見られてしまい、一層恥ずかしい状況になってしまう。うぅ、なんでこんな事に…アタシの、アタシのイメージが……。
「待たせてすまない、ユニ」
「……!う、ううん!全然問題ないわ!皆さんすみません、アタシ、ブレイブを連れてちょっと街を回らないといけないので、この辺で!」
「え、う、うん。行ってらっしゃいユニさん。…あ、それとブレイブさん、機会があればまた訓練に付き合うよ〜」
「それは助か…って待て、何故そんな早足なのだユニよ!?」
そんな中現れたブレイブは、正に今のアタシにとっては渡りに船。今しかないとばかりにアタシは素早く別れを告げて、速攻正面出入り口へ。我ながら情けないとは思うけど…そのまま振り返る事なく教会の外へと出る事で、アタシはこの恥ずかしい状況から離脱するのだった。……というか…ブレイブ、鉄拳さんとも関連してたんだ…。
*
今の社会の様子を知りたい、今の子供達が興味を持っているものに触れてみたい。そんな結構アバウトなものが今回街に出る目的だから、どこかに行く…って言うより、賑わっている場所を中心に歩き回る感じになった。
案の定というかなんというか、ブレイブは多くのものに興味を持ち、子供が好きそうなものには目を輝かせていた。それが自分自身としての興味なのか、それ等を介して子供が喜ぶ姿を想像した結果なのか、或いはその両方なのかは分からないけど。
「ふぅ…やはり、どこへでも自由に歩き回れるというのは良いものだな」
「……そうね。自由に、っていうのは本当に大切だと思うわ」
ブレイブが予め目星を付けていた場所は一通り回り終えて、今はゆっくり歩いているところ。ふと感慨深そうに呟くブレイブの言葉を聞いて、アタシも静かに首肯する。
前に、ブレイブは言っていた。自分は元々身体が弱く、不自由な子供時代を過ごしていたんだって。夢に出会って一度は乗り越えたとはいえ、やっぱり子供の頃に走り回れなかったっていうのは辛い思い出として残ってるんだろうし、その後も持病の再発でヒーローを止めなきゃいけなくなったブレイブだから、きっと人一倍自由に歩ける、好きなところへ行ける事への思いが強いんだと思う。
「…良い国だ、ラステイションは。今でこそ、やはり不安を感じている者も多いが…奴等の悪行に襲われるまでは、さぞや活気のある、子供が未来に希望を持てる社会だったのだろう」
「それ、お姉ちゃんにも言ってあげて。きっと喜ぶから。……それと、前はそうだった…ってだけじゃないわ」
「む…?それは、どういう……」
「アタシ達は、今度の危機も乗り越えて、またラステイションに活気を呼び戻す。そういう事よ」
「…あぁ、そうだな。ユニはそうではなくては!」
にっ、と笑ってブレイブからの評価に言葉を返すと、ブレイブも歯を見せて笑う。その笑みには、アタシへの信頼が一目で分かる程に溢れていて……ほんと、お姉ちゃんの言う通り良い男ね、アンタは。
「…で、次はどうするの?どういうところを見に行きたいか決まった?」
「それがまた悩みどころでな…より子供達が気軽に行ける小店舗のホビー店を見てみるか、それとももう数ヶ所ゲームショップを回ってみるか……うん?」
腕を組み、真剣に次の行き場所を悩むブレイブ。これは中々時間がかかりそうね…とアタシが思っていると、不意にブレイブは足を止める。
「…どうかした?」
「いや…あの人だかりはなんだ?どうも子供とその親らしき大人達が集まっているようだが」
「あれ?…えーっと、あれは……大道芸とか、ライブとかじゃない?それか…ひょっとしたら、特撮ヒーローショーかもね」
「……!?ゆ、ユニよ…立ち寄ってみても良いだろうか…?」
「そう言うと思ったわ。勿論良いわよ」
人だかりの雰囲気からして、事件や騒動って訳じゃなさそう。となれば子供受けの良いイベントか何かをやってる可能性が高い訳で、ちょっと含みを持たせて特撮の可能性を挙げてみると、予想通りに強い興味を示すブレイブ。
という訳で、その人だかりの方へとアタシ達は移動。近付くにつれ、子供達の元気の良い歓声が聞こえてきて……
「──夢を継ぎし勇気の使者、ブレイブマン・セカンドッ!」
そこそこのサイズを持つ、公共のステージ。そこで行われていたのは……本当に特撮ヒーローショーだった。
(…まさか、当たってるなんてね……)
丁度やられ役の怪人を何体か倒して見得を切った瞬間だったのか、こちらを向いてポーズを取っている一人のヒーロー。白や赤、黄色等のいかにもヒーローって感じのスーツとヘルメットを着用していて、口上的にも王道タイプのヒーローな様子。
これは、ブレイブとしても好みというか、気分の高まるイベントじゃないか。そう思ってアタシはブレイブの方を見たけど…どういう訳かブレイブは目を見開き、信じられないと言いたげな表情を浮かべている。
「…ブレイブ?」
「…何…だと……?」
「へ?いやこれ、死神の話じゃないと思うけど…?」
「…ユニよ…彼は今、ブレイブマンと…ブレイブマンと、言ったのか…?」
「え、えぇ…。…どうかしたの…?」
予想とは全然違う反応を見せるブレイブはあまりアタシの声も聞こえていないみたいで、唖然とした顔のままアタシへと訊いてくる。そしてそれにアタシが答えると…ブレイブは、呟くような声音で言う。
「…俺の、名だ……」
「はい?…あ、あー…確かにアンタもこのヒーローもブレイブ……」
「違う…ブレイブマンというのは、俺が生前務めていたヒーローの名前なんだ……」
発された答えは、あまりにも意外な偶然。まさかそんな事が起こるなんて思わなくて、アタシも思わず目を瞬かせる。
でも、その答えだけでアタシは納得出来た。アタシが驚いたのは、このヒーローとブレイブ…つまり昔ブレイブマンを務めていた人物との邂逅に対してであって、同じ名前のヒーローについては別に驚く事でもない。
「…リバイバルブーム、ってやつね」
「…スパイラルゲート……?」
「なんでそうなるのよ…ちょっと前から、過去の名作の続編を、ってブームがあるの。ブレイブマン・『セカンド』って言ってたし、あのヒーローもその一つだと思うわよ」
「そ、そういう事か…ふふ、過去の名作をとは、中々良いブームじゃないか…!」
「良かったわね、自分の関わった作品の続編が出てて(分かり易いわね、ほんと…)」
同じ名を持つヒーローがいる理由を理解したブレイブは、嬉しそうに顔を綻ばせてショーを見入る。…まぁ、正直ちょっと子供っぽい反応だとは思ったけど…アタシだってもし自分がデザインした銃が、未来でもリメイクされて使われたりしたらそれは嬉しいし、きっと暫くはそれを眺めたり弄ったりすると思う。
これ以上は話しかけるのも野暮だと思って、同じようにヒーローショーを眺めるアタシ。展開そのものは子供向けって事もあってか大体予想通りに進んでいくけど、アクションは結構迫力があるし、何よりヒーローの武器の一つである銃が中々しっかりとデザインされていたから、思っていたより見ていて楽しい。
それに何より、ブレイブが心から楽しんでいる。それだけでこれを見る価値は十分あって、これはお姉ちゃんへの良い土産話が出来た……なんて思った、その時だった。
「凄い!あんなに沢山いた怪人を、ブレイブマン・セカンドが皆倒しちゃった!でも気を付けて!まだアンチドリーマー皇帝が……ぇ…?…あ、の、残っているわ!」
(……?…今、変な間が…それにあの人、ステージ裏を振り返ろうとしなかった…?)
恐らくはショーの半ば、ここから大きく盛り上がる…って辺りで、それまでミスなく司会進行を務めていた女性か一瞬見せた、妙な表情。すぐに立て直した事でショーの進行には何の問題も起こっていなかったけど…どうも、それは単なるミスには思えない。
とはいえ、どういう事かを推理出来る程アタシに特撮の知識はない。でもブレイブなら…と思ったところで、そのブレイブからアタシに声をかけてくる。
「…何か、不測の事態が起きたのかもしれない」
「不測の事態…?」
「司会の女性が声を詰まらせた瞬間があっただろう?あれは恐らく、裏方のスタッフから何か連絡を受けたのだろう。…うむ、やはりだ…他のキャストも、何か動きの気配が変わった。これは、アドリブを頭の中で構築しながらショーを進める時の動きだ」
「そ、そこまで分かるのね…トラブルか何かかしら……」
「流石にそこまでは分からない…が、ひょっとすると進行に大きな問題が起こる程のものかもしれない。…すまない、少し失礼する」
「あ、ちょっ…!まさか訊きに行くつもり…!?」
言うが早いか、ブレイブは観客の邪魔にならないよう大回りをしながらステージの裏手側へと早足で向かう。元同業者であり前作相当の作品の主役として気になる気持ちは分かるけど、今のブレイブは直接的な関係者じゃない訳で、そのブレイブが行っても大方話がややこしくなるだけ。だからアタシも慌てて追いかけ、続く形でステージの裏手へ。
「く…やはり無理があったか…!ステージの調子は?」
「今は皆さんが上手く繋いでくれています!けど、流石にこのままでは……」
「…仕方ない。こうなれば頃合いを見て一度休憩時間を入れ、その間に別シナリオの通達を……」
「それはいけない!今見ている子供達の中には、親に頼み込んで、買い物や別の用事を一旦待ってもらっている少年少女もいるだろう!そしてその場合、いつ終わるか分からない中断は親御さんに『待っていられない』と言われてしまいかねん!」
ブレイブが言っていた通り、何やら慌ただしい雰囲気となっていたステージ裏。その中で責任者らしき人が決断を下そうとしたところで、そこへブレイブが待ったをかける。
「…だ、誰だ君は」
「あー、もう……すみません、彼は教会の関係者です。何があったか、お話しして頂けませんか?」
「貴女は……」
案の定いきなり声を上げたブレイブに肩を落としながらも、アタシはその責任者さんに事情の説明を頼み込む。すると彼はアタシが女神だって分かってくれたのか、驚きながらも姿勢を正して、アタシへ向けてこくりと首肯。
「…はい。予定ではこの後、もう一人のヒーロー役が来てクライマックスに…となっているのですが、検査で到着が遅れてしまうらしく……」
「検査?……って、事は…ごめんなさい、原因はアタシ達ですね……」
「い、いえ!こんな状況じゃ検査をするのは当然の事ですし、これは元々ギリギリ間に合う程度にしか時間の調整が出来なかった我々のミスですから…!」
検査というのは、昏睡から目覚めた人に対して身体に何か起こっていないか、このまま日常生活に復帰しても大丈夫かを確認する為に行っているもの。つまり、この検査がなければこのトラブルも起こらなかった訳で、悪い事じゃなくてもやっぱり責任を感じるアタシ。そんな事はないと責任者さんが否定してくれるけど、だからってアタシの気が晴れる訳じゃない。
出来る事なら、何かしてあげたい。何とかして続けられるようにしたい。でも、今アタシに出来る事なんてそれこそ、急いでその人の下に行って空から連れてくる事位で……
「…ならば…その代役、俺に務めさせてもらえないだろうか?」
そんな中、ブレイブは言う。自分が、間に合いそうにないヒーローの代わりを務めると。
「え……ほ、本気…!?」
「当然本気だ。特撮ショーのピンチを、楽しんでいる子供の時間の危機を、見て見ぬ振りなど出来る訳がない」
「い、いやそういう問題じゃなくて……」
「…君、出来るのかい?半端な技術で入られても、それこそショーが台無しになるだけだ。その責任を、取れるのかい?」
「申し訳ないが、責任を取れるような立場ではない。だが、約束しよう。必ずや、このショーを失敗になどさせないと!」
門前払い…なんて事はせず、けれど真剣な顔で責任者さんはブレイブへと訊く。その問いに、ブレイブははっきりと言い切る。失敗なんて、させないと。
交錯する二人の視線。多分、二人の中では特撮に携わる者としてのやり取りがあって……それから責任者さんの目は、アタシの方へ。
「…女神様。もしも失礼な質問でしたら謝罪します。…女神様から見て、彼は信頼の出来る人物ですか?」
「…えぇ、彼は…心から信頼の出来る人物です」
「……分かりました。君、ならば早速衣装を……」
「いいや、衣装ならば…ここにある!」
ばっ、と突如上着を脱ぎ去るブレイブ。その突飛過ぎる行動に思わずアタシは両手で目を覆ったけど…数秒後、周囲から上がる謎の歓声。
どういう事かと思ってゆっくりと手を離すと……そこにいたのは、ヒーロースーツを身に付けているブレイブの姿。アタシは一瞬訳が分からず…だけどすぐに気付く。ブレイブの着ていたのは、リバーシブルの服なんだって。その服の裏側は、ヒーロースーツになってるんだって。
「ヒーローたる者、いつでも変身出来なくてはいけないからな。そしてヘルメットも、ここにある!」
「え、嘘ぉ…なんでただのジッパー付きフードなのに、ジッパーを完全に締めるとヘルメットっぽくなる訳…?」
「ヒーローパワーだ!では、行くぞッ!」
「説明になってないんだけど!?ったく…上手くやりなさいよねっ!」
元々ヒーロースーツっぽかったボトムスと、裏返したトップスによってヒーローへと変身したブレイブは、スタッフと手早く確認を済ませると、もう役に入っているのかと思うような仕草で走り出す。
それを追う…事は出来ないから、ステージが見える場所へと走るアタシ。そして、アタシがその見える位置へと到達した時……
「くぅぅ……!これが、真の力を解放したアンチドリーマー皇帝の力なのか……ッ!」
「はーっはっはっは!散々手こずらせてくれたなブレイブマン・セカンド!だが貴様も、ここで終わりだぁぁッ!」
「そうは……させんッ!」
「な……なんだ貴様はぁッ!」
ステージの中央、ブレイブマン・セカンドとアンチドリーマー皇帝の間へ割って入る形で…ステージ裏から跳び上がったブレイブが、臨場感たっぷりの動きで降り立つ。
「俺は、夢を守りし勇気の使者──ブレイブマンだッ!お前の野望を好きになどはさせんぞ、アンチドリーマー皇帝!」
「ブレイブ、マン…!?」
「ブレイブマン…!?…ま…まさか、嘗て我が先代アンチドリーマー大王を倒し、我等がアンチドリームを壊滅させたヒーロー、ブレイブマンだと言うのか…!?」
「そうだ!さぁ、立てるか俺の意思を継ぎし者よ!」
「…勿論だ!俺は貴方が…ブレイブマンが守った夢を、未来を受け継いだブレイブマン・セカンド!この程度で、やられたりはしない!」
突然現れた誰かも分からない存在に即興で合わせ、それっぽい話を組み立てていくキャストさん達。もしかしたら、ブレイブマン・セカンドは本当にそういう設定なのかもしれないけど…その対応力は流石プロ。子供達もピンチに現れたもう一人のヒーローに沸き立って、一気にショーはクライマックスの瞬間へと駆ける。
「なんと、現れたのは昔の英雄ブレイブマン!まさかまさか、二人のヒーローが一緒に戦うの!?」
「お前の覚悟はしかと受け取った。ならば行くぞ、ブレイブマン・セカンド!」
「ああ!共に悪から皆を救おう、ブレイブマン!」
「ぐぅぅ…!小癪なぁぁッ!」
裏で借りた剣を手に、ブレイブ…いや、ブレイブマンは二人のキャストと共に大立ち回り。打ち合わせをしていない事を考えてか、ブレイブマンは剣を振っても当たらない位置で立ち回っていたけれど、台詞と勢い、それに雰囲気で距離を感じさせない演技を見せ、更に観客を盛り上げる。
そして最後はやっぱり合体技。ベタだけど燃える、新旧ヒーロー二人の連携攻撃。剣を構えたヒーロー二人は、アンチドリーマー皇帝へと走り込み……
「ダブル……」
「ブレイブ……」
『ソォォオオオオドッ!!』
「ぐぁああああぁぁぁぁッ!!」
剣撃一閃。一瞬本当に炎が出ているんじゃないかと思う程の迫力がステージ中に広がって、そのまま駆け抜けていく二人。
大ダメージを負ったが、完全にやられた訳じゃない…というシナリオなのか、胸を押さえて蹌踉めくアンチドリーマー皇帝は、捨て台詞を吐きながらステージ裏へと姿を消す。それを見送った二人のヒーローは、こくりと力強く頷き合い……大歓声と共に、特撮ヒーローショーは終了した。
*
無事にショーが終わり、ヒーローと子供達との触れ合いタイムも終わって、完全に終了したヒーローショー。そうして今アタシ達がいるのは、さっきも入ったステージ裏。
「いやぁ、ありがとなダンナ!あんたのおかげで、何とかショーを続けられたぜ!」
「ふっ…ヒーローとして、当然の事をしただけさ」
関係者(とアタシとブレイブ)しかいないステージ裏へと戻るや否や、ブレイブマン・セカンド役の人はヘルメットを脱ぎ、満足気な顔で同じくフードを取ったブレイブへと声をかける。アンチドリーマー皇帝役や、下っ端怪人役の人達もうんうんとそれに頷いていて、それに対するブレイブの言葉で生まれる笑い。
「お、言うねぇ。…けどほんと驚いたぜ。飛び入りであんだけハイレベルな立ち回りをしたって事も当然そうだが…まさか、衣装を自前で持ってるなんてよ。…もしかして、あんたもブレイブマンファンなのか?」
「いや、俺はファンというか……む?あんた『も』…?」
ファンじゃなくて、本人だ。…なーんて事言える訳がなくて、答えに詰まってしまうブレイブ。でもそのすぐ後、ブレイブは彼が「あんたは」ではなく「あんたも」と言った事を訊き返し……それを訊かれた彼は、にやりと楽しそうに笑みを浮かべる。
「あぁ。オレの親父は特撮マニアでな。で、小さい頃オレは、親父が保管していたある昔のヒーローの映像を偶々見たんだが…今でも忘れねぇよ。あの時の、凄いって気持ちは。心が燃え上がるような、拳を突き上げたくなるような感覚は」
「…まさかそれが、ブレイブマンなのか……?」
「それ以外にあると思うか?…それからはもう、完全にブレイブマンのファンになってさ。オレもブレイブマンみたいに、こんな格好良いヒーローになりたいと思って、ずっとブレイブマンを追いかけてた。憧れて、夢見て、いつかはオレも第二のブレイブマンにって思い続けて……そうして特撮俳優になったんだ。だからオレは、ブレイブマンがいたからここにいるようなものだし、ブレイブマン・セカンド役に選ばれた時は大人気なくはしゃぎ回っちまったし……今もまだ、興奮が収まらねぇよ。だって、憧れのブレイブマンと、こうして一緒に戦えたんだからな」
熱く語る、ブレイブマン・セカンドの俳優さん。勿論彼は、ブレイブの事をブレイブマンのコアなファンだと思っているんだろうけど…それでも今の経験を、夢の様な瞬間だと思っていた事は伝わってくる。だってそれ位に、良い笑顔を浮かべているんだから。
「…そう、か…そう、だったのか……」
「おうよ。にしてもあんた、そんなに実力があるのにどうしてこの業界に……って、お、おい?どうして急に泣いてんだよ…!?」
「す、すまない…まさか、ここまでのブレイブマンファンがいるとは…思って、いなかったんだ……」
「あ、あぁ…だよな、ブレイブマンはもうずっと前のヒーローだもんな。でもそれを言うなら、オレだってびっくりしてるぜ?」
「はは…それはそうだ…。…さて、それでは俺は、そろそろ帰るとしよう…」
感極まった様子で、ぽろりとブレイブが落とす涙。それを謝りながら誤魔化したブレイブは、作り笑いを浮かべながら立ち上がる。
「え?もう行くのか?あんたは今回のショーの功労者なんだから、今日は打ち上げに参加したって……」
「気持ちはありがたい…が、俺は女神様に時間を取らせている身でな。これ以上、待たせる訳にはいかないんだ」
「あ、そ、そうか…すみませんユニ様、オレが引き止めてしまって……」
「…いえ、大丈夫ですよ。アタシもこのショーで、凄く楽しませてもらいましたから」
すっと指で涙を拭ったブレイブは、そのまま外へと歩いていく。
このままいたら、本格的に泣いてしまうから。つい、自分があのブレイブマンだと言ってしまうかもしれないから。…そういう理由で立ち去ろうとしている事は分かっているからアタシはブレイブに何も言わず、皆さんへと頭を下げて後に続く。
そうして、ステージ裏から出て行こうとしたアタシ達二人。でもその直前…ブレイブの背中へとかけられる声。
「…なぁ、ダンナ。ダンナがどこで何をしてるのかは知らないが…きっとダンナもブレイブマンの様に、子供の夢と笑顔を守ってるんだろ?…オレはブレイブマンに比べりゃ、まだまだひよっこだけどよ…それでもオレなりに、子供に夢を与えられる、笑顔にしてやれるヒーローを目指してるつもりなんだ。だから、お互い……これからも自分の夢を貫こうぜ、ブレイブマン」
「…ああ。お前はもう既に、立派なヒーローだ。少なくとも俺はそう思っているぞ、ブレイブマン・セカンド」
駆け寄ってきた彼からの、エールのような…もしかしたらブレイブが本物のブレイブマンなんだって気付いてるのかもしれないと思うような、強い思いの籠った言葉。その言葉に立ち去ろうとしていたブレイブが足を止め、振り返った時、彼がすっと右手を差し出す。
友情の証かもしれない。尊敬の証かもしれない。差し出されたその手からは、そんな感じが伝わってきて……その右手を、ブレイブは握った。がっしりと握り、ブレイブもまた彼へと向けたエールを送り……今度こそ、彼や周囲のキャストさん、裏方さん達に見送られながら、ブレイブは特撮の舞台を後にする。恐らくは、たった一度の復活を果たしたブレイブマンが…ブレイブ・ザ・ハードへと戻る。
「…………」
「…どうだった?代役、やってみて」
教会の方へと向かって歩くブレイブの隣に立って、アタシは訊いてみる。無粋な質問かもしれないとは思ったけど…ブレイブの思いを、聞いてみたくて。
数秒後、その質問に対する直接的な答えは返ってこない。でも代わりに、ブレイブは遠くを眺めるような瞳で言う。
「…俺の人生は、ヒーローに憧れ、夢を追う人生だった。命尽きるその時まで、何度挫けようとも諦めずに走り抜けてきた。そして、俺が果たせなかった、半ばで終わってしまった夢は、ユニに、ノワールに、誇り高き二人の女神に託し、それで未来へと繋げたものだと俺は思っていたが……」
「…俺の知らないところで、夢は繋がっていたんだな…」
「ヒーローに憧れて、いつか俺に夢を与えてくれたヒーローの様になりたいと思っていた俺は、ブレイブマンは……いつの間にか、あのヒーローと同じように…誰かに憧れられる、ヒーローになれていたんだな…っ……!」
再び涙を零し、けれど嬉しそうに、幸せそうに、満たされたような顔で空を見つめて笑うブレイブ。そのブレイブに、アタシは何も言わずに頷いて…アタシ達は、教会へと帰る。
ブレイブの夢見た世界は、全ての子供が夢を持ち、笑顔で暮らせる未来はまだ遠い。それどころか今は、多くの人が不安や未来への心配を抱きながら日々を暮らしている。だけどアタシ達が必ず、そんな未来を作り上げる。そしてその夢を、ブレイブが託した未来を担おうとするのは…アタシやお姉ちゃんだけじゃない。ブレイブの人生が、駆け抜けてきた生き様そのものもまた、誰かにとっての憧れに、ブレイブの思いを受け継ぐヒーローの切っ掛けになっている。…そう、心から感じたアタシだった。
今回のパロディ解説
・「〜〜死神の話〜〜」
BLEACHの事。「何だと」…と言えばBLEACHですよね。色々なパターンがあるので特定のどれ、とは言いませんが、目を見開き茫然としていた…という事です。
・スパイラルゲート
デュエル・マスターズにおける、呪文の一つの事。リバイバルブームとスパイラルゲート、並べてみるとちょっと似てますね。聞き違えるかどうかは微妙ですが…。