超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第九十六話 将の決意

 ある事は分かっている、でも見つからない。見つからない、でもある事は分かっている。それは一見すれば挙げる要素の順番を変えただけで、実際にも違いがある訳じゃない。だって、先に「ある」という情報を見るか、「見つからない」という状況を見るかの違いでしかないから。

 だけど、それは事象としては同じでも、精神的には全然違う。ある前提でいたのに見つからないというのと、そう簡単には見つからないつもりでいたのとじゃ、精神にかかる焦りが全くもって違っている。

 前者の場合は、探すつもりなんてない。だって、すぐに見つかると思っているから。だから焦るし、「ある」という前提にも不安を抱く。逆に後者の場合は、探す前提でいて、でも骨折り損になる可能性は否定されているから、切羽詰まった状況でもない限りは焦ったりしない。そして、今のわたし達は…前者の側に立っている。

 

「…無い、わね。何も…」

 

 システムが示している、何かがある筈の座標。だけどそこにあるのは、視界を遮る物なんて殆どない草原。

 足を止めて、一つ呟くノワールさん。ある筈なのに何も見えないという中、わたし達は座標の地点まで移動する事を選び…たった今、その位置とわたし達とは重なった。

 

「むー…ネプギア、ほんとにまちがってないの?」

「上と下、ぎゃくになってない…?」

「そ、そんな初歩的なミスはしないよ…」

 

 くるりと振り向き見つめてくる二人の言葉を、わたしは否定。幾ら何でもそれはない…と言いたいところだけど、そう思いたくなる気持ちも分かる。だってそれ程までに、ここには怪しいものが一つもないんだから。

 

「…ねぇ、やっぱりこれって……」

「えぇ。わたしもそう思うわ。でも……」

「これまでは、ある程度の距離まで近付けば見えるようになりましたものね……」

 

 ゆっくりと見回すイリゼさんに続く形で、ブランさんとベールさんも口を開く。

 お三人が言っているのは、黄金の塔の事。黄金の塔は近付くまで完全に不可視だったから、今回も黄金の塔、或いは同じ性質を持つ何かなんじゃないかと考えた。

 でももし黄金の塔なら、マーカーの位置的にもう見えるようになっていなきゃおかしいし、逆に黄金の塔だったら探知出来ている事に違和感を覚える。

 

(黄金の塔とも違うって事…?けど、それなら一体……)

 

 目を凝らす、耳を澄ます、ロムちゃんとラムちゃんには魔法の探知もしてもらっている。だけど何も、尻尾すら掴めない。ある筈なのに、システムの方はここにあると示しているのに、それと現実とが一致しない。

 

「…まさかとは思うけど、向こうからシステムがハッキングされてる…なんて事はないわよね?」

「いえ、出来る限りオフラインかローカルネットワーク内でのみ利用してるので、その可能性は低いと思います」

「だとしたら……もしや、地下…?」

 

 相手はネット上から影響を及ぼしている存在だから、そういう干渉をしてくる可能性もあったし、だからそれに備えてネットへの接続は控えていた。その旨をノワールさんに伝えると、イリゼさんは腕を組んで…それから半信半疑な表情を浮かべて、真下…つまりは地面を指差す。

 それを聞いた瞬間、わたし達は全員が一瞬黙り込んだ。理由は多分、幾つかある。でも、それは……確かに、あり得ない話じゃない。

 

「地下…あるとすれば地下施設、或いは地下通路辺りかしら…ブラン、ここ周辺にそのようなものはありまして?」

「いや、ない筈よ。でも地下なら、マーカーの位置とそれらしき物が何もない事へ対する説明が付く…」

「通路か何かが出来ているなら、移動してる事も理解出来るわね。…いや、でも…国を跨ぐ程の通路を、私達女神に気付かれる事なく作るなんて……」

「…ほってみる?」

「はいはーい、わたしどっかーんってやって穴あけてもいいわよ?」

「ま、待った待った二人共。まだそうと決まった訳じゃないから、ね?」

 

 既に焦るというより焦れったく感じてる様子の二人を止めつつも、わたしも考える。地下に何かあるという可能性が、一体どの位あるのか…言い換えれば、それは現実的な話なのかを。それに関しては、今二人が言った通り実際に掘ってみるのが一番手っ取り早くはあるけど……手掛かりがマーカーだけの時点で掘ってみるっていうのは、あまりにも果てしな過ぎるから。

 

「…取り敢えず、持って来られる最大の地中探知機を使ってみますか…?」

「まあ、待っていれば何かが変わるという訳でもありませんし、やるだけやってみた方が良さそうですわね。…ブラン?」

 

 何かあるのか、それともただの思い違いか。どっちなのか分かる人がいない以上は、掘るなりレーダーを使うなりして確かめるしかない。どの方法を取るかはともかく、その認識は多分全員が持っている事で…そんな中、気付けばブランさんは一人、何もない方向を見つめていた。

 

「…あぁ、うん。ごめんなさい、少し考え事をしていたわ」

「考えごとって、何を考えてたの?」

「マーカーはここを示しているのに何もない…ううん、ある筈のものが見えない、その理由をよ」

「…むつかしい、こと…?(おろおろ)」

「ううん、単純な事よ。わたしが想像している通りなら、ね」

 

 くるりと振り返ったブランさんに、ラムちゃんとロムちゃんが続けて質問。振り向いたブランさんは自信のある顔をしていて、これだと思える何かしらの推測が立っている様子。

 ブランさんが言わんとしているのは何なのか。そう思ってわたし達が見つめる中…ブランさんは、ふっと笑う。

 

 

 

 

 彼にとっての居城同然である拠点の中。その中でも司令部に該当する区画の中で、アフィモウジャスは考え込んでいた。

 

「むぅぅ…一体どこへ行ったというのじゃ、ステマックス……」

 

 落ち着かない様子でうろうろと歩き、唸り声を上げているアフィモウジャスが気にしているのは、ステマックスの事。彼もステマックスも(ロボットに年齢の概念があるかはさておき)子供ではなく、別行動をする事自体は何ら珍しい事でもなかったが、連絡が取れないとなれば話は別。加えてステマックスは女性を前にすると、すぐ余裕がなくなってしまうという事をアフィモウジャスは誰よりも知っているのであり、何かトラブルに遭った…或いは起こしてしまったのではないかと、心配しきりなアフィモウジャス。

 

「…それに、まさか…ワシ等の尻尾を、掴んだというのか…?」

 

 だが、彼が落ち着かない理由はそれだけではない。彼が落ち着けない、もう一つの理由は…モニター越しに見える女神の存在。イリゼ達女神は今、彼の拠点からかなり近い距離におり……その動きからして、何かを探しているのは間違いない。

 アフィモウジャスは焦っていた。もしも偶然ではなく、何かしらの根拠があって探しているというのであれば…自分は今、相当な窮地に立たされている、と。

 

(逃げるか…?いや、下手に動けば逆に気取られてしまうやもしれん…。ならば、こちらから打って出て、不意を突くか…?…論外じゃな、まだ確信を持っているとは断言出来ぬ相手にこちらから仕掛けてどうする……)

 

 動くべきか、動かぬべきか。動くのであれば、どう動くのが最適なのか。ステマックスの事を心配しつつも、アフィモウジャスは現状への対応に悩み……そんな彼の下へ、不意に一件のメッセージが送られてきた。

 

「うん?おぉ、漸く連絡を寄越したかステマックス…全く、お主はどこで何を……」

 

 届いた音声メッセージの送り主は、音信不通なステマックス。彼から送られてきたメッセージに、アフィモウジャスはふっと張り詰めていた雰囲気を緩ませ……されどすぐに違和感を抱く。

 表示されたのは、通話でもなければ通常のメッセージでもなく、何故か音声メッセージ。つまり、予め用意されたメッセージという事であり…何らかの意図がなければ、普通はそんな事などしない。

 

(…なんだ…どういう事じゃ、ステマックス…お主は、一体……)

 

 湧き上がる不安。ステマックスはただならぬ何かに脚を突っ込んでいるのではないかと、恐れにも似た感覚が彼に走る。

 目を逸らすのは容易い。メッセージの中を見なければ、それだけで良いのだから。しかしそれは、回避ではなく先送り。確認の如何に関わらず、状況は常に動き続ける。だからこそアフィモウジャスは、見たくないという気持ちを感じながらも、意を決してメッセージを開く。

 

【……将軍、突然申し訳ないで御座る。本来ならば、直接話すべき事をこのような形で伝える事を、まずは許してほしいで御座る】

 

 一瞬の間を置いて、再生が開始されるメッセージ。声は勿論ステマックスのものであり…聞こえてくる声音は、いつになく神妙。

 

【このメッセージは、指定した時間に送られるよう設定したもので御座る。そして将軍が今これを聞いているという事は…その時間までに、拙者は戻れていないので御座ろうな】

「…止めよ、ステマックス…その言葉選びは、不吉過ぎるではないか……」

 

 自嘲気味な声音が混じったところで、ぽつりと呟くアフィモウジャス。当然、それが意味のない行為である事は彼も分かっている。だがそれでも、広がる不安からアフィモウジャスは口を開いていた。

 

【どうやら女神達は、拙者達に依頼した件の対抗手段を得た様子。そしてそれを明日…つまり、今日使うらしいので御座る。無論、そう簡単に実現し得るとは思えないで御座るが……】

「ま、まさか…一人で行ったというのか…そんな、万が一の可能性の為だけに…一人で、女神達の下へ……!」

 

 結論部分を口にしなかったステマックスだが、そこに続くべき言葉は伝わっていた。

 理解したからこそ、アフィモウジャスは肩を震わせる。女神の下へ、一騎当千たる信次元の守護者達へと仕掛けにいき、戻ってこないというのなら、可能性は二つしかない。返り討ちにされ捕らえられたか、或いは……

 

「何と愚かな事を…何故だ、何故だステマックス…!何故ワシに何も言わず、一人で……ッ!」

【…将軍、拙者は将軍を止められないで御座る。意志薄弱で、一人では到底行く先の望みもないような拙者では、将軍の様に意志の強い者を止められないので御座るよ。しかし、止めたいと思うのと同時に、将軍の力になりたいと思うのもまた拙者の本心。…だからこそ……将軍の代わりに、将軍が動くまでもなく、将軍にとっての障害を排除するのが拙者の最善。…危険を冒すのは、拙者一人で十分で御座る】

「な……ッ!ば、馬鹿を言うなステマックス!馬鹿を言うではない…ッ!何故、そんな…ワシは、そんな事を…ッ!」

 

 内容とは裏腹に…いや、その内容だからこそ落ち着いた言葉を紡ぐステマックスと、握った拳を震わせるアフィモウジャス。

 そんな事は望んでいない。そんな事が、最善などであるものか。アフィモウジャスの中に渦巻くのは、ステマックスへの怒りと後悔。自分の選択次第で、言葉選び一つで回避出来たかもしれないという可能性に、アフィモウジャスは俯きわななく。

 だが、それだけでは終わらない。ステマックスからの音声メッセージは続く。

 

【…されど、安心召されよ。忍は命を懸けて主の念願の助けとなるもの。どんな敵が相手であろうと、如何なる障害が阻もうと、将軍の助けになるのなら拙者の意思が折れる事は決してないで御座る】

「くっ…女性を前にするとまともに喋れない程の緊張しいの癖に、何故変なところでそこまで覚悟が決まるのだお主は…!それのどこが意志薄弱だと言うのだステマックスよ…!…待っていろ、すぐにワシが……」

 

 覚悟は既に決まっている。そう言わんばかりの声音にアフィモウジャスは腕を振るい、ここにはいないステマックスへと向けて叫ぶ。そして彼が、ステマックスを助けに行くべく行動を開始しようとした……その時だった。

 

【──それに、拙者…まだまだ将軍と馬鹿な事をして、趣味の話に花を咲かせたいので御座る。我が生涯に、一片の悔いなし…などと言ってみたいで御座るが、残念ながらまだまだ悔いがありまくりで御座る。だから…待っているので御座るよ?将軍】

 

 それは、音声メッセージ最後の言葉。メッセージを締め括る、穏やかな…それでいて照れ臭そうな、アフィモウジャスの知る「ステマックスらしい」言葉。

 それを聞いた瞬間、アフィモウジャスは止まった。ぴたりと動きを止め、数秒間の時間が流れ……彼はふっと拳を解く。

 

「…全く…最後の最後で締まらんのぉ、ステマックス。そこは最後までキリッと締めるか、そういう事を言うならせめて女性相手にであろう…。本当に、お主という奴は…そもそも軍を率いていないワシの将軍要素など、明らかに外見だけじゃろうが…。…まあ、渾名とはそもそもそのようなものではあるが……」

 

 脱力したような雰囲気を醸し出すアフィモウジャスは、困ったように突っ込みを入れる。その声はまるで嘆息を漏らすかのようであり…しかし同時に、愉快そうな響きも籠る。

 それから顔を上げるアフィモウジャス。ロボットである彼に、表情の変化などはないが……彼の纏う空気は、どこか笑っているかのよう。

 

「…良かろう。他ならぬステマックスが将軍と呼んでくれるのだ。ならばワシも乗ろうではないか。将とは、信頼してくれる従者の思いに応え、従者を守るもの。そして助け合う事こそが、友というもの。…女神達よ。我が友を危機に瀕させた事、ただで済むと思うでないぞ?」

 

 ステマックスが存命である事を信じ、アフィモウジャスはモニターの中…そこに映る女神達を鋭く見据える。

 そこに報復や復讐の感情はない。どちらが悪いかと言えば、それは一人で動いたステマックスであり、そもそも金の為に手段を選ばない道を歩むアフィモウジャスであり、即ち彼等アフィ魔Xの自業自得なのだから。

 故に、彼が動くのは友の為。今持てる手全てを尽くす事を決め、彼は身を翻す。

 

 

 

 

 人差し指を立てて、ブランさんが口にした可能性。それは確かに物凄く単純で、荒唐無稽って訳でもなくて、地下と同じかそれ以上に現実味のある一つの憶測。その説明を聞いて、わたしは素直にあり得るかもって思った。

 もしもその憶測が当たっているのなら、ちょっと乱暴且つ手当たり次第にはなるけど、今すぐ取れる方法で炙り出す事が出来る。少なくとも、地下を探すよりはずっと楽に、合っているかどうかを確かめられる。

 でもその方法は、対象に動かれるとやり直しになってしまう。マーカーじゃ正確な位置までは分からない以上、動く前にその存在を特定しなきゃいけない。だから早速検証を開始しようとした…その時だった。

 

『……──ッッ!?』

 

 空に一つの光が灯った…と思った次の瞬間、上空から降り注ぐ膨大な粒子の奔流。反射的にわたし達は女神化し、ロムちゃんとラムちゃんが障壁を展開。二人の魔法が組み合わさった魔力の壁へ光の柱は激突し、激しい音と光の四散が巻き起こる。

 

「なんて高出力ですの…!これは、まさか……」

「えぇ、噂をすれば…ってやつかしらね…!」

 

 わたしやユニちゃんでも即座には放てないようなビームの猛威に軋みを上げ、少しずつ削れていく魔力障壁。けれど先に力尽きたのはビームの方で、次第にその奔流は細く薄いものとなっていき、最後は障壁が崩れ去る前に消滅。嘆息からの二人同時サムズアップを見せるロムちゃんラムちゃんへブランさんが良くやったと声をかける中、わたし達は開けた空の先を見据え……視認する。綻び歪む、空のある箇所を。段々と見えてくる、そこにいた存在を。

 

「…やっぱりな…道理で見えねぇ訳だ」

 

 現れたのは、巨大な鉄塊。砲を備え、装甲を備え、推進器を備えた、空に浮かぶ一隻の艦。

──空中艦。それもレーダーを騙す通常のステルスだけでなく、何らかの技術によって目やカメラでの捕捉も許さないステルス能力を有した、四ヶ国のどこにも所属していないであろう艦船。それが正体。それが、ある筈なのに見つからなかった単純な理由。だけど一つの事が判明したのとほぼ同時に、わたしの中で衝撃が走る。

 

(…え、嘘…あれは、確か……)

 

 艦砲による砲撃を放ってきた空中艦に対し、臨戦体勢を取る皆さん。わたしもM.P.B.Lを構えて…けれどその空中艦の姿が完全にはっきりと見えるようになった瞬間、愕然とした。

 その艦には、見覚えがあった。細部は違うけど、恐らく同型艦だと思える艦を、わたしは知っている。だけどその艦は、敵である筈がなくて……

 

「…ふん、正面から防ぐか。だが……」

「……っ…!」

 

 困惑するわたしの思考を現実に戻したのは、艦から聞こえた声だった。

 その声は、アフィモウジャスさんのもの。その声とお姉ちゃん達からの連絡で、アフィ魔Xは味方じゃないって事がほぼ確定。続けて艦の一角が開き…そこから重装備の巨体が、凄まじい速度で突っ込んでくる。

 

「今のワシは、その程度で臆しなどはしないッ!」

 

 飛来する巨体により振り下ろされる大剣。わたし達が飛び退いた地点を大剣は叩き、地面に深々と斬撃の跡を刻み付ける。

 

「出たわねアフィモウジャス…って……」

「お、おっきい…!?」

 

 回避と同時に反撃へ移ろうとしたわたし達だったけど、そのわたし達の間へ走る衝撃。

 今ロムちゃんが言った通り、アフィモウジャスさんは元々大柄のロボット。だけど、今襲ってきたアフィモウジャスさんは明らかにサイズが違う。一回り大きくなっていて、サイズ感としてはMGやマジックさん以外の四天王のよう。

 

「見るがいい!これぞワシ専用の装着型強化外装、通称スーパーアフィモウジャス!又はアーマードアフィモウジャスじゃッ!」

「可変戦闘機の定番追加パックみたいな名前してるわ、ねッ!」

 

 地面を踏み締め、わたし達を追って飛び上ろうとするアフィモウジャスさんに対し、ノワールさんは急接近から大剣で一撃。それをアフィモウジャスさんは振り出した大剣で正面から受け、両者の大剣が激突する。

 

「ふぅんッ!」

「へぇ、確かにパワーはそれなりのものねッ!」

「けれど、流石に多勢に無勢ではないかしらッ!」

 

 せめぎ合いの状態から大剣を振り抜き、アフィモウジャスさんはノワールさんを弾き返す。けれどノワールさんはくるりと宙返りする事で軽々と姿勢を正し、息つく間もなくイリゼさんベールさん、ブランさんが三方向から挟撃。それを跳躍で回避した先へ、わたしがロムちゃんラムちゃんと共に遠隔攻撃を叩き込み、アフィモウジャスさんを撃ち落とす。

 

「ぐぅぅ……!」

「今のを受けて爆散してねぇ辺り、装甲強度も中々、ってとこか。…テメェ等があの碌でもねぇネット記事を流してたんだな」

「…さて、何の事やら」

「あら、ここまで堂々と私達を騙してきただけあって、態度だけは大したものね」

「騙したとは心外な。ワシ等は騙してなどいない。元凶か訊かれなかったから話さなかった、ただそれだけじゃ」

 

 一応大剣の腹での防御は出来たらしく、アフィモウジャスさんは姿勢を崩しながらも着地。立ち上がる彼へブランさんとノワールさんが鋭い視線をぶつけると、毅然とした態度で言葉を返す。

 空中艦があるとはいえ、数はこっちが圧倒的に有利。それはアフィモウジャスさんも分かっている筈で…けれど焦るような雰囲気はない。

 

「一応訊きますけれど、罪を反省し、投降する気はありまして?もしあるのでしたら、今の攻撃はダイナミックな自首という事にしてあげても構いませんわよ?」

「ほぅ、主砲による攻撃を自首の一環にしてくれるとは、流石金髪…いや今は違うが…巨乳女神。器が違うとは正にこの事。…しかし、聞けん話じゃな。貴様等こそ、今すぐにステマックスをこの場へ連れてくれば、この場は矛を収めてやっても良いのだぞ?」

「ステマックスさんを…?…それは……」

 

 ベールさんからの問いを跳ね除け、逆にこちらへと要求をぶつけてくるアフィモウジャスさん。だけど連れてくるも何も、ステマックスさんは自分から身を潜めていて、今もお姉ちゃん達が探している状態。なのにどうやって…とわたしは言いかけて、気付いた。解放しろ、みたいな要求ならともかく、連れてくれば…って表現をしたって事はつまり、アフィモウジャスさんは今のステマックスさんの状態を知らないんだって。

 

「…一つ、訊かせて下さい。あの空中艦は、どうやって手に入れたんですか…?」

「ある依頼者を介して買ったのだ。金は貯めるのも良いが、使うのもまた良いというもの」

(買った…?…って事は、それも含めて……)

「問いには答えたのだ、こちらの問いにも回答してもらおうか」

「答える?私達が、そんな要求を受け入れるとでも思ってる訳?」

「ならば仕方ない。貴様等の内一人二人を捕らえ、ステマックスとの交換材料にするとしようッ!」

 

 そう言い放った瞬間、再び放たれる艦からの攻撃。今度は副砲らしい艦砲射撃とミサイルによる爆撃で、それに続いてアフィモウジャスさんも突っ込んでくる。

 主砲程の威力はなくても、空中艦からの攻撃はどれも強力。だけど艦からすればわたし達はあまりにも小さい訳で、気を付けていれば大した脅威にはなりはしない。アフィモウジャスさんの方も動きは見えるし、やっぱり有利なのはわたし達の方。…そう思っていた最中に、新たな衝撃がわたし達へ走る。

 

「……!?この、機体は…ッ!?」

 

 視界の端に見えたのは、開いたハッチ。そこから、更にはさっきアフィモウジャスさんが出てきたカタパルトデッキらしい場所からも次々と兵器が展開し、わたし達の方へと飛び込んでくる。

 それだけなら、単に艦載機が出撃してきたってだけの事。驚く事は何もない。けど、その艦載機として現れたのは……キラーマシン。

 

「な…ッ!?貴方、この機体をどこで……ッ!」

「ぐわっはっはっは!犯罪組織残党とやらから得た設計図によるものじゃ!やはり金は力、金を欲せぬ者などおらんッ!」

「ちっ、息が長いわねキラーマシンもッ!」

 

 得物をぶつけ合う最中、イリゼさんの言葉に対してアフィモウジャスさんが上げる高笑い。忌々しそうにノワールさんが空戦型の一機を斬り裂き、わたし達へアイコンタクト。それを受けたわたしとロムちゃんラムちゃんは高度を上げて、空戦型キラーマシンの対応と、艦のミサイルの迎撃行動を開始する。

 

「はっ、大盤振る舞いってか!けどよく分からねぇな!どうしてわざわざ正面から仕掛けてきた!そのステルスでわたし達をやり過ごして、街の方を狙おうとは思わなかったのかよッ!」

「ステマックスは、正面から障害を排除しようとしたのだッ!であれば奴の主であるワシも正面から仕掛けねば、奴に合わせる顔がないッ!」

「そんな理由でしたのね。では…その心意気だけは、素直に賛辞を送りますわ…ッ!」

 

 キラーマシンを斬撃で倒し、放たれるミサイルは射撃で撃ち落とし、余裕があれば長距離射撃で艦砲の破壊を狙う。エネルギーバリアによって対艦攻撃は防がれてしまうけど、注意を引き付けるだけでもアフィモウジャスさんと戦うイリゼさん達の援護にはなる。

 数の優位を覆されたとはいえ、キラーマシンはキラーマシン。多少強い機体はあっても今のところ陸戦型、空戦型どちらもスペシャル機らしき機体はないし、一番厄介なのはやっぱり空中艦。…そう、思っていたけど……

 

「温いッ!温い温い温いわぁああッ!」

『無茶苦茶な…ッ!』

 

 精製され投げ放たれたイリゼさんの槌で姿勢が崩れようと、ノワールさんベールさんの連続攻撃を脚部に喰らって倒れようと、即座にアフィモウジャスさんは立ち上がり、目の前に迫っていたブランさんへと上段から一撃。防がれるや否や何度も大剣を叩き付け、響くような叫びを上げる。

 そう。一番厄介なのはキラーマシンでも空中艦でもなく、アフィモウジャスさんだった。多少のダメージは厭わない、常に捨て身同然の攻撃を繰り出す事によって、イリゼさん達四人と近接戦で渡り合っていた。

 

(…いや、違う…あんなの、いつまでも持つ筈がない……!)

 

 光弾をばらまいてミサイルを撃墜し、その流れのままM.P.B.Lを払ってキラーマシンの膝関節を斬り付けたわたしは、もう一度眼下の戦闘を見て認識を改める。

 一見すれば、アフィモウジャスさんは一人でイリゼさん達と渡り合っている。でもアフィモウジャスさんは突撃の度に装甲の傷が増え、何度も何度も姿勢を崩しているのに対し、イリゼさん達はまだ無傷。気迫と執念で何とか食らい付いているようなもので、このまま戦闘を続ければ…或いはイリゼさん達が容赦せず、命を奪う選択をしたとすれば、この戦いには決着が着く。

 

「止めておけ、貴君の劣勢は覆る事などない…ッ!」

「知った事かッ!ぬぅううううんッ!」

「な…ッ!?リスキーにも程がありますわ…ッ!」

 

 振り下ろされた大剣をイリゼさんの長剣とノワールさんの大剣が押さえ付け、ベールさんが側面から突進。けれどそれを阻んだのは、副砲による対地砲撃。光芒はアフィモウジャスさんのすれすれに突き刺さり、その余波でアフィモウジャスさんの装甲の一部は焼け爛れ…僅かでも位置がずれれば自殺となっていたその一手を前に、流石のベールさんも息を呑む。

 

「まだまだ行くぞ、女神…ッ!」

 

 それからも続く怒涛の攻勢。それに比例するように傷も増え、感じられるのは執念と危うさ。やられる、って感じはしないけど…違う意味で、恐ろしい。

 

「くっ…やり辛いわね、こんな戦い方をされちゃ……!」

「(ここは…)ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

 このままじゃ、本当にアフィモウジャスさんが命を落としかねない。敵とはいえ、こんな戦い方をして、その結果命までは取ろうとしていなかったのに望まない形で終わるだなんて、そんなのは誰も喜ばない。アフィモウジャスさんがステマックスさんの為に戦っているのなら…そんな結末になるのは、あんまりにも悲し過ぎる。

 だからわたしはロムちゃんラムちゃんと視線を交わし、艦に肉薄をかける事を考えた。幾ら怒涛の勢いで攻めるアフィモウジャスさんでも艦に危機が迫れば無視出来ないだろうし、そこで艦に戻ろうとすればそこを突いてきっとイリゼさん達が上手くやってくれる筈。今はキラーマシンの数もそこそこ減らせているから、肉薄をかけるのは無理じゃない。

 

「行くよッ!」

『うんッ!』

「……!」

 

 二人の氷結魔法で目の前のキラーマシンが半凍結状態となり、わたしが全力で蹴り飛ばした事によって、他の機体は飛んできたキラーマシンを回避。その結果生まれた空間へわたし達は一斉に飛び込み、一気に距離を詰めていく。

 砲撃を避け、機銃は射撃で撃ち壊し、どんどん近付いていくわたし達三人。派手に動いているんだからアフィモウジャスさんは気付いてる筈だし、後はギリギリまで距離を詰めて注意を引くだけ。……一瞬前まで、わたしはそう考えていた。わたし達は、そうなると思っていた。だけど…現実は違う。

 

『な、ぁっ……!?』

 

 ちゃんと見えていた訳じゃない。視界的には見えていたかどうか怪しい位で、でも本能的に危機を感じたわたしは、ロムちゃんラムちゃんと共に急旋回。空中艦から離れるように弧を描き……次の瞬間、ほんの一瞬前までわたし達がいた場所を、凄まじい光芒が駆け抜ける。

 それは、ついさっきも目にしたもの。大型兵器でもまあまず出せない、艦船クラスでなくちゃ放てないビーム。その光が駆け抜けて行った時、わたしはあり得ないと思った。だってさっきそれを放った空中艦は前にいて、けれど光芒は横から撃たれたんだから。

 だけど幻覚じゃない。見間違いでもない。確かに横からも砲撃が放たれた。そう……

 

(空中艦は『二隻』あった…ッ!?)

 

 ハッチを開き、一隻目と同じようにキラーマシン部隊を展開するもう一隻の空中艦。二隻の迎撃に追い立てられ、距離を取らされるわたし達。潜んでいたもう一隻の存在には、イリゼさん達も目を見開き……再び高笑いが草原に響く。

 

「どうじゃ!これが我が力!財力という最大の武器!二隻の艦に、無数の無人機に、そしてこのワシ……侮ったな、女神達よッ!」

 

 完全に想定外だった戦力に、絶句するわたし。もう勝ち目はない…なんて事はない。だけど、これだけの戦力を有していたなんて思いもしなくて、これだけの戦力を集めるだけの財力を、普通に手に入れる事もまた不可能な筈で、何故という疑問が幾つも続いて湧き上がる。

 この状況には、イリゼさん達も思わず動きが止まってしまっていた。わたし達全員が、アフィモウジャスさんに『想定外』をぶつけられていた。……ただ、一人を除いて。

 

「……ふっ」

「ぬ……?」

 

 キラーマシン部隊が隊列を組み直し、二隻の艦が砲口を向けてくる中、不意に上がった小さな笑い。それはブランさんから発されたもので、不可能な笑いに対してアフィモウジャスさんは訝しげに見やる。

 それは、わたし達も同じ事。わたしには、一体何が面白いのか分からない。

 

「…何がおかしい、ホワイトハートよ」

「何がおかしい、ってか?…ああ、そういや言ってなかったな。わたしの予想通りだったんだよ、ステルス艦の存在は」

「…それが何だというのじゃ。分かっていたとて、今更それが何になる」

「何って?そりゃあ……こういう事だよ」

 

 余裕たっぷりの表情を浮かべて、左手を上げるブランさん。まだ分からない。その意味が、その顔付きの意図が、全くわたし達には伝わってこない。

 だけどこれから分かると言わんばかりに、ブランさんは左手を振る。合図を出すように、上から前へと手を振るい……次の瞬間だった。膨大な粒子の奔流が、三度目の光が、空を駆け抜けていったのは。

 

「な、に……ッ!?」

 

 それは、わたし達より後方から放たれた光。真っ直ぐに駆け抜け、片方の空中艦のバリアへと直撃する、鮮烈な一撃。そう、その砲撃は…向こうの空中艦に対して、放たれたもの。

 愕然とするアフィモウジャスさん。わたし達もまた驚き、わたしは神次元でのある出来事を思い出し、反射的に振り返る。そして振り返ったわたしが目にしたのは……不可視のカーテンを開くようにして姿を現す、純白の艦。

 

「ミズガルズ級汎用空中戦闘艦。──フルステルスシステムを搭載した艦が、テメェだけの物だと思うなよ?」

 

 よく映える白の装甲を持ち、悠然と空に座する一隻の戦闘艦。ルウィー国防軍所属のマーキングを有するその艦を背にして……ブランさんは、そう言い放った。




今回のパロディ解説

・【〜〜意志薄弱で〜〜望みもないような〜〜】
こゝろの登場人物の一人、Kが最後に残したある手紙の中にあるフレーズのパロディ。…大丈夫ですよ?ステマックスはまだ無事ですからね?

・【〜〜我が生涯に、一片の悔いなし〜〜】
北斗の拳に登場するキャラの一人、ラオウの代名詞的な台詞のパロディ。…だから大丈夫ですよ?ステマックスは最後に何かを残そうとしてるとかじゃないですからね?

・(空中艦は『二隻』あった…ッ!?)
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風に登場するキャラの一人、ブローノ・ブチャラティの台詞の一つのパロディ。スタンド…ではなく、ステルスでもう一隻は隠されていました。
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