超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
衝撃の出会いから一夜明け、ポケモンセンターで迎える朝。テントを張り、自然の中で寝るのもその場その場の楽しみがあるが…やっぱり、ちゃんとした場所だとゆっくり眠れる。
「よーし、皆お疲れ。朝からよく頑張ってくれたな」
少し早めに目が覚めた俺は、色んな状況を想定した連携や、試してみたい技の練習を今の手持ちと行っていた。うん、今日も皆良い調子だな。
「…あ、グレイブ君おはよ」
「おはよう、イリゼ。チルットはまだ寝てるのか?」
「そうだよ。愛月君も?」
「だと思うぞ(……ん?)」
練習を終えセンター内に戻ると、泊まっている部屋までの道中でイリゼと遭遇。どうやらイリゼも部屋へ戻る途中だったらしく(イリゼの部屋は俺と愛月が使う部屋の隣)、俺達は共に部屋へと向かう。
と、そこで不意に香った甘い香り。何となく嗅いだ覚えのある匂いだが…さて、これは何だったか。
「…っと、そうだ。チルットって、朝はこれに気を付けなきゃいけない…って事ある?」
「んー?そうだなぁ…チルットは綺麗好きなポケモンだから…って、これは朝関係ないな」
「あはは、確かにね。でも綺麗好きって事なら、清潔さを保てるように……」
チルットに纏わる会話をしながら俺達は歩き、使用している部屋前へ到着。すると丁度そのタイミングで扉が開き、中から愛月が姿を現す。
「お、愛月も起きたか」
「うん〜…おはよぉ〜……」
「おはよ、愛月君。…もしかして、まだ眠い?」
「そうっぽいな。ここの職員にも遺跡について訊いてみる件、昨日はタイミングが合わなかったし今からちょっと訊きに行ってみようと思うんだが、お前は待ってるか?」
「ううん…僕も行く……」
「……僕…?」
目をしぱしぱさせている愛月のある言葉に、きょとんとした表情を浮かべるイリゼ。愛月、寝惚けてると時々こうなるんだよなぁ…。
「はいよ。じゃ、訊いてくるからイリゼは待っててくれ。まだ建物に慣れてないだろうチルットを寝起きから連れ回すのは可哀想だしさ」
「それは確かに…。ごめんね、私の事なのに任せちゃって」
「気にすんなって。これ、半分位は俺の興味だし」
何も調べず行くってのもドキドキ感があって良いが、先に調べて期待を持ちながら行くってのもそれはそれで楽しいもの。という訳で俺は愛月を連れて職員のところへ行き、何人かに話を聞いた後イリゼと合流。今度は朝食を取って、それからポケモンセンターを出る。
さぁて、遺跡は勿論楽しみだが、昨日だってあんな事があったんだ。今日も何か起こるかもしれないし、そう思うと今からワクワクしてくるよな…!
*
昨日情報収集をして分かったけど、遺跡までの距離はそこそこあるらしい。取り敢えず徒歩じゃ何日かかるか分からない…ってレベルではないものの、今日一日での到着は困難。…まぁ、グレイブ一人なら行けるかもしれないが…俺はそれに合わせられる程常識を忘れてはいないし、それはイリゼも同じ事。……あ、いや…でもどうなんだろう…イリゼ、昨日はさらっとバク宙とかしてたし…。
ともかく、イリゼ自身が「急がなくても大丈夫だよ。こうして先導してくれるだけでも大助かりなんだもん」と言った事で、急がず普通に行く事となった。イリゼがそう言うなら、むしろ変に急いだ方が悪いしな。
「そういえば、この辺りにもポケモンは住んでるの?」
「あぁ、住んでると思うぞ。自然が豊かなら住めるポケモンも多いだろうし、荒れた環境でもそこに合ったポケモンが住んでるものだしな」
「そっかぁ…その辺りもモンスターと同じなんだね。生物なんだから、当然と言えば当然だけど。…そういう事だから、勝手に変なとこ行っちゃ駄目だよ?」
「ちるる〜」
注意…って程強い口調ではないが、イリゼは気を付けるようにとチルットに指示。それに答えるチルットがいるのは、昨日と同じ両腕の中…ではなく、イリゼの頭の上。チルットは帽子の様にイリゼの頭に乗っていて……ちょっと羨ましいな、あれ…。
「あ、けどポケモンだけじゃなくて、人にも気を付けた方が良いぞ」
「…人にも?」
「まあ、それはそうだね。トレーナーの中にはガラの悪い奴とかポケモンを道具の様に扱う奴だっているし、中には集団で禄でもない事してる組織もある。…まぁ、そういう組織は大概グレイブがぶっ飛ばしてるけど」
「ぶっ飛ばさない理由がないからな。あー、それとポケモンハンターにも気を付けるべきじゃないか?」
「っと、そうだそうだポケモンハンターもいるんだった。色違いなんて欲しがる人は多いだろうし、そういう人から依頼を受けたハンターにチルットが狙われる可能性も、頭に入れておいた方が良いと思う」
「そっか…悲しいけど、そういう人もいるよね……」
「ま、ただのガラ悪い奴とか下っ端程度なら、イリゼ自身が返り討ちに出来そうだけどな」
そういう人もいる。俺達の話を聞いて、イリゼは悲しそうに…本当に悲しそうにぽつりと呟く。そのイリゼへグレイブは声を掛けるが…内容からして、元気付けるなんて意図はないと思う。というか、絶対ない。
「…グレイブはこんな事言ってるけど…チルットの事は俺達も気にかけるからさ、安心して」
「愛月君…うん、ありがとね。私もこの子を守るつもりだけど…そう言ってくれるなら、頼りにさせてもらおっかな」
「ははっ、任せて!」
元気の戻ったイリゼの笑みへ応えるように、俺は肩の高さまで上げた右手を握る。ほら、どうだグレイブ。お前はもう少し気遣いというものを覚えた方が……
「え?愛月もしや、イリゼを口説こうとしてる?」
「ふぇぇッ!?」
「ぶ…ッ!?ち、違うわ馬鹿!変な事言うなよッ!?」
「あ、そう。んまあ訊いてみただけだからいいや」
「…なんだこいつ…ピカチュウに雷落としてもらおうかな……」
「は、はは…というかピカチュウ、雷落とせるの……?」
とんでもない事を言っておいて興味なさげに歩いていくグレイブに向けて、防御を最低まで落としてやろうかって位に『睨み付ける』俺。ほんと、なんだこいつ…!イリゼを口説こうとか…お、俺にそういう意図はないからな…ッ!
……まぁ…そんなやり取りも途中に挟まりつつも、俺達は遺跡へと向かって進む。そうして街を出てから数時間位経った頃…俺達は、奇妙な集団に遭遇した。
「フッ!フッ!フッ!フッ!」
「ヌンッ!ヌンッ!ヌンッ!ヌンッ!」
「…な、何あれ……」
草木の豊かな地域から離れ、大小様々な岩が目立つ場所へと出たところで、聞こえてきたのは奇妙な息遣い。何かと思いつつ進んでいくと……俺達は、発見した。岩をバーベルやダンベルの様にして筋トレしている、筋骨隆々なポケモン、ゴーリキー達を。
「…ぽ、ポケモン…なんだよね…?独特なマスクと全身タイツを着用している、ムキムキな人達じゃなくて……」
「安心しろ、ポケモンだ。にしても、天然の筋トレグッズとは、あのゴーリキー達も考えたなぁ…」
「なんかその内、試合でも始めるんじゃない?それかそこの台っぽくなってる岩で、腕相撲とか」
競うような勢いで筋トレを続けるゴーリキー達を遠目に見ながら、歩みを進める。ポケモンがそれぞれの生活をしている姿は癒されるし、それを沢山見られるのが旅の良さの一つだけど…まさか、筋トレしてる姿を見るとは思わなかった……。
…と、何とも言えない光景に内心で苦笑いをしていた、その時だった。
「…え、あれ?なんか今、目があった気が……」
「目が?トレーナーならともかく、ポケモンと合ったって別に…って、んん……?」
イリゼの言葉で目を凝らして見ると、確かにいつの間にかゴーリキー達はこっちを見ていて…しかもじっと見てきたかと思えば、今度はこっちへ走ってくる。それも、妙に興奮したような表情で。
「あー…これはあれだな、愛月の言った通りだ」
「へ?どゆ事?」
「俺等が試合相手に選ばれちまったって事」
「あぁー…そゆ事ね…。グレイブが無駄に強者オーラを出すから……」
「えぇー、俺が悪いの…?」
なんだあいつ、強そうじゃないか!よし、手合わせしてもらおうぜ!……多分、そういう事なんだろう。っていうか、圧が凄い。とにかくムッキムキな身体が何体も迫ってくるというのは、圧力が凄まじい。
「…ま、でもそういう事なら仕方ないか。ムキムキの集団に追い掛け回されるのもホラーだし、相手してやろうぜ?」
「俺は最初からそのつもりだぜ?けど、少しは手加減してやらないとかもなぁ…」
そういえばイリゼにポケモンバトルを見せた事もないし、そういう意味じゃ良い機会かもしれない。そう判断した俺は腰のボールの一つを手に取り、迎え撃つようにして宙へと放る。さぁて、それじゃあ…お楽しみの始まりだッ!
*
信次元にも人型…というか、遠目に見れば人っぽく見えるモンスターはいる。そういうものだと考えれば、筋トレをしていたポケモン…ゴーリキーの事だって理解出来る。
でも流石に、ぱっと見ボディビルダーなムキムキ的存在が集団で走ってくるとなれば、誰だって驚く。私だって驚く。
けれど私の驚きは、そこで終わらなかった。迫ってくるゴーリキー達に対し、二人は受けて立つという姿勢を見せ……
「良い調子だ、凸凹の足元には気を付けるんだぞファイター!」
「そこだ獄炎、アームハンマーをかましてやれッ!」
今は、二人の出したポケモンが、ゴーリキーの集団と正面からぶつかり合っている。…というか…殴り合っている。……うーん、すっごくワイルド…。
「ち、ちるぅ……」
「うん、迫力が凄いよね…」
戦いには慣れ切っている私だけど、当然ながらポケモン同士の戦いを見るのはこれが初。その私にとって、このぶつかり合いはちょっと…いや、かなり刺激が強い。例えるなら、初めてのラーメンがサンマーメンだった…って位の刺激。…いや、サンマーメン美味しいけどね。
(…けど、一口にぶつかり合いって言っても…これは対照的だなぁ……)
二人はそれぞれ一匹ずつポケモンを出し、二匹でゴーリキーの集団を相手にしている。
ファイターと呼ばれる、凛々しい二足歩行の犬の様なポケモン(後で知ったけど、ルカリオって種類のポケモンらしい)の動きは、一言で言うなら機敏。正面からの力比べはせず、打撃は躱し、掴もうとしてくればいなし、隙が生まれればそこを的確に突いて攻撃を当てている。柔よく剛を制す…その言葉がぴったりな戦い方で、技量や反射神経の高いポケモンである事は間違いない。
一方グレイブ君の出したポケモン、獄炎ことエンブオー(こっちも後で知った)は逞しい身体付きと顎髭らしき炎が特徴的で、見た目通りその動きも豪快。筋骨隆々なゴーリキーと正面から組み合い、目の前の個体は勿論周囲のゴーリキーにもそのパワーを見せ付けている。それは正に剛と剛の激突だけど…獄炎はパワーだけが持ち味って訳ではないらしく、攻め手も防御も中々に多彩。
「ブルゥッ!」
「グルゥッ!」
掛かり稽古の如く次々と、代わる代わる突っ込んでくるゴーリキー達を捌いていく二匹。ある時獄炎はタックルでゴーリキーを仰け反らせたところへ炎を纏ったアッパーカットを叩き込み、ファイターは身体を捻りながらの受け流しによって仕掛けてきたゴーリキーの姿勢を崩し、間髪入れずに掌底で横から跳ね飛ばす。
ゴーリキー達のパワーは大したものだし、やられてもやられても向かっていく辺り屈強なのは何も身体だけじゃない様子。だけど…それ以上に、二匹は凄い。複数相手に互角以上で、しかもその動きにはまだ『余力』が感じられるんだから。
「グ、グ……ッ!」
「…フー、ゥ……!」
攻防は続き、一匹、また一匹と倒れていくゴーリキー達。最後に残ったのは二匹で…けれどその二匹は集団の中でも特に強いらしく、その目からはまだ闘志が消えていない。
「へぇ、まだやろうとするなんて、こいつ等の特性は間違いなく『根性』だな。…で、この構え…こっちは捨て身タックルに…うぉっ、マジか…あれ気合玉じゃねぇか……」
「捨て身タックルもだけど、気合玉なんてどこで覚えたんだこのゴーリキー…けど、それならこっちも…!」
片や覚悟が決まった表情を浮かべ、片や某たった一人の最終決戦で最後の一撃を放とうとするZ戦士の如き姿勢を取るゴーリキー達に対し、グレイブ君と愛月君もそれぞれで反応。続けて二人から指示を受けた獄炎は地面を踏み締め炎を纏い、ファイターは独特の構えを取って両手の間に青いエネルギーの玉を精製。四者全てがその身に力を溜めていき……次の瞬間、戦場には二人の声が響く。
「……ッ!今だファイター、見切りからの…波導弾ッ!」
「これで終いだッ!獄炎、ニトロチャージの勢いを乗せてアームハンマーッ!」
エネルギー弾を溜めたまま突っ込むファイターへ向けて放たれる気合玉。けれどファイターは一切臆する事なく…衝突の直前に指示通り気合玉を『見切る』と、そのまま高速でゴーリキーの背後へ。消えたようにも見えるその動きにゴーリキーが目を見開く中、ファイターは両手を前へと突き出し…青く輝く波導弾が、ゴーリキーの身体を吹き飛ばす。
その直前、気迫を纏うゴーリキーと、全身に炎を纏う獄炎が真正面から激しく衝突。せめぎ合いの末互いに弾かれどちらもぐらりと上体が揺れるも、ゴーリキーが攻撃の反動で顔をしかめている一瞬で獄炎は素早く立て直し、即座にゴーリキーへと向かって再度突進。その速度は、先の一撃よりも速く…そのまま放たれた右の拳が、それこそ大槌の如く叩き込まれてゴーリキーを沈める。
「…やっ、るぅ……」
力を溜めたまま紙一重で避け背後に回り込めるスピードも、正面衝突から一気に立て直して本命を放てるパワーも…ファイターも獄炎も、どちらも本当に強い。だけど…強いのは、この二匹だけじゃない。基本はそれぞれに任せて、でもここぞというタイミングではきっちりと指示を出し、時に助言を、時に応援を口にする事により、二匹がベストを尽くせるよう指揮を執っていた二人もまた、確かに強い。判断力もそうだし…何より伝わってきた。愛月君もグレイブ君も、心からファイターと獄炎を信じているっていう事が。
(心の繋がりは、信じる気持ちは、より高みへと引き上げてくれる強さになる。…それは、どの次元、どの世界だって同じだよね)
元々の才能はあると思う。並々ならぬ努力だって、絶対してる。だけどこの二組が持つ『強さ』の柱の一つには、互いを信じる気持ちもあるんだと確信した私は…なんだか自然と、嬉しくなった。自分が信じているもの、大切にしている思いが、全く違う世界でも強さの原動力になっているという事が…凄く、嬉しかった。
何はともあれ、これで決着。ポケモンバトルというものを知れたし、単純に見応えもあったし、見る価値は十分にある戦いだっ……
──つんつん。
「……うん?」
そう、締めようとしていたところで不意に私の肩を突く、ちょっと太くてゴツゴツした何か。一瞬、気のせいかな?…と思ったけど…複数回触れてきてるし、これは気のせいじゃない。
じゃあ、何だろう。そう思って、私が何気無く振り返ると……そこにはまだ、別のゴーリキーがいた。両の拳を腰に当て、キラリと白い歯を見せている、何か爽やかさと暑苦しさを変な混ぜ方しましたみたいな雰囲気の、ゴーリキーが。
「…え、っと……えっ…?」
ゴーリキーは、こっちを見ている!明らかに、私へ対して視線を向けている!
ゴーリキーの目は、私に言っている!「見ているだけじゃ詰まらないだろう?お嬢ちゃんもどうだい?胸を貸してやるぜ?」…と。……いや、ちょっ…はいぃいいぃぃッ!?
「ど、どどどうしよう!?何この雰囲気!?何この『いいえ』を押しても会話が無限ループする感じの空気感!?ね、ねぇ二人共…ってあぁ、二人共頑張った二匹を労ってる!あの場に水を差すのは気が引ける…!」
ごごごごご…!…と熱血感溢れる雰囲気が迫り来る中、慌てて二人へ助言を仰ごうとした私。けれど二人は優しげに労っている真っ最中で、あれの邪魔をするのは物凄く忍びない。二匹の方も嬉しそうだから、もうほんっとに忍びな過ぎる。
かと言って、この状況を話術で凌げるかと言えば…答えは否。だって私はゴーリキーの事を殆ど知らないし、何よりこのゴーリキーは完全にその気になってるんだから。…つまり、私は軽い八方塞がり(軽い八方塞がりって妙な言葉だけど…)状態で……
「う、うぅ……えぇいッ!こうなったら原初の女神の複製体の力、今ここで見せてやるぅぅぅぅッ!…あ、君は危ないからちょっと降りててねっ!」
某NEVER戦線を思わせるゴツゴツとしたぶつかり合いを見て、少なからず私もエンジンがかかっていたのか。変な追い詰められ方をした私はその後頭の上のチルットを降ろし、何故かポケモン相手に素手の勝負を仕掛けるのだった。
*
良いスパーリングが出来たぜ!ありがとな!……そう言っているような雰囲気と表情を見せて、ゴーリキー達は帰っていった。完敗したのに気落ちしたり卑屈になったりをせず、むしろ良い経験が出来たとばかりに去っていくゴーリキー達の姿は、見ていて気持ちが良いものだった。……あ、精神性の話だよ?別に後ろから見る肩の広さや背筋が素敵…とか、そういう意味じゃないからね!?
…こほん。ともかく拳と拳、肉体と肉体がぶつかり合う戦いから約一時間。周囲にはまた緑がちらほらと戻ってきて、椅子代わりに丁度良い岩が幾つかある場所で、私達はお昼ご飯にする事となった。
「やっぱあそこは、正面衝突と見せかけてドロップキックとかの方が良かったか…?…いやけど、捨て身タックルの威力は相当なものだったしな……」
「おーいグレイブ、お前食事は取らない気かー?」
「いや、食べる」
「あ、聞こえてはいるのか…」
さっきのバトルに関してまだ色々と考えているグレイブ君へと、岩に腰掛けつつも愛月君が呼び掛ける。ここまでの道中、ずっとグレイブ君はこの調子…って訳じゃなかったんだけど、頭の隅では常に考えていたらしく、普通の状態と熟考状態を何度も繰り返していた。…まぁ、ご覧の通り周りが見えなくなる程じゃないんだけどね。
「さて、それじゃあ昼の準備を、っと。皆、出てこーい」
「今日は…特に理由はないが、コンソメの気分だな。えぇと、鍋は……」
「ふっふっふ…ちょっと良いかな、二人共」
『……?』
「お昼ご飯の事だけど…実は私、こんな物を作ってきましたー!」
昼食タイムという事で二人共連れてきたポケモンを皆出し、食べ物やら調理器具やらを取り出していく。
その最中、芝居掛かった笑い声を上げて二人の前へと移動する私。二人は勿論、ポケモン達も「何だろう…?」という視線を私に向けてくる中、私は大きなバスケットを前に出し…中のサンドイッチを皆に見せる。
『おぉー…!』
「どう?昨日二人のファンの人達がくれた食べ物を使って、色々サンドイッチを作ってみたんだよ?これだけあれば、皆で食べられるよね?」
数は沢山、具材も色々なサンドイッチを見て、色めき立ってくれる二人。厳密に言えば、ファンの人達がくれた物の内、全部は食べきれないから…と私に分けてくれた食べ物だけど…それは二人も知ってる事だしね。
「ありがとなイリゼ、早速頂くよ」
「いや手を出すの早っ!ここはもう少し、作ってきてくれた事に関して話をする流れだろ…」
「んん?そうなのか?…っていうか、普通に美味い!塩胡椒が程良く効いてる、って感じ?」
「だから早いって!あーもう、お前一人で食べるなよ!?頂きます!」
「あはは、どうぞどうぞ召し上がれ。皆も食べてくれて良いからね」
手を拭くや否やバスケットから卵サンドを取り、続けてポテサラサンドも手に取るグレイブ君に突っ込みつつ、愛月君もハムチーズサンドを手に取り一口。さっきのバトルで見せた手練れっぽい雰囲気とは対照的な、見た目相応の男の子らしい食べっぷりに微笑みながら私がポケモン達にも勧めると、皆は顔を見合わせたのち一匹、また一匹とサンドイッチを取ってくれる。
「勿論、君もだよ。どれがいい?」
「ちー…ちるっ!」
「…え、えっと…これ、かな……?」
「ちるー!」
(え、それはどっちの反応!?喜んでるの!?怒ってるの!?……あ、食べてくれた…ほっ…)
ぴょこんと私の頭から肩へと移動し、チルットは私が手に取ったサンドイッチをぱくり。こくんと飲み込んだ後チルットは美味しそうに笑ってくれて、その表情に私はほっこり。
「うん、これも美味しい。…けどイリゼ、これって貰った物の中にはなかったよね?…一体どこから…?」
「あー、それはね……」
食事開始から数分後。ふと気になったように口にした愛月君の問い掛けに対し、私は苦笑気味に頬を掻く。
その通り。果実だったり野菜だったりを貰った私だけど、それだけで多彩なサンドイッチは作れないし、そもそもの話パンがない。なのに何故作れたかと言うと…それは、ポケモンセンターの調理場(ここも好きに使ってくれて良い場所なんだとか)で、同じく料理をしようとしていた人達に貰ったから。
「ほら、昨日は私もちょっと注目されたし、この子を連れてたでしょ?だからそこにいた人達に二人やチルットとどういう関係か訊かれてね。で、次元とか女神とかの事はぼかしつつ、出来るだけ正直に話したら……」
『話したら…?』
「『そうか、そんな事が…なら食べ物を得るのも大変だろうし、これどうぞ』とか、『トレーナーは助け合いだからな。…いや、君は違うんだっけ?…まぁとにかく、余り物だしあげるよ』とか、『だったらわたしも!…その、実はこれ苦手な食べ物で…だから貰ってくれる…?』…みたいな感じで、皆から色々貰えたんだ…はは……」
あれよあれとよ食べ物が増えていき、気付けば沢山のサンドイッチを作れる程に。…誇張ではなく、本当にそんな事があった。…皆、この世界には良い人ばかりじゃないって話だけど…良い人だって、沢山いるよ。
「ははぁ…でもそれ、多分イリゼの人の良さもあったんだろうね」
「だな。俺等の事を知らない奴は、割とガキだの何だの言ってくる事も多いが、イリゼはずっと俺達を対等の相手として接してくれてるし」
「それは当然の事だよ。私はこの世界の事を何も知らない身。二人はそんな私に協力してくれてる人達。だったら軽んじられる訳がないし」
「こういうとこだよねぇ」
「こういうとこだよなぁ」
「そ、そう…?」
サンドイッチ片手にうんうんと頷く二人に、思わず私は照れてしまう。…と、同時に思う。やはりこれは、真実全ては言えない、と。
(…うん、やっぱり言えない…お礼として皆さんの料理の手伝いやお皿洗いをしていた私を、子供を見るような温かい視線で皆さんが見ていたとか、途中から明らかに子供扱いされてたなんて、二人には言えない……!)
こういう事があったから、自分から話すのは少し気が引けていたし、話す前は半ば無意識に頬を掻いてしまった。…けれど、そういう事も含めて…二人には内緒。
「あ、それとモモンの実?…と、マゴの実…?…を使ったパウンドケーキも作ってみたから、良かったら食べて」
「至れり尽くせりだ…ほんとありがとう、イリゼ」
「良いの良いの、協力してくれてる二人へのお礼だし、お菓子作りは私の趣味だもん。…というか、サンドイッチのデザートにまたパンっぽい物を出すのはどうなのって、作ってから気付いたよ私…あはは……」
「んぐ?こっちも美味いし、全然問題ないと思うぞ?」
「ありがとね、グレイブ君。でも食べながら喋るのは行儀悪いよ?」
きっと二人はお礼なんて求めてないけど、お礼をされて嫌な気持ちになる人はいないし、何かしてもらいっ放しは私の柄じゃない。だから作ったのがこのサンドイッチとパウンドケーキで…それを喜んでもらえたのなら、何よりだよね。
そんなこんなでどっちもどんどん減っていき、どちらも皆でしっかりと完食。けど食後すぐに動くのは身体に悪いし、コンソメスープを飲みつつ皆で一息。
「ちる〜…ちるっ!ちるるる、るーっ!」
「ぴ、ぴかぁ……」
「…ホフゥ……」
私達がのんびりしている間、ポケモン達は各々行動。同じようにのんびりしている子もいれば、何匹かで遊んでいる子もいるし、中には瞑想している子なんかもいたり。そんな中、私が見ているのは…何やら張り切っているチルットの姿。
ここまでは基本私の頭の上に乗っていたチルットだけど、さっきのバトルを見て思うところがあったのか、先程から同じ『ノーマル・飛行タイプ』らしい、ブラストことムクホークにバトルの相手をしてもらっている。その様子からして、多分チルットは真剣なんだろうけど…やっている事は、その綿の様な翼でぺちぺちぺちぺちと叩いているだけ。どう見てもそれは威力なんてないだろうし、実際ブラストは大きな鶏冠と鋭い目付きが特徴的な、正に猛禽類って感じのポケモンでありながら、今は気持ち良さげに目を細めている。更にそれを見ているピカチュウ…もといレオンなんかは苦笑いをしちゃってる位だし、はっきり言ってバトルしている感は全くない。
「…あれ、さっきのイリゼの真似じゃないか?」
「え、私の?」
「あぁ、かもね。…っていうか俺、ゴーリキーと肉弾戦で渡り合う女の子なんて初めて見たよ……」
「ま、まぁ私は女神だからね…。…けどそっか、だからチルットは打撃っぽい事を……」
色的にちょっとひよこにも見える(ひよこと言うには大きいけど)チルットが、私の真似をしている。そう思うと元々癒されるこの光景が更にほんわかしたものに見えて、思わず頬が緩んじゃう私。でも明らかにあれはチルットに合った戦い方じゃないし、もしその気があるならそこは指摘してあげないと……と思ったところで、ふと私は気付く。チルットを、チルットと呼び続けるのは変だよね、と。
この場でチルットはあの子だけだから問題ないけど、種としての名前で呼び続けるのはおかしな話。共通の名前じゃなくて、固有の名前を付けてあげなきゃ、それは可哀想ってもの。
(…うーん…チルット、チルットちゃん…可愛くて、ふわっとした名前が良いよね…トットちゃん…チルルン…あー、でも…やっぱり……)
浮かんでは消え、浮かんでは消える名前の候補。色々上がっては消えていって、最後に残ったのはシンプルな…けれど私の中で、一番しっくりときた一つの呼び方。
疲れてしまったのかチルットが攻撃を止めたところで、座っている岩から立ち上がる私。それから私はチルットの下まで歩いていき……包むようにして抱き上げる。
「ちる…?」
「ね、君。私はこれから、君の事をるーちゃん、って呼びたいんだけど…良いかな?」
「ちるぅ…るー……ちるっ!ちるるっ、ちる〜♪」
「あははっ、そっかそっか!それじゃあるーちゃん、改めてこれから宜しくね♪」
少考の後ぱぁっと表情を輝かせ、嬉しそうに喜んでくれるるーちゃんに、私もにこりと笑顔を返す。よしよーしと暫く撫でた後に座っていた場所へと戻ると、聞いていた二人も良い名前じゃないかと頷きながら言ってくれる。
これから宜しくねと言っても、いつまで一緒にいられるかは分からない。私は帰らなきゃいけないし、るーちゃんだって例えば元々どこかの群れの一員で、その群れと再会してそちらに戻る…って事だって十分あり得る。
だけど…いやだからこそ、一緒に居られる時間を大切にしたい。るーちゃんにしても、グレイブ君や愛月君、二人のポケモン達にしても……折角出会えた、折角の繋がりなんだから。
今回のパロディ解説
・〜〜誰だって驚く。私だって驚く。
ジョジョの奇妙な冒険 ダイアモンドは砕けないに登場するキャラの一人、虹村景兆の代名詞的な台詞の一つのパロディ。でも伸ばし棒がない分、分かり辛いかもですね…。
・某たった一人〜〜Z戦士
DRAGON BALLシリーズの登場キャラの一人、バーダックの事。もっと軽ーく書く気だったのですが…気付けばゴーリキー達が妙に素敵なポケモンとなっていました。
・某NEVER戦線
新日本プロレスの管理するベルトの一つ、NEVER無差別級ベルトの関わる試合の事。特にエンブオーとゴーリキーの戦いがゴツゴツした勝負になっていたかな…と思います。