超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
空から飛来したダークメガミ。紫の目立つ装甲に、左腕部へ備えられたラウンドシールドを有する、破壊の巨躯。それが、突如現れた。まともに受ければ女神であっても一瞬で吹き飛ぶような光芒を放ち、その光で空中艦を直上から襲い……苛烈化した戦場へと、圧倒的な存在感と共に降り立った。
「……っ、艦長!無事か!被害状況はッ!?」
光芒が空中艦の高エネルギーシールドと魔力障壁に直撃した瞬間、わたしは茫然とした。一瞬ながら、完全に立ち止まってしまって……次の瞬間、即座に翼を広げて後方へ跳躍。同時にインカムで通信を掛け、搭乗員の安否を確認する。
これが怖い。こういうのが、一番怖い。国の為と、わたし達女神の為と、共に戦場に立ってくれる国民達が、そのせいで命を落とすのが、どうしようもなく嫌で怖い。だから返答が返ってくるまでの間、わたしの心は締め付けられるようで……その数秒後、返ってきた声に締め付けられていた心は解放される。
「…総員、無事です!ただ、今ので高エネルギーシールドは出力大幅低減。防御力の低下は避けられません…!」
「無事なら良い!今はとにかく下がって……」
声が返ってきて、全員無事だと分かって、心から安心した。だがまだ危機は去っていない。危機はたった今現れたばかり。
わたしは後退を指示しようとした。当然だ、人命が最優先なんだから。…なのに、ダークメガミは艦を襲う。真っ先に、空中艦を。
「あんの野郎…ッ!アフィモウジャステメェ!あいつ等とも繋がってたのかよッ!」
「な……ッ!?わ、ワシは……」
「しらばっくれるってかッ!くそがッ!」
吐き捨てるようにして言葉を叩き付け、わたしはアフィモウジャスの事を思考の外へ追いやる。今はあいつの事なんざ、どうでも良い…ッ!
「ロム!ラム!艦の防衛に……」
『もう行ってる…ッ!』
各部からエネルギー刃を放ちながらダークメガミは接近し、その両腕を艦へと突き出す。それを魔力障壁で阻む空中艦だが、敵方の空中艦二隻が健在な以上、艦砲をダークメガミには向けられない。艦を守る為には、奴を艦から引き剥がすしかない。
防御に回る為に、全速力で飛ぶロムとラム。二人より遠かったわたしは後ろから追う形となり……次の瞬間、ダークメガミの側面から魔法と魔力弾が襲いかかる。
「こッ、んのぉおおおおッ!」
「なッ、馬鹿止めろッ!退がれってんだよッ!」
それは、MG小隊による攻撃。恐らく艦からの指示ではなく、全員が自己意思でダークメガミへと攻撃を仕掛け、その中でも一機が右腕部の魔力砲を乱射しながら奴へと突貫。
だが、相手はダークメガミ。分が悪いなんてレベルじゃない相手。次々と迫るエネルギー刃に迫られ、退路を塞がれ、直後に両脚部へと刃が直撃。バランスを崩し、レグファは乱回転しながら落下していく。
「だから言っただろうがッ!おい無事かッ!無事だって言いやがれッ!」
「う、ぐっ…すみません、ホワイトハート様…無事、です……」
間一髪。被弾したレグファが地面へ落ちる直前に間に合ったわたしはバックパックを引っ掴む事で持ち上げ、低空飛行で再度艦へ。
その間に艦付近まで辿り着いたロムとラムは、左右から氷塊を一発。続けて展開された艦の障壁の裏へと回り込み、それぞれ魔力障壁を展開する事で補強に入る。
と、同時にダークメガミへと接近する一つの機影。それは…魔力推進器を全開で吹かしたアロンダイト。
「…はは、ほんと凄ぇな…けど、無理すんなパラディン7!わたし達女神でも突破に苦労するそれを、MGで抜けられる訳ねぇだろッ!」
「みたい、ですね…ッ!く……ッ!」
両腕部に魔力剣、MVSを構えたアロンダイトはレグファとは数段違う動きでエネルギー刃を回避し、斬り払い、勢い良くダークメガミへと近付いていく。…が、それでも単騎での突破は無茶そのもの。かなりの距離まで近付くも凌ぎ切れずに魔力障壁を展開し、受けに回った事でアロンダイトは押し返される。
とはいえ、自力離脱が出来る辺りは流石の技量。その時にはわたしも艦に到着し、開かれたハッチへレグファを降ろすと再び空へ。
「気張れよロムラム!まずはこのロボットもどきを引き剥がす…ッ!」
「やろう、ラムちゃん…ッ!」
「やってやろーじゃないッ!」
わたしの言葉に覇気の籠った声で呼応し、補強の障壁から単独の障壁に、ダークメガミを押し返す為の動きに移行するロムとラム。絶妙な魔力制御で防御に穴を開ける事なく艦の魔力障壁をすり抜け、立ちはだかるように翼を広げる。
全く頼もしい妹達だ。胆力に溢れる二人の姿に思わず頬が緩むのを感じながら、わたしもまた突撃の姿勢に。
幾らあの巨体と言えど、女神二人と力比べをしている状態で、重い一撃を喰らえば姿勢が崩れない訳がない。そしてその為の一撃、ダークメガミを引き剥がす為の一手を叩き込むべく、わたしが空を……
「…ぁぁぁぁああああああああッ!!」
──蹴ろうとした、その時だった。唸りのような叫びを上げ、放たれた一本の矢の如き鋭さで…イリゼがダークメガミへと突撃を仕掛けたのは。
*
もやもやしていた。そう、ずっと私の心の中はもやもやとしていた。もう一人の私の存在に、もう一人の私の行動に、もう一人の私の言った……誰だ貴様は、という言葉に。ネプテューヌ達へは理由も告げずに蹂躙した一方、コンパには忠臣の如く接し、姿を眩ました後も人を助ける為に動いていた、真意の見えない在り方に、無意識下でずっと迷っていた。私の中にある理想と、そうある筈の形と、現実が一致しない事で、私の心は何も出来なくなっていた。
けれどダークメガミが現れた瞬間、私は気付いた。私の心が立ち竦んでしまっていた事に。漸く分かった。自分が、在るべき姿を見失っていた事に。もう一人の私がその圧倒的な力を見せ付け、絶対正義を示した相手であるダークメガミが、人の乗る艦を襲ったその瞬間に。
そうだ。何を迷う事がある。どこに立ち竦む理由がある。私は原初の女神の複製体。原初の女神が、もう一人の私が、信次元の未来を守る為に生み出した、原初の女神の意思と威光を示す存在。であれば……そこに迷いなどは、必要ない。
「退がるがいい、人に仇成す名ばかりの偽神が…ッ!」
減速など不要。回り込む事も不要。最短距離で、最大推力で、ダークメガミへと突進をかける。
迎撃なんて気にするまでもない。現にもう一人の私は、迎撃への対処なんてしていなかったのだから。もう一人の私の前で、迎撃は何の意味も為していなかったのだから。
「はぁああぁッ!」
バレルロールによって背中越しにエネルギー刃を避け、左側面へ肉薄をかけた私は、胴体部の隙間へと長剣を突き立てる。
長剣の柄を握り直し、力を込める。刀身の根元まで突き刺した長剣を捻り、鍔を装甲へ掛け、横から奴へと力をぶつける。
(ぐッ、重い…!だが、この程度…もう一人の私は、こんな程度で……ッ!)
人の何十倍もの巨体と、それに見合った絶大な力。真正面からの力比べをしている訳でもないのに、ダークメガミの姿勢が崩れる事はなく…苛立ちが、焦燥が、胸の中を掻き乱す。
これじゃいけない。これは間違っている。圧倒してこそ原初の女神。互角どころか、位置取りの上では有利な筈の場所から押し倒せないなんて、そんなのは……
「退けッつってんだろうがよぉぉッ!」
半ば無意識に歯噛みする中、聞こえたのはブランの声。次の瞬間長剣に響く、並々ならぬ振動と衝撃。
それは、ブランの後ろ蹴り。回転からの踵を長剣の柄頭へと叩き込み……ダークメガミは、大きくぐらつく。
『てりゃああぁぁぁぁッ!』
その瞬間を、ますます逃す理由はない。私は圧縮シェアの解放によって更に長剣へと力を込め、同時にロムちゃんとラムちゃんは障壁を斜めにする事によって、ダークメガミの身体を斜め前へと滑らせる。
私が相手の思考を狂わせる為に使うハリボテ超大型剣みたいなのを除けば、大きさと重量は比例する。大きく重ければ重い程、外からの衝撃や圧力に強く…その一方、姿勢が崩れれば立て直すのに時間がかかる。
そしてその時間を利用し、ルウィーの空中艦は砲撃を続けながら距離を取る。MG部隊もより母艦を守る陣形を取り直し、私は長剣を抜き放つ。
「まずは引き剥がすのに成功だな。タイミング的にはばっちりだったが、インカムあるんだから突っ込む前に一言言えっての」
「……ブラン、アフィモウジャスはノワールが押さえ込んでるからブランも向こうを」
「は?いや、脅威度を考えりゃまずはダークメガミ……」
「奴は、私が落とす…ッ!」
「はぁ!?」
崩れた姿勢をダークメガミが立て直そうとする中、私はブランに向けて一言。同時に翼を三次元機動重視形状に可変させ、再び奴へと突撃を掛ける。
(そうだ、奴は私が落とす…
翼で空を駆けながら、長剣に圧縮したシェアエナジーを纏わせ刀身を延長。通常の何倍もの長さとなった得物を手に、ダークメガミの側面を通り抜ける。
奴を艦から引き剥がした以上、横や後ろから仕掛けるつもりはない。女神とは、正面から人々の敵を、悪を討ち取り、その力を示すもの。ましてや相手はダークメガミ。四体であろうと原初の女神の前では木偶の坊と変わりない偽神如きに死角から仕掛けるなど、複製体としてあってはならない。
「…斬り崩す…私が、私の手で……ッ!」
伸長した長剣の斬っ先を向け、叩き付けるように言い放ち、真正面から再度の突撃を実行。身体を前傾姿勢へと変え、爆ぜるように加速を掛ける。
ダークメガミは完全に立て直している。当然だ、でなければ死角から仕掛けるのと大差ないのだから。
「当たるものか…その程度の、迎撃で…ッ!」
奴がこちらを認識している分、接近を阻むダークメガミの迎撃は苛烈。だが、だから何だというのだ。当たりなどしない、当たる訳のない攻撃など、幾らあろうと関係ない。
速度は一切落とさず、背後へ流すように構えた得物は振るう事もなく、真正面から突っ切り迫る。指の先まで神経を張り巡らせ、空を斬る刃全てをこの目で捉え、直感的に見えた空路を駆け抜ける。一切の無駄のない、安全マージンを微塵も考えない最短距離で。
(まだだ…もっとだ、もっと速く…ッ!)
流れるように迎撃を避ける。滑るように空を駆ける。確かに私の目には、どう飛べば奴に二度目の肉薄をかけられるかが見えている。
けれど、速度が足りない。もっと速くなければ、もっと鋭く飛べなければ、それを現実のものとする事は出来ない。
どうしても躱し切れない迎撃を前に、私は身を翻す。迫る刃を斬り裂けば、或いは進撃を続けられたのかもしれない。けれどそれではいけない。そうではない。もう一人の私は、そんな行動を強いられる事などはなかった…ッ!
「…ふざけるな…そんな訳が、あるものか…私は原初の女神の複製体…オルタナティブオリジンハート…ならば私に出来ない事などッ、あるものかぁああああッ!!」
嗚呼、だけど。
いとも簡単に崩れる道標。私のあるべき、示すべき形。この時点で私は、原初の女神ではない。もう一人の私よりも遥かに容易な状況ですら、同じ事が出来ないのなら……紛い物でしかない。
私は吠える。私の怒りを、私の焦りを、私の拒絶を慟哭に乗せて、ダークメガミへ襲い掛かる。
「ああああああああああッ!!」
圧縮シェアエナジーを背後で解放し、爆発的に加速。更に解放し、更に加速。解放し、加速し、解放し、加速し、解放し加速し解放し加速し解放し加速し解放し加速し……眼前に掲げられる、ダークメガミの左腕。その掌底部に輝くのは、収束する光。
侮るな、図に乗るな、邪魔をするな。その光が必殺の光芒となるよりも早く私は右側で圧縮シェアエナジーを解放し、身体を捻りながら開かれた手の裏側へ。過度の爆発加速による負荷で身体が軋むのを意思でねじ伏せ……ダークメガミを切断するのに十分な刀身となった長剣を、叩き付ける。
「潰えろぉおおおおおおッ!」
振り出した長剣の刃が捉えるのは、ダークメガミの手首。喰らい付き、斬り裂き、腕と手を隔てていく。
簡単には切断出来ない。関節を狙おうとも、斬るには相当な力が必要となる。ましてやそれが手首全体となるのなら、途中で刃が止まるのが関の山。
だがこれは、原初の女神の刃。シェアエナジー解放を立て続けに発動させ、力を加算し続けている一太刀が、こんなもので止まる道理は存在しない。そして私は、それを証明すべく、もう一人の私と同じ事を成す為に……ダークメガミの左手首を、斬り落とす。
(…や、った…は、はは…そうだ、やはり私は原初の女神…原初の女神の複製体…何も迷う事はない、何も考える必要もない、何故なら答えは初めから決まって……)
切断された左手は落ち、照射直前であったエネルギーによって即座に爆散。
焦燥感は歓喜へ。高揚感へ。崩れた道が繋がり始め、希望にも似た何かが心の中から湧き上がる。
これが、これこそが原初の女神。人々を救い、人の世を導き、人類の繁栄の礎となった、絶対的な信次元の守護者。そしてこれだけでは終わらない。このまま私はもう一人の私と同じように、完璧に、完全に、一切の有無を言わせる事なく、その時間すら与えず、この偽神を討滅し……
「…ぁ……」
──そう、なる筈だったのに。そうならなければ、いけなかったのに。振り下ろした長剣を翻し、更に進撃しようと振り向いた私の眼前にあったのは、目と鼻の先にまで迫っていたエネルギー刃。それは既に、回避の間に合う距離を超えていて……刃の端が、私の左の肩を斬り裂く。
「…─、──……」
出てこない言葉。発されない声。痛みなんかどうでも良く、迎撃の刃に斬られた事、原初の女神の複製体たるこの身体に反撃を許してしまった事が、絶望的なまでに私の心へと突き刺さる。
当然、迎撃は一発切りではない。全身から放たれる刃が、片手を斬り落とした私を撃ち墜とさんと殺到し、あっという間に避ける為の隙間も消えていき……
「何ぼさっとしてんだよイリゼッ!」
気付けば私はブランに右の二の腕を掴まれ、強引に退避させられていた。
そのままブランはダークメガミから距離を取り、迎撃が届かない位置まで来てから一気に減速。追おうとしたダークメガミへ烈風と電撃が襲い掛かり、注意をその主たるロムちゃんとラムちゃんへ引き付ける。
「…ブラン……」
「いきなり剣を伸ばすは一人で突っ込むわ、お前はMk.IVかっての…肩は大丈夫か?」
「…か、た……」
「左肩だよ左肩。見たとこ深い傷じゃなさそうだが、必要ならロムラムに……」
「……ふざ、けるな…」
若干呆れたような、ブランの声。その声でブランは肩を指摘し、促されるように私は視線を左の肩へ。
迎撃の刃によって付けられた、左肩の傷。ダークメガミが、偽神如きが原初の女神に一撃与えたのだという、動かない証拠。それを目で、改めてはっきりと認識した瞬間、歓喜は憤怒へ。舞い上がるような高揚感は、煮え立つような激情へ。怒りが全身を駆け巡り、焼けるように感情が爆ぜる。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁああッ!許すものか、許されるものか、たかだか偽神一体如きがこの身体にッ、原初の女神の複製体に傷を付けるなどッ、あっていい筈がないッ!原初の女神の威光を、貴様如きが穢すなぁああああああッ!!」
「な……ッ!?」
怒号と共に、私は三度目の突撃をかける。左手にも同等の剣を作り出し、思い付く限りの武器を次々と精製しては奴へと撃ち込み、怒りのままに刃を振るう。防御は装甲が粉々になるまで何度も攻撃を叩き付ける事で崩し、左の剣が折れればその度に新たな剣を握り、何度も何度も何度も何度も憤怒をぶつける。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな。許されない。許してはならない。原初の女神の威光を穢し、私の在るべき姿の邪魔をしたこの偽物には、誅罰と粛清を下さなくてはいけない。間違っているのはこの結果の方であると、世界を糾弾し正さなねばならない。
「ちッ…ロムラム、よく分からねぇがイリゼは少し乱心してやがるッ!さっさと奴を倒して落ち着かせるぞッ!ノワールそっちはどうだ!?」
「どうもこうも、こっちも何か変よッ!動きに迷いが出てきたっていうか、勢いが落ちてるっていうか…って、まさか逃げる気!?」
「あぁ!?くっそ、色々どうなってやがんだよ…ッ!」
インカムから聞こえてくる混乱の声。嗚呼、けれど今はどうでもいい。そんなものは些末事だ。私が示さねば、私が正さねば……じゃなきゃ私は、
*
現れた二隻目、現れた味方艦。それだけでもかなり驚きが続いたのに、ダークメガミまでもが現れ、インカムから聞こえる限りじゃイリゼさんの様子もおかしいらしくて、おまけにアフィモウジャスさんの動きも何だか変らしく……どうしようもなく、わたしは焦りを感じていた。
「これじゃない…これも違う…これ、は……個人的に凄く気になるけど今はそれどころじゃない…っ!」
状況は二転三転している。わたしが艦内に突入した後も、何度も変化している。けれど、今わたしがしている事は依然として進んでいない。あるかないかの二択で、片っ端から当たるしかないから、どうしても進んでいるという実感がない。
それに、求めている情報はこっちの艦にはない…って可能性もある。同じ行程をもう一度やらなきゃいけないかもしれない訳で、それもわたしの心を焦らせる。落ち着いて、集中力を研ぎ澄まして探さなきゃいけないのに。
「…落ち着きなさいな、ネプギアちゃん。勿論、ネプギアちゃんであれば、言わずとも分かっているとは思いますけど」
「…分かってます。けど、やっぱり…経験の差、ですかね……」
「責任の差もありますわ。主として探しているネプギアちゃんと、手伝いの域を越えないわたくしですもの。…けれど、気負う必要はありませんわ。仮に見つけられなかったとしても、悪いのは碌な知識もなく、ネプギアちゃん一人に任せるしかなかったわたくし達なのですから」
それでもわたしがミスを犯さないのは、焦りを感じていても何とか持ち堪えていられるのは、隣に立つベールさんがこうして声をかけてくれるから。手伝いの域を…なんてベールさんは言っているけど、代わりにベールさんはわたしのメンタルケアもしてくれている。それが出来るのは、やっぱり経験の差だろうし…その心遣いに報いたいって思いも、今わたしが抱くやる気の一つ。
(落ち着いて、わたし。もうかなりのデータを確認し終えてる。この中に目的のデータがあるなら、それは確かに近付いている筈。わたしだって、足踏みしてる訳じゃないんだから…!)
流れるデータに目を走らせ、心の中で自分を鼓舞し、わたしはデータの捜索を続ける。そして、未確認データが残り二割か三割位になった、その時だった。
「……っ!やっぱり…皆聞いてッ!アフィモウジャスは逃げる気よッ!」
繋ぎっ放しのインカムからノワールさんの声が聞こえたのと、わたしのいる艦が大きく揺れたのはほぼ同時。一瞬、攻撃によって揺れたものだと思ったけど…違う。この艦は今、間違いなく回頭している。正面から撃ち合う形から、離脱する為に艦を反転させている。
「逃げる…という事はやはり、ダークメガミは撤退支援の為に来たのかもしれませんわね…」
「ですね…けど、後少しなんです…!何としても、この艦だけは……っ!」
この空中艦にはフルステルスシステムが搭載されている。一度逃げられてしまえば再度の発見は難しくなるし、頼みの綱であるアノネデスさんからのシステムも、対策されないとは限らない。
だからこそ、限界まで神経を張り詰めるわたし。何としても見付け出す、その意思をわたしは燃やし…けれど次の瞬間、信じられない事が起こる。
「……えっ…?」
あくまで見ているのはコンソールの画面。外の光景は視界の端にちらりと映っている位で…だけどその視界の端に、こちらへと飛んでくる一機のキラーマシンの姿が見えた。そして、反射的に顔を上げたわたしの目の前で…こちらへと向いた空戦型キラーマシンは、その腕に備えた機関砲を放つ。
「なぁ……ッ!?」
撃ち込まれる弾丸、飛散するガラス片。咄嗟にわたしはコンソールを背にしながら防御の構えを取り……そのわたしの前へ飛び出したのは、ベールさん。
神速。わたしを守るように立ち塞がったベールさんは、そう表現するしかない程の速度で迫り来る弾丸を乱れ突き、全てをその大槍で落としていく。
「べ、ベールさん……」
「ネプギアちゃんは、作業の続行をッ!貴女にも、探す為に必要なコンソールにも…一発たりとも当てさせはしませんわッ!」
「……ッ!はいッ!」
わたし達女神の目と反射神経なら、ビームだって見てからでも対応が出来る。けれど一歩もその場から動く事なく、フルオートの機関砲による射撃を阻み続けるとなれば、その難易度は跳ね上がる。
そんな無理難題を、迷わずベールさんは選んだ。その姿に、鼓舞されない訳がない。そんな頼もしい姿を見せられたら…もしもベールさんがミスしたらなんて、想像にすらも上がらない。
「…ふー……」
ゆっくりと息を吐き、コンソールの画面へと目を戻す。もう周りで起こる事なんて気にしない。気にする必要がない。だって何があろうと、ベールさんなら何とかしてくれるから。
探す、探す、探す。意識の全てを流れる情報に注いで、見極める事だけに思考の全てを懸けて、呼吸も後回しに探し続ける。そして……
「……っ!これは……」
膨大なデータを調べ始めてから、どれ程経ったか。平時ならなんて事ない、けれど一秒一秒が重要となる戦場においては決して短くはない時間の末に、見つけ出したのはあるデータ群。それは一見すれば、何の仕組みもないただの情報で……だけどわたしは、直感的に分かった。これだと、これしかないと。
(これなら……ッ!)
緊張と興奮で背筋に形容出来ない感覚が走る中、わたしは見つけたデータに対してコンソールを叩く。データを消し、復元も出来ないよう徹底的に消去していき、関連していたフォルダやシステムも完全にデリート。それからNギアの接続を取り外し、ベールさんの肩越しにキラーマシンを撃つ。
「……!ネプギアちゃん、出来ましたのねッ!」
「はい!ベールさんのおかげです!」
「ふふっ、それでは離脱しますわよ!」
床を蹴り、ガラスを突き破り、わたしとベールさんは脱出。迫っていた別のキラーマシンも撃ち落とし……見えたのは、ダークメガミとの戦闘。
「……っ…!」
見えた光景は、一言で言えば異様だった。いつもは丁寧に、豪快な動きを見せる事があってもそこには確かな戦術があるイリゼさんが、暴れるように戦っている。何度も何度も剣を叩き付け、策を全く感じられない武器の射出を乱発し、ただただ力を押し付けている。普段は連携に重きを置いているのに、一切周りと協力せず、殆ど一人で戦っている。
こんなイリゼさんは見た事がなかった。まるで、違う人のようだった。
「…本当に、逃げる気のようですわね……」
噴射炎をたなびかせながら、戦場より離れていく二隻の空中艦。今なら落とせる。後方に回り込んで、主推進器を全て撃ち抜いてしまえば、それだけで空中艦は沈む。
だけど、この艦の中には人がいるかもしれない。誰かいるかもしれない以上、わたしには…女神には落とせない。
(…でも、目的は果たせた。後は……!)
対空砲火を風に舞う木の葉の様に避けながら、キラーマシン部隊が次々と艦の直掩に向かうのを視認しながら、わたし達が向かうのはイリゼさん達の方。対照的にダークメガミは艦の離脱に反応してかその攻撃の苛烈さを増し、こちらもまた暴れるように右掌底部のビームで薙ぎ払う。
「はっ、艦は追わせねぇってか?だったら……艦長!横槍を入れてきたこいつに、一発でかいのをお見舞いしてやれッ!」
戦斧で艦の方へと飛ぶエネルギー刃を悉く叩き潰すブランさんが上げた、一つの指示。それに呼応し回頭する、ミズガルズ級空中艦。正対する相手を二隻の艦からダークメガミへと変えた空中艦は、艦上部の砲を展開し……そこに輝くのは魔力の光。
射線となる場所から離れるMG部隊。そして放たれるのは、濃密且つ膨大な魔力の光芒。
「収束魔力砲……てぇぇぇぇッ!!」
主砲を超える、眩しい程に輝く一撃。その光は真っ直ぐに、射線上のエネルギー刃全てを一切許さず飲み込んでいき、ダークメガミが掲げた盾の中央へ直撃。激しい光が、魔力と盾の構成物質が互いに飛散する光景がルウィーの空に巻き起こり……当然それを、ただ見ているだけのわたし達じゃない。
「落ちろッ、落ちろ偽神がぁああああああッ!」
「……ッ、イリゼさん…」
巻き込まれる可能性を気に留めていないのか、真正面から両手の剣を振り下ろすイリゼさん。豹変したその様子に胸がざわつくのを感じながら、わたしもダークメガミへとビームを照射。ロムちゃんラムちゃんは魔法を、守護女神のお三人はそれぞれの遠隔攻撃を叩き込み、過剰な程の火力をダークメガミの巨体へとぶつける。
響く爆音。立ち昇る爆煙。わたし達の集中砲火が止むよりも先に、ダークメガミは崩れ落ち……それでも尚、執拗にイリゼさんは攻め立てる。砕き、破り、斬り裂き続ける。そして……
「……終わりだ、偽神…」
既に地に伏し、消え始めていたダークメガミ。その頭部をイリゼさんが真上から両断し……戦いは、終わった。
今回のパロディ解説
・「〜〜ならば私に〜〜あるものかぁああああッ!!」
蒼穹のファフナーシリーズに登場するキャラの一人、皆城総司の台詞の一つのパロディ。BEYONDのCMにて使われている台詞なので、割と知っている人は多いかもですね。
・Mk-IV
上記同様ファフナーシリーズに登場するファフナーの一つ、マークフィアーの事。第三次蒼穹作戦でのシーンですね。フィアーと違ってイリゼは攻撃喰らってますが。
・「〜〜ロムラム〜〜してやがるッ!〜〜」
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場するキャラの一人、レイ・ザ・バレルの台詞の一つのパロディ。いや、別にイリゼは離反してませんけどね。錯乱ならぬ乱心中ですが。