超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第六話 舞い上がる可能性

 崩落した天井と、降り注ぐ瓦礫。本能的に跳び退いた事でそれに巻き込まれる事はなかったものの、私とるーちゃんはグレイブ君、愛月君と分断され、しかも前後を瓦礫に塞がれるという事態に陥ってしまった。

 けれどそれだけなら、困るけど致命的じゃない。危険はあるけど、積み重なる瓦礫がまだ高くない内に跳び越えれば、脱出は出来る。その際瓦礫全てを避けるのは難しいとしても、多少なら耐えられる。たとえ人の姿であっても、女神の身体能力は人のそれを大きく超えているんだから。

 だけど、真に気を付けるべきは上じゃなかった。崩れたのは、天井だけではなかった。天井が崩れ、重量のある瓦礫が次々と降り注いだ事により、他の場所同様経年劣化が進んでいた床には一気にヒビが、亀裂が走り……次の瞬間、床が抜けた。割れ、砕け、大きな穴が床へと開き……私は、落ちる。

 

「……ッ、ぅ…!」

 

 反射的に私は、悲鳴を上げてしまった。気付けば悲鳴を上げていた。けど、そんな事をしている場合じゃない。悲鳴を上げるよりも、今はすべき事がある。

 掴んだままのるーちゃんをより強く押さえながら、私は首を回して下を…これから私が落ちていく先を見る。

 そこに広がっているのは、完全な闇。底が見えない程に、私が落ちていく先は深い。そして、如何に常人離れした反射神経があろうと、人を超えた身体能力があろうと…今の私に、飛ぶ力はない。

 

(…けど、るーちゃんは飛べる…ならせめて、るーちゃんだけは……)

 

 頭の上で押さえる力を弱める私。自分が助かる事を諦めた訳じゃない。でも私が手を離して飛べるようにしてあげれば、少なくともるーちゃんは確実に助かる。であれば手放すのは、当然の判断。…だけど……

 

「ちるぅううううぅぅぅぅぅぅっっ!?」

 

 聞こえてくるのは、怯えきったるーちゃんの鳴き声。手に感じるのは、るーちゃんの震え。るーちゃんは私の髪と頭皮へ小さな脚で必死にしがみついていて…私は思った。もしそうしたら、私がるーちゃんを手放して、結果的にるーちゃんだけが助かったら、るーちゃんはどう思うだろうか、って。自分は無傷で、なのに私は助かる事なく重傷に…或いはそれ以上の状態になったら、それでるーちゃんは喜ぶのか、って。

 私とるーちゃんは、まだたった数日の間柄で、会話だってほぼ成立していない。だけど、るーちゃんは私に懐いてくれている。私の言葉をよく聞いてくれて、意味は分からなくてもるーちゃんも私に沢山話しかけてくれて、何度も笑顔を見せてくれている。そんなるーちゃんに、自分だけが助かったなんて……そんな思いは、絶対にさせたくない。

 だから私は考える。るーちゃんは勿論、私も確実に助かる方法を。るーちゃんが泣かなくて済む選択肢を。頭をフル稼働させて、周りの音も状況も全て頭の中から排除して、凡ゆる選択肢へと思考を張り巡らせて……そして、一つの答えを導き出す。

 

「そうだ…るーちゃん、お願いッ!コットンガード!」

「ちるぅううぅぅ……ち、る…?…ちるぅううううっ!」

 

 怯えるるーちゃんを頭上から胸元へと移し、その目を見つめて私は言う。導き出した答えを実現する為に、るーちゃんに頼む。

 突然の言葉に一瞬茫然としたるーちゃん。けれど私の思いが伝わったのか、きっと表情を引き締めたるーちゃんは膨大な量の綿毛を精製。広がり、膨らみ、綿毛はるーちゃんを包み込む。

 

「ありがとうるーちゃんッ!後は……ッ!」

 

 突然のお願いに、るーちゃんは応えてくれた。自分が逃げる事よりも、私の言葉を聞く事を優先してくれた。だから次は、私の番。私が最善を尽くす番。

 私はるーちゃんから右手を離し、その手にバスタードソードを顕現。逆手持ちで構えた得物を素早く振るい、私は綿毛を斬り付ける。るーちゃんに綿毛を切り離すよう言いながら、私自身も綿毛からるーちゃんを抜き取るように斬り裂いていく。

 そうして完全に分離した、るーちゃんと綿毛。重量と表面積から綿毛の塊が急減速する中、私はるーちゃんを胸元に抱え、身体を捻り、背中で綿毛の塊を押さえ付ける。そうして、私のすべき行動が完遂した次の瞬間……私とるーちゃん、それに綿毛は闇の底へと激突する。

 

「……っ…」

 

 見えなかった底へと到達し、巻き上がる埃と砂煙。私の身体にも衝撃が走り…けれどそれは、想像していた以上に小さい。

 

「…た、助かったぁぁ……」

 

 強張っていた身体から力を抜き、同時に吐息も漏らす私。この結果に、物凄く安堵している私だけど…こうなった事自体は、狙った通り。高い衝撃吸収性を持つコットンガードの綿毛をクッションとして利用する事で、落下の衝撃を軽減するのが私の狙いで……結果、軽減どころか激減する事に成功し、私もるーちゃんも無傷で落下を凌ぐ事が出来た。

 

「…ちる……」

「…もう大丈夫だよ。ありがとね、るーちゃん」

 

 腕の中で目を瞑っているるーちゃんへと声を掛け、頭を撫でる。私が無傷で済んだのは、間違いなくるーちゃんのおかげ。るーちゃんは、そんなつもりなんてないだろうけど…君は、私を助けてくれたんだよ。

 

「…けど、ここは……」

 

 身体を起き上がらせ、周囲を見回す。崩落した穴から一応光が差しているとはいえ、今いる場所の全容はまるで分からない。ただでも、落ちていた時間や上に見えているものからして、ここは結構な地下なんだと思う。

 

「…どこか、崩れていない階段があれば良いんだけど……」

 

 どうやらここも遺跡の一部らしく、大分朽ちてはいるけど天井には補強の木材が見える。なら上の階と行き来する手段はある筈だと思って、私は立ち上がる。

 念の為るーちゃんは胸元に抱えたまま、左手で携帯を取り出しライトをオン。当然こっちに来てからは充電出来てないし、来る前もセイツと出掛けていて少なからず消費していたから、ライトを継続的に使うのは避けたいところだけど…目が慣れるまでは、惜しんでなんていられない。

 

(二人共心配してるだろうし、早く戻らないと…!)

 

 まずは周囲を照らしてみて、それから勘を頼りに歩き出す。はぐれた時は下手に動かない方が良い事もあるけど、ここはまた崩れてくる可能性があるし、何より二人を一刻も早く安心させたい。旅に慣れててしっかりしてる二人だけど、心はまだまだ子供なんだし、もしも「自分達がここを提案したせいで…」なんて後悔しているのだとしたら、そんなのは絶対嫌だから。二人に、善意を後悔だなんてさせたくないから。

 

「……!壁…って事は、これを伝って歩いていけば……!」

 

 前にも別次元(というか、正体が分からず終いな謎の空間)で同じ方法を使ったな…と心の中で思いつつ、壁伝いに進む私。段々目が慣れてきた事で自然と歩く速度も上がり、何とかなりそうな気もしてくる。

 けど、私は失念していた。覚えていたところで、やる事は変わらなかっただろうけど……今置かれている状況から脱する事には直結しないが為に、ここがどういう場所なのかを完全に忘れてしまっていた。

 

「…っと、これは……」

 

 最初に落ちた地点よりも広い場所に出たところで、途端に感じる幾つもの気配。それは恐らく、ポケモンのもの。

 

「……るーちゃん、ちゃんと掴まっててね」

「ち、ちる…?」

 

 強い光は、ポケモンを刺激しかねない。そう思って私は携帯を仕舞い、るーちゃんを抱え直して音が立ち過ぎない程度に走り出す。

 大きな音を出さないよう、障害物に激突しても重傷にならないよう、広間を駆けていく。視線をずっと私を追ってきているけど、何となく感じる距離は変わらず、もしかしたらこのまま切り抜けられるかもしれない……そう思った次の瞬間、私の本能が危機を告げた。

 

「……ッ!」

「ちるぅっ!?」

 

 ずっと沿っていた壁際から跳び退いた瞬間、もし避ける事なくそのまま進んでいたら居たであろう場所を切り裂く、鋭い一撃。飛びかかるようにして、その場に現れたのは……まるで蠍の化け物のような、刺々しい外見を持ったポケモン。

 

「るちぃぃっ!?」

(……ッ…気配が、増えてる…?)

 

 即座に振り返りこちらを睨む蠍の様なポケモンと正対するように着地しつつ、私は周囲へと視線を走らせる。

 元々正確な数が分かっていた訳じゃない。だけど感じる気配は、敵意は明らかに増大している。

 それは、この場所にいたポケモン達が呼んだのかもしれない。ここに至るまでに、私をつけていたのかもしれない。或いは、その両方という事も十分あり得る。…けれど何にせよ、ここまでなってしまえばもう、事を荒立てずにこの場を通り抜ける事は叶わない。

 

「…どこにあるか分からない道を探しながら、どれだけいるか分からないポケモンを凌ぎつつ、ここを抜ける…というのは、流石に無理がある、か……」

 

 先の蠍の様なポケモンに加えて、岩に手と足が生えたようなポケモンに、口が身体の大半を占めている様な蝙蝠らしきポケモンに、蠍の様なポケモンに勝るとも劣らない雰囲気を持つ、カバの様なポケモン。更に視界が悪いせいで把握し切れないけど、他にもここにはポケモンがいる。どのポケモンも、私にとっては未知数の存在で……だけど、私は女神。今感じているものよりもっと強い気配だって、これまで何度も感じた事があるし……この程度で、私は恐れなどしない。

 

「…ち、る……?」

「るーちゃん。ちょっとの間、ここで待ってて。るーちゃんの所には、どのポケモンも近付けさせないから」

「ち、ちる…ちるちるっ!ちる……!」

「ふふっ、大丈夫。…えと、ゴーリキー…だったよね?…と戦う私の姿、見たでしょ?私、すっごく強いんだから」

 

 るーちゃんを壁際に降ろし、立ち上がろうとした私をるーちゃんは止めようとする。それは独りにされる事に怯えてのではなく、私を心配しての行動。そう、すぐに私は分かったから…るーちゃんの頭を撫で、にこりと微笑んで、それから立ち上がる。再び右手にバスタードソードを携え……見据える。

 

「縄張りに勝手に入った事を怒ってるなら、それはごめんね。でも私達は、ただ通りたいだけなの。だから、通してくれない?」

『…………』

「…そっか…なら、押し通らせてもらう…ッ!」

 

 問い掛けに対し、返ってきたのは明確な敵意。ただでは通さないという、明らかな意思。だから私も、完全に意識を切り替え……地面を蹴る。

 静から動へと一気に切り替わった私の前へ、最初に突っ込んできたのは蝙蝠の様な個体。がばりと広げた口で噛み付こうとしてきて…けれど私はそれを、回し蹴りで横から叩く。

 

「ゴルゥッ!?」

「通してくれるなら何もしないよッ!だから退……くッ!」

 

 跳ね飛ばし着地をした直後、側面から襲い掛かってきた蠍の様なポケモンが振り下ろす腕。

 その爪の一撃をバスタードソードで阻んだ瞬間、腕に走る重い衝撃。防げはしたけど…これはそう何度も正面から受けていいような威力じゃない。

 

「(…けど、これで私を倒そうと思ってるなら…)目算が、甘いッ!」

「……ッ!?」

 

 バスタードソードを両手で強く握り、地面を踏み締め、身体を放って…私はポケモンの腕を押し返す。蠍の様なポケモンは押し返されるとは思っていなかったらしく、一瞬目を見開いて…けれどすぐに、逆の腕も叩き込んでくる。

 それを私は受け流して、右脚をその腕へ、続けて左脚をその肩へ。素早く駆け上がる事でこのポケモンを踏み台にし…さっきはよく見えなかったポケモンの一匹、大きめの石に腕が生えた様なポケモンを真上から斬り付ける。

 石みたいな見た目をしているだけあって、刃はその身に通らない。だけど衝撃で、そのポケモンは地面へと沈み込んだ。これで、この個体は暫く動けない筈。

 

「っとぉ!」

 

 直感のままに側転をかけた次の瞬間、振り向いた蠍の様なポケモンの斜め十字斬りが私のすぐ側を斬り裂く。

 やはりこのポケモンの攻撃は高威力。だけど私の目的は殲滅じゃない。だから、まともにやり合う必要も…ないッ!

 

(仕掛けてくる気配のない個体は放置、必要以上に刺激しない為に極力重傷も与えない、そして一番大切なのは…るーちゃんを、守る事…ッ!)

 

 側転の途中、完全に上下が逆になったところで私は膝を曲げ、ハンドスプリングの如く腕力で跳躍。その勢いを乗せる事で着地と同時に走り込み、るーちゃんへと迫ろうとしていた数匹の目の無い蝙蝠の様なポケモンを追い払う。

 無理に迫る事はしない。逆に真っ先に叩くべきは、機動力に長ける二種類の蝙蝠型ポケモン。蠍の様なポケモンは出来るだけ躱して、カバの様なポケモンは静観しているだけだから無視して、そして……

 

「でッ、りゃああぁぁああああああッ!!」

 

 交戦が始まり、どのポケモンとも何度かぶつかる事で力を確かめる事十分弱。私は体当たりを仕掛けてきた大きめの石の様なポケモンを左手で抱え込むようにキャッチすると、同時に身体を回す事でかかる衝撃を回転力に変換。そのままサイドスローの要領で蠍の様なポケモンへと投げ付け、怯んでいる間に何かをしようとしていた岩の様なポケモンへ突進。邪魔をする目の無い蝙蝠の様なポケモンは躱し、口の大きい蝙蝠の様なポケモンにはバスタードソードを放ち、岩の様なポケモンが砲弾の如く小さな岩を撃ってきた瞬間私は跳躍。岩を、更にはポケモン自体もすれすれで跳び越え、越えた時点で背中へ組み付き…カナディアン・デストロイヤー 。頭からポケモンを地面へ叩き付け、後転から素早く私は立ち上がる。

 

「やっぱり、見た目程は重くな…ぃ……ッ!?」

 

 かなり無理矢理な形ではあったけど技が決まり、半ば無意識ににやりと笑みを浮かべてしまう私。…だけど、自分で言うのもなんだけど…私の快進撃が続いたのは、ここまでだった。

 突如私を死角から襲ったのは、砂の突風。反射的に左肘の裏で顔を覆いつつ私はその場から跳び退き、飛び込むような前転で投げ放っていたバスタードソードを回収するけど、そこに再び砂塵が襲来。そこからも私はすぐに離れ、体勢を立て直そうとするも…回避した先に待っていたのは、撒菱の様な紫の棘。

 

(これは……ッ!?)

 

 どう見ても危険なそれを間一髪で避けてまた私は跳ぶも、次に私が目にしたのは浮遊する無数の石。一つ一つが尖っているそれは、まるで宙に浮く機雷で……そこで漸く、理解した。

 砂の風は、静観していたカバの様なポケモンが出している。恐らくは毒があるのであろう棘は、蠍の様なポケモンが、浮遊する石は同じく石や岩に似ているポケモン達がそれぞれ今も撒いている物。そしてそれ等の周囲を蝙蝠の様なポケモン達が忙しなく飛んでいて……私はほぼ、閉じ込められている。ポケモン達が連携を始めた事により、逃げ場のないフィールドが出来つつある。

 

「…少しずつ削る、って訳ね…うん、上手い…上手い策だよこれは……」

 

 同時並行で散発的に放たれる遠隔攻撃。私を逃がさない事を優先にしてるからか、現状の遠隔攻撃はあまり脅威じゃないけど…砂、棘、石によるフィールドが完成すれば、きっと一気に遠隔攻撃が苛烈になる。そうなってしまえば、私は遠隔攻撃か配置された罠か、そのどちらかを受けざるを得ない。

 女神化状態なら、一気に吹き飛ばせると思う。今も、瞬間的なら何とかなる。だけど、今出来る事じゃ処理し切れない。私一人ならその瞬間的でも可能性はあるけど……るーちゃんを置いていくなんて、出来る筈がない。

 

(…このまま後手に回っていても、状況は悪くなるだけ…脚をやられたら、逃げ切る事も出来なくなる…となれば、道は……)

 

 さっきと違って、今は無傷で乗り切る方法が思い付かない。だけど私の目算が正しければ、そこまでの重傷にもならない筈。であれば、後必要なのは決断とやり切る精神力で…それなら十分にある。

 ここまでも本気だった。けどここからは更に、出し惜しみなし。対私用のフィールドが完成する前に全力を叩き込んで、流れを再び私の下へ……

 

「ちるーーーーっ!」

「え、な……っ!?」

 

──そう、思った時だった。愛らしい、けれど必死そうな鳴き声が響いて…振り向いた私の胸元へ、るーちゃんが飛び込んできたのは。

 

「る、るーちゃん!?何やって……」

「ち、ちる…ちるるぅ……」

 

 反射的にるーちゃんを受け止める私。砂の風が、無数の石が、脱出を阻まんと蝙蝠の様なポケモン達が囲う中を真正面から抜けてきたるーちゃんの身体は傷付いていて、ちょっとの汚れでもすぐ落とそうとする程綺麗好きなその翼は砂だらけ且つ石が幾つか引っ掛かっていて……なのにるーちゃんは笑っている。安心したように、私を安心させるように。

 

(…あぁ、そっか…そうだよね……)

 

 そんなるーちゃんの笑顔を見て、私は気付いた。るーちゃんの思いに、るーちゃんの気持ちに。

 るーちゃんは、一緒に戦いたかったんだ。怖いかもしれないけど、恐ろしいのかもしれないけど、それでも守られるだけは…後ろで隠れてるだけは嫌だったんだ。昔のネプギア達女神候補生の様に、自分はまだ弱いから…じゃ納得し切れないだけの気持ちがあって、自分から訓練しようとしたのも、きっと興味だけじゃなく、私の力になりたいって思いがあったからで……だから今も、飛んできたんだ。ちょっぴりでも、どんな形でも…私の力に、なる為に。

 その思いは、誰かの為にって気持ちは、何よりも強い。女神である私にとっても最大の武器であるそれを、るーちゃんも今心の中で輝かせているのなら……それを受け止めた私が、やる事は一つ。

 

「…るーちゃん、私に力を貸してくれる?」

「…ちる」

「私と一緒に、戦ってくれる?」

「ちるっ」

「なら…私は君を信じるよ、るーちゃん!」

「ちるぅっ!」

 

 覇気の籠ったるーちゃんの鳴き声に笑みを返して、私は腕の中からるーちゃんを手放す。離れたるーちゃんはしっかりと羽ばたき、私の前へと躍り出る。

 不安はある。心配もある。だけどそれなら、私がフォローをすれば良いだけ。るーちゃんが私を助けてくれようとしているように、私もるーちゃんを助けるだけ。力を合わせるっていうのは、一緒に戦うっていうのは、そういう事なんだから。

 行こう、るーちゃん。私は心の中で、るーちゃんへと呼び掛けた。声に出してはいないけど、それにるーちゃんが返してくれたような気がした。心と心が通じ合っている、そんな確信が私にはあった。そしてるーちゃんが大きく大きく翼を広げ、私も地面を踏み締めた時──るーちゃんの身体が、光に包まれる。

 

 

 

 

 衝突する二匹のポケモン。屋内に響く、激しい咆哮。互いに至近距離で容赦無しの技を放ち……重量級である筈の二匹が、その重量で放たれた攻撃によって同時に吹き飛ぶ。

 

「またか…そっち行ったぞ愛月!つるぎ、頼む!」

「分かってる!もう一回だバックス!」

 

 どちらも2mを超える巨躯のポケモンが、同時に吹っ飛ぶ姿は迫力がある…が、それをのんびり見ていられるような状況じゃない。

 俺は愛月に声を飛ばしつつ、剣と盾のポケモン、ギルガルドへも指示。頼む、というざっくりとした指示だけで意図を汲んでくれたつるぎは二匹の内一匹の背後へと回り込み、壁へ衝突する前に自らが壁となる事でしっかりと衝撃を受け止める。一方の愛月もバックス…サッカー選手を思わせる二足歩行のポケモン、エースバーンへと指示を飛ばし、軽快に走り込んだバックスはドロップキックの要領でもう一匹のポケモンの背に両足を当てる事によって押し返し、吹っ飛ぶ動きに歯止めをかける。

 今、俺達がいるのは遺跡の二階。正対しているのはバンギラスとボスゴドラで……この二体こそが、上の階で激突していた存在の正体。

 

(……っ…やっぱり凄いパワーだな…それに、やっぱり分からねぇ。どうしてここに、この二体が……)

 

 バンギラスとボスゴドラ。どちらも多くのトレーナーが強いと認めるポケモンで、脆くなった遺跡の床を破壊する位の力は普通にある。生態的には相反する存在で、だから戦っている事はなんらおかしいとは思わない。

 けど、本来バンギラスはジョウト地方、ボスゴドラはホウエン地方を中心に生息しているポケモン。るーちゃんことチルットの様に、複数の地方に生息しているポケモン自体はありふれているが……バンギラスとボスゴドラは、どちらもシンオウ地方には生息していなかった筈。厳密に言えば、バンギラスの方は一応あり得るっちゃあり得るが…それでもやっぱり、ここにこの二匹がいるのはおかしい。

 

「くっ…こんな事してる場合じゃないのに……!」

 

 聞こえてきたのは、愛月の歯噛みするような声。さっきからずっと愛月は焦っていて、普段よりポケモンへの指示も荒い。

 でも、理由は分かる。俺だって、早く何とかしねぇと…と思ってる。…当然だ。結局あの後俺達はイリゼを追う事が出来ず、今イリゼとるーちゃんがどうなっているかはちっとも分からないんだから。

 その上で俺達が二階へと登る階段を見つけ、ここまで来た理由は一つ。この戦いを止めない限り、その内また崩落が起こる。

 

「落ち着けって愛月、バックスも不安そうな目で見てるぞ?」

「だから分かってるって!でも、早くしないとイリゼ達が…ッ!…くそっ…こうなったら、一か八か一気に……」

「それは危ないって言ってるだろ。…つるぎ、キングシールド!」

 

 焦る愛月を落ち着けようとする中、数度の攻防の後に床を踏み締めた二匹はそれぞれ悪の波動と岩雪崩を放射。その余波が周囲に及び、俺は少しでもそれを阻むべくつるぎに防御技で防がせる。

 これが、愛月を止めた理由。吹っ飛ぶ二匹を止めたのも、同じ理由。遺跡への被害を気にせずただ止めるだけなら、多少大変程度で済むが……そうした結果またどこかが崩れて、その瓦礫が下のどこかにいるイリゼ達の上に降り注いだら…その危険を考えれば、遺跡を壊さない、壊させない事を最優先にして戦うしかない。

 

(とにかく作戦が必要だ。何か、何か上手い策はないのか…?)

「……っ…俺はあの時、何も出来なかった…俺も何か出来てたら、その分余裕が生まれて、イリゼ達も落ちずに済んだかもしれないのに…!」

「気持ちは分かるが、過ぎた事を言ったってしょうがないだろ。それよりこれからの事をだな……」

「しょうがない、で片付けられる訳ないだろ!くそ、くそ……っ!」

「…あのなぁ……はぁ」

 

 状況は悪いが、愛月もいるし頼れるポケモン達だっている。だからきっと何か手がある。そう考える俺だったが……愛月は、もっと前の段階で躓いている。イリゼ達の事が心配過ぎて、冷静さを失っている。

 ぶっちゃけ、そういう優しくて純粋(…で、いいのか?この場合は…)なとこは、愛月の良い部分だと思う。けど、今はそれじゃいけない。それじゃ、それこそイリゼ達を助けにいけない。だから俺は愛月をこちらに向かせ…額へとチョップ。

 

「そりゃ」

「痛ぁ!?な、何しやがるグレイ……」

「大丈夫、イリゼ達は無事だ」

「なッ…そんなの、どこに根拠が……」

「忘れたのか?イリゼは、ゴーリキーと素手でやり合えるんだぞ?るーちゃんだって、そのイリゼが側にいるんだぞ?そんなイリゼが、ちょっと落ちた位で大怪我になると思うか?」

「それは……」

 

 真っ直ぐ目を見据えた俺の言葉で、はっとした顔をする愛月。…うん、改めて考えるとほんとに凄いよな。

 

「…そうだった…グレイブと同じで、その辺りイリゼは色々おかしいんだった……」

「だよな。スーパーマサラ人ならぬ、ハイパーシン女神…って、俺は別に普通だろ?」

「お前は自覚がないからタチ悪いんだよ……けど、悪いグレイブ。バックスも、心配かけてごめんな」

「全く…で、どうするよ?急いで遺跡の中に催眠術とか歌うとかを覚えてるポケモン探してくるか?」

 

 無事に落ち着いた愛月はバックスを軽く撫で、撫でられたバックスはにこりと笑った後に再び二匹のポケモンの方へ。俺も一先ず安心し、ぱっと思い付いた策を提案。だが俺自身「そんな都合良くは居ないよなぁ…」と思っていた策なだけあって愛月はすぐに首を横に振り、それから顎に親指と人差し指を当てて思考開始。俺が指示に専念する間、愛月は考え続け…ある時ぐるりとこの場を見回すと、何か思い付いた様子で口を開く。

 

「…やっぱこれだ。グレイブ、二匹をここから落とすぞ」

「落とす?」

「あぁ。取り敢えず落とすだけなら高威力技を乱発する必要もないし、ボスゴドラとバンギラスなら二階から落ちた程度じゃ大怪我はしない筈。それに遺跡の作りはそこそこ複雑だから、一度別々の場所に落とせば……」

「暫くは時間を稼げるって訳か。それなら入る時に言われた『やり過ぎるな』も守れるし、丁度良いな」

「だろ?けど問題は場所だ。この広間にも壁に穴が一つ空いてるから、片方はそこで良いが、もう片方は……」

「そういう事なら問題ないな。ここに入る前の廊下の奥に、ここと同じ位の穴があるぜ?」

 

 期待通りに良い案を出してくれた愛月に対して俺は笑い、穴の方向を教えて行動開始。ここまでの担当通り、俺がバンギラス、愛月がボスゴドラを相手取る事に決め……俺達は動き出す。

 

「グガァ…ッ!?」

「悪いが、こっちは色々縛りがあって大変なんだ。だから代わりに、三対一でやらせてもらう……!」

 

 ここまで上手く防いでくれてきたつるぎに加えて俺はガブリアスのスラッシュ、サーナイトのラトルもボールから出し、トリプルバトルの様な陣形に。素早くパワーもあるスラッシュで翻弄し、攻防を切り替える事で二つの立ち回りが出来るつるぎにはその時々に合わせて動いてもらい、遠距離攻撃が得意なラトルにはサポートを頼む事で、バンギラスを攻め立てる。

 攻めると言ったって、遺跡の事を考えれば威力のある技は出せない。バンギラスの攻撃も受け止めるなり出される前に潰すなりしなくちゃいけないし、野生ポケモン相手ながらそこらのトレーナー戦よりよっぽどキツい。けどだからこそ、燃えるものもある。もしイリゼ達の件がなければ、こういうバトルも楽しめたかもしれないな……!

 

「つるぎ、飛び込む要領で足払いだ!」

「ギルゥ!」

「ガグラァッ!」

「はっ、だよな。この位じゃ転ばないよな。けど…こっちはそうなると思ってたんだよッ!」

 

 つるぎの攻撃は膝の辺りに命中するも、倒れる事なくバンギラスは右腕を振り上げる。けどその瞬間、バンギラスの視線が下に行った瞬間にスラッシュが距離を詰め、右からラトルがムーンフォースを放つと同時にドラゴンクロー。同時攻撃でバンギラスに大きな隙を作り……そこで一気に勝負をかける。

 

「ラトル、サイコキネシス!皆、一気に押し切るぞ!」

 

 キッとバンギラスを見据えたラトルのサイコキネシスにより、浮かび上がるバンギラス。浮いた身体は後方へ、穴の方へと向かっていく。

 ならばとバンギラスは再び悪の波動の動きを見せる。だがそれを防ぐべくつるぎは再び接近し、その強固な盾で近距離防御。それと同時に両手でバンギラスに掴みかかり、更に動きを妨害する。

 そして締めは、スラッシュの追撃。まるで飛び立つかのようにヒレを開いたスラッシュは、その素早さを活かしてつるぎに後ろから突っ込み、ラトルのサイコキネシスを後押し。ラトル、つるぎ、スラッシュの連携によって、重量級であるバンギラスの身体は押し出されていき……遂にその身が、壁に開いた穴から外へ。

 

「よっし、スラッシュ!」

 

 その瞬間に解除されるサイコキネシス。足場のないバンギラスは当然外へと落下していき、つるぎはスラッシュが抱える事で内側へ帰還。俺の視界からバンギラスがいなくなった数瞬後、大きな音が下から聞こえ……俺は作戦を完遂する。

 

「やっぱり皆を選んで正解だったぜ、流石だな。…さて、愛月の方は……」

 

 頑張ってくれた三匹をそれぞれ撫でた後に、俺は振り向き廊下の方へ。愛月が廊下担当になったのは、単にボスゴドラの方が廊下に近かったからだが…狭い分、俺より苦戦してるかもしれない。…そう、思っていた俺だが……

 

「バックス、メガトンキック!レックス、ドラゴンテール!これで終わりだ…レオン、ボルテッカーッ!」

「ぴかぴかぴかぴか…ピカァアアアアッ!!」

「ゴォオオォォッ!」

 

 廊下に出た瞬間の俺が見たのは、左右から同時にバックスと牙が特徴的で恐竜っぽさもあるポケモン、レックスことオノノクスが強烈な攻撃を叩き込んでボスゴドラを跳ね飛ばす光景。吹っ飛ぶボスゴドラは浮いたままキッと愛月達を睨み体勢を立て直そうとしたが、そこへ閃光と共に肉薄するレオン。膨大な電撃を纏ったレオンは、まるで雷そのものになったかのような光を放ちながら突進し……足が床へ着くよりも早く、ボスゴドラを奥の穴へと吹き飛ばす。

 何気に俺よりも豪快な方法でボスゴドラを飛ばし、同じく外へと落とした愛月。…こりゃ、要らぬ心配…ってやつだったかな。

 

「いよっし、皆お疲れ!グレイブの方は……ってなんだ、もう終わってたのか」

「まぁな。しっかし相変わらず強力だな、レオンのボルテッカは」

「うん、ボルテッカ『ー』だから!レオンは宇宙の騎士じゃないから!…って、そんな事はいいんだよ!今の内に、地下へと降りる道を探さないと…!」

「あぁ、分かってるって」

 

 作戦大成功、いぇーい!…といきたいところだが、まだこれは途中段階。本当の目的はイリゼ達を助ける事で、ゆっくりしている時間はない。

 一度降り、急いで地下への道を探す俺達。だがここまでそれらしき道はなかったからこそ逆に捜索範囲が狭く済み、十分弱で地下へと繋がる階段を発見。俺達はそこを駆け下り、どんどん下へと向かっていく。

 

「はーっ、はーっ…も、もう少し…多分、もう…げほッ、げほッ…少し……!」

「無理するなって愛月…おぶってやろうか?」

「やだ……!」

 

 下りとはいえ休む事なく走り続けた上での階段ダッシュは俺でもキツいし、愛月は最早転がり落ちていきそうなレベルだが、どうしても自分の足で走りたい様子。だから俺が先に行きつつ落ちても大丈夫なよう気を付けていると……階段の終わりが見えた瞬間、何かの甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 

(……ッ!?まさか……)

 

 はっきりとは分からなかったが、それはるーちゃんの鳴き声に似ていたような気がする。そのるーちゃんらしき声の叫びが聞こえた事でかなりの不安が胸を渦巻き、俺は一飛びで一番下へ。もし野生なら地中や洞窟での生活が基本となるスラッシュに先導してもらい、俺は鳴き声の聞こえた方へ。

 頼む、無事でいてくれ。そんな思いを抱きながら、暗い中を走る俺。近付くにつれ、戦闘音が聞こえてきて、更に不安は大きくなる。だが、そうして鳴き声の下へと辿り着いた時……俺は思わず、立ち止まった。

 

「はぁッ…はぁッ……ぐ、グレイブ…何、して…って、え……?」

 

 少し遅れて、同じ場所へと愛月も到着。息も絶え絶えの状態ながら、愛月は俺を追い越そうとして……同じように、俺の隣で立ち止まる。

 何故、俺達が立ち止まったか。それは、あるものを見たからだ。あるものを見て、それに驚いて…だから、立ち止まったんだ。

 そう、そこにはいた。るーちゃんによく似た声を持つ、一匹のポケモンが。愛らしくもしなやかな身体を持ち、空に悠然と浮かぶ雲の様な翼を持つ……るーちゃんと同じ色合いをした、鳥にも竜にも見えるポケモンが。




今回のパロディ解説

・スーパーマサラ人
アニメポケモンシリーズの主人公、サトシに対するファンの間での異名の事。実際アニメのサトシ位イリゼは頑丈です。だって女神ですし。自分が戦う作品の主人公ですし。

・ボルテッカ、宇宙の騎士
宇宙の騎士テッカマンシリーズの主人公、南城二及び彼が使う必殺技の事。ボルテッカネタは、ポケモンファンの間でも結構使われる事が多いんじゃないかなぁと思います。


因みに今回作中でイリゼが『カナディアン・デストロイヤー』という攻撃をしていましたが、これはイリゼのオリジナル技ではなく、実在するプロレス技です。
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