超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第八十七話 一人じゃない

 いるかもしれない誰かを、今も必死に生きようとしている、助けを求めているかもしれない誰かを、俺は見捨てる事なんて出来ない。たとえその誰かがどこにもいなくたって、徒労に終わったって、助けられたかもしれない誰かを失うよりはずっといい。そう思うから、その思いに背を向けたくはないから、俺はこの次元に残る事を決めた。

 そこに後悔はない。ある訳がない。何せ、俺が望んだ事なんだから。

 

「さて…とはいえ途方もねぇ事なんだよな…誰かいたとしても、そいつが同じ場所に留まってくれるなんて保証はねぇし……」

 

 十字路を曲がり、皆の姿が見えなくなったところで、ぽつりとそう呟く俺。

 本当に、俺がしようとしている事は途方もない。どこかに誰かがいたとしても、そいつに俺が探してるって伝える手段がない以上、もう探した場所に行っちまうかもしれない。そしてその場合を考えるなら、俺は既に探した場所であっても、何度も何度も探さなきゃならない。…いや、それ以前に…もし誰もいなかった場合、俺はどこで打ち切れば良いんだろうか。いない事をはっきりさせる…悪魔の証明だったか?…なんて、これまでだってどんだけ時間がかかるか分からない事だったのに、それをこの状況下でするなんざ……

 

「……っ…駄目だ駄目だ、マイナス思考なんて。…俺は格好良い、女神なんだからよ」

 

 頭の中に浮かんだ後ろ向きな考えを、軽く頬を叩く事で振り払う。顔を上げて、後ろじゃなくて前を向く。

 

(あぁそうだ、確かに途方もないにも程がある。けど…それでもやるって決めたんだ。だったら、前を向かなきゃ駄目だろ俺…!)

 

 言い聞かせるようにして、自分を鼓舞。続けて俺は駆け出そうとして…次の瞬間、不意に躓く。

 

「うおっ…そっか、ここは……」

 

 転ばないよう姿勢を立て直し、俺が視線を向けたのは道路の左側。そこにあるのは、無残に抉れた消滅の跡。

 ある筈の地面がなくなった事で、消滅した訳じゃない部分にも亀裂が走っている。俺が躓いたのもその亀裂に引っかかったからで、こういう環境への影響も、今は至る所に発生している。

 こういう部分にも、気を付けなきゃいけない。これから俺は崩壊が続くこの次元で、次々と二次的な影響も出ているこの中で…一人で、いるかどうかも分からない誰かを探し続けなくちゃいけない。

 

「……前を向かなくちゃって、思ったばっかり…なんだけどなぁ…」

 

 後悔なんてしてない。本気で、俺は頑張ろうと思ってる。…だけど……正直に言えば、不安だ。不安で不安で仕方がない。

 これまではまだ、辛くても自分の力で未来を切り開く事が出来た。モンスターだろうとダークメガミだろうと、俺が直面してきた脅威は『倒す』事が出来たし、生活においては協力してくれる沢山の仲間がいた。

 けど、今は俺一人。目の前に迫る脅威は、倒す事なんか出来なくて……きっと、この先の未来にあるのは完全な崩壊。この次元、そのものの消滅。俺が守りたかった、女神として変えたかったこの次元に……未来なんて、どこにもないんだ。

 

「……!やなタイミングで来やがって…!」

 

 そんな俺の暗い思考が招き寄せてしまったかのように、建物の影から飛び出してくる数体のモンスター。次元がこんな状況なのに、対話の通じねぇモンスターのする事は変わらない。…ま、どんな状況だろうと普通は食わなきゃ生きていけねぇもんな…!

 

「こちとら人探しの真っ最中なんだ、邪魔すんなっての…ッ!」

 

 メガホンを握り、飛び込んできた一体の顔面を殴り付ける。間髪入れずに膝蹴りも入れて、そこで一度後方に跳躍。他のモンスターによる攻撃を避けて、今度はこっちから奴等へと仕掛ける。

 

(はっ、気持ち的にはこうして戦ってる方が楽だな…ッ!)

 

 現れたモンスター達は、流石に集中しなきゃ倒せない、けど真面目に戦えばまず負ける事はない…そんな、今の俺にとっては丁度良い相手。だから俺は意識を戦闘だけに向け、飛び蹴りで他の個体から引き離した一体をメガホンと左の拳による連撃で一気に倒し……

 

「……ッ…!」

 

 倒れたモンスターが生き絶え、消滅する姿。見慣れている、普段なら何とも思わないその光景に…目が、止まってしまった。

 崩れるように消え、跡形もなくなっていくモンスター。その姿と、崩壊していく街や自然の光景が重なる。そして、思ってしまう。自分自身も、こうして消えていってしまうんじゃないかと。

 そんな訳ないと思いたい。だが大地も、草木も、水も建物も消えている。何もかもが崩れて無くなりつつあるのに、俺だけが無事な保証なんてどこにもない。前にねぷっち達とシェアクリスタル探しをした時話した通り、女神に次元を守るシステムとしての側面があるなら、次元の一部だっていうなら…次に消えるのは、もしかしたら俺なんじゃないのか……?

 

「…違う…考えるな、考えるな……ッ!」

 

 底のない沼の様に、闇の中へ引き摺り込むように、心の中に湧き上がる恐怖。たったそれだけで俺は動きが鈍り、残りのモンスターに攻め込まれる。

 おかしい。これまでだって、恐ろしい事はあった。ねぷっち達と出会う前は、ダークメガミに対してどうにもならないと、いつかはきっとやられると思っていた俺も、心のどこかにはいた。けれど、前は怖くなんてなかった。焦りであったり、皆に何かがあったらという不安はあっても、怖いだなんて思わなかった。…なのに、今は……。

 

「…く、そッ……!」

 

 防戦を強いられながらも、何とかカウンターで打撃を打ち込み、一体ずつ減らしていく俺。モンスターの攻撃を逸らしながらメガホンによる大振りの一撃を叩き込み、残り一体にまで減らせたが…その際に俺は体勢が崩れ、そこを残りの一体に狙われる。

 そこで反射的に選んだのは回避。脚に力を込め、路面を押し出すように横へと跳ぶ。

 その一手で、突進の回避には成功した。だが、俺が着地したのは路面に走る亀裂のすぐ側で……次の瞬間、砕ける路面。

 

(……ッ、しまっ……!)

 

 砕けたと言っても、ほんの僅か。普段なら少し驚く程度の事。だが、それによる僅かなぐらつきでも時に致命傷に繋がるのが戦闘ってもの。

 唸りを上げて飛びかかるモンスター。防御も回避も間に合わない。残された手は女神化だけで、残り一体の為だけにシェアクリスタルを一つ消費しちまうのはあまりにも勿体ない。

 でももうそんな事は言ってられない。ここでやられちまえば、それで終わりなんだから。だから、背に腹は変えられない。……そう、思った時だった。

 

「うずめッ、今だッ!」

「……!」

 

 女神化に踏み切ろうとしたその直前、横から飛んできたのは掌サイズの石。それはモンスターの腰辺りに当たり、逸れていくモンスターの突進。

 殆ど反射的に、俺は回転。その勢いを乗せた蹴りを背中に打ち込み、モンスターを路面へ叩き付ける。そして、脳天へ追撃のメガホンをぶつけ…女神化を使う事なく、残った最後の一体も沈める。

 

「…ふぅ…良かったー、上手く当たって……」

「ウィード…悪ぃな、今のは助かった……って、はぁぁぁぁッ!?」

 

 隠れてる個体がいないか確認する中、聞こえたのは安堵の声。聞き慣れたその声に、俺は何気なく言葉を返し…かけて、愕然とする。そこに、俺の目の前に、皆と信次元に行く筈のウィードがいる事に。

 

「うわっ!?な、何だよ急に……」

「いやそれはこっちの台詞だ!な、なんでここにいるんだよ!?…あ、もしかして次元移動にはまだ時間がかかる…って事か…?」

「いや、皆はもう行ったと思うぞ?」

「は……?」

「だから、俺も残る事にしたんだよ。勿論皆にもそれは話して、許可も貰ってる」

「……は、はぁああああぁぁッ!?」

 

 けろっとした顔で説明するウィード。だが、説明されてもまるで納得出来ない。むしろ訳が分からないという思いが加速し、俺は再び叫んでしまう。

 

「残るっておまっ…ば、馬鹿じゃねぇの!?ばっかじゃねーの!?」

「あ、いや、すまん……って、それは言い過ぎじゃね!?」

「言い過ぎも何も内容としちゃ一つしか言ってねぇよ!」

「その一つに濃縮されてる感凄いけどな!俺がこれまで言われた中でトップクラスに容赦ない『馬鹿じゃねぇの』だったけどな!」

「記憶喪失の癖に何を言うか!」

「そうだけども!それを言われちゃ何も返せないけども!」

 

 道路の真ん中でわーきゃー言い合う俺とウィード。なんか微妙にズレてる事を言っているような気もするが…今はそれどころじゃない。んなこたぁどうでもいい。

 

「ウィード…お前、本当に何のつもりだよ。残るって…その意味、本当に理解してんのか?」

「…当然だ。こんな選択、冗談なんかでするかよ」

 

 一先ず驚きが収まり少し頭も冷えた俺は、トーンダウンした声で改めて訊く。ウィードの意思を、考えている事を。

 対するウィードも、落ち着いた声で俺に返す。その表情には…確かに、生半可な気持ちなんて浮かんでいない。

 

「…なんで……」

「なんで、って…まあ、そりゃ…そうせずにはいられなかったから…?」

「お前…まさか、本当にそんな曖昧な理由で残ったってのか…?」

「あ、曖昧なんて事はねぇよ。確かに抽象的な言い方はしたが、軽い気持ちなんかじゃない」

「だったら、どういう事かちゃんと言えよ」

「う…それは、その……」

「やっぱりじゃねぇか…ふざけんなよウィード!ちゃんと言えもしねぇ理由で、残っていい状況なんかじゃねぇんだよもう!やっていい事と悪い事がある事位、お前だって分かるだろうが!」

 

 理由次第…って訳じゃねぇか、理由も聞かずに納得出来る訳がない。だから俺は訊いた。ウィードの真意を知りたくて。

 なのに、返ってきたのははっきりとしない答え。ちゃんと答えず、それどころか目を逸らすウィードの態度が、あまりにも適当に見えて…また俺は、声を荒げてしまう。ウィードを憎いとは、これっぽっちも思ってないのに。さっきは確かに、ウィードのおかげで女神化をせず済んだのに。

 

「……っ…ふざけてなんかねぇよ…ちゃんとした理由はあるよ。ただ、それは……」

「なら言えよ、ちゃんとした理由だって思ってんだろ!?それともあれか、疚しい事でもあんのか!?」

「ぁ、やっ…疚しいってか、だから……」

「ほらみろやっぱり言えねぇんじゃねぇか!ふざけんな…お前本当にふざけんじゃねぇよ!そんな気持ちで残ったら、ねぷっち達の思いが無駄じゃねぇか!何が起こるか分からないんだぞ!?俺だってお前だって、どうなるか分からねぇんだぞ!?なのに、なのになんでお前が残ってるんだよ!残って何するつもりなんだよ!言えもしねぇなら、そんな程度の理由だってなら、今すぐ戻ってねぷっち達と……」

「あーッ、もうッ!俺ッ!うずめをッ!一人にしたくなかったんだよッ!」

「なっ、ぁ……ッ!?」

 

 どんどんとヒートアップしていく俺の怒り。釈然としないウィードの態度に、怒りばかりが募っていく。

 歯痒かった。ウィードが言ってくれないのが。俺はちゃんと言ってほしいだけなのに、理由を言ってくれないから、誤魔化そうとするからそれが嫌で仕方なかった。まだまだ頼りなくて、しょうもない部分も多いが、それでも自分に出来る事に懸命で、真っ直ぐな心を持ってるウィードだからこそ、ウィードはそういう奴だって思っていたからこそ、はっきりさせずに済まそうとするウィードがほんとにほんとに嫌だった。

 だから俺は言葉を叩き付けた。怒りのままに、苛つきをぶつけた。俺の中にあった不安も、ウィードにもしもの事があったらっていう恐怖も混じった思いの丈を、全部全部ウィードにぶつけて……拒絶しようとした、その時だった。半ばヤケを起こしたように、ウィードが「そうせずにはいられない事」を口にしたのは。

 

「お、おまっ、何を言って……」

「うずめが訊いてきたんだろ!?あぁそうさ、そうだよ!俺はうずめを一人にしたくなくて、うずめの側にいてやりたくて、だから残ったんだ!文句あるかッ!」

「……そ、そう言われると…ない…」

「……きゅ、急にしおらしくなるなよ…こっちが恥ずかしくなるっていうか…うぅ、だから隠しておきたかったのに……」

 

 あまりにも予想外な、思ってもみなかったウィードの告白で、かぁっと一気に熱くなる頬。さっきまでの怒りはどこかへと吹き飛び、逆に俺の方がウィードの勢いに気圧されてしまう。

 だがウィードもウィードで勢い任せだったのか、俺が否定するとほんのり赤面。俺も俺でしおらしくなったと言われたのが恥ずかしくて、結果何とも気不味い雰囲気に。

 

「…けど、そんな…俺の事を気遣ってくれるのは、そりゃ悪い気はしないけどよ…たったそれだけの為に、そんな……」

「…それだけ、じゃねぇよ。それだけ…なんて事じゃない。こんな広い世界で、崩壊していくこの次元で、たった一人でいるかも分からない誰かを探すなんて…そんなの、辛過ぎるだろ……」

「ば、馬鹿にすんな。俺は女神で……」

「女神でも、女の子は女の子だろ!男として、仲間として…いいや違う。そんな理由とかじゃなくて、俺が…自分でも上手く言えないけど、ウィードっていう俺の存在が、うずめを一人になんて出来なかったんだよ…!」

 

 こんな事を言われるなんて、こんな事を思われるなんて想像もしていなかったから、どうしてもウィードの言葉を飲み込めない俺。悪い気はしないけど、ぐっとくるものもあるけど…それでも、危険を冒してまでここに残るなんて、そんなのは間違っている。

 だから俺は言おうとした。俺は女神だから大丈夫だと。心配すんなと。あぁ、でも…ウィードは言うんだ。俺を一人にしたくないって。ウィードは見てくれるんだ。俺を女神じゃなくて、一人の少女として。それはむず痒くて、変な感じで、だけど心の中がじんわりと温かくなって……ぽつりと、自然に零れる俺の言葉。

 

「…困る…困るんだよ、そんな事言われたら…俺はそれに、なんて返したらいいんだよ……」

「…それは、うずめが決める事だよ。まぁ、俺は突っ撥ねられても付いていくけどさ」

「…保証なんて、ないんだぞ…?何が起こるか分からねぇし……ぶっちゃけ、今はもうお前を守り切れるかも分からねぇ。…それでも、いいのか…?」

「その為に、俺だって鍛えてるんだ。何があったって、俺は自分を守り切るさ。じゃなきゃ…うずめを一人にしないって意思を、貫けないからな」

 

 そう言ってウィードは笑う。もしもの不安が拭えない俺を安心させるように、にっと歯を見せて笑ってくれる。

 温かい。その言葉が、その笑顔が、ウィードの思いが。ウィードがいてくれる。そう思うだけで、胸の中にあった不安や恐怖が薄れていって……気付く。

 

(…ああ、そうか…側に誰かがいてくれる。一緒にいてくれる人がいる。…それは、こんなにも心強い事だったんだな……)

 

 思い返せば、俺にはずっと皆がいた。戦えなくても海男達がいてくれて、俺は一人なんかじゃなくて…だから頑張れたんだ。怖くなんかなかったんだ。そう思うのは、女神だからかどうかは分からないが…そこは別にどうだっていい。大切なのは、ウィードがいてくれる事、それを俺が心強いと思っているって事なんだから。

 守るべき相手だったウィードが、俺にとって心強い、安心出来る存在になっているのは、少しだけ悔しい。でも…それだって、急にそうなった訳じゃない。あの日出会った時からずっと、ウィードは気を許せる相手で、ウィードが頑張る姿を見ていると俺も勇気を貰えて、ウィードといられる事が俺にとっては嬉しくて……

 

「…ったく…ほんっとウィードは向こう見ずっていうか、まだまだ弱い癖に『止めとく』って事をしないから、こっちは気が気じゃないんだよ」

「うぐっ…分かってるよ、俺が前のめりになってるって事は。でも、こうしなかったら俺はきっと後悔すると思ったんだ。だから……」

「ほらまたそう言って自分の考えを曲げねぇじゃねぇか。ほんと、仕方ねぇ奴だよなぁ…仕方ねぇ、それでも俺は放っておけねぇから…ウィードは俺が守ってやるよ。これまで通り、何があっても、全身全霊でウィードの事を守ってやる。…だから…俺の側から離れるんじゃねぇぞ、ウィード」

 

 だから俺も、笑った。照れ臭いって気持ちもあったが、今はこの気持ちに正直でいたかったから。ここまで俺を思ってくれる、これまで俺を支えてきてくれたウィードの思いに、俺も応えたかったから。

 海男はいつも頼もしい。ねぷっち達がいてくれれば、どんな困難も突破出来るような気がしてくる。皆それぞれ、俺の力になってくれる。でも…そのどれとも、ウィードに抱く気持ちは違う。ウィードがいてくれるって思うと、もっと深い…温かくて、でも少しだけ苦しいような感覚が心にあって……それがどういう事なのか、この気持ちに名前があるとしたら、それは何なのか…今の俺には分からない。でも、いつかは分かる…そんな気がした、俺だった。

 

 

 

 

 それが、分不相応な…強くも賢くもない俺が、言うべき事じゃないってのは分かっていた。迷惑と心配を、皆にかけてしまうって自覚もしていた。

 だけどそれでも、俺は言った。俺もこの次元に残ると。うずめの側に、いてやりたいと。

 俺の頼みを、皆が心の中でどう捉えたかは分からない。呆れられても、仕方ないと思う。…けど、皆は思いを認めてくれた。俺の背中を、押してくれた。そして……うずめは、笑ってくれた。どこか泣きそうな…けれど本当に、心からのものだって思える笑顔で。

 

「よっし、それじゃあ早速行くぞウィード。これまで通り、些細な事でも何かあったら教えてくれよ?」

「はいよ。うずめこそ、何かあっても落ち着いて対処しろよ?」

 

 気を取り直すように左の掌を右手の拳で叩き、歩き出すうずめ。発された言葉に頷いて、俺もうずめの隣を歩く。

 

「…とはいえ、今のここは何かありまくりなんだよなぁ…うーん……」

「別に、躍起になってまで探す必要はねぇぞ?それで早くから疲れちまっても困るしよ」

「それはそうなんだが…俺さ、やっぱりここじゃなきゃ記憶を取り戻せないような気がするんだよ。記憶もそうだし、まだここでやるべき事が…見つけるべきものがあるような気がして……」

「…………」

「…うずめ?」

「何だよ…残ったのは、俺の為じゃなかったってか?」

「あ、い、いや違うぞ!?それも理由の一つってだけで、一番の理由はうずめの側にいる事だから!」

「うっ……も、もうちょっとそれっぽい言い方しろ馬鹿…ストレートに言い過ぎだ…」

「う、うずめが言わせたんだろ!?」

 

 歩きながら、ふと俺が発したのはもう一つ(二つ)の理由。すると途端にうずめは不満そうな顔になり…弁明すると、今度は恥ずかしそうに目を逸らす。俺だって今のは恥ずかしかった訳で……こういう反応されてしまうと、余計に恥ずかしくなってしまう。ぐぅぅ…そりゃ、臍を曲げられるよりはいいけどさ…!

 

「うっせ、そんなんだからお前は馬鹿なんだよ、ばーか」

「きょ、今日馬鹿って言い過ぎだろ…半分位は言われても仕方ない気がするけどさ…はぁ……」

 

 拗ねてる…って訳じゃなさそうながら、口を尖らせるうずめに俺は嘆息。石をぶん投げて支援した時点じゃ、もっと格好良く話をするつもりだったんだが…世の中、上手くはいかないもんだな…。

 

(…けど、ちゃんと俺の気持ちは伝えられた。皆の思い、皆の応援…絶対、無駄にはしないから。必ず俺達二人で、ここで果たすべき事を果たすから)

 

 うずめと歩幅を合わせながら、俺は思う。思い出す。皆が俺にかけてくれた言葉を。

 皆、俺に頑張れと言ってくれた。信じてくれた。それは勿論嬉しくて…中でも海男の言った言葉は、今の俺の心の中で響いている。

 枷であり、支え。海男は俺に、そう言った。一人だと無茶をしがちなうずめが、無茶の出来ない枷に…辛い時、苦しい時、うずめが前に進む力に、その時のうずめの支えに…今の俺は、その両方であるんだと海男は言った。…だから、頼むと。枷として、支えとして、うずめの事を任せたと。

 

「…やる事は変わらない。これまでも、これからも…俺は出来る事に、全力を尽くす。そうやって、少しでも前へ、高くへ手を伸ばす。ただ、それだけだ」

「…ウィード?どうかしたか?」

「いいや、独り言だよ独り言」

 

 別に、わざわざ言う必要なんてない。だけど俺は、俺を信じてくれた皆へ伝えるように、俺自身の在り方を確かめるように、小声でそう宣言する。

 そうだ。失った記憶を取り戻すんだ。見つけるべき何かを、この手に掴むんだ。そして…俺が、誰でもない俺自身が、うずめを支えるんだ。それが、俺の──貫く意志だ。

 

 

 

 

 あ、今回は今ので終わると思った?残念、今回のお話はもうちっとだけ続くんだよ!

 

「という訳で、きっかーん!うぇるかむとぅーざ、ネプちゃんワール…じゃなかった、でぃめんじょーん!」

「いや、どういう訳だよ……」

 

 変な所に出ちゃったら危ないから、って事で真っ先に次元の扉を潜ったわたしは、出てから数歩歩いて反転。順に出てくる皆に向けて、まずは一ボケ。

 

「おぉー、ここがちっちゃいわたしの次元…!」

「う、うん?大きいねぷっちは、もう何度か訪れたんだろう…?」

「じょーだんだよじょーだん。皆ー、慌てないで順番にねー」

 

 海男を筆頭に、次々と出てくるモンスターの皆。慌ててはいないけど、やっぱり初めての別次元って事もあって、どの子も大体おっかなびっくり……って、あれ?

 

「ここ…ちょっとズレてる?」

「だから何度も言ってんだろ、今は次元の状態が普通じゃねぇって。飛ぶ前と同じ場所を狙ったから、今回はそれでもズレが小せぇが…もっと大きく離れてた可能性だってあったんだぜ?」

 

 予定じゃわたし達は、飛ぶ前と同じ場所に戻る筈だった。でも、ここはプラネタワーの裏手側。…まぁ、敷地内だから良いんだけど。

 

「ふむ…では、初めて大きいねぷっちが向こうの次元に来た時、洞窟の天井を崩しながら落ちてきたというのも……」

「いや、それは俺のわざとだ」

「わざとだ、じゃないよ!あれ、普通だったら大怪我どころじゃ済まないんだからね!?」

「それを大した怪我もなく済ませてるお前は、ほんとどうなってるんだって話だけどな……」

「えー…でも、そんなもんだよね?」

「だよね。わたしも超高高度から落ちて地面に刺さっても、手当てだけで済んだし」

「…うん、お前等は多分そういう存在なんだよ……」

 

 同意を求められたわたしがこくんと頷くと、クロちゃんは心底呆れた顔に。…まぁ、これも主人公補正ってやつかなー。或いは、所謂ギャグ補正ってやつ?

 

「お待たせ、お姉ちゃん。これで全員こっちに来られたよ」

「うん、ネプギア殿お疲れ様」

「あはは、わたしは一番後ろにいただけなんだけどね。…ってあれ?ここは……」

「ちょっとズレちゃったんだって。ま、とにかく中に入ろうよ」

 

 そんなこんなで待ち始めてから数分後。最後尾のネプギアが出てきて、そのネプギアからOKが出た事でクロちゃんは次元の扉を閉じる。…これで、向こうに残っているのはうずめ達二人だけ。勿論、心配な気持ちなんてない…って言ったら嘘になるけど…二人なら、きっと大丈夫だよね。

 そうしてもう一度全員いるかどうかを確認してから、わたし達は裏手から出発。皆ももう中にいるだろうし、取り敢えずは合流かな。

 

「皆ー、気になるものがあっても列から離れちゃ駄目だからねー?ねぷ子さんとの約束…って、ありゃ?皆がいる…?」

「……?ほぇ…?ネプテューヌ、さん…?」

「え?わっ、ほんとだ…もうかえってきたの?」

「もう…?もうって…そんな早くもないよね?」

『へ?』

「へ?」

 

 引率の先生みたいな事を言いながら、わたしはプラネタワーの正面側へ…と思っていたら、早速わたしは外に…というか、飛ぶ前と同じ場所にいた皆を発見。真っ先に気付いたロムちゃんとラムちゃんは、何やら妙な事を言いながら驚いていて、わたしがおかしいなぁと思いつつ訊き返すと、空気は更におかしな感じに。

 

「お姉ちゃーん、どうかしたの…って、あれ?どうして皆、まだ外に…?」

「まだって…そっちこそ、早くない…?今さっき行ったばかりで、しっかり皆連れて来るなんて……」

「い、今さっき行ったばかり?え、ゆ、ユニちゃん?それはどういう……」

「ちょっと……なんで私は放置なのよぉおおおおぉぉぉぉッ!」

『えぇぇッ!?』

 

 どんどん訳が分からなくなる状況の中、突如聞こえてきたノワールの叫び。海男達は勿論、これにはわたし達も驚いて、反射的にそちらへと目を凝らす。

 声が聞こえてきたのは、前の方。ベールとブランが間にいたからすぐには分からなかったけど、よく見たらそこでは……

 

「痛たぁ…よく分からないけど、いきなり落ちるなんて……」

「うぅ…これは一体、何事……?」

「う、ぐっ…なんというハプニング…だが同時に、何という幸運…!正に、降って湧いた幸運…!」

「第一声から何を言ってんのよ……」

 

 激しく動くのは危なそうな服をした女の子、ぱっと見クールに見える女の子、色含めて髪型がイリゼと似てる女の子、それにちょっと小さい女の子……見た事ない四人の女の子が、ノワールの上に重なっていた。

 

 

 

 

 

 

「……あ、因みに今回の話って、一万字オーバーしてるのに時間的には前回ラストから数十分も経ってないっていう、原作に追いついちゃったアニメみたいな状態なんだよねー。だからなんだって話なんだけどさっ!」




今回のパロディ解説

・「〜〜だからお前は馬鹿なんだよ〜〜」
機動武闘伝Gガンダムに登場するキャラの一人、東方不敗(マスター・アジア)の名台詞の一つのパロディ。馬鹿の連呼って、何か照れ隠し感がありますよね。

・もうちっとだけ続くんだよ!
DRAGON BALLに登場するキャラの一人、亀仙人の代名詞的な台詞の一つのパロディ。OE自体はもうちっとどころか、まだ随分と長く続きます。まだまだ完結は先です。

・「〜〜うぇるかむとぅー〜〜でぃめんじょーん!」
新日本プロレス所属のレスラー、高橋ヒロムこと高橋広夢さんの、EVILさんの代名詞を使った台詞のパロディ。ネプテューヌですからね。そりゃ制御不能感ありますよ。

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