超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百十三話 まず初めに

 浮遊大陸での出来事から一日明けた、翌日の朝。わたし達は、イリゼさんに連れられてプラネテューヌの生活圏外に来た。理由は…まあ、想像出来る。

 

「この辺りで良い、かな」

 

 見晴らしの良い草原に着地したイリゼさんは、女神の姿のままこちらを振り向く。続いて着地したわたし達も横並びになって、イリゼさんを見つめ返す。

 

「さて、と…こういう感じにするのも久し振りだね」

「ですね。旅の間には色々と教えてもらってましたけど、同じプラネテューヌにいるネプギア以外は、それ以降あまり機会がありませんでしたし……」

「…まぁ、仮に同じ国にいたとしても、射撃や魔法を主体にするユニ達には、どこまで教えられたか…って話だけどね。私が教えたのは連携だったり、思考の仕方や戦闘における細かな部分だったりで、皆にとっての主体となる部分は皆がそれぞれに伸ばしてたでしょ?」

 

 そう言って、肩を竦めるイリゼさん。言われてみれば確かに、戦い方の基本となる技術や訓練は、あまりイリゼさんから受けていない。それは当たり前といえば当たり前だけど…それでも、イリゼさんに色々教えてもらったのは事実。

 

「…こほん。まあともかく、今日四人にここまで来てもらったのは……」

「カニハムフォームのことよね!」

「え?…カーニバルフォーム、じゃなかった…?」

「うん、カーニバルでもなくてカニバルだね…ロムちゃんの間違いは、かなり惜しい感じだけど……」

「あ、やっぱり?わたしもヘンだと思ってたのよねー。カニハムなんて、おいしそーなだけでぜんぜんつよそうじゃないもん」

「カーニバルも、たのしそうだけど、つよくはなさそう…(ふるふる)」

 

 特に恥ずかしがる事もなく、むしろ納得がいったとばかりに腕を組んで頷くラムちゃんと、その隣で似たような事を言うロムちゃんに、わたし達三人は苦笑い。でも今は別に雑談してる訳じゃないから、すぐに表情を引き締める。

 

「今ネプギアが訂正したけど…その通り、これから話すのはカニバルフォームの事だよ」

「……っ…。…イリゼさん、わたしは…わたし達も、そのつもりで来ました。訓練は今すぐにでも……」

「待った。皆の気持ちは伝わってるけど…最初にするのは、そういう事じゃないよ」

『え?』

「最初にするのは、その前の話。…皆、考え直す気はない?本当に…それで、良いの?」

 

 イリゼさん自身の口からカニバルフォームの名前が出た事で、更に引き締まるわたし達の表情。わざわざイリゼさんに言ってもらうのを待つまでもない、そう思ったわたしは自分から切り出して……だけど、それをイリゼさんに止められる。止められ、そして…イリゼさんは、わたし達に問う。カニバルフォームを自らの力にし、それでお姉ちゃん達を取り戻す…それで、良いのかって。

 

「…それは、どういう事ですか?」

「言葉通りの意味だよ。カニバルフォームは、決して必須な訳じゃない。それは、分かってるよね?」

「…必須じゃない、というのはその通りです。でも、アタシ達は……」

「うん。だから例えば、今から対四人に特化した訓練と戦術の構築をして、それでネプテューヌ達に勝つ…それじゃあ駄目?」

 

 ほんの少し目元を鋭くして応答するユニちゃんに、イリゼさんは穏やかな口調のままで返す。次にわたし達の事を見回して、言葉を続ける。

 

「四人を取り戻すって目的において、ネプテューヌ達を上回る事は別に必須じゃない。勝てるだけの実力を維持する必要はなくて、たった一回勝てるだけの強さがあれば、それで良い。言い換えるならこれは、上辺だけの力でも、ハッタリでも良いって事」

『…………』

「そして、私達はネプテューヌ達の戦い方も、強みも弱みも知っている。逆にネプテューヌ達も、私達の長所短所を知っている。知っていると、思っている。…だからね、この状況は、ネプテューヌ達を取り戻すっていう作戦目標に関して言えば、私の戦闘スタイルが、これ以上ない位に適してるの。たった一度でも良いって条件だからこそ、付け焼き刃でも私の戦い方を組み込んだ対策を四人が立てられれば、それだけでも成功の可能性はあるって、私は本気で思ってるんだよ。…それに関して、皆はどう思う?」

 

 一つ一つ挙げるようにして、イリゼさんは語る。イリゼさんの考えを。イリゼさんが思っている事を。

 これは別に、わたし達を丸め込む為の出任せじゃない。…それはすぐに理解出来た。イリゼさん自身はそういう戦法を得意としてる事が知られているから警戒もされるだろうけど、もしそれをイリゼさんではなくわたし達がやってきたら…間違いなく、意表を突ける。それで動揺を誘う事も出来るだろうし、そこで短期決戦を仕掛ける事が出来れば、わたし達とお姉ちゃん達の間にある実力差を覆す事は…不可能じゃないのかもしれない。完成度が低くても、「そういう事をしてくる」っていうだけで、考えや精神は影響を受けちゃうものなんだから。

 

「…それは…そうかも、しれませんね…それをする事で、お姉ちゃん達はイリゼさんの戦法だけじゃなく、他の皆さんの戦法も仕掛けてくるかも、って思うかもしれませんし……」

「でしょ?存在しないものに警戒してくれるなら、駆け引きはもっと有利になる。私達にとっては未知の力であるカニバルフォームより、私の本領の方が、練習だってきっと上手く……」

「…けど、それは上手くいった場合ですよね?付け焼き刃じゃ柔軟性や対応力のない、予め想定しておいた範囲+α程度の動きしか出来ないと思いますし……正直、危険な賭けになると思います。カニバルフォームを使うのと同じか…或いは、それ以上に」

 

…でも、わたしは思った。ユニちゃんも思っていた。イリゼさんの言っているプランは、十分あり得る事だけど…確実性のあるプランではない、って。

 勿論カニバルフォームだって、確実性の高い手段じゃない。今イリゼさんが言ったように、未知の力なんだから。それに…わたしはイリゼさんの戦い方を、側で見てきたからこそ分かる。イリゼさんの戦い方は…イリゼさんが思っている以上に、難しい。わたしがユニちゃんみたいに戦おうとしても全然上手くいかないだろうし、ロムちゃんラムちゃんみたいに魔法主体で戦闘しようとしてもまともに成り立たないのと同じように……多分、付け焼き刃レベルですら習得するのは難航する。それも含めて…わたし達は、思っていた。どっちにしても、危険な賭けになるんだと。

 

「…イリゼさん。イリゼさんは…心配、してくれてるんですよね。危険を背負う事になるわたし達の事を。それならせめて、自分の領分の中でって…そう、思ってくれてるんですよね」

「……っ…そういうのは、思っても言わないものだよ…?…それに、私はこれに可能性を感じていたのも事実。心配や気遣い抜きに、四人がこっちに乗ってくれるっていうなら、私が実現出来るレベルまで教えるつもり。四人が本気であるように…私だって、本気だから」

 

 わたしが返した言葉に、一度イリゼさんは表情を揺らがせ…けれどそこから再び真剣な顔に変わったイリゼさんは、言った。自分もまた、本気だと。本気で私達に、考えさせようとしているんだと。

 真っ直ぐな瞳で見つめられたわたし達は、顔を見合わせ視線を交わす。イリゼさんの案も間違ってるとは思わないから。信頼の置ける人からの言葉というだけでも、よく考えるだけの理由があるから。そして何より…イリゼさんの本気を、無下にする事なんて出来ないから。

 五秒、十秒、十五秒。顔を見合わせ、わたし達はゆっくりと考えた。もう一度、自分達で考えていた事と、イリゼさんの言う事と、これからの事を考えて、想像して、推測して……そして、もう一度イリゼさんに向かい合い、わたし達は答える。

 

「…イリゼさん。それでもやっぱり、わたし達はこれに賭けます。…相手はお姉ちゃん達…守護女神だからこそ、取り敢えずとか、別に勝つ必要はとか…そういう消極的な選択は、したくないんです」

「それにね…それ位しなきゃ、やっぱり…できないと、思うの」

「うん。…おねえちゃんは、わたしたちにとって…すっごく、大きいから」

「…そ、っか…。……よし、分かった。そこまで言うなら、私もこれ以上は言わないよ。これ以上言うのは…皆の思いに、失礼だから」

「そんな事ないですよ。アタシ達こそ、こうして親身になってくれるイリゼさんの存在が、凄く心強いですから」

「ありがと。…じゃあ……始めようか。守護女神の四人を取り戻す為の、訓練を」

 

 一拍貯め、また私達を見回すようにして言ったイリゼさんに、わたし達は首肯。そして…カニバルフォームを力にする為の、訓練が始まった。

 

「まずは皆、カニバルフォームになってもらえる?」

 

 初めの指示を受けたわたし達は、右手を胸に置く。胸元に当て、教会のシェアクリスタルへアクセスするイメージを抱いて…深呼吸。

 既にカニバルフォームに必要な準備は済んでいる。後はわたしと…この身体とシェアクリスタルとを繋ぐ回路を操作し……負のシェアエナジーを、流し込むだけ。

 

「焦らなくていいよ。初めての事なんだから、ゆっくりでも慎重に……」

「…いえ、出来ましたイリゼさん」

「アタシも完了です」

「…へっ?も、もう?」

『はい』

「は、早いね…それじゃあロムちゃんラムちゃん、二人は少しずつ……」

「わたしも、だいじょうぶ…!」

「もうできてるわ!」

「……カニバルフォームって、そんな簡単になれるものなの…?」

「な、なる事自体は、そうみたいですね…」

 

 ぽかーんとするイリゼさんに、わたし達は苦笑い。正直、わたし達も驚きだけど…実際カニバルフォームになれてはいる。なれていると言うか…その状態が、開始している。

 いーすんさんからも説明を受けていたけど…カニバルフォームは、なる事そのものは決して難しくない。極端な事を言えば、この姿は単に負のシェアエナジーも取り込んでいるってだけだから。ただそれだけだから、『カニバルフォーム』って言える状態になるだけなら楽だし…それを力に変える事、制御する事こそが、これからやらなくちゃいけない事。

 

「次は、何をしますか?前みたいに、一度模擬戦をしてどれだけ戦えるかの確認ですか?」

「…いや、一先ず私が指定する事をやってみて。最初は……」

 

 ユニちゃんからの問いにイリゼさんは首を横に振り、その手に片手剣サイズの刃を精製。これを撃ち抜いてみて、という指定を受け…空へと投げ放った剣の上昇が止まった瞬間、ユニちゃんがビームで狙撃。狙い違わず、ユニちゃんの一射は剣を直撃し…落ちてきた時、剣の刀身は中程から先が無くなっていた。

 そこから暫く、テストをするようにわたし達は指示に沿って動いていった。どれもそんなに激しい動きはなくて、ほんとにただ試運転をしてるだけって感じ。その状態が、数十分間程続いて……イリゼさんからの攻撃を避ける、機動力と反応速度の確認が終わったところで、イリゼさんは引き締めていた雰囲気を解く。

 

「…うん、お疲れ様皆。一通り動いてもらったけど、何か調子が悪かったり、違和感があったりしない?」

「いわかん…ちょっと、もやもやした感じが…ある、かも…?」

「でも、ちょーしはわるくないわ!力もいつもより感じるもの!」

「それなら良かった。じゃ、今日はここまでにしようか」

「はい!……え、はい?」

 

 体調不良はないか訊き、ロムちゃんとラムちゃんからその返答を受けたイリゼさんが次に言ったのは…これで終わり、という意外な言葉。てっきりここからが本番だと思ってたらしいユニちゃんは、力強く応答…したかと思いきや訊き返し、わたしも驚いて目をぱちくり。ここまでって…え、これだけで…?

 

「あ、あのイリゼさん…わたし達、まだ余裕ありますよ…?」

「みたいだね。けど今日は、元々ちゃんと発動出来ればそれで良い位に考えてたんだよ。未知の力で、最初から限界ラインまでやる訳にはいかないからね」

「でも…アタシ達がこうして対策を進めているように、お姉ちゃん達も…くろめの方だって、また何かしようとしてるかもしれないんですよ?なのにそんな、悠長な……」

「だからこそ、だよ。今私達にとって、ネプギア達は必須の存在。ネプテューヌ達を取り戻す為の戦力としても、国を守る女神としても、絶対に皆が戦えなくなるような事態にはなっちゃいけない。もし、そんな事になったら…それこそ、どうしようもなくなるんだから」

 

 柔らかな口振りで、でも拒否はさせないって意思の感じられる瞳で以って、イリゼさんは言う。万が一の事を考えるからこそ、十分な余裕を持っておく必要があるんだと。

 そこに、反論の余地はない。感情的には、大丈夫だから続けさせてほしい、と言いたいけど…初めて使う力な以上、本当に大丈夫かどうかはわたし達自身分からないんだから。思うところはあるけれど…わたしだって、イリゼさんの立場ならきっと同じ判断をする。

 ゆっくりと息を吐いて、カニバルフォームを解くわたし達。でもプラネタワーからかなり離れてる場所だから、女神化までは解除しない。

 

「皆、今さっきも訊いた事だけど、何かおかしい事はないね?ちょっとでも変だと思う事があったら、すぐに言うんだよ?皆の安全が第一なのは勿論、それを解消する事でパフォーマンスが向上する…って事もあるんだから」

「もー、わかってるわよそれ位」

「ごめんごめん。でもほんと私には分からない事だから、つい気になっちゃって……」

 

 不満そうなラムちゃんの返しと、そこへ続くロムちゃんの頷き。二人からの意思表示を受けたイリゼさんは軽く肩を竦めつつ謝り、それから来た時と同じようにわたし達に先立つ形で飛び立とうとした、その次の瞬間……突如空より飛来した電撃が、イリゼさんへと襲い掛かる。

 

『……──ッ!?』

 

 間一髪で飛び退くイリゼさんと、弾かれるようにして散開し、空へと武器を構えるわたし達四人。

 今のは一般的なモンスターが放てる威力の電撃じゃない。ただそれだけでも、誰に攻撃を受けたのか大凡の予想は付いてしまう。そしてその予想通り、空にはこちらを見下ろすキセイジョウ・レイが、それに……

 

「……っ…お姉、ちゃん……」

 

 そこにはお姉ちゃん達の、四人の守護女神の姿もあった。

 

 

 

 

 発動と同時に、染み出すようにして変わっていった、プロセッサ・ユニットのカラーリング。元々の色のままの部分と、暗色、或いは禍々しさを感じる色合いの部分が混在するような配色へと、ネプギア達四人のプロセッサは変わっていき……でも、外見の変化はそれだけだった。

 戦闘能力に関してもそう。確かに向上は見られるけど、飛躍的って程じゃない。動き方も、平常の女神化状態と方向性としてはほぼ同じで、そこに見違えるような強さは……ない。

 だけど、それは当然の事。例えるなら、現状のカニバルフォームはエンジンだけ換装した機械みたいなものだから。勿論それだけでも性能は向上するけど、エンジンに合わせてフレームや各機器、各装備やソフトウェアも変更なり更新なりをしなくちゃ、エンジンもその性能を発揮し切る事は出来ないんだから。それにネプギア達自身も、まだ手探りで感覚を掴んでいる状態だとすれば、危機管理として無意識に力をセーブしてる事だって考えられる。だから何ら不安に思う必要はないし、むしろネプギア達が現状に焦ってしまわないよう、気配りをする事こそが重要な事……そんな思考を働かせながら飛び立とうとした瞬間の、空からの電撃。本能的に飛び退き、回避と同時に長剣を手にした私は…空を見やる。

 

「ざんねーん、一発で白髪女神の丸焼きを作ろうと思ってたのにぃ〜」

「…キセイジョウ・レイ……」

 

 電撃の射手は、やはり彼女。暫く姿の見えなかった奴だけど、このままどこかで自滅なんてしてくれる訳がないと思っていたから、仕掛けられたのは別にそこまで驚きじゃない。

 でも空には、ネプテューヌ達もいた。ネプテューヌ達四人が、レイと行動を共にしているというのは…正直言って、予想外。

 

「あぁ、一応聞くけどあんたはどっちの方よ。まあ、どっちにしても最後はぶっ潰すだけだけど」

「ぶっ潰す?原初の女神に対し、随分と大きく出たものだ。吠えるのは勝手だが…もう一人の私はもとより、複製体たるこの私にも貴様風情が勝てるとは思わない事だ」

「あはっ、なんか調子乗って喋ってるけど、素直に自分が劣化版の方だって答えてるじゃない。あんたバカぁ?…あ、違った。訊くまでもなく馬鹿だったわね。ごめーん、間違えちゃった〜」

「…劣化版?貴様、私を……」

「その言葉、取り消してくれるかしら?」

 

 こんな奴に、私がどちらの私かを隠すようなつもりはない。こんな奴との応答で、自分の存在を偽るだなんてしたくもない。その意思の下言葉を返した私に対し、奴が口にしたのは『劣化版』という言葉。

 不愉快だ。ただただ不愉快だ。奴にそんな表現で呼ばれる事も、もう一人の私が創り出してくれた私を劣化版扱いされる事も、一片の曇りなく不愉快で……けれどそう評した彼女へ、突き付けられる横からの声。

 

「…はぁ?あんた、また私に噛み付く訳?」

「残念、今のはネプテューヌ一人だけの意思じゃないわよ」

「わたくし達が、一人でもその言葉を許すとでも?」

「手を貸してほしくちゃ、口には気を付けるんだな」

「…ちっ、何かにつけてウザいわねあんた達は…ガキの使い位には役立つかと思ってたけど、一々うっさい辺りほんとガキと変わらないわ。あー、めんどくさ…」

 

 ネプテューヌを皮切りに、レイを睨め付ける守護女神の四人。一応とはいえ自分の側に付いている四人から横槍を入れられたからか、レイは苛立たしげに言葉を吐き…その場でくるりと背を向ける。

 

「じゃ、いいわ。余計な体力使いたくないし、あんた等はここであいつ等の足止めでもしてて頂戴。探してる最中に纏わり付いてくる雑魚とか、今のあんた等以上にうざったいし」

「貴女、そう言いつつ街を襲う気ではなくて?」

「街を襲う?え、私がそんな事すると思ってんの?近付かなきゃ目にも入らないようなモブ人間を潰す為に、一ヶ所一ヶ所近付いて攻撃とか、無駄の極みにも程があるんですけどー?」

「…あんた、これ以上言うならこの場で……」

「はいはい分かった、黙りますよー。…そいつ等追ってきたら普通に挽肉に変えるから。それが嫌なら、必死こいて足止めしてる事ね」

 

 もう話すのも面倒臭い。そう言わんばかりの声音で雑に話を打ち切り、レイは私達の前から離脱。

 当然それを、黙って見過ごす私じゃない。恐らくはもう一人の私を探すのであろう奴を撃つよう、私はユニへと目配せし…けれど、その射線に割って入るネプテューヌ達。

 

「お姉ちゃん!?まさか本当に、奴の味方までする気!?」

「レイの味方になったつもりはないわ。私達はあくまで、くろめの頼みを聞いてあげてるだけ」

「結果的には同じようなものだよ!四人共、退いて!」

「そうはいかねぇよ。追ったって、イリゼ達じゃ返り討ちに遭うだけだ。癪だが奴は、わたし達全員で掛かっても倒せなかった相手なんだからな」

「なら…おねえちゃんたちもいっしょに戦ってよ!」

 

 きゅっと手を握り締め叫ぶ、ラムちゃんの言葉。悲痛さの籠るその言葉に、ブランも三人も一瞬表情を歪ませ…だけど、誰も首を縦には振らない。

 

「…どうして……」

「…悪いな、ラム、ロム。けどこれは、くろめの頼みってのもあるが…それとは別に、考えがあっての事なんだよ」

「…考え……?」

「…キセイジョウ・レイ。彼女の強さは規格外ですわ。そしてもう一人の貴女もまた、規格外の存在。であれば、女神として業腹ではありますけれど…両者がぶつかり、疲弊したところを叩くのが賢明ではなくて?」

「叩く…?…って、まさか……」

「大丈夫よイリゼ。もう一人の貴女とは、あくまで和解を目指してるから。…勿論、向こうが応じてくれれば…だけど」

 

 正面切って倒す事は現状困難な相手だからこそ、その両者をぶつけ、漁夫の利を狙う。レイは疲弊したところで倒し、もう一人の私には、少しでも消耗で有利な状況を作れている間に和解へ持ち込む。だからその最初の段階が起こりそうな今を、邪魔される訳にはいかない。……それが、今私達を止める理由だと皆は言う。

 確かにそれは、合理的な判断だと思う。倒す上での明確なプラン、勝算のある作戦をここまで出せていない以上は、降って湧いたチャンスと言えなくもない。……けど、

 

「…悪いけど、そういう事なら私は聞かないよ」

「…どうして?イリゼ」

「理由は二つ。一つは、もう一人の私なら人に被害が及ばない場所で戦おうとすると思うけど、レイはそんな事気にしないだろうから。そして、もう一つは…奴に対して、疲弊したところを狙うなんて戦法は取りたくない。奴を倒すなら、万全の状態で、あの腐った精神諸共……正面から打ち砕く」

 

 尋ねるネプテューヌの瞳を正面から見つめ返し、私は言う。人を守る、守護者としての視点と…女神としての誇り、矜持を貫く為の視点から、はっきりと。

 多分、前者はともかく後者は想像していなかったんだろう。ネプテューヌ達は勿論、ネプギア達も目を瞬いて…それからネプテューヌ達の目が変わる。私が、強行突破も辞さない心算だって事を察して。

 

「…そういう事だから、私は行かせてもらうよ。でも…皆。後者は完全に個人的な理由だから、別に協力してなんて言わない。むしろネプテューヌ達の方が正しいと思うなら、挟撃してくれても構わな……」

「いいえ、イリゼさん。わたし達も、お伴します」

 

 私は私の主張を女神として正しいと思っているけど、同時に私のエゴでもあると自覚してる。だから、私に付いてくる必要はないと言おうとして…でも言い切るその前に、ネプギアが言った。そして、それにユニ達も頷いて…続く。

 

「わたしもきょーりょくするわ!だって、わたしはイリゼちゃんの言ってることにさんせいだもの!」

「アタシは、お姉ちゃん達の方が無難な選択だと思いますが…アタシ達がお姉ちゃん達を取り戻す上で必須と言うなら、それはイリゼさんも同じです。だから…イリゼさんが無茶しなくて済むよう、アタシも助力します」

「イリゼさん。わたしたちのお手伝いは…いらない…?」

「皆……」

 

 側に来て、並び立ってくれる四人の姿に、私が抱くのは心強さ。正直、私一人で四人を突破するなんて難しいどころの騒ぎじゃないと思ってたけど…ネプギア達が協力してくれるなら話は別。絶対いけるとは言えないけれど…可能性なら、ある。

 けれど同時に、冷静な思考も働く。ここでやり過ぎてこっちが大きく消耗したら、ネプテューヌ達を取り戻す事が遠ざかってしまう。つまり、皆の事は心強いけど…皆が頑張り過ぎてしまうような戦況には、絶対にしちゃいけない。

 

「…なら、頼むよ皆!ネプギアは私に付いてきて!ユニは点の、ラムちゃんは面の攻撃をしつつ、時々それ以外も混ぜ込んで!ロムちゃんは二人の援護で……それから皆、カニ…あの力は使わないでよッ!」

『了解!』

 

 一対一じゃ、分が悪い。現状のカニバルフォームはまだ実戦レベルじゃない上に、出来れば取り戻す時まで隠しておきたい。であればここで取るべきは、徹底的な連携で以ってぶつかる事。

 その考えの下、私は指示を出して跳躍。ネプギアが追従してくるのを気配で感じながら、ネプテューヌ達の方へと切り込む。

 

「だったら…わたし達も行くわよッ!」

 

 強行突破に出た私達に対し、ネプテューヌ達も行動開始。掛け声と共にネプテューヌが真っ直ぐ突っ込んできて…私は激突。斬り結び、視線を交わし…互いに離れる。

 

「ネプテューヌ!皆!皆は、それで良いの!?癪だとか、業腹だとか、思うだけでそれは女神として飲み込んで良いものなのッ!?」

「イリゼこそ、それで良いと思う訳!?自分も、仲間もより危険な戦闘をする事になるのが、貴女の望みッ!?」

 

 ネプギアからの援護射撃を防御するネプテューヌへ、私は追撃。私は皆へ、ネプテューヌは私へ言葉をぶつけながら、更に数度得物で激突。もう一度ネプテューヌが離れようとしたところで、私は一気に肉薄を仕掛け……けれど間合いへ入るよりも早く、ベールの突進によって阻まれる。

 反射的に私は防御し、視界の端のネプギアへアイコンタクト。まずはネプギアと連携し、誰かと二対一で優位に戦う。その間残りの三人は、ユニ達の火力支援で引き付けてもらって……そんな戦闘プランを、ベールとせめぎ合いながら考えていた、その時だった。

 

『な……ッ!?』

 

 すぐ近くまで押し込まれてくるネプギアと、三人で…ベールの行動も含めれば四人全員で攻め込んでくる守護女神の四人。…これは、不味い……ッ!

 

「まさか、わたし達が全員で迎え撃つとは思わなかったってか?」

「けど、当然の事よ。ユニや二人の遠隔攻撃がどれだけ強力なのかは、私達が誰よりも分かっているんだものッ!」

 

 そう言いながら、立て続けに放ってくる近接攻撃。二対四となれば、私もネプギアも防御に徹する他はなく…当然四人の連携に、すぐ突破出来るような隙はない。そして…ユニ達からの援護もまた、今はあまり期待出来ない。

 何故なら、私達とネプテューヌ達の距離が近過ぎるから。こんな状態じゃ、私達自身が遠隔攻撃の邪魔になってしまうから。前衛しかいないネプテューヌ達側は、一見前衛も後衛もいる私達より組み合わせとして不利なように見えるけど、実際総合的に見れば不利なんだけど……こういう状況を作ってしまえば、こういう形で遠隔攻撃を大幅に牽制出来るって意味では、むしろネプテューヌ達の方が有利。

 

(……っ…流石、皆…ッ!)

 

 斬撃を凌ぎ、刺突を避け、打撃を何とか逸らしながら、私は歯嚙み。分かっていた、分かってはいたけど…やっぱり強い。ネプテューヌ達は、個の実力も連携能力も凄まじく高い。

 あぁ、でも…それを、相手にしなきゃいけないんだ。今ここで、突破しレイを追うのなら……そして、ネプテューヌ達を私達の力で取り戻すのなら。




今回のパロディ解説

・あんたバカァ?
エヴァンゲリヲンシリーズに登場するキャラの一人、惣流(式波)・アスカ・ラングレーの代名詞的な台詞の一つのパロディ。でも今回言っているのはレイですね。

・「〜〜皆、カニ…あの力は使わないでよッ!」
起動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、イアン・ヴァスティの台詞の一つのパロディ。これはただのパロディです。別にそれ以上の意味はありませんよ。
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