超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百十六話 私は信じる、私が信じる

 何も覚えていない。思い出せない。…だけど、目の前に今あるのは事実だ。紛れもない、疑いようのない…目を逸らしようのない、本物の現実がそこにはあった。

 

「イリゼ、さん……」

 

 幾つもの傷を負い、倒れ伏していたイリゼさん。そのイリゼさんを、すぐにわたし達はプラネタワーへと運んだ。ロムちゃんとラムちゃんに治癒魔法をお願いして、ユニちゃんと二人で、出来る限りイリゼさんの身体を揺らさないように。

 二人共一流の魔法使いだけど、治癒魔法は基本的に一時凌ぎ。だからわたし達には、一旦和らげる事と、迅速にちゃんとした治療を受けられる場所へ運ぶ事しか出来なかった。…わたし達の、責任なのに。わたし達が…イリゼさんに、あれだけの怪我を負わせたのに。

 

「…ここにいたか」

 

 プラネタワーの上層階、リビングの様になっている部屋。イリゼさんをコンパさん達に任せたわたし達は、それからここにいた。治療を受ける事になるイリゼさんへ付いていかなかったのは…そうして良いのか、分からなかったから。酷い怪我を負わせたわたし達が、今はもう何も出来ないのに、付いていく事だけはするなんて…そんな虫のいい話は許されないような気がしたから。

 そんなわたし達の下へ訪れたのは、マジェコンヌさん。部屋の中へ入ってきたマジェコンヌさんは、静かにわたし達へ呼びかける。

 

「マジェコンヌさん…どうか、しましたか…?」

「…話は聞いた。それと、イリゼの治療も順調らしい。少なくとも、命に別状はないだろう」

『……っ…!』

 

 呟くようなユニちゃんの問いに、マジェコンヌさんはふっと表情を緩めて回答。その内容、イリゼさんの命に別状は

ないって言葉を聞いた瞬間…はっとしつつも、わたし達は安堵。

 深い傷はあっても、致命傷やそれになりかねないレベルの怪我はないって事は、わたし達も訊いていた。だけどやっぱり、実際に治療が進んだ上で大丈夫だって事を知らされると、凄く凄く安心する。安心するし…感嘆の念も、心に広がる。最後までイリゼさんは、自身への致命傷は許さなかったんだって。

 でも、マジェコンヌさんはただそれを伝える為だけにきた訳じゃないらしい。それを示すように、マジェコンヌさんは一度言葉を切り…わたし達の顔を見回した後、また口を開く。

 

「…済まない。君達に対して、まともな助言の一つもしてやれなくて……」

「そ、そんな…これは、マジェコンヌさんが謝るような事じゃ……」

 

 マジェコンヌさんが口にしたのは、謝罪の言葉。それは形だけじゃない、本当に申し訳なさそうな表情と顔で…わたしはふるふると、首を横に振る。だって今回起こった事と、マジェコンヌさんとは無関係なんだから。上手く思い出せないけど…それでもきっと、悪いのはわたし達なんだから。

 

「君達も知っての通り、私も嘗ては負のシェアを用いて戦っていた。それを自らの力としていた。だからこそ、もっと多くの時間を君達に割き、この目で何度も直接見ていれば、或いは…今回の様な件は、避けられたのかもしれない。そうでなくとも、似た経験をしたものとして、何か……」

「…ううん…(ふるふる)」

「うん…ちがうの、マジェコンヌさん…」

「…違う?」

「…二人の、言う通りです。確かにマジェコンヌさんの言う事も、一理あるのかもしれませんが…最後はやっぱり、自分達だと思うんです…最後の部分、一番大事な部分を選ぶのはわたし達自身で…それが足りなかったから、まだ弱かったから、わたし達はイリゼさんをあんなにも傷付けてしまった……だからこれは、わたし達の弱さが招いた結果…なんです…」

 

 覚えていないのも、その間にイリゼさんを傷付けてしまったのも、わたし達がカニバルフォームを制御出来なかったから、逆に飲まれてしまったから、その結果起こった事。…そこからは、本当に目を背けちゃいけない。そこから背けたら…きっとまた、わたし達は同じ事になる。

 それにこれは、カニバルフォームだけの話じゃない。力を制御出来ないんじゃ、弱いままじゃ…何も出来ない。

 

「そうか…だが、自分達を過剰に卑下する事は、何にも繋がらない。過剰な自信は慢心となるように、過剰な卑下は力を振るう腕を鈍らせる。省みるべき事柄を見誤らない…それは深さも含めたものだという事を、どうか忘れないでほしい」

「…はい。…すみません、マジェコンヌさん…アタシ達、気を遣わせてしまって……」

「何、気にする事はない。ただ他人事には思えなかったというだけさ。…しかし……」

『……?』

「…気を遣ってる、とはとても言えない内容だな…どうも私はこういう事が苦手で困る……」

「…その…マジェコンヌさん…それで言うと、その発言もかなり反応に困ります……」

「…申し訳ない……」

 

 言うべきかどうか迷って、でも結局言ったわたしの言葉に、しゅーんとなるマジェコンヌさん。確かに、マジェコンヌさんの口振りは全体的に硬くて、お姉ちゃんやイリゼさんとは全然違って…でも、心配してくれてる事は分かる。その気持ちは、伝わっている。

 

「…こ、こほん。ともかく…何かあれば、私も相談に乗る。何せ、負のシェアの扱いに関しては、私に一日の長があるのだからな」

「いちじくの…」

「ちょう…?…ちょうちょ、さん…?」

「一日の長、私の方が経験しているという事さ。…それと…皆、君達を心配していたぞ?」

『え?…あ……』

 

 言われて初めて、わたし達は気付く。戻った時はイリゼさんへの心配と罪悪感で心の中が一杯で、その後は付いていっちゃいけないって気持ちになって、だから今わたし達はここにいるけど…皆さんがそんなわたし達を見たら、心配するに決まってる。だって皆さんは、良い人達ばかりだから。わたし達も、友達や仲間のそんな姿を見たら、心配になるから。

 それからわたし達に気を回してくれたのか、マジェコンヌさんは静かに出ていく。偶々同じ場にいた訳でもないわたし達をわざわざ探してくれたのも、負のシェアを扱った経験のある者として力になってくれるというのも、ありがたいし心強い。わたし達には何も言わず、後は任せてと言ってくれたコンパさん達にも、凄く感謝してる。…でも、だからこそ…わたし達は、痛感していた。わたしも、ユニちゃんも、ロムちゃんも、ラムちゃんも…自分が思っている以上に、酷く未熟なんだ…って。

 

 

 

 

 一日が過ぎた。一日経って、もうイリゼさんは意識が戻ったって、普通に話も出来る状態だって事を、わたし達は教えてもらった。…なんでも、二人の治癒で一度治して、その状態で迅速に運んだ事が、身体の為にも治療の手助けになったんだとか。

 でも、普通なら喜べるところだけど、今回に限ってはそれを聞いても「良かった」とは思えない。だって、そもそもわたし達がきちんと能力を制御出来ていれば、その必要もなかったんだから。

 そんなわたし達は、イリゼさんの状態を聞いてすぐ、一つの事を決めていた。それは勿論…イリゼさんに、会いに行く事。会って、ちゃんとイリゼさんの前で謝る事。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 今イリゼさんがいる病室へと向かう最中、わたし達は殆ど無言。謝るって言っても、「ごめんなさい」を一言言えばそれで済むような事じゃないし、当然イリゼさんはこの事でわたし達に対して「会いたくない」って思っているかもしれないから…普段と同じ調子でなんて、いられない。

 

(…もし、そう思われてても…仕方ない、よね…。悪いのは、わたし達なんだから………)

 

 早く謝りたいけど、会うのは怖い。それに…そもそも、会ってくれるかも分からない。イリゼさんからは想像出来ないけど、門前払いされる事だってあり得る訳で、でももしそうなっても……そう思いながら角を曲がったところで、わたし達はいーすんさん以外の教祖のお三人と遭遇。

 

「あ…ミナちゃん…」

「もしかして、ミナちゃんたちもおみまい…?」

「そうですよ、ロム様、ラム様」

「…あれ?でも、それならいーすんさんは……」

「イストワールはまだ彼女の所よ」

 

 いーすんさんだけいない事が気になって呟くと、ちらりと廊下の先を見やりながらチカさんがそれに応えてくれる。

 別に、謝る時はわたし達四人だけじゃなきゃ…なんて事はない。やった事を考えれば、恥ずかしいなんて言ってられないんだから。…でも、その思いでお三人達と別れようとしたわたし達を、ケイさんが止める。

 

「待った。さっき『も』と言っていたけど…君達、このまますぐにイリゼの所へ行く気かい?」

「そう、だけど…」

「なら、それはあまりお勧めしないよ。もう少し時間を開けた方が良い」

「…確かに、そうですね。イストワールさんが出るまでは、待っていた方が良いと思います」

 

 静かに言うケイさんの言葉に、ミナさんもこくりと首肯。…でも、わたしにはその意味が分からない。

 

「それは…どうして、ですか…?一度にあまり大人数では入らない方が良いとか、そういう事ですか…?」

「…分からないかい?」

「…勿体ぶらずに教えなさいよ…」

「勿体ぶっている訳じゃないんだけどね。…イストワールにとって、イリゼは妹も同然の相手だ。そして理由はどうあれ、君達は彼女に怪我を負わせた。その君達が、彼女の見舞いの最中に入ってきたら…如何にイストワールと言えど、良い気分はしないだろうさ」

『……っ…!』

 

 軽く肩を竦めた後に、真剣そのものな表情を浮かべた、ケイさんの言葉。その言葉に、わたし達ははっとした。それは、凄く当然の事で…なのに、全然それに気付いていなかった。わたしも、多分皆も、自分達が謝らなきゃって思いと、イリゼさんがどんな顔をするかって不安ばかりが頭にあって…いーすんさんの気持ちを、全然考える事が出来ていなかった。

 

「…まあ、イストワールなら仮にそうなっても表情には出さないだろうけど……」

「気は、遣ってしまうでしょうね…」

 

 自分達の至らなさに、気持ちが沈む。もしお三人と遭遇していなかったら、きっとわたし達は普通に入って…それで、いーすんさんに気を遣わせてしまっていた。しかもそれに、いーすんさんの気持ちを推し量る事も出来ないまま。

 

「…とはいえ、彼女も仕事があるんだ。そう長く待つ事にはならないだろうさ」

「…それ、もしかして気を遣ってるつもり…?だとしたら、かなり下手くそね……」

「ち、チカさん…そういう事は、思っても言わないであげて下さい……」

「あ、貴女も否定はしないのね……」

 

 それからお三人は、教祖としての仕事へ戻る為に歩いていく。鉢合わせしないよう、イリゼさんのいる部屋の前で待っていましょうか?…とミナさんは言ってくれたけど、流石にそこまで迷惑をかける訳にはいかない。だからわたし達は十分に待って、その後改めてイリゼさんの病室へ。

 

「…イリゼさん、おこってる…かな……」

「そりゃ、そうでしょ…アタシ達は揃いも揃って力を制御出来なくて、挙句あれだけの事をしたんだから…。…それに……」

「うん…わたし達が殆ど怪我してなかったのも、きっとイリゼさんがそうならないようにしてくれたからだよね…。自分の安全より、わたし達を優先して……」

「…イリゼちゃん、言ってた…わたしたちを見て、よかったって……」

 

 辿り着いた、病室の前。今までもあった緊張が、部屋を前にすると更に高まる。

…ほんの一瞬、頭の中に浮かぶ。もし、このまま帰っちゃったら、どうなるだろうって。もしも、そうしたとしたら…多分、イリゼさんは何も言わない。イリゼさんだったら何も言わず、これまで通り接してくれるかもしれない。

 だけど…それだけは、絶対に駄目だ。ネプギアとしても、パープルシスターとしても、それだけは絶対にしちゃいけない。だから、わたし達は深呼吸をし、扉に手を掛け、そしてイリゼさんのいる病室の中へ……

 

「ぬらっ、ぬらぬーら、ぬらら〜!」

「ちるちる〜、るちっ、ちるっちー!」

「あははっ、そっかそっか。ライヌちゃんもるーちゃんも、毎日そうやって遊んでるんだね」

 

……入った瞬間、聞こえてきたのは楽しそうな鳴き声二つと、これまた楽しそうな一つの笑い声だった。…え、ええっ…と……。

 

「え?あ…皆、来てくれたんだね」

「あ……は、はい…」

「ありがと、皆。ライヌちゃん、るーちゃん、ぬいぐるみのフリはしなくて大丈夫だよ〜」

 

 予想外の光景にわたしも皆もぽかんとする中、ぱっと一瞬で動きを止めたライヌちゃんとるーちゃん。でもイリゼさんの声を聞くと二匹は動き出し、るーちゃんは軽い一飛びでイリゼさんの頭の上へ、ライヌちゃんはちょっとわたし達を気にしながらも膝の上へとそれぞれ移動。…和むなぁ……って、違う違う…。

 

「あ、あの…お身体は、大丈夫…ですか…?」

「見ての通り…じゃ、ないけど大丈夫だよ。ほら、元気元気」

 

 頭や首、それに腕。病衣から見えている部分には何ヶ所も包帯が巻かれていて、どれ程の怪我なのかは一目瞭然。今は毛布で見えないけど、多分脚にだってきっと包帯は巻かれている。そんな、痛々しい姿をイリゼさんはしていて…だけどその見た目に反して、ユニちゃんからの問いへ答える声は至っていつも通り。力こぶを作るジェスチャーまでしてくれるイリゼさんの声音や表情に、陰りや曇りは微塵もない。

 

「ほんとに、元気…?(おろおろ)」

「ほんとに元気だよ。…まあ流石に、今運動しようとしたら怒られるだろうけど…こうしてライヌちゃん達と戯れられる位には身体も心も元気だから、安心して」

 

 膝の上のライヌちゃんを撫でつつ微笑むイリゼさんの言葉に、心の中で生まれるのは安堵。本当に、想像していたよりもずっとイリゼさんは元気そうで…だけど、元気でも元気じゃなくても、わたし達がまずしなきゃいけない事は変わらない。

 わたし達は顔を見合わせ、誰からともなく小さく頷く。それから、イリゼさんのいるベットの横に四人並んで…言う。

 

『…ごめんなさい、イリゼさん』

「……皆…」

 

 全員で言って、全員で頭を下げる。…言い訳はしない。していい立場じゃない。

 頭を下げたわたし達に、イリゼさんはぽつりと呟く。そこから数秒間、部屋の中は静かになって…次に出されたのは、わたし達へと向けられた声。

 

「…頭を上げて、四人共。それと…この子達にあげたいから、そこの林檎を取ってもらっていいかな?」

 

 顔を上げると、イリゼさんは今も変わらず穏やかな表情。わたしが近くにあった果物ナイフで林檎を小さく切り、お皿に載せて手渡すと、イリゼさんはにこりと笑って二匹を降ろす。

 

「ちるっ、ちるっ…」

「ふぬらぁ……♪」

「ふふっ、るーちゃん的にはお腹が少し回復したのかな?…って、言っても伝わらないよねぇ…」

「ちる?」

 

 小気味の良い音を立てて食べる二匹の姿は、見ているだけで心が和む。そしてそんな二匹の姿を暫し眺めていたイリゼさんは、わたし達の方へ視線を戻して…表情は柔らかく、でも目だけは真面目な雰囲気を浮かべて、こほんと一つ咳払い。

 

「まずは…ちゃんと聞かせてもらったよ、四人の謝罪は。その上で、言うまでもない事かもしれないけど…ちゃんと言うね。…私は怒ってない。だから、ごめんなさいはさっきので十分だよ」

 

 一言目は応答。二言目は繋ぎの言葉で…三言目に発されたのは、怒っていないという答え。それに続いて、十分だって…それ以上は求めないという、許しの言葉が発される。

 それは、イリゼさん『らしい』言葉。だけど、それだけで「あぁ良かった」…とは、思えない。これだけの怪我をさせておいて、一言ごめんなさいと言うだけなんて……

 

「…良いん、ですか…?たった、それだけで……」

「うん、良いんだよ。皆の顔には反省も後悔も浮かんでるし、これがカニバルフォームの影響によるものなら、模擬戦を提案した私にも責任がある。…なら、今の以上に求める理由がある?そうする事が、私や皆にとってのプラスになるの?」

『…それは……』

「…ね?だから、ごめんなさいは今ので十分。少なくとも、私はそう思っているよ」

 

 漏らすようにして言ったわたしの言葉を、イリゼさんはしっかりと首肯。

 反省や後悔をしているかと言われたら、勿論している。わたしはイリゼさんはちっとも悪くないと思ってるけど、それを言ったらきっとイリゼさんも「なら、私も皆は悪くないよ」と言って、結局同じ着地点になる。そして…今わたしが言ったのは、こんなにすぐ許されて良いのかという思いが胸の中にあったから。イリゼさんの為でも、自分達の向上の為でもないんだから…わたし達は、イリゼさんに返せない。

 そんなわたし達に、イリゼさんはもう一言。優しい、だけど今は重くも感じる言葉にわたし達が口を噤むと、イリゼさんは言葉を続ける。

 

「皆こそ、体調はどう?あれから何かあったりしない?」

「アタシは…ない、です」

「わたしも、ロムちゃんも、だいじょーぶだけど…」

「ほんとに?私に心配かけまいとしてるなら、それは不要…っていうか、むしろ言ってくれた方が安心するよ?」

 

 皆の言葉にわたしも頷くと、もう一度イリゼさんは確認。それにもわたし達が答えると、イリゼさんは安心したような顔になって……けれど次に口にしたのは、わたし達が思いもしなかった言葉。

 

「そっか。だったらこれからの修練内容も考えられるね」

「え……?…修練、って…カニバルフォームの、ですか…?」

「……?そうだよ?」

 

 唖然とするわたし達に対し、きょとんとした顔を見せるイリゼさん。わたしの言葉への返答は、何か演技をしているようには見えなくて…だから、余計に混乱する。

 

「…本気、ですか…?」

「本気だよ?…皆は、嫌なの…?」

「嫌、っていうか…でも、アタシ達は……」

 

 わたし達の動揺が伝わったようで、段々と変わるイリゼさんの表情。

 カニバルフォームの修練が重要だって事は分かってる。この力を使う事を決めたのは、他でもないわたし達だったんだから。…でも……

 

「…やだ……」

「…ロムちゃん……?」

「…おねえちゃんは、早くたすけたいけど…また、カニバルフォームで、イリゼさんや…みんなをきずつけるのは、いや……」

「…わたしも、やだ…イリゼちゃん、いたかったでしょ…?いたくないわけ、ないもん……」

「…二人、共……」

「…わたしも同じ気持ちです、イリゼさん…。こんなんじゃ、それこそお姉ちゃん達を助けるなんて出来ない、って思うかもしれませんが…怖いん、です…イリゼさんにしたように、また…自分が、この力を制御出来なくなってしまうのが……」

 

 胸の前でそれぞれに利き手を握り締めた二人の、悲痛な言葉。それは、わたしも思っていた事で…だからわたしも、口にする。情けないって分かっているけど、イリゼさんを失望させてしまうかもしれないけど…それでもわたしは、わたしの心の中にある思いを正直に伝える。

 怖い。カニバルフォームが、自分でも気付かない内に、意識を乗っ取られたような状態でイリゼさんを傷付けてしまった自分自身が。もしそれで、わたし自身が怪我をするなら、それは自業自得で済むけど…もしもまたイリゼさんを傷付けてしまったら、ユニちゃん達皆にも刃を向けてしまったら…そしてそれが、取り返しの付かない事に繋がったら……そう思うと、怖くて怖くて仕方ない。もう、こんな力は使いたくないって…本気で思う程に、恐れの気持ちがわたしの心を包んでいる。

 

「…そ、っか…そうだよね…ごめん、今のは私が短慮だった…」

「そんな事、ないです…元はと言えば、アタシ達の未熟さのせいですから……」

「…でもさ、大丈夫だよ。皆は努力を怠った結果そうなった訳じゃない。理由はきっと、段階を踏まず私が一気に模擬戦形式にまで持っていっちゃったから。だから、これまで通り修練を重ねれば……」

「…だけど、もしも…もしもまた、わたし達が制御出来なくなったら…それで誰かが、イリゼさんみたいに……」

「そうならないよう、念には念を入れる。それに言い方は悪いけど、あの時の四人は一対一でも手が出ない…ってレベルで強かった訳じゃないからね。一人、或いは二人だったら、私と他の皆で止められる筈だよ」

 

 イリゼさんの言う事は分かる。多分それも、間違ってはいない。…でも、でも…現に昨日は、わたし達が全員制御出来なくなってしまった。まだ、具体的に何が悪くてそうなったのかも分からない。なのに、大丈夫って言われても……

 

「…駄目、ですよ…出来ません、出来ないんです…っ!万が一でも、それでももしもを考えたら…それを、考えるだけでも…怖くて、恐ろしくて……っ!」

「…まだまだ、未熟だったんです…アタシ達はまだ、カニバルフォームを使えるだけのレベルじゃなかったんですよ…。……ごめん、なさい…イリゼさんも、イストワールさんも…皆が、信頼してくれていたのに…」

 

 あぁ、駄目だ。わたしの中から、恐怖が溢れ出す。女神として、こんな事を言うのはあまりにも情けないと分かっているけど…この気持ちを偽って、嘘で「出来る」だなんて言えない。言える訳がない。

 その隣で、ユニちゃんも言う。酷く済まなそうに、自責の念が感じられる声で、自分達に扱える力じゃなかったんだ…って。

 情けない。本当に情けない。自分の心に、自分達の言葉に、わたしの心は沈んでいき……次に聞こえたのは、イリゼさんがゆっくりと吐息を漏らす音。

 

「…ネプテューヌだったら、諦めたりはしないと思うよ。出来る限りの事を、思い付く限りの事をしてもいないのに、諦めるなんて事はしない。それに…ノワールなら、努力を放棄したりもしないよ。今は出来ない、でもそんなの諦める理由にはならないって、頑固過ぎる位に粘ろうとするよ。…だからさ、もうちょっと……」

『…………』

「……そう…なら、止める?無理だって、やらない方が良いって…皆は、そう思うの?それは、これまでの努力が無駄になっちゃうって事だよ?」

「…これで、また誰かが傷付く位なら…無駄に、なったって……」

「…なら、言い方を変えるね。もしもここで皆が諦めたら、私の怪我は無駄になる。無駄に、無意味に、私はこれだけの怪我を負ったって事になるんだよ?それでも、無駄にしていいって言うの?」

 

 無駄になっていい。誰かが傷付くよりは、その方がずっとマシ。…そう言いかけたわたしへ、すっと視線を鋭くさせたイリゼさんが言う。ここで初めて、わたし達を問い詰めるように。

…馬鹿だった。わたし達は、そんな事にも気付いていなかった。わたし達は償わなきゃいけないのに、わたし達が考えていたのは償うどころか更に不快にさせてしまうような事。ずっとずっとイリゼさんは優しく、わたし達を許してくれようとしてたのに、なのにわたし達が考えていたのは、そんなイリゼさんを裏切るも同然の事。

 後悔、恐怖、そこへ更に連なるのは罪悪感。そして締め付けられる心から押し出されるように、口から溢れるのは…謝罪の言葉。

 

「…ごめん、なさい…ごめんなさい、ごめんなさい…イリゼさん…っ……!」

「……ちょっと、良いかな皆」

 

 イリゼさんが求めているのは、そういう事じゃないと分かってる。でも謝らずにはいられない。頭の中には、謝る事しか浮かんでこない。

 初めにその言葉を発したのはわたし。だけどそのわたしの声が引き金となったように、ユニちゃんも、ロムちゃんも、ラムちゃんもわたしと同じように言う。ごめんなさい、って。イリゼさんごめんなさいって。それしか考えられなくて、どうしたらいいか分からなくて…わたしは何回も何回も、ごめんなさいと言っていた。

 その内に、イリゼさんが発した静かな一言。その間も、そう言われてからも、わたし達はただただ謝っていて…だけど次の瞬間、わたし達の言葉は止められる。不意に伸びてきた手が、わたしを…わたし達皆を、纏めて抱き締めた事によって。

 

『…ぇ……?』

「大丈夫、大丈夫だよ皆。もしも皆がその選択をしても、私は怒らない。だって、皆は悪くないから。そう思うのは、当然の事だから。…だけどね、皆…私は皆に、そんな後ろ向きな理由では諦めてほしくない。私やイストワールさん達が、この力を使う事を認めたのは、皆が本気だったのが伝わったからだけど…皆ならきっとって、そう思ったからでもあるんだよ?」

「…だ、けどっ…わたし達は……っ!」

「だったら、私を信じて。自分達の中にある、怖いって気持ち、情けないって気持ちじゃなくて…皆なら出来るって本気で思ってる、私の気持ちを信じて」

 

 信じてくれるのは、嬉しい。尊敬出来る人に信じてもらえるのは、それだけでも心に勇気が湧いてくる。だけどそれでも超えられない程、負の気持ちが打ち勝ってしまう程、わたしは今の自分が、未熟な自分が信じられなくて……そんなわたし達へ、イリゼさんは言う。私を、信じてって。両腕でわたし達四人を包んだまま、優しく温かく何度も何度も。

 

「私は慰めで、気遣いで言ってる訳じゃないよ。私は本気で、皆を信じてる。皆なら出来るって、心から思ってる。皆の成長を見てきたイリゼとしても、女神オリジンハートとしても、皆を疑う気持ちなんて微塵もないんだよ。…だから、私を信じて…もう少しだけ、頑張ってくれないかな。皆が疑う皆じゃなくて、皆を信じる私を…信じて」

 

 すとん、と心の中に入り込んで、そのままじんわりと広がる言葉。そこに合理的な理論や、言い返しようのない論調がある訳じゃない。そこにあるのは感情だけ。わたし達を信じてるっていう、信じてほしいっていう、単純な一つの気持ちだけ。

 でも…いやだからこそ、その言葉は染み渡る。理論も何も関係なく、打算なんてちっともなく、ただ純粋にイリゼさんが信じてくれている。こんな事をしたわたし達を、それでもまだ信じて、心から期待をしてくれている。…そんな思いを向けられたら、そんな言葉をかけられたら……ああ、そうだ…そこまで、信じてくれるのなら……応えるしか、ないじゃないか…っ!

 

(…諦めない…諦めるもんか…ここまで信じてもらえて、ここまで思ってもらえて、なのに諦めるなんて…そんなの女神でも、イリゼさんの教え子でもない……っ!)

 

 そして心の中に入る喝。恐怖を超え、自責を凌駕し、わたしの中に燃え上がるのは報いようという気持ち。イリゼさんに…これまでわたし達を信じてくれた、きっと今も信じてくれている、皆さんの為に。

 その結果、上手くいくなんて保証はない。また制御出来なくなる可能性だって、ちっとも変わってない。…だけど、もう決めたんだ。わたしは、イリゼさんを信じるって。イリゼさんを信じて、皆さんを信じて……今度こそ、わたし達は貫くんだ。この力を自分のものにして、わたし達の力で……お姉ちゃん達を、取り戻すって。




今回のパロディ解説

・「〜〜お腹が少し回復〜〜」
ポケモン不思議のダンジョンシリーズにおける、「リンゴ』の解説のパロディ。るーちゃんですからね。林檎ですからね。パロディになると思うのです。

・「〜〜皆が疑う皆じゃなくて、皆を信じる私を…信じて」
天元突破グレンラガンにおける、主人公二人(特にカミナ)の代名詞的な台詞の一つのパロディ。○○を信じる○○を信じろ…汎用性がある上、格好も良い台詞ですよね。
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