超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百十五話 飲み込む凶乱

 初めにカニバルファームを試したのと同じ平原。そこに今日、四人にはまた集まってもらった。

 

「皆、ちゃんと準備してきた?」

「そ、それはまぁ…して、きましたけど……」

 

 いつものように皆を見回して、尋ねるように私は言う。皆、表情からしてやる気はあるみたいだけど…同時にまだ、戸惑ってもいる。ネプギアは、声にも戸惑いが籠っている。…でもまあ、それはそうだよね。

 

「…じゃあ、まずは質問を聞こうか。疑問があるままじゃ、集中力にも影響が出るしね」

「あ、っと…それならわたしから良いですか?」

「勿論」

「予定じゃ、模擬戦はもう少し後でしたよね…?なのに、どうして急に……」

 

 予想通りの質問を口にするネプギア。それにユニ達も頷いて、その理由の説明を求めてくる。

 そう。元々の予定じゃ、模擬戦はまだやるつもりがなかった。少なくともカニバルフォームの力を安定して、過不足なく使えるようになるまでは、模擬戦をするのは危険だから。それは皆にも納得してもらっていたし、気になるのも当然の事。…けど別に、私だって安易に考えを変えた訳じゃない。

 

「そうだね…理由を挙げるとするなら、まずはちゃんと皆の『今』を知りたいからかな。昨日も言ったけど、何をどこまで出来て、何をもっと伸ばした方が良いか分からないと、闇雲に頑張る事になっちゃうでしょ?」

「それは、確かに……」

「二つ目は、戦闘におけるカニバルフォームを、しっかりと見ておきたいからだね。個人の訓練じゃ見れるものも限られるし、カニバルフォームそのものをきちんと把握しておきたいの」

「それも、その通りですね…アタシも同感です」

「で、最後は…その方が皆の為になるかな、って思ったからだよ。正直今までの訓練じゃ、『これで足りてるのかな…』って思っちゃってるでしょ?」

「ほぇ…?わ、わかるの…?」

「…イリゼちゃん、エスパー…?」

「ははっ。私だって、伊達に皆の先生をしてきた訳じゃないからね」

 

 一つ一つ指を立てながら説明をすると、皆は頷いたり驚いたりしながら、三つ全てに同意の意思を示してくれる。…良かった、一つ目二つ目はともかく、三つ目を「そんな事ないですよ?」って言われたら、私赤っ恥だからね。

 

「ざっくりした説明だけど、理由は主にこの三つだよ。分かってくれた?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「なら、次はアタシから。理由は分かりましたが…危険な事には変わりないですよね?」

「そうだね。…だから今回、私は本気でいくよ。危ないからこそ、私は模擬戦に全力を注ぐ。…その結果疲弊したところで何かあったら、自分達が何とかするって、皆が言ってくれたからね」

 

 私がそう言った瞬間、本気でいくと口にした瞬間、皆の表情が引き締まる。危険に対して、皆はたったそれだけで納得してくれる。

 何かあったら…なんてさらりと言っちゃったけど、今で言う『何か』は、ネプテューヌ達やレイの攻撃だって当然含まれる。でも、コンパもアイエフも、第三期パーティー組の皆も、更に言えば他の皆だって協力してくれると言ってくれた。…だったら、それに頼るのが私。勿論、実際そうなったら私だって急行するけど…私は皆を頼る事に、躊躇いはしない。

 

「…まだ、質問はあるかな?」

 

 一拍置いてから私が次の言葉を、確認を口にすると、四人は首を横に振る。…なら、これ以上の話は必要ない。と言うより、模擬戦して、その結果から分析して、これからする事も考えなきゃだから、今日は特に時間を大切にしたい。

 引き締まったままの顔をしている四人の立ち姿を確認して、それから私は少し後ろへ。遠過ぎず近過ぎずの距離まで下がって、女神化したままの皆へと視線で合図。

 

「…始めよう、皆」

 

 私からのアイコンタクトを受け取った四人は、ネプギアの声を合図にカニバルフォームを発動。これでと同じように、四人のプロセッサユニットの色が変わり…でも今日は、それだけじゃない。

 

「…カニバルフォーム用のプロセッサ、出来たんだね」

「はい。でもまだ、未完成です。イリゼさんが言った通り、アタシ達もまだカニバルフォームを把握し切れてる訳じゃないですから」

「でも、ちゃんとたたかえるよ」

「そっか。なら、いつでもおいで。でも先手を譲ってくれるのなら、その時は仕掛けるからね。…一対四なんだから、手加減は期待しないでよ?」

 

 長剣を手に、私は言う。もう思考は戦闘のそれに切り替えて、神経も張り詰めて、いつでも動ける体勢を作って。

 実際、今のネプギア達相手に一対四で手加減なんて出来る訳ない。ちゃんと連携出来る今のネプギア達なら、カニバル無し且つ一対二でも負ける可能性がそれなり以上にあるんだから。

 でも、だからって負ける前提で戦う気はない。これは見極める戦いなんだから…全力は、尽くす。

 

「…………」

 

 誰も動かず、沈黙だけが広がっていく。五秒と過ぎ、十秒と過ぎ、四人は私に動かせようとしているのかもしれない、そう思った次の瞬間…ユニが動く。

 一瞬でも余所見をしていたら間違いなく反応が遅れてしまうような、早撃ちの一発。それをその場で斬り払った瞬間、私の眼前に迫る複数の光芒。まぁそりゃ、私は近接戦メインで、あっちは中衛一人に後衛三人なんだから……

 

「まずは集中砲火で削ろうとするよね…ッ!」

 

 ネプギア、ロムちゃん、ラムちゃんからの三方向同時攻撃を飛び退いて避け、私は旋回。そこへユニも加わった四人による対空砲火が叩き込まれ、私の視界へ飛び込んでくる無数の光。

 先手とそこからの一手は、ネプギア達が完全に取った。迷い始める絶妙なタイミングで仕掛けた、ユニの判断もかなり良い。…でも、模擬戦はここから。技術や判断ではなく、カニバルフォームの『力』が現れてくるのは、ここからの勝負。…さぁ、見せてもらうよ。皆のカニバルフォームでの実力を…!

 

 

 

 

 先制を取ったユニちゃんの一発で始まった、イリゼさんとの模擬戦。初めはわたし達が優勢で…でもそれは、そう長くは続かなかった。

 

「ふッ…せぇいッ!」

「く……ッ!」

 

 圧縮シェアエナジーの爆発を利用し、無茶苦茶な軌道を描きながら急降下を仕掛けてきたイリゼさんの斬撃。速度も重みもあるその攻撃をわたしはM.P.B.Lの刀身で受け、即座に下がる。

 これが一対一の勝負なら、みすみす追撃のチャンスを与えてしまう事になる。でもこれは、一対四の勝負。つまり、わたしが狙われている間は……

 

「そこッ!」

「もらったわッ!」

 

 得物を振り抜いた状態となったイリゼさんの背後へ放たれる、ユニちゃんの射撃とラムちゃんの魔法。それをイリゼさんは視認する事なく、即座の回転斬りで両方対処し……そこへ、更に、ロムちゃんが追撃。敢えて近い方向から撃った二人と違い、ロムちゃんの魔法は全く別方向からの攻撃で…でもそれにも、イリゼさんは対応する。足元に小型の盾を精製し、それ越しに魔法を蹴り付ける事によって。

 

「こうして改めて模擬戦すると、よく分かるね…!四人の連携、一段と良くなってるじゃん…ッ!」

 

 対応後即座に攻勢へ移ったイリゼさんから投げかけられる言葉。普段だったら、そう言われるのは嬉しいけど…今は、それに一喜一憂しているような状況じゃない。

 

(こっちこそ、改めてやってみると分かる…イリゼさんは、強い……ッ!)

 

 四対一だから、やられる…って瞬間はそうそうない。このまま戦っていれば、いつかは勝てそうな気もする。…だけど、恐ろしい。だとしても、恐ろしい。だって…四対一なんだから。普通に考えたら、余裕で勝てる筈なんだから。イリゼさんは無理には攻めず、防御と回避を主体に、一瞬の隙を見切って仕掛けるって動きをしているから、持ち堪えられてるって面もあるんだとは思うけど…それだって、わたし達も女神。なのに…四対一でも、まともな『戦闘』の形になるなんて…ッ!

 

「…でも、それなら…もっともっと、ギアを上げる……ッ!」

 

 心の中に湧き上がる焦燥。不安と自分へ対する苛立ち、それが混ざったような気持ち。今はカニバルフォームになっているのに、わたし達は一対一でもお姉ちゃん達と勝てる位にならなきゃいけないのに、四対一でこれじゃ…話にならない。

 じゃあ、どうするか。…そんなの、もっと攻めるしかない。もっともっとカニバルフォームの力を引き出して、もっともっと力を注いで、打ち砕く他ない…ッ!

 

「皆ッ!イリゼさんは、わたし達の戦い方を知ってる!なら、いつも通りの戦い方じゃ……」

「むしろ戦い易くしちゃうって訳ね…ッ!」

「だったら…ッ!」

「それ、なら…っ!」

 

 皆へ声を掛けると同時に、わたしは突撃。射撃を掛けながら、イリゼさんへと距離を詰める。

 近接戦主体の相手へ対するセオリーである、常に距離を開け続けるという策を自分から捨てた事に、イリゼさんはぴくりと眉を動かして…でも、反応として見えたのはそれだけ。軽く剣をその場で振るうと、イリゼさんもまた突進してくる。そしてわたし達は…激突。

 

「はぁああああぁぁぁぁッ!」

「……っ…!良い思い切りだね…でもッ!」

 

 刃と刃がぶつかり合った瞬間は拮抗。でもわたしはそのまま力を込める事で、力任せの突破を図る。

 それは流石に驚きだったみたいで、目を見開くイリゼさん。だけどその次の瞬間には身を翻し、わたしを勢い余らせる事で攻撃を凌ぐ。

 

「ぐッ……皆ッ!」

「分かってるわよッ!」

 

 投げ出される形になったわたしだけど、ここまでの間に皆は十分準備が出来てる筈。そう思って叫ぶと、ユニちゃんから強めの返事が返ってきて、また三方向からイリゼさんへと攻撃が襲う。

 わたしと同じように自分の中のギアを上げたのか、さっきまでよりも強い攻撃。防御に動いたイリゼさんは仰け反って…でもそこから即座にシェアエナジーの爆発を使う事で急速離脱。ほんの僅かに間に合わなかったわたしの射撃は、イリゼさんがいた場所を駆け抜ける。

 

「おっそいネプギア!」

「もうちょっと、だったのに……」

「ま…まだチャンスはあるよッ!それに、惜しくはあったんだから…ッ!」

 一歩間に合わなかった。でもそれは言われなくても分かってる。分かってるし、今はそこを一々気にしてる場合じゃない。少なくとも、今のは惜しかったんだから。方向性は、間違ってないんだから。

 撃ち込まれる剣を避けながら、わたしは再び突撃開始。でも今度は下がられる。…当然だ、さっきと同じ流れなんだから、そうしない訳がない。

 

(けど、それなら皆が退路を塞いでくれる…カニバルの火力なら、軽々とは突破なんてされない筈……!)

 

 これを強みっていうのは悔しいけど、わたし達にとって一番有利なのは数。四人で畳み掛ければ、絶対勝てる筈。そう思ってわたしは、乱射しつつそのまま突撃し…そして予想通り、イリゼさんの退路を防ぐ形でビームと魔法が空から飛来。

 だけど、それをイリゼさんは避けた。特別な何かをした訳でも、別の要因があった訳でもなく…単純に、攻撃と攻撃の合間へ身体を滑り込ませる事によって。

 

「……っ!?駄目だよ三人共ッ!それじゃあイリゼさんには当たらないよ!?カニバルだからって加減するようじゃ、敵う訳ないでしょ!?」

「べ、別に加減なんてしてないわよッ!さっきアンタだって外したんだから、おあいこでしょ!?」

「おあいこって……!」

 

 想定の外れたわたしが反射的に声を上げると、飛んできたのはユニちゃんの反論。気持ちは分かる。失敗した時は、つい言い返したくもなっちゃうから。

 でも、幾ら何でもおあいこはない。そんな、自分は悪くないみたいな言い方は、流石にわたしも流せない。それに三人で狙えた今と、わたし一人で狙ったさっきを同列にするのも……

 

「仲間割れ、してる場合ッ!?」

「なぁ……ッ!?」

 

 次の瞬間、声と共に振るわれる刃。その一瞬、思考が逸れていた一瞬で、イリゼさんはわたしへと接近し…長剣も作り出した片手剣の双剣で、左右からわたしに仕掛けていた。

 咄嗟の反応で出来たのは、ギリギリの防御だけ。わたしは弾かれ、立て直そうとし…でもイリゼさんの追撃が、それを許してくれない。

 

「四人共、少し動きが雑になってるよ!力が上がった分難しいのかもしれないけど、もう少し落ち着いて!皆なら出来る筈だよッ!」

「そう、言われッ、ても……ッ!」

 

 次々放たれる剣撃を、寸前の所で何とか弾いて隙を探す。でもわたしは体勢が崩れたままだから、出来そうな瞬間が見えてもそこに間に合わない。そしてわたしとイリゼさんとの距離が近いせいで、前回お姉ちゃん達と戦った時と同じように、三人の援護にも期待が出来ない。

 それでも何とか凌いでいる内に、回り込んできたロムちゃんとラムちゃんの風魔法がイリゼさんを妨害。連撃から脱したわたしは上昇を掛け、射撃用のエネルギーをチャージ。

 

「二人共そのまま押さえててッ!ユニちゃん、おあいこだって言うなら今度こそ……」

「え、お、押さえる…!?」

「今は立てなおすタイミングじゃないの!?」

「えぇッ!?折角のチャンスに何を……って、また…ッ!」

 

 攻撃能力は低くても広範囲に行動の制限をかけられる烈風なら、今度こそ当てられる。三度目の正直になる。…そう思って即座の行動へ移ったのに、そこにあったのは認識の齟齬。結果わたしは攻撃に移れず、立て直しも齟齬の分遅れて、その間にイリゼさんは烈風から脱出。三度、短時間の間で三度もチャンスがあったのに…どれも、ものに出来なかった。

 

(落ち着いて…落ち着いてよ皆…!全然分かってない、集中出来てないじゃん……!)

 

 気持ちは分かる。相手はイリゼさんだもん。カニバルフォームの制御にも意識を割かなきゃいけないんだもん。…でも、三回共皆、全然分かってなかった。ちゃんとわたしの考えまで察せていればもっと上手くいってた筈なのに、もっとしっかりわたしに合わせていればこうはならなかったのに、それが出来なかったから今もイリゼさんは健在。疲労はしていても、それ以上の状態にはない。

 模擬戦は続く。守りに入ったら負けるって、攻めなきゃ駄目だって認識は共有出来ているから、一人一人やられるって事は起きていないけど……かなりの時間が経った今も、戦況は変わらないまま。

 

「ネプギアもっと前出てッ!ロムとラムは逆に前出過ぎッ!三人同時に翻弄されてどうすんのよッ!」

「でもさっき、ユニちゃんが…!」

「そーよ!前おねがいって言ったのはユニでしょ!?」

「そういう話は後にしてよ三人共ッ!あぁっ、もうッ!」

 

 後衛の三人へ接近しようとするイリゼさんを何とかわたしが食い止める中、聞こえてくるのは苛立ちを感じる声。だけど、一番叫びたいのはこっち。皆と違ってわたしは必死なんだから。近接戦の距離まで迫られたら不利どころの騒ぎじゃない三人を守る為に、精一杯食らい付いているんだから。

 その後やっと援護が再開されたけど、飛ぶ攻撃はさっきまで以上に煩雑。高威力ではあるけど、いつもよりその内容は信頼出来るものじゃない。……っ…いいよ、それなら…ッ!

 

(どっちにしろ、お姉ちゃん達とは一対一で勝つ事が目的なんだもん…その、予行演習だと思えば……ッ!)

 

 妨害をする動きから積極的に仕掛ける動きにわたしは切り替え、数発の偏差射撃で注意を引いてわたしは突進。逆袈裟の要領で斬りかかると、イリゼさんは宙でバックステップをするように避ける。

 ならばとわたしは更に振るい、斬撃による追撃を敢行。イリゼさんは付かず離れずの距離を維持し、回避を主体に立ち回る。それが何かのタイミングを狙っているのか、単純にわたしの動きを観察してるのかは分からないけど…いや、どっちだっていい。余裕を感じてるなら、それを後悔するような攻撃をすればいいだけ。

 横薙ぎ、刺突、回転斬りに隙間を埋める手足の打撃。次第に距離が縮まりつつあったからか、ある時イリゼさんはわたしを飛び越える形で縮んだ距離を戻そうとする。…だけど、それこそがチャンス。ここだと感じたわたしは、意図的にしないようにしていた射撃を解放し、振り向きざまの連射で一気に勝負を掛け……

 

「──周りが見えてないよ、ネプギア」

「え?……ッ!?」

 

 次の瞬間、わたしは愕然とした。イリゼさんの後方、射線の先…そこには、ユニちゃん達がいた事に。

 ひらりとイリゼさんが身を躱した結果、放った光弾はユニちゃん達へ。ギリギリのところで避けられたから、最悪の結果にはならなかったけど……今のは、完全にわたしのミス。

 

「…ぁ…ご、ごめんみん……」

「ちょっと…射線管理は射撃の基本でしょ!?」

「今はさみうちにしようとしてたのにっ!」

「ネプギアちゃん…ひどい……!」

「……何、それ…」

 

 理由はどうあれ、ユニちゃん達に当たりかけたのは事実。だから悪いと思って、すぐに謝ろうとしたのに…それを言い切るより早く、三人からぶつけられる非難の言葉。……あんまりだ、あんまりだよ。わたしは真っ先に謝ろうとしたのに、それも聞かずに非難してくるなんて。元はと言えば、三人の援護が危なっかしかったのも、この結果に繋がった要因の一つなのに。なのにわたしの気も知らず、自分の主張だけをするなんて事……

 

「ストップストップ!…どうしたの、皆。さっきから四人の動き、全然普段の皆らしくないよ?」

 

…その時、次の手へ移る動きを止めて、わたしとユニちゃん達との中間辺りへ飛んでくるイリゼさん。構えを完全に解いたイリゼさんに、警戒の雰囲気はなく…表情も、不安げ。

 

「それは…今のは、ネプギアが……」

「うん、確かに今のはユニ達が怒るのも無理はないと思うよ。けど模擬とはいえ、今は戦闘中だよ?その最中にする反応として、今のは適切だった?」

『…………』

「とはいえネプギアだって、ちゃんと大体でも位置関係を覚えていれば回避出来たミスな筈。…もしかして皆、調子悪い?それとも気掛かりな事があって集中出来ない?」

「…そういう、訳じゃ……」

「なら、どうして?これだけははっきり言っておくけど…今の皆の戦い方は、乱暴だよ?危ないとは思うけど、怖くはないよ?」

『……っ…!』

 

 仲裁するように話すイリゼさんは、わたし達双方に指摘をしてくる。…その指摘は、間違ってない。わたしへ対する指摘は、実際わたしのミスだから。

 けれど、集中出来てない訳じゃない。集中はしてるし、調子が悪くもない。皆はそうかもしれないけど、わたしは違う。

 なのに発されたのは、「怖くない」という言葉。脅威を感じない、全然強くないという意味の突き付け。…そんな筈、ないのに…危険な方法だって聞いて、ちゃんと考えて、それでも使う事を決めたのに…なのにそれが、怖くないなんて……っ!

 

「…皆……?…やっぱりちょっと、皆変だよ…感覚的な話だけど、何かおかしいって……」

「おかしいって、何ですか…ただおかしいとだけ、言われたって……」

「それはそうだけど…とにかく皆、一度頭を切り替えて。…これじゃあ、駄目だよ。これなら…カニバルフォームなんて使わない方が、皆は強い」

「……ッ!」

 

 ふつふつと、心の中で何かが上がっていく。黒い何かが、暗い何かが、忍び寄るように膨らんでいく。

 イリゼさんが怪訝そうな顔で言った言葉に、吐き捨てるようにわたしは返す。我ながら、今の返し方は少し良くないとも思ったけど……次の瞬間、イリゼさんは言った。今のわたし達は、弱いって。頑張ってるのに、覚悟を決めてやってきたのに、それが全くの無駄だって。それを聞いて、そう言われて、わたしは…わたしの中では…………

 

 

 

 

 

 

──怒りが、湧き上がる。恨みが、憎しみが、不愉快さが噴出し……そして頭が、心が、黒く染まる。

 

(…偉そうな顔…しないで下さいよ……)

 

 苛立ち、腹立たしさ、不快感。それが、イリゼさんに向く。…いや違う。そういう思いを、イリゼさんが抱かせる。

 確かに、イリゼさんは実力がある。知識も、経験もある。だけど、カニバルフォームに関しては無知。実際に使っている、自分の身で感じているわたし達の方が知っている筈で…なのに、偉そうにしている。分かってない癖に、分からない癖に、偉そうに指示している。正しいのは自分で、わたし達が間違っているかのように言ってきている。

 それにそもそも…そもそもはイリゼさんが、あの時あんな提案をしたから、こうなったのに。あの時行こうって言わなかったら、違う提案をしていたら、お姉ちゃん達は無事だったかもしれないのに。なのにそのイリゼさんが、偉そうに振る舞うっていうの?…そんなの……

 

「……そうですね…もしかしたらわたし、何かおかしいのかもしれません…」

「…ネプギア?」

『…………』

「え、み、皆も大丈夫?ほんとに何かあるなら、気なんか遣わずに言っ……」

 

 だらんと脱力するように、M.P.B.Lを下ろすわたし。見てもいないけど、皆も似たような事をしているらしくて、イリゼさんは本当に心配そうな声を上げる。

 その声音のまま、イリゼさんはわたしの方へ。わたしの思っていた通りに、期待通りに近寄って来てくれたイリゼさんへ、わたしはにこりと微笑みかけ……そして、M.P.B.Lを振り抜く。

 

「え……?」

「──駄目ですよぉ、イリゼさん。そんな気を抜いて近付いて来ちゃ。まだ、模擬戦終了とも、一旦休憩とも…言ってないですよねぇ?」

 

 

 

 

 女神候補生の四人、ネプギア達四人は、本当に仲が良い。いつでも互いを気遣い、支え合い、手を取り合う事でこの力もチームとしての力も高めているのがこの四人だって、私は思っている。

 そんな四人の連携に、明らかな不協和音が生じている。有り体に言えば、文句を言い合っている。明らかにおかしいそれに、私は危機を感じて、一旦四人の体調を確認する事にした。同時にはっきりとも言う事にした。私はキツい言い方をするのは嫌いだけど…それは、嘘を吐くって事ではないから。

 その最中、どんどん表情が曇っていき、遂に覇気すら消え去ってしまった四人。もうこれは不味い、間違いなく深刻な何かが起きてると分かった私は、ネプギアに近付き……次の瞬間、M.P.B.Lを振るわれた。瞳に暗い光を灯し、嘲笑するような笑みを浮かべたネプギアによって。

 

(……っ…一体、何が……ッ!)

 

 容赦無く襲い掛かる、四方からの遠隔攻撃。ただ容赦が無いだけじゃない…明確な敵意が、負の感情の籠った弾丸と魔法が、私に迫る。

 プロセッサの翼を姿勢制御能力重視の形態に可変させた状態で、左手にも精製したバスタードソードを持ち、何とか次々と斬り払う事で凌いだ私は、一旦四人から距離を取ろうとする。本来ならむしろ、接近する方が戦い易くなるものだけど…そうはいかない。

 

「逃がしませんよぉ、イリゼさぁん!」

「ほらほらぁ!にげてるだけなのー?」

 

 離れようとする私に射撃を続行しながら突進してくるのはネプギア。でも、追い掛けてくるのはネプギアだけじゃない。ラムちゃんも別方向から、まるで近接戦を仕掛けるかのように突っ込んでくる。

 これだ。まず怖いのがこれだ。ネプギア以外、何か奇策がある上でならともかく、そうじゃないなら接近するなんて愚の骨頂。自分の得意距離を捨てて、相手の土俵へ向かうなんて、間違い以外の何物でもないのに、それを平然と仕掛けてくる。そんな事をすれば、どこでどんな事故に繋がるか分からないのに、それを三人共してくるから、逆に私が距離を取らないと危な過ぎる。…ただそれでも、これはまだ優しい方。もっと、もっと危ないのは……

 

「……ッ!あっぶないわねユニ!どこねらってんのよ!」

「はぁ?そう思うなら、どっか隅っこ行ってなさいってのッ!」

 

 接近を続けていたラムちゃんの妨害をするように、邪魔になってしまっても構わないとばかりに、ユニの放つ光芒が私へ走る。それは冷静なユニらしくない、さっきのネプギアに怒ってたユニとは思えない行動で……でも、紛れも無い事実。

 これが、恐ろしく思うもう一つの理由。はっきり言ってしまえば、今の四人はフレンドリーファイアを恐れていない。某ブーステットマン組を笑えないレベルでお構いなしの攻撃をしてくるものだから、今の私は四人を守りながら四人と戦っているようなもの。

 

「…うるさい……」

 

 策がなければ切り抜けられない。切り抜けるどころか、皆が同士討ちすら始めかねない。そんな状況に焦りそうになる心を必死に抑え、全力で頭を働かせる中、冷淡な声でロムちゃんが幾つもの氷塊を落としてくる。援護と支援でパーティーから絶大な信頼を寄せられているロムちゃんが、周りを一切気にせず自分一人で動いている。そして恐らく…それも、戦術じゃない。

 

「…やっぱり、皆……」

 

 おかしいなんてレベルじゃない皆が、どうしてこうなってしまったか。…あるとすれば、それはきっとカニバルフォームの…取り込んだ負のシェアの影響。人は濃度の高いシェアエナジーを浴び続けると正負問わず汚染されてしまうものだけど、女神だってシェアエナジーによって形作られる、シェアに応える存在である以上、影響を受けている可能性は十分にある。

 であれば…私が何とかしなきゃいけない、四人がそうなってしまった責任は、模擬戦という形で全力を引き出させたこの私にあるんだから。そうでなくても…今の四人を、放っておくなんて出来る訳ない。

 

(けど、この状況で私が取れる手と言えば、乾坤一擲…一か八か、一気に勝負をかけるしかない……!)

 

 捌き切れなかった攻撃によって、少しずつ数が増えていく。今のところはどれも軽傷で済んでいるけど、それもいつまで続くか分からない。一対四な以上、最初から消耗の面じゃ私の方が圧倒的に上で、シェアエナジー量が追い付かなくなってしまえばどうしようもなくなるんだから。

 でもそれに対しては、何も怖いと思わない。それよりも何とか止めて、四人の安全を確保しなくちゃって思いの方がずっと強い。そしてその瞬間は…驚く程早く、やってくる。

 

「流石ですよイリゼさん。ほんっとうに…しぶといん、ですからぁッ!」

「……ッッ!」

 

 氷塊を避け続け、最後の一つはオーバーヘッドキックで弾いた直後、上方に感じたネプギアの気配。振り返ればそこにはやはり、ビームを刀身に纏わせ大幅に延長したネプギアの姿。

 既に攻撃態勢には入ってる。考えてる余裕はない。だけど…近接戦の心得もあるネプギアなら、そのネプギアが純粋な近接攻撃を仕掛けてくれるのなら、一気に勝負をかけられるかもしれない。

 そう思って、直感的にそう感じて、私も動いた。圧縮シェアエナジーの爆発を使い、一気に懐に飛び込み……私は、気付いた。他の三人も、既に攻撃出来る体勢にある事に。

 

「……ッ…こ、のぉおおおおぉぉッ!」

 

 迷う時間はない。迷える時間は、一瞬足りともない。だから私は、肉薄した私は、左手のバスタードソードを離し……ネプギアを突き飛ばす。

 もしかしたら、杞憂かもしれない。ネプギア諸共なんて、しないかもしれない。だけど、万が一の事があったら…そう思ったら、これ以外私は選ばなかった。だから私は突き飛ばし、この場から離す事へ行動を費やしてしまった私は……左右から放たれた魔法の帯によって、右腕と左脚を囚われる。

 

「あはっ!つかまえたぁ!」

「もう、にがさない……」

「……ッ!皆!私はッ、皆を……ッ!」

 

 引き千切らんばかりの力で引かれる四肢の二つ。四人へ、大切なネプギア達へと声を上げる私。その私の視界へと移るのは、銃口に光を浴びさせたネプギアとユニの姿。冷たく私を見据える、四人の瞳。そして…………

 

 

 

 

 わたしだって、時には怒ったり、悲しくなったり、何かを不愉快に思ったりする事はある。だってわたしにも、感情があるんだから。女神だって、明るい感情ばかりを抱く訳じゃないんだから。

 だけど今は、何か違った。もっと黒い何かが、どんどんその深みを増していく暗い沼の様な何かが、心の中にあるようだった。

 自分でもよく分からない。理解出来ない。ただそれが、酷くいつものわたしとはかけ離れたもののような気だけしていて……いつの間にかわたしは、どこまでも冷たい気持ちになっていた。

 

「……ぁ、れ…?」

 

 気が付いた時、抱いていたのは目が覚めたような感覚。その感覚に気付くのが先か、その感覚があって気付けたのか、それすらわたしには分からなくて…だけど周囲の状態を見て、驚く。

 

「……!…これって……」

 

 知らない内に着地していたらしいわたしが見回すと、そこには酷い有り様の草原。確かにわたし達は、ここで模擬戦をしていたけど…それを差し引いても、地面が酷く荒れている。

 と、そこで呼ばれる名前。それはカニバルフォームを解いたロムちゃんとラムちゃんの声で、振り向けば少し離れた所にはユニちゃんもいて…浮かべているのは三人共、どこか釈然としないような、戸惑った顔。

 

「うぅ、気持ちわるい……」

「…皆…わたし、一体……」

「その口振り…ネプギアも、覚えてないの…?…それに、この状況って……」

「…ねぇ…イリゼさん、は……?」

 

 合流すると、皆もわたしと同じような状態らしい。それにロムちゃんの言う通り、イリゼさんの姿が…イリゼさんだけが見当たらない。

 いないって事は、帰っちゃったのかもしれない。まだはっきりとは覚えてないけど、模擬戦の内容に対してイリゼさんは良い評価をしてなかったし、怒って帰ってしまったのかもしれない。……そんな事は、思わなかった。だってイリゼさんは、そういう人じゃないから。最初から最後まで、丁寧に付き合って指導してくれる人だから。

 なのに、イリゼさんがいない。いないから…わたしの心には、不安が広がる。

 

「…探して、みようよ。探さないと……」

 

 何か、あったのかもしれない。大きな問題が、起きたのかもしれない。そう思ったわたしは、言うと同時に軽く地面を蹴って飛翔。低空飛行で、イリゼさんを探し始める。

 すぐに付いてきてくれる三人。四人で飛びながら見回してみるけど、見当たるのは抉れた地面や、黒焦げになった草ばかり。その内一際酷い、かなり大型の爆弾やミサイルが落ちたのかと思う程に岩盤が見えている場所があって…心の中にあった不安が、一気に上昇。焦燥感に変貌し、背筋に感じる嫌な汗。

 

(…ま、さか……)

 

 早く確認しなきゃという思いと、それが怖いという思いの両方に心を締め付けられる中、わたし達は近付く。近付き、目を凝らし、クレーター部分の縁を超え、そして……

 

「…ぁ……は、は…良かった…皆…漸く、正気に…戻ったん、だ…ね……」

『…あ、あぁ…ああああ……イリゼさんッ!!』

 

──そこに、イリゼさんはいた。クレーターの中心部分で、捲れ上がった大地の底で、ぐったりと身体を横たわらせた姿で。

 わたし達を見たイリゼさんは、安堵したように小さく笑う。……その身体に、無数の傷が出来ていた。数え切れない位の軽傷と、複数の酷い怪我が、イリゼさんの身体を血に染めていた。氷刃が突き刺さり、焼けた弾痕を作り、その身に幾つも裂傷が出来た状態で……それでもイリゼさんは、わたし達を…わたし達の事を見て、「良かった」と言っていた。

 否定出来ない。否定のしようがない。嗚呼、そうだ。そうなんだ。イリゼさんを、イリゼさんへここまでの傷を負わせたのは……──わたし達だ。




今回のパロディ解説

・見せてもらうよ。皆のカニバルフォームでの実力を…!
ガンダムシリーズに登場するキャラの一人、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。今回は期せずして、全てガンダム作品からのパロディとなりました。

・守りに入ったら負けるって、攻めなきゃ駄目だって
機動戦士ガンダム MS08小隊の主人公、シロー・アマダの台詞の一つのパロディ。当たり前ですが、戦闘中の台詞は戦闘シーンでもパロディとして出し易いですね。

・某ブーステットマン
機動戦士ガンダムSEEDに登場する、用語の一つの事。前にパロディに出した、生体CPUの事です。いや勿論、カニバルフォームは投薬で行っている訳ではありませんが。


 前回の後書きにも書きましたが、今後の投稿に関する重要なお知らせを活動報告に載せました。一度ご確認頂けると助かります。
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