超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第四話 るーちゃん、頑張る

 愉快なバトルをする事となった午前中と違って、午後はそこまでびっくりする事はない…まあ、普通の道中だった。勿論何もないという事はなく、何度か野生のポケモンを見かけたり、午前中の様に仕掛けられたりもしたが…そこはまぁ、旅の中では『普通』の事。

 だから俺達はイリゼに、この世界の事を…特にポケモンの事を、色々と話した。ポケモンが持つタイプと相性であったり、モンスターボールにも様々な種類がある事だったり、後はジムやリーグの事だったり。流石にこの世界の事全てを話すなんてなったらキリがないし、そもそも俺やグレイブだってまだまだ知らない事はあるんだから、実際に話したのは『トレーナー』の基礎知識+αってところだけど…何だか話している内に、俺は思い出した。自分がある勝負を見て、ポケモンバトルに興味を持ったばかりの頃を。

 

「うーん…今日はこの辺りでテント張らないか?やっぱ夜は危ないしさ」

「そうだね、私もそれには同感だよ」

 

 かなり日も落ち、暗くなってきた夕方。それなりに開けた、テントを張るには丁度良い場所へと出たところで、俺はキャンプの提案をした。

 その提案に、すぐ乗ってくれるイリゼ。何でもイリゼも旅の経験はあるらしく、しかもここまでの素振りからしてかなり旅には慣れてる感じ。

 

「ま、そうだなー。…………」

「…グレイブ?」

「最近ブームだし、ここらでちょいと『愛グレイのぽけキャン△』とかやっとくか?」

「何を!?何で!?…いや、ブームってのは分かるけど…何故に!?」

「あ、突っ込み取られた…というかそれ、作品二つが混ざってるね……」

 

 ペグを片手に訳の分からない事を言い出したグレイブに、思わず俺は思い切り突っ込む。…いや、ほんとに何一つ訳が分からない…誰に向けてやりたいのかも分からないし、具体的に何をするのかも分からねぇ……。

 

「そもそも俺等の目的キャンプじゃないし…。…あ、そうだ。イリゼは俺のテント使って。俺はグレイブのテントで寝るから」

「え、いいの?」

「うん。グレイブもそれで良いよな?」

「そりゃ勿論。愛月はピュアだもんなー」

「ピュア?…あっ、違っ、そういう事じゃないし!気遣いだ気遣い!ほんっとグレイブはデリカシーがないよなッ!」

「いや…気遣いなら気遣いって言っちゃ駄目だろ……」

「あっ……」

 

 一瞬遅れてからかわれているんだと気付いた俺は、グレイブに対して猛抗議。けれどうっかり『気遣い』と自分から言ってしまって、それを聞いたイリゼは苦笑い。「気にしてないから大丈夫だよ。愛月君は優しいね」…と言ってくれたけど…これ絶対気遣われてる…逆に俺が気遣われる感じになっちゃったじゃないかグレイブぅぅ…!

 

「さて、それはともかく火の準備をするか。種火は頼むぜ、獄炎」

「あぁそっか、炎出せるんだもんね。…私の次元にも魔法があるけど、こっちの世界は旅にポケモンがいるのといないのとじゃ大違いなんだろうなぁ…」

「まぁな。っていうか…イリゼの世界には、魔法があるのか?」

「あるよ、私は使えないけどね」

 

 俺が恨みを込めた視線をグレイブへと向ける中、グレイブとイリゼの会話の中で出てきた『魔法』という言葉。ポケモンが使う技の中にも、魔術とか超能力っぽいものは色々あるけど…やっぱり魔法と聞くと、興味が湧く。

 

「魔法があって、女神がいて、モンスターもいるなんて、何だかアニメとか漫画の世界みたいだね、イリゼの世界…じゃなくて、次元って」

「…それを言うなら、こっちの世界だって十分アニメとか漫画の世界みたいじゃない?」

『そう(かな・か)?』

「…まぁ、そういう反応になるのが普通だよねぇ…だって二人にとってはこの世界が、ポケモンがいる事が『普通』なんだもん」

 

 軽く肩を竦めるイリゼの言葉に、俺達二人は顔を見合わせる。そういえばイリゼは別の次元や世界に飛ばされるのはこれが初めてじゃないって言ってたし、これが「経験者は語る」ってやつなのかもしれない。

 とまぁ、そんなやり取りもしながらテントを設営し、更に俺達は夕飯の準備。俺とグレイブはいつもの調子でちゃちゃっと準備を進め、イリゼは午前中にゴーリキー達からお礼として貰った木の実を慣れた手付きで桂剥き。

 

「〜〜♪」

((上手いなぁ……))

 

 途切れる事なく伸びていく木の実の皮は、見ていてちょっと気持ち良い。イリゼも気分良さげにちょっぴりとだが左右に揺れていて、頭の上にいるチルットのアホ毛もゆらゆらと揺れる。

 

「ちーるーる〜、ちるるるる〜♪」

「ふふっ、るーちゃん歌が上手だね。歌は好きなの?」

「あ、気を付けた方が良いぞイリゼ。チルットは聞いた相手を眠らせる歌を、技として覚えるからな」

「え、そうなの?…や、止めてねるーちゃん…私今刃物使ってるんだから、ほんとに止めてね…?」

 

 こんなやり取りを間に挟みつつも数十分後には準備を終え、手持ちの皆と揃って夕食。グレイブやイリゼと話したり、仲良く会話するポケモン達を眺めたりして、俺達はのんびりと夕食の時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 賑やかな夜ご飯を終えて、片付けもして…けれどまだ、寝るにはかなり早い時間。さてどうしようかな…と思っていた私に、るーちゃんが何かを求めてきた。

 

「ちるっ!ちるるっ、ちーっ!」

「ええ、っと…まだ遊び足りないよー…?」

「ちるう!」

「えっ、今『違う』って言った…?…じゃあ……あ、もしかしてバトル?特訓?」

「ちるー!ちるちるー!」

 

 お昼の一幕を思い出して訊いてみると、そうだよー!…とばかりに翼をぶんぶんと振るるーちゃん。その思いに、どうしたものか…と考えていると、後ろからグレイブ君達が話し掛けてくる。

 

「特訓なら、相手してやるぞ?軽く運動しておいた方が、ぐっすり眠れるしさ」

「実際に相手するのはポケモン達だけどね。俺も付き合うよ、イリゼ、るーちゃん」

「グレイブ君、愛月君…じゃあ、二人に甘えさせてもらおうかな。ほらるーちゃん、二人が手伝ってくれるって言ってるよ」

「ちちる〜!」

 

 多分ありがとうとか、お願いしまーすみたいな事を言ったのであろうるーちゃんの鳴き声に、ほっこりとした顔をする二人。うん、分かる。凄く分かる。

 で、一応私がるーちゃんの保護者みたいになってるけど、ポケモンに関しては変わらずの素人。だから何をするかは二人に任せ、その結果まずは戦いの立ち回りを教える事に。

 

「よしよし、これには着いてこられるんだな。じゃあブラスト、もう少しスピードアップだ!」

「ちるっ!?ち、ちるるぅぅ……!」

「油断は駄目だよるーちゃん、飛んでるんだから下から撃たれる事も考えなくちゃ!」

「ちるー!?」

 

 るーちゃんの相手をしてくれているのは、二匹のポケモン。一匹はお昼にもお世話になったブラストで、もう一匹はピカチュウに似た…というか、ピカチュウのパペットのような外見をした、ミミッキュのドッペル。今はブラストを追いつつ時折放たれるドッペルの攻撃を避けるという訓練の真っ最中で、るーちゃんは見るからに、そして聞くからに必死。

 

(…うん、猛禽類みたいな見た目だけあって、ブラストの飛び方は力強い。逆にるーちゃんはパワーじゃブラストの比較にもならないけど…綿みたいな翼をしているだけあって、力で身体を飛ばすよりも風を上手く掴んで飛ぶ方が得意なのか……)

 

 だけど、訓練をしているのは何もるーちゃんだけじゃない。私もるーちゃんの動きを見て、考えている。るーちゃんは何が得意で、どんな戦い方をするのが向いているのかを。同時にグレイブ君や愛月君の言葉を聞いて、学んでいる。ポケモントレーナーの着眼点を、どんな時にどんな指示を出すのが必要なのかを。

 

「…よし、ドッペルもう一度シャドーボール!」

「ミミーっ!」

「るちるぅッ!?ちるぅぅぅぅッ!……ちる…?」

「る、るーちゃん大丈…夫…?」

 

 暫く訓練が続いたところで、これまで狙いが甘かったドッペルの攻撃が、初めて本気で狙っていると分かる偏差射撃に。完全に突っ込む形となってしまったるーちゃんとシャドーボールの距離は一気に詰まっていき……反射的に私が手を伸ばした次の瞬間、二つの思いもしない事が起こった。

 一つは、確かに直撃した筈のシャドーボールがどういう訳か素通りし、るーちゃんも無傷であった事。そしてもう一つは…突然翼が膨れ上がったかのように、るーちゃんが綿毛で包まれた事。

 

「お、コットンガードか。やっぱチルットなら覚えるよな」

「…これって……」

「コットンガードって技だ。見ての通り、綿毛で身体を包んで身を守るんだよ。で……」

「ほら、さっき相性についても話したでしょ?で、ゴーストタイプの攻撃は、ノーマルタイプに……」

「あぁ…効果がないって、本当に全く効果がないんだ……」

 

 もっこもこになった、綿毛を纏っているというか最早綿毛の中から顔を出してるだけみたいになったるーちゃんも私も、揃ってきょとんと目をぱちくり。どちらも説明されて理解は出来たけど…うん、やっぱり分かってもびっくりかも…。特にるーちゃんなんて、ほんとに石鹸羊(ソープ・シープ)みたいになってるし……。

 

「…あれ?じゃあ…もし当たっても大丈夫なように、効果がないタイプの技を?」

「そういう事。元々ダメージにならない技なら、手加減して別の技出すより確実に安全だから」

「あー、だからドッペルなのか。てっきり電気タイプのピカチュウっぽい見た目だから、るーちゃんが気を抜かないよう選んだのかと思ってた」

「いや、だったら素直にレオン選ぶって…なー、ドッペル」

「ミミ〜♪」

 

 一度着地したるーちゃんがぷるぷると身体を振って綿毛を落とす中、愛月君はしゃがみ込んでドッペルを撫でる。胴を撫でられたドッペルは、嬉しそうに鳴き声を上げて……って、何故に胴…?

 

「…ドッペルって、頭撫でられるのが嫌いなの?」

「うん?別にそんな事は……って、あぁー」

「……?」

「いや、ここ頭じゃないんだよ。ほら」

 

 撫でた位置が気になって訊いてみると、愛月君は何かを察したような顔に。その意味が分からず首を傾げると、愛月君はドッペルの頭をぐっとつつき……次の瞬間、ドッペルの首ががくんと折れる。わっ、折れた……って、

 

「えぇええええぇぇッ!?折れたぁああああああッ!?」

「ははっ、大丈夫大丈夫。だよなドッペル」

「ミミー…?」

「うぇっ…?…あ……」

 

 どう見ても首がいってるドッペルの姿に、私は絶叫。けれど首をへし折った当人の愛月君は平然としていて…ドッペルもドッペルで、身体がもぞもぞ動いていたかと思えば折れた首が元に戻り、「え、何?」みたいな視線を私の方へと向けてくる。…ど、どういう事…?回復能力が、異様に高いとか…?

…と、顔を近付けたところで…私は気付いた。よく見れば胴に瞳らしい部位があって、しかもドッペルの身体は布で覆われている事に。…つまり、頭に見えるのは…飾りというか、フェイク……?

 

「さ、訓練を続けようぜ。るーちゃんはまだやる気っぽいしよ」

「ちるるっ!ちーるー!」

「ほんとにやる気一杯っていうか、元気が有り余ってる感じだね。…まぁ、基本私の頭の上に止まってたんだから疲れてないのも当然だけど…」

 

 翼をばたつかせてやる気をアピールするるーちゃんに苦笑いしつつ、私はグレイブ君の言葉に首肯。一度私は離れて、るーちゃんはバトルの訓練を、私はトレーナーの勉強を続ける。

 上下左右に鋭く飛行するブラストを追い、時には追われ、飛行タイプとしての立ち回りを学ぶるーちゃん。訓練は夜遅くまで…やると明日に支障が出るという事で、程々で切り上げるという事になったけど、終わりまでるーちゃんは頑張り続けた。そしてその姿を見て…私も思った。そこまでるーちゃんがやる気なら…私も二人に任せるだけじゃなく、私の知識や経験を総動員して、るーちゃんに協力してあげようと。

 

 

 

 

 昨日出た町から目的地の遺跡へ行くには、幾つかルートがある。俺一人なら最短ルート…つまりは地形を無視して、真っ直ぐ遺跡へ向かう選択をするところだが、そういうルートを選ぶと愛月からの文句が凄い。それに調べた限りじゃそのルートだとあまり野生のポケモンとも出会えなそうだし、それはちょっと詰まらない。という訳で、俺達が選んだのは少し遠回りにはなるがきちんと道があり、道中には道の駅っぽい場所もあるルートで…つい先程、その道の駅っぽい場所へと到着した。

 

「へぇ…思ったより人がいるね」

「まあ、近くには観光スポットの湖があるし、ここは他の道にも通じてるからね。因みに俺達が行く遺跡は、その湖を越えた先の辺りだよ」

 

 ぐるりと見回すイリゼに、愛月が解説。道具や食料にはまだ余裕があるが…折角来た事だし、休憩がてら美味しそうな名物でもあれば買っていくのも良いかもなぁ…。

 

「そうだグレイブ、ここはご当地ポフィンとそれを人間用にアレンジした菓子が売ってるんだよ。折角だし、ちょっと食べていかないか?」

「……!…これが、以心伝心か……」

「……?良いから行こうぜ?イリゼも乗り気だしさ」

 

 ご当地ポフィンを食べてみたい。言葉じゃちょっと興味を持っただけ、位を装っているが表情で完全に本心が漏れている愛月は、本当に素直というか、初々しいというか…ポケモンと同じで、見ていて飽きない。

 という訳で、俺達はそのご当地ポフィンを扱っている店へと行き、持ち帰り分も含めて注文。出てきた人間用ポフィンは、見た目ほぼ同じなのに普通に美味しく……というか、そもそもポフィンは人が食べても大丈夫なんじゃないだろうか。だって素材の木の実は、人が食べても大丈夫なんだし。

 

「るちるぅ〜♪」

「おっとっと、零してるよるーちゃん。ほら、ほっぺにも付いてる」

「ちる…?ちるー!?」

「…ずっと思ってたんだが、イリゼはなんか世話に慣れてる感じがあるよな。えぇと、信次元だっけ?…でも、似たような事してたのか?」

「あ、うん。ほら、私の世界にもモンスターがいるって話したでしょ?その内の一種、スライヌのライヌちゃんって子と一緒に暮らしてるんだ」

「あぁ、だからか(スライヌのライヌちゃん…イリゼはそういう系のネーミングが好きなのか…?)」

 

 自分がポフィンの欠片を零してると知るや否や慌てて翼で掃除するるーちゃんと、それを苦笑い気味に眺めるイリゼを見ながら、俺は完食。店員に合う、と勧められた紅茶の残りをゆっくりと飲みつつ、そういやポフィンと言えばポケモンコンテストだよな…と考えていると、前の町のようにここでもひそひそとした声が聞こえてくる。

 

「おぉ、あの二人組がシンオウに来てるって噂を聞いたけど…本当に来てたんだな……」

「あれ、二人共まだ子供だったんだ…私、一人はハリテヤマ並みの巨漢で、一人はビークイン並みに部下を引き連れてるって聞いてたけど……」

「貴女、どこでその情報得たのよ…いい?グレイブって子はあの姿の他に飛行形態と中間形態での三段変形が出来て、愛月って子はダメージを受ける毎に変わる姿を六つ、今の姿含めて第七形態まであるんだから」

「それはいいからアレ訊きに行こうぜ?グレンジムのクイズの最後の答えって、絶対『しねしね光線』だと思うんだよな…」

 

 

「お、おおぅ…二人が『訳が分からない』の極地みたいな表情してる……」

 

……まぁ、うん…悪意はないんだろうなぁ…俺も色々してきたし、噂される事自体は別にいいしさ…けど、三段変形って…愛月は第七形態って……俺達の噂も、ここに来るまでに何度か別世界経由してるだろこれ…。

 

「…俺の…俺のどこからそんなイメージになったんだ…後、どっちがハリテヤマでどっちがビークイン…?」

「だ、大丈夫…!私はグレイブ君が私達に何かあっても大丈夫なよういつも気を配ってくれてるところとか、愛月君はポケモン一匹一匹に合わせて撫で方を変えてあげてるところとか、二人が本当にポケモンの事を信じてる事とか、二人の良いところを沢山知ってるから…!」

『イリゼ……』

 

 怒りはない、ショックとも違う、本当に何と言ったらいいのか分からない感情が渦巻く中、わたわたと慌てながらもフォローを入れてくれるイリゼ。それはフォローしなきゃ、という感じがだだ漏れの言葉だったが…それでも心がジーンとした。だって、その言葉からは「本気でそう思っている」という気持ちが伝わってきたから。

 

「…ま、気にしてもしょうがないって事か。ありがとな、イリゼ」

「ううん、お礼なんていらないよ。私は思った事を言っただけだから」

「でも、お礼位は言わせてよ。俺からもありがと、イリゼ」

「ふふっ、二人共元気になったみたいだね」

 

 マジで何故こんな噂がぶっ飛んだ形になったのかは気になるが、こんな事を言われちゃ気落ちなんてしていられない。

 そんな思いで俺は気持ちを切り替え、残っていた紅茶を全て飲み干す。愛月達もポフィンを食べ終え、俺達は外へ。

 

「さ、買う物も買ったし行こうか。それともグレイブ、他にも何か買っておくか?」

「いやいい、今日中に湖の辺りまでは行きたいしな」

 

 これまでと同じペースで行けば、遅くとも明日の午後には遺跡に着ける。けど着いた時にはもう遅い時間で、探索はその次の日…なんてなったらテンションが下がるし、多少の休憩はともかくここでのんびり…なんて気持ちはゼロ。だから俺はそう言いつつ先頭を歩き、愛月達も首肯し後に。

 そうして歩く事数時間。空が夕焼けで赤くなり始めた頃に、俺達は湖へ到着した。

 

『おぉー……!』

 

 シンオウ地方の有名な三大湖程じゃないが、それでも広く綺麗な湖を見て、愛月とイリゼは揃って感嘆の声を漏らす。愛月はまぁ、予想通りの反応だが…イリゼも結構純粋なのかもな…。

 

「おーい、どうするよお二人さん。この周辺ならテントも張り易そうだし、今日はここまでにするか?」

「あ、俺はそれに賛成!イリゼはどうする?」

「私はテントを使わせてもらってる身だからね。二人がそう言うなら、異論はないよ」

「なら、決定だな」

 

 荷物を置き、テントを張って、今日の夜過ごす場所が完成。次は夕飯の準備だが…まだ時間に余裕がある事と、日が暮れた後じゃ暗くて叶わないという事で、先に少し散歩をする事に。

 

「ほんと良い湖だよな…近くにパルキアを祀ってた遺跡もある事だし、もしかするとここにはユクシー、エムリット、アグノムに続く、第四の存在がいるんじゃない?」

「もしそうなら実際に見てみたいよな。…てか、言われてみると本当にいるような気がしてきた……」

「…探すのは勝手だけど、いなかったからって俺に文句言うなよ…?」

 

 近くの小高い丘から湖をぐるりと眺めた後、俺達はキャンプ地へ戻るべく丘を降りる。まあ、観光地としてそこそこ人が来るのにそういう話が一切出てないって事は、多分いないんだろうが…ほんと、いたらいいのになぁ……。

 

「…まあ、それはそうと…イリゼって、よく人を見てるんだね。まさか、俺の撫で方に気付いてたなんて……」

「女神って言ってたし、俺達が思ってるよりずっと凄い存在なのかもしれないな。普通に話してると、そんなの全然感じないけどさ」

「能ある鷹は爪を隠す、ってやつ?」

「いやいや、イリゼの場合は実力を隠してるとかじゃなくて、本当にただああ言う性格だと思……お?」

 

 それから話はイリゼの事に。得体が知れない…なんて事はない、どっちかって言えばむしろ分かり易い、けれど時々深みを感じるイリゼはきっと、かなり凄い人なんだろうと俺は思う。…いや、人じゃなくて女神だけど。

 とまぁ、こんな感じの話をしながら俺達が歩みを進めていると、後少しで湖を覆う林を抜ける…というところで、るーちゃんの鳴き声らしきものが聞こえてくる。

 

「ちるっ、ちるっ、ちるーぅッ!」

「そう、そんな感じだよるーちゃん!力は常に入れ続ける必要なんかないの、必要な時に必要なだけ出せれば十分なんだから!」

 

 何かの技の開発中なのか、翼にコットンガードを展開した状態で何度も羽ばたいているるーちゃん。「私はるーちゃんとここに残るよ。荷物置いてくなら、留守番も必要でしょ?」と言っていたイリゼは、どうやら訓練する事を考えていたらしく、俺達が見ている間も色々な指示を、そして肯定の言葉を上げている。なんだ、そんな事考えてたのか。だったら気なんて使わず、昨日みたいに言ってくれれば……

 

「グレイブ、ストップ?」

「……?なんで止めるんだ、罠でもあったか?」

「いやないけど…今はさ、一人と一匹で頑張ってるでしょ?言ってみれば、俺達が相棒と特訓してるようなものでしょ?だったら今出ていくのは、無粋ってものじゃない?」

「…そんなもんか?」

「そんなもんだよ、多分」

「多分って…ま、良いけどさ」

 

 愛月の言わんとしてる事は分からんでもないし、考えてみれば、イリゼなら多分手伝いが欲しい時はそう言う筈。って事は、きっと敢えて言わなかった理由がある訳で……そういう事なら、俺だってここで出ていくような事はしない。

 だから俺は出ていくのを止め、代わりに少し肩を竦める。そうして小さく息を吐き……俺と愛月は、イリゼとるーちゃんの訓練を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ところで、愛月」

「うん?」

「…こうなると俺達、夕飯の支度が全く出来ないが……あの訓練は、いつ終わるんだ…?」

「あ……」




今回のパロディ解説

・愛グレイのぽけキャン△
ゆるキャン△及び、おぎやはぎのハピキャン 〜キャンプはじめました〜のパロディ。何気に本編では殆ど書く事のなかったキャンプシーンを、コラボで書く事となりました。

・「油断は駄目〜〜考えなくちゃ!」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞の一つのパロディ。元ネタでは狙われたヒロインを助けた際に言った台詞なので、展開的には逆ですね。

石鹸羊(ソープ・シープ)
ONE PIECEに登場するキャラの一人、カリファの技の一つのパロディ。石鹸ではなく綿ですけどね。羊ではなく、鳥ですけどね。

・「〜〜あの姿の他〜〜三段変形〜〜」
マクロスシリーズに登場する兵器、可変戦闘機(VF)の事。一体何がどうしたらこんな噂になるんでしょうね。勿論グレイブは変形なんてしませんし、ちゃんと人間です。

・「〜〜ダメージを〜〜第七形態〜〜」
ドラクエシリーズに登場するキャラ(モンスター)の一人、デスピサロの事。ほんとどんな噂なんでしょうかね。当然愛月も第七形態まであったりしませんし、彼も人間です。

・しねしね光線
ポケモンシリーズにおけるジムの一つ、グレンジムにて出される問題の一つの答えの一つ。有名(?)なアレです。というか、やたら「の」と「一つ」が多いですね…。

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