超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百十二話 自分には、何が出来る

 浮遊大陸での小競り合いから数時間後。イリゼ達がプラネタワーにて作戦立案や休息等、それぞれの時間を過ごしている頃、もう一人のネプテューヌは今一度、浮遊大陸へと訪れていた。

 

「…………」

「…うん?あぁ、ねぷっちじゃないか」

 

 次元を超える扉を用いて浮遊大陸の中心部に現れた彼女は、その十数分後くろめの前へ。彼女は思考に耽っていたらしく、ネプテューヌの存在に気付いたのは彼女がかなり近付いてから。

 

「くろめ、さっきのは…どういう事?」

「女神のねぷっち達の事かい?」

「…あれ…何かしたんでしょ?」

「うん、そうだよ」

 

 普段の彼女らしからぬ問い詰めるような言い方に対し、くろめはあっさりと首肯。そのあまりにも平然とした返し方に、ネプテューヌは表情を歪ませ…声を荒げる。

 

「そうだよ、って…これが本当に、くろめのやりたい事なの!?これが、正しいって言うの!?ネプギア達に辛い思いをさせて、ちっちゃいわたし達におかしな事して…それをくろめは、そうだよの一言で済ませる気!?」

「ねぷっち…うん、確かに今回は説明不足が過ぎたね。それは謝罪するよ。けどまずは、落ち着いてくれないかな?」

「落ち着いてなんかいられないよ!これまではまだ信じられる部分もあったけど、今回は……ッ!」

 

 怒りを露わにし、言葉をぶつけるネプテューヌ。そこで初めて驚いた表情を見せたくろめは謝りながら向き直るも、その程度でネプテューヌは収まらず…しかし、それをある人物が制止した。

 

「──そう怒らないで、大きいわたし」

「……っ…!…ちっちゃい、わたし……」

 

 部屋の奥より聞こえてきたのは、穏やかな声。ネプテューヌが振り向けば、そこにいたのは守護女神であるもう一人のネプテューヌ。彼女の存在に、人間のネプテューヌは複雑そうな表情を浮かべ…言葉が止まる。

 

「貴女の言う事は尤もよ。だけど今、わたしも皆も自分達の意思で行動している。それは、事実よ」

「だけど…だとしても、それは…!それに、ネプギア達の事だって……!」

「そうね。でもネプギア達なら、きっと分かってくれるわ。わたしも、皆も、そう思ってる」

「……クロちゃん…クロちゃんも、何か言ってやってよ…」

「あ?別に俺が言う事なんかねぇよ。今は順調に面白そうな流れになってるんだしよ」

 

 真っ直ぐに見つめ返して言う女神のネプテューヌの言葉に、嘘や無理の気配はない。本当に、自己意思の下発された言葉なのだと、そう思わせる響きのある声。…だからこそ、そこには確かに彼女としての意思があっての言葉だからこそ、人間のネプテューヌは心の中に痛みを感じ、ならばとクロワールに話を振ったが…当然彼女が人間のネプテューヌが望むような言葉を言う筈がなく、人間のネプテューヌの表情は曇る一方。

 だがくろめとしても、今の人間のネプテューヌの状態は彼女が望んでいたものではない。故に納得してもらおうと口を開きかけたが…そこでまた、別の声が割って入る。

 

「なに、仲間割れ?仲良しこよしが取り柄のアンタ等が、まさかの仲間割れですかぁ?」

「レイ…」

「見せてもらったわよぉ、アンタ達の戦い。はっ、意思を残して敵対させるなんて、アンタも中々良い趣味してるじゃない」

 

 至極愉快そうな顔をして姿を現したレイに対し、ネプテューヌ達はそれぞれに視線を向けるが、その目付きはどれも決して歓迎するようなものではない。されどそんな視線など気にも留めず、煽るようにしてレイは言う。

 

「…別に、そういう意図でしている訳じゃないさ。オレは、皆を友達と思っているんだからね」

「…友達、ね…そうやって、何の躊躇いもなく言えるんだから、アンタはほんと筋金入りよ」

「…それは、どういう意味だい?」

「さぁ、何でしょうね。それよりあの調子乗ってる白髪女神二号探したいから、後でちょっとこいつ等貸して頂戴」

「お断りよ」

「…あぁ?」

 

 ふっと真面目な…女神らしさを思わせる表情を浮かべたレイの、どこか呆れたような言葉。それに眉根を寄せつつくろめは訊き返すも、レイはきちんと答えようとせず、くろめへ要求。

……が、それに答えたのはくろめではなく女神のネプテューヌ。冷ややかな返しにレイは威圧するような声を出し、対するネプテューヌも鋭い視線をレイへと向け…一転して漂うのは、一触即発の空気。

 

「それは、どういう事かしらぁ…?」

「言葉通りの意味よ。わたしはくろめの手を握ったのであって、貴女の味方になった訳じゃないもの」

「ふぅん…ならまずは立場の分かってないこの馬鹿女神に、肩慣らしを兼ねて躾でも……」

「まあまあ、二人共その物騒な雰囲気を仕舞ってくれないかな。ねぷっちも、気持ちは分かるけどここは一つ、オレの頼みだと思って彼女に力を貸してあげてほしい。…勿論、君達の正義に反しない範囲で、ね」

 

 冷ややかに視線を返す女神の女神のネプテューヌに対し、レイの瞳に籠るのは見下しの感情。されど両者が動くよりも先にくろめがその間へ割って入り、女神のネプテューヌの方へと向き直る。

 静かに見つめ合う二人。くろめはネプテューヌを見つめ続け…ネプテューヌはふぅ、と小さく吐息を漏らす。

 

「…くろめが言うなら、仕方ないわね」

「ありがとう、ねぷっち。…そういう事だから、レイもあくまで協力してくれている対象として、彼女達を見てくれないかな」

「嫌だ、って言ったら?」

「はは、理由はどうあれ力を貸してくれている相手を、無駄に敵対させるような愚かな真似なんて、君はしないだろう?」

「無駄?私こいつ等嫌いだし、嬲れるだけで意味があるんですけど?」

「まあ、そう言わないでくれ。今は用意しておいた戦力が大きく削れてしまってるんだから、四人の存在は貴重なんだ」

「あー、はいはい分かった分かった。分かりましたよー」

 

 もう話すのが面倒になったとばかりに、雑な了承を示すレイ。一方のくろめは何であろうと了承は了承だとばかりににこりと頷き、それに女神のネプテューヌも肩を竦める。

 それからレイは一人立ち去り、女神のネプテューヌもノワール達を呼びに行くのかその場を後に。そうして残される、人間のネプテューヌとくろめ、それにクロワールの三人。

 

「やれやれ、これからはねぷっち達とレイがぶつからないようにもしなきゃいけないね…」

「…くろめ、さっきの事だけど……」

「あぁうん、それはまた今度にしてくれないかな。今オレは、かなりやらなきゃいけない事があるんだ」

「ま、また今度って…わたしは……!」

「ねぷっち、オレは君がぎあっち達を連れてきた事に対して、何も言ってないんだ。それは、オレにとって致命的な事態ではなかったからっていうのもあるけど、それ位なら気にしないでいてあげようと思ったからでもあるんだよ?…だからさ、ねぷっちも今は飲み込んでくれないかい。オレ達、友達だろう?」

「…………」

「…悪いね、いつも君には色々と求めてしまって」

 

 食い下がるネプテューヌを封殺するように、どこか圧を掛けるような言い方で、会話を終わらせる事を要求。その口振りに、ネプテューヌは再び表情を歪ませながらも黙り込み…だがそれを理解してもらえたと思ったのか、くろめは表情を緩めて笑う。

 実際、くろめに悪意はなかった。本心からの言葉を、そのまま伝えただけだった。だが……

 

(…うん、そうだね。そうだよくろめ。わたしとくろめは、友達だよ。友達、だから……)

 

 ゆっくりと背を向け、ネプテューヌは歩いてそこから立ち去る。しかし、くろめは気付かない。去っていくネプテューヌが…悲しげな表情をしていた事に。

 

 

 

 

 ネプギア達は、本気だった。本気で強くなりたいと…一歩一歩積み重ねる強さではなく、今すぐの力を求めていた。それが必須ではないと、戦術や状況を駆使し、私達複数人で一人と当たる方法もあると理解した上で…一対一でも勝てる力を、欲していた。

 それは、決して間違っている事じゃない。向こうが何もしてこないならどうとでもなるけど、実際にはそんな訳がない。複数ヶ所に攻撃を仕掛けられたらこっちも戦力を分散させなきゃいけないし、そもそも四人揃って来られたら、ネプギア達四人に私を含めた五人で当たっても、勝てるかどうか怪しいんだから。ネプテューヌ達の状態を考えれば、人や街を襲う事はないだろうけど…まだこっちの認識は推測の域を出ていない以上、楽観視は出来ない。

 だけど、私は正直迷っていた。ネプギア達の考えは、確かに一理あるけど…これで、良かったのかって。

 

「……イストワールさん」

「…はい」

 

 話を終え、一先ず今日はちゃんと休む事…とイストワールさんが伝えた事で、ネプギア達は部屋を出ていった。それを私は見送って…それから扉の方を見たまま、イストワールさんの名前を呼ぶ。

 

「ネプギア達が本気な事は、私にも分かりました。現状を考えれば、今ネプギア達に話した事を選択肢の一つとして考慮する事も必要だというのも分かります。…でも……」

「…納得いきませんか?ネプギアさん達が、女神として危ない橋を渡る事に( ̄^ ̄)」

「納得いかない…とまでは言いません。…いえ、違いますね…納得いかないんじゃなくて、歯痒いんです…ネプギア達に、そうさせざるを得ない事が……」

 

 ゆっくりと首を振り、私は言い直す。…そうだ、私は不服な訳じゃない。そういう選択肢が浮かぶ事、それを選ばさせてしまっている現状…それに対して、無念さや歯痒さを感じているんだ。

 カニバルフォーム。教会のシェアクリスタルが持つフィルター機能を完全に切る事により、正のシェアだけでなく本来ならば流れ込む事のない負のシェアも全て取り込み、シェアを力に変える存在としての能力を飛躍的に高める姿。…けれど当然、それは危険を孕んでいる。負のシェアとは即ち、悪意を根源とするものであり……そもそも負のシェアを力にするだなんて、女神の本質に逆行しているようなものだから。

 そして…その力は、私には使えない。信仰してくれる人が増えていると言っても、国を持たず、それ故に良くも悪くも皆より影響力が数段低い私じゃ、負のシェアも少な過ぎて、とても実用性のあるレベルに到達しない。

 

「…ゲハバーンじゃ、駄目なんですか?」

 

 だから私は、イストワールさんに訊く。真の姿となった犯罪神に対する切り札として、その力を遺憾無く発揮した、私達女神相手でも十分過ぎる程に効力を持つ、対神決戦兵装なら、ネプギア達に危険を冒させずに済むんじゃないか、と。

 私が考えていたのは、ゲハバーンの封神形態でネプテューヌ達を無力化し、そこからパーティーメンバーの皆や信頼出来る人達に協力してもらう事で、ネプテューヌ達へとシェアクリスタルを服用させる、というもの。恐らくそれは、イストワールさんにも伝わっていて…だけど、イストワールさんは首を横に振る。

 

「確かに、その手もあるのは事実です。それに、致命的な問題がある訳でもありません(。-_-。)」

「…なのに、駄目なんですか」

「はい。あれは、犯罪神…幾度となく信次元を危機に陥れた、根絶する事など不可能な存在に対して、切り札として用いるべきものです。有り体に言えば、信次元の存続に関わる事態に対する、最終手段です。…しかし、最終手段は使えば使う程、そのハードルが下がるもの。そして、ハードルが下がる事の危険性は…イリゼさんも、分かりますよね?(´-ω-`)」

 

 神妙に語るイストワールさんの言葉に、私は頷く。…それは勿論、理解出来る。例えばそれは慣れであったり、精神的な禁忌感の低減であったり、理由は様々だけど、どんなものでも使えば使う程、それが普通になっていき……危険である事を忘れてしまえば、いつかは事故が起こる。その危険を避ける為に、使うべきじゃないという事なら…そこには確かに、一定の妥当性がある。

 だけど、理由はそれだけじゃない。そう言うように、イストワールさんは言葉を続ける。

 

「…それに、あれはまだ不明な点も多い、ブラックボックスのまま活用している代物です。例え物理的な接触をしない封神形態だとしても、ネプテューヌさん達四人や、ゲハバーンを持つ事となる方を、長時間その影響下に置くのは避けたい…わたしは、そう考えています( ̄  ̄)」

「…イストワールさんは、全員の事を、先の事を考えた上で、ネプギア達に教えたんですね」

「…正しい判断だったかどうか、それはまだ分かりません。ですが…ネプギアさん達ならきっと、と思っています。…それが、勝手な信頼だとしても」

 

 静かに言葉を締め括ったイストワールさんの表情は、決して自信満々じゃない。…でも多分これは、ゲハバーンを使うという選択をしていても、最初の考え通り数で押し切る方向で進んでいても、同じ表情をしていたと思う。

 強いて言うなら、じっくりと事を進めるのが、一番無難だと思う。もっと調べれば、情報が集まれば、別の方法でネプテューヌ達を取り戻す道が開けるかもしれないから。…でもそれは、叶わない話。今のネプテューヌ達を偽者だとする誤魔化しがいつまでも効く訳ないし…もう一人の私の事だってあるんだから。

 

(なら、私に何が出来る?危ない橋を渡ってまで、ほんの少しでも確率を上げようと、自らの力で取り戻そうとしているネプギア達に、私がしてあげられる事は何?)

 

 私にその力は使えない。使えないというか、今の私じゃ意味が薄い。でも、直接その力を使う事は出来なくても、ネプギア達の手助けをする事なら出来る。本気である事は承知した上で、改めて別の手段を模索するよう提案する事だって出来る。…だったらもう、やる事は決まってる。

 

「…イストワールさん、まずはこの件、私に任せてもらえませんか?」

「えぇ、勿論です。シェアの事は、同じ女神のイリゼさんに任せるのが一番ですからね( ´ ▽ ` )」

 

 そうしてイストワールさんから了解を得た私は、早速やる事を考える。何をどうしてあげるのが良いか、その為には何へ注意する必要があるのか、考えながらイストワールさんの執務室を後にして……

 

「…あのー、イリゼさん…ところで、ネプギアさん達が来る前に話していた件は、まだ途中なのですが……( ̄▽ ̄;)」

「あっ……」

 

……話の途中で全然違う事が起きて、そっちに時間や意識をがっつり割くと、それが終わった後は元々やっていた事もつい終わったように思ってしまう、又はそもそも忘れてしまう…そんな何気ない、日常的なうっかりを発動し、軽く恥をかいた私だった。

 

 

 

 

 今日の連絡で、ネプテューヌ達が見つかったという事を聞いた。……もう一人のうずめ、くろめの味方になってしまったという話と共に。

 その話を聞いて、うずめは堪えていた。…そりゃあ、そうだろう。例え自分でなくとも、『うずめ』なんだから。前向きで快活ながらも現実的で、過ぎるが付く程に責任感が強いうずめが…それを気にしない訳がない。

 

「…………」

「…うずめ、この地域もそろそろ探し終わるな。探し終わるってか、ここにも誰もいなかった…って判断するだけだけど」

「…そうだな」

 

 崩壊の進む中で、それでも比較的原形を保っている道路を歩く俺達。ぐるりと見回し俺はうずめに話し掛けるが、その反応は薄い。

 

(…ちゃんと目は誰かいないか探してるし、見えてる危険は避けてるから、上の空って程じゃないが…それでも、調子狂うよな……)

 

 静かなうずめ、そこはかとなく物憂げなうずめの横顔は、普段と違った綺麗さがあって、これもこれで悪くない……って違う違う、そうじゃねぇだろ俺…。

 

「なぁ、そういえば俺さっき、落とし物っぽいのを見つけたんだよ」

「落とし物…?…涙か……」

「いや違ぇよ、そういう精算出来る感じのじゃなくてだな……」

「じゃあ心臓か……」

「もっと違ぇよ!?てか普通落とさねぇよ!?落とすとしたら某一角の飛竜位だからな!?」

「でもどろハート……」

「うん、確かにそうだな!そういや落とすもんな!けどだから違うって!適当に反応すんなよ!?」

 

 気分転換…って程じゃないが、他の事にも目が向けば、少しは気分も変わるんじゃないか。…そう思って話を振ってみた俺だが…空返事で滅茶苦茶ふざけられた。え、今ゲーム中なの?ゲームに集中してるから変な回答になっちゃってんの?…って思う位、ふざけた回答しか返ってこなかった。…なんだこれ……。

 

「そうじゃなくて、ゲームソフトだよゲームソフト。近くにゲーム取り扱ってそうな店もねぇし、多分落とし物だろ?…まぁ、どっかのモンスターが暫く咥えてて、この辺りで別の物に興味が移って捨てた、とかもありそうだけどよ」

「なんだ、結局ゲームの話かよ…」

「勝手にゲームの話だと勘違いしたのはうずめだろうが…。…ほらこれ、なんか面白そ…っと、やべっ…」

 

 相変わらず生返事だが、それでも多少は意識をこちらに向けてくれた。ならばもう一押し、とポケットへ仕舞っておいたそのソフトを取り出そうとした俺だが、若干隆起し段差の様になっている場所を登りながら出そうとしたせいで、手を滑らせてソフトを道路に落としてしまう。

 

「…今の、本体だったらそれだけで壊れるかもだぞ…?」

「は、はは…ハードにしろソフトにしろ、小さいと持ち運びは楽だろうけど、こうして落とす危険は高くなるよな……」

 

 遊ぶ気はないしそもそもハードがないんだからプレイのしようがないとはいえ、落とした物をそのまま放置は気が悪い。だからその場で足を止めた俺はしゃがみ、落としたソフトを拾おうとして……次の瞬間、俺とうずめの指が触れ合う。

 

「え?」

「あ……」

 

 驚きの声を上げるうずめに、反射的に「しまった」と思った俺。勿論これは故意じゃない。ただ俺はうずめも拾おうとしてくれていた事に気付かなくて、うずめもうずめで俺の動きに気付いていなくて、結果起こっただけの事故。

 だけど、そこから互いに手を離したその時、突如として頭の中の走る光景。まるで蘇ってくるように、思い出される感情。最近時々ある、断片的に何かを思い出すのとは違う、もっと心が揺すられるようなこれは……

 

「…なぁ、うずめ…今のって……」

「今の…?…ウィード、もしかしてお前も今……」

 

 そう思った、抱いた何かに導かれるようにうずめを見て、うずめも俺の方を向いた……その時だった。──腹の底へ響くような軋みと共に、道路が砕け落ちたのは。

 

「な……ッ!?」

「……ッ!?うずめ……ッ!」

 

 不味いと思うよりも早く、下へとズレるうずめの身体。まるでソフトの落ちた地点を境とするかのようにうずめ側の路面が砕け、うずめが下へ落ちていく。

 それを認識した俺は、咄嗟にうずめへ手を伸ばした。半ば身を乗り出すようにして手を伸ばし…落ちるうずめの、手首を掴む。

 

「……っ、ぐッ…大丈夫か、うずめ…!」

「ば…馬鹿危ねぇだろウィード!踏ん張り切れずにお前まで落ちたらどうする気だ!」

「え、えぇぇっ!?」

 

 肘へ、肩へ、上半身へと掛かる衝撃。うずめの体重が、掴んだ俺も落とそうとし…だが何とか身体を倒し、左手を道路を押す事によって俺はその場で持ち堪える。…ぎ、ギリギリセーフ…。

……と思ったのも束の間、呼び掛けに対して返ってきたのはまさかの怒号。いきなり怒られるなんて俺は夢にも思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「ちょっ…ひ、酷くね!?一番最初にそれ言う!?」

「言うわ馬鹿!俺は女神化すりゃ飛べるんだぞ!?なのにお前…これで振り子みたいにお前が落ちるどころか吹っ飛んでって、俺がキャッチする前に何かあったらどうするつもりだったんだよ…!」

「…それは…ごめん……」

 

 幾ら何でも理不尽だ。…そう思った俺だが、言われてみれば確かにその通り。シェアクリスタルを一つ消費してしまうとはいえ、安全面を考えれば、俺の行動はむしろ悪手だったのかもしれない。少なくとも、これがベストな行為とは言い難い。

 反射的な行動だったとはいえ、軽率だった。…そう理解した事で、俺はぽつりとうずめに謝り…けれど、その後うずめもぽつりと言う。

 

「…けど、その…ありがと、な…ウィードがこうして助けようとしてくれたのは…正直、嬉しかった……」

「…うずめ……」

 

 照れ臭そうな、でもそれが建前ではないと感じられる、うずめの声。単純なのかもしれないが、それだけで俺の心の中には「やって良かった」という感情が浮かぶ。…勿論、そんな事を言ったらまたうずめに怒られそうだが…実際そう思ったんだから、それは仕方ない。

…なんて、ちょっと心が温まった俺だが、依然うずめは宙ぶらりん状態。俺としても余裕のない状態なんだから、さっさとうずめを引き上げて……そう、思っていたのが一瞬前の事。引き上げよう、と俺が身体に一層の力を込めたのとほぼ同時に、再び軋むような音が聞こえ……俺の身体が、落ちる。

 

「──ッッ!い"ッ、ぁ……ッ!」

「うぉっ!?うぃ、ウィード!?」

 

 数秒にも満たない浮遊感と、その直後に右手首へと襲い掛かる衝撃。すぐ前からは、うずめの声が聞こえてきて……一瞬、訳が分からなかった。なんで俺は今、うずめと対面状態になっているんだ、と。

 けど、すぐに分かった。丁度俺達の足元にはパイプが通っていて、どうやらそれは崩れなかったらしく、そこに俺の手首が引っかかった結果、俺とうずめは二人してぶら下がった状態になっていた。

 

「…あ、危ねぇぇ……」

「す、凄ぇ状態だな、これ…って、感心してる場合じゃねぇ…ウィード、後どれ位耐えられる?無理そうならさっさと離せ、俺が女神化して……」

「いや、後少しだけ大丈夫だ…うずめは、シェアクリスタルを…温存、してくれ…!」

「…分かった。なら後数秒、ちゃんと掴んでろよ…!」

 

 大丈夫…とは言ったが、二人分の体重が手首だけに掛かってるこの状況は、かなりキツい。そんな俺の本心が伝わってるのか、こくりと頷いたうずめはすぐに掴まれていない方の腕を伸ばし、その手でしっかりとパイプを掴む。そこからうずめはその腕の肘を曲げ…ある程度身体が上がったところで脚を跳ね上げ、勢いのままに脚もパイプへ引っ掛ける。

 うずめが肘を曲げ始めた時点で、大分俺の負担は減っていた。ダイナミックな動きに目を奪われつつ、脚を上げた事で下着が見えそうになった瞬間には一瞬で行われた葛藤の末に目を逸らしつつ、俺が待っている間にうずめの身体はパイプの上へ。乗っかる形となったうずめは、両足をパイプに付け…俺とうずめで、立場が逆転。今度は俺が、支えられる側になる。

 

「ふぅ…後一息だな……」

「あ、後一息って…落とすなよ!?バランス崩すなよ!?絶対落としたりよろけたりするなよッ!?」

「わーってるって。後それ、フリみたいになってんぞ…っと!」

「おわぁ!?」

 

 足場となっているパイプはそこまで太くない上に、当然円形だから実際の接地面はかなり少ない。実はもう、ちょっと視線を動かせばがっつりうずめの下着が見える状態なんだが…ある意味さっき以上に怖過ぎる体勢のせいで俺はそんな事を考える余裕がなく、とにかくうずめに頼み込んだ。並外れた身体能力で登り、卓越したバランス感覚で姿勢を保っているとはいえ…怖いものは、怖い。

 その数秒後、揺れたと思った次の瞬間には再び抱く浮遊感。どうやら俺は、道路が崩壊していない地点までぶん投げられたらしく…どすん、と尻から落下した。

 

「おっとっと…無事かー、ウィード」

「…な、何とか……」

 

 投げた勢いでうずめは落ちそうになっていたものの、そこから即座に身体を反転させ、パイプを蹴って斜めに跳躍。勢いを利用したジャンプで同じく無事な地点まで跳び…余裕そうに俺の方へと走ってきた。…やっぱり女神は、凄い。

 

「ふへぇ、今のは流石にビビったな。パイプが残ってて助かったぜ」

「不幸中の幸い、ってやつだな…、ッ……!」

「……?どうしたウィード…って、お前それ……」

「…まぁ、そりゃ…砕けた破片も、食い込むわな……」

 

 一安心といった顔でうずめが近付いてくる中、俺も立ち上がって尻を叩く。…が、そこで手首に走る激痛。反射的に俺がその手前、前腕の真ん中辺りを強く掴んで押さえると、うずめもそれに気付き……表情が、変わる。

 俺の手首からは、かなりの量の血が流れ出ていた。手首だけで二人分を支えた結果、パイプ上に残っていた道路の破片が深く刺さり…結構な傷に、なってしまっていた。…けど……

 

「食い込むわな、じゃねぇよ…!と、取り敢えず止血…あ……」

 

 慌ててうずめが手当ての事を考える中、自然に…勝手に治り始める俺の手首。自然治癒というには異常な程に速過ぎる、俺自身としても違和感しかない速度で傷が治っていき…あっという間に、元通り。そもそも怪我なんてしなかったんだ、と思ってしまいそうな程綺麗に治り……だからこそ、訪れる沈黙。

 

「…行こうぜ、うずめ。また崩れるかもしれないしさ」

「……っ…ウィード、その……」

「気にすんなって。…あ、いや、勿論俺だってこれの事は気になるけど、それとは違う意味で、な?」

「気にするな、って…それは、治ったその傷は……」

「…俺は、あの時手を伸ばさずにはいられなかった。うずめが落ちるって思ったら、自然と手を伸ばしていた。…だから、これは俺の責任だよ。うずめが負い目を感じる必要はないし…仮に治らなかったとしても、俺は後悔なんてしない。やらなくても何とかなってたとはいえ…またうずめを、助けられたんだからな」

 

 この事でうずめが黙るのは、負い目を感じるのは、当然の事だ。俺だって、逆の立場なら申し訳ないって、俺のせいで…って、きっと思っていた。

 だけど俺は、本当に後悔していない。今言った事は、全部本心で…俺はうずめの力になりたくて、うずめの側にいてやりたくて、ここに残ったんだから。後悔云々を言うなら…何もしなかった時の方が、絶対に後悔していた。

 

「……ほんとに、無理と無茶は…するなよ…?…俺だって、お前が苦しむ姿は…見たく、ない…」

「…おう」

 

 先に俺が歩き出すと、後ろから聞こえてきた小さな声。それに俺は、振り返る事なく…だけどちゃんと、その声に応える。

 

(…苦しむ姿は見たくない、か…。それは、俺も同じだようずめ。俺だって、うずめが苦しむ顔は、元気のない姿は…見たくない)

 

 それから俺は、考える。さっきのうずめに覇気がなかったのは、ネプテューヌ達に何もしてやれていないからだ。ここで『誰か』を探す事にうずめは本気だが…それが自分のするべき事とは思っていても、きっと皆なら何とかなるって信じていても、心に陰は残るんだろう。…うずめは優しく、責任感の強い…だからこそ、一人で過剰に背負ってしまいがちな女神だから。

 そして、俺は感じている。何となくだけど、ここには人はもういないんじゃないかって。俺みたいなのが、むしろイレギュラーだったんじゃないのかって。確信があるとまでは言えないが…この感覚が、単に早くうずめを楽にさせてやりたいって思いからくるものではないような、そんな気がしている。

 俺の記憶の事。この次元の事。触れ合った瞬間、抱いた感覚。それ等全てが集まり…俺は思う。俺がやるべき事、真に見つけるべきものは……きっと、何か別のものだ。




今回のパロディ解説

・涙、精算
モンハンシリーズにおける精算アイテム、竜のナミダ(とその派生)の事。ウィードの場合、仮に竜のナミダを拾ったとしても、精算する場所がないので無駄になりますね。

・某一角の飛竜
同じくモンハンシリーズに登場するモンスターの一体、モノブロスの事。落とし物でハートを落とす飛竜…落とす事自体驚愕ですが、落ちる光景を考えてもグロいですね…。

・どろハート
ドラクエシリーズに登場するモンスターの一体、どろにんぎょうの心臓の事。でも厳密に言えば、落とすのはそれを盗んだマドハンドですね。
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