超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第八十五話 原初の力

 天空より降り注いだ、一条の閃光。遥か高みより舞い降りた、水晶の如き翼を持つ女神。

 原初の女神(オリジンハート)。信次元ゲイムギョウ界の歴史において、初めて奇跡が形となり、人類文明繁栄の先導者となった、信次元最初の守護女神。

 彼女が守り、導いた国家オデッセフィアはもう存在していない。人の強さを、心の力を信じた彼女が歴史の表舞台から姿を消し、未来へと進む中で四つの国に分かれた事で、原初の女神もオデッセフィアも、過去の存在へと変わっていった。…その、筈なのに……

 

「…あぁ…ああ、あぁぁ……」

 

──その女神は、原初の女神は、オリジンハートは……もう一人の私は、確かにそこにいた。そこに、私達の前に……圧倒的な力と共に、現れた。

 

「…彼女、は……」

「…イリゼ、さん…です、か……?」

 

 頭部から股間部までを真っ二つに両断され、崩れ落ちるダークメガミ。あまりにも唐突過ぎて、あまりにも突然過ぎて、あまりにも常識外れ過ぎて一瞬気付けなかったけど…今は分かる。あれは、もう一人の私がやったのだと。一瞬で、一撃で……ダークメガミを、沈めたのだと。

 悠然と空に立つもう一人の私の姿を見て、ネプテューヌとネプギアが呟く。後ろ姿とはいえ、私達は何度も共に戦ってきた間柄。加えてネプギアは後衛…私を後ろから見る位置で戦う事も多いから、何となく分かるのかもしれない。

 

「…イリゼちゃんが、二人……?」

「…ぶんしんの、じゅつ…?」

 

 もう一人の私から私へ、困惑した顔で視線を移すのはロムちゃんとラムちゃんの二人。けれど、それも当然の事。私だって驚いているんだから、他の皆がすぐ飲み込める筈がない。

 そんな中、新たな女神の襲来に、一太刀で両断された味方を前に、止まっていたダークメガミが動き出す。

 

「……っ!イリゼ()ッ!そいつ等は手強──」

 

 最初の一体が撃破された事で先頭となった個体が左腕部を掲げるのを見て、反射的に私は声を上げる。けれど次の瞬間…もう一人の私は既に、その場にはいなかった。

 振るわれる…いや、振るわれていた右手の剣。相手が巨体である為か、シェアエナジーによって伸長されていた刃はダークメガミの右手首を斬り落とし、収束していたエネルギーは光芒として放たれる事なく爆発。そしてまた、斬り落とされた時点でもうそこにもう一人の私の姿はない。

 腕諸共左肩部が斬り落とされる。真正面より頭部を貫かれ、引き抜きざまに右側を引き裂く。駄目押しの如く袈裟懸けで右肩部からダークメガミの胴を斬り裂き、反撃はおろか対応すら出来なかったダークメガミは一体目の後を追うように落ちていく。

 

「…嘘だろ……」

「なんて強さですの…」

 

 落下するダークメガミを一瞥もせずに、もう一人の私は残りの二体へ。その姿を私達は、茫然とした表情でただただ見つめる。

 強いなんて次元じゃない。もう一人の私の動きは、目で追い切れなかった。本当に普通の人にとって、女神の本気の動きはそもそも視認出来ないらしいけど…そんな女神である私達ですら、視認が追い付いていなかった。

 全身の発射部位から放たれるエネルギー刃の迎撃を、殆ど直線で…つまり、迎撃がまるで脅威になっていないと分かる軌道で突破するもう一人の私。最早これは戦いじゃない。戦いの形を成していない。赤子の手を捻るような、女神化せずとも余裕で倒せるモンスターを女神化状態で相手しているような……一方的な、完全なる蹂躙。

 

(…あぁ、凄い…これが、これこそが原初の女神…彼女が、この人が…私が、私の……)

 

 一切速度を落とす事なく、身体の向きがダークメガミから逸れる事なく、当然その上でエネルギー刃を掠らせもせずに三体目へ肉薄したもう一人の私は、二体目と同じように三体目も撃破。

 その凄まじい力に、桁外れの強さに、私の心は震えていた。圧倒的な力によって証明された、彼女がもう一人の私であるという事実を前に、私の心は奪われていた。今、私が見ているのは……もう一人の私だけ。

 

「あ、はっ…ああ、あぁぁ……」

「…イリゼさん……?…あ……」

 

 見惚れていた私の口から零れる、言葉にならない声。その内、目元がじんわりと熱くなって…ユニに声をかけられてから、私は気付いた。いつの間にか自分が、涙を流していた事に。

 気付いた事で、認識する。私の中で湧き上がってくる気持ちを。押し寄せてくる思いを。

 

「皆さん、聞こえてるですか!?」

「あ、はい!…え、コンパさん…?」

「さっきの通信の前に、より詳細な状況把握と対応の為にって事でイストワールからそっちへ行くよう頼まれたのよ!もうすぐ着くから、そっちで今起きてる事を教えて頂戴!」

「え、えぇ…けれどその、わたくし達もまだ状況を飲み込めていないというか…恐らく、口頭での説明だけでは混乱を招くだけな気がしますわ……」

 

 そんな中不意に聞こえてきたのは、コンパとアイエフの声、それに風を切る音。それにネプギアとベールが返答し、もう一人の私は最後の一体へ攻勢をかける。

 近付かれたら勝ち目はないと判断したのか、正対したままダークメガミは退いて距離を取ろうとする。そのダークメガミに対し、もう一人の私は周囲へ無数の武器を精製し、それ等を射出。圧縮されたシェアエナジーの爆発により展開した武器が撃ち出され、ダークメガミへと襲いかかる。

 それ自体は、私も普段から行う攻撃の一つ。けれど、規模が違う。もう一人の私は、私なら一度にそう多くは精製出来ないサイズの武器を、一瞬ではとても数え切れない程の量で…それも瞬く間に展開し、それを惜しげもなく放っていく。

 

(…レベルが、違い過ぎる……)

 

 戦闘艦の機銃が如く、嵐の様に武器がダークメガミへ喰らい付く。迎撃のエネルギー刃など物ともせずに飛来する武器は装甲のない関節部を撃ち抜き、装甲もその威力と数で次々と砕き、何十もの、何百もの武器がダークメガミの全身へと突き刺さっていく。

 巨大剣、巨大槍、巨大斧…私達の何十倍もの巨体を誇るダークメガミであっても一撃一撃が有効打となるであろう武器の数々の殺到により、動きの止まるダークメガミ。それを前に伸長した刃を持つもう一人の私は空を蹴るような動きを見せ……次の瞬間にはもうダークメガミの目前。放たれた刺突はダークメガミの胸部を貫き……もう一人の私が剣を引き抜くと同時に、最後のダークメガミも崩れ去った。

 

「…一方的、だったわね……」

「勝負にすら、なってなかったな……」

 

 ぽつり、ぽつりと聞こえる声。それは驚きであり…同時に、ある種異質であると感じている声音。

 圧巻だった。加勢の必要なんてない、加勢しようという意識すら生まれない程の、 完全な無双。…だけど、当然だ。そうに決まっている。だって、もう一人の私なんだから。複製体の私ではない、真なる原初の女神なのだから。

 

「…………」

 

 空へと溶けるように伸長されていた刀身が消え、ゆっくりと振り向くもう一人の私。静かに、私達を見据える濃黄色の瞳。

 かけたい言葉がある。伝えたい思いがある。けれど、向かい合った瞬間…自分と同じ顔をした、もう一人の私に見られた瞬間、私は何も言えなくなってしまった。自分でも分からないけど、声が出なくなっていた。そして私が固まっている中、皆を代表するようにネプテューヌが前へ。

 

「…突然の事で、まだ理解が追い付いてないけど…助かったわ。えっと…イリゼでいいのかし──」

 

 多少の困惑を籠らせながらも、ネプテューヌはもう一人の私へと声をかける。そうして、もう一人の私へと近付こうとした……その時だった。

 

『……──え?』

 

 突如として、身体を横から叩く烈風。それに私達が驚いた時…もう、もう一人の私は振り返った場所にいなかった。

 だけど、違う。いなくなった訳じゃない。姿が見えなくなっていたもう一人の私は、すぐ側に……ネプテューヌが()()()()()()の一歩前に立っていた。その手に持つバスタードソードを、振り抜いた直後の姿勢でもって。

 

『な……ッ!?』

 

 その瞬間を、直接目にした訳じゃない。けれど、こんな状況じゃ誰だって分かる。分かってしまう。……もう一人の私が、ネプテューヌへと強襲をかけたのだと。

 

「あ、貴女……」

「テメェ、一体何のつも……」

 

 そのあまりにも不可解な、理解の出来ない行動に、私達が唖然とする中、軌道を見る事すら困難な程の速度で振るわれるバスタードソード。次の瞬間、爆ぜるような勢いでベールとブランも吹き飛ばされ、彼女の髪だけが静かに舞う。

 

「……ッ!ユニ達は下がりなさいッ!この距離じゃ何も出来な……」

 

 気付けば吹き飛ばされていたネプテューヌ。訳も分からないまま左右に跳ね飛ばされたベールとブラン。あり得ない、理解も意識も追い付かない現実を前に、大切な友達が強襲を受けたにも関わらず動けない、思考が全く働かない私。

 そんな私の目の前で、険しい表情を浮かべたノワールは声を上げつつ、素早くもう一人の私の背後へ。

 そこから振り上げられる、彼女の大剣。その手に、その動きに、凡そ躊躇いと呼べるものはなく…けれど振り下ろされた刃は、何も捉える事なく空を斬る。ノワールの斬撃が放たれた時、もう一人の私はもうノワールの背後にいて……反撃の一太刀が、ノワールを眼下の大地へと落とす。

 

「お、おねえちゃん…みんな……っ!」

「な、なんなのよ…なんなのよあいつ…ッ!」

「くっ…離れて皆ッ!背中を見せちゃ駄目ッ!」

「そんな、どうしてこんな……ぁ…」

 

 次々と、例外なく一瞬で下された守護女神の四人の姿に、ネプギア達へと走る戦慄。弾かれるようにして離れ、ユニの指示の下四人は背中合わせで全方位を警戒する陣形を組もうとするけど……その陣形が完成するよりも早く、もう一人の私はその内側へと入り込んでいた。はっとした私が振り返り、背後を取られた事に気付いたネプギアの口が僅かに開き……それを最後に、四人の姿も空にはなくなっていた。

 

「…ぁっ、ぇ…あ……?」

 

 地上に幾つも出来た、クレーターと大地が抉れた跡。その中心で、或いは抉れ伸びたその先で、表情を歪めて倒れ伏すネプテューヌ達。守護女神の四人も、女神候補生の四人も、例外なく倒れ……空にいるのは、私ともう一人の私の二人だけ。

 分からない。理解出来ない。何故こんな状況になっているのか、何故こうなったのか、もう一人の私はどうしてこんな事をするのか…何一つとして、分からない。

 

「…弱い、弱過ぎる。これで、この程度で女神だというのか。こんなもので、人々を、人類を守るというのか。護り導けるとでも言うつもりなのか」

 

 自らが地へと落としたネプテューヌ達を見やり……初めて聞こえたもう一人の私の声。厳然とした、私と全く同じ声で、彼女は酷く失望したような言葉を漏らす。

 

「…だがまあ、良い。なんら問題はない。ここには、信次元には私がいるのだから」

 

 言葉を続けるもう一人の私。けれどそれは、私に対して向けられた言葉ではない。その声音からは、私に対する意識を感じられず…視線も私の方を向いてはいない。そしてその直後、もう一つの声が微かに聞こえる。

 

「ねぷねぷ、ねぷねぷっ!」

「……っ、ぅ…コンパ、それに…あいちゃんも…」

「ちょっと…どうなってるのよこれ!な、なんでイリゼが二人いるのよ!?」

 

 ただただ起こる出来事を認識する事しか出来ない私が見たのは、横倒しになったバイクと、倒れたネプテューヌに駆け寄る二人の姿。

 それを私が見やった時、もう一人の私もまた、そちらを見ていた。でも、違う。私が見る目と、もう一人の私の見る目は多分違う。そうして次の瞬間…それを証明するように、構えられる一振りの刃。

 

(…ぁ…待って、待ってよイリゼ()…それは、それだけは……っ!)

 

 もう一人の私が何をしようとしているか、それを理解しようとした私は止めようとする。いや…心の中では止めようと思っていた。だけど、嗚呼…それでも私の身体は動かない。頭が、意識が今起こっている事を受け入れるのを、飲み込む事を拒んでいて、心すら揺らいでいる。動く事で、この現実を『踏まえて』しまう事を、私の全てが拒絶している。私は大切な人と、大切な人が守りたいものを守る女神なのに。その大切な人が…大事な友達が、何よりも焦がれていた人に、今討たれそうになっているのに。

 夢かもしれない。全て幻覚、幻聴なのかもしれない。そう思う程に、そう願う程に、今起こっている事は私の思っていた世界と乖離していて……

 

「…駄目です…そんなの、駄目ですぅっ!」

 

──それは、これまでの経験から培われた直感によるものか、それともネプテューヌを思う気持ちが何かを感じ取らせたのか。もう一人の私が狙いを定めたネプテューヌへと肉薄する寸前、女神でも視認が困難な程の速度で間合いを詰めようとしたその直前……寄り添っていたコンパが弾かれるように立ち上がり、ネプテューヌの前へと立ち塞がった。両腕を広げて、友達を守るべく思いを叫んで。

 止められる訳がない。耐え切れる筈がない。コンパがもう一人の私の一撃を受けようものなら、そこにあるのは間違いなく『死』ただ一つで、私は心が握り潰されるような感覚に襲われる。その段階にまで至って、漸く私は後悔する。自分がただいるだけで、何一つとしてしていない事に。

 けれどもう遅い。後悔するには、あまりにも遅過ぎる。ネプテューヌへと肉薄をかけたもう一人の私の刃は真っ直ぐに伸び、その先にいるのは、ネプテューヌより前にいるのは立ち塞がるコンパで、そしてダークメガミを、女神を次々と下してきた刃がコンパを…………そう、思っていた。

 

「……っ!…………ふ、ぇ…?」

 

 きゅっと目を閉じていたコンパ。きっと身体を襲う衝撃に、痛みを想像していた彼女。だけど、コンパが恐らく想像していたものが実際に降りかかる事はなく……コンパがゆっくりと目を開けた時、もう一人の私が持つバスタードソードは触れる寸前で止まっていた。そして、コンパが目を丸くする中、もう一人の私はバスタードソードを下ろすと……片膝を突き、従者の様にコンパへと跪く。

 

「…申し訳ない、勇気ある人よ。私に君を傷付けるつもりなど、刃を向けるつもりなど微塵もなかった。だが、どんな理由があろうと君に刃を向け、あまつさえ斬り伏せかねない行為をしてしまった事は事実。本当に、申し訳ない」

「…え、あ…えぇ……?」

「どうか、この愚かな私を、未熟な私を許してほしい。もし許してくれるのであれば、その寛大且つ情け深い君の思いに報いれるよう、誠心誠意女神としての務めを果たす事を君に誓おう。そしてもし、許せないのであれば……私を罰してくれ。君には、その権利がある」

 

 これまでの淡々とした、悪意はなくとも冷たい雰囲気から一転して、もう一人の私の口から発されたのはコンパを慮る、コンパへ心からの敬意を払っている事が伝わってくる声音の言葉。続けてコンパが困惑する中、もう一人の私は両手で手に持つバスタードソードを掲げ、咎人が首を差し出すが如く頭を垂れる。

 

「えっ…えぇぇぇぇっ!?な、なな、何を言っているですか!?」

「言葉通りの意味だ。女神が人を傷付けるなど、あってはならない。偶然であろうと、回避されようと、そのような形になった時点でそれは女神の犯した罪。私は私の使命を果たす為、死ぬ訳にはいかないが…君からの誅罰は、幾らでも謹んで受け入れよう」

「…何を、言っているですか…?幾ら何でも、それは……」

「…………」

「……っ…そういう事なら…わたしは、えっと…イリゼ、ちゃん…?…の事、許すです!だから代わりに、ねぷねぷに…女神の皆さんに酷い事をするのは、止めてほしいです!」

 

 同じ言葉を、違う感情で二度口にしたコンパに対し、もう一人の私は静かに判断を…判決を待っている。

 そのさまに本気を見たのか、口を噤んだコンパは表情が引き締まり…次に言ったのは、もう一人の私に対する要求。もう一人の私を正面から見据えて、コンパははっきりと言い放つ。

 

「…それは……」

「ねぷねぷ達は皆、わたしの大事な人なんです!だから、わたしはねぷねぷ達を傷付けようとするなら、絶対許さないですっ!」

「……分かった。人の望みに応じ、人の願いを叶える事こそ女神の本懐。ましてや君の頼みであれば、私にそれを拒む理由はない」

「なら……」

「ああ、この場は剣を収めよう。暫くは彼女達を傷付けない事も約束しよう。だが、これではいけない。このままで良い筈がない。故に…見定めさせてもらおう。この世の、今の信次元の、女神の為してきた事を。そして、伝えよう。女神とは、どうあるべきかを」

 

 コンパからの訴えに頷き、立ち上がるもう一人の私。発言の証明をするようにバスタードソードを元のシェアエナジーへと戻し、それからコンパに…それにネプテューヌへ寄り添ったままながらもいつでも動ける姿勢を取っていたアイエフへと目を向け、もう一人の私は静かに告げる。

 そうして、更にもう一言。私からは見えないけど、恐らくは微笑み、穏やかな声音で、もう一人の私はコンパとアイエフに対して言う。

 

「君達も、思うところがあるだろう。困惑させてしまっている事も、謝罪したい。だが…何かあれば、それがどんなに些細な事でも、どんな場所であろうとも、私を呼んでほしい。私は女神。人を守る盾となり、人に仇為すあらゆるものを討つ剣となり、人の願いを叶える器となるのが私の意義。そして、君達人が笑顔に、幸せになってくれるのなら…それ以上に、喜ばしい事などないのだから」

 

 その言葉を最後に、もう一人の私は飛翔。もう自らが下したネプテューヌ達には目もくれず、どこかへ飛び去って行こうとする。

 

「……ま、待って…待ってイリゼ()…っ!」

 

 少しずつ離れていくもう一人の私の姿。遠くなっていくその姿に、会う事などない、そんな事はあり得ないと考えもしなかったもう一人の私との邂逅に、遂に私の口から零れる言葉。反射的なものじゃない、私なりの思いを込めた、もう一人の私への呼びかけ。それが届いたのか、もう一人の私は飛び去るのを止め…振り返ると共に、私の事を一瞥する。

 今も分からない。もう一人の私が、皆を討とうとした理由が。そもそも何故、もう一人の私が今ここにいるのか。でもそれは二の次。とにかく今は、この思いを伝えたい。溢れ出そうなこの気持ちを、もう一人の私に受け止めてほしい。だって私は、私はずっと、ずっとずっともう一人の私と……

 

 

 

 

 

 

「……誰だ、貴様は」

 

 

 

 

 

        え?

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた女神、姿も声もイリゼと同じその女神が四体のダークメガミを殲滅し、わたし達をもその圧倒的な力で下し、こんぱの言葉に応じる形で飛び去ってから、暫くの時間が過ぎた。今わたし達は、プラネタワーへと向かって飛んでいる。

 

「皆、本当に大丈夫…?ベール様も、無理してませんか…?」

「大丈夫ですわ。流石にあれだけ地面を捲り上げながら衝撃に引き摺られれば、痛みは残りますけれども……」

 

 心配そうなあいちゃんの言葉に応えるベール。来てくれた二人はそれぞれノワールとベールが抱えていて、何となく他人な気がしない、紫に塗り直したらきっと格好良くなりそうなあいちゃんのバイクはわたしとブランで運搬中。ただ運ぶだけなら一人でも出来るけど…バイクを一人で抱えて飛ぶなんて、ちょっとシュール過ぎるわよね…。

…と、言うのは置いといて…真っ先に一撃喰らって落とされたわたしだけど、大太刀による本能的な防御がギリギリ間に合ったおかげで、何とか重傷は負わずに済んだ。それでも打ち付けた背中は痛いし…もしも防御が間に合っていなかったら、多分わたしもダークメガミと同じ末路を辿っていた。

 

「くそっ…犯罪神の件はどこぞのELダイバー並みにどうにもならねぇ状態だったってだけでも後味の悪いものがあるってのに、一体どういう事だよ……」

「真っ先にダークメガミを撃破した辺り、向こうの味方って訳じゃないんでしょうけど……」

 

 全員自力で飛べる位のダメージで済んだとはいえ、わたし達の空気は重い。

 もう一人のうずめ達の狙いを止められず、あの巨大な大陸を発生させられてしまった事もそう。でもそれ以上に、その後起きた彼女…もう一人のイリゼとしか思えない女神の行動が、その結果が、わたし達の心に重しとなって載っている。…それに……

 

『イリゼ(さん・ちゃん)……』

 

 わたし達の後方…ロムちゃんとラムちゃんが心配そうに見つめるのは、無言で飛ぶイリゼの顔。イリゼはもう一人のイリゼと思しき女神が現れて以降、殆どずっと茫然としていて…今のイリゼは、声をかけても弱々しい反応しか返ってこない。こんなにも暗く沈んだイリゼの姿は、もう久しく見ていなかった。

 

(…負け、なのかしらね……)

 

 うずめ達を止める事は出来なかった。イリゼらしき女神も、自ら退いてくれただけ。犯罪神の復活阻止も、うずめ達の策略の内にあった以上、とても勝ったなんて言えない。

 これまでにも、負ける事は何度もあった。けれど最近は、負けるにしても痛み分け程度には出来たり、次に繋げる為の撤退だったりしたから…やっぱり、悔しい。悔しいし…うずめ達にしてもイリゼらしき女神にしても、何か策がなきゃきっとまた同じ結果になる。幾らわたしでも、次はまぁ何とかなるわよ…なんて、楽観的には思えない。

 

「…お帰りなさい、皆さん」

「いーすんさん…はい、戻りました」

 

 それから数分後、プラネタワーに到着したわたし達は、変に注目を集めないようプラネタワーの側面側に着地。道中で出来る限りの説明はしたから、迎えてくれたいーすんも神妙な顔をしていて……わたし達も、あまり元気な言葉は返せない。でもそれは…というか、これが国民の皆なら、無理にでも不安にさせないようきっと笑顔を浮かべていたわよね…。相手がいーすんだから、ついこんな反応をしちゃった訳で…。

 

「…一先ずは、中に入りましょうか。皆さんもまずはゆっくりして下さい」

 

 身を案じてくれたいーすんの言葉に、わたし達は揃って首肯。わたし達自身、起こった事を纏める為にも一旦は落ち着きたい。

 そう思って女神化を解き、中へ向かって歩き出そうとした……その時だった。

 

「……?…この、感覚は……(´・ω・)」

「へ?イストワールさん、どうかしまし……」

「あれっ、ちょっ……うわぁああああぁぁっ!?」

 

 ふと何かに気付いたのか振り向いたいーすんに、それにつられて振り向くユニちゃん。わたし達も、何だろうと思った瞬間……聞き覚えがある、なんてレベルじゃない声が真後ろから聞こえてきた。

 その直後、後ろで響くどすんっ!…という音。声と音で二重にびっくりしたわたしが振り返ると……そこにいたのは、なんとおっきいわたし。

 

「痛たた…た?あれ?この地面柔らかい?わわっ、何これ凄っ!柔らかいし温かいし、何この触り心地抜群の地面!」

「…お、おおぅ…あのー、おっきいわたし…?」

「あ、ちっちゃいわたしちょっと振り!皆もちょっと振りー!」

「う、うん…まぁそれはいいんだけどさ、おっきいわたしが乗ってるのって……」

「…さっさと、退きなさいよぉぉぉぉッ!」

「うぉわぁ!?じ、地面じゃなかったぁぁ!?」

 

 いきなり現れた…というか落ちてきたおっきいわたしの存在も、勿論びっくり。でもわたしとしては、それ以上に気になる点が一つあって…次の瞬間、上に乗っかっているおっきいわたしを跳ね飛ばすノワール。そう…おっきいわたしは、ノワールの上に落ちていた。それはもう、前に神次元で聞いた話みたいに。

 

「ったく…何をどうしたら私を地面と間違えるのよ…!」

「いや、ほら…ノワールと言えばサンドだし……」

「それはノアールでしょうが!しかもそれ、土って意味のサンドと挟むって意味でのサンドを掛けてる訳!?誰も上手い事言えとは言ってないわよ!」

「ご、ごめんごめん…本当はわたしも例の如くそれなりの高さから落下して、慌ててたもので……」

「は、はは…って、あれ?大きいお姉ちゃん、信次元にいた訳じゃないですよね…?じゃあ……」

「あーっ!そうだよ、そうだよネプギア!緊急事態、緊急事態なのっ!」

 

 ご立腹なノワールにおっきいわたしが後頭部を掻きつつ謝っていると、不意にネプギアがある事に気付く。それはかなり重要な事で…だけどその直後、誰よりも早く叫びを上げたのはおっきいわたし。そしておっきいわたしは、「今度は何!?」とわたし達がぎょっとする中……言った。

 

「皆、力を貸して!うずめ達が…うずめ達のいる次元が、今とんでもない事になってるのっ!」




今回のパロディ解説

・何となく他人な〜〜あいちゃんのバイク
原作シリーズの一つ、超次元大戦 ネプテューヌVSセガ・ハード・ガールズ 夢の合体スペシャルに登場するあるバイクの事。アイエフはアニメでもバイクに乗っていましたね。

・どこぞのELダイバー
ガンダムビルドダイバーズ Re:RISEに登場するキャラの一人、イヴの事。まずは話す事が大切ですよね。一人で抱え込んで話さないのは、周りの為になりませんもの。

・ノアール
ヤマザキビスケットが販売しているお菓子の一つの事。ノワールと言えば下敷きに…ですよね。…サンドとサンド…中々上手くありません?(自画自賛)
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