超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

116 / 234
第八十四話 Original Origin

 現在の信次元ゲイムギョウ界に存在する四大国家の一つ、プラネテューヌ。その中枢を担うプラネテューヌの一室にて、教祖イストワールはギョウカイ墓場で起こっている事に真剣な顔で傾聴していた。

 

「…皆さん……」

 

 墓場に向かったイリゼ達のインカムから聞こえてくるのは、戦闘音と、現状況下で判断を下すかという話し合い。それを静かに、見守るようにイストワールは聞く。

 無論、彼女が意見を口にする事も出来れば、戦うイリゼ達の判断を止める事も出来る。だが、インカム越しにやり取りを、状況を知る事が出来ようとも、戦場の雰囲気を直接肌で感じる事は、流れを自分の目で見る事は叶わない。そして、直接五感で感じなければ見えないもの、分からないものがある事を彼女は知っているが故に、今は全ての判断、全ての選択を女神達へと委ねている。如何に世界の記録者であろうと…いや、過去と今を取り纏め、歴史として記録する彼女だからこそ、未来を見通す事など出来ないのかもしれない。

 

(…彼女とは違う、もう一人の天王星うずめ。神次元にも存在していたという女神、キセイジョウ・レイ。…彼女達は、一体……)

 

 四天王の一角、トリックの見立てが正しいのであれば、今も彼女達二人の思惑通りに事が進んでいる。その思惑に気付けていたとしても、行動が変わらないのであればその結果も恐らく大筋は変わらない。

 これまでとは何もかもが違うその敵は、真なる姿となった犯罪神をも思わせるだけの力を持ち、同時に本来の在り様を歪める形で、不完全な姿ながら犯罪神を呼び覚まさんとするだけの方法をも有する。

 だが何よりも分からないのは、その正体。神次元に住まう女神、セイツ曰くキセイジョウ・レイは神次元最古の国、タリの女神であり同時にその国を滅ぼした存在との事だが、ただそれだけなのだろうか。どこかの次元の彼女が、野望を抱いて信次元に現れたというだけなのだろうか。そしてもう一人、天王星うずめは……

 

「…彼女、は……?」

 

 そこでふと、イストワールの考えが止まる。何かを発見した訳ではない。誰かが部屋に訪れた訳でもない。ただ何か、ただ何故か、彼女の事を考える中で違和感のようなものが、人混みの中で視界の端に知り合いが見えた時のような感覚が一瞬訪れ……されどそれは、すぐに消えてしまった。確かに一瞬何かを感じた筈なのに、もうそれが見えてこない。なんだったのかも、分からない。

 

(…そんな、馬鹿な……)

 

 普通の人間でも、そのような感覚があれば疑問に思う。だがこの時、イストワールが抱いた疑念は普通の人間の比ではない。

 それは、ある種の恐怖にも似た感覚。何故なら彼女は、何かを忘れるという事はない。今の彼女となってからの事は全て記憶し、一つ足りとも忘れる筈がないというのが彼女の『機能』。つまり、今の彼女は記録者としての不具合、イストワールという存在の揺らぎの可能性を感じたも同然であり……一度自らを落ち着けるように、視線を窓の外へと移す。

 

「…ひょっとすると、今になって疲労が顕在化してきたのかもしれませんね……(´-ω-`)」

 

 目頭を指で押し、小さく一つ深呼吸をし、彼女は自嘲気味に笑う。

 もしも忘れる事がない彼女が何かを忘れているとしたら、それは緊急事態以外の何物でもない。しかし今し方感じたものはそうだと断言するには程遠く、また彼女は機械ではない。疲労もすれば時に体調を崩す事もある、女神同様極めて生命に近い存在であり、そのせいで一瞬調子が狂っただけかもしれないのだ。

 教祖として、国の守護も指導も最前線で行う女神達をサポートする為には、まず自分が万全の状態でいなくてはならない。それに自分が体調を崩せば、その女神達が、何より妹同然の存在であるイリゼが心配してしまう。それではいけない、それは自分の望むところではないと、彼女は自分に対して苦笑いするように軽く肩を竦め……

 

「……あら…?」

 

 視線を向けた窓の外、どこまでも広がっている空の中で……今度こそ、はっきりとした違和感を抱いた。

 一見どこにもおかしな点はない。いつも通りに見える空。だが、それでも…その空に、その空で、何かが起きようとしている…そんな感覚が、彼女の中には確かにあった。

 

 

 

 

 戦いの音が聞こえなくなってから、どれ程の時間が過ぎただろうか。最深部から大きく離れてしまった今はもう、音でまだ戦いが続いているかどうかを判別する事が出来ない。

 

「…やっぱり、道中よりもモンスターが少ない……」

 

 飛んでギョウカイ墓場の外を目指しながら、周囲を見回しぽつりと呟く。

 犯罪神の咆哮に呼応するように、次から次へと現れたモンスター。行きに比べて今は発見出来た数が少ないという事は、予想通り集まってきたモンスターはもう一人のうずめやレイが用意したものではなく、元々墓場にいた個体であると見て間違いない。

 つまり、本当に何から何まであの二人は仕掛けなどせず、事の成り行きに任せていたという事になる。手を出すまでもなく、その必要などなく…既に、恐らくは前回私達が墓場から離脱した時点で、為すべき事は終わっていたという事になる。しかもそれを、つい先程まで私達に気取らせないまま。

 

「お姉ちゃん。さっきのモンスター達の中に、猛争個体がいたのは……」

「予め、ここに放っていたんでしょうね。それも、戦力増強じゃなくて、別の目的…或いは、単なる戯れの為に。じゃなきゃ、猛争モンスターの数が半端過ぎるもの」

 

 今、ネプギアとネプテューヌが話していた事もそう。猛争モンスターは普通のモンスターよりは面倒だったとはいえ、特別脅威になった印象はない。正直、全体から見た数の割合を考えれば、猛争モンスターは戦局に対して影響を与えてないんじゃないかと思う。

 それもこれも、不可解過ぎる。私達が向こうにとって不都合な手段やタイミングで撃破を行おうとしたら、どうするつもりだったのか。そもそもの話として、向こうは私達が各国に分かれてる間に仕掛ければ各個撃破も十分出来た筈なのに、その方が楽だろうに、何故そうしなかったのか。犯罪神をシェアエナジーを集める器としてまで、一体何をしようとしているのか。うずめからはあまり敵意らしい敵意を感じない事も含めて……二人の真意が、全くもって分からない。

 

(…二人の目的は、信次元を滅亡させる事じゃないの…?いや、でも…信次元全土にあんな事をしておいて、そんな訳……)

 

 疑念ばかりが渦巻く、私の思考。ジャッジ達なら、四天王ならきっと成功させてくれると確信があるからこそ、皮肉にもそれが心の余裕になって、渦巻く疑念が気になってしまう。

 そんな中、インカムに入ってくる通信。機械越しに聞こえてきたのは…イストワールさんの声。

 

「…皆さん、現在はギョウカイ墓場のどの辺りですか?」

「もうすぐ出られるわ。こっちの状況は分かってる?」

「聞こえていました。思うところはありますが…わたし達教祖は全員、皆さんの判断を支持します」

「…ありがとな。で、そっちから連絡って事は…何かあったのか?」

「いえ、今はまだ何もありません」

 

 四人の教祖を代表して私達の選択を肯定してくれたイストワールさんに、ブランは勿論私達も心の中で感謝を伝える。

 でも、これまでは応答に徹していたイストワールさんが通信をかけてきたのなら、そこには何か理由があるに違いない。それを感謝の言葉から続いてブランが訊くと、イストワールさんは含みのある言い方でそれを否定。

 

「今はまだ…という事は、これから何か起きそうなのでして?」

「そういう事です。ですが正直、説明が難しい事なので、一先ずは外に出る事を優先してもらえますか?」

「了解です。それでは墓場から離脱次第、こちらから通信をかけますね」

 

 私がイストワールさんからのお願いに返し、一旦通信は終了。渦巻いていた疑念を一度頭の隅に追いやって、私は気持ちを切り替える。

 これから起きそうな事が、何なのかは分からない。でも声音からして、重要な事であるのは間違いない。

 

「イストワールさんが言ってることって、外に出たらわかるのかしら……」

「わかんない…でも……」

 

 少しでも早く、と私達を送り出してくれた四天王の為にも、とにかく今は出る事が最優先。確認するまでもなく、全員がそう考えていて……そうして私達は最後までスピードを落とす事のないまま、ギョウカイ墓場の外に出る。

 

「…異常は…なさそう、ですね。…でも……」

 

 抜け出すと同時にユニは高度を上げ、ぐるりと見回し周囲を確認。私達も周囲へ視線を巡らせるけど、これといっておかしなものは見当たらない。

 だけど、何かがおかしい気がする。具体的にどうとは言えないけど、感覚として何かが……

 

(…っと、いけない。それも気になるけど、まずは連絡しないと……)

 

 離脱次第通信するって言ったんだから、今はそっちの方が大事。この違和感と、イストワールさんの言わんとしている事が関連しているかもしれないし、通信しながら考える事だって出来るんだから。

 そう思って、離脱した事をイストワールさんへ伝えようとした……その時だった。

 

『……っ!』

 

 遥か後方に巨大な力を感じ、私達は殆ど同時に全員振り向く。振り向いた先にあったのは、膨大な量の闇色の光…負のシェアエナジーが天へと昇っていく光景。

 それを見て、その光景で、私達は理解した。あれは、犯罪神を形作っていたシェアエナジーだと。四天王は、私達との約束を…臣下としての務めを果たしたのだと。

 

「マジックさん…皆さん……」

「無事、やってくれたようね。…けど、霧散させたって事は……」

「えぇ。やはり、それも計画の内であったようですわね…」

 

 彼等は為すべき事を果たせたんだという思いと、召喚主である犯罪神が消えたという事はつまり…という思いで、少しだけ感傷的になる心。

 でも、その感情に浸っている時間はない。それを示すように、霧散し消えていくだけの筈のシェアエナジーは、消える事なくどんどん空へ、高く天空へと舞い上がっていく。

 

「…ミナ、そっちでも…じゃねぇな。各国でも確認出来てるか?」

「はい。あれは、犯罪神の……」

「確かに、相当な量ね…しかもそれが、空に吸われていくように……」

「けれど、空に目に見える何かがある訳じゃない。黄金の塔同様、不可視になっているだけなのか、それとも……」

 

 ある種幻想的でもある光景だけど、それはもう一人のうずめ達の下へあれだけのシェアエナジーが奪われている証左。

 そう。犯罪神の復活は防げたけど、まだ終わりじゃない。今から私達は備えなくてはならない。あれだけのシェアエナジーを利用してまで、彼女達がしようとしている事に。

 

「……!皆、あれを見て!」

 

 声を上げ、空を指差すネプテューヌ。プロセッサユニットに包まれた指が示す先にあるのは、割れるようにして更に開いた空間の穴。同時にそれは、空に昇るシェアエナジーの向かう先であり……そして、彼女達が現れる。

 

「…やぁ、少しぶりだね皆。でも、随分と出てくるのが早いじゃないか。誰か、スピリットのコントロールの基礎でも学んでいたのかな?」

「ふぅん…それに案外ピンピンしてるじゃない。犯罪神なんて、所詮は名前負けの雑魚だったって事かしらね」

 

 空の穴より現れた影は三つ。一つは脚を組み、にこりと柔和な笑みを浮かべている恐らくは女神の少女で、一つは開口一番嘲りの言葉を発する女神。最後の一つは、これまで私達が相手にしてきたものとは格が違うと気配で分かる一体の巨人。

 

「いやいや、強いものだよ犯罪神は。あくまで今の君が規格外過ぎるだけさ」

「あはっ、貴方が弱いんじゃない、私が強過ぎるだけってやつ?まぁ尤もぉ、私からすればどいつもこいつも弱過ぎるんだけどー」

「…その余裕綽々な口振り…やっぱり、わたし達が犯罪神の復活を阻止する事も織り込み済みだったのね」

「…へぇ。ねぷっちこそ、その表情…オレ達の狙いに気付いたって訳だね」

「そいつに気付いたのはトリックだ。テメェ等が、予想していなかった四天王のな」

「そうかい。だけど何れにせよ、得られた結果は変わらない。…感謝するよ、シェアエナジー回収に協力してくれて」

 

 ダークメガミの肩に腰かけたまま、うずめはこちらに手を振ってくる。その様子は、皮肉ではなく本当に感謝を伝えているようで…やっぱり彼女は、本心と呼べる思いが見えてこない。

 

「…ならば、答えてもらおうか。あれ程のシェアエナジーを利用し、貴様等が行おうとしている事はなんだ。負の感情の体現者たる犯罪神を利用してまで、貴様等は何を望む」

「はぁ?なんでそれを白髪のババァに教えなきゃいけないんですかー?」

「私達は勝手に協力させられたのだ、この程度の賠償はあって然るべきだろう。…あぁ、それと…貴様が外見だけを見て短絡的に言っているのか、私を原初の女神の複製体である事を踏まえた上で言っているのかは知らないが…貴様とて、最古の国の女神だったのだろう?では…真に老骨であるのは、一体どちらであろうな」

「あ…煽りますわねイリゼ……」

 

 だからこそ、私はその当人に訊く。本人がここにいるのだから、直接訊かない理由はない。

 それに対して、返ってきたのはレイの嘲笑。それを聞いた私は、気にする事なく毅然と返し…たつもりだったけど、いつの間にか煽り返していた。その理由は当然、奴の言いようが気に食わなかったからだけど…仮にも同じ『最初の女神』だからか、奴は嘗てのマジェコンヌさん以上に気に食わない。

 

「…ちっ、ほんっと目障りな蛆虫ね……」

「ふふ、これは上手く返されてしまったねレイ。けどまぁいいじゃないか。ここまで順調に試練を突破し、協力もしてくれた彼女達に、少し位褒美をあげても」

「はっ、仲良しこよしが好きなアンタらしいわね。なら勝手にどーぞ」

「うん、そうさせてもらうよ。…さて、質問に対する回答だけど…オレと彼女が最終的に目指すところは違うよ。その最後に至るまでの道中は近いから、こうして手を組んでいる訳だけど。で、オレの目的は……憎むべきこの次元への、正当なる復讐」

『…………』

「…なーんて、下らない事じゃないよ、そもそもオレも女神だからね。だからオレも望んでいるのさ。次元がより良く、より正しくなる事をね」

 

 肩の上で立ち上がり、語るうずめ。その表情は、笑みが消えて真面目な顔となり……次の瞬間、うずめは『復讐』という言葉を口にする。

 復讐。それは、受けた仕打ちに対し、悪意を持って報復する事。怒りが、憎しみが原動力となる行為。でもその言葉に私達が視線を鋭くすると、うずめはふっと表情を緩め、復讐という言葉を撤回した。

 下らないという事には同感する。でもだからと言って、その後の言葉にまでは同感出来ない。一体どの口で、うずめがそれを言うんだ、と。

 

「次元がより良く、より正しく、ね…貴女のこれまでの行動は、とてもそんな事には繋がっていないと思うけど?」

「表面的には無関係どころか逆に見える行いでも、裏では繋がっている…なんて、政治の中では珍しくもない事だろう?…そして、もう一つの質問の答えだけど…それは、説明するより実際に見てもらう方が早いだろうね。さ、始めようかレイ」

「あー、はいはい。…言っとくけど、こいつの言う事は信じない方が身の為よ?こいついっつも調子の良い事ばっかり言ってるし、その癖思い通りにいかないと……」

「……レイ」

「何よ、自分だって散々無駄話してたじゃない。ま、いいですけどー。どっちにしろあいつ等全員、最後は惨めに這い蹲る訳だし」

 

 本心は見えない、でも嘘を言っているようにも見えないうずめは、ノワールからの言葉に返した後に視線をレイへ。すると何の気紛れか、レイはこちらへの助言を口にし…一瞬流れる、険悪な空気。でもその空気もレイが面倒臭そうに肩を竦めた事で霧散し、同時に二人とダークメガミの周囲で負のシェアエナジーが渦巻き始める。

 

「ちっ、何をする気か知らねぇが…ッ!」

「わたくし達が、黙って見ていると思いまして?」

「まさか。だからオレも、今回は迎撃させてもらうよ」

『な……ッ!?』

 

 見上げる形で睨め付けるベールとブランを先頭に、これから二人が行わんとしている事を止めるべく突撃をかける私達。けれどうずめの返答に呼応するようにダークメガミは両掌部をこちらへと向け、掌底部からのビームを照射。散開する事で私達は複数方向からの攻撃を仕掛けようとするも……次の瞬間、私達は愕然とする。開いたままの穴…そこから新たに現れた、四体の巨大な存在の姿に。

 

「人々が目覚めつつある今の君達なら、この四体を倒し切ってしまうかもしれない。けれど、こいつは特別製でね。幾ら君達でも、流石にこれは無理難題というものだろう?」

「……っ…そんな、事…ッ!」

 

 現れた巨人、これまで私達が遭遇してきた四種と同型らしきダークメガミは私達を一瞥すると、次々と翼を広げてこちらへと攻撃を放ち始める。

 一気に跳ね上がった敵戦力を前に、臆しなどしないとばかりに声を上げるネプギア。だけど、そこに続くべき言葉はない。私達も、歯噛みしか出来ない。

 確かに、四体だったら私達全員で何とか倒せる可能性はある。だけどそこにもう一体、格の違いが一目で分かるダークメガミも加わり、更にうずめ達がしようとしている事の阻止…つまりは制限時間のある中でとなると……悔しいけど、うずめが言った通りだと言わざるを得ない。

 

「(けど、撃破は無理でも…突破だけなら…ッ!)ロムちゃん、ラムちゃん、道をッ!」

「みち?あっ、そーゆーことねっ!」

「まかせて…っ!」

 

 光芒とエネルギー刃による弾幕を避けながら、私が二人へと発した言葉。それだけで意図を汲んでくれた二人は空に向けて魔力の光を照射。

 一見単純な魔法攻撃に見える、青白い光。けれど空へと伸びた二条の光は、ある時点から急速に固まっていき、二つの氷のレールへと変化。そしてそれを道に、私は攻撃目標へと駆け上がる。

 

「ほぅ、考えたね。けど……」

 

 これまでの戦いから、マジェコンヌさんが融合したダークメガミ(私は戦った事ないけど)以外はモンスター程度ではないにしろ、そこまで高度な思考に基づいた動きはしない事が分かってる。だから四体のダークメガミはどれも避けてくれたし、氷のレールもエネルギー一発で全壊する程脆くはない。勿論集中攻撃を受ければ別だろうけど…それは、皆が許さない。

 だけど、うずめが足場としているダークメガミは違った。そのダークメガミは両腕部を軽く広げると、再び掌底部からビームを照射。それ等は私ではなく、二本のレールをその大出力で飲み込み、そこから挟み込む形で左右から私へと迫っていく。

 

「く……ッ!(炙り出された…ッ!)」

 

 最初から私を狙うのではなく、先にレールを潰し、その上で私を狙うという攻撃。私だけを狙ってくれるのであれば、レールは無事だった可能性もあったのに、その攻撃によって私は道を失った。

 それでもある程度は近付けたのだからと、ロールをかけながら回避した私は更なる上昇を狙ってみる。狙ってみるけど…やはり、四体のダークメガミが繰り出す全方位の攻撃と、もう一体のダークメガミが放つ集中砲火を、私一人で強行突破するのは困難。

 

「イリゼ、無事!?」

「大丈夫!でも……!」

「えぇ、あの奥のダークメガミが厄介ね…明らかに時間稼ぎを狙ってるわ…!」

 

 光芒を避け、エネルギー刃を斬り払い、押し返されながらも反撃を狙う私の元へ、まずネプテューヌが、続いてノワールが飛んでくる。

 今ノワールが言った通り、うずめが乗るダークメガミは積極的な攻撃はせず、さっきの私みたいに突破しようとする動きがあればそれを潰し、なければ四体のダークメガミを火力支援で支える事で、こちらの攻め手を妨害してきている。もしこれが、撃破ないしは撃退目的の戦闘なら、気を付けつつも後回しにすればいいだけの事だけど…突破を狙う状況で、こういう動きをされるとただでさえ高い難易度が更に上がる。

 こっちの士気は高い。墓場からの連戦と言っても、まだ余裕がある。だけど……届かない。

 

「……っ…せめてもう少し時間があったら、艦砲射撃でこっちも援護を受けられたのに…!」

「無い物ねだりしたってしょうがないでしょ!こッ、のぉッ!」

 

 姿勢制御の為に大きく翼を広げたユニの、大出力射撃。射線上のエネルギー刃を貫きながら光芒は伸びていくも、紫のダークメガミが腕部に備える盾状の装備によって防がれ、お返しとばかりに掌底部ビームとエネルギー刃がユニを攻撃。ユニもまたビームは避け、エネルギー刃は割って入ったネプギアが全て斬り払う事ですぐに二射目へと入っていくも、中々有効打には至らない。

 飛び回りながら連携して魔法を放つロムちゃんとラムちゃんもそう。私と守護女神の四人も迎撃を安定して抜く事は出来ず、女神候補生組に比べると何かしら劣る遠隔攻撃を打ち込むだけじゃ話にならない。それでも散発的ながら一応は攻撃を当てられている私達と、今のところまともなダメージを与えられていない向こうとじゃ、こっちの方が若干優勢だけど……それじゃあ駄目。若干優勢程度じゃ、足りな過ぎる。

 

「あーあー頑張っちゃって。無駄な努力なのに、涙ぐましいものですねー」

「とはいえ、まぐれで突破してくる可能性もゼロじゃない。油断せず、さっさと準備を……」

「私は出来てるんですけどー?足を引っ張ってるのは、どっちかしらねぇ?」

「…悪いね。けど…オレももう、準備完了さ」

 

 攻めあぐねる中、うずめとレイが交わすやり取り。激しい戦闘音で、上手く聞き取る事は出来なかったけど…感覚的に、私達全員が理解した。タイムリミットが、もうやってきてしまったのだと。

 見れば、全てのシェアエナジーが集まっているのか闇色の光は濃密な渦となり、空に開いた穴からも落雷の様に何度もスパークが迸っている。

 そして次の瞬間、うずめの指示により四体のダークメガミは二人の周囲へと後退。当然私達は攻め込もうとするけど、五体による面制圧攻撃で行く手を阻まれ、守るようにして再展開するダークメガミ。

 

「待たせたね、皆。これから起こるのは、君達にとっても想像を遥かに超える事だろうから、是非じっくり見るといいよ」

 

 止められなかった。私達はその無念さで睨む事しか出来ない中、薄く笑い、けれど瞳には真剣さを浮かべてこちらへと投げかけるうずめ。そうしてうずめとレイは声を上げる。空へと、穴へと、負のシェアエナジーへと向けて…言い放つ。

 

「──これは、誤った世界へと下す、正しき裁定…その始まり。虚ろなる幻夢の世を糧に、次元に渦巻きし悪意がもたらした力を持って、顕現する新たな事象」

「間違った世界、間違った未来、その全てに断罪を……さぁ、現れるが良いわッ!懐かしい、忘れる筈もない、私の忌まわしい国家……タリぃいいいいッ!!」

 

 詠唱の様に唱えられた、二つの言葉。うずめが告げ、レイが叫び……それが引き金となったかのように、負のシェアエナジーは強く輝き出す。

 更に激しくなるスパーク。空間の揺れとでも言うべき振動が、衝撃が全方位へと広がり、否が応でも緊迫する空気。

 何が起こるか分からない。けれど間違いなく、想像絶する何がが起こる。私達全員が肌で、直感で、感覚の全てでそう感じる中、爆ぜるような輝きと共に空の穴へと迸る闇色の柱。そして、その光が収まった時、空にあったのは…………ダークメガミなど遥かに超える、空の一角を完全に我がものとする──大陸だった。

 

 

 

 

 信じられなかった。目の錯覚か、或いは幻覚かと思った。そう簡単には信じられない。信じられる訳がない。……空に、四ヶ国のどれとも違う大陸が現れるなんて。

 

「…は、ははっ…自分でやった事だけど、いざ実際に見ると圧巻だね……」

「…あぁ?なーんかこれ…私の記憶にあるタリと所々違うんだけど?」

 

 私達が茫然とする中、初めに口を開いたのはうずめ。彼女にとってもこれは驚きのものだったのか、乾いた笑いが空から聞こえる。

 

「そうなのかい?…まぁ、本来タリがあったのとは違う次元で、本来タリを構成していたのとは違う素材を使って、擬似的に再現したものなんだ。そこに予め手も加えているんだから、多少の差異は起きて然るべきだろう」

「あ、そ。まぁ何にせよ疲れたし、ちょっと位は思い入れがない事もないから、取り敢えず私はタリに……って、何?虫ケラ共、まだいた訳?」

 

 完全に着いていけていない私達とは対照的に、レイは現れた大陸…タリと呼ばれたそこへ向かおうとして、呆れたようにこちらを一瞥。でも興味がないのか、今は敵意すら感じない。

 

「ふふっ…どうだい、凄いだろう?これがオレとレイの力さ。勿論、色々集めた上ではあるけど、ね。…さてと、レイじゃないけどオレも暫くはこの大陸を調べたいし、今日はこの辺でお開きにしようか」

「……っ…!ま、待ちなさいうずめ!貴女達は……」

「おっと、今言った通り暫くは邪魔されたくないんだ。だから、足止めさせてもらうよ」

 

 続く形でうずめとうずめが立つダークメガミも離脱しようとしたところで、我に返ったネプテューヌが待ったをかける。だけどその言葉にうずめは一度振り向いただけで……向かってくるのは、足止めを担う四体のダークメガミ。

 

「ぐっ……皆、一先ずここは……」

「はい!皆さん、わたし達が援護します!」

 

 今逃げられたら、また色々と仕組まれる。だから何としても追いかけたいところだけど、四体のダークメガミはとても無視出来るような相手じゃない。今度はまだ突破出来る可能性もそこそこあるけど、無理に突破しても前後から挟撃を受けるだけ。

 追うのは一度諦め、ここで四体を倒すしかない。そう決断した私がまず声を上げ、言い切る前に察したネプギアがM.P.B.Lを構えつつ返答。私も皆も追いたい気持ちに後ろ髪を引かれはしているけど、依然士気は落ちてない。

 だから今ネプギアが言った通り、私と守護女神の四人が仕掛け、候補生の四人に援護してもらうという形で、ダークメガミとの戦闘を再開しようとした……その時だった。

 

 

 

 

『………………え…?』

 

 私達が動き出そうとした時、ダークメガミが攻撃を開始しようとした時、戦いの火蓋が再び切って落とされようとした時……突如、誰一人として予想しない形で、天空より飛来した一つの光。それは、たった一条の光で……だけど私はそれを、眩い閃光のように感じた。膨大な、光の奔流の様に思った。そして、その光が駆け抜けた直後、先頭にいたダークメガミの動きが止まり……真っ二つに、両断される。

 

「…な、に…?何が、起こったの……?」

「……っ!あ、あれって……」

 

 再び私達は茫然とし、訳が分からないとばかりにネプテューヌが呟く。更にその数秒後、何かを見つけたネプギアが声を上げ……だけど、私はそのネプギアよりも早く、誰よりも早く…閃光が駆け抜けた時点で、気付いていた。その存在に……いいや、その人の存在に。

 

「……ぁ、あ…あぁぁ…………」

 

 風にたなびく真っ白な髪に、ある人物と全く同じ背丈。ある人物とよく似た翼を有し、その手にあるのはある人物の得物と同じ武器。背を向けている為、顔は見えないけど…その人物の、彼女の瞳は濃い黄色。

 何故分かるのか。そんなものは、考えるまでもない。分からない筈がない。だって彼女は…私なのだから。(イリゼ)なのだから。

 だけど、違う。彼女、あの女神は、私であって私じゃない。(イリゼ)であって、複製体(イリゼ)じゃない。限りなく私と同じ、けれどある一点において決定的に違う彼女は……

 

 

 

 

 

 

 

────滅びに瀕していた人類を救い、人類文明繁栄の礎を創り、ある段階でイストワールさんを、後世で私を生み出した……紀元前に誕生した、信次元ゲイムギョウ界最古にして最大規模の国『オデッセフィア』の守護者……原初の女神(オリジンハート)だ。




今回のパロディ解説

・スピリットのコントロールの基礎
DRAGON BALLシリーズにおける、瞬間移動能力の事。もう少し言うと、スピリット(地球で言う気)を使う技術の基礎の基礎が瞬間移動、という事ですね。

・「〜〜貴方が弱い〜〜強過ぎるだけ〜〜」
ポケモンシリーズにおける、あるジムのトレーナーの台詞のパロディ。…確かフスベジム…それかキッサキジムの女性トレーナーの台詞だった…と、思います…多分……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。