超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第九十四話 忍者との戦い

 女神は直感や本能、或いは俗に言う第六感を頼りに動く事もあるけど、それでも基本的には五感…特に視覚から得た情報を前提に戦う。…当たり前よね、目も耳も鼻も肌も口も、頭に付いているものは全部たかがじゃないもの。……って、口は流石に戦闘には関係ないわね…某ピーチなスパイとか、両肩にジッパーの付いた服を着たギャングならまだしも…。

 こほん。だから女神であっても暗闇の中じゃ普段のようには対象を捉えられないし、大雑把に動くだけならともかく、精密な動きをするとなれば、視界が上手く効かないというのは痛過ぎる。

 だけど、わたしには頼りになる指示があった。全幅の信頼を置ける、ベストな指南がある。だからわたしに、迷いはなかった。迷いなく……攻撃を、阻む事が出来た。

 

「…残念よ。貴方達の事は、今もネプギアが興味津々に思っていたのに」

 

 背後からの声にびくりと肩を震わせたステマックスへ、わたしは声をかける。ステマックスが狙っていた、機材を背にして。

 

「…拙者が来ると、分かっていたので御座るか?」

「確証はなかったわ。アタシの考え過ぎかもしれないとも思ってた。…だから、確かめたのよ。アンタが、味方なのか敵なのかを」

 

 背中越しに、ステマックスは問いかける。それに答えるユニちゃんは、まだ女神化していない。

 

「……だから、拙者に教えたので御座るか。今日ここに、正体の掴めないサイトに対応しうる機械を運び込むと」

「そうよ。もしもアンタが敵なら、そうされて困る立場にいる存在なら、何かしらの行動を起こしてくると思ってね」

「…まんまと嵌められたので御座るな…」

「止めてよ。アタシは嘘なんて吐いてないんだから。…ずっと騙してたのね。アタシを、アタシ達を」

「……っ、それは…ッ!」

「動かないで。貴方が何製かは知らないけど…そんな首、一太刀あれば十分に斬り落とせるわ」

 

 棘のある、けれど悲しそうな声音で発されたユニちゃんの言葉に、ステマックスは弾かれたように振り返る。けれどわたしはその首筋に大太刀の斬っ先を当てがい、それ以上の行動を封じる。

 正直、複雑な気持ちがある。特別仲が良かった訳じゃないけど、彼は協力してくれている味方だと思っていたから。でもきっと、ユニちゃんの方がずっと複雑な気持ちの筈。だって彼とアフィモウジャスの協力は、ユニちゃんが切っ掛けになったんだから。

 

「…何か、言いたい事があるの?」

「……いや、無いで御座る。拙者は、拙者達はユニ殿達を騙していた。それは、申し開きのしようがない事実で御座る」

「そう。…なんで、こんな事したのよ」

「…その問いは、ここに来た理由で御座るか?それとも、騙していた事についてで御座るか?」

「両方よ」

 

 数秒黙り、それから無念そうに認めるステマックス。そこにある無念さは、多分破壊に失敗したから…ってだけじゃない。こうなってしまった事、それにもどこか悲しみを抱いている…そんな響きが、彼の声にはあった。

 

「…友人にして何よりの恩人、将軍の為で御座る。将軍の目的、将軍の望むもの…終わりなきその道を共に歩む中で、ユニ殿と出会った。そして協力する事が、歩みを進める事に繋がると判断し、拙者達は協力するフリをしていたので御座る」

「女神を騙す事、多くの人達を不安にさせる事、不要な混乱を招く事…それが何に繋がるってのよ。アフィモウジャスは、信次元を混沌とさせたい訳?」

「否。将軍の望みは、もっと普通の欲望で御座るよ。誰しも持っているであろう、普通の欲。ただ少し、将軍はそれが強過ぎるだけなので御座る」

「…尚更理解出来ないわ。自分のでもない欲望の為に、こうまでするなんて。そうする位なら、間違ってるって言いなさいよ。悪い事をしそうになったら止めるのが、友達ってもんじゃないの?」

「はは、耳の痛い話で御座るな。…そのような事が出来る男であれば、こうはならなかったで御座ろうよ」

 

 問い詰めるユニちゃんからの言葉に、ステマックスは自嘲気味に笑う。ユニちゃんの言葉は否定せず、自分自身を否定する。だけど同時に、そんな事は分かっている…そうも言っているように、わたしには聞こえた。

 

「…ステマックス、やっぱりアンタ……」

「しかし、大したもので御座るな。万が一にも破壊されては困るものを、まさか囮に使うとは……」

「あぁ…残念だけど、それはアタシがメールで伝えた物じゃないわよ?」

「……!?さ、されど先程は……」

「えぇ、アタシは嘘なんて吐いてない。…こっちよ、アタシがアンタに伝えたのは。それはただのジャミング装置。アンタにアフィモウジャスへ連絡を取られたら困るからね」

 

 そう言ってユニちゃんが取り出したのは、例のUSBメモリ。因みに中のデータはコピー済みで、破壊されたとしても痛手にはならない。…まぁ、そもそも持ってくる必要自体がないんだけど…嘘を吐き返す事はしたくないって辺り、ユニちゃんも女神してるわね。勘違いするように仕向けた、その強かさも含めて。

 

「…拙者の思考を誘導する言葉選び、そこに一切の疑いを抱かせないだけの状況を作れる権限、そして焦る事なくギリギリまで姿を隠し続ける胆力…本当に、女神というものは流石で御座る。これは完全に、敵に回す相手を間違えたで御座るなぁ……」

「胆力に関しては、案外落ち着いてるアンタもそれなりだと思うけどね。今日は声も普通に聞こえるし」

「人間、追い詰められると逆に開き直れるもので御座るよ。尤も、拙者はロボットで御座るが」

 

 参ったとばかりに肩を落とすステマックスは、確かに焦っていない様子。…だから、油断は出来ない。その冷静さが開き直りからではなく、まだ何か秘策を残しているが故かもしれないから。

 

「…さ、話は終わりよステマックス。投降しなさい」

「…ユニ殿の言葉と言えど、それは聞けないで御座るな」

「なら、どうする気?さっきのネプテューヌさんの言葉…あれは、脅す為の誇張表現なんかじゃないわよ?」

 

 わたしからのアイコンタクトを受けて、ユニちゃんは話を切り上げる。何か策があるのなら…それを使われる前にケリを付けるのが一番だから。

 

「どうする気、で御座るか…。…であれば最後に、大切な事を聞いてもらえるで御座るか?」

「…何よ」

「ユニ殿、ネプテューヌ殿……警備員達の事を、頼むで御座るッ!」

『な……ッ!?』

 

 一拍を置き、ステマックスは神妙な声で問いかけてくる。そしてわたし達二人の名前を呼んだ、次の瞬間……ステマックスは倒れ込むようにして身を翻し、真上へと刃状の何かを投げ放つ。

 反射的に投擲物へと目を奪われた事、一気に体勢が変わった事で後一歩間に合わず、側頭部を傷付けるだけに留まってしまったわたしの大太刀。即座にわたしは返す刃でステマックスを斬ろうとしたけど、そこで頭上から響く爆発音。やはりさっきのは照明破壊に使った物と同じらしく……わたし達は気付く。ステマックスの、その狙いに。

 

「やってくれたわねステマックス…ッ!」

 

 爆発により崩れる天井の一部。落ちてくる瓦礫。その下にいるのは……ステマックスが気絶させた、警備員達。

 弾かれるように床を蹴り、警備員達の下へと跳ぶわたし達二人。わたしは大太刀を手放し、ユニちゃんは女神化する事で、間一髪全員を崩落範囲から逃す事に成功したけど……もうさっきまでの場所にステマックスはいない。

 

「ちッ…ユニちゃん、皆を安全な場所まで運んであげてッ!」

「了解です!」

 

 皆の事をユニちゃんに任せ、わたしはもう一度跳躍。準備しておいた照明器具じゃ完全な代替は出来ないせいで所々暗い事もあって、ステマックスの姿は見えないけど…狙いは分かっている。それが分かっていれば、行動の予測も付く。

 ジャミング装置の前に跳んで、両腕を交差するわたし。そこに走るのは……重い衝撃。

 

「意識の無い人を利用するなんて…流石は忍者、汚いわね…ッ!」

「女神であれば何とかなると思ったが故の策、されど汚いの誹りは甘んじて受け入れるで御座る…ッ!」

 

 両腕を外側へ振り出す事で突き出された拳を弾き返し、ステマックスへと鋭い視線を向ける。敵の味方の命に配慮しろ、だなんて言うつもりはないし、わざわざ目的に気付き易いよう声を上げてくれた辺り、本当に命を奪うつもりはなかったんだろうけど…だからって、こんな事をされて「上手い策だ」なんて思える訳がない。

 

「一対一なら、何とかなる…そう思っているのなら、すぐにその認識を改める事ねッ!」

 

 バックステップで離れようとするステマックスへと即座に間合いを詰め、右の腕で首元へと貫手。払われた瞬間に左手で拳を打ち込み、徒手空拳での肉弾戦で攻め立てる。

 

「隙のない連撃…されど、拙者とて…ッ!」

「へぇ、反応出来るのね。伊達に一人で仕掛けてきた訳じゃないって事かしら…ッ!」

「拙者は将軍の矛であり盾。将軍の為ならば、たとえ女神が相手でも出し惜しみは……ふぉっ!?」

「……!そこッ!」

 

 反撃は許さない。だけど、わたしの攻撃も後一歩届かず、防がれる中で感じるステマックスの実力。わたしの攻撃を装甲やバリアで阻むのではなく、『技術』で凌いでる時点でうちのMGやキラーマシンなんかよりずっと高性能なのは間違いなくて……けれどわたしが前傾姿勢気味に軽く屈んだ瞬間、急にステマックスは隙を晒す。

 その隙を突いて、横蹴りを放つわたし。狙い通りにわたしの脚はステマックスの横腹を捉えて、彼を大きく跳ね飛ばす。

 

(今の、妙な隙だったわね…オーバーヒートか何かかしら……)

 

 防御を突き崩した訳でもなければ、意表を突いた訳でもないのに生まれた隙。どういう事なのか気にはなるけど、推理するにはまだ情報が少な過ぎる。つまり、わたしを誘う為の『フリ』な可能性もある訳で…だからわたしは追撃をせず、代わりに手放していた大太刀を回収。機会を背にして、正眼に構える。

 

「う、ぅ…なんと、なんという躍動感……」

「…躍動感?」

「はっ…!せ、拙者は忍者、如何なる事にも忍耐の意思を貫きし存在…!落ち着くので、落ち着くので御座る…っ!」

 

 身体を起き上がらせたステマックスは、何やらぶつぶつと小声で呟いた後構え直す。何か動揺していたみたいだけど…やっぱり、どこかの機構に問題が起こったのかしらね…。

 と、思っていたのも束の間、こちらへと突っ込んでくるステマックス。わたしはそれを迎え撃とうとして…けれどわたしの間合いに入る数歩前で、真横へ跳躍。そしてその先にあるのは、わたしが最初に弾いた大手裏剣。

 

「そうはさせないわよッ!」

「ぐっ…しかし、これならば…ッ!」

 

 目的を理解するのとほぼ同時に飛んだわたしは、背後へ一撃。その攻撃はギリギリで振り向き、右手で逆手持ちする刀を掲げられる事で防がれたものの、体勢を大きく崩す事に成功。でもステマックスは衝撃に身を任せる事で床を転がり…狙い通り、大手裏剣を回収されてしまう。

 攻撃そのものは防御したとはいえ、硬い床を、わたしの一撃を受けて転げ回れば、普通全身に痛みが走る。転がり方次第じゃ、肘や膝に多大な負荷がかかってしまってもおかしくない。…けれど、ステマックスはロボット。全身が装甲で覆われている、もしかするも痛覚もないのかもしれない存在。

 

(今のはわたしの選択ミスね……)

 

 大手裏剣を拾い上げたステマックスは、それを左の前腕部へ。腕部に装着された大手裏剣、それはまるで盾のよう。

 互いに武器を構えたまま、睨み合うわたし達二人。でもどこか、ステマックスからの視線はぼんやりとしているような気がして、それも気になる。さっきの隙といい視線といい、どうも彼には妙な事が…っと、思考ばっかりしてても仕方ないわね…ッ!

 

「はぁぁッ!」

「……っ!なんの…ッ!」

 

 動かないならばとこちらから踏み込み、袈裟懸けをかけるわたし。見た目通りにステマックスは大手裏剣を盾として使い、止まったわたしへ刀で斬り上げ。それをわたしが右へのステップで避け力技で強引に防御を斬り崩すと、ステマックスは大跳躍で後方へ。

 追おうとしたわたしへと投擲される大手裏剣。僅かに曲線を描いて飛ぶそれを難なく避けたわたしは改めて突進を仕掛けようとし…その瞬間、後方から感じる脅威。

 

「……ッ!随分と多彩ね、その手裏剣は…ッ!」

「当然で御座る!これは拙者自慢の…ぬ、ぬぅ……っ!」

 

 反射的にしゃがんだわたしの頭上を駆け抜けていく刃。それは、今し方避けた筈の大手裏剣。ブーメランの如く戻っていくそれへの対応が後一瞬遅ければ、冗談抜きにわたしは某黄昏の魔弾の様になっていたかもしれない。

 けれど、そういうものだと分かっていれば打つ手はある。わたしは床に左手を突き、両脚に加えて左手でも床を押す事によって一気にステマックスへと肉薄し……そこで再びステマックスが見せる、奇妙な隙。

 

「まさか貴女、わたしは眼中にないのかしら…?」

「が、眼中!?…あ…い、いやそういう事では……」

「なら、目的はあくまで離脱って事?確かにそれなら、まともに戦うよりは賢明な判断ね…ッ!」

 

 何かがおかしいステマックスは、受け流し主体の動きでわたしの攻撃を逸らして防ぐ。対するわたしは違和感を突き止めるべく、その為の情報を引き出すべく煽り混じりの言葉をぶつける。

 縦、横、それに斜め。様々な方向から不規則に斬撃を仕掛け、ステマックスからの反撃を許さない。ステマックスに、落ち着いて動く余裕を与えない。

 

「貰ったッ!」

「くッ、まだ…ッ!」

「…なんて、ねッ!せぇいッ!」

「……!?」

(……っ、また…ッ!)

 

 斬り上げの最中から腕力で強引に突き下ろしへと移行し、わたしはステマックスの右膝を狙う。咄嗟にステマックスが右脚を下げた事で刺突は避けられたものの、避けられるのは想定内。そのままわたしは床に大太刀を突き立て、それを軸に回り込む事で一気にステマックスの背後を取る。

 振り向きながら掲げられる大手裏剣と、それを真上から打ち付ける大太刀。間一髪の防御だった分初めからステマックスの姿勢は崩れていて、わたしは力で押し込む形に。ここまでの斬り結びやせめぎ合いで力はこっちの方が上だと分かっていたから、わたしはそのまま押し込もうとして……また、ステマックスの動きが乱れる。一瞬阻む力に乱れが生じる。

 

「ほら、隠し球があるなら出してみなさい…じゃなきゃこのまま、押し潰すわよ…ッ!」

「か、隠し球…出す…潰す……そ、そんな…まさかネプテューヌ殿は、そっち系の……」

「そっち系…?さっきから何をごちゃごちゃと…ッ!」

 

 床を踏み締め、上体を倒し、体重もかけてステマックスを押すわたし。当然身体もステマックスへと近付き、もしステマックスが倒れればそのまま押さえ付けられる位の状態になる。

 そんな中、わたしの挑発を受けたステマックスが見せたのは、前の自己紹介を思わせる動揺ぶり。おまけに発した言葉も意味不明で、彼に対するの不可解さは増していくばかり。

 

「く、ぅッ…ぬぅんッ!」

「ふんっ、逃がさな……(あれ…?)」

 

 わたしとは対照的に背筋が反り返り、もういつ倒れてもおかしくない状態となったステマックスは、身体を思い切り左へと回し、大手裏剣を傾ける事によってわたしの大太刀を横へと流し、続けて即座に後方宙返り。

 苦肉の策の対応だったのか、跳んでいる最中のステマックスは隙だらけ。だからわたしは追いかけようとして……その瞬間、ある可能性が思い浮かぶ。

 思い返せば、やけにステマックスは距離を取ろうとしてきた。ここまでステマックスが隙を見せたのは、どれもわたしが大きく動いたり、かなり距離を詰めた時。そして、確かアフィモウジャスはステマックスの事を、「初心」だと言っていた。…もしや……

 

「…ふぅ……」

「ふぉっ……!?」

「胸って大きいと、どうしても肩に負担がかかっちゃうのよね」

「ふぉぉ……っ!?」

 

 ステマックスが着地しこちらを見たところで、わたしは胸とプロセッサの間に指を差し込んで軽く引っ張る。何やら変な声が聞こえたのを確認し、今度はわざとらしく肩を動かし胸を揺らす。すると再び変な声が、ステマックスの方がしてくる。……ビンゴね、これは…。

 

「…貴方、硬派っぽい割に…というかロボットなのに、そういう事への免疫が全くないのね……」

「うぐっ…な、何の事やら……」

「へぇ、しらばっくれるの?ふぅん……」

 

 一体どんなAIを搭載してるのか。実はロボットじゃなくてパワードスーツなんじゃないか。そんな疑問が脳裏をよぎるけど、何ならここまでの空気感ぶち壊しな気しかしないけど、ともかく見つかったのはウィークポイント。そして彼は決して弱くない以上…そこを攻めない理由はない。

 大太刀を逆手に持って腕を組み、そこに胸を乗せるわたし。そこから軽く腕を上げて、わざとらしく胸を強調する。

 

「はぁう…っ!…はっ…へ、平常心で御座る…!これは奸計、拙者を惑わさんとする罠…!しかし忍者たる拙者が、このような策にかかる訳には……」

「んっ、ぅ……」

「…お、おおぅ…なんという、自然な躍動……っ!」

 

 胸を乗せたまま、くすりと笑って見つめていると、これまたステマックスは分かり易い反応をして慌てふためく。ならばと今度は両手を伸ばし、軽く身体を逸らして伸びをしてみると、自己暗示は全く意味がなかったのかステマックスはわたしの胸を凝視。当然これはステマックスを骨抜き…もとい確実に無力化する為の策略だけど……なんだかちょっと楽しくなってきたわね…。

 

「ふふっ。ねぇステマックス…わたし、正直者は結構好きなのよ?」

 

 次々ポーズを変え、仕草を変えてステマックスを掻き乱しつつ、気付かれないよう少しずつ近付いていったわたしは、いけると思ったタイミングで温存していた一手へ移行。ここまで逆手持ちにしていた大太刀の柄を胸の谷間に挟み込み、少しだけ前傾姿勢になって、再びステマックスの事を見つめる。

 正直、こういうのはベールかイリゼの担当だとは思うけど…実際効果的なんだから仕方ない。というかわたしは正統派女神だけど、魅力溢れる女神でもあるんだから、ある意味こういう展開は起こるべくして起こった事象。もう一度言っておくけど、わたしは魅力溢れる女神でもあるんだから。

 黒くて硬くて長いブツを胸で挟んで、先を谷間から飛び出させて、誘うように浮かべた微笑み。わたしの接近に気付いているのかいないのか、たじろいだステマックスは小刻みにぷるぷると…いや、ロボットだからと震え出し、そして……

 

「……ネプテューヌさん、何やってるんですか…?」

「あっ……ゆ、ユニちゃん!?」

 

──ユニちゃんに、声をかけられた。皆の安全確保を完了させたらしい、呆れ100%の半眼で、「何やってんのこの人…」という思いしか詰まってなさそうな声音の、妹の友達ユニちゃんに。

 

「あ、や…その、これは……」

「…まさか、アタシへの当て付けですか…?」

「ち、違うわよ!?これは当て付けとかじゃなくて、単に……」

 

 一気に現実…というか平時の精神状態に引き戻されたわたしは、続くユニちゃんの言葉に大テンパり。勿論そんな意図はないけど、ユニちゃんからすればそう見えても仕方ない訳で、一気にここまでの思考が吹っ飛んでいく。…って、いうか…ここにいるのはステマックスだけみたいな気分でやってたけど、よく考えたらこの場って……

 

「〜〜〜〜っっ!!」

「えぇぇネプテューヌさん!?な、何故今になって赤面を!?アタシが声をかけた瞬間ではなく、何故に時間差で恥ずかしくなってるんですか!?」

「う、うぅぅ…違う、違うのユニちゃん…これは……」

「……はッ!このチャンス、逃す訳にはいかないで御座るッ!」

『あ"っ!?』

 

 一瞬で身体全体が熱くなる程の羞恥心に襲われ顔を覆うわたしと、彼女視点からすれば奇行でしかないわたしの動きに動揺するユニちゃん。けれどわたしが羞恥心に襲われていようと、ユニちゃんが唖然となろうと、戦闘中は戦闘中な訳で……折角手にした好機を、みすみすわたしは逃してしまう。

 跳躍したステマックスは、わたしに背を向け大手裏剣投擲。その大手裏剣が飛翔する先は、機能中のジャミング装置。反射的にユニちゃんが弾丸を放ち大手裏剣の軌道を逸らしてくれたけど、ステマックスはそのまま会場の端へと走る。

 

「…まさか…ユニちゃんっ!」

「は、はいっ!」

 

 自分からすっ転んで羞恥心に駆られたわたしだけど、流石にもう意識は切り替わっている。

 ステマックスの狙いは、恐らく逃走。逃げられてしまえばジャミング装置も意味がないし、アフィモウジャスに情報が流れてしまう。だからわたしも追いかけるようにして飛ぶけど…忍者だけあって、走るのは早い。さっきと違って距離が離れてる分、すぐには追い付けない。

 

「三十六計逃げるに如かず、何としても情報は持ち帰るのが忍者の使命…ッ!」

「ちッ、なりふり構わないって様子ね…ッ!」

 

 逃走するステマックスの背を、言葉と共にユニちゃんの射撃が追う。けれどステマックスは不規則に跳ぶ事で射撃を回避し、更に観客席の椅子を次々斬り裂き後ろに飛ばす事でわたしの追撃も邪魔してくる。

 飛んでくる椅子の破片を弾き、少しずつ距離を詰めていくわたし。一気に加速し廊下へと繋がる道を阻む事を考えたけど、その動きをしようとした瞬間ステマックスは前ではなく上へ。大きく跳ぶ事で半球状の天井の出っ張りに手を掛け、そこから更に上がっていく。

 

(なんて忍者らしい逃げ方を…ッ!)

 

 天井へと向かった以上、逃走経路は最初に開けた穴である事は間違いない。ならばと穴に先回りしようとしたけど、再びそこで飛んでくる大手裏剣。弾けども大手裏剣はステマックスの元へ戻っていき、わたしに合わせてくれたユニちゃんの射撃もそれに防がれる。

 下手に撃てば天井が崩落してしまう可能性が高い為に、ユニちゃんは高威力の射撃が出来ない。もう一度先回りしようとすると、今度は爆発する刃を投擲され、再び動きを阻まれる。

 そうしてステマックスは、もう天井の穴まで目前の距離に。こっちもなりふり構わず全力で止めようとすれば、何とかならない事もないけど、その場合スタジアムの被害も馬鹿にならない。女神として、どうしてもそれは無視出来ない事。……でも、そんな事を気にしてる場合じゃないわよわたし…ッ!

 

「ユニちゃんッ!確実に止めるわよッ!」

「……っ!了解ですッ!」

 

 自国への被害は常に抑える事を考えるのが女神にとって必要な事。だけどそのせいで敵を逃し、折角の策を台無しにしてしまったのであれば、そんなのは本末転倒。だからわたしはユニちゃんに声を飛ばし、わたしもステマックスに狙いを定める。

 エクスブレイドと、ユニちゃんの高出力射撃。それならステマックスも離脱を断念せざるを得ないだろうし、今を逃せばステマックスに逃げられてしまう。そして逃げられた場合…損失は計り知れない。

 だからこその判断。何としても、確実に止めるという意思。その意思の下わたしは展開したエクスブレイドの斬っ先を向け、ユニちゃんも銃口を掲げた……その時だった。

 

「──一閃・火遁!」

「何……ッ!?」

 

 わたし達が攻撃を放とうとした、ステマックスが穴に辿り着こうとしていたその瞬間、天井の一角…暗くなっている場所から撃ち込まれた火炎の一撃。その炎にステマックスは弾き返され、更にそこへ迫る鋭い斬撃。ステマックスはそれを防ぐも、空中にいる彼は当然踏ん張る事なんて出来ず、会場真下へ落ちていく。

 

「い、今のは…忍、術……?」

 

 床へと落ちる直前、ステマックスが発したのは驚きの言葉。その彼を落とした存在は、華麗にすたりと床へ降りる。

 それは、この作戦の為に呼んだわたしの仲間。暗がりの中でわたしにタイミングを教えてくれた、対ステマックスにおいて最も適任だと思える人材。そう、その仲間は…忍者に対抗するならという点で、全会一致の賛成を受けたその子が誰かと言えば……

 

「予想通り…こっちに逃げようとしたね?ロボット忍者さん」

 

──旧パーティーメンバーの一員であり、明るく穏やかなある機関の『忍者』、マベちゃんに決まってるわよね。




今回のパロディ解説

・頭に付いているものは全部たかがじゃないもの
機動戦士ガンダムの主人公、アムロ・レイの名台詞の一つのパロディ。たかがメインカメラが…のやつですね。…伝わりましたでしょうか?

・某ピーチなスパイ
RELEASE THE SPYCEの主人公、源モモの事。舐める事で分かるといえば、彼女ともう一つのパロディの彼でしょう。モモの場合は、視力もかなり良い訳ですが。

・両肩にジッパーの付いた服を着たギャング
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風の登場キャラの一人、ブローノ・ブチャラティの事。舐める事で読むといえば彼の方が先ですし、モモを見て彼を連想した人も多いでしょう。

・某黄昏の魔弾
機動戦士ガンダムSEEDに登場するキャラの一人、ミゲル・アイマンの事。ミゲルジンに乗ってキラと戦う彼が見たかった、そう思う人も多いんじゃないかなと思います。
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