超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第五話 遺跡の探索と……

 朝カレー。今日の朝食は、朝カレーだった。厳密に言うと、昨日の夜に食べたカレーを寝かせた、所謂二日目のカレーってやつだけど、つまりは単なる残り物のカレーなんだけど…まあ、朝カレーは朝カレー。で、何故昨日の夜にカレーを食べたのかだけど、それは勿論キャンプと言えばカレーだから……とかではなく、二人が普段住んでるガラル地方ではカレーが人気らしくて、そのカレーを私に振る舞いたいという事から。

 そうして食べたカレーは……はっきり言って、凄く美味しかった。木の実をふんだんに使う事には少し驚いたけど…優しい甘さと口の中で広がる旨み、それに食材一つ一つの程良い食感と、限られた料理道具だけで作った物とは思えない美味しさが、二人の振る舞ってくれたカレーにはあった。

 その二日目のカレー(勿論菌が繁殖しないよう対策済み)を食べて、私達は湖を後にした。湖からの気持ちの良い風を受けて進み、今私達がいるのはそこから先の道なき森。

 

「大分進んだなぁ…ブラストに見てもらった限りじゃ、もうすぐ抜けると思うが……」

「ごめんね…女神化出来れば、二人を連れて空から行けるんだけど……」

「って事は、やっぱり女神って飛べるんだ」

「そうだよ。…って、やっぱり?」

「いや、何となく神って飛べるイメージがあって」

「あー。てか実際、神って呼ばれるポケモンは大体飛べたり浮けたりするもんな」

 

 凸凹とした地面を歩いて、よく伸びた木の枝を潜るように避けて、空を行くブラストのナビゲーションに従い進む。当然道の整備なんてされていない、時には背の高い草を掻き分けて進むような道のりだけど、二人共全然歩く速度は落ちていない。…ほんと、旅に慣れてるんだなぁ……。

 

「…っとと、るーちゃん気を付けてね」

「ちるっ」

「…っていうか、るーちゃんも飛べるんだし、空から行っても良いんだよ?」

「ちーる、ちるちる」

 

 うっかりるーちゃんの分の高さを失念した結果、るーちゃんの顔に木の枝がびたーん!…なんて事にならないよう深めに避けた後、私は軽くるーちゃんに提案。

 でも、るーちゃんに飛び立つ気配はない。ここが定位置だもん、とばかりに私の頭へ鎮座している。…まぁ、可愛いから良いんだけどね。

 

「…おっ!」

「うん?どうしたグレイブ、珍しいポケモンでもいたのか?」

「いーや、見えたんだよ。俺達の目的地が、な」

 

 それから数分後、先頭を歩いていたグレイブ君が、不意に何かを見つけたような声を上げる。そしてこちらを振り向き、握った拳から突き立てた親指で指し示す先には……確かにあった。明らかに自然のものではない、大きな茶色の建造物が。

 

『お、おぉー……!』

 

 焦れば凹んでいる場所や木の根に足を引っ掛けて転ぶ。それが分かっている私達は逸る気持ちを抑えながら森を抜け……視界が晴れた瞬間、三人揃って全く同じ声を上げた。

 その建造物…遺跡までは、まだちょっとだけ距離がある。それでも分かる程に、遺跡は大きい。少し変な例えにはなるけど、大型ショッピングモール位はあるんじゃないかって位の古めかしい建造物が、その存在感を放っている。……けど、うん…やっぱり例えとして変過ぎたかも…遺跡の例えに、ショッピングモールって…。

 

「…イリゼ?行かないの?」

「あ…う、ううん行くよ」

 

 不思議そうにこちらを見ている愛月君に声を返し、小走りで先を行く二人を追う。

 ここに、もしかしたら空間を司るポケモン、パルキアが現れるかもしれない。初めは外観に気持ちが向いていた私だけど…段々とここへ来た目的の方へ、可能性へと心が揺れる。期待と緊張、その二つの感情へと。

 

「お疲れ、ブラスト。中に入るには…っと、あっちか」

 

 私達が出たのは、遺跡から見て前方寄りの側面側。ここは立ち入りが制限されてるって話だから、勝手に入る訳にはいかない。という訳でまずは正面側に回ると、私達は門番の様に立っている二人の男の人を発見。その人達も私達に気付いたみたいで、こちらへと声をかけてくる。

 

「おっと、ここから先は立ち入り禁止だぞ」

「こんな所に子供とは…君達、迷子かい?」

 

 遺跡への進路を塞ぐように動くお二人。確かにここは悪路の森に覆われていて気軽に人が来るような場所じゃないだろうし、二人は勿論私だって見た目は少女。この二人の対応は至って当然のもので…さて、どうしたものかな…。信次元なら私が誰か分かってもらうだけで何とかなるけど、ここで女神って明かしてもぽかーんとされるだけだろうし、強行突破は論外だし……。

 

「…どうしよっか。というかそもそも、こうやって止められる事は予想して然るべき事だった……」

「うん?多分何とかなるから大丈夫だぞ?」

「へ?」

 

 初歩的なミスに軽く自責の念を感じながら私が二人に話を振ると、二人は「ま、いつものパターンだよなー」位の表情を浮かべていて、困った様子は一切無し。そしてその反応に私が目を瞬かせていると、グレイブ君が一歩前へ。

 

「ここ、立ち入り禁止って言うのは『普通の人』の場合だよな?」

「あぁ、そうだけど…それがどうかしたのかな?」

「じゃ、これで通してくれないか?」

『これは……』

 

 確認をしたグレイブ君が懐から取り出したのは、何かのケース。それを開くと、中に入っていたのは様々な種類のバッジ。するとそれを見たお二人は表情が変わり…グレイブ君を見る目も変わる。

 

「…失礼したね。まさか、ここまで多くのジムを制覇しているとは…これだけの実力があるなら、子供だからと止める訳にはいかないよな?」

「…まぁ、な。だが、この遺跡は脆くなっている場所が多く、実際崩れている箇所も幾つかある。どうしても入ると言うなら止めはしないが、気を付けて進む事は約束してくれるか?」

「そりゃ勿論。何かあっても、ちゃんと自分達で何とかするさ」

「いやいや、何もないのが一番だからね。それと…昔はともかく、今ここは多くのポケモン達の住処に、家になってるんだ。そこにお邪魔する形になるんだから、襲われた時の反撃は構わないにしても、やり過ぎる事はないようにね?」

「それも勿論」

「……勿論?やり過ぎる事はないように、に対してグレイブが勿論…?」

「五月蝿い、カイリューに破壊光線をしてもらうぞ」

「ひ、人に向けてやるなよ!どこのチャンピオンだ!そして俺も空手王じゃねぇ!後カイリューもいないし!」

 

 敬語でこそないものの、真面目に話すグレイブ君。その後唖然とした愛月君の呟きにさらりと恐ろしい事を言ってたし、私とお二人はそのやり取りに「えぇ!?」…となったけど…ともかく、お二人は私達の立ち入りを許可してくれた。…ジムを制覇、って言ってたし…あのバッジは、ジムを攻略した証…って事なのかな…。

 

「全く…お前の発言のせいで止められたらどうするつもりだったんだ愛月」

「その後のお前の発言の方がよっぽどアウトだっての…って、わぁ…外から見た時も凄かったけど、内側から見るとまた違う……」

 

 遺跡を囲む外壁を通り抜けて中に入ると、広がっているのは長い時を経た事が分かる風化した…けれどそんな状態でも嘗ての威風を感じさせる、広い庭の様な空間。グレイブ君とぶつぶつ言い合っていた愛月君は、それを見た瞬間目を輝かせて、近くの石像らしき物体へと駆け寄り眺める。

 その反応と瞳の輝きは、まるで新発売の玩具を見つけた子供のよう。…こういう純粋さは素敵だと思うし…愛月君って、ちょっと可愛いかも。

 

「これ、やっぱりポケモンを模した像だよな…パルキア?それとも……」

「愛月ー、先行くぞー」

「え?あ、置いてくなって!」

「あはは……」

 

 一方グレイブ君は愛月君程興味がない…というか、ここより中に興味があるのか、ひらひらと手を振りつつ奥の方へ。置いてかれてる事に気付いた愛月君は、慌ててこちらに走ってきて…思わず私は苦笑い。

 そうして庭の様な空間を抜けて、遺跡の屋内へと入る私達。中はひんやりとしていて…けれど所々欠けている天井や壁から外の光が射しているから、思った程中は暗くない。

 

「ち、ちる…ちるぅぅ〜……」

 

 埃っぽい中の環境が気になって仕方ないのか、るーちゃんの鳴き声は何とも不満気。…でもるーちゃん、ここを君の翼で掃除しようとしたら速攻で君の翼は真っ茶色になっちゃうし、何百回どころか何千回洗ってもまだ終わらないと思うよ…。

 

「…そういや、普通に中に入ったが…バトルはどこですりゃいいんだ?」

「さぁ?取り敢えず一通り回れば、それっぽい場所が見つかるんじゃない?捧げ物としてバトルをしてたなら、それ用の場所があるだろうし」

 

 言われた通り脆そうな場所に気を付けながら、私達は通路を進む。流石に迷路みたいになってる…って事はないと思うけど、見落とし易い場所に作られている可能性はあるし、そういう意味でも気が抜けない。

 そんな心理で歩く事数十秒。通路を抜けると、そこには広い空間が広がっていて……肌に感じる、幾つもの視線。

 

「これは…確かに立ち入りを制限するよね…」

「結構レベルも高そうだし、背中を見せたら襲ってきそうな奴もちらほらいるな…愛月、あれ頼めるか?」

「ま、それが一番手っ取り早いもんなー」

 

 姿を現しているポケモンもいれば、隠れているポケモンもいるけど、その殆どが纏っているのは剣呑な雰囲気。中には気にしていない個体もいるし、剣呑と言っても単に警戒してるだけの個体も少なくはないけれど…何割かは、明らかに敵意を向けてきている。

 そんなポケモン達に対して愛月君は策があるのか、グレイブ君と共にボールを宙へ。グレイブ君のボールからは、爬虫類っぽさのある長身で落ち着いた雰囲気のポケモンが、愛月君のボールからは厳つい顔をした竜の様なポケモンが現れ……

 

「グォオォォオオオオオオッ!!」

『……!?』

 

 次の瞬間、愛月君のポケモン…ブーストことギャラドスの咆哮が、広間に轟く。

 ドスンとお腹に響くような、ゾッとするような、ブーストの咆哮。威嚇として発されたらしいその轟音は、狙い通りにこちらへ敵意を向けていたポケモン達を震え上がらせ……愛月君と共に、ブーストは静まり返った広間の中を悠然と進む。

 

「やり過ぎるな、って言われてるしね。戦わずに済ませられるなら、それが一番でしょ?」

「ほんと、こういう事にはブーストが適任だよな。んで、その上で向かってくる相手には……」

「…うぉれおん」

 

 私にとってはびっくりな行動でも、二人にとっては(多分)よくやる事。更にこの後起こる事も想定済みだったようで、臆しなかった、或いは威嚇が悪い刺激になってしまったのか、一体のポケモンが飛び掛かってきた瞬間……早撃ちの如く、グレイブ君の隣を歩くポケモン、インテレオンのウーパがそのポケモンを鋭く撃ち抜く。

 まるでエージェントの様な動きでウーパが指先から放ったのは、高圧水流。手加減したのか撃たれたポケモンに外傷らしきものはなかったけど…そのポケモンはそれ以上仕掛けてくる事なく、広間に繋がっている通路の一つへ消えていった。

 

「ほ、ほんと凄いね二人のポケモンは……」

『(だろ・でしょ)?』

 

 自慢げな笑みと共に、こちらを振り向く二人。咆哮一つで場を支配したのも、微塵も慌てずあっさりと返り討ちにしたのも、本当に凄いし頼もしい。…けど……

 

「ち、ちるぅ…ちるるるるぅ……」

「…でも、出来れば一言言ってからにしてほしかったかな……」

『…おおぅ……』

 

 放たれた咆哮は、当然この広間全体に轟いたもの。そして咆哮というのは、ある種無差別攻撃みたいなもので……それを聞いたるーちゃんは、完全に怯えてしまっていた。思いっ切り私の頭の上で震えてるし…反射的に身を守ろうとしたのか、それとも驚いてつい出しちゃったのかは分からないけどコットンガードを発動した結果、頭の上にいる関係から私がアフロになったみたいになってしまった。

 

「よしよーし、大丈夫だよるーちゃん。あの子は愛月君の友達…友達?…ま、まぁ愛月君と仲良しの子で、るーちゃんを襲ったりはしないからねー」

「あ、そ、そうそうこいつはちょっと乱暴なところもあるけど、勇敢で頼り甲斐のあるやつだからなー!」

 

 アフロのカツラを外すみたいな動きでるーちゃんを抱き抱え、綿を取りつつ撫でる私。愛月君も慌ててブーストと肩を組み(肩ないし、どっちかって言うとヘッドロックみたいになってたけど…)、安全である事をるーちゃんへアピール。当のブーストも何とも言えない表情をしていて…さっきまでの制圧された空気感は何処へやら、今はにょーんとした感じの雰囲気が私達を包んでいた。

 

 

 

 

 遺跡内を住処にする野生のポケモン達どころか、るーちゃんまでビビらせてしまうといううっかり珍事が起きてから十数分後。現在俺達は、遺跡内探索の真っ最中。

 

「うん?これはドータクン…じゃなくて、ただの銅鐸か……」

「ドータ君?」

「…あ、さっきあった壁画、今思えば描かれてたのはスイクンかも…スイクンがシンオウにも現れるのかどうかは知らないけど……」

「スイ君?」

『…ふふっ』

「え、何?何を笑ってるの…?」

 

 きょとんとしているイリゼの勘違いに、軽く笑ってしまう俺達二人。スイ君は…うん、実際そういうネタあるよなぁ…。

 

「うぅん…あ、そうだ。まずは会えなきゃ始まらないけど、現れてくれた場合の事も考えておかなきゃだよね」

「どうやったら信次元に送ってくれるか…って事か?」

「そういう事。物凄く親切な性格なら良いんだけど…」

「同じ神同士、通じ合ったり…って事は?」

「うーん…そもそも私パルキアの事そんなに知らないし、それについては何とも言えないかな…」

 

 愛月から訊かれたイリゼは腕を組み、考えるように軽く頭を傾ける。どうやらイリゼは、現れてくれた場合の事を色々と考えている様子。

 

「ま、何とかなるだろ。もし現れたなら、それはきっとバトルを楽しめたって事だろうし」

「またグレイブは適当な事を言って…。…こういう時は、神話を参考にパルキアの好みを……と、思ったけど…駄目だ、神話で好みなんでまるで語られてなかった気がする……」

「そっか…せめて私が女神化出来れば、愛月君の言う『同じ女神として』交渉が出来たりするかもしれないけど……」

「…女神化…森でも言ったよな。もしかしてイリゼは、女神に変身出来る人間、って事なのか?」

「あ、ううん。むしろ逆で、人間の姿になれる女神なの、私…っていうか、信次元の女神は。だから『女神化』じゃなくて『人間化解除』がより正しい表現で…えっとね……」

 

 まるで女神に変身する能力があるみたいな言い方をするイリゼが気になって訊いてみると、そうではないとイリゼは否定(後で聞いたが、人の姿の方がシェアエナジーという力の源の消耗が少なくて済むから、普段は人の姿を取っているらしい。ゼルネアスのリラックスモードみたいなものなんだろう)。続けてイリゼは携帯端末を取り出し、その場で一度立ち止まる。

 

「……何か探してるのか…?」

「みたいだな。何だろう……」

「…あ、あった。二人共、これはちょっと特殊な場面の物だけど…これが、私の本来の姿だよ」

 

 操作を続けるイリゼを待つ事十数秒。目当ての物を見つけたっぽいイリゼは画面をこちらへと向け、俺達にある写真を見せてくれる。

 そこに写っているのは、複数人の女性。全員が全員、凄く美人で…その中の一人、真っ白い髪にスタイル抜群の身体をした女性を、イリゼは指先で指し示している。

 びっくりした。そりゃあもう、びっくりするに決まっている。そして驚いたのは愛月も同じだったらしく、顔を見合わせた俺達は…言った。

 

『…え、アイドル……?』

「うん、アイドル。…あ、ち、違うよ!?そういう活動もした事があるってだけで、本職がアイドルって訳じゃないからね!?」

 

 誤解されちゃ困るとばかりに訂正をかけてくるイリゼ。…な?ステージでマイクを持って歌ってるっぽい、ふりっふりの衣装を着た女性の写真をいきなり見せられたら、誰だってびっくりするさ。

 

「…にしても、他の人の姿も写ってるとはいえ、イリゼは自分の写真を持ってるのか……」

「変かな?自分のブロマイド作っちゃう学園長とか、若い頃の母親の写真持ち歩いてる電波ヒーローに比べれば、まだ普通じゃない?」

『比較対象が特殊過ぎる……』

「あはは、なんてね。…思い出は、ちゃんと形にして残しておきたいんだ。それにこれ、自分を撮ってるんじゃなくて、あくまで皆と写ってる写真を拡大しただけだからね」

 

 確かによく見れば、その写真は拡大されている状態。イリゼが元のサイズに戻すと、写っていなかった他の人の姿も写真の中に見えてくる。…それにしても、アイドルみたいな活動もする事がある女神、か…ジムリーダーや四天王、チャンピオンなんかも人によっては別の仕事と兼業だったりするし、それと似たようなものなのかもな。

 

「さてと、足を止めさせちゃってごめんね。まだ回り切れてないし、探索を続けよっか…って……」

『……?』

「現れてくれた場合の事、何にも進んでないぃぃ……」

「ちるちる」

 

 ずーん、と落ち込むイリゼをるーちゃんが(多分)慰めながら、俺達は移動再開。一本道の場合は取り敢えず進み、分かれている場合は行って戻ってを繰り返し、遺跡内を巡っていく。

 けどまぁ、やっぱり探索は一筋縄じゃいかない。単純に広いってのもあるし、地図もないし、何より……

 

「…っと、またか……」

 

 角を一つ曲がったところで、歩みを止める俺等三人。俺達が進もうとしていた通路の先は崩れていて、瓦礫で完全に進めなくなってしまっていた。

 

「…この瓦礫、ぶっ飛ばしたら……」

「多分周りも崩れて、最悪この遺跡そのものが潰れて、本気で取り返しの付かない事態になるだろうね」

「だよな…はぁ、また引き返さなきゃならないのか……」

 

 ジムを(勝手に)改造した事もある俺だが、流石にポケモン達の住処にもなっている遺跡をぶっ壊すのは気が引ける…というか、町で聞いた噂がマジで真実になってしまう。だからくるりと反転し、来た道を引き返そうとした…その時だった。

 

「…うん?いま、何か音が……」

「音?音って、何の?」

「うん、確かにしたね…こっち、かな…」

「え、イリゼまで…?」

 

 不意にどこかから聞こえた、何か物々しい音。遠くでぶつかるような、響くような、重低音が聞こえてきて…イリゼも聞こえたというなら、きっと俺の聞き違いでもない。

 その音がしたのは、さっきまで左、今は右側となった壁の方。だが壁に耳を当ててみて…気付く。この音が聞こえてきている、本当の方向に。

 

「…いや、違う…これは多分、上だ。上の階で、何かが起きてる」

「上…確かにこれだけデカい遺跡なら、二階や三階があってもおかしくない…っていうか、なきゃ天井の高さと合わないもんな。…っと、俺にも聞こえてきた……」

「音源が近付いてきてるね…これもしかして、上の階で何かが戦ってる…?」

 

 親指と折り曲げた人差し指を顎に当てて考えるイリゼに、俺は首肯。天井を隔てているせいで種類の特定は出来なかったが、ポケモンの鳴き声らしきものも聞こえてきている。

 思い返せば、町で得た情報の中には気性の荒いポケモンも少なくない、というものもあった。だとすれば、俺達の様な普段はいない存在の有無なんて関係無しに、餌か何かを争うポケモンがいてもおかしくはないだろう。

 

(まー、人だって喧嘩したり争ったりするんだから、ポケモンだってそういう事するよな。まあでも、違う階でやってる事なら関係な……)

 

…と、結構呑気してた俺。だがふと気付く。ここは長い時間の中で脆くなっている場所も多い遺跡で、現にこの通路は途中で崩れてしまっている。つまりこの遺跡において『崩れる』という事態は過去ではなく今も起こり得る危険であり…音からして、争っているポケモン、或いはポケモン達は、かなり激しくぶつかっている。そして何より、その場所は上階。すぐ側に崩れた跡がある場所の上で、全員の耳にはっきり聞こえる位の戦いが巻き起こっている。

 これは不味い、あまりにも不味過ぎる。…そう思った、次の瞬間……一際大きな音と共に、天井が崩落する。

 

『……──ッッ!!』

 

 崩れる天井。落ちてくる天井だった物。反射的に俺は愛月の腕を、イリゼは頭の上のるーちゃんを掴んでその場を跳び退き、間一髪崩落してきた天井に押し潰される事を回避。

 だが、来た道側に跳び退いた俺に対し、イリゼが跳んだのは行き止まり側。丁度俺とイリゼの間辺りで崩落が起きた事を考えれば、回避に必要な距離的にそちらを選ぶのは間違っていないが……その結果イリゼとるーちゃんは、二つの瓦礫に挟まれてしまう。

 

「……っ、イリゼッ!大丈夫!?」

「だ、大丈夫!?愛月君とグレイブ君も無事!?」

「無事だ!すぐそっちに行く!」

「待って!崩落が収まるまでは、下手に動かない方が……きゃあぁああああああぁぁッ!?」

『イリゼ!?』

 

 弾かれたように叫ぶ愛月の言葉に対し、すぐ返ってきたイリゼの回答。それにほっとした俺は次の行動を起こそうとしたが、それをイリゼに止められる。

 確かにその通り、この崩落で連鎖的に別の場所も…となる可能性はゼロじゃない。慌てて動いてそれに巻き込まれたら、目も当てられない。イリゼの判断は正しいし、すぐそう返せた事からこういう非常事態や緊急事態に慣れているんだな、とこの時俺は改めて思った。

 そして実際、イリゼの予測は正しかった。まるでそれを証明するように…積み重なりつつある瓦礫の向こうから、イリゼの悲鳴が響き渡る。

 

(まさか……)

 

 聞こえた数瞬後には小さくなっていくイリゼの悲鳴。その事から一つの可能性が思い浮かんだ俺は壁に見つけた小さな穴に足を引っ掛け、天井すれすれの場所まで跳躍。ほんの一瞬、積み重なりつつある瓦礫よりも俺は高い位置に到達した事で視界が開け……その時見えたのは、イリゼもるーちゃんもいなくなっていた空間。その空間の下、床があった場所には……底の見えない、大きな穴が開いていた。




今回のパロディ解説

・「〜〜カイリューに破壊光線〜〜」
ポケモンシリーズの一つ、金銀クリスタル(又はハートゴールドソウルシルバー)における、あるシーンのパロディ。愛月の突っ込みから、原作を知る人なら分かると思います。

・自分のブロマイドを作っちゃう学園長
落第忍者乱太郎(忍たま乱太郎)に登場するキャラの一人、大川平次渦正の事。このキャラ自体を知っている人は多いと思いますが、本名は知らない人の方が多い気がしますね。

・若い頃の〜〜電波ヒーロー
流星のロックマンシリーズの主人公、星河スバルの事。このネタが分かった方は、ほぼ間違いなく『ユーモアワード』を装備したユーザーでしょう。

・結構呑気してた俺
ジョジョシリーズの一つ、第二部の戦闘流潮におけるナレーションの一つのパロディ。別に名台詞でもなんでもないですが、妙に覚えているんですよね、これ。
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