超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百二十一話 否定もまた信念

 あれからまた、数日が経った。あの後武装集団は鎮圧され、やっぱり犯罪組織の残党だった事も判明した。どうも保有していた戦力は匿名で提供された物らしくて、その相手というのが気になるところだけど、特筆するべき事といえばその程度。

 今、わたし達がしなきゃいけない事は変わっていない。カニバルフォームの制御と、その力を更に引き出す訓練。お姉ちゃん達を取り戻す為には勿論、レイやあるかもしれない何体ものダークメガミによる攻撃に打ち勝つ為には、もっと強くならなくちゃいけないんだから。

 

「もっと、もっとだよ!どんなに速くても、点の攻撃じゃノワール達は直感的に避けてくるよ!逆に面の攻撃、弾幕だったら……」

「分かってても、全部認識出来てしまうから、どうしてもそっちに意識が割かれる、ですよね…ッ!」

「だんまく、だんまく…とりゃーっ!」

 

 もう何度も来ている草原で、今日もカニバルフォームの訓練中。今はユニちゃん、ラムちゃんがカニバルフォームとなり、完治したイリゼさんに対お姉ちゃん達を想定した稽古を付けてもらっている。

 

「ほぇぇ…やっぱりユニちゃん、すごい…。いっぱいうってるのに、ねらいがせーかく…(じーっ)」

「うん、あれはわたし達じゃ真似出来ないよね。でも、ラムちゃんも凄くない?いつも思ってるけど、色んな系統の魔法を次々切り替えて使うのって、難しい事なんだよね?」

 

 右手に片手剣、左手に手斧を持った状態で飛び回るイリゼさんに対し、ユニちゃんはある程度範囲を絞った弾幕を形成。広げ過ぎない事で密度を高め、その上で常に数発はイリゼさんを狙っている。弾幕の中に狙った射撃を混ぜる事で、面と点、その両方の対応を迫っている。

 そこへ加勢するのは、ラムちゃんの遠隔魔法。ラムちゃんの魔法は、密度こそユニちゃん程じゃないものの、次から次へと種類を変えてるおかげで凄く目を引かれるし、それはきっと高密度の弾幕と同じ位に相手の注意を引ける筈。それが意図的なものか、女神として直感的にやっているのかは分からないけど…どちらにせよ、強力である事は間違いない。…でも……

 

「……っ!抜かれた…ッ!?」

「ユニはもっと大胆に!ラムちゃんは勢いがあり過ぎて、逆に軌道が読み易くなってるよ!」

「えぇっ!?むむ、もっとって言ったじゃない!」

「うん、言葉足らずでごめんね!でも流石に、丁寧に説明出来る程二人の攻撃は甘くないからね…ッ!」

 

 二つの弾幕に追い詰められた…ように見せかけ、宙返りからの急降下と翼の可変を活用した即座の再上昇で、大きく距離を詰めるイリゼさん。まだ近接戦が出来るような距離ではないとはいえ、一度弾幕を完全に躱された事は事実で…ユニちゃんもラムちゃんも、イリゼさんを捉え切れていない。二対一で、カニバルフォームも使っていて…それでも、優勢にまでは至らない。

 

「この際だから、接近された場合の想定もしておこうか…本気で来なよ、二人共!じゃなきゃ、私は…守護女神は、止められないよッ!」

 

 そこからイリゼさんは、より攻撃的な動きに移行。途切れない、流れるような体捌きで殆どスピードを落とさないまま正面からの迎撃を避け、避け切れない分も弾くのではなく武器でほんの少し逸らす事によって受ける衝撃も最小限にし、どんどん二人との距離を詰めていく。

 数秒後、ユニちゃんがラムちゃんの隣にまで移動し、二人の弾幕を一つにする事で何とかイリゼさんを押し返す。その後も二人の稽古は続き……結論から言えば、結果は時間切れ。最後まで追い詰められる事はなかったし、上手くいきそうな場面もあったけど…勝つ事は、出来なかった。

 

「はぁ、はぁ…結局、最後まで届かなかった……」

「むぅぅ…!ロムちゃん、ネプギア!さいご、さいごは後ちょっとだったわよね!?」

「え?…えっと…そう、かも……?(ちらり)」

「あ、そ、そうだね…良いところまでは行ってた…んじゃ、ないかな…」

 

 安全第一でカニバルフォームを解いた二人。こっちに視線を送ってきたロムちゃんに相槌を打ってわたしも言うけど…それでも二人は悔しそう。

 

「じゃあ、総評…は、一旦待ってもらって…次、ネプギアとロムちゃん。行けるね?」

「あ、はい!」

「は、はい…!」

 

 こちらを向いたイリゼさんに呼ばれ、わたしとロムちゃんは続けて返答。深呼吸をしてカニバルファームを発動し、イリゼさんに続いて飛翔。空中で構え、イリゼさんの合図を待ち…その合図が上がると共に、突進。近付きながら射撃もかける…と見せかけて行わず、フルスピードで斬りかかって……わたしとロムちゃん対イリゼさんの、実戦形式での稽古が始まった。

 

 

 

 

 それから約一時間、二人ずつでわたし達はイリゼさんと稽古をし続けた。初めはほんとに勝てなかったけど、段々惜しい、という瞬間が増えてきて、最後には本当に後一歩、後ちょっとで勝てたというところまでイリゼさんを追い詰める事が出来た。…ただでも、その理由というのが……

 

「はーっ…はーっ……こ、ここまで…に、しようか……」

『あ、はい……』

 

 わたし達と違って休憩なしで、一対二の稽古をし続けた結果、イリゼさんの体力限界がきたから…じゃ、全然喜べはしないよね……。

 

「イリゼちゃん、これのむ…?」

「イリゼさん、あつくない…?(ぱたぱた)」

「ありがとね、二人共…けど、これじゃ駄目だね…教える側が、先にバテるんじゃ……」

「い、いやいや…アタシ達とイリゼさんとじゃ条件が違いますし、これで全然バテてなかったら、流石に自信を失います……」

 

 水筒を渡され、帽子で扇がれ、それに感謝しながらも自分に対して呆れるイリゼさん。けどユニちゃんの言う通り、イリゼさんにかかっている疲労はわたし達の倍なんて程度じゃない筈。それでもそう思うのは…きっと、わたし達に対して責任を抱いてくれてるから。

 

「それでも、指導する側としてこういう姿を見せるのは……」

『…………』

「…って発言自体、あんまり良くないんだったぁぁ……」

 

 そこから自爆(?)で、更にイリゼさんは肩を落とす。…そういう親しみ易いところも、わたしは良い先生だって思うんだけど…うん。これはむしろ、言わない方が良いやつだよね。

 

「あ、あはは…そうだイリゼさん、さっき言ってた総評は……」

「っと、そうだった…やっぱり皆は、二通りに分かれてるね」

「それって……」

 

 それから表情を引き締めたイリゼさんが口にする、最初の言葉。わたしがそれに呟きを漏らすと、イリゼさんはそれに頷く。

 カニバルフォームを使う上で、大きく分けるとわたし達は二通りある。わたしもラムちゃんは、力はそれなりに引き出せているけどその分感情に流され易くて、逆にユニちゃんとロムちゃんはカニバルフォーム中でも基本冷静さを失わないけど、一方でわたしやラムちゃん程は引き出せていない。イリゼさんが完治してから最初の訓練で、わたし達はそう言われていて…今の首肯は、まだそれが変わっていないって事の証明。

 

「個々で気になった点とか、もう少し細かい傾向とかは、順に話していくけど…やっぱり、どっちかじゃなくてどっちもじゃないと、正直厳しいと思う」

「です、よね…アタシも、感じてはいるんです。これなら、普段の女神の姿でも頑張れば出来る程度じゃないのか、だったらむしろ使わない方が色々と余裕が出来て、より柔軟に動けるんじゃないのか…って……」

「そっか…でも、自覚出来てる、自分を分析出来てるっていうのは、良い事だと思うよ。自分をちゃんと理解するのも、強くなる為には重要な事だからね」

「…はい。ありがとうございます、イリゼさん」

 

 情けない。…そんな響きの籠る言葉を発したユニちゃんへ対して、イリゼさんは言う。いつものように、わたし達の中から良い部分を見つけて、それを隠さず言ってくれる。それは嬉しいし、きっとわたし達が頑張れている理由の一つでもあるけど…それじゃあ、駄目だ。駄目なんだ。今のわたし達に必要なのは、ゆっくり一つずつ進む事じゃないから。そんな時間は、ないから。

 

「次は、個々での話をしていくね。まずネプギアは……」

 

 その後は最初に言った通り、一人一人の事を話され、わたし達はそれを聞く。一人一人の話はわたし達も自覚していた事、していなかった事の両方があって…けれどやっぱり一番大きいのは、先に挙げられた二つの事。

 

(…制御…多分落ち着く事を最優先にすれば、少しは改善すると思う…だけど、それじゃあ……)

 

 自分を見失う事のないまま、カニバルフォームの力を引き出し切らなきゃ、完全に体得したとは言えない。中途半端な状態じゃ、お姉ちゃん達には敵わないどころか、危険でしかない。

 それを自分に言い聞かせるようにして、訓練を続ける。制御と同時並行で、想定されるお姉ちゃん達の動きに対応する練習もして、限られた時間の中での鍛練を重ねる。

 

「はぁ、ふぅ…イリゼちゃん、今のもっかい!」

「わたしも、もう一回…!」

「うん、その意気だよ!…と、言いたいところだけど…ごめんね、今日はまだやる事があるから、この辺りで切り上げさせて」

「あ…はい。それは勿論です。じゃあ、アタシ達はもう少し自主練を……」

「こらこら、皆ももう疲労が見えるし、今日はここまでだよ。それに…約束も、したでしょ?」

 

 自主練を続ける。そう言いかけたユニちゃんを止めるイリゼさん。…正直言うと、わたしもユニちゃんと同じ事を考えていて…イリゼさんの言葉に頷きながら、内心で反省。

 約束、というのはイリゼさんから言われたルールの事。毎回訓練の後には、お菓子でもご飯でも良いから何かを囲んで、それでのんびりとその日の振り返りをする…リフレッシュを兼ねたその時間を必ず作るように言われていて、これだって立派な訓練の一つ。

 

「じゃあ、帰ろっか。前も言ったけど、どこかでお茶してくるなら、その代金は後で私が出すからね」

『はーい』

 

 訓練に使った草原から、わたし達はプラネタワーへ。直接どこかに行く事もあるけど、今日は汗も結構かいたから、一度シャワーを浴び、それから改めて外へと出る。

 

「今日はどうしよっか。前はあそこの喫茶店に行ったけど…」

「わたし、おなかすいた…(ぺこぺこ)」

「わたしもー…」

「ぺっこり、よんじゅうごど……」

「ごどー…」

「いや普段と逆になってるじゃない…しかもぺっこりって…。…まあでも、今日は昨日より実戦形式でやる時間が多かったものね。なら、レストランとかにする?」

 

 歩きながら、わたし達はどこに行こうかと軽く相談。こういう何気無い会話は、頑張った後だといつもより楽しいもので……でも、頭の中にあるのは訓練の事。訓練の結果と、今のわたしの事。

 

(…わたし、感情に振り回されてばっかりだな……)

 

 これまでの訓練だってそう。リーンボックスでの件もそう。自分が冷静なタイプだとは思わないけど、本当にわたしはカニバルフォームを使うと上手く自分を抑えられなくなって、自分じゃそれに気付けもしない。抑えなきゃ、制御しなきゃとは思ってるのに、カニバルフォーム中に嫌な事や不満があると、どんどんそっちに傾倒しちゃう。そういう気持ちに流されるなんて、カニバルフォーム云々以前に、女神として良くない事なのに。

 そう、自虐にも似た反省を心の中で膨らませるわたし。…でも、それは今するべきじゃなかった。皆でどこかに行こうってしてる最中なのに、歩いてる最中だったのに、意識を完全に内側に向け続けてしまった結果……

 

「…あ、あれ……?」

 

 わたしは皆と、はぐれてしまった。気付けば一人、ぽつーんと大通りから離れた場所を歩いていた。…うわぁ、何やってんだろわたし…。

 

「と、取り敢えず連絡を…っと、わわっ!?」

 

 今わたしが犯したのは、自分の国、それもある程度見慣れてる場所だったのにはぐれるという、何ともしょうもないミス。その事にがっくりと肩を落としつつ、わたしは連絡を取ろうとし…丁度そのタイミングで、Nギアが反応。それはユニちゃんからの連絡で、わたしは驚きつつも電話に出る。

 

「ネプギア…アンタ、まさか……」

「う、うん…ごめん、はぐれちゃった……」

「やっぱり…アタシ達も端末で近くのお店検索してて気付かなかったとはいえ、気を付けなさいよね……」

 

 Nギア越しに聞こえてくる呆れ声。それにわたしは謝りつつ、今ユニちゃん達がいる場所を聞く。そうして場所を教えてもらったところで、すぐにわたしは向かおうとして……だけど急いで行かなきゃと思っていたわたしは、角を曲がろうとした瞬間向かいから来ていた人と不意にぶつかりかけてしまう。

 

「きゃっ…!」

「うおっ……!?」

 

 衝突の直前、ギリギリで身体を半身にしつつ横に逸れたおかげで何とかぶつかる事は回避。でも相手の男の人は驚いた拍子に手を滑らせて、持っていた紙袋を落としてしまう。

 

「あ、す、すみません!」

「い、いや別に…そっちこそ、怪我は…?」

「いえ、わたしは大丈夫です。けど、ほんとにすみません…もし今ので表紙が傷付いていたら、弁償はさせて……」

 

 どさりと落ちる紙袋と、そこから出てくる何冊かの本。わたしはすぐにしゃがんで拾い上げようとして、結果タイトルが目に入る。

 入っていた本は、多種多様。組織運営の基礎について書かれているもの、非営利法人の設立に関するもの、それに……

 

「…ほめくり、修造……?」

「……はは…」

「あ…い、いや面白そうな本ですよね!ただの根性論じゃなくて、相手を見極めた上で言葉を送る人の本ですから、かなり勉強にもなるでしょうし!」

「ははは、まあそうだな……って、げっ…女神候補生…」

「え……?」

 

 一冊だけ全然違う方向性の本に思わずきょとんとしてしまったわたしは、慌ててフォローしながら拾った本をその人へ渡す。それからもう一度、わたしは謝ろうとして…その瞬間聞こえてきたのは、「げっ」という声。

 

「なんだよこれ…女神候補生と一対一で会って、しかもこれ見られるとか、どんな不運だよくそっ……」

「えぇ…?あ、あの……?」

「…あん?……ってあぁそうか、そりゃあ凡百どころか覚えてたってしょうがない相手の顔なんか、一々記憶してねぇか…何でもねーよ女神候補生。女神なら…いや女神関係なしに、角曲がる時は気を付けろっての」

「うっ、ほんとにすみません…(…あれ?この人、どこかで会ったような……)」

 

 突然態度…というか当たりの強くなる男の人。その理由は、どうもわたしが女神候補生だからって事みたいなんだけど…この人はただ、わたしが嫌いって訳じゃない様子。

 それに、わたしはこの人の顔に見覚えがある。どこかですれ違ったとか、何かの式典に参加していたとかじゃなくて、ちゃんと会話をした事があるような…そんな気がする。…そう、この人は確か……

 

「……あっ!貴方は、信仰抗争被害の会の…!」

「…ちっ、覚えていてくれてどーも……」

 

 ぱっと思い出したのは、犯罪神完全復活の前に蘇ったマジックさんを倒し、脱走した元犯罪組織構成員を捜索していた中で遭遇した、信仰抗争被害の会の事。今いるのは、その代表の人で…代表さんからは、思い出してくれなくて良かったのに、とばかりの声を返される。

 

「…という事は、もしや……」

「う…あぁそうだよ、今は色んな方面で助成金や補助が出てて、しかも役所は忙しい所も多いから、今なら上手い事会を法人に出来るかと思ってたんだよ悪いか!」

「い、いやまぁ…ちゃんとルールと倫理に則って設立するんでしたら、良いですけど……」

 

 信仰抗争被害の会はわたし達にとって嬉しくはない集団だけど、ただそれだけで駄目だという訳にはいかない。駄目だってしちゃう事は出来ても、そういう事は出来る限りしたくない。

 でも代表さんからすれば、わたしからそんな事を言われてもきっと気分は良くない訳で、実際不服そうな目をしている。一方わたしもそれ以上何を言えばいいのか分からず、居心地の悪い沈黙が数秒続いて…それから代表さんは、ぽつりと呟くように口を開く。

 

「…そういや、残党の奴等がお前等女神と軍に返り討ちに遭って捕まったんだってな」

「…それは、その……」

「気遣いなんかいるかよ。残党も、俺等も、女神にとっちゃ等しく邪魔だろ?お前等のやりたいようにするのを、こっちから邪魔してるんだからよ」

 

 向けられるのは、冷たいとは違う、敵意とも違う、ただわたしと距離を置くような言葉と視線。その言葉と視線でわたしは言葉に詰まり…ううん、違う。…そもそも、そう言われて…わたしは、なんて言葉を返すべきなの…?

 

「……すみません…」

「…んぁ?」

「…力不足…被害の会や、残党の方々は、わたし達はそう思ってるんですよね…」

 

 どう返すべきか迷う中、再び心の中に浮かんでくる、今の自分への情けなさ。カニバルフォームを、流れ込む負のシェアの制御が出来ず、中々進歩もしない自分へ対する、無念の思い。

 結局まだ、わたしは力不足なんだ。だから、今のままじゃお姉ちゃん達を取り戻す事も出来ないし、カニバルフォームを制御し切る事も出来ない。…そう思うと、気分が沈んで…半ば無意識に、わたしはしょげた声を漏らしてしまう。そういうのだって、女神はするべきじゃないのに。

 

「…なんだ、泣き言かよ。あの時は国の長としてはともかく、口だけの奴じゃねぇんだなと思ったが…結局、土壇場じゃなきゃ女神もそんなもんなんだな」

「そ、そんな事は……。…いや、そう…かも、しれませんね…。今も被害の会や、残党は存在している…それは、言い訳なんてしようのない事実ですし……」

「…ほんとに、まるであの時とは別人だな。人ってか、女神だがよ」

「…本当に、ごめんなさい…。わたし達が、まだまだ未熟で、皆さんには不満ばかりを与えているから…だから、今も……」

 

 残党がいるのも、被害の会がまだ存在しているのも、それは「今」に不満があるから。言い換えればそれは、わたし達女神が応えられていないから。いーすんさん達は、何でもかんでも応えてあげるのが正解じゃないと言っていたし、それは正しいと思うけど、だからって不満を持っている人達を無視するなんて事は出来ない。

 でも…そんな事を考えられるような立場なのかな、とも思う。今のわたしは、そこまで考えられる程の存在なのか、もっと前の段階なんじゃないのかって。それこそ犯罪組織との戦いの中じゃ、自分の成長を感じていたけど…あれからのわたしは、停滞ばかりじゃないのかって。

 そういう思いが心に渦巻き、わたしは謝る。皆さんに不満を抱かせている、今もそれを行動に移させてしまっている事の申し訳なさから、ごめんなさいと彼に謝り……

 

「……あのなぁ…勘違いしてんじゃねぇよ、女神候補生」

「え……?」

 

 それに返ってくる、苛立ちの言葉。でも、それは…その苛立ちが示しているものは、わたしが思っていたものとは……違う。

 

「力不足?未熟?あぁそうだな、俺からすりゃ女神候補生どころか、守護女神だって全然だっての。女神ってんなら、もっと色々やってみろってんだ」

「お、お姉ちゃん達は……」

「違うってか?俺からしたら変わんねぇよ。けどな…端っから俺は、何でも出来るとは思ってねぇわ。そりゃ分かった上で、俺はこう思うって、俺達はこっちの方が正しい筈だって、そう思って活動してんだよ。残党の奴等もそれぞれだが、似たような思いでまだ活動してる奴もいるだろうよ。なのになんだ、不満を与えられてるから今も、って…ふざけんなよ女神候補生。俺達には、俺達なりの信念があんだよ。それを不満とか、まるで嫌いだから反対活動をしてるだけみたいに言うんじゃねぇ!」

「……っ…!」

 

 ぶつけられる、被害の会代表の言葉。そこには強い不満が、否定の意思が籠っていて…だけど、違う。それは女神に対する否定じゃない。今のわたしの、わたしの考えへの否定。そんな風に考えるなって、不満なんて言葉で片付けるなって…自分達の信念を蔑ろにするなと、わたしへ向けて怒っている。

 思いもしなかった。この人に、被害の会や残党に、そんな思いがあるなんて。言い方は悪いけど、わたし達や今の社会への不満ありきで、だからそれにわたし達が応えられれば終わるし、応えなければ変わらない…それ位にしか、思っていなかった。…でも、そうじゃなかったんだ。不満が大きな要因である事は間違いないんだろうけど、応える事で満足する人もいるんだろうけど、それは凄く一方的な、被害の会や残党の方々を、『集団』としてしか考えていないような見方で……

 

 

 

 

…………あ、れ…?…じゃあ、それなら…わたし達女神を応援してくれる人、その人達が抱く気持ちには尊敬や友情、愛情や信頼、凄いとか可愛いとか格好良いとか色々あって、それはわたし達が想像もしない場所や、考えもしなかった部分にもあるように…わたし達に悪感情を持つ人、反対の意見を持つ人、そんな人達も同じ位の沢山の思いを、譲れない気持ちを持っていて、それが負のシェアになっているんだとしたら──

 

「…あ、あぁ…ああああああああああッ!」

「うわっ!?な、なんだ急に!?あれか!?もう黙ってらんねぇってか!?」

「そっか、そうだ…そうだったんだ…。そうだよ、そうに決まってるよ……!」

「あ、あぁ…?お前、何言って……」

「ありがとうございます…ありがとうございます、代表さんっ!」

「はぁ!?」

 

 心の中に差した光明、開けた道。今まで見えていなかったものが、凄く凄く単純で…でも最初から勘違いしていたせいで気付かなかった真実が、大事な事が、漸くわたしの中ではっきりと見えてくる。

 わたしは代表さんの手を掴む。喜びから、感謝から、興奮から代表さんの手を掴み、そのままぶんぶんと両手で握手。

 

「わたし、漸く気付きました!どうすれば良かったのか、漸く分かったんです!」

「あ、お、おう。…え、何が……?」

「凄く大事な事です!貴方のおかげで、それに気付いたんです!」

「…だから、具体的には何が……?」

「そうだ、これはすぐ皆に伝えなきゃ…!あの、本当にありがとうございました!それと本の件、教会に連絡してくれればちゃんと弁償しますからね!」

「いや俺はそこまでみみっちく…ってうぉい!?だから、何なんだよ!?お前は何に気付いて、どうする気なんだよぉおおおおおおッ!?」

 

 これは、わたし一人だけ気付けば良い事じゃない。カニバルフォームを会得しなきゃいけないのは……ううん、多くの人達の思いを力に変えるのは、わたし一人じゃないんだから。

 手を離し、改めてNギアを取り出しながら、わたしは駆け出す。ユニちゃん達へと、連絡をかける。その最中、後ろからの代表の人の大きな声が聞こえなくなり……代わりに溢れたのは、小さな声。

 

「……訳分からねぇ…けど……何だよ、案外可愛いじゃねぇか…」

 

 その声に、わたしは気付かなかった。もう距離も開いていたし、声自体も小さかったから。

 そして繋がる、ユニちゃんへ通話。プラネテューヌの道を走りながら、心の中じゃ抑え切れない程の興奮を抱えながら、わたしは通話越しに……言う。

 

「分かった、分かったんだよユニちゃん!ロムちゃんも、ラムちゃんも聞いて!わたし達は、考え方を間違えてたんだよ!制御するとか、抑えるとか…そうじゃないんだよ!だって、カニバルフォームだって同じだから!負のシェアだって、わたし達へ向けられた、色んな人の色んな気持ちなんだから!だから、わたし達に必要なのは、流れてくるものを抑え込む事じゃなくて……ちゃんと、一人一人の思いとして、受け止める事だったんだよっ!」




今回のパロディ解説

・「ぺっこり、よんじゅうごど……」
お笑いコンビ、ずんの飯尾和樹さんの持ちネタの一つのパロディ。お腹ぺっこり45度…これはそんなに面白くもないですね。ロムが言ってると思うと、可愛いですが。

・「…ほめくり、修造……?」
元プロテニス選手であるタレント、松岡修造さんの著書の事。多分彼は、この本から元気を貰おうとしたのでしょう。或いは自分に喝を入れようとしたのかもしれません。

・「〜〜何だよ、案外可愛いじゃねぇか…」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの主人公の一人、オルガ・イツカの台詞の一つのパロディ。無論、このシーンの後彼は死亡した…とかではありません。
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