超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百五話 急転直下の絶望

 くろめの目的、もう一人のイリゼの目的、姿を見せないレイの居場所。分からない事、気になる事は沢山ある。でも分かっている事も、沢山ある。信次元を守る上で必ずまたレイとは戦う事になるだろうし、もう一人のイリゼとはこのままじゃ和解なんて出来る訳ないし…恐らくは逃げたんだと思うくろめの事は、このまま見逃す訳にはいかない。…ってこれ、分かってる事…って括りで良いのかしら?それで括ると、微妙におかしいような気が……こほん。

 ともかく、今やるべき事ははっきりとしてる。その先はまだ見えないけど、見えないものに目を凝らすより、今やるべき事を果たして、その分進んでからもう一度見つめる方が見えるものはきっと増える。だからこそ、今は…何としても、くろめを見つけ出す…!

 

「ブラン、ベール、そっちはいた?」

「いいや、いたのはモンスター数体だけだ」

「ふむ…となると、この辺りには居ない可能性が高いですわね」

 

 ギョウカイ墓場突入から十数分。今わたし達は、墓場内でくろめを探している真っ最中。普段なら、飛んで一気に進むところだけど…今回は最奥が目的地という訳じゃないし、そもそもくろめがいると断定された訳でもない。つまり虱潰しに探す必要がある訳で…しかもモンスターに騒がれたらそれでわたし達の存在を気取られてしまうかもしれないから、現状わたし達は飛ぶ事を控え、地道に捜索を進めている。

 

「今更言っても仕方ないけど、これ明らかに四人じゃ人手が足りな過ぎるわよね……」

「こっちはまだマシな方だろ。浮遊大陸の方が広いし、天界に至っては果てがあるのかも分からねぇ。…そういう意味じゃ、ロムラム達には楽どころか、むしろ大変な方を任せちまったかもしれねぇな…」

「とはいえ、人海戦術を取るにしても何かと難がありますものね…見つけ出すより、誘い出す策を考える方が現実的かしら……」

 

 周囲に目を走らせ、障害物から障害物へ跳ぶようにして進むわたし達。今ノワール達も言ったけど…落ち着いて考えれば考える程、途方もない事をやろうとしている気がしてくる。

 でもわたし達に、諦めるという選択肢はない。少なくとも、今はくろめは追い詰められている筈なんだから。

 

「…っと、右からモンスターが一体来てやがるぞ。どうする?一瞬で仕留めるか、それとも通り過ぎるのを待つか?」

「この辺りはまだ探せてないし、待つのがベターね。向こうも私達の追撃を警戒して見回してる可能性があるし」

 

 そこから数分後。わたし達は巨大なゲーム機の残骸みたいな物に身を隠して、どうやって動いているのか謎の土管型モンスターをやり過ごす。

 その最中、警戒以外はこれと言ってする事もない訳で…わたしがふと考えるのは、おっきいわたしの事。

 

(…素直に待っててくれてるかしら…自分だったらって考えると、普通にどっちの可能性もある気がするし……)

「…ネプテューヌ、もしかして大きい方の貴女の事考えてる?」

「え?…どうして分かったの…?」

「今この場とは関係ない事考えてそうな顔してたからよ。で、この状況でこの場と関係ない事を考えるとしたら、もう一人の貴女かイリゼ達、ユニ達のどれかだと思っただけ」

「…時々思うけど、ノワールって物凄くわたしの理解者よね…この際だから言うけど、ノワールだったら…っていう安心感と信頼感が凄いのよ、貴女」

「んな…っ!?こ、この際って、どんなタイミングで言ってるのよ貴女…!?」

「お二人共ー、お静かにして下さいましー」

 

 さらりと語られた推理にわたしが驚き混じりに言葉を返すと、ノワールはびくりと肩を震わせて赤面。そこまでの反応をする事…?…っていうのはいいとして…むぅ、どうして五月蠅くしてないわたしまで……。

 

「緊張感のねぇ会話だな…けど、大きいネプテューヌか…呑気で自由奔放な性格してる事は間違いねぇが、なーんか考えてるような節もあるんだよな……」

「同感ですわ。彼女、わたくし達が思っている以上に色々考えて動いているというか、何かわたくし達が知らない事を知っているのかもしれませんわね。それを話さない理由までは分かりませんけれど……」

「…もしかして、大きいわたしは大きいわたしで、独自に動いている…とか?」

『いや、それはない(でしょ・でしょう・だろ)。何せネプテューヌ(なのよ・ですのよ・だぞ)?』

「まあ、そうよねぇ…って、それはもう一人のわたし及びこのわたし自身に失礼じゃないかしら…!?その前の発言も遠回しな棘があったし…!」

 

 こっちは真面目に言っているのに、揃って失礼な事を言う三人。ほんとに失礼ね三人共…!……まぁ、内心わたしも「…なんて、まさかね」…位に思ってたけども…。

 

「…よし、行ったわね。…と、思ったらまた来た…あーもう、焦れったいわね……」

「いや、待て…やけにあいつ、急いでねぇか…?」

「急いでるというより、何かから逃げているような……」

 

 恨めしさを込めた視線をわたしがぶつけている中、そんなものは気にならないとばかりに三人は会話。くっ、この扱いに対しては本気で抗議を…と、思ったけど…確かにベールの言う通り、モンスターは尻尾を巻いて逃げている印象。…あのモンスター、墓場の中でもどちらかと言えば強い方よね…そのモンスターが、こうも慌てて逃げるなんて……

 

「…まさか、あのモンスターが逃げてるのって……」

 

 ある可能性が浮かんだわたしがそう呟くと、三人も揃って小さく首肯。これだけじゃまだ手掛かりとして薄いけど…行ってみる価値は、十分にある。

 他の可能性も考えて、まだ飛びはしない。けどこれまでよりも障害物から障害物へと移る速度を上げ、脇道や他の隠れられそうな場所は後回しにして…向かうのは、今モンスターが逃げてきた方向。

 

(…やっぱり、ここら辺一帯のモンスターの気配がおかしい…この奥で、間違いなく何かが起こってる……)

 

 あまり嬉しくはないけど、もう墓場には何度も来ているし、場所ごとの雰囲気も大体は覚えてる。

 だからこそ、分かる。この先で、何か起こっていると。モンスターの気が立つような、或いは怯えるような何かがあると。そして……

 

「…いた……ッ!」

 

 最奥からは少し離れた、ギョウカイ墓場のある地点。機械の瓦礫の山の様になっている場所の前に……くろめは、いた。何度か目にしたダークメガミと共に、憎々しげな表情を浮かべて。

 

 

 

 

 策に抜かりはなかった。十分な戦力も、増援阻止の為の手段も、打つべきだと思う事は全てしておいた。そもそも積極的な行動をしていなかった事自体、ねぷっち達にいつ攻め込まれても万全の態勢で迎撃をする為の準備を整えていた事が理由。今日の様な日の為に、今回の様な事を想定して、オレはここまで動いてきた。そうだ、オレに間違いはなかった筈なんだ。

 なのに、なのに、なのに…なのに、何だこれは。あのまともな交渉も出来ない、話の通じない原初の女神が、策も搦め手もあったもんじゃない、これだけの迎撃戦力を相手にただの正面突破を仕掛けてきただけの奴が、あんなにも堂々と空を舞い……

 

(この、オレが…こんな荒れ果てた、墓場に追い詰められるなんて……ッ!)

 

 沸騰状態から消える事のない、怒りと憎悪。心は激情が占領し……だが頭は、想像の遥か上を貫いた現実を受けて、逆に冷え切っている。

 こうなった理由は分かってる。至ってシンプルな理由だ。ただ、ただ…純粋に、奴の力が常軌を逸していた。認めたくはないが、それが現実だとすれば反吐が出るが…たった一人の女神相手には過剰とすら思えた戦力も、奴を相手には足りなかったというだけだ。…ああ、本当に…反吐が出る…ッ!

 

「…何だ、その目は…オレを嘲笑う気か?それともまさか…憐れんでいるんじゃ、ないだろうな…?」

 

 視界の端に映るのは、今動かせる唯一の個体。こいつの目は、こいつの目が、何を思っているのかオレに対して……

 

「…いや、いいさ。お前がどう思おうが、どう思われようが、そんな事はどうだったいい。それよりも…今に見ていろ、原初の女神…お前が強い事は、規格外である事は、認めてやる。但しそれが、最終的な勝敗まで決するとは限らな……」

「漸く見つけたわよ、くろめ」

 

──オレの思考に割って入る、オレの思考を断ち切る、一つの声。弾かれるようにそちらを向けば…そこにいるのは、四人の女神。

 

「漸く、と言う程探してはいませんけれどね」

「……随分と、来るのが早いじゃないか…」

「そりゃ、ユニ達の前でもう一人のイリゼへはっきりと宣戦布告してくれたんだもの。まさか見られてないとでも思ったの?」

「…あぁ…確かにそうだ、その通りだね…」

 

 肩に大剣の背を掛けながら、言葉を返してくるのはブラックハート。他の三人も既に臨戦体勢で、まだ構えてこそいないが…その立ち姿に、隙はない。

 

(…………)

 

 想定外、という程じゃない。退路を開く為に自爆させたダークメガミのエネルギーの奔流を考えれば、予測されるのはある種仕方のない事。むしろ女神総出で来ていない事からして、ブラフがきちんと機能したとも言える。

 だが…それでも四人。有象無象のモンスター程度なら、どうとでもなるが…いや、待てよ…?もしや、さっき返り討ちにしたモンスターが…?……ちッ…。

 

「…はぁ…オレは今、かなり気が立っていてね。悪いけど、日を改めてくれないかな」

「はっ、そいつは出来ねー相談だな。神出鬼没なテメェを見逃したら、その次がいつになるか分からねぇんだからよ」

「…君たちも話が通じないときたか…嫌な時代になったものだよ…」

「随分な言い草ね。そもそもわたし達と貴女は敵同士なのよ、違う?」

 

 ここで退いてくれればいいものを、ねぷっち達にその気はゼロ。…けど、そうか…敵同士、ね…。

 

「…ふむ、確かにそれは一理あるね。けどそれは逆に言えば、敵同士でなければ退いてくれる…いやそもそも、争う必要自体がない訳だ」

「…何が言いたいんですの?」

「言葉通りの意味だよ。…皆、オレと手を組まないかい?」

『は……?』

 

 ふっと肩から力を抜き、オレは投げ掛ける。きっとねぷっち達は予想していなかったであろう、オレからの提案を。

 話をする上で優位を確保したいのなら、必要なのは話の主導権を握る事。自分が話を動かし、相手を反応させる立場にする事。そしてその為に、オレは言葉を続ける。

 

「君達も知っているだろう?…原初の女神は、話が通じない。大層な事を言っているが、アレの本質は獣と変わらない。強大な力を持ちながらも、ただその力を振るうばかりで周囲に混乱をもたらす存在など、結局のところは猛獣と同じさ。そして肥大した力を持つ猛獣を御すべきは、オレ達の様な力と理性を併せ持つ存在だとは思わないかな?」

「…話の通じる敵と、話の通じない敵なら、どちらの方がより厄介で、どちらから先に対処するべきか…そう言いたい訳?」

「そういう事さ、ブラックハート。それに、何もオレはこの信次元を潰そうとなんて思っちゃいない。今はレイと手を組んでこそいるが…オレの望みはむしろ、君達にこそ近いと言っても過言じゃないんだよ」

『…………』

 

 今の所、首尾はまずまず。四人の顔付きからして、少なくとも話を続ける価値はある、と思っているのは間違いない。

 これならいけるかもしれない。もしも手を組んでくれるのなら、怪我の功名。仮にこの場では組めずとも、一考の余地を頭に残す事さえ出来れば、今後振るわれる刃は恐らく鈍る。となれば次に必要なのは、少し引く事。主導権を握っている側が、譲歩や下に出る素振りを見せてみせれば……心は、揺らぐ。

 

「どうだい?勿論思うところは沢山あるだろうけど、それはオレも同じ事。組むとまでは言わずとも、一度ここはお互い敵意を収めて、相手を知るのも良いとは思わないかい?もし理解を示してくれるのなら、オレは対原初の女神において協力する事を約束するよ」

「…テメェ、それを本気で言ってんのか?本気で、手を組もうってのか?」

「本気さ、それにオレは、君達となら仲良くなれるような気もしている。…だから、どうだろう。一旦これまでの事は全て水に流して、より互いにとって利となる事を考え……」

 

 オレの語りに嘘はない。何だかんだ言っても、真実こそが信用を得る上では重要なもので…何より、本当にオレはそう思っているんだから。オレは本心を、語っているだけなんだから。

 これを言い切ったら、後は四人の反応次第。それに合わせて、その都度話を進路変更させればこの場はどうとでもなる。……そう、思っている時だった。オレの足元へ、一太刀の斬撃が放たれたのは。

 

「…これは、どういう事かな?」

「見ての通りよ。…もう一人のわたし、人間のわたしは、貴女の事を思っていたわ。だからわたしも、ただ貴女を討つべき相手とは考えないようにしよう、って思ってた」

「なら、どうして……」

「決まってるじゃない。これまでの事を、水に流す?…それを、そんな事を、平然と言える今の貴女は、討つべき敵としか思えない。それ以外に、あると思う?」

 

 声音はまだ落ち着いて、けれど冷たい刃の様な眼孔でオレを睨んでくるねぷっち。他の三人も、突き刺すような視線でオレを睨め付ける。…今のは言葉の綾じゃないか。先の事を考えれば、ここで選ぶべき事は明白だろうに。……けれど…あぁ、そうだね。ねぷっち達、君達は正しいよ。普通の女神なら…それは、正しい反応だ。

 

「…だけど、良いのかい?君達も感じてるだろうけど、こいつは他のダークメガミとは違う。こいつは特別製、オレのお気に入りなんだ。…シェアの力を十全に受けられていない君達に、こいつを倒せるとでも?」

「ふん、あくまでわたし達を戦わずして退かせてぇ訳か。テメェはどこぞの天魔王かよ」

「これはここまでよく戦い、危機を打倒してきた君達への敬意なんだけど、ね。…もう一度訊こう。これで、良いのかい?」

 

 そう言いながら、オレは傍らに立つこいつへと触れる。今の言葉にも、嘘はない。もしこいつを、他の奴のカスタム仕様程度に思っているのなら…いや、その場合は好都合か。ねぷっち達が、どこまで力を理解しているかは分からないけれど。

 今のまま争うのはお互い避けた方が賢明。それが理解出来ない訳でもないだろうに、四人に退く気配は一切無い。あくまで今を、チャンスであると捉えている様子。…なら、仕方ない。

 

「そうか、だったら……やれ、プロトダーク」

「…■…■■■■ーーッ!!」

 

 声音から温情を消し去ったオレの言葉で唸りを上げ、容赦無く左掌底部からビームを放つプロトダーク。真なる、本来のダークメガミの一撃は着弾と同時に大地を抉り、砂煙が巻き上がった次の瞬間にはそこへ肉薄。砂煙ごと叩き潰すが如く右腕を振り下ろし、その風圧で砂塵を裂く。

 流石の出力。流石の反応速度。砲撃と打撃、それぞれ一発ずつでもこれまでの奴とはどれだけ違うのかをねぷっち達は認識した筈。とはいえ相手は守護女神四人な訳で、これに対してねぷっち達はどう出るか……

 

『はぁぁああああああッ!』

「……ッ…!」

 

 直後、裂かれた砂煙のそれぞれから飛び出す二人の女神。砂煙を目眩しにしてプロトダークを躱したブラックハートとグリーンハートの狙う先は…考えるまでもない。

 

「ちッ、プロトダーク!」

 

 とはいえそれはまだ予想の範囲内。オレの声にプロトダークは身を翻し、進路を塞ぐように掌底部ビームで地を薙ぎ払う。

 一方突撃をかけなかった二人は上昇し、大太刀と戦斧で背後から攻撃。だがそれもプロトダークは更に身体を半回転させ、前腕の装甲で受け止める。

 

「確かに、こいつは……!」

「雰囲気以上の強さみてぇだな…ッ!」

「だろう?だからオレは忠告したというのに」

 

 プロトダークの周囲を飛び回るようにしながら、攻め手を探るねぷっち達四人。無視して突っ込んで来ないのは、恐らくそれが許される相手ではない、と思っているからだろう。

 護衛として側に置いておいた事もあって、先の戦いでプロトダークは損耗ゼロ。つまり、プロトダークに懸念要素は何もない。

 

「■■■ッ!■■■■ーッ!」

「簡単に倒されてはくれそうにないわね…ベール!ブラン!」

 

 SEカッターで接近と連携に牽制をかけ、SEブラスターで追い立て、無理に接近しようものなら巨体を活かした打撃で回避を強いる。携行武器こそ備えていないが単純な戦闘能力においてプロトダークはダークメガミのほぼ上位互換。ねぷっち達四人だけなら、こいつ一体で何とかなる。

 が、オレが実質的な敗走状態である事には変わりない。そしてオレは、仮にここで勝ったとしても、それで満足するような心はもうない。だからオレは踵を返し、この場を離脱するべく歩き出す。

 そうだ、オレの最終目的は、果たすべき望みはもっと先にある。あの原初の女神に対しても、オレに土を付けさせた報いを受けさせなければいけない。オレはオレの正しさを、証明しなければならないのだから。

 

(…さて、今の内に姿を晦ますとしよう。一先ずは彼等の空中艦に行くとして、その後は上手く浮遊大陸に……)

 

 

 

 

「…どこに行くつもりかしら?くろめ」

「……──ッ!?」

 

 取り敢えずは何とかなる。今考えるべきは、これから先の事だ。…そう思っていたオレの背に突き刺さったのは、冷淡な声。その一瞬前に感じた気配に、本能的に身体が動き…反射的に避けた次の瞬間、オレがいた場所をねぷっち達の大太刀が鋭く斬り裂く。

 

「な……っ!?」

「わたし達が、みすみす逃す訳ないでしょう?それと……」

「……!もう一人、だと…ッ!?」

 

 身体が自然と後退る中、向けられる斬っ先。再び感じた気配に跳び退けば、今度は真上からの大剣が墓場の地面を叩き割る。

 まさか、と思った。だがまだプロトダークはやられていない。やられていないのに…ねぷっちとブラックハートが、標的をオレへと移している。

 

「……っ…何をしているプロトダークッ!お前の役目は……」

「私達の足止めかしら?…だったらあんたは、私達を過小評価し過ぎなのよッ!」

「この、動きは…ッ!」

 

 オレの声に反応し、プロトダークは二人の対処に動こうとする。だがそれを阻むのは、グリーンハートとホワイトハート。プロトダークの注意が逸れた一瞬の隙に迎撃を突破し、その勢いのままの飛び蹴りで飛ぼうとしたプロトダークの翼を蹴って行動を阻害。

 その間にも、飛び退いたオレへ距離を詰めてくる二人。二人の動きも、向こうの動きも…鋭く、早い。

 

(そうか、今は不安を煽る情報が途絶えた後…ここに来て裏目に出たか……!)

 

 情報は鮮度が命。短期間に出続ければ一気に注意を引き、感情を揺さぶれる反面、情報が途絶えれば人々は冷静になり、どんな衝撃的だった事でも、次第に忘れられる。そして、人々は偽りの情報に踊らされていたと分かった時…掌を返す。

 元々この策は、向こうの出鼻を挫く事が一番の目的。計画全体の進行具合的には、既に潰されても大丈夫な段階には至っていた。だが…今はあまりにも、タイミングが悪い。ここでその反動に直面するのは、不運が過ぎる。

 

「くっ…プロトダーク!もっとだ、もっと薙ぎ払えッ!」

「■ッ……■■ーーーーッ!」

 

 反響によって何重にも聞こえる程の叫びを轟かせ、全身からの迎撃刃を更に激しく、更に遠くへと放つプロトダーク。

 追い詰められている?…いいや、違う。まだ勝機はある。まだ切り抜ける道はある。ある筈だ、ない筈がないんだ。あの非常識な原初の女神の攻撃からも形はどうあれ凌いだこのオレが、ここまで来て、こんなところで、負けるなんて……

 

「…………ぁ…」

 

 背後から二人を襲う迎撃の波。それを縦横無尽な機動で避け、躱し、再び二人がオレに接近した次の瞬間……オレの右腕と左脚へそれぞれ走る、鋭い痛み。大太刀と大剣。二振りの刃が、それぞれの得物が、浅いながらもオレの身体を捉えて……

 

 

 

 

 

 

──負ける、のか…?ここまで来て、こんなところで…まだ、何も果たせていないまま…終わる、のか…?

 

 

 

 

「…ぁ、ああ…ぁああああああああああッ!来るなッ!来るなぁああああッ!!」

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!オレはまだ、ここで終われない。これじゃあ同じだ。全く予想もしない形で追い詰められて、オレは何も間違ってなんかいない筈なのに否定されて終わるなんて、あの時と何も変わらないじゃないか。それが認められなくて、認めて良い筈がなくて、世界がより正しい形になるように、皆の為に、オレはここまで来たのに…なのにッ、なのにッ!

 

「無駄よッ!諦めなさいッ!」

「誰が、諦めるものか…!オレは悪くないッ!オレは悪くないんだッ!!だからオレがッ、オレがぁぁッ!」

「……っ…援護して、ノワール…わたしが、終わらせる…ッ!」

 

 無数に転がるガラクタの山。それを手当たり次第に浮かせ、放ちながらオレは叫ぶ。

 何故だ、どうしてオレはこんなにも動揺しているんだ。恐怖している?負ける事に、終わる事に、オレの正しさを証明出来ない事に。……いいや違う、違う違う違うッ!オレは負けない、オレは終わらない、オレはオレの正しさを証明するんだ!証明するんだッ!じゃなきゃッ、オレは…()()()は……ッ!

 

「…もしかしたら、本当に何か事情があったのかもしれないわね。だから…ここから先は、また後で聞かせてもらうわ」

「ひ……ッ!」

 

 瓦礫、残骸、ゴミに鉄屑。その全てを掻い潜り、翼と刃を煌めかせ、宙からオレへ迫るねぷっち達。背後からのエネルギー刃はノワールに叩き落とされ、プロトダークはグリーンハートとホワイトハートに足止めされ…もうねぷっちを止めるものは、何もない。

 反射的に後退る。その拍子に躓き、がくんと身体が下に崩れる。そしてねぷっちの姿は…もう目前。

 視界が歪む、思考がぐちゃぐちゃになる。それでもまだ終われない、終わりたくない。だから闇雲に、石でもボタンでも何か分からない破片でも、届く物全てを放って、投げて、……だけど、気付けばねぷっちは得物を振り上げていた。それを見た瞬間、オレは最後に自分が何を放ったのかも分からないまま、反射的に目を瞑り……

 

 

──けれど、そこからは何も起こらない。痛みも、衝撃も、何一つとしてオレを襲うものはなく……オレはゆっくりと、目を開ける。

 

「……っ…」

 

 恐る恐る開いた瞼。そこには未だ、ねぷっちがいる。ねぷっちは大太刀を振りかぶったままで…なのに、動かない。一歩も、一振り足りとも、行動に移さない。

 一瞬、訳が分からなかった。だけど…そのまま見続けていたオレは、気付く。ねぷっちが…震えている事に。

 

「……ぁ、あ…あ、ああ…ぁ……」

「…ねぷ、っち……?」

 

 血の気が引き、息を詰まらせ、根源的な恐怖を呼び起こされたかのように震えるねぷっち。何かが現れた訳ではない、怪我を負った訳でもないにも関わらず、酷く怯えるねぷっちの姿。更によく見れば、ねぷっちの腕にはボロボロのコードが…恐らくはオレが最後に放った、何の力もない廃品が巻き付いていて……

 

「…い、や…いやぁああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 暗く陰湿な墓場の中で、耳をつんざく悲鳴が響いた。怯え、恐れ、半狂乱になったねぷっちの、信じられない程の絶叫が響く。

 

(…一体、何が……)

 

 絡み付いたコードを振り解く事もせず、ねぷっちの手から大太刀が落下。だがそれにすら気付かない程、ねぷっちは怯えていて…唖然とした顔で駆け寄ったブラックハートもまた、ねぷっちに向き合った瞬間動きが止まる。そうしてねぷっちが倒れ、ブラックハートが震えながら後退った時……漸く俺は、理解した。ねぷっち達が、一体何に怯えているかを。

 

「…は、はは…そうか、そういう事か……」

 

 ゆっくりと立ち上がったオレは、振り返る。振り返り、瓦礫の山から別のコードを何本か見つけ…それを射出。オレの動きに気付きもしないブラックハートへ巻き付かせ……彼女もまた、ねぷっちと同様の恐慌状態へ陥れる。

 ああ、そうだ。やはり、間違いない。犯罪神を利用する為の情報収集をする中で、ある時オレは知った。嘗てねぷっち達四人は、この墓場で捕らえられていた事があると。いつ死んでもおかしくない、死んでいなければおかしい程の瀕死状態のまま、無数のコードで吊るされ、アンチシェアクリスタルによって長い間シェアエナジーを吸われ続けた過去があると。

 そして今、その時と同じこのギョウカイ墓場で、同じようにコードが身体は絡み付いている。今回は、容易に引き千切れるような状態だとしても……この二点だけで、十分過ぎたんだろう。…トラウマの、フラッシュバックを引き起こすには。

 

「…あ、あぁ…そん、な……」

「止、めろ…ネプテューヌと、ノワールを離しやが……」

「…プロトダーク」

 

 二人の状態に気付き、そこから自らのトラウマを喚起され、茫然とするグリーンハートとホワイトハートを、プロトダークは腕の一振りで撃墜。落ちた二人へもコードを絡ませ、二人も戦意も奪い去る。

 初めにフラッシュバックを起こしたねぷっちは、気付けば意識を失っていた。他の三人も、恐慌の末事切れたように気を失い…数分もしない内に、戻る静寂。オレを追い詰めていた、オレを打倒しようとしていた守護女神の四人は地に伏し……この場に立つのは、オレとプロトダークの二人だけ。もうここに…オレを害する事の出来る存在は、いない。

 

「……は、はは…ははははは…そうだ、これこそが正しい…これが、正しい在り方なんだ…!そうさ、オレは勝つんだ…いつだって……ッ!」

 

 自然と口から零れる、乾いた笑い。そうだ、あぁそうだ…まだオレは終わっちゃいない…そしてこの窮地からの逆転こそ、世界がオレを選んだという証拠。

……いいや、違う。世界がオレを選ぶんじゃない…オレが選び、オレが見定め…オレが世界を、変えるんだ。




今回のパロディ解説

・「〜〜但しそれが、最終的な勝敗まで決するとは限らな……」
とあるシリーズに登場するキャラの一人、垣根帝督の台詞の一つのパロディ。台詞的には、直後に負ける事になりますね。くろめはどうかと言えば、見ての通りですが。

・どこぞの天魔王
ドラクエシリーズに登場するモンスター(魔王)の一体、オルゴ・デミーラの事。でもくろめの場合は、(原初の女)神と戦って勝った後ではなく負けた後ですね。

・「〜〜オレは悪くないッ!オレは悪くないんだッ!!〜〜」
テイルズ オブ ジ アビスの主人公、ルーク・フォン・ファブレの代名詞的な台詞の一つのパロディ。実はこのネタ、何気にパロディ以上の意味があったりもします。

・「〜〜そうさ、オレは勝つんだ…いつだって……ッ!」
機動戦士ガンダムSEEDに登場するキャラの一人、ムルタ・アズラエルの台詞の一つのパロディ。こちらもその後の展開を考えれば、かなりアレなパロディですね。
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