超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
浮遊大陸タリの調査は、少し前に終わっていた。にも関わらずオレ達が次の行動を起こさなかったのは、これまでとは状況が違うから。これまでと違って、信次元に拠点となる場所を持ち、向こうからも仕掛けられる状態となったから。
だからこそ、改めて戦力を確認し、可能な範囲で拡充し、守りの準備も整えた。この大陸は、まだ失う訳にはいかないのだから。上手くいっていると思っている時こそ、慎重に状況を見回す事が大事なのだから。
そして実際、今はイレギュラーにして最大の懸念事項…原初の女神の存在がある。奴に対して無策のまま事を進めれば、どこで痛い目を見るか分からない。万が一にも、計画全体を頓挫させられるような事があってはならない。奴に邪魔されない為、奴を排除する為、必要なのは入念且つ十分…いや十二分の作戦。その一環、その一手として彼女から直接情報を引き出そうと思ったけど……
「ふぅん…あんたが、アイツをねぇ。また随分と、調子に乗ってるじゃない」
「そうかい?オレは今、知識なり味方なりを彼女が整える前に叩くという、至って冷静な判断の下動いているつもりだよ」
「そこじゃないっつーの。アンタがあいつと遊ぶから、その間私は神次元のゴミ達の相手をしていてほしい?アンタはいつから、この私にそんな事が言えるようになったんですかねぇ?」
ねぷっちの用意してくれたホログラムでのやり取りを終えてすぐ、オレが呼んだのはレイ。向こうからこっちの拠点に来てくれる以上、この場での戦力ならどうとでもなる。ダークメガミを何体か各国へ派遣すれば、ぎあっち達が増援に来る事も阻止出来る。もう一人のオレは、取るに足らないとして…神次元からの増援も、レイが行ってくれれば封殺は十分に可能。
そういう訳で、レイに頼んだところだけど…ふぅ、彼女の相手はいつも苦労するね。
「まあまあ、逆に考えてみてくれないかい?君は彼女をそれなりにやり合えそうな相手と見ているようだけど…もし彼女がオレに負けるような相手なら、君も戦おうとは思わないだろう?そして逆にオレが負けたら……」
「アンタがいなくなって、私は清々するって訳ね。まあ確かに、アンタ等で潰し合ってくれるなら万々歳だわ」
「うん、そういう事だから頼むよ。神次元の事を頼まれてくれないかな」
「…ほんと、アンタ口だけは達者よねぇ。それじゃ、アンタが負けておめおめと助けを求めてくるのを楽しみに待ってるわ。実際助けるかどうかは別としてね〜」
本当に今のやり取りで納得してくれたのか、それともこれから行う事の有用性は理解した上で、ただオレをおちょくる為だけにこんな事を言ったのか。後者も普通にあり得るのが彼女というもので…けれどこれは、甘んじて受け入れなければならない。彼女との関係性が切れてしまえば、困るのはオレの方なのだから。
「…さて…次は彼等かな…」
この場を後にするレイを見送り、すぐにオレは連絡。その相手は、大陸上空の空中艦内で待機しているアフィモウジャス。通信が繋がったところで手早くオレは状況を説明し、ある依頼を彼へと伝える。
「…という訳で、彼女のモニタリングを頼むよ。この大陸内に入られてから見失うのは、流石に困るからね」
「良かろう。…だが、それだけで良いのか?相手は個としては最大クラスの存在なのじゃろう?そんな奴を相手に、モニタリングだけで良いと?」
「あぁ。機械に疎い彼女相手なら、空中艦からの監視がベストだからね。それに、警戒を怠る者に成功などないが…必要以上に警戒し過ぎるのは、リソースの無駄と言うものさ」
「ならば良い。ワシとて、今暫くは荒事に巻き込まれたくないのでな」
これで、オレは戦場に出る事なく、ここから彼女の場所と状況を把握する事が出来る。自分は後方の安全な場所から、というのはあまり柄じゃないが…相手は原初の女神様なんだ。この位のハンデはもらうよ、大先輩さん。
(…そう。幾ら強かろうと、所詮一人の女神。世界を変えでもしない限り、一人じゃどこかで潰されるという事を教えてあげるよ。世界を変えでもしない限り、ね……)
*
予想外にも程がある、もう一人の私の行動。プラネタワーに来たと聞いて、私は急いで戻ったけど…その時にはもう、もう一人の私は飛び去ってしまっていた。
「そう、これが……」
「うん。調べてもらった限りじゃ、ただの機械みたい。技術的には、信次元のものじゃないみたいだけど…」
ノワールの言葉に答えるユニの手にあるのは、円盤状の機械。ホログラムという形で現れたもう一人のうずめ…改め、くろめ?…は、いつの間にか路面に置かれていたこれでもって、もう一人の私とやり取りを交わし、浮遊大陸へ誘い出したという。
「このサイズなら気付かない訳がありませんし、となればネプギアちゃん達が外に出てから用意された可能性が高いですけれど……」
「それもそれで、普通なら気付くわね。往来が激しい場所ならまだしも…」
「うーん…やっぱりステマックスは逃げたって事かなぁ。あの影の薄さなら、しれーっと出てきてこれ置いて立ち去る、って事も出来そうでしょ?」
「いやいやいや…そこまでいったらもうステルス能力だから…見た目的にも某使徒聖第八席さんみたいになっちゃうから……」
一体いつ、どうやって用意したのかを話し合う私達。今ブランが言った通り、背後とはいえ女神化していたネプギア達が誰も気付かないというのは些か変で…見つけた時点でもう大きいネプテューヌやロムちゃんラムちゃんが触ってしまったとの事だから、指紋を手掛かりにって訳にもいかない。
「ねーねー皆、それも気になるけど、今はもう一人のイリゼとくろめの事の方が重要じゃない?」
「えぇ、大きいネプテューヌさんの言う通りです。イリゼ様の飛行速度の事を考えれば、大陸へ辿り着くのはもう目前の筈ですo(・`д・´。)」
「そうね…ネプテューヌ、軍の方は?」
「あ、うん。展開中の部隊に何かあったら伝えるよう言ってあるし、足の速い機体にもギリギリの距離まで出て監視してもらってるよ。まあ、条約があるから大陸で何かあっても手出しは出来ないけどね」
「…これから、どーするの?」
「わたしたちも、行く…?(どきどき)」
緊張の滲む、二人の声。その言葉に、私達は顔を見合わせ…けど誰も、はっきりとした答えは返せない。
そう。もうすぐもう一人の私は大陸に辿り着くだろうし、そうなればもう一人の私は迎撃を突破し、くろめを討とうとする筈。当然誘い出したくろめの方も返り討ちにする為の準備があるんだろうし、激戦が起こる事はほぼ間違いない。そしてそこで問題になるのが…私達の行動。
普通に考えれば、もう一人の私を援護するのがベターな選択。けど、もう一人の私は人の味方ではあっても、女神の…ネプテューヌ達の味方じゃない。それにもう一人の私の目的も、くろめ達が最終的にしようとしている事も分かっていない以上…考えたくはないけど、両方を一度に相手しなきゃいけなくなる可能性も、否定し切れない。結託する事は恐らくないにしても、先に私達を始末した方が目的に近付くと、互いにそう判断する展開があるかもしれない。片やまともな勝負にならない程の強さを誇るもう一人の私、片やダークメガミを何体も有し、同じく凄まじい強さを持つレイが仲間にいるくろめによる戦いで、しかも戦場は敵陣となれば……私達も、よく考える必要がある。
「…どう、なるんでしょう……」
「どうって…そりゃ、戦いになるでしょ。まさか歓迎っていうのが、本当にお茶やお菓子を用意しておく…なんて意味な訳ないし」
「そ、それはわたしも分かってるよ。そうじゃなくて…戦いの結果は、どうなるのかな…って……」
「…この状況…ひょっとすると、調査する上ではチャンスなのではなくて…?」
ネプギアが思案の表情を浮かべる中、ふとしたようにベールは声を上げた。そしてその発言を受けて私達が視線を向けると、ベールは頷く。
「勝敗はさておき、間違いなくくろめはもう一人のイリゼへ多くの戦力と意識を向ける筈。であれば、その間別方向からの侵入は容易になるのではなくて?」
「もう一人の私を、囮にするって事?」
「有り体に言えば、そうなりますわ。勝手に囮にする、というのは些か気が引けますけど、彼女がそう簡単にやられるとも思えませんもの」
「それはまあ、もう一人の私だからね」
「ちょっと自慢げね、貴女…」
発言に同意しつつ腕を組むと、ブランから自慢げね、と言われてしまった。…あ、私自慢げになってたんだ…いやまあ、自分的に理解は出来るけど。
「…こほん。想定外ではあるけど、利用出来る状況でもある…ってところかしら。側面や背面から侵入が出来れば、くろめの二次戦力や予備戦力を、不意打ちする形で叩く事も可能かもしれないわね」
「間接的な援護、って訳ね。そう都合良くはいかないかもしれないけど、もしそれでもう一人のイリゼを助ける事が出来たなら、和解する上での利にもなるんじゃないかしら。くろめとレイを倒した後は、もう一人のイリゼ…ってなるんじゃ、しんどいどころの騒ぎじゃないし」
「あ…っと…ね、ねぇ皆。もしかしてこれ…くろめがこのまま倒されてくれたらオンノ人、的な感じに考えてたり…?」
「え?…まぁ、やられてしまえとは思ってないけど、ぎょふのりんになってくれればありがたい…って感じではある、かな?」
「ふ、二人共…それは御の字と漁夫の利だからね…?最後の『ん』は要らないよ…?」
「あ…こ、こほん。とにかくそういう感じなんだけど、何か不味かった?」
「へっ?い、いやそういう訳じゃないけど…ほ、ほら。別人って言っても、同じうずめな訳でしょ?だったらくろめの方も、何か事情があってこういう事をしてるんじゃないかなー…なんて…」
既に状況は動いている。なら、それを利用するのも手だ。そんなやり取りを交わす中、何か浮かない表情で待ったをかけたのは大きいネプテューヌ。訳有りなんじゃ、という言葉を受けた私達は、顔を見合わせるけど……
「…その可能性も、ゼロではないと思います。けど…これまでしてきた事を思えば、本意じゃないとはとても思えません」
「そーよ!まだ目がさめない人だっているんだから!」
「わたしなら、何かあれば…ちゃんと言うよ…?」
「…そ、そうだよね…うん、それはそうだ……」
『……?』
三者三様の返答は、全て大きいネプテューヌへ対する否定。それを聞いた大きいネプテューヌも、気落ちしつつも引き下がる。今の三人の言葉に対して、ネプギアは何か…それこそ多分、大きいネプテューヌの発言を擁護するような事を言おうとしていたみたいだけど…結局、言う事はなかった。…多分、個人的に肩を持ちたいって思いよりも、女神として安易に大きいネプテューヌの…間接的にくろめの擁護は出来ないって思いの方が強かったからだと思う。
分かる。大きいネプテューヌの事も一理あるし、実際全くの荒唐無稽な話…とも言い切れない。例えば最終目的が信次元を滅ぼす事なら、やっている事が全体的に回りくど過ぎるから。…だけど同時に、何か訳があって、本当はやりたくない事をしているのだとしたら、それを伝えるタイミングだってあった筈で…はっきり言ってしまえば、大きいネプテューヌの発言は希望的観測の域を出ない。
「…まあでも、ほら。もしくろめも同じうずめだって事なら、凄くしぶとくて諦めが悪い性格をしてるだろうし、その時はその時だよ。もしもおっきいわたしの言う通りだったなら、わたし達だって『問答無用で滅殺ッ!』とかはしないって」
「う、うん。そんな生体CPUさんみたいな事をするとは思ってなかったけど……出来るなら、お願いね?わたしも出来る事があれば、精一杯やるからさ」
「もっちろん!同じわたしに言われたら、断る訳にはいかないからね!」
だけど、そこでただ「NO」とは言わないのがネプテューヌ。それは私達皆が知ってる事だし、私達だってくろめとの対話を捨ててる訳じゃないから、二人のやり取りに対しては軽く肩を竦めて……次の瞬間、会議室のテーブルに置いてあった端末が音を鳴らす。
「……!ネプテューヌ、もしや……」
「…うん。もう一人のイリゼが大陸に着いたみたいだよ。…で、えっと…え?途中で止まった?」
一瞬で張り詰める場の空気。ネプテューヌが通信の内容を確認し…続けて目をぱちくり。私も「何故?」…と思ったけど…とにかくもう一人の私は、空中で静止しているらしい。
「何かあったのかしら…。…まさかRPGの定番である、特別なアイテムや技を用意しなければ、ラスボスの本拠地には入れない的な何かが…?」
「いやそんな事…ないとも言い切れないわね…。私達も実際に確認はしてないし、そもそも入れないようにする仕掛けはあってもおかしくないし…」
「けどどっちにせよ、ここでわたし達が話してても分かりはしないわ。艦長、何か他に分かる事は?」
「すみません。何分この距離からでは、イリゼ様らしき存在を捕捉するので精一杯で……」
「…分かりました。では、注視を続けて下さい」
全員で頷き合った後に、ネプギアが報告をしてくれた艦長へと返答。通信状態はそのままに、私達は外を見やる。
「…何にせよ、もう考えている時間じゃないね。もう一人の私に乗じて私達も仕掛けるか、何が起こるか分からないから緊急事態に備えて静観するか、すぐに決めて行動しないと結局後手になっちゃうよ」
「…ほんと、神次元から帰ってきてからイリゼは復活したというか、パワーアップして戻ってきた感すらあるよね。じゃあ……」
「……!報告します!静止中だったイリゼ様に動きがありました!これは……」
何より今必要なのは、選択し動く事。状況に遅れない事。そしてほぼ答えは決まっているけど、その上でネプテューヌは結論を出そうとし……その流れに待ったをかけたのは、通信越しの艦長の声だった。
*
「よく来たね、原初の女神」
陽動もなければ捻りもなく、彼女…原初の女神は、真っ直ぐにこちらへと飛んできた。好都合だ。搦め手を使ってくるならそれはそれで望むところだけど…迎撃戦になる以上は、単純に突っ込んできてくれた方が楽だからね。
「この声……ふん、これも機械の力というやつか」
「おっと、流石に二度目は理解出来るんだね(と、言いつつも発生源のスピーカーがある空中艦の方へは目がいっていない…読み通りだ)」
拠点としている建物の屋上。空中艦から送られてきている映像越しに、彼女へと声をかけるオレ。この大陸の中央付近にいるオレと、外縁部より更に外の彼女とじゃ普通は会話なんて出来ないけど…それを含めての、空中艦による監視。
まあ尤も、空中艦の位置に気付かないのは無理もない事。光学迷彩を搭載している艦なんて、知識関係無しに普通は見つけられないんだから。
「さて…先に確認だけしておこうか。君の目的はなんだい?内容によっては、手を貸す事も考えるよ?君を相手にするのは、かなり骨が折れそうだからね」
「ほぅ…ならば今すぐ首を差し出せ。貴様の正体など知りはしない、知ろうとも思わない。だが貴様が人ではなく、人に仇為す存在である以上、私は貴様を許しはしない」
「…驚いた、まさかここまで話の通じない相手だったとは。…君には即刻退去願いたいし、もしも君が本来いるべき場所へ帰る事を望んでいるなら、全面的に協力しようとも思っていたんだけど…ね」
全力を出して勝つというのは格好良いものだけど、戦略の観点から言えば下策。如何に力を温存し、如何に消耗をせずに目的を果たすかが策略というもの。そして、戦わずに敵を消す事が出来るのなら、それに越した事はない。
そう思って誘いをかけてみたけど…結果はこの通り。高圧さといいユーモアの無さといい、こっちの最古の女神もコミュニケーション能力に難があるのだとしたら困ったものだね。
「…返答は無し、か…まあいいさ。自ら引いてくれる気もなく、オレ達の邪魔をするというのなら、仕方ない。この次元の初代女神、という事で多少の敬意は払うけど…退場してもらうよ、原初の女神様」
戦わずして勝つのが賢者。けれど現代人と原始人では仮に言葉が通じても恐らくまともな会話にはならないように、交渉や策謀じゃどうにもならない隔たりというのも時にはある。そしてそうなった場合は、さっぱりと諦め…実力行使で、はっきりとどっちが上かを明らかにするのが賢明な判断。
問題はない。こちらもかなりの被害は負うだろうけど、ここで勝てば『現代の女神達が手も足も出なかった相手から勝利した』という事実が手に入る。その事実は女神のねぷっち達へ対するこれ以上ない程の牽制要素に、何十ものダークメガミに勝る武器に必ずやなる。勿論、それだけでねぷっち達が諦めるとは思ってないし、そこでもまだ諦めない位の気概に期待をしているところだけど……間違いなく、ここでの勝利には価値がある。大損害を負っても良いと思えるだけの、意味がある。
「…戯言は済んだか、暗黒星くろめ」
「うん?あぁ、済んだよ。これ以上君と話していても、時間の無駄だろうからね」
「そうか、ならば消えろ」
……と、それなりにオレは意気込んでいるというのに、返ってくる言葉は全て淡白。不愉快極まりないけど感情は豊かなレイと、あまり感情のある相手と話している気がしない原初の女神なら、一体どちらが良いんだろうか。
ともかく、穏やかに話すのは本当にここまで。やられてしまえば全て水泡に帰すのだから、ここからは勝利に全力を注ぐ。そしてその意思の下、オレは迎撃を開始しようとし…気付いた。彼女が、何かを精製した事に。
(あれは…弓?…随分と大きい弓じゃないか、禁忌を以てこのオレに成敗しようとでも言うのかい?)
彼女が作り出したのは、その身長を大きく超える長大な弓。左手には同じく大槍かそれ以上の長さを持つ杭の様な物を持っている辺り、やはり弓で間違いない。
それが多数の迎撃を見越し、肉薄は困難だと予想した上での選択なら、悪くない。あれ程のサイズの弓、ちゃんと射てるのなら威力も中々のものなんだろうから。…けど、甘い。そんな弓で、そんな手段でやられると思っているなら…大間違いだ。
「…でもまさか、君もそれで勝てるとは思っていないんだろう?という事は、本命の隠れ蓑、或いは接近するまでの対迎撃用武器といったところか。ならオレも、それを踏まえて押し潰すま……」
聞こえないよう声量を落とし、オレは呟く。油断はない。準備の不備もない。強いて言えば、レイがちゃんと動いてくれているかだけど…そこはもう、期待するしかない。
迎撃設備、モンスター、そしてダークメガミ。戦力は揃っている。勝利のビジョンも目に浮かんでいる。ならば後は……そう、思った時だった。原初の女神が杭状の矢をつがえ、その両腕で限界まで引き絞り……放ったのは。
「…は……?」
全くもって予想しなかった、彼女の行動。勿論つがえるところから射つまでを、一瞬でこなした訳じゃない。けれどあまりにも意外過ぎて、意味が分からなくて、思わずオレは行動を止めてしまった。
不可解過ぎる。理解出来る範囲を遥かに超えている。何故ならオレは、まだ一切の攻撃をしていないのだから。迎撃設備による砲撃も、兵による侵攻も、始めていないのだから。
まだ動いていない戦力は、全て身を潜めている。空中艦も、視点からしてやはり彼女には見えていない。だったら、原初の女神は、一体何を狙って……
「────え?」
次の瞬間、凄まじい風圧を放ちながら、音を遥か後に置き去りとしながら、何かがオレの斜め上方を駆け抜けた。
戦闘艦の実体弾主砲か、或いはそれ以上の砲撃か。唯一分かったのは、それが明らかな威力を持った存在であるという事で…茫然とそれが駆け抜けた方向を見たオレは、漸く理解した。艦砲かとすら思ったそれは──原初の女神の放った、矢である事に。それが、護衛として展開させていたダークメガミの内一体の胴を貫き、一撃で致命傷を与えた事に。
「…ぁ、え……っ?」
「…ふむ、声を出せるという事は、貴様の首を頭諸共吹き飛ばす事には失敗したという訳か。流石にこの距離では、軌道がずれるか……」
「……軌、道…?ずれる……?」
「何を驚いている。私は言った筈だぞ?ならば消えろ、と」
倒れるダークメガミの姿にオレの思考が止まりかける中、聞こえてくるのは淡々とした声。映像に映る彼女の視線が向いている先は……オレのいる方角。
「…まさか…今のは、お前が……?」
「私以外に誰がいる。…ああいや、居ても何らおかしくはない。人に仇為す貴様を許容しないのが、私一人である訳がないのだからな」
「馬鹿な…馬鹿なッ!この距離で、お前は見えているというのか!?仮に見えていたとしても、認識する手段があったとしても、そこからここまで一体どれだけ離れていると思っているんだ!そんな、大陸間攻撃クラスでもなければ届く訳がない攻撃を、たかが弓矢の一射で……」
信じられない、あり得ない、これが現実である訳がない。認められる筈のない攻撃にオレが激しく否定をぶつける中、無表情でつがえられる二本目の矢。それは、一射目の再現をするかのような動きで放たれ……オレが息を詰まらせた次の瞬間、建物前の地面を穿つ。
爆発が起きたが如く飛び散る土。舞い上がる砂埃。それ等が示すのは…否定しようのない、現実。
「ぐ……ッ!」
「残念だが、単なる弓矢ではない。…しかし、次も外れたか。となるとこの距離で仕留めるのは現実的ではないな」
「……ッ…貴、様ぁぁああああああッ!」
事も無げにそう言い切り、弓を手放す原初の女神。代わりに剣をその手へ携える彼女へ対し、一気に爆ぜるオレの感情。
奴はこう言いたいんだ。別にこの距離でなくとも仕留められると。オレを倒せるのは既に決まっていて、どう倒すかに過ぎないんだと。
軽んじている。軽んじられている。このオレが。準備を重ね、計画を積み上げ、長い時間をかけてここまで至ったオレを。先の事も考え、幾つものプランを用意しているオレを。この戦闘においても、十二分に戦力を整えた状態で望んでいるオレを。信念の、覚悟の、正義のあるオレを、負ける訳がない、正しさを証明するべきオレを、ぽっと出のイレギュラー如きが……
「……ッ!」
突撃が始まるよりも早く、オレは迎撃設備を起動。奴を狙える位置にある設備全てを動かし、文字通りの弾雨をけしかける。
女神ですら、そう簡単には突破出来ない、突破させない事を目的とした迎撃設備。だがそれを、原初の女神は信じられない速度と軌道で突破していく。誘導を振り切り、射線と射線の間を凄まじい勢いで駆け抜け、同時に周囲から放たれる武器が迎撃設備を貫き破る。
最初から、迎撃設備は倒す事を目的にはしていない。消耗させ、疲労させ、侵入しようとする意思を削り取る事、強引に押し入ったのなら疲労したところを大陸内で叩き潰す事を目的に据えた、その為の迎撃。…けれど、原初の女神は駆け抜ける。完全に迎撃を翻弄し、別格の力を見せ付け……奴の殺意が、オレに迫る。
今回のパロディ解説
・某使徒聖第八席さん
キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦に登場するキャラの一人、ネームレスの事。…いや、実際にはそこまで似てませんけどね。性格は勿論、外見も。
・生体CPUさん
機動戦士ガンダムSEEDシリーズに登場する、一部のキャラ及び設定の事。要は強化人間ですね。特に「滅殺」からも分かる通り、クロト・プエルの事です。
・(〜〜禁忌を以て〜〜)
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人、ラスタル・エリオンの台詞の一つのパロディ。えぇ、ダインスレイヴです。しかし電磁砲ではないです。