超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
何が起こっているか分からない。けれど、常軌を遥かに逸した何かが起こっている。想定外としか言いようのない何かが、巻き起こっている。報告から始まった事態の急変は、動き出そうとしていた私達の足を完全に止めていた。
(…一体、何が……)
観測を続ける国防軍部隊から送られてきているのは、浮遊大陸で始まった戦闘の映像。侵攻しようとするもう一人の私と、それを阻み撃墜しようとする迎撃による戦いの光景。
それは分かる。視覚的には、何が起こっているのか認識出来ている。ただ、その内容が…理解出来ない。あまりにも非常識過ぎて、飲み込み切れない。
「ま、またたおした……」
「やっぱり、あんなかんたんにたおせるのはおかしいわよ!ほんとはハリボテなんじゃないの!?」
「違うわ…あれも、これまで倒された奴も、全部本物のダークメガミよ…」
肩口から袈裟懸けで真っ二つに両断され、崩れ落ちるのはダークメガミ。斬り落とされた上半身が地面に落ちるよりも早く、もう一人の私はその頭上を駆け抜ける。
そこへ空から攻撃を仕掛けようと、複数の大型飛行モンスターが接近をかける。…いや、恐らく接近をかけようとしていた。けれどその時点でもう、もう一人の私は遥か先へと進んでいて…置き去りにされたモンスターを、幾本もの刃が襲い貫く。
過激にして無慈悲な置き土産をその身で受けたモンスター達は、揃って墜落。そして、ダークメガミと大型モンスター複数の撃破にかかった時間は…十秒にも満たなかった。
「あ……艦長、まだ追える…?」
「いえ、駄目です。本艦や展開中のMGの機器で、これ以上の望遠は……」
その数秒後、映像の中から消えるもう一人の私の姿。すぐにネプテューヌが訊くけど、今の時点で限界との事。
「…予想外、にも程がありますわね……」
「初めからダークメガミを圧倒してたし、他の迎撃と同時でも二、三体程度じゃ止まらないとは思ってたけど…完全に蹂躙状態ね……」
一先ず観測自体は続けてもらう中、ベールとノワールが零したのは驚きの混じった声。
幾らもう一人の私が異様に強いとはいえ、相手はあのくろめで、戦場はくろめ側にとっての本拠地。だから苦戦ないしは攻めあぐねる可能性もあると私達は思っていたけど…結果から言えば、くろめ側の迎撃はその殆どが意味を成していない。迎撃設備はもう一人の私の動きに一切追い付けず、モンスターは何も出来ずに瞬殺され、ダークメガミですら僅かな間侵攻を止めるので精一杯。凝縮された大嵐へ小鳥や虫が向かっていっている、という例えが一切過剰じゃない程に、もう一人の私と迎撃との間には差があって……全員が、理解していた。このままなら、もう一人の私がくろめの下に辿り着くのは、時間の問題だと。
「…そうだ、レイは?奴の姿、誰か見た?」
「見てないわ。けどこの状況は、奴にとっても好ましくはない筈。なのに、迎撃に出ないという事は……」
「ギリギリまで待ち構えている。或いは、そもそも今あの大陸に彼女はいない…そのどちらかでしょうか……」
そこで私が思い出したのは、もう一つの脅威。奴の存在。けど私の問いに対しては全員が首を横に振り、ブランとイストワールさんが姿を見せない理由を考察。
実際のところ、それが正しいかは分からない。でも、これだけは言える。奴の性格からして、怖気付いて隠れてる…なんて事はない。
(…どう、する…?ここまで一方的なら、援護も支援も一切必要ないだろうし…それ以前に、恐らく私達が大陸に辿り着くよりも早く、この戦闘自体が終わる。…じゃあ…これで、決着が付くの…?このまま、もう一人の私がくろめを討って…それで、お終い……?)
何となくだけど、分かる。もう一人の私は手抜きこそしていないけど、無理した結果の今じゃないと。乾坤一擲ではなく、普通に戦って、これだけ圧倒しているんだと。
そして、今のもう一人の私がくろめへ温情をかける可能性は限りなく低い。くろめがここから逆転する術を持たず、肉薄までされてしまえば、十中八九一連の事態を起こした首謀者の一人が討滅される。私達が…本来この次元を守るべき女神である私達が完全に蚊帳の外となったまま、もしかしたら終わってしまうのかもしれない。
「…って、何を考えてるの私…仮にそうなったとしても、それは動かない理由にはならない…そうでしょう?皆」
『えっ?』
「…あ……ご、ごほんっ!現状はもう一人の私が圧倒的に優位だけど、まだくろめが逆転し得るだけの切り札を持っているかもしれないし、もう一人の私がこの後何をしようとしてるかもまだ分からない。何もまだ終わってないんだから、女神としてやれる事、やるべき事はまだある…そうだよね?皆」
『あ、言い直した……』
「そっ…そうだよねッ!?皆ッ!」
「う、うん、そうね…。この調子ならどっちにしろくろめ側の戦力はガタガタになってるだろうし、どっちにしろ調査には好都合……」
大真面目な顔で、大真面目な空気の中悪癖を炸裂させてしまい、何とか勢いで押し切ろうとした私。皆の印象はともかく、微妙そうな顔をしつつもノワールは私の考えに同意をしてくれて……結論を予想し私が頷こうとした、その時。もう戦闘の光景は見えなくなった映像の中で、巨大な闇色の柱が天地を貫く。
『なぁ……ッ!?』
遥か遠く、恐らくは浮遊大陸の中央付近で発生した闇色の柱。これまで何度か見たものよりは細い、けれどこの距離で見えている事から考えれば超巨大である事は間違いない光が、暫しの間迸り…消える。
「い、今のって…イリゼちゃんが言ってた、くろめのきりふだ!?」
「え?そ、それは分からないけど…あの光、間違いなく負のシェアだよね…?」
「えぇ、ですか…それだけでは、ありません」
負のシェアエナジーであれば、使ったのはくろめ側。その意図を込めて私が皆に投げかけると、神妙な面持ちでイストワールさんが言葉を返す。
「…いーすん、どういう事?」
「この距離且つ映像越しなので、保証は出来ませんが…あの光に紛れる形で、天界への門の光が発されたように見えました」
「と、いう事は…くろめさんは、天界へ……?」
「かもしれません。そして、浮遊大陸の下方にはギョウカイ墓場があり、柱が地を貫いている点から考えるに…天界と見せかけ、墓場へ向かった可能性もあると、わたしは思います」
イストワールさんが言ったのは、どちらも予想。確証はなく…けれど追い詰められた状態なら、十分あり得る行動。くろめも女神というのであれば、天界への門を開く事も可能な筈なんだから。
敗走したかもしれない、という可能性を受けて、視線を交わす私と守護女神の四人。それから私は、指を顎に当てて数秒考え…言う。
「…行こう、皆。天界、ギョウカイ墓場、それに浮遊大陸…くろめが追い詰められてるなら、今が攻め時な筈だよ」
「ですわね。イリゼ、誰がどこに…まだ考えてまして?」
「ううん、それはまだ。けど…私は浮遊大陸に行こうと思ってる。天界と墓場のどちらにも行ってない可能性だってあるし…やっぱり長距離からの観測だけじゃ、得られる情報が限定的過ぎるから」
「確かにね。なら…わたし達が墓場、貴女達は天界…で、どう?」
「アタシ達が天界…その、理由はなんですか?もしかして……」
今さっきの私と同じように顎へ指を当てて提案するブランに対し、ユニが質問。その表情には、少し浮かない色があって…でもそれに気付いたブランは、首を横に振る。
「別に、天界の方が危険は少ないから…とかじゃないわ。単に、相性の問題よ」
「相性、ですか…?」
「近接戦が主体な私達は、多少障害物があっても戦闘に支障は殆どない。逆にユニ達は遠距離戦が主体だから、開けてて広さが桁違いな天界の方が、追撃する上では向いてる…って事よ。そうでしょ、ブラン」
回答を引き継いだノワールにブランが頷き、適材適所の判断だと分かったユニ…というか、女神候補生の四人は揃って安堵。…もう、そこを不安がる必要はないと思うんだけどね。四人の実力は、もう皆十分に分かってるんだから。
「…では、イリゼさん。浮遊大陸には、わたしも同行させてもらえますか?」
「イストワールさんも、ですか?」
「はい。調べる事なら、わたしも力になれると思いますし…わたしも、気になりますから。イリゼ様の事も、その行動も」
「…分かりました。じゃあ……」
「あ…そ、そういう事ならわたしも行くよ!クロちゃんの力があれば……」
「…ううん、大きいネプテューヌは待ってて。浮遊大陸じゃ、ダークメガミやレイと戦闘になる可能性は十分あるし…小さいイストワールさんだけならともかく、大きいネプテューヌまで守り切るのは厳しいと思うから」
「……っ…」
同行を申し出てくれた二人。でもその内イストワールさんには首肯をし、一方で大きいネプテューヌには首を横に振って言葉を返す。…正直、イストワールさんの申し出には首肯しておいて、大きいネプテューヌは駄目というのには心苦しさがあるし、イストワールさんへの首肯には少なからず私情もあるから、尚更申し訳ないって思うけど…その上でもやっぱり、大きいネプテューヌが来るのは危険過ぎる。それに……
「…ネプテューヌ、もしかして貴女…焦っていまして?」
「へっ?あ、焦る?…べ、別にそんな事は……」
「わたくしの勘違いならそれで良いですわ、こういう時にじっとしていられないのが『ネプテューヌ』ですし」
「うんうん、わたしなら自分も何かしなきゃー、って思うもんね。そういう事でしょ?」
「…え、と…そう、かも……」
「やっぱりねー。…だから、何かあったらすぐ動けるように、どこへも行けるように、ここで待ってて。もしかしたら、うずめやぷるるん達に来てもらわなきゃ不味い…って事になるかもしれないしさ」
大きいネプテューヌは、何となくだけど冷静じゃない…それこそベールの言うように、何か焦っているようにも見えた。それも私が同行させられないと思った理由の一つだし…だからこそ、ネプテューヌの返しは上手いと思った。
実際のところ、大きいネプテューヌがどう思っているかは分からない。でもそれ以上の事を大きいネプテューヌは言わず…私達は、頷き合う。
「それでは皆さん、お気を付けて。仮に敗走したのだとしても、相手は未だ未知数の存在。発見の有無に関わらず、慎重に動く事を心掛けて下さい」
「はい。いーすんさん、イリゼさんもお気を付けて」
「うん、お互いね」
インカムの確認をし、会議室から出る私達。大きいネプテューヌに今ここにいなかった面子への情報共有を頼んで、私とネプテューヌ達は外へ、ネプギア達は天界への門を開く為にシェアクリスタルの間へ。
元々は調査の計画を立てていたというのに、今は敗走した可能性のあるくろめの追撃に向かっている。全く予想外も良いところで…けど文句を言っても仕方ない。仕方ないし…言うならその相手は、もう一人の私。そうだ、目的はどうあれもう一人の私は今信次元の状況を引っ掻き回しているようなものなんだから…その事だって、伝えるんだ……!
*
「…イストワールさん、恐らくもうすぐ迎撃の射程圏内に入ります。確認ですが…大丈夫ですか?」
「大丈夫です。イリゼさんも、必要だと思ったらすぐに頼って下さい。ある程度は障壁で弾きますから」
皆と分かれ、浮遊大陸へと向かって真っ直ぐに飛び、遂に肉眼で見えてきた無数の迎撃設備。まずはこれを抜かなければ、話にならない。
そして今、イストワールさんがいるのは私の右手の中。私の掌に座り、指を両手で掴んでいるその姿は何とも可愛らしいけど…うっかり手を握ってしまえば大変な事になるから、実はそこそこ緊張感がある。
「…出来るんですか?今は、本が……」
「えぇ、この身体だけでは出来る事に限りがあります。ですが、『ある程度』なら出来るんですよ。でなければ、この身体の意味がありませんから」
いつも本と共に行動しているイストワールさんだけど、今回本はプラネタワーに置いてきてある。そして、ついさっき知った事だけど…イストワールさんにとっての本体は『本』の方で、この身体は謂わば『端末』らしい。だからって端末側の身体は簡単に代えが効くとか、本体側の本だけでも十全に動けるとかじゃないとの事だから、実際にはもっと複雑なんだろうけど…っと、もう余計な事を考えてる場合じゃないね…!
「来た…!行きますよ、イストワールさん!しっかり掴まっていて下さいね…ッ!」
「はい…ッ!」
正面に見える無数の設備から光が見えた次の瞬間、一斉に襲い来る光弾の雨と幾条もの光芒。私も翼を三次元機動重視の形態に切り替え、斜め上へと飛ぶようにして迎撃の突破を開始する。
「……ッ、これは…思った以上に、骨が折れる…ッ!」
一瞬前まで私がいた場所を光芒が蜂の巣にしたと思ったのも束の間、今私がいる場所も、その周囲にも迎撃が殺到。対する私も高速で視線を走らせ、迎撃の軌道と穴を把握し、身体全体を捻るようにして穴から穴へと連続で飛び込む。
映像で一度弾幕を見ていたとはいえ、遠くからの映像と、直接の体感とじゃ全然違う。加えてもう一人の私があまりにも余裕で、赤子どころかぬいぐるみの手を捻るレベルで突破していたせいで無意識に過小評価していたけど…はっきり言ってこれは、最新鋭艦隊の砲火レベル。
正に要塞。揚陸すらもまず許さない弾雨の絶壁。だけど……
「たかが自動防御程度で、この私を阻み切れると思うな…ッ!」
真正面から飛び込んで来た光芒を右手の長剣で斬り払い、一瞬の穴へと迷わず突進。余計な思考は廃し、神経をフル稼働させ、殆ど思考を介さないレベルで進路上の光弾を回避。ある時は風に乗って鋭く飛ぶ猛禽類の様に、ある時は流れに逆らって泳ぐ軟骨魚類の様に、そして時にはひらひらと舞う木の葉の様に、本能の指し示すままに私は迎撃の網を縫って進む。
これが誰かの操作によるものではなく、自動防御である事は早々に分かった。何せ、弾幕の動きがよく言えば素直、悪く言えば単純だから。罠もなければ手の込んだ誘導もない、ただ手数で押すだけの迎撃なら…十全の私に、越えられない程の壁じゃない。──そう、十全の私ならば。
(やっぱり、片手が使えないのはキツい…ここでは出来るだけシェアエナジーの消費は抑えておこうと思ったけど、一度無理矢理に道を開くか……?)
今私の左手は、フリーでもなければ何か武器を携えている訳じゃない。左掌の上にいるのは、大切な家族のイストワールさん。突破能力の向上とトレードオフになんて、絶対に出来ない人。
であれば出し惜しみなんてしていられない。イストワールさんを落とさず、守り切ったまま突破する為に、必要な事を行うまで。
じゃあ、どうするか。どういう手段を取るか。それを模索しようとしたところで、イストワールさんが声を上げる。
「……!イリゼさん、左側弾幕薄いです!あれは……」
「…もしかして、もう一人の私の……?」
その声は弾かれるようにして左を見れば、確かにある範囲だけ弾幕が薄い。不自然な程に、そこだけ迎撃が弱い。
更に視線を走らせて見れば、その先にある迎撃設備は何割かが破損状態。だから私は確信した。そこは意図的な罠ではなく、もう一人の私が突破した跡なんだと。
(あそこなら…あそこに入れば……!)
迎撃設備は固定型である以上、その穴が補われる事はない。つまり、そこを利用しない手はない。私はそこまで考えると、一気に突破する事を狙うべくその場所を見据え……イストワールさんを、自分の胸の谷間へ突っ込む。
「イストワールさん、ごめんなさいっ!」
「えっ、ちょっ…むぐぐッ!?」
「は、ぁあぁぁぁぁああああああッ!」
我ながら常軌を逸した行為だとは思うけど、もう手段は選ばないと決めている。だから突っ込むと同時に左手にも剣を精製し、二本の刃で突破口を斬り開く。
右の長剣で光芒を斬り伏せ、左の片手剣で光弾を弾き、バレルロールで刹那の隙間を掻い潜る。更に周囲へ幾つもナイフを精製し、反撃として迎撃設備へ向けて放つ。着弾確認なんてせず、弾除けになれば十分とばかりに、私の向かう先へと撃ち込む。そして……
「抜けッ、たぁああああぁっ!」
ある瞬間を境に、横殴りの弾雨は密度が低減。目に見えて楽になった状況に対し、私は思わず声を上げ…でも、気は抜かない。あくまで神経は張り詰めたまま、二本の刃と体捌きで迎撃を凌ぎ…迎撃網を、抜ける。
「ふぅ…大丈夫ですか?イストワールさん」
「…………」
「…イストワールさん?」
「…ぷはっ!…うぅ……」
勢いそのままに大陸へと突入した私は、一旦降下し近くの木の陰へ。そこで谷間に挟まっているイストワールさんに声をかけるも、反応はなく…心配になって引っ張り出して見ると、出てきたイストワールさんは酷く落ち込んだ顔。
「…酷いです、イリゼさん…わたしを胸の谷間に突っ込むだなんて…まさか、妹の胸に身体を埋める日が来るだなんて……(>_<)」
「あ、あー…あの、その…あの場ではそれがベストだったというか、プロセッサの締め付けと風圧で、短時間であれば胸の谷間はイストワールさんが入っても落ちないかと、思いまして……」
「……(ノ_<)」
「わぁぁごめんなさい!配慮とかデリカシーとか色々足りない行動でしたごめんなさいぃぃっ!」
……という一見しょうもない、けどイストワールさんの立場からすればとても軽くは流せないのであろうやり取りを挟み、その後に私達は行動再開。
「…こほん。それにしても…凄まじい光景ですね……」
再び私の掌へ戻ったイストワールの言葉に、私はこくりと無言で頷く。
浮遊大陸の中、即ち地上は…何というか、ちぐはぐな印象。古い、遥か昔の環境といった感じではあるけど…どうもおかしい。複数の風景写真を組み合わせて作った合成画像の様な、そんなちぐはぐさが感じられる。
けれどそれ以上に目を引くのは、戦闘の跡。まるで爆撃でも行ったかのような有り様になっている場所が幾つもあり……何も知らない人が見たら、きっとこう勘違いすると思う。ここでは大国同士の大規模衝突があったのか、と。
(…けど、何だろう…この大陸、嫌な感じと、心地良い感じが混ざってるような……)
粗方もう一人の私が撃破してしまったのか、自動迎撃能力がないのか、ダークメガミは出てこない。迎撃設備も外縁に比べればずっと少なく、周囲の観察をするだけの余裕がある。
その中で感じるのは、不思議な感覚。ちぐはぐさとも関係があるのか、対照的な二つの感覚が混在していて……
「……まさか…いや、やはり…」
かなりの距離を進み、景色は自然から古めかしい街並みへ。そしてもうすぐ、あの闇色の柱が発生した付近へ辿り着くんじゃないか。…そう思っていたところで、イストワールさんがぽつりと呟きを漏らす。
「…何か、気付いたんですか?」
「気付いた…えぇ、そうですね。気付きと、一つの推測が立ちました。一先ず確かめてみないと何とも言えない事ですが…」
神妙な顔で、そう言葉を返すイストワールさん。一体何を、と訊きたいところだけど…気になる事位イストワールさんだって予想してるだろうし、その上で言わないって事は、恐らく確証のないまま話すのは良くない、と判断したから。
であれば、その事についてイストワールさんから話してくれるのを待つだけ。気になる気持ちへそう結論付けて飲み込んだ私は、直進を続け……相変わらずちぐはぐな街並みの大凡中央、教会らしき施設の暫く前で、私達はあるものを発見する。
「…クレーター……?」
「…先程の負のシェアエナジーの柱によるもの、でしょう。穴が貫通していないのは、ただのエネルギーの奔流ではなかった…という辺りでしょうか」
そこにあった…というか出来ていたのは、巨大なクレーター。闇色の柱は大陸を貫いていたのに対し、実際にはクレーター止まりなのは、イストワールさんの分析通りの理由なんだろうけど…大地を抉り取り、クレーター周囲の建物も根こそぎ吹き飛ばしている以上、相当な爆発であった事は間違いない。
「…そういえば、ここに来るまでもう一人の私の姿を見ていませんね…。…もしや……」
「…イリゼさん?」
「…いや、そんな訳ないか…イストワールさん。もう一人の私も、くろめを追って天界か墓場に行ったのでしょうか?」
「何とも言えませんね…柱を至近距離で見ていた場合、そちらに気を取られて見失った…という事も考えられます」
一瞬浮かんだのは、負のシェアエナジーの奔流に飲まれてしまったという可能性。でもそんな訳ないと、すぐに私は思い直す。だって、もう一人の私なんだから。もう一人の私なら、原初の女神であれば、仮に飲み込まれても某英雄王が如く耐え切り飲み干したって何らおかしくない。……気がする。
「……さっきの事、ですけど…やっぱり、イストワールさんももう一人の私の事は……」
「…えぇ。イリゼ様は、わたしの創造主ですし……過去のわたしはイリゼ様を知っていても、今のわたしは『知識』としてしか知りませんから」
「え?それって……」
もう一人の私について触れた事もあり、一度私は前進を止める。勿論のんびりしている場合じゃないけど…半ば無意識的に、私はそれを口にしていた。
そこへ返ってきた言葉の内、半分は予想していたもの。でももう半分はまるで想像していなかった事で、凄く含みのある発言で……その意味について訊こうとした、その時だった。
「……!イリゼ様…!」
「……っ!?」
私の問いを遮ったのは、他でもないイストワールさん自身。その言葉で一気に意識が切り替わり、私がイストワールさんの向く方向へ目をやると……確かにそこには、もう一人の私がいた。クレーターの先、教会らしき施設の中から、もう一人の私が出てきていた。
(もう一人の私は、くろめを追っていなかった…イストワールさんの言う通り見失って、あの施設で手掛かりを探してたって事…?)
二度目の邂逅。全身に走る緊張感。口の中が急速に乾き、じわりと背中に汗を感じ、身体が動かなくなる。
訊きたい事がある。言いたい事もある。色々な思いが、もう一人の私にはあって…けれどやっぱり、戦闘なんかとは比べ物にならない緊張が私の心の中を占める。拒絶よりも上、私の事を知らないかのような反応が頭を過って…すぐに行動を動かせない。
そんな私達に気付いたようで、もう一人の私もこちらを一瞥。けれどもう一人の私が見せた反応はそれだけで、すぐにそこから飛び去ろうとし……漸くそこで、私ももう一人の私に対して声をかける。
「も、もう一人の……イリゼッ!貴女の、目的は何!?何を思って、貴女は一人で…皆と敵対してまで、一人で戦うの!?」
きっと今、もう一人の私として呼び掛けても、私の思いは届かない。だから私は、彼女を『イリゼ』と呼び…私が訊いたのは、彼女の目的。色々な気持ちが混ぜこぜになって、咄嗟に出たのはその質問。
それに対してもう一人の私は、すぐには何も言わなかった。ただ、ぴくりと眉を動かし、その後ゆっくりと私と同じ高度まで上がってきて……私の眼前まで来てから言う。
「…愚問だな。愚問にも程がある。──人を守り、人を導き、人の幸せを願い尽くす。女神の目的に、女神の使命に…それ以外の、一体何があると言うのだ」
「…そ、れは……」
特別の思いが籠っている訳ではない、かといって他人事のように言うでもない……ただそれが、人が呼吸をするのと同じ位『当然の事』であるかのように、平然とそう言い切ったもう一人の私。
それは理解出来る。同意も出来る。私だって、そう思う。だけどそれは、私や皆の思う気持ちとは違うような、同じだけど何かが違うような感じがあって……そこで私のインカムへと走るのは、一つの声。
「イリゼ、聞こえる!?いーすんの予想通り、ギョウカイ墓場でくろめを発見したわッ!」
「えっ、あ……」
くろめを発見。ネプテューヌからの覇気が籠った言葉に私は気を取られ……そのたった数秒の間で、もう一人の私は飛び去ってしまった。
勿論私は、飛び去るもう一人の私を追おうとする。けど、もう一人の私はやはり私とは段違いに早く……結局あの時と同じように、折角再び会えたというのに、私は殆ど言葉を交わせず終わるのだった。
今回のパロディ解説
・「〜〜左側弾幕薄いです!〜〜」
機動戦士ガンダムシリーズに登場するキャラの一人、ブライト・ノアの代名詞的な台詞の一つのパロディ。しかし今回、イストワールは弾幕を受ける側です。
・某英雄王
Fateシリーズに登場するキャラの一人、ギルガメッシュの事。シェアエナジーを飲み干すって何でしょうね。シェアクリスタルや女神メモリーは確かに服用出来ますが。