超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
奇跡の体現者である女神に、限界はない。全知全能の存在となる事も、不可能ではないと思う。だけどそれは、恐らく上限なんてものは存在しないってだけであって、ゲームで例えるならばレベルを無限に上げられるってだけの話で、今現在の私達には出来ない事や、届かない事も沢山ある。
ラステイションの総合科学博覧会で、嘗てのマジェコンヌさんにノワールが力をコピーされた時。リーンボックスにて犯罪組織が作り上げた地下施設で、トリックの策に嵌まってしまった時。進んでいた時には全く気付けず、仕組まれた策が成功してから嵌められていた事を知った…なんて事は、これまでに何度もあった。既に策としては完遂されてしまっていたから、女神であってもどうにもならない…そんな経験を、何度もしてきた。
だけど、今回は…今私達が直面しているのは、これまでのどの事態とも違う。今回は、嵌められたって事が分かってる。完遂される前に、何を狙いとしているのかの推測が立てられている。でも、止められない。どうしようもならない。嵌められていると、相手の思う壺だというのは分かっているのに……それを、今の私達には覆せない。
「……っ…そんな…こんな事って…」
目の当たりにする事となった可能性を前に、歯噛みをするネプギア。未だ尽きないモンスターの襲来で落ち着いて受け止める事も出来ないまま、ただただ心の中でトリックの口にした事を反芻する。
彼は言った。ギョウカイ墓場最深部に至るまで、これと言った障害が何もなかったのは、今も犯罪神が招き寄せたモンスター以外に仕掛けてくる存在がいないのは、その裏にある罠に誘い込む為の策ではなく、本当に何も用意していないだけではないのだろうかと。もう一人のうずめとレイの目的は、犯罪神を復活させて使役する事ではなく、犯罪神を私達に倒させる事によって、犯罪神という器に集まった膨大な量のシェアエナジーを確保する事ではないのかと。
勿論それは、確たる証拠がある訳じゃない。あの二人の口から語られた事ではなく、あくまで可能性に過ぎない。だけど…他ならぬ状況が、不可解に感じていた心が、それはきっと事実なのだと伝えてきている。
「うぇ…?え、えっとえっと…どういう、こと…?」
「やられたって事よ…このまま犯罪神の復活を阻止すれば、犯罪神になる筈だったシェアエナジーをあの二人に奪われて、かといって阻止しなければ、当然犯罪神が復活する…つまり、どっちを取ってもアタシ達はこの作戦で『負ける』のよ……」
「ど、どーにかならないの?えーっと、ほら…そうだ、シェアエナジーごと消しちゃうとか!」
戸惑い皆へと問いかけるロムちゃんへ、悔しげな顔でユニが返答。それを聞いたラムちゃんは、ぱっと思い付いたらしい案を口にするけど…空間に溶けていくという形ではなく、シェアエナジーを本当に消滅させるなんて事は、この場ですぐに行えるような芸当じゃない。
そして仮に出来るとしても、ここには無数のモンスターがいる。私達が密集陣形を取っている事で、包囲し私達の退路を塞ぎつつも気を伺うという消極的な動きに変わったとはいえ、何か大きな事をしようとすれば間違いなく妨害行動を取ってくる。
「…トリック、お前の言う通りの事をあいつ等が狙ってるってなら、霧散する筈だったシェアエナジーを回収する手段が必要だ。それは、可能だと思うのか…?」
「分からぬ。だがその手段があるからこそ、こうして実行に移したのではないだろうか…」
トリックの言う事は、どれも推測。状況に合致していると言っても、真実は全く別のところにあった…ってなる可能性もゼロじゃない。でもだからと言って、根拠もなしに否定する事を前向きな思考とは言わない。分からない事が多い中で、もしかしたらの可能性に賭ける行為は、時に道を切り開く事もあるけど……この状況下で同じ事をしても、それは不都合な可能性から目を逸らすだけ。何も考えず、能天気に動くのと何も変わらない。
復活を阻止すれば向こうの利となる。阻止しなければ、信次元の不利となる。ユニの言う通り、どちらを選んだとしても…そこにあるのは、私達にとっての負け。
(いや、でも…待って。第三の選択肢は…一度引いて、犯罪神が生活圏に侵攻するまでに霧散するシェアエナジーを回収させない為の策を編み出すっていうのはどう…?)
どちらを選んだって、私達は取り戻すべき平和から遠ざかる。だけど、選択肢は二つに限定されてる訳じゃない。選択肢は、自分から作り出しても良いんだから。
今浮かんだ第三の選択肢が、勝利に繋がるかどうかは分からない。だとしても、どちらかに縛られる必要はないと提示するだけでも意味はある。……そう、思った時だった。
「雑談はもういいだろう。道を切り開け、女神」
暗くなった空気の中で、ただ一人微塵も表情を曇らせる事なく、悠然と犯罪神へと視線を送る一人の姿。それは、マジックに他ならない。
「み、道を切り開けって…貴女、ここまでの話を聞いてなかった訳…?」
「聞こえていたさ。だが、だからどうした。犯罪神様を薄汚れた野望より解き放つ為に我々はいる、違うか?」
「だから、それは……ッ!」
唖然とした声で訊き返すネプテューヌに対し、マジックは淡々と返答。それにネプテューヌは語気を強めて…だけど、そこから先の言葉はない。
あぁ、そうだ。マジックはこのまま進む事に対して、躊躇いなんてある訳がない。だって、人と次元の為に戦う私達と違って、マジックにとっての優先事項はあくまで犯罪神なんだから。
「時間が惜しい、早くしろ。出来ぬと言うなら、そこで見ているがいい。我は初めから、貴様達などに期待はしていない」
「…マジック、さん……」
「…マジックよ、お主の信仰心は我輩も大したものだと思っている。だが…少しは協調性も持ったらどうだ?」
「同感だ。逸る気持ちは分かるが、お前とて求めるのは確実な成功だろう?ならば、彼女達との協力は不可欠だぞ」
「ふん、日和ったか。だがならばどうする。まさか逃げ帰るなどとは言わんだろうな?」
頭から突っ込んできた汚染モンスターを長剣の柄尻で突き返し、逃げられる前に袈裟懸けで追撃。それ以上追う事はせずその場で大きく刃を振るう事によって他のモンスターも後方に下がらせ、視線は敵へ、耳は後ろのやり取りへと傾ける。
聞こえた会話の中で潰れる、私が思い浮かべていた選択肢。恐らくマジックは、他の全員が一度撤退するという選択肢を取ったとしても、たとえ一人でも強行する。そんな雰囲気が、彼女にはある。そして…そこに上がる、もう一つの声。
「おいおい、同じ四天王なんだから仲良くやろうぜ。…いや、あんまし仲良くやってた覚えはねぇが…ともかく安心しろよマジック。俺は付き合ってやるさ」
「要らん。よりにもよってお前一人など、むしろ不安要素が増えるだけだ」
「…ひっでぇなぁ、おい……」
「…待って。ジャッジ、俺は付き合うって…まさか、このまま下がるなんてつまらない…そんな事を考えてるんじゃないでしょうね…?」
冷徹に切り返されてしまったジャッジながら、その意思が示しているのは進む事への肯定。
その言葉に私は、一抹の不安を抱いた。マジックの犯罪神を崇拝する気持ちに匹敵する程、戦闘に魅入られ、戦いを愛し、ヒリヒリする戦場を求めるジャッジならば、彼もまたここで躊躇う事なんてしないんじゃないかと。でも、その不安は…ジャッジの次なる言葉によって、否定される。
「いーや、確かにいい加減ひと暴れしたい気分である事は事実だが…そういう事じゃねぇよ。…俺は別に、犯罪神を信仰してる訳でもなきゃ忠誠を誓った覚えもねぇが…最っ高の好敵手と心底滾る戦いが出来たのは、他でもねぇ犯罪神のおかげだからな。…恩義があるのさ、犯罪神にはよ」
ほんの一瞬、振り向いた事で見えたジャッジの顔。そこに浮かんでいたのは、落ち着いた笑み。
「…それに関しちゃ、お前等もそうだろ?」
そうしてジャッジが話を振ったのは、ブレイブとトリック。既に目を前へと戻した私には見えないけど……小さく笑ったような声が、後ろから聞こえる。
「ふっ…そう言われてしまうと、俺も退く訳にはいかなくなるな」
「恩、か…それをあるかどうかと言われれば…うむ、計り知れん」
「ちょっ…ど、同調してるんじゃないわよブレイブ!…確かにアンタがそういう筋を通すタイプだって事は、アタシ達も知ってるけど……」
「わー…こっち見てすごいうなずいてる……」
「なんかやなえがお…(げんなり)」
先程の言葉はあくまで態度に対するものだったのか、ブレイブにトリックと残りの二人も今ここで復活を阻止する事に賛同。それにより、四天王全員の意見は一つに固まり…私の中にあった不安は、形を変えて更に強まる。
強行しようというのが一人や二人なら、まだ何とかなったかもしれない。でも、この作戦の核となる四天王が全員そちらとなってしまうと、『楔となる四天王が欠けていた事が、失敗の要因になる可能性はゼロじゃない』…という、引き止める上で切り札となり得る言い分が機能しなくなってしまう。
「貴方達…あー、もう…ほんとなんでそれだけの人格があるのに、名前からして悪な犯罪神に付いたのよ…!」
「全くね…けど、ここまでなったらもうわたし達も腹をくくるしかなさそうよ」
「そうね……って、待った…今貴女、腹をくくるしかない…って言った…?」
モンスターを蹴り返し、むしゃくしゃした気持ちをぶつけるように大剣を振るいながら言葉を発するノワールへ向けて、ネプテューヌが口にしたのはどこか心積もりが決まっているかのような声。
その声に、私達全員がほぼ同時に振り向く。まさか、という思いと共にネプテューヌを見やり…私達の視線を受けたネプテューヌは、こくりと頷く。
「正直、この状況を打開する策は思い付かないわ。犯罪神を放置する訳にはいかないし、だからっていいように利用されるのも癪よ。でも…ふッ…!…今この瞬間に、三人は信念を懸けている。犯罪神の為ではあっても、信仰している存在に刃を向けるなんて辛い事だと思うのに、マジックはその意思を…信仰しているからこそ、その思いを貫こうとしている。だから…思ったのよ。どっちにしろ、不満の残る結果になるなら…誰かの思いを後押し出来る方を、選びたいって」
『…ネプテューヌ……』
一度大きく前に出て、一太刀で複数体のモンスターを纏めて斬り裂いたネプテューヌは、ふっとこちらを振り向き優しげな…けれど心の強さのある笑みでわたし達に言う。当然背を向けたネプテューヌへモンスターが襲いかかるけど、そのモンスター達は全て空から垂直に飛来したエクスブレイドにギロチンの如く両断され、周囲のモンスターは慌てて飛び退く。
「…気持ちは分かりますわ。けれど、そうやって進むのは向こうの思う壺ですわよ?」
「でしょうね。だけど……」
「…ううん、待ってお姉ちゃん。それにベールさんも」
「…ネプギアちゃん?」
「保証はないです。でも、もしかしたら…全てが思う壺には、ならないかもしれません」
「ネプギア、どういう事…?」
「だって、そもそもマジックさん達が復活したのは、うずめさん達にとって想定外の事だったでしょ?だったらそれは、向こうの計画が完璧って訳じゃない…少なくとも、想定外の何かが起こる位の余白はある…って事じゃないかな?」
真面目な顔で、ネプテューヌの言葉を遮るネプギア。それからネプギアが言ったのは、ここまでの事を踏まえての推測。最初に自分で言った通り、ネプギアの論は希望的観測の域を出ていないけど…実際、ジャッジ達の存在が想定外の事だったらしいのは事実。同じもしかしたらでも、ネプギアの言葉はさっき挙げた『不都合な可能性から目を逸らす』とはまるで違う。
思いに応えたいとネプテューヌは言い、それを僅かでも見えた可能性でネプギアが後押し。そしてそれは、これまで私達の中心を担ってきた二人の意思は一筋の風となり、渦巻いていた行き詰まりにも近い空気の中へとふわりと吹き込む。
「…ネプギア…アンタって、普段は割とネガティヴな面も見せる癖に、逆境になる程逆に前向きな事口にするわよね…」
「でもそれが、ネプギアちゃんのいいところ…(にこにこ)」
「えっと…つまりは、ぶっとばしちゃってもだいじょーぶかも、ってことよね?それならわたしもさんせーよ!」
初めに頬を緩ませたのは、ユニ達女神候補生の三人。明確に賛成を示したのはラムちゃんだけだけど…ユニは反対意見がある時はちゃんと言う子だし、ロムちゃんだってもう周りに流されるだけじゃない。
そして、気持ちは伝播するもの。中心である二人、妹であったり後輩であったりする候補生達がそう言うのであれば…私達だって、抱く気持ちは変わってくる。
「想定外の可能性に賭ける、か…あんまりクレバーな判断だとは思えないけど……一度退いて対策を練り直す事で上手くいく保証もなし。だったら確かに…誰かの思いを後押しする事の方が、女神らしい判断だよね」
「一度退いて…あー、そういう考えもあったな。けど、ここで妹達や元は敵だった奴等が気概を見せるってんなら…わたしもそれに力を貸してやらなきゃ、ホワイトハートの名折れってもんだ。いいぜ、わたしも乗ってやるよ」
「二人共熱いですわねぇ。…とはいえ、わたくし達の最大の武器は、繋がりであり強い思い。そして今、最大の武器を活かせる選択肢は…ふふっ、言うまでもありませんわね」
「貴女達…はぁ、その結果が取り返しのつかない事に繋がる可能性もあるのよ?それをちゃんと理解してる?」
「じゃあ、ノワールは止めとく?」
「そうは言ってないでしょ、というかこうなったら私一人止めたって焼け石に水だし。…だから、冷静な私が最悪な状況にはならないよう注意しておいてあげる。感謝しなさいよね」
『わー…分かり易いツンデレ……』
「う、うっさい!こんな中で茶化すんじゃないわよ!」
肩を竦めて訊き返したネプテューヌに軽く胸を張って答えたノワールだけど、後半は完全に『らしい』というか、ある種これぞノワールって感じの発言で…本人的には不満だろうけど、自然に生まれる小さな笑い。
はっきり言って、やっぱりこれは賢明な判断じゃない。だけど、無価値な判断でも決してない。少なくとも私達は、この選択をそう信じているんだから。
「ようやく決まったか。悠長な奴等だ」
「そう言いつつも待っててくれたのよね、貴女。…全会一致で決まった以上、後はベストを尽くすまでよ。皆、いける?」
ふっと表情を引き締めたネプテューヌの言葉に、私達は揃って首肯。もう話し合う必要はない。決めていた通りの事を行うと、そこに全力を注ぐのだと、私達は決めたのだから。
こちらの雰囲気の変化に気付いてか、包囲を狭めようとする数々のモンスター。でも、私達女神を相手にするには……数が足りな過ぎる。
初めに動いたのは、ネプギア達候補生の四人。四方に展開した四人は各々得意な遠隔攻撃を外へと放ち、範囲攻撃でモンスター側の最前線を破壊。これまでとは違う、全力の解放を開始した四人の攻撃によってモンスター達の動きが止まり、そこへ斬り込むベールとブラン。
「さぁ、退いて頂きますわよッ!」
「命が惜しけりゃ下がるんだなッ!」
目指す先、犯罪神の下へと伸びていくベールのシレットスピアーと、扇状に広がり周囲を蹴散らしていくブランのゲフェーアリシュテルン。完全開通とまでは行かずとも二人の攻撃により道は開き、そこへ巨大剣を作り出した私と、手に持つようにエクスブレイドを展開したネプテューヌが揃って突進。包囲の穴を埋めようとするモンスター達を目一杯の力を込めた横一閃で薙ぎ払い、続けて某近接格闘型第三世代機の如く剣を構えて真っ直ぐに突撃。策も何もない、純粋なパワーで障害を貫き、四天王の為の道を開く。
「邪魔は、させないってのッ!」
突撃を続ける中、背後から聞こえたノワールの声。次の瞬間、翼を持った大型モンスターが私達の上を吹き飛んでいき、その姿からは私は開いた道へと飛び込んできたその個体が、ノワールのトルネードソードの一撃によって吹き飛ばされたのだという事を理解。モンスターの胴には、トルネードソードの…名前通りの竜巻が如き螺旋の力を持つ一撃が抉った痕が残っていて、そのままそのモンスターは包囲の外へ。
「ふっ…やはり強いな守護女神は!我ながら、よく一度は勝てたものだ!」
「戦力のほぼ全てを失っての辛勝だったのだ、これも当然の事であろう!」
包囲の最後尾、最後の壁を突破した私達は振り返り、それぞれ剣を射出する事で開いた道を更に広げる。
その道を駆ける、ジャッジ達四人。後ろはネプギア達が押さえ、上と左右はノワール達が迎撃する事で四人への妨害を一切許さず、着実に犯罪神との距離は縮まっていく。
「あっちは問題なさそうね」
「うん。なら私達はモンスターの立て直しを妨害して……」
作り出した道を盤石のものとするべく、長剣を手に地面を蹴ろうとした私。けれどその瞬間、再び最深部へと響き渡る咆哮。先程以上に敵意を感じるその雄叫びに、弾かれるようにして私達は振り返り……犯罪神と向かい合う形となった私の視界へと飛び込んできたのは、闇色の靄。
「……!?」
反射的に振り抜く長剣。私の得物は、飛び込んでくる闇色の靄の中心を斬り裂き…けれど斬ったという手応えはない。本当にただ、私の刃は靄の中を通り抜けたというだけで、靄が掠めた私の身体にも影響はない。
一体これは何だったのか。攻撃ではなかったのか。何もなかったからこそ、気持ちの悪い不可解さが渦巻き…けれどその疑問は、背後からの声で明らかとなる。
「ネプテューヌッ!イリゼッ!後ろだッ!」
「え……なぁッ!?」
聞こえた声と、直感が叫んだ危機の襲来。殆ど本能的に私は振り向き、長剣を掲げ…次の瞬間、刀身を襲う激しい衝撃。
一瞬、モンスターの攻撃かと思った。だけど違う。私を襲ったのは、巨大な体躯と武器を持つ、実体を持った闇色の影。
(嘘…これって…ジャッジ……!?)
表情も細部も分からない、亡霊の様に見える存在。でもそのシルエットは、間違いなくジャッジのそれ。その驚きから、私は斬撃を受け流しつつ後ろに飛び…視界がぐっと開けた事で、私は目にする。今し方私へ襲いかかったジャッジの影だけでなく…四天王それぞれの影が、形となって現れた姿を。
「くっ、そういえばワレチューの時も…ッ!」
私の下へ来ようとしてくれるネプテューヌを阻む、マジックの影。突っ込んでくるジャッジの影を見やりながら、私が思い出すのは嘗て犯罪組織の一員であったネズミ、今はどこにいるのか分からないワレチューが犯罪神の力に取り込まれた時の事。
思い返せばその時現れた闇色の靄と、今現れたものは酷似している。最初の一撃を受けた感覚として、本物のジャッジ程の力はないようだけど…それでも厄介な事には変わりない。
(不味い、まさかこっちに想定外が起こるなんて…。…どうする…?ネプギア達に戦線をこっちまで上げてもらって、私達が影の対応を一手に引き受ける…?)
女神が九人もいるとはいえ、急に敵戦力が跳ね上がればこっちも動きを考え直さなきゃいけない。そう思っている間にもジャッジの影は迫り、振り出された一撃を跳躍で回避。
跳んだ私へと左右前方から同時に放たれる、ブレイブの影の砲撃とトリックの影…の、恐らくは舌であろう攻撃。とはいえ両者の位置を認識していた私は、砲撃に対しては斬り払い、舌は蹴り返す事で落ち着いて対処しようとして……次の瞬間、私は空中で姿勢を崩す。あまりにも蹴り返した舌の弾力が良過ぎて、蹴りが空振ったかのような体勢となってしまう。そして、姿勢を崩した私の前へと跳び上がってくる、ジャッジの影。
「……っ…不味い…ッ!」
振り上げられるハルバート。絶大な威力となって振り下ろされる事が間違いない大上段の構えを前に、咄嗟に長剣を掲げながらも私の背筋を熱いようにも冷たいようにも感じる何かが駆け抜け……
──そのジャッジの影の胴体を、背後から巨大なハルバートが貫き穿つ。
「…ぁ、え……?」
仰け反り固まるジャッジの影。訳が分からず私が茫然と見つめる中、力強い雄叫びがジャッジの影の後ろから轟き……そして影の背後から振り出された漆黒の拳が、ジャッジの影を吹き飛ばす。
「へっ…背後がガラ空きなんだよ、パチモンが」
「…じゃ、ジャッジ……!?」
殴り飛ばすと同時に逆の手でハルバートの柄を掴み、引き抜いたのは真っ黒な鎧を纏う一人の巨人。今吹き飛ばされた影と全く同じ姿を持つ、犯罪神の臣下の一人。
そう、それはジャッジ・ザ・ハード。本物の彼。だけど、その姿はさっきまでの…人としての姿じゃない。
「ほほぅ、この舌の感触…中々の再現度ではないか」
「偽者との対決…ふっ、これもまたヒーローのお約束ッ!」
「はい?え?な、なんで!?なんで元の姿に戻ってるの!?」
姿勢を立て直しつつも着地した私が見たのは、同じく四天王としての姿に戻った三人の姿。彼等は各々ネプテューヌ達と共に自身の偽者を後退させ、身体の感覚を確かめるように腕を回す。
「なんでって…そりゃ、これからやる事に出し惜しみなんざ出来ねぇからな。それに言ったろ、人の姿になっていたのはシェアエナジーの量の問題だって」
「あ、そ、そういえば……」
ガチャリと音を立てながらハルバートを肩にかけたジャッジの言葉で私は理解し、再び犯罪神の方を見やる。
胴を貫かれ、殴り飛ばされたジャッジの影は、消滅を始めている。けれど残りの三体は未だ健在であり…私が見ている間にも、更に複数の靄が出現。犯罪神の周りで靄は実体化し、主を守るが如く立ち並ぶ。
「おいおい…四天王を量産って、どこの大作RPGだよ…」
「本当に復活していないのか疑わしいですわね。…まぁ、わたくし達全員が全力で戦い、漸く勝てるのが犯罪神であると考えれば、その位出来てもおかしくはありませんけれど……」
「で、どうする?モンスターの方はユニ達に押さえてもらうとして……」
「…いいや、もういい。後は、我等だけで決着を付ける」
犯罪神の前に次々と揃う、影の四天王。それに真っ向から正対する形で並び立つ、私達女神五人と四天王。背後への警戒は怠らないようにしつつも、私達は影の四天王を突破する策を練り始め……けれど即座にそれを、マジックが遮り前へと出る。
「我等だけで、って…今度は何のつもりよマジック。切り開けって言ったのは貴女でしょ?」
「いいや、マジックの言う通りだ。敵戦力が未知数故、諸君等に頼みはしたが…これならば、我輩達だけでも突破は出来る」
「あぁ。だからここは…犯罪神様は俺達に任せ、お前達は戻れ。戻り、奴等の真なる野望に備えるのだ!」
「え……?…じゃあ、まさかマジックは、これからの事を思ってわたし達を……」
「ほざけ。我は犯罪神様と相反する貴様等の存在が、何らかの不都合を起こす引き金となる事を考慮しただけだ」
「……ほんっと変わらないわね、貴女は」
もしかして。そんな声を上げたネプテューヌの気持ちを跳ね除けるように、マジックは淡々と否定。取り付く島もない程否定されたネプテューヌは溜め息をつき…けれどそう言うのは分かっていたとばかりに、小さく笑う。
「お姉ちゃん、一先ずモンスターは蹴散らしたよ!」
「まだそこそこ残ってるけど、また集まるまで暫く攻勢は緩むと思うわ!」
「なら、尚更問題ねぇな。ま、流石に雑魚共とは言わねぇが…俺達がそれなりに強いって事は、お前等が誰よりも知ってるだろ?」
『…何のはなし?』
後方からネプギア達が合流したところで、ジャッジ達も一歩前へ。その足取りは力強く、その声に乗っているのは確かな覇気。
それを受けて、私達は顔を見合わせる。またもや勝手に話を進めようとする四天王だけど…今度は、今は、それを受け取る私達の気持ちも違う。
「強さ、か…確かに貴君等の実力は、疑うまでもないな。そして、そんな貴君等が出来ると言うのであれば……」
「わたしは、わたし達は…貴女達がその意思を貫く事を、信じるわ」
こちらを見やる四天王全員の目を見て、私達はしっかりと頷く。元々敵だったとか、そんな事は関係ない。私達全員が、四天王の実力を…信念の強さを認めていて、四人なら成し遂げると確信を持って言えるんだから。
私達からの後押しを受け取り、ジャッジ達三人はにやりと笑う。マジックだけは、表情を動かす事などなく…けれど受け取った事を示すかのように、その身体へと力を込める。
「…ブレイブ、ジャッジ、我が援護してやる。貴様等は突っ込め。トリック、貴様は……」
「後方からの適宜支援であろう?しかしよもや、こうして連携をする日が来るとはな…」
「影の撃破は通過点とはいえ、これで最後なんだ。暴れてやろうじゃねぇか!遅れるなよブレイブ!」
「それはこっちの台詞だジャッジ!俺の心が生み出す炎、その熱量に焼かれるなよ!」
前衛にジャッジとブレイブ、後衛にトリック、そして中衛にマジックという陣形を組み、墓場の大地を踏み締める四天王。私達が見つめる中、四天王の四人は地を蹴り……想定外の事態から始まったひと時、その最後の戦いの幕を開く。
「あばよ女神共、なんて洒落た事は言わねぇよ!また会おうぜ、ベールッ!イリゼッ!」
「これより我が剣は、報いるべき恩義の為に炎を纏うッ!未来を頼むぞ、ユニッ!ノワールッ!」
「さぁ行け、愛らしくも希望に満ち溢れた幼女達よ。我輩はただ、大人の、紳士の…いいやロリコンの覚悟を貫くまでッ!」
「…この次元を終わらせるのは、他でもない犯罪神様だ。犯罪神様こそが、全てを無に帰すのだ。だからこそ、犯罪神様がその瞬間を与えるまで……必ずや守り抜け、女神」
背中越しの、私達へ向けられた最後の言葉。それぞれの思いが籠った、四天王の心からの意志。
それを受け取り、私達は飛び去る。四天王に、犯罪神に背を向け、墓場の外へと向かって飛ぶ。不安はない。懸念もない。彼等なら、必ず成功させると思っているから。
それが、私達と四天王との別れ。次に会うのはいつになるか分からない、互いに強い意志を持っての終わり。だけど私は、声を大にして言える。皆もきっと、同じように思っている。この時、この瞬間──確かに私達は、仲間であったと。
今回のパロディ解説
・某近接格闘型第三世代機
機動戦士ガンダム00シリーズに登場するMSの一つ、ガンダムエクシアの事。GNソードを構えてのあの突進ですね。MSと大剣故に映える格好な気がします。
・大作RPG
ドラクエシリーズの事。特にⅢにおける、ゾーマの配下の魔王級モンスターの雑魚版ですね。勿論ボスの雑魚版〜というパターンは、ネプテューヌシリーズでもありますが。
・「あばよ女神共〜〜ベール、イリゼッ!」
グレンラガンシリーズに登場するキャラの一人、キタン・バチカの名台詞の一つのパロディ。あの台詞が入る一連のシーンは、本当に胸が熱くなりますね。