超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
次々と撃ち込まれる、銃弾光弾。尾を引くように揺れ動く、赤い瞳と銀の髪。そして肉薄するのは……ユニ自身。
「たぁああぁぁぁぁッ!」
「く……ッ!」
叩き付けるような踵落とし。それを大剣の腹で受け弾き返すと、背面宙返りの動きから開いた私の胴へと両手のハンドガンを放ってくる。
「でも、その程度の射撃…ッ!」
放たれた弾丸に対し、私は思い切り上体を逸らす事で回避。そのまま左手を床に突き、その手を支えに後方回転をかけ、着地の瞬間床を蹴って即座に跳躍。まだ宙にいるユニへと迫り、左から右へ大剣を振り抜く。
「お姉ちゃんこそ、当たらないよ…その程度の、攻撃ならッ!」
「えぇ、でしょうね…ッ!」
大剣は振り抜かれた。それはつまり、避けられたという事。左斜めに上昇をかけたユニは斬撃を避け、お返しとばかりにまた私へ発砲。それを身体の捻りだけで躱し、追撃をかけ、ユニもまた回避と反撃を立て続けに行い…私達は目紛しく上下しながら、近距離戦を繰り広げる。
ユニの射撃は当たらない。女神化…いや、新たな力というビヨンドフォーム且つ近距離と言えど、ハンドガン程度の攻撃なら避けられない訳がない。…だけど、私の斬撃も当たらない。ユニは遠距離こそが得意距離で、近距離は本来圧倒的に不利な筈なのに…何度も私の攻撃を避け、見切り、牙や爪を思わせるプロセッサのパーツで上手く斬撃を逸らしてくる。
そうして撃ち込む、互いの一撃。私の刺突とユニの射撃、お互い避けながら放った事でどちらも攻撃は脇を掠め…そこから私達は飛び退き着地。
「…ほんと、驚きね。まさかユニと、こうも近接戦をする日が来るなんて」
「…アタシとこうして戦う事は、驚きじゃないの?」
「さぁ?それはどうかしら…ねッ!」
はぐらかすようにユニからの返しに私はとぼけ…次の瞬間、再び床を蹴る。捻りは何もない、純粋に速度を追求した突進からの刺突をかけ…それをユニは両腕のパーツを交差させて防御。防御はするけど、狙い通りにユニは吹き飛び体勢を崩す。
やっぱりね。…吹き飛んだ瞬間、私はそう思った。どうもユニは接近戦能力を伸ばしたみたいだけど、能力だけじゃ戦いには勝てない。知識、経験、それに基づく瞬時の判断…それが備わってなければ、仮に能力が同等だったとしても、勝てはしない。勝てる訳がない。
(まあ尤も、能力でだって負けてるつもりはないんだけど…ッ!)
床を踏み締める事で衝突の反動を殺し、その足で更に加速をかける。勿論次に私がするのは、姿勢を崩したユニへの追撃。悪いわね、ユニ。姉としては、新しい力を身に付けた貴女に華を持たせてあげたいけど…これは本気の戦いよ。私が勝つって決めた以上、貴女には負けてもらっ……
「……んなッ!?」
──そう、思った次の瞬間、両腰の浮遊ユニットから外れた二挺のサブマシンガン。それ等はどちらも銃口が私へと向き…ユニが持っていないにも関わらず、弾丸が放たれる。
「残念だったね、お姉ちゃんッ!」
「やってくれるじゃない…ッ!」
撃ち出される弾丸へと突っ込む形となった私は、咄嗟に左側へ飛ぶ事で回避。その間に立て直したユニは前に跳び、離れていた二挺を掴んで、身を翻すと同時に私へ追い討ちをかけてくる。
反応は出来た。回避もし切れた。だけど…悔しい、腹立たしい。対応する余裕も、手段もユニにはあったのに、それを見抜けなかった私自身が。これで終わると安直に思ってしまった、私の早計さが。
「あぁでも、安心して。アタシのは、ネプギアのと違って、オールレンジ攻撃用じゃないから…ッ!」
「教えてくれるなんて、随分と余裕じゃない…ッ!」
「まあ…実際余裕、あるからね…ッ!」
「……っ、ユニ…ッ!」
床を滑るように動き回りながら、不規則に距離を変えて撃ってくるユニ。その声には、本当に余裕がある。虚勢のようには、微塵も感じない。
だけどそれは、私だって同じ事。いいわ、ユニがその気だっていうなら……ッ!
「教えてあげようじゃない…貴女の姉が、どれだけ強いのかって事を…ッ!」
ユニが強い事は認めてる。私の妹なんだから、強くて当たり前。でも、それとこれとは全くの別。女神として、後ろ向きな事を言う訳にはいかないって意図で言ってるならともかく、そういう事なら……もう、本当に容赦はしない。
動き続けるユニに対し、私は真っ直ぐに突進。当然弾丸はそれを阻むけど、わざわざ避ける為に逸れる事なんてしない。最短距離で、最低限の回避だけで、一気に距離を詰めて…斬り裂くッ!
「読めてるよ、それ位はねッ!」
「なら、これはどうかし…らッ!」
バックステップで振り下ろしを避け、大剣が通り過ぎた瞬間ユニは発砲。それを私は右手首を捻り、大剣の軌道を変える事で勢いに引っ張られる身体の流れも変え、紙一重で回避。更にそこから私は身体を捻り、遠心力で振り出した蹴りを叩き込む。
求められる一瞬の判断。ユニが選択したのは腕でのガード。それは悪くない、悪くないけど…甘い。
「近接戦ってのはね…一手一手の積み重ねで、相手の防御を乗り越えるものなのよッ!」
防御をされたその瞬間に私は逆の脚も振り上げ、蹴りを受けたままの右腕へもう一発を素早く打ち込む。それはユニも想定していなかったようで姿勢を崩し、反撃として撃ちかけていた左手の射撃は明後日の方向へ。尚且つ右手のサブマシンガンは手から落ち、更に訪れる攻撃のチャンス。
両脚をユニの腕にぶつけた状態から、私は一回転。その勢いで大剣を振るい、尚且つユニの動きを注視。これまでのユニならこれで決まる可能性もあるけど…ここまで私の動きについてきた今のユニなら、これもきっと対応する。
そう考えた私の見立て通り、ユニは明後日の方向を向いた左手のサブマシンガンをそのまま撃ち、その反動を利用する事で斬撃を回避。直後に私の脚へと手を付け、押し出す事で私の体勢を崩しながら上方へ。
「考えたじゃないユニ…でも、その程度だったら…ッ!」
飛べるんだから、浮いたまま姿勢を立て直す事も出来る。けれどそれじゃ遅い。だから、私は落ち切る前に左手を床へと伸ばし、下半身を跳ね上げたところで左手を押し出す。それによって身体を跳ばして、捻りを加えた動きで身体の上下を元に戻す。
思った通り、その時点でもうユニは私へ銃口を向けていた。でももう威力は分かってる。連射されても防御し切れる。そう思った、その自信があった私は大剣を盾の様に掲げ、感じる射撃に自分の感覚が正しかった事を確信し……だけど次の瞬間、大剣のすぐ裏から爆発の衝撃が襲い掛かる。
「……ッ!?まさか、グレネード…ッ!?」
想定していない衝撃だった事、見えていなかった事から押し返され、落ちる私。何とか着地は出来たものの、その時点じゃもうユニが次の攻撃の準備済み。
私が直感的にその場から後ろへ跳んだ次の瞬間、一瞬前までいた場所を貫いたのは単射のビーム。躱した私へ続けてもう一発、思った通りのグレネード弾が放たれ、もう一度私は大きく避ける事を強いられる。
後方へ跳躍する中で、私は見る。今のユニの右手にあるのはグレネードランチャーで、左手にあるのはいつの間にかバレルが延長され、MGのビームライフルの様になったサブマシンガン。更に落とした筈のもう一挺は腰の浮遊ユニットへと戻り、単射ビームとグレネードによる追撃が続く。
(ちっ…まだ使ってない火器があった訳ね…まさか、あのパーツ全てにそれぞれ何かしらの火器を格納してるって事……?)
光弾型のハンドガン。ショットガンに、グレネードランチャー。手首のハンドガンと浮遊プロセッサのサブマシンガンを除いた、左右それぞれ合わせて六挺の火器は全て、爪や牙を思わせる楔状のパーツから引き出されている。今のところは六挺だけど、銃器を格納出来そうな楔状のパーツはそれ以上。それはつまり…まだユニが、別の銃器を有しているかもしれないって事。どこぞの魔法少女並みとは言わずとも、相当数の銃器を持っている。そう考えても、何らおかしい事はない。
ここまでユニは近〜中距離戦を仕掛けてきているとはいえ、やっぱり本領は射撃の筈。ならその警戒は怠れないし……それこそが、分水嶺。
「手数と攻撃の幅を増やし、一つ一つの切り替えの隙を極力減らせる仕組みを作る事で、畳み掛ける…ユニらしい、堅実なコンセプトね」
「へぇ…お姉ちゃんには、そう見える?」
「えぇ、近接攻撃まで仕掛けてくる事は、本当に意外だけど」
放たれたグレネードを全て避け、真正面からのビームを斬り払ったところで、一度止まるユニの射撃。グレネードを背中のパーツに戻し、代わりにバレル装着状態のサブマシンガンを引き抜いた状態でユニは床に降り立ち、私もまた着地。私達は、互いに構えを解いたままで向かい合う。
長所はそのままに、それ以外の部分を補い伸ばす事により、総合的な強さを伸ばす。プロセッサに近接戦能力を付与しているのも、戦闘の幅を広げる事と、迫られた際の不利を埋める事が恐らくは目的。大型複合火器であるX.M.Bの取り回し面での問題も解消している辺り、本当に『隙が無い』のが今のユニで……だけど、そういう事ならやっぱりユニは、私には勝てない。
はっきり言って、一つ一つの銃器はどれも対応出来る。組み合わせた使い方をされたとしても、対応し切れる。まだ見えていない銃器があるかもしれないのが懸念事項だけど、今見えてる銃器の方向性からして、あっても突飛な物ではない筈。
(残念だったわね、ユニ。幾ら隙がなくたって、貴女の事を誰よりも知ってる私なら、補い切れない隙を見つけられる。私以外なら問題なかったんでしょうけど……私に対して必要だったのは、もっと長所を伸ばす事、私が予想出来ないレベルまで何かを高める事だったのよ)
今のユニの力の概要が見えてきた事で、冷静になる頭。もしかしたらユニは、私に対する不利も理解していて、だから私をヒートアップさせるような言動をしていたのかもしれない。わざと近接戦を仕掛けてきたのも、イリゼの入れ知恵って線もある。
何にせよ、そういう事ならユニは勝てない。弱いんじゃなくて、単に相性の問題で、私には敵わない。そしてそれを見切った以上…後は、現実にするだけ。
「さて、まず…は……ッ!」
「……!これは……」
構え直さず大剣の斬っ先を下へと向けたまま、私は突進。けれど迎撃が放たれる直前に横へと跳んで、そこから私はユニの周囲を飛び回る。
「積極的に仕掛け続けてたのは、私にこうして飛ばれたくないから。狙いようのない状況に陥りたくなかったから。違うかしらッ!」
攻撃には移らず、けどいつでも移れる状態で飛び回る私。対するユニは私を目で追い、何度も身体の向きを変えて、私の機動を捉えようとする。でもそれを許すつもりなんてない私は更に速度を上げ、尚且つ時折急加減速も入れて、対応しようとするユニを全力で翻弄する。
これにユニがどう動くか。思い付く限りのパターンを頭の中で私が浮かべる中、一瞬ユニは私に合わせて身体の向きを変えるのを止め…次の瞬間、振り向きざまにその場から跳躍。私の後ろへ回り込むような軌道を描き、背後から私を追い掛けてくる。
それは、私が予想していた可能性の一つ。その中でも、可能性が高いと思っていた行動。そうよね、私に自由に動き回られたら、ユニには攻撃のしようがないんだもの…ッ!
「だけど……甘いッ!」
「ぐ、ぅ……ッ!」
速度は落とさず、でも敢えて緩めの弧を描いて私は旋回。それに合わせるように、ユニは急旋回で一気に私との距離を詰めてきて…それを予想していた私は、急ブレーキを掛けつつ後転。同時に脚を振り出して、突っ込んでくる形となったユニへと向けてオーバーヘッド。
恐らくは反射的に掲げられ、交差するユニの両腕。ならばと私は押す容量で身体を跳ね返らせ、尚且つ横に半回転。インメルマンターンの逆の様な軌道で即座にユニと向き直り、そのまま真っ直ぐ刺突をかける。
「……一つ、訊いてもいいかなッ、お姉ちゃん…ッ!」
「何よ、ユニ…ッ!」
それも阻んだ…というより左前腕の楔状パーツで受け、衝突の勢いを利用して下がりながら右の銃器を放つユニ。サブマシンガン状態に比べて大分連射の落ちたそれを一発一発確実に避けつつ攻める私。その中でユニが口にするのは、私への問い。
「お姉ちゃんは、今の自分に何の疑問も抱かないの?本当に、今の自分が…正気だって、思ってるの…ッ!?」
「何を言うかと思えば…ならユニには、今の私が正気じゃないように見えるとでも?」
「見えるよ、だってお姉ちゃん今、まだこんな状況にある自分の国から離れて、戻れるのに戻ってこないで、その元凶と行動を共にしている…それがお姉ちゃんの、ブラックハートとして正しい行動なんだって…心から、言える…ッ!?」
斬撃を交わし、刺突を凌ぎ、蹴撃を逸らしながら、ユニが一言一言ぶつけてくる言葉。そこにはユニの思いが、上部だけじゃない気持ちが籠っていて…だから私も、無視せず答える。
「国の中にいる事、国の中で出来る事だけが、女神の務めの全てじゃないわ。むしろ、国の中にいるだけじゃ出来ない事だってある…それは、ユニにだって分かるでしょう?」
「…それが、くろめだって事…?」
「……それに、私は私なりに、ラステイションを守れるよう動いていたつもり、よ…ッ!」
ユニは距離を開けての戦闘を本領とするからこそ、一気に距離を詰められると、その相手とは逆側に跳んで距離を少しでも保とうとする。だから私は仕掛けるような素振りで急接近し、ユニが跳んだ瞬間私も床を蹴って、今度こそ肉薄。大剣と楔状のパーツによる何度目かのせめぎ合いの形となり、その状態で私は言い切る。私は国民を、国を裏切ったつもりなんて微塵もないと。
勿論、ユニの気持ちも分かる。話し合いに応じてくれたら、もっとちゃんと説明するつもりもあった。それに…今は言わないけど、ユニがいてくれたからっていうのもある。ユニがラステイションにいたから、一旦はこっちの側にいても大丈夫だって、そう思っていたのも事実。
「…そうだね、お姉ちゃんの言う内容に、おかしいって思う部分はない。お姉ちゃんが嘘を吐いてるようにも聞こえない」
「…ありがと、ユニ。それなら……」
「だけど…ううん。だからこそ、確信したよ。やっぱり今のお姉ちゃんは、本当の意味での正気じゃない。だって、言ってる内容はおかしくなくても…お姉ちゃんが言ってるって考えれば、あんまりにも変だから」
ふっ…と一瞬弱まる力。それが私に対する理解の意だと思った私は、感謝の言葉を伝え…だけど次の言葉を言うよりも早く、一瞬抜けた力が戻る。それまでの持ち堪える程度の力から、逆に押し返そうとする位の力にまで変わって、改めて言ってくる。今の私が、正気じゃないと。
訳が分からない。一体何がおかしいって言うのか。どこが変だって言うのか。何を以って、私を正気じゃないって言っているのか。正気じゃないも何も、現に私はこうして考えて、自分の意思で行動をしてるんだから…!
「…そこまで言うなら、ちゃんと理由があるんでしょうね?私が正気じゃないって思う、その理由が…」
「勿論だよ。…お姉ちゃんは、気付いてないの…?」
「……っ、なら言ってみなさいよ…私の一体どこが、正気じゃないって……」
「──お姉ちゃんなら、そんな簡単に自分の限界を決めないでしょ?ちょっとした事や、そもそも理に適ってない話ならともかく…女神である事、ブラックハートである事に誇りを持っているお姉ちゃんが、国の中じゃ出来ない事がなんて……そんな志の低い事を、本当に言うと思うの…ッ!?」
「……──っ!?」
その瞬間、私の中で走る衝撃。一つはユニが、強引に私を押し返した事によるもの。そしてもう一つは…ユニの言葉によって、私の心の中で起きた衝撃。
思考が乱れる、混乱する。だけど戦闘は、それが落ち着くのを待ってはくれない。
「……ッ…物事には、時と場合ってものがあるでしょ…!」
押し返され姿勢が崩れる中、向けられかけた銃口を張り手の様な攻撃で何とか逸らし、立て直す事に全神経を注ぎながら言う。反射的に浮かんだ言葉が、そのまま私の口を衝く。
けど、そういうものよ。そういうものでしょ?理想は理想、現実は現実。理想を捨てるようじゃ国の長として失格だけど、女神だって何でもかんでも出来る訳じゃ……
(…………え?…何を、考えてるのよ私…理想は理想、現実は現実?…今、私は…この私が、そんな小さい物事の見方をしてたって言うの…?)
理想と現実は違う。理想だけ見ていても、何も出来ない。そんなのは、ただの夢想家に過ぎない。……なんてのは、女神の考え方じゃない。女神は国の長。尊敬と羨望と期待を受けて、その通りの、それ以上の在り方を示す事こそが責務で、それを実現するだけの力もある。だからこそ、「現実」なんていう曖昧模糊且つ都合の良い言葉を、やらない事の理由になんて出来る筈がない。
なのに私は今、そんな思考をしていた。やらない理由に、出来ないからを持ち出そうとしていた。そんなのはどう考えたって女神の…私の考えなんかじゃなくて……なら、ユニの言う通り…私は、正気じゃないって事…?
……一瞬、私はそう思った。ほんの一瞬だけど、そんな思考で動きが止まり……その一瞬が、戦闘においては致命的。
「図星だった、みたいだね」
「しまっ……!」
気付いた時、視界にユニの姿はない。感じる気配は背後にあって、反射的に振り返った時にはもう、二挺の銃が発射体勢。
やられる、と思った。片方ならそれでも何とかなるかもしれないけど、二挺じゃどうしようもない。これで終わる。悔しいけど、私は直感的にそれを理解して……だけど、そこから弾丸は放たれない。
「……っ!」
向けられた銃口の先から、飛び退く私。距離を取ろうとしている間も、ユニは発砲する事なく、ただ私を見つめている。
今の私は、完全に隙を晒していた。罠なんかなく、今撃たれたら間違いなく負けていた。勿論伏兵なんてないし…あそこで撃たない理由がない。なのに、ユニは撃たずに、それどころか着地した私を見て銃口を降ろす。…分からない。ユニの考えが、全くもって分からない。
「……どう、して…」
「…だって、今のは偶然生まれた隙だから。狙った訳じゃない、結果的に偶々生まれた隙を突いて勝ったって…アタシには、意味がないから」
「……ッ!?…意味が、ないって…それで、勝ったってって……」
自然と口を衝いて出た、理解出来ない不可解への問い。…それにユニは、淡々と答えた。静かに、何の迷いも後悔もなく、ただ答えた。拾う形での勝利じゃ意味がないって、そういう勝ち方をするつもりはないって、やっぱり自分が勝てる前提のような言い方で…しかもその口振りは、勝ちを拾えてしまうような、偶々勝ててしまうような瞬間があった事を、残念そうに言ってるようで……
「…ユ、ニ…貴女は、貴女はぁああぁぁああああああッ!!」
その瞬間、私の中で一旦は収まっていた感情が、激情が、怒りにも似たユニへの思いが、天井を超え爆発する。
ユニの向上心は良い。負けず嫌いな部分も良い。それは間違いなく、ユニの成長に繋がってるから。だけど今のは認められない。今のユニは、驕りや気持ちの昂りすらない、本当にただ事実を認識しているだけのような言い方と感情で、私に勝てると思っているのだけは、どうしても認められない。
ネプテューヌ達が、同じ守護女神の皆やイリゼがそう考えるのは構わない。私だって、一番強いのは私だと思ってるから。だけどユニのそれは許せない。私の強さを、どれだけ強いのかを、一番近くで見てきて、女神の誰よりも正しく知っている筈のユニがそう思っているのだとしたら…どうしようもなく、許せない…ッ!
「私はッ、貴女にッ、そんな事を教えたつもりは…これっぽっちもないわよ、ユニぃッ!」
踏み抜いても構わないとばかりに私は床を蹴り、全力で蹴って、ユニへと突進。ユニが迎撃の構えを見せる中、私は大剣にトルネードソードを纏わせ、そのまま突撃。ユニの迎撃が身体を掠めるけど、そんな事は気にせず肉薄をかけて…振り抜く直前に、トルネードソードを解放。内包されていた螺旋の力が周囲に吹き荒れ、受けようとしてたユニを大きく吹き飛ばす。
強引な体勢からの解放は、私の身体にも負担が掛かる。流し切れない衝撃が、私自身も軋ませる。だけど今は、そんな事はどうでも良い。その痛みを、衝撃を力任せに捩じ伏せて、再度私はユニへと接近。今度は近付き切る前に大剣を振って、再度纏わせたトルネードソードを射出して、ユニの前でもう一度螺旋の力を吹き荒れさせる。
「……っ…!」
「終わりよッ、これでッ!」
二度目の突進を前に、一度目の多少のダメージは厭わない姿勢を見ていたユニは、ここまでで見せてきた銃器の全てを展開。一斉掃射の様な体勢を取って、恐らくはそれで私を迎撃しようとして…それが見えていたから、私はトルネードソードを放った。それをユニの直前で解放して、左右に展開していた銃器全てを弾き飛ばした。
唯一残ったハンドガンも、今の衝撃で手から弾かれ元に戻っている。一瞬あればもう一度跳ね上げられるんだろうけど…もう遅い。もう私は、ユニの眼前に迫っている。
ユニが強くなったのは分かった。私に追い縋れる位なのも間違いない。だけど今のユニの考え方を、見方を私は認めない。許さない。姉として、導いてきた者として、振り上げた私の得物で以って、今のユニを──
「…なんで、そうやって早まるのよ…お姉ちゃんの、馬鹿…ッ!」
「な……ッ!?」
光芒が、放たれる。何の銃器もなく、私からの一撃を止められる筈のない両腕から、これまで近接戦に使っていた楔状のパーツ一つずつから、シェアエナジーの光芒が放たれ……私の両腕を、同時に撃ち抜く。怒りと悲しみ、その両方が籠った声が、私の胸を貫くと同時に。
「あッ、ぐっ…がぁああああああぁッ!」
「──ッ!」
走る激痛。抜ける力。それでも私は叫びを上げて、身体を回す。回して、遠心力を付けて、折れるものかと回し蹴りを放つ。
だけど回転し向き直った時、ユニもまた回し蹴りを放っていた。私とユニ、お互いの右脚が唸りを上げて肉薄し……けれど激突の直前、右脚のパーツからも光芒が放たれ、私の脚を撃ち貫く。
(そん、な……)
撃ち抜かれた脚からも力が抜けて、そこにユニの回し蹴りが入って、私は激しく蹴り飛ばされる。床を転がって、何とかそれを翼と左脚で押し留めて、すぐに立ち上がろうとして……だけど、崩れ落ちる。撃たれた右脚じゃ支え切れず……膝を突いた私の眼前に向けられるのは、ユニの銃口。跳ね上げられ、すぐ側で突き付けられた、右手のハンドガン。
「……ずっと…最初から今まで、隠してたのね…まだ隠し持っていたのは、銃器じゃなくて…そのパーツ一つ一つに、砲撃の能力があるって事だったのね…」
「…出し惜しみしてた訳じゃないよ。こういう隠し球がなきゃ、考えられる策全てを注ぎ込まなきゃ、正面からお姉ちゃんに勝つなんて出来ない。そう、思っていただけ」
「…完全に、ユニに乗せられてた…って訳ね……」
今度はもう、本当に避けられない。両腕と右脚をやられた状態じゃ、そもそも満足な回避自体が出来やしない。飛んで逃げたところで…後は、もっと情けない姿を晒しながら負けるだけ。
だけど…今の私に、さっきまでの激情はなかった。むしろどこか、冷静ですらあった。それは、はっきりと負けを確信させられたから…前にネプテューヌとイリゼの二人と戦って負けた時とは違って、一対一で完全に負けて、確信せざるを得なかったからって言うのもあるし…全てユニの策だったんだって、分かったからでもあるような気がする。
見上げる顔。見える銃口とユニの姿。立派に立つ、私の妹の…ラステイションの、女神候補生の姿。そして私は、ふっと力を抜き……
「…正気の、本当のお姉ちゃんだったら、きっとこうはいかなかったわ」
「かも、しれないわね……完敗よ、ユニ」
──最後に聞こえたのは、きっと様々な感情の籠ったユニの声と……乾いた一つの、よく響く銃の音だった。
今回のパロディ解説
・どこぞの魔法少女
まどマギシリーズに登場するキャラの一人、暁美ほむらの事。この姿のユニが使えるのはあくまで携行火器レベル(性能はまた別)です。あくまで物理的格納ですからね。
・「〜〜お姉ちゃんの、馬鹿…ッ!」から、ノワールが回し蹴りで敗れるまでの流れ
機動戦士ガンダムSEED destinyにおける、シン・アスカとアスラン・ザラの最終決戦のパロディ。ユニの台詞も、ちょっとですがノワールの台詞を意識しています。