超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百八話 侵食する悪夢

 ぼやける視界に広がるのは、暗く灼け付くような光景。大地は荒れ、緑はなく、見えるのは岩と瓦礫ばかり。聞こえるのも、どこかで響く地鳴りだけ。

 この場所を、わたしは知っている。ここを、わたしは覚えている。──ここは、ギョウカイ墓場。犯罪組織に負け、わたし達が捕らえられている…この世の終わりのような場所。

 

(…どれだけの時が、経ったのかしら…わたしは、いつから…ここに……)

 

 靄がかかったように、記憶がはっきりと思い出せない。けどそれも、仕方のない事。プロセッサで傷を無理矢理にでも覆わなければ、身体がバラバラに砕けてもおかしくない程の重傷を負った状態で、ずっと宙に拘束されているんだから、頭がまともに働く訳がない。

 それに、頭だけじゃない。手も、足も動かない。もう痛みはなく、全身に感じるのは冷たさだけ。指先、足先はいつからか、感覚すらない。

 

「…ぁ…ぅ、ぁ……」

 

 声も、掠れる。目も、耳も、鼻も、肌も…全ての感覚が、もう鈍い。否定しようのない程に…わたしの身体は、死に瀕している。女神が、普通に死ぬのかは分からないけど…もう生命活動と呼べるものの大半が、まともに機能していない。

 だけど、まだ終わってはいない。わたしはまだ、生きている。だったらまだ、この意識を手放す訳には……

 

「…ぁ、ぇ……?」

 

 そう思った時、視界に映ったのは複数の影。ゆらゆらと揺れるそれは…人のもの。

 一瞬、イリゼ達が助けに来てくれたのかと思った。だけど、違う。段々と近付いてくるその影の歩みは、あまりにも覚束なく…やっと見えた顔にも、見覚えはない。

 

「…あ、あぁ…ぁぁあぁ……」

「……っ…!」

 

 結界をすり抜け、内側へと入ってくる名も知らない男性達。そうなった理由は分からない。けれど、本能的に理解した。開き切った瞳孔に光はなく、半開きの口からは呻き声の漏れ、生気のない表情を浮かべる彼等は…負のシェアエナジーに、汚染されていると。それも精神に悪影響が及んでいるなんて生易しいものではなく、今の彼等は内側も隅々まで飲み込まれ、生ける屍同然の状態。

 その姿を見るだけで、心が締め付けられた。酷い、あまりにも酷い状態。彼等がされたのは、人への、命への冒涜に他ならない行為。だけど今のわたしは、彼等へ何もしてあげられない。救ってあげる事が出来ない。

 胸を刺す無力感。何も出来ない、見つめる事しか出来ない中、更に彼等はわたし達へ近付き…その瞳にわたし達の姿が映った瞬間、様子が変わる。

 

「…め、がみ…あぁぁ…女神、女神…女神ぃぃ……!」

「な、に…を…きゃっ……!」

 

 空虚だった心へ一つの感情が灯ったように、突然彼等の目の色が変化。幾日も砂漠を彷徨った末にオアシスを見つけたように、その目は飢えと渇きに染まり……その内の一人に、掴まれる。掴まれ、迫られ…舐められる。

 訳が分からない。理解が追い付かない。ただ、本能的に恐怖を感じ…けれど身体は動かないまま。

 また、舐められる。頬を、顎を、首を、胸を、次々何度も舐められ嬲られ、女性としての怖気が募る。怖い、怖い、怖い怖い怖い……ッ!

 

「女神、女神、女神女神女神女神女神女神女神女神女神女神ぃぃぃぃ……っ!」

「ひ……っ!」

 

 負のシェアエナジーに汚染され切った身体が、本能的に対極の性質を持つ正のシェアエナジーを求めているのかもしれない。そう気付くと同時に、わたしはわたしの身を包むプロセッサユニットを裂かれる。傷を覆う部位諸共、指を引っ掛け、破くように剥ぎ取られる。

 露わになる胸、噴き出す血液。恥辱と苦痛が同時に走り、その胸も、その血も傷も舐められる。舐められ、飲まれ、噛み付かれる。

 激痛が駆け抜け、吐き気が駆け登り、あまりの事に視界が歪む。意識の糸が解けていく。その中で彼は荒い息と共にわたしの背後へと回り、臀部のプロセッサユニットも裂き、そして……

 

「…い…や……いやぁああぁぁぁぁああああああッ!!」

 

 

 

 

…………。

 

 

………………。

 

 

……………………。

 

 

 

 

「……っ!…ぅ、ぇ……?」

 

 目が、覚める。寝ていた覚えはない。意識を失っていたようにも思えない。だけど確かに、今のは目が覚めた感覚。そして、今わたしの側にいるのは…ノワール達、三人だけ。

 

(…夢……?)

 

 まるで実際にあった事のような、鮮明な記憶と感覚。けれど、『彼等』はいない。プロセッサもそのままで、何かあった形跡は何もない。

 現実としか思えない感覚に、夢だったとしか思えない状況。けれど、そもそも…意識を失っていたのなら、もうその時点で死んでいる筈。

……分からない。どっちが真実なのかも、どういう事なのかも。

 

「…そう、だ…皆…今、何か……」

 

 わたしには分からない。だけど皆は、何かに気付いているかもしれない。そう思ってわたしは震え掠れる声を絞り出し、皆に向かって問い掛ける。

 でも、それに反応はない。待ってみても、答えとなる声が返ってこない。

 

「…皆……?」

 

 もう一度呼んでみる。けれどやっぱり、誰の声も聞こえない。

 おかしい。皆も近くにいる筈なのに、声だって聞こえる距離なのに。なのに何も、誰も返してくれないって事は……

 

(…ま、さか……)

 

 頭の中に浮かぶのは、最悪の可能性。背中に氷を突き刺されたような怖気が走って、焦燥感が心を襲う。悪い想像ばかりが、思考を覆う。

 怖い。返事のない理由を、確認するのが。見たくない。真実を、現実を。だけど、見ずにはいられない。目を逸らす事が出来ない。恐怖が膨れ上がり、視界が震え、それでもわたしは必至の思いで身体を振り向かせ……次の瞬間、何かが落ちる。

 

「……う、ぇ…?」

 

 べちゃり、という濡れた音を立て、生命を生み出す力を失ったような地面へと落ちた何か。反射的に、わたしはその落ちた何かを目で追い…けれど落ちたそれを見た時、一瞬何なのか分からなった。

 赤黒い、べったりと濡れた何かの物体。じわりと地面に赤い水溜まりを作るそれは……肉。千切れたような、崩れ落ちたような…腐食の進んだ肉片。

 

「……──ッ!!?」

 

 心が潰れそうな位に引き絞られ、あまりの怖気で声が出ない。肉片の本来あった場所を、本来繋がっていた筈の身体を見るのが恐ろしくて、目線を上に戻せない。

 そんなわたしの目の前で、更に落ちる別の肉片。違う位置から一つ落ち、また一つ落ち……次第に脱落する肉片の中に、肌が、骨が、内臓が混じる。そこに張り付いたプロセッサの破片で、それぞれの()()()()()()()が誰のものなのか分かってしまう。

 

「…あ、ああぁ…皆、皆……ッ!」

 

 張り裂けるような恐怖は限界を超え、弾かれるように顔を上げるわたし。同時にわたしは、縛られ動きもしない右腕をそれでも皆へと伸ばそうとし……

 

「……ぁ…?」

 

──何かが千切れる音と共に、途端に腕が軽くなった。腕が動くようになった。

 だけど、何かおかしい。まるで拘束から外れたように、動くようになった腕。酷く軽い、わたしの右腕。違和感だらけのまま、わたしの右腕は皆へと伸ばされ……だけど、無く。肘から先、そこにある筈の手が……無くなっている。

 

「…ぁ、ぎ…ぃ……っ?」

 

 その意味を、その理由を頭が理解するよりも早く、がくんと下がる上半身。同時に左腕も軽くなり……いや、違う。左腕は、軽いなんてものじゃない。肩から先に、一切の重さを感じない。

 その間も、散発的に聞こえ続ける脱落音。同時に意識が薄れ、掠れ、何も感じなくなり……ぐるりと視界が、回転する。

 最後にもう一度だけ、聞こえた音。後頭部に走る、鈍い衝撃。そして……

 

 

 

 

 

 

──もう動きもしない視界の中に映っていたのは、左腕が無く、右腕も肘から先が脱落し、ただの肉塊同然となった…………首の無い、死体だった。

 

 

 

 

 登っている?落ちている?…分からない。ただ、どこかから意識が引き戻され……目が覚める。

 

「ぅわぁああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 耳を覆いたくなるような、そして耳を劈くような絶叫。それが響いてから、その絶叫が自分のものであると気付く。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…うッ……」

 

 酷い動悸に荒い息。でもそれは、今の絶叫だけが理由じゃない。それは、わたしを追い詰めているのは……

 

「おはよう、ねぷっち。目覚めはどうだい?」

 

……あの時の再現をするような、痛んだコードに縛られた身体。幾度も見ている、見せられている悪夢。そして…くろめ。

 

「…見ての通り、最悪よ……」

「まあ、そうだろうね。けど安心するといいよ。別にオレは、君を殺そうとは思っていないからね」

 

 聞くまでも無さそうな問いに対し、恨みを込めて言葉を返す。

 出来る事なら、余裕たっぷりに、煽り返す位の調子で言い返してやりたかった。でも今のわたしに、そんな余裕はない。正直、覇気のない声と睨みを返すのが精一杯で……怖くて怖くて仕方ない。一度自分の状態を確認してからは、自分の身体を見る事も出来ない。…見れば、より鮮明に思い出してしまうから。あの時の事を、忘れられないあの恐怖を。

 

「…何が、目的よ…どうして、こんな事を……」

「残念だけど、それはまだ話せないね。けど…うん、流石は当代のパープルハート。まだ闘志も気力も途切れていないか」

「…………」

 

 顎に親指と人差し指を当て、感心したように頷くくろめ。…やっぱり、それを見ても憎らしさや怒りは湧いてこない。今のわたしの心は、わたしという自我を守るので精一杯で、憎しみや怒りを抱く事すら出来やしない。

 

「…なら、皆は…皆は、どこ…?皆も、わたしと同じように…している、訳……?」

「さて、どうだろうね?」

「……皆に、もしもの事があったら…ただじゃ、おかないわ…」

「…へぇ、まだそんな顔が出来るとは。うん、君なら…君達なら、やっぱり……」

 

 それでも、わたしには皆がいる。わたしがまだ生かされてるって事は、ノワール達も同じな可能性はあるし…皆の事を思えば、もう少しだけ耐えられる。

 そんなわたしを見て思うところがあったのか、くろめが浮かべる小さな笑み。それからくろめは、わたしに近付き…頬に、触れる。

 

「…だけどまだ、今はその時じゃない。もう少しだけ、君の心には沈んでもらわなくちゃならない。だから…今暫くお休み、ねぷっち」

「……っ…覚えて、なさい…わたし達は…わたし達、女神は…絶対…に……」

 

 その手から引き摺り降ろされるように、解けていく意識。薄れ、霞む意識にわたしは抗えず……最後に見えたのは、どこか遠い目をしたくろめだった。

 

 

 

 

 力が抜け、オレの手から滑り落ちるねぷっちの顔。底無し沼の様な眠りへと落ちたねぷっちの身体は、操り手のいなくなったマリオネットのよう。

 

「…本当に、大したものだ。どれだけ時代が変わっても、女神の本質は変わらない…という事かな。…彼女のように、例外はあるだろうけど」

 

 オレが見に来たのは、ねぷっちで四人目。あの時、世界がオレに従ったと言っても過言じゃない起死回生によって窮地を脱し、守護女神の四人を捕らえる事に成功したオレは、ある事を思い付いた。そしてそれを実現する為に、少しねぷっち達には苦悶を感じてもらっている。

 けれど本当に、驚いた。ねぷっち達は今、何度も心を嬲り殺しにされているようなものなのに…まだ誰一人として、折れていない。端から最後の一手で決めるつもりで、ここまでは謂わば溜めの段階とはいえ…素直にオレは、四人の精神力を尊敬している。

 

「…けれどこれでも、絶望には一家言あるからね。これ以上苦しみたくないのなら、早めに……」

「くろめ」

「……!?」

 

 部屋からの去り際、聞こえていない事は承知の上で呟くオレ。それから最後にもう一度、ねぷっちの顔を見ようとし……その瞬間、オレは声を掛けられる。オレからすればより先に知り合った、女神ではない…もう一人の、ねぷっちに。

 

「え…っと、ごめん。誰かとお話ししてた…?」

「…いや、ただの独り言だよ(…聞こえてはいなかったようだね…)」

 

 内容までは聞こえずとも声を発していた事には気付いたのか、ねぷっちが浮かべるのは済まなそうな顔。その反応に内心安堵しつつも、俺は表情を変えずに答える。

 

「そう?それなら良いんだけど…って、違う!全然良くないよくろめ!」

「…何か、不味かったかい?」

「もう一人のイリゼの事だよ!情報を引き出すだけって言ってたのに、何勝手に挑発して、勝手にバトル始めちゃって、しかも負けてるの!?わたし気が気じゃなかったんだよ!?」

「それは……」

 

 珍しく明確に怒った顔をするねぷっちに、思わずオレは面食らう。まさかこの事について、怒られるとは思っていなかったから。そして、しれっと『負けてる』と言われた事には、些かカチンともきたが…その直後の言葉で、すぐにオレは思い直す。

 

「…済まない、確かに結果から言えば、オレは彼女の力を見誤っていたようだね。けど…心配してくれていたのか、ねぷっち」

「当たり前じゃん…わたし達は友達なんだよ?」

 

 心配していた、友達なんだから。何を当然の事を、とばかりにそう答えるねぷっちの表情は柔らかく、その言葉に疑う余地は一片もない。…ねぷっち、君のそういうところなんだよ。オレが信頼しているのは。かなり癪な結果にはなったが、こうなったのは自己責任だと思われても無理はない。でも、それでも心配してくれた君の事を…オレも、本気で友達だと思ってる。…と、言うのは少し恥ずかしいから、胸の内に秘めさせてもらうけど、ね。

 

「…それと…さ、くろめ。…くろめだよね?ちっちゃいわたし達を、攫ったのは」

「あぁ。……不満かい?オレが、こういう事をするのは」

「不満、っていうか…ネプギア達、すっごく心配してるし、正直……」

「…そういう事をされると、オレを信頼出来なくなる、と?」

「そ、そういう…訳じゃ……」

 

 投げ掛けた問いに対して、言い辛そうに口籠るねぷっち。でもまあ、無理もない事。…少し、意地の悪い質問をしてしまったかな。

 

「ねぷっち。前にも言ったけど、オレはこの次元をより良く、より正しく、皆が幸せになれるようにしたいんだ。でもオレの目指している世界は、女神のねぷっち達が守ろうとしている今より先にある以上、中々理解はしてもらえない。…故に、オレには君が必要なんだ。オレの理想を理解してくれる、女神のねぷっち達とも上手く付き合える、優しく明るく、けれどきちんと本質を見られる、ねぷっちが。…だから、もう少しだけ…オレに協力してくれないかな」

「…そういう言い方はズルいよ、くろめ…そう言われると、わたしがいてあげなきゃ…って思っちゃうじゃん……」

「そう、オレはズルいんだよ。頼れるねぷっちに協力してもらう為なら、情にだって訴えるのさ」

 

 ゆっくりと首を横に振るねぷっちを見て、オレは笑う。あぁ、全くもってオレはズルい。けど同じ事を言っても、レイなら鼻で笑うだけだろう。クロワールも、面白そうか否かという判断から変わったりはしないだろう。あくまで依頼という形のアフィモウジャス達も同様で…ねぷっちだからこそ、オレはこう言っている。そんなところも含めてオレは評価してるんだから、もっと光栄に思ってもいいんだよ?ねぷっち。

 

「…分かったよ、くろめ。けど、わたしにだってわたしの気持ちがあるんだから、これからもネプギア達に協力するよ?」

「それは構わないさ、ねぷっちがオレの計画を破綻させようとしない限りは…ね」

 

 小さく一つ頷いて、ねぷっちは意思の籠った瞳をオレへと向けてくる。その瞳に真っ向から視線を返して、オレも言う。

 その瞬間、ほんの一瞬…ねぷっちの瞳に映った揺らぎ。その意味は…一先ずは、考えないでおこう。何もないのに疑うのは、ねぷっちに悪いからね。

 

「…ああ、それともう一つ」

「な、何?」

「暗黒星くろめ…本当にセンスの良い名前だよ。ありがとう、ねぷっち」

 

 抜群のセンスで良い名前を考案してくれたねぷっちへの、直接のお礼。それを聞いたねぷっちは、意外そうに目を丸くした後にこりと笑い、軽快にここから去っていく。女神のねぷっち達の事を、詳しく訊かないのは…きっと訊いてもはぐらかされる、と分かっているからだろう。

 そう。オレはねぷっちに、色々と隠しながら事を進めている。けどそれもねぷっちの為。オレの様な大望も、レイの様な野望も抱いている訳ではないねぷっちに全てを教えるのは、些か酷だろうからね。

 そうしてオレはねぷっちを見送り、次の行動を考える。向こうはこれといって探す手掛かりを持たない以上、近い内にきっとタリへと来る。であれば、やはり…女神のねぷっち達の事を、最優先にするべきだろう。今度こそ読み違えなく、万全の準備を整える為に。

 

 

 

 

 結論から言うと、クロワールさんの能力で同次元間でのワープ…つまり信次元のA地点と同じ信次元のB地点を繋ぐという事は、出来ないらしい。何故なら次元の扉を開く能力はその通り『次元を超える』力であって、そういえばつい最近も代名詞を聞いた気がする某いたずらポケモンや、某スキマ妖怪と違って、任意の空間二つを繋げる能力ではないから、なんだとか。次元間を繋げられるのに、それより楽そうな同次元間は無理って変じゃない?…とも思ったけど、そもそも空間移動能力が高じて次元間移動も出来るようになった、ではなく最初から次元を超える能力…即ち違う技術な訳だから、難しい易しいの問題ではないとの事。

 でもじゃあ、その能力で浮遊大陸には行けないのか…というと、答えは否。単純な話として、一度別次元なりそれに準じる空間なりを経由してから、改めて浮遊大陸を目的地に信次元へと移動すれば良いんだから。一度大きいネプテューヌから申し出てくれた事からも分かる通り、多少手間がかかるだけで普通に出来る手段らしい。一つ懸念事項があるとすれば、まだ次元の壁が正常には戻り切ってないって事だけど…今は二の足を踏んでいられる状況じゃない。

 そういう判断を以って、私達は浮遊大陸への二度目の侵入作戦を立案した。こっちの目論見を気取られない為の下準備も終えて……今私達は、浮遊大陸の大地を踏む。

 

「…これが、浮遊大陸の内側……」

「こうして生で見ると…やっぱり、自然が豊かね……」

 

 信次元に『戻る』という形で次元の扉を抜け、初めに声を上げたのはネプギア。それにユニも同意して、他の皆も周囲を見回す。

 

「皆、油断しないでね。大陸の外縁だけじゃなくて、内側にも迎撃設備はあるんだから」

「はーい。にしてもさ、まあまあの大所帯になったよね」

 

 ここは敵が用意した大陸なんだから。その意図を込めて私が言うと、大きいネプテューヌが肩を竦める。

 そう、今回浮遊大陸は私と女神候補生の四人、大きいネプテューヌに加えて、一連の事態の最中に信次元へ来た三人とその相棒(?)達、通称第三期パーティーメンバーの皆も来ている。確かに人数的に言えば(お肉とか謎の生命もいるけど)これまでの旅と同じ位の規模で、基本一人旅の多かったらしい大きいネプテューヌからすれば、こういう二桁メンバーでの行動には色々感じるものがあるんだと思う。

 

「確かにそうね。けど、それにも理由があるんでしょう?」

「あ、うん。今回こういうメンバーにしたのは……」

「…見せ場のよーい?」

「…テコ入れ?(きょとん)」

「そうそうこうでもしないと原作じゃ基本本編に絡まなかった三組が空気に…って違うよ!?違うし、二人共どんな視点で言ってんの!?」

 

 ニトロプラスからの問いに私は答え…ようとする最中、何故かぶっ込まれた無自覚メタ発言。まさか大きいネプテューヌではなくロムちゃんラムちゃんからそういう発言が飛び出してくるとは思っておらず、勢い余って謎のノリ突っ込みをしてしまった。しかもそれが引き金で、第三期パーティーメンバーからは「えっ、まさか本当にそんな理由で…?」的な視線で見られてしまい…ほ、ほんとに違うからね!?

 

「こ、こほん。そうじゃなくて、まだ皆は各国での地理について分からない部分も多いだろうし、ならこっちの方が力を発揮し易いかな…と思ったからだよ…。あまり長居はしたくないから、出来ればパーティーメンバーからも何人か来てもらって、捜索の手を増やしたい、とも思ってたし…」

「そ、そういう事だったんですね。確かに同じラステイションでも私のいた次元とは少し地理が違いましたし、助かります」

「…でも、ごめんね。女神としては、皆を元の次元に帰してあげる事を考えなきゃいけないのに……」

「なに、プラネタワーで世話になった恩がわたし達にはある。それにわたしは勿論、皆もこの状況で、自分が帰れればそれで良い…とは思っていないと思うぞ?」

 

 自分の意思で信次元に留まってくれている旧…じゃないや、第一期パーティーメンバーと違って、ミリアサちゃん達は事故で来てしまっただけ。だから帰る手段があるなら真っ先に帰してあげなきゃいけないのに、協力を頼んじゃって悪いな…と思っていた私だけど、それに対してミリアサちゃんははっきりと否定。そして、ゴッドイーターとニトロプラスもすぐその発言へ頷いてくれて……感謝しないといけないよね、皆の善意と優しさに。

 

「…それじゃあ、行きましょう皆さん。イリゼさん、案内お願い出来ますか?」

「任せて。…と、言いたいところだけど…前とは地点が違うし、今回は陸路だから、期待はし過ぎないでね…?」

 

 前にもう一人の私が入っていた施設へ着くまでに、敵に見つかってしまったら話にならない。だから今回は前に私が突破したのとは別方向からの侵入で、目立たないよう飛行もしない。

 という訳で、私達は移動開始。警戒しつつも早めのペースで、大陸中央へと向かって進む。

 

(…やっぱり、ここに来ると不思議な感覚になる…でも、何でだろう…皆にはそんな素振りないし……)

 

 道中私が抱くのは、前に来た時と同じ、居心地の良さと悪さが混じったような感覚。具体的に何がとは言えない、何となくとしか言いようのない…でも確かにある、不思議な気持ち。

 それについて考えながらも、進む事十数分。少し景色が変わってきたな…と私が思っていると、不意にロムちゃんが足を止める。

 

「……?ロムちゃん、どうしたの?疲れちゃった?」

「ううん…えっとね、このはっぱ…見たことある、気がするの……」

「葉っぱ?そりゃまぁ、見た事ある葉もあるでしょ」

「ちがうの…そういうことじゃなくて…えっと、ラムちゃんは、わかる?」

「え?んー…あ、ほんとだ。よく見たら、どっかで見たような気がする……」

 

 どうも気になる様子でロムちゃんはある葉を見つめ、となりのでラムちゃんも考え始める。

 さて、これはどういう事か。今はそれより施設に…とも思ったけど、もしそれが女神の直感によるものなら、この疑問は突き止めておいた方が良いかもしれない。でも突き止めると言ったって、ここに植物に詳しい人はいない……

 

「そうねぇ…なら、ミナさんに訊いてみたら?一緒に生活してるミナさんだったら、同じように見た事あるかもしれないわよ?」

「確かに…でも、口頭じゃどんな葉っぱか分からないだろうし…ここはわたしに任せて」

 

 と、私が考えている内に、ユニとネプギアが意見を出し合い、改造によって普通なら電波が届かないであろう場所でも通話が出来るようになっている(らしい)Nギアを使って、ネプギアはTV電話でミナさんと通話。事情を話し、カメラによって二人の見ている葉を映す。

 

「これよミナちゃん。ミナちゃんは、見たことある?」

「そうですね、確かにわたしにも見覚えが…って、これは……」

「ミナちゃん、わかった…?(どきどき)」

「……えぇ。ですが、これは…」

「…言い辛い事なんですか?」

「いえ、そうではなく……正直に言うと、確信がないんです。わたしの記憶が確かなら、それは魔法薬に使われる事のある葉ですが……その植物は、何百年、何千年と前に絶滅してしまった筈のものですから」

『え……?』

 

 私からの問いへ対して神妙な声音で発されたその言葉に、揃って私達は目を見開く。理由は当然、何故そんな物がここに、という思いから。

 

「も、勿論今言いました通り、わたしが別の植物と勘違いしている可能性もありますよ?…しかし、それにしても…よく分かりましたね、お二人共……」

「だって、どっかで見た気がするもん。えーっと……あっ、そうだロムちゃん!これって、おねえちゃんのへやの本にあったやつじゃない?」

「あ…そう、かも…!(こくこく)」

「ブラン様の…?…あぁ、研究関係の資料として置いてあった本なら、確かに載っているかもしれませんね」

「ふふん、あの時はおもしろそーな本をさがしてたのよねー」

「でもそのご本、むつかしくてよくわからなかった…(しゅん)」

「それでも薄っすら記憶はしていたのですね。…ですが、ブラン様が保管している本を、あまり勝手に読んではいけませんよ?」

 

 自分達の記憶が意外な発見に繋がった、と自慢気に胸を張るラムちゃんだけど、ミナさんに注意されて意気消沈。けど、知識を蓄えるのは良い事だと最後に言われた事でロムちゃん共々またご機嫌になり……それからふと、二人は呟く。ぽつりと一言、「おねえちゃん…」と。

 前と違って、今の二人はブランがいない現実をきちんと直視出来ている。でもそれは、精神的に平気だって証拠じゃない。むしろ女神としての思いや、再び姉を助けたいという気持ちから頑張って直視しているのかもしれない訳で…そんな二人に、私は何が出来る?……それは勿論二人と、皆と一緒に、四人を全力で探し出す事だ。

 

「…取り敢えずこの事は、頭の隅に置いておこうか。そういう植物が生息してる事も、調べる価値はあると思うけど……」

「まずは、ちっちゃいわたし達の事を優先したいもんね」

 

 引き継ぐ形で言った大きいネプテューヌに頷いて、私達はまた歩き出す。結果から言えばネプテューヌ達の手掛かりにはならなかったけど、これはどうでも良いような事でもない。だから一先ずは記憶しておくだけに留めて、先へ進むのが最善の選択。

 そうしてかなりの距離を進んだ事で、景色は森から平原に変わり、近付いてくる街らしき姿。その中央付近、教会を思わせる施設の中なら、何か手掛かりがあるかもしれない。期待混じりのそんな思いを強めながら、私達は歩みを進める。




今回のパロディ解説

・君のそういう〜〜友達だと思ってる。
ジョジョの奇妙な冒険第四部、ダイアモンドは砕けないに登場するキャラの一人、岸辺露伴の台詞の一つのパロディ。これは結構自然に入れられたような気がします。

・某いたずらポケモン
ポケモンシリーズに登場するポケモンの一匹、フーパの事。コラボを読んで下さった方なら分かるかもですが、コラボ中でも一瞬フーパに関する話が出ましたね。

・某スキマ妖怪
東方Projectに登場するキャラの一人、八雲紫の事。彼女の場合は空間『に』干渉出来るではなく、空間『にも』干渉出来る、ですね。
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